存在しない時代の心の傷が真央を蝕む。
「あぁ‥‥‥‥!」
カーテンを閉ざし暗くなった部屋で渋谷真央は身体を震わせていた。
頬を涙が伝う。
その手首には無数の傷が刻まれている。
彩菜との自宅での死闘‥‥‥。
焼け死ぬかもしれなかったと言う恐怖‥‥‥。
「いや‥‥ぁ‥‥‥」
脳の中に映る今では存在しない未来の記憶が彼女の中で燻る。
周りに火の気等いっさいないのにあの光景が浮かび上がり‥‥‥何処からともなくボォォォォォ!と言う炎の音が聞こえてくるのだ‥‥‥。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「真央!」
「お母さん‥‥!」
恐怖で泣く我が子を母の渋谷
一体真央はどうしてしまったのだろうか?。
あんなに元気な(少々生意気過ぎて鼻に付くこともあったが)子だったのにここ最近急に家にいる時も身体を震わせ泣くようになり学校に行く時以外外に行けなくなってしまったのだ。
「何があったの?」と凪央がいくら尋ねても泣いて無言で首を横に振るばかり‥‥‥。
(この頃。よく私の家に来るようになった詩織ちゃんなら何か知ってるかしら?‥‥聞いてみましょう‥)
そんな事を考えてる矢先―――。
「ごめんくださーい」
詩織が来たようだ。
「あの子に聞いて見るしかなさそうね‥‥。ちょっとお母さん離れるからね」
「‥‥うん」
真央の頭を撫でると凪央は玄関へと向かった。
――――――
渋谷家と書かれた表札を通り抜け、詩織は「ごめんくださーい」と口にした。
すると中から前掛けを着けた女性が現れた。
真央の母親だ。
「あらぁ。詩織ちゃんよく来たわね」
「こんにちは。今日もお邪魔します」
「そんなに堅苦しくしなくてもいいのに。さぁ上がって上がって」
言葉に甘え詩織は靴を脱ぎ畳の通路に上がった。
「‥‥‥真央の様子は相変わらずですか?」
「そうねぇ。学校には行けてるけど家に帰るとご飯やお風呂の時以外は一人で部屋に閉じこもったままだわ」
「そうですか‥‥‥」
記憶を真央に思い出させたのは失敗だったのかもしれないと詩織は思い初めた。
結束の為に彩菜、真莉、そして真央で裕也と総一朗に対抗するために記憶を見せたが果敢に憎悪を武器に戦った他の二人と違い彼女の記憶は彩菜との戦闘の最中気を失い火傷しトラウマを負ったと言うもの。
一概に前者二人と比較は出来ぬが、あの記憶が彼女にとっては最悪なもので力に出来ず重い苦しみとなってるのは事実だろう。
「詩織ちゃん‥‥」
「はい?」
凪央の声音がいつもより低い事にすぐ気づいた。
「単刀直入に聞くわ。真央に何があったか教えて‥‥数日前あなたと真莉ちゃんと話してからずっとあんな感じなの‥‥何か知ってるわよね?」
凪央の警戒心が言葉に少し、態度に全面的に現れていた。
とても饗されるような雰囲気を出していない。
詩織は一瞬表情を硬直させ目を閉じたあと「‥‥はい」と頷いた。
「教えて!あの子に何が!?」
「落ち付いてください真央のお母さん。私が今から話すことは御伽話でも嘘でもない‥‥‥現実です」
詩織の目を見て凪央は驚愕した。
明らかに12歳の少女の目ではない‥‥葛藤と苦しみを味わい‥それでも尚、生きる力に変換し前を向く狂気にも活気にもどちらとも取れる瞳をしていたのだ。
詩織はゆっくりと口を開き初めた――――。
―――――
「なんてことなの‥‥?そんな恐ろしいことが?」
「‥‥全部私のせいです。止められる立場なのに私は火を注ぎ、文字通り真莉は枯れ、真央は火傷しました‥‥‥」
「‥‥‥あぁ。嘘よ‥そんな‥‥そんな!」
凪央は泣き出した。
存在しえない未来の火傷が心の傷に変わり真央を苦しめているこの現実。
‥‥‥行き場のない衝動に駆られる。
「‥‥真央のお母さん。私が許せないなら殺してくれても構いません‥‥‥覚悟は出来ています‥」
「なんだって貴女は『殺してくれ』なんて恐ろしい言葉を口にするのよ!アンタを殺して何かになるの!?」
「‥‥っ!‥‥‥それは‥‥」
ビクリと身体を震わす。
「‥‥ごめんなさい。怒りに囚われて怒鳴っちゃって‥ただ詩織ちゃん‥これだけは言わせて」
「‥‥はい」
「もう真央を貴女や真莉ちゃんには会わせない。時代が変わったと言え私の娘をこんな目に合わせた子達になんて絶対会わせないわ」
「‥‥‥そ‥‥うです‥‥か」
息が苦しい。
耳にドクンドクンと脈打つ自分の心音が聞こえる‥‥。
程なくし詩織は足を開いた状態で床に跪き自身の愚かさと不甲斐なさから静かに泣き出した。
「汚い子ね。部屋が汚れるわ。早く出ていって」
「‥‥はい。本当に申し訳――」
「いいから出ていって!」
また凪央に罵声を浴びせられ泣きながら詩織は渋谷家を後にした。
「‥‥ハハハハハハ。紛うことなき因果応報だ」
肩を落とし帰路に着く中、詩織のスマホがなる画面には『渋谷真央』の字があった。
「もしもし!真央!」
歓喜に湧いた詩織は親友の名を口にしたが、相手は真央ではなく――――。
『あらあら。随分と元気そうだこと』
母親の凪央だった。
「‥‥何の用ですか?。真央のお母さん」
『あなたにチャンスをあげようと思ってねぇ。時に北白咲町にあるノア・ベルガー先生の病院はご存知かしら?』
「噂程度になら聞いたことはあります」
『ベルガー病院。噂では余命宣告を受けた癌の老人から癌を完全除去し、難病で足が不自由な子を完治して歩けるようにしたり奇跡に近い所業を成し得ているわ』
だんだん凪央の意図が読めて来た。
「つまりお母さんは‥‥そこに真央を」
『察しがいいわね。この病院はあらゆる科があるから。ただその分お金が凄く掛かる。共働きのうちの年収を10倍しても無理。だから詩織ちゃん。あなたに力尽くで真央の診察を取り計らってもらいたいの』
「力尽くでですか‥‥‥」
今12歳のこの身体でどこまで出来るだろうか‥。
『本当に真央を救う気概が貴女にあるならばやるしかないわよ。じゃあね詩織ちゃん。なにかあったら家の固定電話の方に寄越して』
プープーと虚しく鳴り響くスマホ片手に空を見上げる。
「‥‥‥私は」
一人呟き、彼女は駆けて帰る。
同時刻‥‥。
「珠璃碧ちゃんに彩菜ちゃんに真莉ちゃん本当にごめんなさいねぇ。ゆっくりしていっていいから」
「御好意感謝致します。伯母様」
「ありがとうございます」
「どうも」
彩菜と真莉は豪邸に連れられ施しを受けていた。
どうして二人がこうなったのか―――。
「お久しぶりです伯母様」
珠璃碧がある女性に頭を下げる。
「伯母様って‥‥お母さん!?」
蘭麗の母親が現れたのだ。
「久しぶりね珠璃碧ちゃん。蘭麗まーた珠璃碧ちゃんに迷惑かけて!」
「ち、違います!珠璃碧のコンチクショーが‥‥!」
「住口(黙りなさい)!いとこの珠璃碧ちゃんと喧嘩するんじゃありません!仲良くしなさい!」
「是的(はい)‥」
「本当にごめんなさいね珠璃碧ちゃん」
「私は大丈夫ですがそこの二人の子も蘭麗のせいで武術の訓練をしていたようなんですが辞めざるを得なくなったみたいで」
彩菜と真莉は驚愕する。この珠璃碧と呼ばれてる少女は目の前の蘭麗だけではなく自分達の行動も見ていたのだ。
こうして彩菜と真莉は招待を受けた。