以前この辺りをノクターンで投稿したら『寝取られだ!』とキレられたことがあったんですよね。まぁ筆者もそういったジャンルも嫌いではないので……
次回は前戯パート、そして本番へと移行します。
肌が露わとなった全身にサンオイルを塗り終えた由利恵は、パラソルが作り上げた日陰でビーチチェアに仰向けで座り、海を眺めていた。
「海……綺麗ね。」
「由利恵さんのほうがキレイですよ。」
「……何もしてあげないわよ。」
鉄斗もまたビーチチェアに座り、由利恵と並んで海を眺める。日常の延長線ではない、2人だけの隔離された空間。周囲に喧騒こそあったものの、2人は日頃の生活では得ることが出来ない時間を過ごしていく。
「これで冷たいビールでもあれば、最高なんだけど。」
「飲みますか?」
「いいえ……今日はやめておくわ。いい景色を前に、悪い酒は飲みたくないもの。」
焼けるような真夏の暑さが身体から汗を滲ませ、そこへ吹きつける海風がその汗を冷やして心地よさを生み出す。水辺から聞こえてくる波音が海にいることを教え、夏の海岸における休暇を楽しんでいた。
「でも、よくOKしてくれましたね。水着になるのも構わなかったみたいですし。」
「それは……こんな水着を着るなんて思ってなかったからよ。もう少しまともな水着を持ってきてくれるかと思えば、こんないやらしいのを……」
「水着姿を見せてくれることは、嫌じゃなかったんですね。」
「そんなこと……嫌なんて、言えるわけないでしょ。」
元来気が強く、口数が少ないため、周囲から畏敬の念を持たれやすい由利恵。他者に弱さを見せることはなく、気丈に振舞うことが彼女にとっての日常となっていた。しかし、今この時を共に過ごす異性に対しては、そうする必要はなくなっていた。
「意外とノリが良い人で驚いちゃいましたよ。少し前まではほら……お酒が好きなちょっと気難しいお姉さんってイメージでしたからね。」
「意外とって……まぁ、そう思われるのも無理ないわよね。あなたにだって、あんな姿を見せていなければ、もっと良いイメージを持ったままでいられたかもしれないわ。」
彼女にとって人生最大ともいえる失敗。婚期を逃しているであろうことを除けば、酒浸りとなって路上で夜泣きをするという行為は、間違いなく汚点となる話であった。
「あんな姿を見ても由利恵さんを好きになった俺のこと、ヘンな奴だって思ってますか?」
「……ええ、とってもヘンな奴だって思ってる。」
互いに仰向けで寝そべったまま顔を向けあい、示し合わすかのように笑みを浮かべる2人。決して理想的とはいえない出会いと関係の持ち方をしていたものの、それでも互いの意識を通じ合うことは出来ているのであった。
「ちょっと、砂浜を歩いてみます?」
「そうね。せっかくだし、海にも入っておきたいわ。」
「それじゃ、由利恵さん一人で歩いてきてもらいましょうか。」
「なっ……なんで私一人じゃないといけないのよ!?」
鉄斗の提案に声を荒げる由利恵。しかし彼女は、彼が意図する所をある程度理解しており、彼は些か下卑た表情となって言葉を返す。
「水着姿の由利恵さんが歩いていたら、周り男がどんな反応をするか楽しみなんですよね。」
「声とか掛けられて、連れて行かれそうになったらどうするのよ?」
「その時はまぁ、いつも通り強気な面を出して振ればいいと思います。」
「ホント……ヘンな奴じゃなくて変態よ。」
自らを弄び、進んで好奇の眼差しに晒すことを悦ぶ鉄斗に呆れる由利恵。それでも彼女は首を横には振らず、自らを受け容れてくれる年下男の言葉に従うのであった。
◇
「ううっ……やっぱり、結構見られるものなのね……」
真夏の砂浜を一人で歩く由利恵。布地の少ない水着に覆われた肉付きの良い身体と豊満な乳房は、彼女の想像を越えて男の視線を釘付けしており、親しき男が求めていた女としての魅力を発揮していた。
「後ろからもすごい見られて……お尻だってほとんど隠れていないから、ガン見されてちゃってるじゃない……!」
傍を通る男は必ずと言っていいほど振り返り、尻肉を露としたTバックビキニを食い入るように見つめているのであった。時折後ろを振り向くと、ばつの悪い様子の男たち足早に歩いていくのを彼女は幾度となく目にしていた。
「このまま何もせずに歩き続けるのもおかしいわよね。」
目的もなく人混み歩くことに抵抗を感じる由利恵は、少しでも集まる視線から意識を逸らすため、手荷物から持ってきていた小銭で飲み物を買って戻ることにした。その最中も多くの男が振り向き、彼女に注がれる性的な視線は耐えることがなかった。
「いらっしゃいませー!」
「ええっ……と、烏龍茶を1つと……」
通りがかった海の家に入り、持ち帰りの出来る飲み物を注文する由利恵。自身の分はすぐに決まったものの、鉄斗が何を飲みたいは分からず、しばしその場で考え込む。
「………」
「………」
店員の男の視線は、彼女の身体へと向けられていた。大きく開いた胸の谷間へ絶えず目を降ろし、その様子に気を散らす由利恵は考える力を失いかけていた。
「(もっと若い子の水着姿をいつも見ているんでしょ!?なんで私なんかをチラチラ見るのよ……!?)」
「………」
「それじゃあ、烏龍茶を2つお願いします。」
「はいっ、烏龍茶を2本ですね!ありがとうございます!」
気勢の良い声を上げて接客を行う店員の男。その姿を見て、彼女は普段スーパーで顔を合わせていた鉄斗を思い出す。
「あの子も……私をずっとそういう目で見てたのかしら。そんなこと、怖くて聞けない……かも。」
酔い潰れた自分に声を掛けたのが鉄斗であったことを安心する一方で、その出会いがなかった場合の時を考えて、由利恵は不安に苛まれる。だが、出会う事がなかった別の男の存在は彼女を恐れさせるだけではなく、それとは異なる感情も持たせているのであった。
◇
「はぁぁ……やっぱりひんやりしたのもいいけど、こうやって冷え切ったのもいいわね。」
氷水によって冷えた2本の烏龍茶を持ち、顔や首元に当てながら鉄斗の元へ戻り歩く由利恵。手荷物を持ったことで若干の落ち着きを得てはいたものの、彼女への視線は未だに多く注がれていた。
「やっぱり、この水着がいけないのよ。こんな格好していたら、どんな女だっておかしな目で見られるに決まってるわ。」
自らの身体ではなく、布地の少ない水着が男たちの目を釘付けにしていると考える由利恵。見られていることに変わりはなかったものの、そう自分に言い聞かせることで、彼女の羞恥心は急速に和らいでいった。
「早く戻らないと……なんだかもう、身体が熱くなってきて……!」
「あれ?お姉さん一人だったりするの?」
「っ……!?」
足早に鉄斗の元へ戻ろうした矢先、軽い口調の声が由利恵に向って掛けられる。その声に身体を反応させ、彼女はその方向へと振りむく。
「さっきも見かけたんだけどさ、やっぱりまだ一人でいたんだ。もしかして友達の頼みで飲みもん買いに行った帰りだったりします?」
「……ええ、そうよ。それじゃ。」
「まぁ待ってよ。俺たちも2人で暇しててさ。よかったら友達と一緒にどうかなぁって思ってんですけど。」
彼女に声を掛けた遊び人風の男2人。その風貌からして海岸に訪れていた目的は明確であった。面倒だとしか思わぬ由利恵は、適当にはぐらかしてその場を後にして歩き始めるが、彼らは彼女に付き纏ってさらに声を掛けてくる。
「悪いけど連れが待っているの。あなたたちに構ってる暇はないわ。」
「そんな寂しいことは言わないでほしいなぁ。お姉さんだって、そんな格好して男を漁りに来てたんじゃないの?」
「くぅっ……!」
「どうせ遊ぶ相手なんかいないんでしょ?だからそんな格好で、声を掛けれないかって歩き回って……」
男の一人の言葉に、彼女は彼を睨みつける。下卑た視線と放たれる下品な言葉。彼女自身が貶められたと感じるには十分であった。もう一人の男が言葉を続けるのを遮るように、由利恵は言葉を返す。
「あなたたちみたいなので、満足なんか出来ないわよ。」
「あっはははっ!言ってくれるねぇっ!」
「それじゃ、本当に満足出来ないかどうか、確かめるのだってアリなんじゃないの?」
「あ、あなたたち……何を……!?」
付き纏う男たちは挑発をしてきた由利恵に実力を行使しようとする、彼女の魅力的な身体に手を伸ばし、自分たちが主導権を握ろうと動きだす。その行為に少なからず恐怖を覚えて彼女は、男たちを睨みつけながら小さく声を発した。その矢先
「由利恵さん。」
「……っ!?」
正面から聞こえる親しみのある声。後ろを振り返っていた由利恵は2人の男たちと共に、その声の主へと顔を向ける。
「鉄斗……!」
「ちっ……なんだよ、男持ちだったのかよ。」
「何かトラブルでもありましたか?そこにいる2人と……」
「えっ……いえ、その……!」
声を掛けてくる鉄斗に狼狽える由利恵を尻目に、2人の男たちは苦虫を噛み潰したような顔で足早に立ち去っていく。海水浴客が多い砂浜で騒ぎを起こすことは下策あると判断したようであった。
「……大丈夫ですか?」
「え、ええ……大丈夫よ。ありがとう、助かったわ。」
由利恵の元に近付きながら、そう声を掛ける鉄斗。その言葉に安心感を得たのか、彼女は半ば呆然した顔で彼を見つめていた。
「俺は何もしていませんよ。あの2人が勝手に俺と由利恵さんの関係を思い込んでいなくなっただけですからね。」
「それはそうだけど……もう、本当にドキドキしちゃったんだから。」
「ドキドキ……ですか。」
恐怖感が過ぎ去った後の高揚感に包まれる由利恵は、異性として見た初めての男と話す少女のような顔となって鉄斗に不満を口にするのであった。
「あれ?由利恵さん、そのお茶は……」
「えっ……あっ、その……ちょっと喉が渇いていたから、鉄斗の分と一緒に買ったのよ。」
「……ふふっ、ありがとうございます。すいません、そんな気を使ってもらっちゃって。」
「いいのよ……私が飲みたいと思っていただけなんだから。」
突き刺さり続けた視線の果てに、見ず知らずの男たちから声を掛けられた由利恵。鉄斗の元へ戻り安心感を得ていた一方で、彼女はこれまで潜めていた言葉では言い表すことが出来ない感情に、身体を熱くさせ始めていた。
「それじゃあ、飲んだら一緒に海で遊びましょうか。」
「……そうね。そうしましょう。」
烏龍茶の缶を1本、鉄斗に手渡すと、彼女は空いた手を彼へと差し出す。それを見た鉄斗は言葉を出すこともなく、自らの空いた手で由利恵の差し出された手を握るのであった。