其処は湿った岩のにおいと溶けた蝋燭、古びた鉄の匂いがする場所であった。
岩肌が剥き出しの空間に所々蝋燭が立てられ外の時間は解らず、灯りの下では数多くのなにかが絶えず蠕いていた。その蠕くモノたちはある一定の方向へ向かって進み、その流れの先に一人の男が倒れている。
白い肩ほどの長髪。目元は黒い布で覆われ、両腕は後ろに回されている。黒く冷たい枷が手首を捕らえ、伸びる鎖は天井へと続いていた。
白いスタンドカラーのシャツがじっとりと濡れて肌に張り付き、馬乗り袴は脱げかけている。それが蛞蝓と蛇を掛け合わせたような、長く、ぬめる身体の何かにたかられていた。
──肌の上をなにかぬらぬらとしたものが這い上がる感覚とともに覚醒した。
「ふ…ぁ…あっ」
這い上がるものが内腿から尻を這って、窄まったアナルに潜り込む。ぬめり、さほど固くないものだというのに拒否できず、それが一匹、また一匹とアナルを潜って直腸の中でぬちぬちと這い回る。
「やめろっ…なんだこれ──っひ、あ!」
這い回るものは陰嚢からペニスにも移動し、冷たくうぞうぞと絶えず刺激を与えてくる。闇を見通せる筈の吸血鬼の視界を閉ざされて感覚が鋭敏になり、未知の快楽に恐怖とともに体を震わせた。
「んぁ…あ♡やめ……──ぁ♡ひ♡」
ぬち…くちゅ♡くちゅ…ちゅぽっ♡
生暖かく柔らかいそれは吸い付きながら彼のアナルから出入りして、また別のものは同じ肉壺の中でペニスの裏側のメス性感のしこりをぐりゅんと押し上げる。
「ひああっ──っ♡ あ゙ ぃ──イ!」
にゅるん♡と肌の上を這うぬるぬるとしたものは更に数を増やし、うしろに回されて拘束された手の指や、足の指、膝の裏にもぬちょぬちょ粘液のような音を立てて絡みつき、握りつぶそうとしても逃げて肌を滑る刺激をあたえるばかりだった。
「誰か…い、いねえのかっ! あっ♡ひ♡ぁ、あ♡」
肩まで這い上がった何かが、耳の穴に ちゅく…♡ と先端を差し込む。
濡れた生暖かく柔らかい、まるで舌のような何かに耳を犯されて──
「ひうっ──! ぁ、い…ィうッ──!!!!」
びゅるっ♡びゅくっ♡びくびくびくっ♡
暗闇の中で元四郎は射精してしまった。
「ほう……随分と楽しんだようじゃの……ククク。男の飛縁魔とは珍しいが、やはり孔が貪欲なのは変わらんようじゃな」
絶頂の後で体が重く感じる中、嗄れた声が響いた。
声の主が近づいてくる気配がすると同時に、体を弄っていた何かたちの動きが鈍くなる。…といっても体の中から抜けたわけではなく、違和感は強烈に残ったままだった。
「誰だ……てめぇ…」
聞くだけ無駄かとも思ったが、声の主が自身の置かれた状況の元凶ならば事態を変えるには動くしか無いと思った。
「通りすがりの拝み屋じゃよ、飛縁魔」
ひえんま。──美しい女の姿で男の血を啜る妖怪に形容されて、自嘲げな笑いが漏れる。
「拝み屋に頼むような用事もねぇし、俺のどこが女に見えたっていうんだ、爺さん」
「カ、カ、カ……男に化けているかもしれんじゃろう。その証拠にほれ──…」
ちゅぽっ♡と腹の中の何かが腸壁を吸い上げ、ビクンッと腰が跳ねてしまう。
「咥え込む孔がついておる。ククククク…」
嗄れた笑い声の主が近付き、ジャラジャラと音を立てると拘束された腕が引っ張り上げられた。
「痛ッ──あ」
鎖に引き上げられる形で立たされ、しかしそのまま引き続き腕が引き上げられ続ける。
やがて足が床から離れ、体を丸めたまま腕で宙吊りにされ、体重がかかる両肩がミシミシ音を立て痛みを訴えはじめた。
やがて ごきっ と肩関節が外れ腱が引き伸ばされ、襲い来る痛みに閉ざされた視界が赤く染まったかのよう。思わず叫んだ。
「うぐ──ぁあ゙あ゙!」
「なんじゃ、さっきはよぅいい声で鳴きおったが……こういうのは嫌か」
爺の言葉とともに足から下腹にはりつく何かが柔らかい体を蠢かせ、粘液を吐きながら肌の上を這いずりまわる。ぶわっと汗が噴き出して喉だけでなく舌も乾く。
「よせ、くそっ──ぁ…あ゛ 嫌だ あ──ッ♡」
冷たかった粘液がだんだん温まって肌から滴り垂れていく。耳穴をくちくちと細い何かがかき混ぜ、首筋を這い、脇の下を伝って胸板にもそれが広がっていきぞわぞわとあまったるい痺れが駆け巡った。
「善がれ、飛縁魔よ。その方が楽になるぞ」
胸板が覆われ、乳頭を歯のない口のような何かで吸い上げられた。何が起きているのかは目隠で見えない。けれど小さな肉粒が吸引されてむず痒い感覚とともにぽってりと腫れていくのが自分でもわかってしまう。
「ひう…ん♡趣味…悪ぃ…てめ──ぇ ひ♡ ぁ♡ またケツ やめ ぁ♡ あ♡」
にゅぷ…♡ぬぽ♡くぽ♡ぬちゅ♡くちゅ♡
「は……あ♡ あ♡ ひ♡」
見なくても音の出どころはわかる。それに、そんな自分の姿なんて見たくない。体が意思と無関係にビクリと跳ねて、肩が千切れそうなほどに痛く、肋が引っ張りあげられて息が苦しい。
「こうして躾続けたら、お主そのうち痛みで気をやるようになるじゃろうて」
「ぃッ! ひ♡ ぉ──お♡」
「聞こえとらんか。まあ良い飛縁魔よ」
鎖の音が響いて、ヌルヌル滑る足が再び床につく。立ち上がろうと足に力を入れたが膝が笑って上手く立てずに、結局その場に座り込んでしまった。
すかさずぬめる何かが嫌というほど這い回られた内腿の上でぬろぬろと蠢いて、次にまた肉孔に潜り込まれることを恐れて尻に力が入る、しかし──…。
「あ……?」
「今日は此処で止めじゃ。逃げ出せるとは思わんほうがええぞ。く…く…く…く……」
潮が引いていくかのように何かが離れていって、音もなく気配が消えていく。
「おい。……おい、爺…ジジィ! ──くそっ…」
返事をするものも、身体を弄るものも居なくなり一人になったと知る。
「何が…どうなってんだよ……」
疲れた。
冷たい石の上で何時しか眠りに落ちていた。