若いきつねと三十路のたぬき 作:負けた社畜
「元気出せってお前シジミだって頑張ってんだからさ!」
「落ち込んでないもん」
明らかに
「帰りの餃子もパリッパリだったじゃん!」
「レモン酸っぱかったもん」
レモンかぁ~~~~。そりゃ酸っぱかっただろうなァ~~というかワンポイントで搾ってかける用のレモンを何で齧っちゃうのかな君ィ。
「餃子よ餃子!明太もちチーズとかさ!王道で美味しかったじゃん!」
「……しそ入ってた」
紫蘇ダメだったかぁ~。確かに独特の風味が苦手って人結構いるもんなァ~!山椒とかパセリとかセロリとかちょっと確認した方がいい系食材あるよね~しくじったわぁ~~~~~~。
「失敗なんて人間誰でもするんだからさ!俺なんてほらミスりまくっててもう存在が失敗みたいなとこまである」
「うううぅ~~!!なんでそんな事言うの……!!!だめ!だめだから!生きて!そなたは美しい!」
あかんこれ。
帰りの車中でいつまでも続く押し問答。二徹明けで2人ともテンションがおかしな事になっている。ブレーキ役が居ないせいで俺もイカれ、バリキャリ女も壊れてしまった。
おっと赤信号。クラッチを切ってシフトをニュートラルに入れ止まる。いつもの社用車とは違うマニュアル
事の発端はとある至急案件だった。
俺の課が企画を受け持ち、バリキャリ女の課は審査を通して、後は実地を残すのみとなった案件だったのだが、発注数と工数が合わないらしく現場が修正を求めて作業をストップしているとの事。
それはとても穏やかじゃないし、顧客にも現場にも迷惑がかかっているうえ、その分の余計なコスト発生もあるのだから早急に対応せねばならない。
持ち帰って再検討などしてる暇はない。急ぎデータをひっくり返し企画書の誤っている箇所を探していく。だが穴が開きそうなほど見返しても、修正が必要な所が見当たらない。
(これ
疑念が大きくなり、念の為後輩にも確認してもらったが、やはり修正が必要な箇所はなくお互いに首を捻る。そして後輩も1つの結論に至った。
「先輩に言われたとこ確認したんスけど、何もないんスよね······。
俺らの課が発案企画して計画書を提出し、バリキャリ女の課が予算関係の計算と審査をするのが弊社の基本的な流れ。つまり向こうが最終防衛ラインなポジである。
総予が『良し』と言わなければ予算は下りないし、発注できない俺たちの仕事は進まないことを意味する。我が課はいつもいつも審査で誤入力を指摘され、ただでさえおんぶに抱っこな上に向こうにケツを持ってもらっている立場であり······
それだけ総予に優秀な人間が揃っているのも、柔軟に動けるようになったのも
その相手に向かって『そっちのミスじゃないですか?』とは聞き辛い。俺が総予の人間なら『いつもミスばかりしてるのに、こんな時ばかり指摘してほじくり返しやがって』と思うだろう。
「これ、現地修正になりません?」
「このまま行くとそのコースになっちまうな······てか、もう確定かもしれん」
「うわ······場所どこスか?」
「宇都宮」
「まだ関東なのが救いスね」
簡単に言えば『企画した人間が来てその場で指示出して直せや』というのが“現地修正”と呼ばれるものだ。
動き出したプランはもうやめることはできない。あんまり時間がかかり過ぎれば現場でボコボコのボコに詰められるしダメージは少なければ少ない方がいい。バリキャリ女···は畏れ多いので彼女の優秀で忠実な部下である
現地修正は文字通り机上ではなく現場で行う事になるが、だいたい一日じゃ終わらない。止まっていたものを元々の計画の進捗まで復旧させねばならないからで、限りあるリソースでやりくりする為には自らが限界を超えるしかない。バトルマンガなら激アツ、しかし現実、哀れな社畜が三徹。
さて、もうひとつ問題がある。
弊社は社用車の私的利用を禁止している。これはどこの会社も一緒だろうが、弊社が言う私的利用とは何を指すかと言えば営業時間外の使用を意味する。つまり終業時刻までに社用車を返却しなければならない。ならばレンタカーを借りるべきだが、折り悪く貸し出せる車が出払ってしまっているという。こういう時ってだいたいタイミング悪いんだよな。
現地修正に向かった場合、当日中に帰ってくるなんて当然無理だ。交通費とホテル代は立て替えて領収書を貰えばそのへん返ってくるが、如何せん鉄道網が貧弱な所では不便がすぎる。
困った事に足がない。
こうなると、そこはかとなく不本意なうえ甚だ遺憾で仕方ないが家族に頼るしかなくなった。
······ウチの一家はハイオクと排ガスに頭がやられて車が普通じゃない。親父は峠で豆腐配達してそうな車転がしてるし、母上は狂おしく身をよじるように湾岸線を走ってそうな車乗ってるし、姉貴は安室の夢女子で、愚弟はラリーの息吹を感じてしまってる。1人1台を地で行く車一家(全てMT)である。その他買い出し用兼予備にステーションワゴンが1台。なんで人より車の方が多いねん。
姉貴と愚弟は車を借りようとするとニチャニチャフニフニ言うのでそもそも論外。頼みは親父か母上だが、どちらの車もカリッカリに弄ってあるから運転が辛い。ふざけた選択肢の二者択一。
実家に帰ると俺だけが車を持ってない異端扱い。一応免許はマニュアルいけるけどさ。ともかく、電話に出てくれそうな母上に連絡を取る。
「······もしもし、ママ上でしょうか」
『あ?あーアンタか。何?』
「そのですね、仕事の都合でどうしても車が必要でしてステ」
『無理。今
望み1、あえなく粉砕。
「うせやろ」
『だから買っとけって言ったじゃん』
「維持費高いやん······」
孫の顔見せろじゃなくて車買って見せに来いって言われんのウチぐらいじゃねーかな。
ママ上がダメならパパ上に頼むしかない。社会人になってなお親父の仕事は全くもって分からないが、土日じゃなければ車が空いてる事が多い。一縷の望みが一厘ぐらいになっちまったけども、口に出そうとしたところでママ上から絶望の言葉を聞かされた。
『そうそうお父さんのもエンジンブローしてさ。たぶん無理ぞ?』
望み2、始まる前から跡地。
困った。ちょっと勝てない。まさか5台中2台が使い物にならん状態とは誰が予想できるだろうか。
『あ、ちょい待ち』
電話の向こうで何やら話し声が聞こえ、ガサゴソとした音がスピーカーから流れた。かと思えば甲高いセルの音とブォン!というエキゾーストが耳を突き刺す。音割れで鼓膜ないなった。
『お父さん庭にハッチバック生やしたから貸してやるって』
どうやって生えんだよ。何が生えたんだよ。なんで生えてんだよ。
『一気にレッドゾーンまでフケる陶酔感···死ぬほどイイぜたまんねぇ!!』
後ろから親父のテンションぶち上がった声が聞こえる。頼むからガムテープデスマッチの最後に
「できるなら車検そのまま通るやつがいいんだけど」
『まだなんも手つけてないから安心しな』
あーもう半年後にはイカれた車になっちまってるな。やっぱりハッチバックぅ······魅力やね。
いやまあ貸してくれんなら文句言てる場合じゃないけどさ。
「じゃ直ぐに借りにいくからさ」
『満タン返しな』
「わーってるよ」
何はともあれ移動手段は確保できた。やはり頼るべきは親愛なる家族である。
さて、そうと決まったら外泊申請を出して、日程表を出張にして、相手方に『直接修正に伺います』と謝罪メールを飛ばして、I子からの回答を···。
「ちょっといい!?」
ぶわりと風が駆け抜けるような通った声に、
濃紺のシンプルなパンツスタイルでありながら華やかさも持ち合わせ、本人のプロポーションをより引き立たせる佇まい。雑誌とかに出てくる理想的なビジネスウーマンを地で行く我が社きってのトップモデル···“冷徹の魔女”ことバリキャリ女が血相を変えて飛び込んできた。
走ってきたのか肩で息をしていたが、すぅっと一息吸い込むとキッときつく結んだ顔を上げ······ああ、恐怖のあまり
誰がやらかしたんだと目線の応酬。自分のところを通り過ぎた者から安堵の息を漏らし、その姿を目で追った。そして理解する。アイツか、と。
つかつかと足音と共に歩き出したバリキャリ女を、全員が固唾を飲んで見守る。各々の予測は当たり社畜男の前まで行くと
「お願い!私と来て!」
───衝撃
「え、なんの話!??」
「あなたじゃないとダメなの!!」
───再びの衝撃
「えっちょ、え?ごごごごめん場所変えよう!」
突然何言ってんだこの女は?手早く荷物を纏めると働かない思考をそのままして、バリキャリ女の手を引きオフィスを出た。吹き飛んでいく同僚をよそに突然始まった逃避行。
バリキャリ女から聞かされた話を要約すると···。
案件を担っていた社員に不幸があり、引き継いだ際に伝達ミスが発生。計算を修正すべきところ、そのまま審査を通してしまい誤発注に繋がったらしい。
I子を通して現地修正が発生すると聞き、普段絶対やらないミスに気が動転した結果が先程の凸発言だと。
うーん、この······。まあいいや。以上、説明終わり。この後現場で二徹して何とか工程を修正し怒られが発生。バリキャリ女と二人揃って頭を下げ何とか案件を軌道に戻す事ができた。
ついでに車談義が発生。意外にも職人たちに人気を博した親父のハッチバックに感謝しつつ、次会う時には
せっかく宇都宮に来たのだからと、意気消沈するバリキャリ女を現場監督イチオシの餃子屋に誘い酒を勧めたのが良くなかった。
まず駆けつけ一杯、とりあえず生。そして生倍プッシュ。バリキャリ女は嫌なことを忘れたいがため浴びるようにどんどん強い酒を飲み、片っ端から餃子をかっ食らう。二徹していた事も災いして普段よりも遥かに下降した酔っ払いラインはぶっちぎり。
気づいたら彼女は幼児退行してしまっていた。普段の彼女なら絶対にないデロデロの呂律。このまま持ち帰られても文句は言えないレベルのふわっふわな言動。動画に撮って後日見せれば、枕に顔を埋めてバタ足三唱間違いなし。
だが、彼女には何もせず送り届ける予定だ。弱ってる所を送り狼するなど酷い男のやる事だ。
······しかし、俺も酒を飲めればどれだけ良かった事か。ハンドルを握るなら飲んではならない。その楔は大きく、延々と助手席でくだを巻く彼女を素面で受け流さねばならない。
「ねえ!聞いてる!?」
「聞いてる聞いてる」
「私ね!いつもいつも頑張ってるキミのことずーっと見てるの!初めては新入社員歓迎会だったよね!あの
「聞いてる聞いてる」
深夜、街灯もない高速をひたすらに走る。隣から耳に入る濁流のような言葉をそのまま反対から放水して脳に留めないようにした。
日付は天辺を超えたがまだ都心までの距離は遠く、周りを走る車もいない。なんだかバリキャリ女と世界に二人だけ取り残されたような感覚に陥る。眠気覚ましに聞いていたラジオは宙に浮き、エナジードリンクに貸与された覚醒感は翼を生やしてFly away。定められた休憩時間と仮眠時間はとったものの、次第に瞼へ重しを載せられたようになってきていた。
「キツいか······」
まずい······カフェインヒーローの変身リミットだ。自分1人逝くならまだしも隣には客人が乗っている。居眠り運転で事故ったなんて洒落にならん。
「メアリー、眠気が阻止限界点だ。良い報告と悪い報告があるがどっちから聞きたい?」
「……誰、その女?」
頼む、そのノンハイライト目を止めてくれ。ちょっと気分出したかっただけなんだ。会話しないと眠気でくたばりそうなんだって。
眠気が限界を迎えている事を簡潔に伝え、何とかして睡眠をとりたい旨を口にする。この先の選択肢はちょっと同意無しにはできない。
「まあいいよ、良い報告からお願い」
「次のインター降りて直ぐにホテルがあったはずだ。フワフワのベッドで眠れるぞ?このクソッタレな眠気とおさらばできる」
「……悪い報告は?」
「そのホテルが世間一般でラブホと呼ばれていることだ」
田舎のインターを下りたって周りには何もないのが殆どだが、こういう施設に限って2~3あったりするのは何故なのか。まあ
「経費落ちるかな?」
「頼む、俺が出すからやめてくれ」
高速道路から下りてすぐ、往路の記憶通り、暗闇の中でも煌々と輝く建物があった。
やたらトロピカルなフォントのロゴと、休憩/宿泊が記載された料金表。そういう目的の所ですと余すところなく主張する花園へ誘われた哀れな蜂鳥達たち。俺達も周りから見ればそうだろうなと思いながら自動受付で鍵を貰い部屋へと入った。
なるべくシンプルな部屋を選んだものの、そこはやはりラブホ。電灯は間接照明であまり明るくならずムーディな雰囲気を醸し出す。上着をハンガーに掛け、2人揃ってダブルサイズのベッドへダイブした。
「あー動きたくねぇ」
「ホントそれ」
一先ず、シャワーは浴びたい。あと歯も磨きたい。すぐさま襲ってくる眠気に耐えながら何とか身体を起こした。
「おーいまだ寝るな。服がシワになっちまうぞ」
「むり、脱がせて」
「お前なぁ······」
ニマリと舐め回すような笑顔を浮かべると、両手を放り出し自分で動く気のないバリキャリ女。呼吸は段々と深くなっていって、このままじゃ直ぐに寝息へと変わるだろう。
俺も頭が働かず、このままじゃ寝苦しかろうと何の気なしに彼女のブラウスに手をかける。
「脱がしてくれるんだ」
「やむを得ない措置だからな」
首元まできっちりと閉められたボタンをプチりプチりと開放していくと、淡い明かりに照らされた彼女の素肌が覗く。
白く、きめ細かく、綻びのない織物のような肌。黒い装飾の下着に包まれた形の綺麗な胸。縦に筋を刻む
「前こんな事あったよね」
「立場は逆だった気がするがな」
「そうかも」
ブラウスから手から抜かせ、彼女の背後にある黒の防衛線へ切れ目を入れると手に感じたプツッという感触。下着の支えを失って少し横へ広がってもなお、乳房は形を保ち桜を散らしたような先端が色づく。
······本当に、そんな気はなかったはずなんだ。
だが俺の愚息は何を期待したかスラックスを持ち上げ始めた。二徹という生物種の危機的状況と、視覚と嗅覚と聴覚で刺激された本能、カフェインにドーピングされた血流。それらが複合的に合わさりこうなったのだと思う。
「ほら、下は?」
腰をくねり脱衣の続きを促すバリキャリ女。そこまでできるなら自分でやらんかいと思うが、腰から脚へ流れる流線形は俺の視線を誘引して止まない。分かってて聞いてやがる。
細いベルトを抜取りパンツのホックを外すと、ブラと同じく黒い装飾の下着が現れた。
「······♡」
彼女が脱がしやすく腰を浮かせたタイミングでパンツを下ろしていく。
引っかかりもなくするすると、生白い脚が露になってしまった。この至近距離で見てもシミ一つなく、アルコールで血流が良くなっているからか、ほんのりと薄桃色に透き通る肌。
パンツを抜き去り、ハンガーへと掛けていく。足から抜き取ったソックスもだ。これで彼女が身につけているのはショーツ1枚であり、あの薄布1枚が彼女の最後の砦。あまりに心元無さすぎる。
しかし、さすがにあの薄布へ手は掛けられない。それをしてしまったら······止まれる自信がないからだ。
「君は脱がないの?」
「あっちで脱ぐ。風呂入ろうと思うからな」
あれだけ車の中で仕掛けてきた眠気はこの雰囲気で霧散してしまった。ならば俺はスッキリしてからベッドに入りたい。
「なら、私も連れてってよ」
「······」
腕を広げて、抱き上げられるのを待つ彼女。
会社で人前に立つ普段のパリッとした凛々しい女はどこへやら。今ベッドに転がっているのは、なんでもかんでもせがんでくるダラけた女1人。それをだらしないと思うか、それとも心を許しているととるか。
だがこのまま放置したらいつまで続くか分からないおねだりに、仕方なく彼女の身体を起こす為に背中へ腕を回し、柔らかな素肌を抱き寄せて持ち上げようとした。
「······っ♡」
するりと首筋に手を回され、唇が柔らかいもので蓋をされる。
胸板には柔らかく形を変える果実が押し付けられ、否が応でも体温が乗り移ってくる。それは酔った人間特有の微熱じみた温かさ。しかし呼吸する度に鼻を突く臭いに思わず顔を
「餃子臭いね」
「そういうそっちは酒臭ぇぞ」
最悪のキスと言っていい。お互いの呼気は酒と餃子で塗りつぶされ、雰囲気もへったくれも砲丸投げの如くぶん投げられた。ただ唇へ残る柔らかさと熱が、
「も1回」
······臭いと分かっててやる気かこの女。
片腕は首筋に回されたまま、もう片手は器用にワイシャツのボタンを外していく。その動きはスムーズで、手慣れていた。男を誘い慣れていると言っていい。
彼女の過去については聞いたことがある。現在は身持ちが鉄壁と言っても過言ではない彼女も、奔放だったというか無頓着だった頃があったと。
「もう1回」
俺はその事についてとやかく言うつもりは無いし資格もない。それが彼女の生き方だったんだろう。だが、腹の奥底のどうしようもない部分が叫ぶ。『塗り潰せ』と。
「······もっと」
度重なる口付けで、女は呼吸を荒くしながらも続きをねだる。
「もっと」
更に深く繋がることをせがむ。
「もっと······♡」
こんな所で雄を誘えばどうなるか、分からない女じゃないだろうに、より先を乞う。唇じゃなくて、表だけじゃなくて。裏面まで、彼女の中まで、より深くまで。
てろりと唇からまろび出た舌を、舌で絡め取る。待ち焦がれていたように縋り付く情念をどろりと含ませて、捕らえた舌を無遠慮に引き回す。
他人が触れることの無い器官を溶け合わせる行為が、なぜ特別に感じるのか。
この先を期待するからか?自分が全てだと思わせたいからか?俺だけが知っていると優位に立ちたいがためか?相手に思われていると勘違いする為か?
男の嫉妬は醜いぞ·····そもそも、美しい嫉妬などあるものか。
秘所へ手を伸ばしたのはほぼ同時だった。
女の片手はスラックスの上から勃起を促すように、根から先へと嫉妬心を煽る。男の片手はショーツのクロッチ部分を捉え、薄布越しにいばりくさった肉豆を撫でる。
「は······っんむ♡···んん♡······あっ、あー♡」
お互いの欲望を溶かしあってどろどろに融解する理性。抑え込むはずだった。そう決意したのに、たちまち消えた灯火は獣を前に何も言えない。
彼女の舌を開放し顔を離すと、そこには表情を蕩けさせ雄をただ目で追う雌がいた。色素の薄い陶器のような肌は熟れた果実のように紅く、汗ばんだ身体はてらてらと薄灯りを照り返して。
ワイシャツを脱いでサイドテーブルへ放る。ついでインナーを、ベルトに手を掛けスラックスを、その身を持ち上げていた下着を、全て全てサイドテーブルへ放る。
パンツのゴムに引っかかり、腹を打つように反り返った肉槍が天を向く。女の手に促され、呆れるぐらいにその身を腫らした雄を彼女の眼前に突きつけた。
「がちがち······♡」
うっとりと恍惚な表情を浮かべた女の指、白魚のような指が肉槍の血管をなぞるように這う。
はち切れてもおかしくないぐらいに張った亀頭。雌を抉り返すが為のカリ首。刀の如く反りを携えた幹。蚯蚓がのたうつ様に浮いた血管。その形を、長さを、太さを確かめるように女の指は這う。あまりの赤黒さは女の指と色が違いすぎて、本当に人間の肌なのかと疑うぐらいに。
「ぅあ♡······」
男はと言えば、女の髪を撫でながらショーツの隙間へ指を滑り込ませた。なだらかな下腹部を指がなぞって行き、少しの産毛を感じたらもっと肌が柔らかく
薄布が守る彼女の秘園をずらして晒し上げ、皮の上からでも芯を感じる程に硬くなった肉豆を撫でる。熱く湿り気を帯びた園はひくひく♡と蠢き、とぷりと蜜を
その蜜を掬い指に纏わせて、皮の上から肉豆をタップしていく。
「あ···♡ぃあ······♡」
すると、蜜はもっと溢れてくる。掬っては塗りつけ、また溢れた蜜を塗りつけ滑りを良くしていく。撫でられたことで血行の良くなった肉豆がびきびき♡と存在を主張し、蜜を塗られてふやけた薄皮は独りでに剥けそうなほど柔らかくなった。
「足、開いて」
ショーツを脱がせ一糸まとわぬ姿となった女は、ゆっくりと頷きおずおずと脚を開いていく。汗とは違う汁気で濡れ光った秘所が露わになり、筋に引かれた秘裂がぬぱっと身を開いた。陰影濃く刻まれた欲望を暖色の薄灯りが照らし出す。
男の指が、ふやけた皮を剥き上げた。解放されたことでびん!と上向いた濃い
「ん······♡」
指の紋がつかないぐらいに、柔らかくクリトリスを撫でる。押し込んではダメだ。摘んでもダメだ。弾いてもダメだ。蜜を滑らせるぐらいでいい。
「あっ···♡♡あぁ゛っ♡あ゛っ···クリあつっ♡···あ♡♡゛ぁああ♡」
下から上へ。上から下へ。円を描くように。
時折びくっ♡びくっ♡と腰を浮かせ、如実に反応を良くする女の身体。
酒が入れば鈍くなるはずだがそんな事は全くない。かつて不感症だったなんて嘘だろう?と問いたくなるほど感じやすいその身に若干の心配をしつつ、クリトリスを撫でていく。
「待って···!やばっイきそ···!」
ちょっと前から肉槍をシゴく女の手は緩慢になっていた。役に立ちそうもない握力の往復にもどかしさが募り、余計肉槍は苛立ってしまう。
「んんんんんんぅ!!」
ビクンッ!と女の腰が跳ねる。二度、三度と脚が弾んでは
中指、1本の指を膣口へしゃぶらせる。ぬぷぬぷ♡と抵抗なく入り込んでいく指へ無数の膣襞が纏わりつきぞわぞわ♡と撫でてきて、具合の良さをアピールせんと頑張っていた。
ここで気に入ってもらえればもっと違うモノをご馳走してもらえると期待した雌穴が浅ましくて···たまらなく淫靡に思える。
「はっ···♡ぅ···!♡ 待って···!今イッたから······!」
「知ってる」
中指を根元まで挿入すると、指の股と陰唇が触れ合った。陰唇の肉ビラは溶けそうなほど熱く、ここへ肉槍を突き入れたならどれだけ気持ちいい事だろうか。
挿入した指を膣内の臍側へ押し当てて、奥の方から手前へ指の腹でスイートスポットを探す。蜜に溢れる肉襞の感触は熱く、指先ですら心地良さを覚えるぐらいだ。
矢継ぎ早に身体へ流し込まれる快楽を逃そうと、悶えながら身体を
「ねぇ!♡······ズルいよ···ッ!♡♡゛」
ズルい。そうか、
おおよそ場所の予想はついた。柔らかく熱く解れた彼女の膣口へ二本目の指を差し向ける。中指と薬指。爪が立たないように進ませ根元まで。そして
にぢり♡
「ッッッ♡♡♡゛!!!」
ある所をタップすると、彼女は声を上げるまもなく
ここか······。
蜜を溢れさせる膣襞の、へそ側。Gスポットと呼ばれる女性が最大限に感じるとされる
柔らかい粘膜の内に硬い所がある。ぷっくり♡というのも違う、こりっ♡というのも違う、
ここを、指で掻き出すように手前へ押した。
「ッ♡…あ♡゛!?♡おッッ♡゛!おぐッ゛♡!!?そこ♡!だッ…!だめッッ♡♡!」
何度も何度も何度も何度も何度も。
柔肉の奥で、筋肉の張りを感じる程度に指を沈ませる。膣襞と愛液が撹拌され、粘っこい水音を伴った。子宮が欲しがっているからか、さらに白く濁った本気汁が膣口からこぷこぷ♡と溢れ出る。
滾々と湧く泉のように。ずっと俺の奥底にいる
じゅぷっ♡ニぢゅ♡ぐちゅ♡ぐちゅ♡ジュプ♡グチュぅ♡じゅぷぷ♡
何度も何度も何度も何度も何度も。
「まって!!んぃ♡!···あッ!はぁ♡!?······おねがッ···!!ホントに······!!」
じゅっこ♡じゅぽっ♡ジュプ♡ブチュ♡にぢゅ♡にぢッ♡グチュ♡グチュ♡
「でちゃっ···!!でちゃうから······!!!」
止めない。
俺は狡いから。
彼女の、必死に止めるよう懇願する顔に酷く興奮してしまったから。
このまま、塗り潰してしまいたいから。
「───あッ」
膣襞が総毛立ち、ぎゅむ♡ぎゅむ♡と押し出すように指が強かに締め付けられる。彼女の全身に力が篭もり、背筋は絶頂を逃がそうと必死に仰け反った。
塗り潰す。
全身を苛む熱に浮かされ、耐え忍ぶ膣内に追い打ちをかける。指を押し上げGスポットをタップし続けると、痙攣は全身へと波及してよりいっそう甲高い嬌声が放たれた。もう逃れられない膣イキ。
ぴんっ♡!
クリトリスを親指で
「ん♡♡!ん♡っ゛!ん゛っんん♡…んん゛んっっ゛~~~~~♡…♡♡…♡゛!♡゛♡♡♡゛…♡!♡゛……♡♡゛♡!」
プシィッッッ♡! ブシュッ♡!! ブシュシュッッッッ♡♡♡!!!
───決壊
キスで口を塞いだから、俺の頭の中へ飛び込んでくる彼女のイき声。膣イキとクリイキで同時に絶頂した身体を駆け巡った耐え難いほどの快楽電流が脳を貫き、焼かれた神経反射はバグってあらぬ返答を飛ばす。彼女の強い痙攣に併せ吐き出される、秘部から放物線を描くほどの
「あっ♡゛!!っあ゛ッ♡!?…あっっっ!!?あ…゛!お……っっっ!?っっイあ!あッ♡♡!!」
背筋の激しい反り、下腹部は波打ち、腹筋が何度もびきっびきっと浮かぶ。脚がびんっと伸びてはぎゅっと折りたたまれ、つま先は
とろぉ……♡
思っていたよりも激しくイッた彼女は盛大に潮を吹き、俺の手をグシャグシャに濡らしてしまった。膣内から引き抜いた2本の指にはベッタリと蜜が纏わりついて開けども糸を引いて繋がったまま。
虚ろな目をした彼女にその有り様を見せつける。
肩で息をして、汗ばんだ額に髪が貼り付き脱力しきった姿は腹の奥底から雄を呼び覚ますが、この先へ行くにはもう時間が遅すぎた。
時計の長針は12を指し、短針は2を指し示す。
時間は深夜26:00。
おしまいだ。これで、もう満足しただろう?
「よく、がんばったな」
「───」
後は彼女が眠りの世界へ旅立つのを待つのみ。余った男の性欲なんてもんは便器に吐き捨てりゃいい。
「······どこ、いくの?」
「シャワー浴びてくる」
「まだ、せっくす······して、ないよ?」
落ち着かない呼吸によって、途切れ途切れになりながらも、彼女は言の葉を紡ぐ。
「もうイッて満足しただろ」
「んーん······まだ···してないよ、してない」
────慰めて
口がそう言った。唇だけが、そう言った。
彼女は自ら脚を抱えると両手で秘裂を割広げ、俺の前へ紅く熟れた果肉を晒す。
息づく度にひくひく♡と、口を開けては閉じて
ぐちゅっ♡
亀頭で陰唇を割り、膣口が吸い付く熱い感触を感じながら少しずつ腰へ体重を乗せる。ゴム無し剥き身の粘膜接触。
ぬむむむむむむ♡♡♡♡
「き、た·······♡」
「·······ぐぅ、おッ!」
まず、亀頭が溶け落ちた。背筋を這い上がってくる灼熱感。酒が入っているからか彼女の体温は以前シた時よりも格段に熱く、愛撫によってとろとろ♡に煮込まれた膣襞がぬったりと肉槍を包み込んだ。
カリ首の鋭利な形状が引っ掛かることなく、肉槍はより深みへ飲み込まれていく。まるで鍵穴だ。それとそれがピッタリとハマるように作られた専用品であるような。
「入った······♡」
彼女の最奥まで侵入した。彼女の手は愛おしげにへその下を撫でる。
亀頭の先に吸い付かれるような感触が走り、スムーズに迎え入れたはずの肉襞は一転して粒立って、肉槍を引き抜こうものならカリ首から何から舐めしゃぶられ溶かされるだろう。
にゅるるるるる♡♡♡♡
「んぁ···♡♡♡♡」
ゆっくりと引き抜くと幾重にも折り重なった柔襞が擦れ、行かせまいと吸い付いてくる。それだけで腰が浮きそうなぐらいの灼熱感が下半身を駆け巡った。
「······うぁ」
泡立った蜜がべったりと付き、欲望が糸を引く。
たん♡……たん♡たん♡ぱちゅ♡ばちゅ♡ずりゅ♡バチュ♡ずちゅ♡
繋がりを感じたくて、わざと緩く腰を動かす。結合部からは粘ついた水音がたって彼女と繋がっている現実を知らしめた。膨らみすぎてじんじんと疼痛を発する肉槍を甘く抱き締める膣襞。それは漠然とした俺の不安を包み込むような抱擁で。
『別に、1回セックスしたぐらいでどういうワケでもないでしょ?』
以前、彼女に言われた事。セックスに夢を見ていてもいいことなんて無いと。あの時は彼女自身が酷く
今、どうなんだ。俺との関係をどうしたいんだ。女自身が慰めてと懇願している。あの1回のセックスが意味を持ってしまっている。こうして繋がりを持つに至った心情を。不健全な天秤の揺れる感情を。
恋人以上、友達未満の不透明な関係性。ただ知人であるだけの同僚と、されど互いの肉を貪る夫婦以上の曖昧な行為。
どうしたい?······どうなりたいんだよ、
ぱん♡!ぱん♡!パン♡!パチュッ♡!ばちゅっ♡!ずちゅっ♡!ばチュ♡!ばちゅ♡!
薄っすらと彼方から近づいてきた射精感を振り切る為の、我慢の強さに比例して腰の動きは自然と重く強くなっていく。肉と肉のぶつかる音は部屋中に響くまでになって、その度に女の身体が
「ああッ♡っあ♡ぁああ゛♡゛ぃあぁ···♡!ッあ···んあ゛!あ♡···あっ♡!あぁッ♡···ぁ゛あぁ゛♡···あぁ゛ッ♡!」
腰骨をぎしりと握った男の手に捕まっては、雄の狂暴性を一身に受ける他なく、女はただ嬌声をぶちまけるとこしかできない。眉根を寄せて潤んだ瞳······しかしその口元は喜悦に歪む。
なんでそんなトロ顔するんだ···!いつものお澄まし顔はどこいったんだよ······!
「いいッ、よ·····?
抱擁が強くなる。
腰から甘い痺れが伝播して足先の感覚が無くなっていく。
締め付けが強くなる。
手の先から輪郭が曖昧になっていく。
執着が強くなる。
体の芯から熱で溶けて蝋燭のように無くなっていく。
結び付きが強くなる。
奥底から這い寄ってきた射精感は、腰を振る事に夢中になった雄の自制心で押さえつけることは不可能なレベルに達す。
「······わたし、も···イく♡♡♡」
全てを突き刺した瞬間に、女の脚が、腰へ回される。
脊椎側に回された脚は腰を押さえつけ、逃がす気は無いとでも言うようにクロスして自身へ引き寄せた。
いくら雄の方が力強いといえど、射精我慢の限界を迎えてバカになった雄に跳ね除ける余力などなくて。
────!!!
睾丸から押し出された嚆矢の奔流が根元から先端まで全てを満たして、後から後から溢れ
「ぐ、あ───」
目の前が黒く染まり、頭の中はもはや射精の事しか考えられなくなっていた。肉襞と肉槍でみっちりと埋められた行き場のない膣内へ、どぷどぷ♡と塊のような精液を叩きつける。
「んっ···!あっ♡!すごっ···でてる······♡」
射精を止める手立てなんて無い。ただただ、睾丸がのたうち回り。裏筋が脈打って、何度も種が吐き出されるのを感じていた。
握られたように膨らまない肺。不規則に脈を刻む心臓。気だるさを引き摺った全身。肉槍の蠕動が治まってくると共に、全身から力が抜けていく。
全ての筋肉に虚脱感が付与されたかのように重くなった。
しおしおと力を失った肉槍は女の膣圧に負けて体外へと排出され、ぼとりとシーツにシミを垂らす。
女を下敷きにしてはならないと、辛うじて身を転がし呼吸器いっばいに空気を欲した。
部屋では、お互いの荒い呼吸だけが大気を震わせている。次第に身体を苛んだ熱が霧散していく。交わす言葉もなく、体力を使い果たした男と女の呼吸は沈むように静かになっていった。
起きたら、何かに抱きついていた。ほんのりと暖かく、少し硬く、少しの弾力もある。一体何なんだろうこれは。
瞼はまだ重い。
思考はまるではっきりしないし、頭は巨大な石を詰められたように気怠いし痛い。身体は何か激しい運動をした翌日のように軋む。おまけに湿ったシーツが肌に貼り付いて気持ちが悪く、股に関しては何かが固まったようでガビガビとしていた。
なんというか、セックスの後にシャワーを浴びなかったらこんな感じ········ん?
セックス?
どういう事?まさか、シた??
沈んだ様な記憶の残滓を漁るが、泥水が撹拌するようにはっきりとしない。確か、
そのあと······そうだ、失敗を引き摺らないようにと彼が食事へ誘ってくれたんだ。いつの間にか現場監督と仲良くなっていた彼がおすすめの店を聞いていたようで、少し古びているが風情のある餃子屋へ入った。とりあえず生を頼み······記憶があるのはそこまで。
この二日酔いの状態は相当深酒をしたのだろう。
そもそもあまり酔わない体質の私が、事前に二徹してたと言えど記憶を吹っ飛ばしているのだから······考えたら、どんな痴態を晒しているか心配になってきた。
ゆっくりと目を開ける。
知らない天井、知らない壁紙。そして全裸。本当に下着も何もつけていない一糸まとわぬものだった。シーツを
「う······、」
もぞもぞと身震いした彼の目もまた、うっすらと開いていく。
「··········」
「··········おはよ?」
目が合った。彼の薄ら眼はガバッと開かれ、シーツを捲ると現状を把握したらしく飛び起きた。
「ちょ」
「すまん」
開幕土下座。
「······えっと、シた?」
「シました。おもっくそ中に出しました。申し訳ございません」
やっぱり。ある種の確信があったがやはりシたらしい。そもそもこれだけ証拠が揃っているのだから言い訳も言い逃れもできないだろう。
「顔上げて?怒ってないし」
「いや···そういう訳にはだな······」
彼としてしまった事をまるで覚えてないのは残念だが、ある意味これはチャンスと言えるものだ。あっちを見たりこっちを見たり、彼の行動も不自然で壊れたロボットみたいで
「じゃあ、さ。こんど休みもらっていい?」
「もちろん休日返上で働かせていただきます」
「あはは、違う違う」
今ならいける。ちょっと卑怯な気もするけど、チャンスは見逃せない。
「一緒にお出かけしよ?」
女
酒でやらかした人
男
素でやらかした人
1/1にお話上げる予定でしたがご時世によりズラしました。許してヒヤシンス。