その後、ほかの楽器も試したが、やはりバイオリンにペケは興味があるようだ。現在、受付の人に聞いたおすすめ楽器店に今は来ている。
「なぁペケ、さっきから思ってたんだけどさ、どうして女の子の体にペケは変身してるんだ?前に美柑やヤミたちと一緒にいた時は男の子だったよな?」
「はて?男性の方は女性とお出かけになられるのがお好きなのでは?」
「うん…まぁそうかもしれないな」
まさかとは思っていたが、もしかしてペケはそういった知識が著しく欠如してるんじゃないだろうか。ペケを作ったララがキスで世界が止まってるんだから、ペケもそういうことに疎いのは当然なのかもしれない。というかこれはデートになってしまうんじゃないか?ペケは無性別だからセーフなのか?
「まぁそんなことよりです。バイオリンというのは素人目では見てもわからないものですね…店員の方に聞いてみましょう。」
ペケがトコトコと小走りで店員を探しに旅に出たかと思うと、若い女性の店員を引き連れてすぐに戻ってきた。
「この中で一番高価なもバイオリンはどれになるのでしょうか?」
「えっ!?あっ、え〜っと1番高価なものとなりますと、こちらになります。」
店員さんがペケにショーケースの中に保管されているバイオリンを指さして伝えてくれる。
「どれどれ〜……っと5万…か。ペケ。大丈夫なのか?地味に高いけど…ていうかペケってお金とか貰ってるのか?」
「心配には及びませんリト殿。セフィ様…いえ、ララ様のお母様から毎月お小遣いを私は貰っているのです。このような値段なんの問題もありません。」
「では、こちらお買い上げいただけるということで宜しいでしょうか?」
「はい!よろしくお願い致します。」
ペケが元気よく答える。
店員さんが鍵をジャラジャラと鳴らし、ショーケースからバイオリンを取り出し、黒い箱にせっせとバイオリンを丁寧に収める。店員さんの指示にしたがい、レジに向かう。
「こちら郵送も出来ますがいかがなさいますか?」
「いえ、結構です。運ぶ手段は持っているので」
店員さんが頭に?を浮かべながらペケにバイオリンの入った箱を渡す。
「では、行きましょうか。リト殿。」
「ペケ。それどうするんだ?運ぶ手段はあるって言ってたけど。」
「ララ様から発明品を少し預かっておいたのです。……これです。『ぴょんぴょんキャリーくん』これを使えば荷物が一瞬で指定した場所に届いてしまうのです。」
ペケが白いブレスレットを箱の上に置いて、何やら座標らしきことを言うと、白い光とともにどこかへ飛んで言ってしまった。
「すごいな…。それでペケ。この後はどうする?もうお昼時だけど。家に帰るか?」
「いえ、家に帰るのにも時間がかかりますし、どこかで食事といたしましょう。」
「う〜ん…この辺だと…あっあそこはどうだ?」
「えぇ、問題ありません」
オムライス屋の方を指さしてペケに伝え、店内に入る。洋風な建物だが、少し洒落た内装をしている。高校生などのデートスポットにはうってつけという感じだ。メニューを手に取りざっと目に通す。俺はデミグラス、ペケはクリームソースにしたみたいだ。
注文したものが来るまで、ペケとたわいもない話をする。ララが作った発明品のこと、モモの部屋にあった『無重力ラブ』というビデオをどうしてモモが見せてくれないのか。そんなことを話してるうちに、すぐに食事の時間はやってきた。
「へぇ…結構美味しそうだな。美柑のご飯も美味しいけどたまにはこういうのもいいな。」
「……あの…リト殿。お願いしたいことがあるのですが…」
「ん?どうしたんだ?」
ペケがもじもじとしながら俺に助けを求める目を向けている。なにか恥ずかしいことでもあるのだろうか。
「あ、あの…私にごはんを食べさせて欲しいのです。」
「え?いや、それってペケにあ〜んをしろってことでいいのか?」
「は、はいそうです。」
ペケの顔がみるみると赤くなっていく。少し俯いてしまったが。小動物の女の子みたいで正直言ってかなりかわいい。こんな顔をされて断るなんてできないだろう。
「よっと…じゃっペケ。いくぞ。」
向かい側に座っていたペケの隣に行き、オムライスをスプーンの上に1口分乗せる。
「はっ、はい。あ〜ん。」
ペケの薄い唇にスプーンが少し突っかかり、柔らかい感触が直接触ってないにも関わらずダイレクトに伝わってくる。
「ほっ、はふっはふ…っ。ふぅ…。」
「ペっペケ?大丈夫か?暑くなかったか?」
「え、えぇ…大丈夫ですリト殿。びっくりしただけなので…」
「ゴメンなペケ。…それじゃあ…」
再度スプーンの上にオムライスを乗せ、今度は冷ましてからにしようとフー、フーと息をふきかける。
「よし、ほら、ペケ。」
パクッ
大丈夫だろうか。いや、大丈夫じゃないなんてことなんてないだろう。だけど、なんだかすごい心配になる。どうしてしまったんだろう。
「ふふっ、ありがとうございます。リト殿。いい経験が出来ました。もう結構ですよ。」
ペケがこちらにニッコリと笑いかけてくる。なにやら満足みたいだ。
「でっ、でもどうしてこんなことをして欲しかったんだ?」
「…それは簡単ですよ、リト殿。私はただ、知りたかったのです。恋という特別な感情を。多くの人が心に秘めている。ララ様や、リト殿。それに…モモ様も…いえ、なんでもありません」
その後は特に会話もなく、黙々と食事を続けた。たけど、気まずい空気は不思議と流れなかった。
◆
「あっ春奈!里沙!こっちこっち!」
「はぁ、はぁ、ふー。疲れた!ちょっと未央!もうちょっとゆっくりしてよ〜」
私は西園寺春奈、親友の未央に結城くんが見たことない子と遊んでるって聞いて、なんだかいてもたっても居られなくなっちゃって。
「あっ!結城くんたちがお店の中に入ってく!」
「よし、潜入するわよ!二人とも!」
「うん!」
「えっ…でも結城くんたちに悪いんじゃ…」
こういうところでいつも私は真面目ぶっちゃう。どうしてこうなっちゃうのかな…。本当は私だって…
「さっ春奈!そんなこと言ってないで早くいくよ!」
「そうそう!こんなイベント滅多にないんだから!」
未央と里沙はいつもいつもこんな私の背中を押してくれる。このふたりがいなかったら、今わたしはどんな子になってたんだろう。結城くんとも今ほど仲良くなれなかったのかな…
「あっ!店員さん!ここの席に座ることってできます?」
里沙が店員さんに無理を言って結城くんたちがよく見える場所に位置を取る。店員さんが急いで拭いてくれた後なのでまだテーブルが水で湿っている。
「ふ〜ん…結城と一緒にいる子、結構かわいいじゃん」
「でしょでしょ!結城のヤツも隅に置けないね〜」
結城くんと一緒にいる子、どこかで見たことがあるような…?私の勘違いかな?
「おっ!結城が動いた!」
結城くんが女の子の隣に座る。何をする気だろう?
結城くんがスプーンに1口分を乗せてその子の口に…
「えっ!ちょっちょっとそれ!」
ゆっ結城くんが…あ、あっ、あ〜んをしてあげてる!?あの二人っ…もうそんな関係になってたの?!
「あっれれ〜?は〜る〜な〜?なんでそんな赤くなってんの〜?もしかして嫉妬〜?」
「ちょ、ちょっと里沙!?なに変なこと言ってるの!?未央とにやにやしてないで何か言ってよ!」
「え〜!別になんも言うことないんじゃな〜い?本当のことなんだから〜」
「もうっ!未央までそんなこと言って!」
二人とも私が結城くんのことす、すっ好き……なの知ってこんなこと言うんだから…。でも…結城くんたちの周り、すっごい暖かい。私も…あんなふうに、なりたいな…。
◆
こんにちは。わたくしはララ様によって作られた忠実な高性能多粒子結晶ロボット、ペケです。先日、リト殿とお出かけさせて頂いた時に買ったバイオリンに最近熱を注いでおります。それに……他にも色々とお教えさせて頂きました。
「リト殿〜!わたくし、ついに1曲引けるようになりましたぞ〜!」
「おっ!ペケ!楽しめてるみたいで良かったよ!」
「あっれれ〜?最近ペケその姿でいることが多いね!それにどうして女の子〜?」
「難しい質問ですね、ララ様。言うなれば…気分、でしょうか…。」
「へぇ〜!最近リトとも仲良いみたいだし、楽しそうで私も嬉しいよ!」
「そ、そうでしょうか…」
困ったように首を傾げるペケのその表情は、雲ひとつない、晴れやかなものだった。
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