誠に勝手ながら、これからも見守ってくださると幸いです。
ちなみに今回はあまり絡みはありません。
いつも通り多くは後書きで語るとしましょう。
人気のない公園のベンチに一人の少女がうなだれて座っている。ナイトメアの社服を纏うかれんの姿は、普段以上に大人びて見えた。
困惑、動揺、そして絶望。
プリキュアとしての変身を解いた今のかれんを支配しているのはその三つだ。
(どうして……?あの二人が……私の見間違い……?)
異世界から今の世界へ空間移動する寸前。かれんの追っ手として差し向けられたであろう二人組。その顔がどうしても忘れられない。
ココとナッツ。共に自分たちをプリキュアとして闘うことを宿命付け、普通の学園生活を送れなくした張本人であり、大切な仲間を作ってくれた恩人。こちらの世界に戻ったら真っ先に相談しようと思っていた。それなのに。
どうして。
かれんの唇から、思わず出た言葉は、自分でも驚くほど掠れていた。
「……そう、わかったわ。引き続きお願いね」
報告に来た部下を軽く労い、秋元こまちは椅子に座って静かにため息をついた。ぼんやりとした思考に浮かぶのは、つい先ほど脱走したキュアアクアこと水無月かれん。かつての親友。
彼女の周りはもう敵だらけのはずだ。しかもただ敵対するだけではなく、それぞれから性的な拷問や恥辱を与えられている。並の精神力の人間ならとっくにおかしくなっていても不思議ではない。
それがどうだ。現に彼女は牢獄での三つの恥辱とこの部屋での屈辱の日々にも心折られず、とうとう自分にまで手を出してまで逃走を試みた。
あの時殴られた後頭部を軽く擦る。鈍い痛みはしたが幸い大きな怪我にはなっていないようだ。
ふぅ、とまたひとつため息をつく。安堵のそれではなく、何かこの脱走劇が、自分たちとかれんとの決別を決定的にしたような……そんな気がした。
(もう……あの頃には……)
左手首に巻かれたピンキーキャッチュ。こまちの記憶では自分のこれは緑色の光を放っていたはずだが、今では見る影もなく灰色に染まっている。
かれんと共に、プリキュアとして他の四人の仲間と共に、世界の平和のために戦ったあの日々が懐かしく……。
(……っ!私は何を……!あり得ない……今の私はナイトメアの幹部!)
思考を上書きするように、あるいは自分の心を押し潰すように、こまちは自ら湧き上がってくる『何か』を押し止める。
それは名誉と立場が保証されたこの無味乾燥な世界で、こまちが望む『何か』だった。
ジャリ、と地面を踏みしめる音がした。生気のない表情でかれんは顔を上げ……途端に強張らせた。
「ココ……ナッツ……」
目の前に現れたのは、共にナイトメアの社服を着た二人の青年。整った顔立ちを柔和に緩め、かれんの元へと歩み寄る。
かれんは警戒心を露にしながら、ゆっくりと腰を上げた。
「止まりなさい」
強く、はっきりと。だがどこか震え上ずった声色でかれんは言った。
「何を言っているんだい?」
「まさか俺たちのことを忘れたのか?」
張り付けたような笑みから一転、かれんを心配するような表情を浮かべながら近寄る二人。
「止まりなさいと言ってるでしょう!」
半ばヒステリー気味に叫ぶと、それに気圧されたように二人は立ち止まる。その様子に、かれんはゆっくりと警戒と解いた。
「どういうつもり……私を誘拐しにでも来たのかしら?」
「そんなつもりはないよ」
「実は俺たちもナイトメアに誘拐されていたんだ。それで隙を見て逃げ出したんだ」
「……」
その説明に、どうもかれんは納得できないでいた。
信じたい、むしろ信じなければならない。だが胸に去来するこのもやもやとした気分を払拭できない。
「なあかれん」
「これから……」
そうして目線を下げて思案している間に、いつの間にか鼻先が触れ合う程に接近を許していた。
「な、何……」
思わず後ずさる。それに合わせるようにして、二人は距離感を変えずについてくる。
サクッ、と地面を踏みしめる音が変わる。気付けばただでさえ人気のない公園の隅の植え込みにまで追いやられていた。
「……いい加減に……しなさい!」
スッとかれんは右手を引くと、腰の回転を使って容赦ない掌底をココに放つ……が、今のかれんは生身の人間。いくら鋭い一撃でも、大したダメージも与えられずに手首を掴まれた。そのまま零距離まで接近されると、押し流されるように植え込みの木陰に追い込まれる。
ギリギリと手首に食い込むココの指に顔をしかめながら、かれんは大木を背負い、これ以上の後退ができなくなった。
「……っ、放しなさい!」
状況を打開しようと、空いた左手でナッツを突き飛ばそうとする。だがこれもあっさり受け止められると、両手を上に掲げた格好で幹に固定された。
かれんの目に恐怖の色が浮かぶ。それはこれから行われるであろう行為に対してと……そして二人の目に光がないことに。
「い……嫌……ひゃあ!?」
スッと太ももを撫でられ、自分でも意図せず上ずった声が漏れる。背筋を這い上がるようなゾクゾクした感覚に、全身の力が抜けた。
「ちょっと静かにしてもらおうかな」
「ん……むぐ……」
口を塞がれ、最早周囲に助けを求めることもできない。
そして空いたもう一本の手がかれんの胸元へ伸びる。そして流れるようにボタンが外され、豊満な胸が露になった。
「ぷはっ……はっ……ん!?……あ……」
急に口にあてがわれた手が外される。だが次いで出た声は拒絶ではなく悦楽に準じるものだった。
二本の手が直にかれんの胸をまさぐっている。何か作り物のような生暖かい温度で五本の指が、形容し難い感触となって襲いかかる。
声を上げたい。だが今声を出せば、漏れるのは屈辱的な喘ぎとなるであろうことは容易に想像できた。
かれんにできることは、ただただこの凌辱を耐え抜くことだけだった。
「……っ、んっ……っはぁ!」
途端、手付きが変わる。ただ揉みしだくだけだったのが、人差し指で乳首を弾くような責めに。
(そ、んな……私……こんなので……!)
かれんが驚いたのは、自身の身体の感度。ナイトメアに監禁同然の生活を強いられていた間、性的に凌辱され、何度も望まぬ絶頂を迎えさせられたことは記憶に深く刻まれている。
その時に植え付けられた快楽のスイッチが、一見乱暴な愛撫で呼び起こされたことは、かれんにとって屈辱だった。
(嫌……こんなので……この程度で……イクのは……嫌ぁ……!)
唇を噛みしめ、必死で上り詰めるような感覚に抗うかれん。だが二人の乳首責めは嫌らしい程に正確で、彼女の意志を無視して肉体は絶頂へと向かう。
「あっく……か……は……あ……!」
乳首を弾く動きから、指で挟んで転がすような愛撫に。止めと言わんばかりに、痛みと認識するギリギリのラインを責めるように摘まむ強さが変化する。
「く……う……あぁ……っ!っ!……」
かれんは焦燥の目付きで顔を上げた。だが絶頂を迎えたことによるものではない。ただ直前でまたも手付きが変わり、感度が冷めない程度に愛撫を続けながら、耳元で優しく呟いた。
「なあ……イキたいだろう?」
「これから俺たちといつまでも一緒にいよう、すべてを忘れて……」
「……」
どこか、引っかかった。二人の意図には反し、かれんの官能の熱が急激に冷めていく。
直後、脳裏にとある人物がフラッシュバックした。このやり口、手付き、誘導の仕方……。
「なる……ほど、ね。危うく堕ちる所だったわ……」
瞳を閉じて、開ける。その目はもう官能に屈しかけた少女のそれではない。
刹那、両手が固定されていることを利用し、その場で跳躍 、そのまま左側にいるナッツの顎に強烈な膝を浴びせる。悲鳴すら上げるのを許さず青年の身体は吹き飛ぶ。
そのまま開放された左腕で、硬直しているココの顔面に肘を撃ち込んだ。
この間わずかに五秒。
地面に伏す二人に見向きもせず、着衣の乱れを直すかれん。だが視界の端には、どこか機械的な動きで立ち上がるココとナッツの姿があった。
「……さすが、作り物ね」
起き上がった二人の顔面は醜悪に変型していた。ココは左頬が粘土のようにひしゃげ、ナッツは顎が眉間に届かんばかりに潰れている。さながら完成度の低いホラー映画のモンスターのようだった。つい先程までこんな奴らに感じさせられていたのかと思うと吐き気がした。
「ぎ……ぎ……」
ココが意味をなさない言語を発すると、二人は一目散に踵を返して逃走した。
「っ!待ちなさい!」
このまま街にでも出られたら間違いなく大混乱が起こる。自分にも責任の一端を感じ、意地でも公園から出すわけにはいかなかった。
(追い付ける!)
だが二人はかれんの予想外の行動を取った。急にその場にナイトメア側の世界への扉を開いたかと思うと、躊躇なくそこに飛び込んだ。
想定外の行動にさすがのかれんも反応が遅れ、三人は共に異空間へと飛び立った。
「あーもうまったく……やっぱり出来損ないは使い物になりませんねー」
ナイトメアの社服を纏った小柄な少女が一人、灰色に染まった世界の路地で呟いた。
春日野うらら。ナイトメア尋問部のトップにして、元プリキュアの一人。
そんな彼女がいるのは、殺風景な駅の前だった。
「よりによってこんな辺鄙な場所にゲートを開くなんて、私の作り方が悪かったんですかね?」
倒れて動かなくなった『出来損ない』を爪先で軽く小突くと、ポケットから通信機を取り出し本社と連絡を取った。
「ええ、とりあえず回収班と車一台回してください。個性の欠片もない従業員連中と一緒に電車通勤なんて嫌なんで……と、あれ?」
うららは会話を中断し、視界の端に映った人影に意識を向ける。
本来ならこちらの世界にいるはずのない人物が、端正な顔を不安そうに歪めて辺りを見回している。それを見たうららの口元が、にいっと釣り上がった。そして通信機に向かって、
「くすっ……先程の要求、一部修正します。回収班は出来損ないを処理してください。そして車はいりません。代わりに……」
うららはいくつか道具を要求すると、十分以内にですよ、と言って通信を切った。そのまま真横の簡素な時刻表を確認する。きっかり十分後、ナイトメア本社行きの電車が出る。
うららはそれを見て、最高のおもちゃを見つけた子供のような表情になった。
「さーて……久しぶりに電車通勤でもしますかねー」
まずはここまで読んでくださった皆様に感謝を。
さて、『風呂敷を広げたは良いが畳めない』可能性がありました本作を繋ぐために用意した接続章になります。前話でかれんを空間転移させてしまい、こちらの世界でどう話を広げるか……と思っていたのですが、実際は再び空間転位してしまいました。かれんさんごめんなさい。そして無理矢理な展開にお付き合いいただくことになってしまいました読者の皆様、どうかお付き合いください。
それにしても何だか(元からない)文章力が落ちているような……今一度、気合いを入れ直さねば。
今回はこの辺りでお別れです。機会があればまた次話でお会いしましょう。