若いきつねと三十路のたぬき 作:負けた社畜
姉のギャル友と弟くん
姉にはいつも苦労させられた。幼い頃から傍若無人、唯我独尊、気随気儘、我儘放蕩、我田引水……姉を言葉で表すとすれば、挙げればキリがない言葉の羅列。何か気に食わなければ容赦なく口撃し、弟を足蹴にする。弟を召使いかなにかだと思ってる。実際に奴隷と発言した事もあった。
コンビニにパシらされたこと数知れず。学校でもパシらされたこと数知れず。下級生の教室にまで来るのはもう侵略者なんだよ。
お袋という抑止力は、仕事の都合上夜勤があるから帰ってこられない。親父も親父で出張過多と社畜の見本市。姉に甘かった親父にはゴロニャンして上手いこと小遣いを巻き上げ、遊び呆けて帰りもどんどん遅くなり。
中学生にして夜遊びし始め、世に言う不良少女街道をひた走るバカ女の一丁あがり。しかし、姉貴は顔面だけは整っているからか、はたまた外面は良かったからか社交的でよく友人とやらを連れて来た。何をやってもそつなくこなすし、勉強面も少し詰め込めばいとも簡単にクリアしやがる。
それでもお袋は怖いのか、夜勤の無い日は良い子を装って家にいる。そういう時、姉貴は決まって俺をパシらせるのだ。
姉貴というただ製造が二年早かっただけの女が、どうしてそこまで威張り散らかせるのか謎である。部活で頑張って結果を出そうとしていた。あの姉貴を見返してやると頑張った。ケガをして、全て棒に振ったが。
俺はといえば絶対に姉貴みたいになりたくないと反面教師にし、細々と生きていたら、陰キャボーイのできあがり。成績は中の下。運動は中途半端。結局、外面のいい姉貴に全ていくんだから、頑張っても無駄な事だった。
「おじゃま~」
そんな折り、姉貴は一人の友人を連れて来た。姉が友人を招くのは珍しい事ではない。高校生になって見事にギャル化した姉貴は入学時より仲良くなった『みー子』という女子とよくつるむようになった。
今日も玄関から聞こえたダウナーチックな声と姉貴のキャピキャピした声。俺はこの後の姉貴の行動を察す。予想通り姉貴の足音がして、ノックも無しに俺の部屋のドアが開いた。そこには仏頂面を隠しもせず、顎で外を指し人を使おうとする輩が一人。
「お前、コンビニで何かテキトーに買ってこいよ」
「自分で行けや」
「あ?」
ほら出た、実家で声が低い女、金は絶対に出さない、逆らうとすぐ機嫌が悪くなる。仮に何かを買ってきたとて気分じゃないとか言い出すクソムーブ。
「客が来てンだろ?」
「誰の来客だ?自分のだろうが。テメーでもてなせ」
来客が何だよ。だからって俺をパシりに使うのはおかしいだろうが。なんなら今の今まで自室でダラけてたんだから、いくらでも時間はあっただろ。
「あー、ほらほら喧嘩やめユッコも弟くんも。ホント仲良いんだから」
「「は!?」」
「そゆとこ~」
カラカラと笑う『みー子』。姉のギャル友よろしく日サロ通いらしい褐色肌。緩くウェーブした真っ金々の髪。ブラウスを着崩し、スカートは膝上何cmかも分からないほどに織り込んだThe黒ギャル。いやマジで学生?と疑いたくなるプロポーション。
「あれ、期間限定のスイーツ売ってたから。ユッコの好きなやつ、選びいこー?」
「チッ……ごめんねみー子ウチの陰キャが」
捨て台詞と舌打ちを放り投げ、ズカズカ足音を鳴らして階段を降りて行った姉貴に辟易し溜息を吐いた俺。みー子さんは姉貴を目で追って、苦笑いすると俺に手を立ててごめんとジェスチャーをする。
「騒がしくしてごめんね?」
「いや、そちらのせいじゃないんで」
全てはあのクソ姉貴が元凶なのだから、貴女が謝るのはおかしい。そう伝えるものの、みー子さんはそう思ってないようで、困ったような笑顔を俺に向けてきた。
「そういえば、ケガは大丈夫?」
「もう動けるぐらいには」
「そっか。あんま無理はしちゃいかんよ?」
みー子さんの一言が、なぜだかとても胸に沁みる。あのクソ姉貴とこんな天使がどうしてつるんでいるのだろうか。じゃ、と騒がしく過ぎ去って行った二人。一気に静かになった部屋に、俺はもう一度溜息をついて横になった……。そういや、なんでケガのこと知ってんだろうか。
それからみー子さんは、ちょくちょく遊びに来ては姉貴が居ない時に俺を構うようになっていく。姉貴が来るまでの間のただの暇つぶしだろう。それが俺の出した結論だった。
────何もかも、上手くいかない。親に成績についてとやかく言われた。進路希望に【その辺】と書いた事が親へ伝わったようだ。別に俺の進路なんてどうでもいいくせに。
俺にどうこう言う前に姉貴はどうなんだよ。姉貴は遊び放題していて、なんで俺はダメなんだ。なんで向こうは棚に上げて俺にはいちゃもんつけて来るんだ。部活辞めて時間があるなら勉強でもしろって、ダブスタも良いところだろう。
そんなやり取りをしてから学校へ行く。部活に打ち込むヤツらを横目に教室へ入る。何となく、座り、何となく、板書を写す。何となく食べ、何となく、頬杖をついた。いつの間にか放課になっていて今日一日がまるで、何事も無かったかのように終わった。
担任に呼び出され、進路希望を突き返される。『お前の姉ちゃんはちゃんとしてたぞ』『しっかり書いてこい』と言った男性教諭の顔をぶん殴りたくなった。実際、俺は手を握り込むところまでいってた。
けれども、ここは職員室。そんな事をしたら全てが終わる。俺は姉貴とは違うんだ。抑えろ、抑えろ。ひとつ頭を下げ、廊下に出る。無性に腹が立って何かを傷つけたい衝動に駆られた。そんな気持ちを抱えたままでは何を口走るか分からない。頼むから、家に居ないでくれよ。
願いが通じたのか、姉貴は家に居なかった。
……良かったと胸を撫で下ろす。これで何か言われようものなら、たぶん、殴りかかっていただろうから。
「お、弟くんおかえり」
「……姉貴は、どうしたんすか?」
「あー、なんか用事を忘れてたとか?ガンダで出てったよ」
「なんかあった?」
「え?」
「いや、なんかすっごい険っしい顔してるから」
この人はどうして他人の細かい機微に気づくのか。俺は家に帰ってきて、みー子さんが居ることを認識してから、努めて平静を保ってたはず。
「いや、特に」
「うそ。お姉さんが聞いたげるから、言ってみ?」
無性に腹が立って何かを傷つけたい衝動に駆られた。友人の弟なんかふつう気にしないだろう。姉貴からはどんな話をされてるかは知らないが、諸々陰キャだなんだと目の前で罵ってくれてるのだから、その扱いも知っているはずだ。そのうえでも俺に関わろうとするのか。この人は姉貴の友達で、でも底抜けに良い人らしい。
「……じゃあ、童貞卒業させてください」
自棄になって、そんな事を口にする。全てを壊したい。この関係性も壊したい。姉貴との関係を壊してやりたい。こんな事をぶちまける弟がいる姉の家になんか、誰が来たいと思うか。壊れちまえ。あの姉貴との関係も。
「……はー、マジか」
みー子さんは呆気にとられ、ぽかんとした顔で俺を見ていた。カラコンの入ってるであろう大きな瞳がジッと合わされ、首を傾げたまま固まっている。やがて再起動を果たしたみー子さんは目を閉じ、眉を八の字に寄せた。
「んー、嶺高に受かったらいいよ」
「は?」
今度は俺が呆気にとられる番だった。嶺高はこの地域どころか、この地方なら知らない人はいない全国区の進学校。『そこに行けたならいいよ』と、みー子さんは許可を出した。拒否されるだろう、普通。気持ち悪いだろう、そんなお願い。
自分から吹っかけたにも関わらず、カバンを取り落とし困惑する俺の腕を引っ張って、みー子さんは家のリビングへと歩を進める。何度も遊びに来ている彼女はもう家具の配置とかも覚えてしまっているらしかった。
そのままソファへと沈んだ彼女に腕を引っ張られ、俺は彼女の胸に抱き寄せられた。頭一つ分低い彼女の背丈では俺は覆い被さるような姿勢になってしまう。けれども豊かで甘い匂いのする胸元に頬が埋められ、柔らかな感触が溢れる。
「頑張ってるじゃん弟くん」
「なに、を」
「え?先にごほーびあげとこうと思って」
頭が優しく撫でられる。背中をとんとん、と叩かれる。
「ほらほら、ぜんぶ出しちゃいな」
暖かかった。温かかった。自然と涙が溢れ出る。このままでは、みー子さんのブラウスを濡らしてしまうから。離れようと力を込めた。けれども頭を抱き寄せる力が強くなり、みー子さんの心音が鼓膜に染み始める。
「あたしも兄貴いてさ。めっちゃ優秀で運動もできてマジで逆に何ができないの?みたいな」
その言葉には、ある種の諦観というか色々な物が混じって聞こえた。
「けど、他人の心を全然考えられない人で。しかも自分ができること皆できるって考えてんだよね。ふつーに無理だから」
「比べんなよ!って思わん?だから弟くんがユッコに色々言われてるの見ててさ。あー、たぶんそうなんだろうなって」
どこかで、聞いた事があるような話。彼女なりの慰めなのか、それとも同情か。ひとつ、言えるとすれば、俺の決壊した涙腺が止められないということだ。
頷いて頷いて、頷いて。彼女の柔肌に涙を落とす。情けないぐらいに声を上げて泣いた。壊してやろうとしたものに、逆に包み込まれ、俺のちっぽけな激情は綻び、解けて、溶け切っていく。
「だけど、あたしそんなに安くないから。だから弟くんが嶺高受かったら好きにしていいよ。約束」
それが俺とみー子さんのした約束。
やがて、俺は泣き疲れて眠ってしまったのか。次に目覚めた時はみー子さんの姿はなく、頭にはクッションが入れられブランケットが掛けてあった。
身を起こすといつの間にか帰ってきていたらしい姉貴が飯の支度をしていて。手伝わないと厄介なことになる!と飛び起きた俺に気づいたか、姉貴が目を向けた。
「みー子から伝言」
「え?」
「卒業まで毎日、腹筋背筋腕立てスクワット100回だって」
「え????」
────俺は必死に努力した。寝ても覚めても勉強した。他の生徒からしたらいきなりどうしたという感じだろうし、親からしても突然夢みたいな事を言い出して、荒唐無稽でおかしくなったんじゃないかと疑っていた。
その原動力というのが、嶺高に受かれば
そして毎日の腹筋背筋腕立てスクワット100回。これはなぜか姉貴にも強制され、お二方監督の元、確実にやらされた。たまに腕立て中に姉貴が上に乗ってきたり、鬼畜な事もされたっけ。
けど、何故かほんのり優しくなった姉貴と、相変わらず俺をダメにしようとしてくるみー子さん。あと親も本気度を察したようで、俺に口を出してくる事もなくなった。そんなこんなで月日は流れ……。
その甲斐あって、到底届かなかったはずの切符を手に入れたんだ。喜んださ。校舎の前に掲示された番号を指折り確認していって、俺の前辺りまで番号がしばらく飛んだ時は吐き気さえした。
俺の番号を見た時に信じられなくて、姉貴にぶっ叩いてもらった。両親にも見間違えないか確かめてもらって、ようやく実感が湧いてきて、気づけばみー子さんにも電話を掛けていた。
『え、嶺コー受かったマ!?すごいじゃん!』
電話の向こうでパチパチと手を叩く音が聞こえる。いつもより数段弾んだ声でみー子さんは喜んでくれていた。
『……じゃあ、約束通り童貞卒業させたげる』
その言葉に、俺は番号を見つけた時以上の雄叫びを上げたかもしれない。姉貴に再度引っ叩かれ、その場に撃沈した。
……あれから、みー子さんより1週間の
親父は仕事で地方へ。お袋は夜勤。姉貴は今日だけ家を空けると言って、夕方から出かけて行った。もしかして、俺がみー子さんにお願いしてる内容がバレてる……。
いや、姉貴とみー子さん友達なんだから話してる可能性は当然あるわけで。そんな事を失念していただなんて、浮かれすぎにも程があるぞ俺。姉貴に余計気を遣わせたとあっちゃ、あとが怖すぎる。
「よっす」
夜になって、みー子さんが来た。いつもと変わらないテンションで、対照的に俺は緊張で意味不明なぐらい心臓が早鐘を打っている。たぶん、変な汗もかいてるだろう。
みー子さんは厚手の白いロングニットワンピースに、黒のレザー調のニーハイブーツを合わせその上にモッズコートを合わせたいで立ちだった。
いつもはバッチリのネイルを外し、カラコンではなくスクエア型の大きめな黒縁メガネなのもまた新鮮だ。しかし、褐色肌と金髪で野暮な感じは全くなく、むしろ大人っぽさは増しているときた。
「い、いらっしゃいませ」
「なーにー緊張してんの?」
カラカラと笑ったみー子さんに胸を突っつかれ、「ヴ」みたいな声が出た。それでまたみー子さんは吹き出し、ニマニマしながら突っついてくる。誰か助けてくれ、この人強い。
「お風呂入ったん?」
「入りました。超入りました」
「超入ったってなに」
テンパりすぎて辛い。口から変な言葉が勝手に出てくる。
「ならさ、シャワー借りていい?」
「もう好きなだけいくらでもはい」
「緊張しすぎー。そんなんじゃもたないぞ少年」
バスタオルと姉貴専用のめちゃ高いシャンプー等を手渡して脱衣所を出た。シャンプー1本2000円とかイカれてる。勝手に使ったらバチ切れするだろうが、今はそれどころではない。
後ろから聞こえ始めたシャワーの水温がやけに響いて聞こえる。「部屋で待ってて」というみー子さんの言葉に従って、俺は自室に上がってベッドで待った。なんか無駄に正座した。長い。今まで生きてきていちばん長い。
来た……!
足音が階段を上がってくる。パタパタと鳴るスリッパ。親のものでもない、姉貴のものでもない、足音。それが俺の部屋のまえで止まり、コンコンと扉をノックしてくる。ちょっと控えめで、間を開けて二回。
「は、はい……」
「お待た」
扉を開けた先に居たのは、バスタオル1枚だけで身体を包み、髪をアップにしたみー子さんだった。衝撃的過ぎてその場でたっぷり5秒は固まってしまった俺。鼻血を噴いてない事が奇跡だと思う。
「寒いから入っていい?」
「え、あ、どうぞ」
綺麗な形の鎖骨だとか、華奢な肩のラインとか、ぎゅっと寄せ上げられた谷間がとんでもないコントラストを描き出し目に焼き付いて離れない。
彼女の胸元に巻かれた心許なさすぎる白いタオルとこんがりと焼けた褐色の肌の対比は凄まじく、清潔感を重視したが為に白のタオルを用意したけどもその選択を手放しで褒めてやりたかった。
上がとんでもないなら、下はもっととてつもない。バスタオルの裾はギリギリの境界をチラつかせ、どこを見ても致死量の興奮を引き起こす。
ぎゅっと上重心のヒップライン。そこからすらりと描いてもまだ足りない脚線の弧。それが股下ギリギリのギリで繰り広げられているのだから言葉が出ない。
「ごめん服置かせて」
みー子さんが着てきた服と、紫と黒の下着が綺麗に畳まれた状態で机の上に。つまり、バスタオルの下は完全なる素肌ということで……。
ズクンと鈍い痛みがする。どこから痛みがしたのか気づかないまま、浅い呼吸を繰り返す。
「あ、もしかして脱がせたかった?ごめーんどうせ脱ぐからと思ってそのまま来ちゃった」
「いや、それは次の楽しみに……タオル1枚もそれはそれで」
「え、次あるん?ウケる」
もう、この人ずっとニマニマして俺の事からかってくる。そしてこの後は、どう持っていけばいいのだろうか。僕がまごついてる間に、みー子さんは俺の手を取った。おかしいぐらいにスベスベとした指先の感触。しっとりとした肌ざわり。じわりと伝わってくるポカポカとした体温。
「ほら、ここからは君が脱がしていーよ?」
手が誘われた先には、バスタオルの結び目がある。指の1本でも引っ掛けて絡まりを解いたなら、その下にあるのはみー子さんの身体…………何も纏ってない生身の身体だ。ごくりと生唾を飲み込めば、想像以上に大きく喉が鳴る。
指が解いたのはタオルの結び目でもあり、彼女の身を包んでいた神秘のヴェールでもある。震えて力の入らない俺の手を見かねて、みー子さんは自らそのベールを開いてみせた。
「……っ」
言葉が出ない。
なんと形容したらいいのかも、少しも浮かばない。
目に飛び込んで来たのは、それほど彩やかな肌だった。肌には皺も染もなく、電灯の光をてらてらと照らし返す、少女から女性へと羽化していく瑞々しい身体。なだらかに滑っていく線はクビレも腰も尻も滑り落ちて、遂にはつま先までを描いてみせた。
「じゃーん、どお?」
言葉にならない。男を魅了して止まないふっくらと盛り上がった釣鐘形の胸。たぶん、並外れて大きいわけではない。けれども薄桃色した先端はぷっくりとしていて、縫い付けられたように目が離せないしっかりとある膨らみ。
「おーいガン見してないでなんか言え?」
言葉にできない。
女性が、しかも姉の友達のみー子さんが、俺の目の前で素肌を晒している。その倒錯的なシチュエーションにクラクラした。それによく映える金髪だとか、アホみたいに長いまつ毛とか、ふるりと艷めく唇だとか、今にも触れてしまいたいし、このまま眺めてもいたい。
「…………き、綺麗です……みー子さん」
「ありがと。おっぱい揉む?」
「いいんですか……?」
「いいよいいよ。というか、今からスるんだから遠慮しないで触っとき」
自分でも焦れったいほどの時間をかけて、五指はみー子さんの胸へと触れた。途端に沈み込み、包み込まれ、押し返され、溢れ返る。
柔らかいとか、弾力があるとか、手触りが凄まじくいいとか、感想はいくらでもある。けれども、その全てを用いてもこの感触を、この衝撃を言い表すには全く不十分だ。
正面から沈ませ、側面から歪ませ、下面から上向かせ。欲望のままに手を動かせば、形を変え応えてくれるみー子さんのおっぱいに一瞬で魅了されてしまった俺。何を言うでもなく、夢中で揉んでいたと思う。
「えー、めっちゃ揉むじゃん」
からかいの色を多分に含んだ声音に、我に返った。一体どのくらい触っていたのか、俺の体温が移りすっかりまろやかになった胸の中心に粒立った感触がある。たぶんそれは乳首と呼ばれるもので。
「口が寂しーなー?」
突如として、みー子さんはぶっ込む。
待って欲しい。今何かを要求されても、頭がおっぱいに支配された俺に他の何かをする余裕は全く無い。どうしようと混乱の果て、みー子さんの腰を抱き寄せ艶やかな唇にキスを落とす。ただただ唇を触れさせるだけのキスだ。
「えっち」
え、この人のHなことの基準ってどこにあるんだ。
「腰抱いてくるとことか、お腹にぐりぐり押し付けてくるところとか」
顔に出てたのか、それとも口から溢れてしまったのか。俺の浅はかな考えなんて見透かしたようにみー子さんは答える。そして、今度は軽々と俺の予想を超えてきた。
「もっとエロいキスしよーよ。ベロちゅー」
いっそ熔けた蜜蝋のように、みー子さんの両腕が首に絡みつく。全身に密着する素肌。じわじわと乗り移ってくる体温。それはじっとりとした発汗を促す熱で。
「ほーら、舌出して?」
シようよ、
みー子さんは声に出さず、唇だけがその言葉を象る。おそるおそる口を開いて、舌を突き出そうとしたその瞬間。首に回されていた手が首筋を押さえ、みー子さんの顔が目の前にあった。
『何が起こったのか』そう脳が思考を始める前に、頭の中いっぱいに粘着質な音が響いた。舌が、舌を絡め取ったんだと気づいた時には、俺の舌はみー子さんの口内に吸い上げられ、みー子さんの舌は俺の口内を蹂躙していた。蹂躙という言葉がおそらくいちばん近い。
巻き取られる自我。薄らぼやけていく思考。歯や頬の裏にまで舌が蔦い、とろみのある甘露が流し込まれる。じわりとした痺れのような熱が身体へと回っていく。
みー子さんの舌との間にだらりと唾液の橋が繋がるまで互いの熱を混ぜ合わせていたから。彼女の顔が離れて行ってようやく、息苦しさを思い出した。
「ベロチューどお?」
「…………頭ん中ぐちゃぐちゃなりました」
「しょー?」
あまりにも、キャパオーバーに過ぎる。
真っ白になった頭の中に良い答えなぞ浮かぶはずもなく。ケラケラと笑い声を転がすみー子さんの笑顔が瞼に焼き付くのみ。その笑顔が艶めかしいものに変わり、ぺろりと舌なめずりをする赤い舌の軌跡が記憶を塗り潰していく。
「う、ぐッ……!」
「おー、ちゃんと勃ってんね」
亀頭の腫れ具合を確かめるように、みー子さんの指がズボン越しを這う。たったのそれだけでも、痺れるような鋭い電流が腰から背を貫いた。1週間溜め込んだものがそれだけで噴いて出そうだったが、会陰に力を入れ必死に堪える。よくぞ耐え抜いたと自分を手放しに褒めてやりたい。
「苦しそうだね、少年」
止めてくれ。手のひらで包み込んで根元からなぞり上げるのは。
思わずびくりと腰を引き何とも情けない格好になった俺を、みー子さんがニヤニヤと見つめる。
「へへ、ごめんごめん。敏感だったね?」
みー子さんは表情を変えず、そのままゆっくりと目の前で膝をつき短パンの腰部に手をかけ脱がす。少しだけ股間に解放感を感じて、次いでどうしようもない羞恥心が湧き上がってきた。パンツの前側がどうしようもなくこんもりと盛り上がって、みー子さん目の前にある。
テントを張るだなんてアホみたいな表現がぴったりと当てはまるだろう。姉に言われて用意したボクサータイプの下着は、俺のモノの形をありあり浮き上がらせていた。それが早鐘を打つ心臓とリンクして、生き物のようにビクンビクンと蠢く。
「可愛いパンツはいてんね」
「き、恐縮です」
「固すぎて草。リラックスしてけ~?」
こっちは硬くていいんだけど、なんて言いながらみー子さんの手が内ももを撫でる。それだけでゾクゾクとして、ゾワゾワして、フワフワとした得も言えぬ感覚が這い上がって来た。
短パンと同じように、みー子さんはパンツに手を掛け下ろそうとする。しかし、あまりに反り返ったブツが引っかかり、抵抗を強めていく。そこまで強情にならなくても……と自分でも呆れるぐらいの勃起を重ねがけした肉槍は、ついにバネ仕掛けの如く跳ね上がりゴムと勃起の闘争に決着がついた。
「おぉー、エグ……。チンコってここまでパキるんだ。ぶるんってなったよぶるんって 」
みー子さんの眼前に飛び出したものは、自分でも見た事がないぐらいに肥大化し赤黒く変色していて、あまりにも余裕なくビクビクと脈打つ。今にも弾け飛びそうだ。
「うんうん、ぱっつぱつで重ッた。ちゃんと溜めてきて偉いぞー?」
睾丸の張り具合を確かめるように、指先が玉袋をたぷたぷと弄ぶ。そんな事をすればこの1週間溜め込んだ中身が更にぐつぐつと煮詰まってしまう。現に腰奥からはズクズクと痛みにも似た疼きが伴い出した。
頭を出しかけている亀頭を、トントンとタップするみー子さんの指。それだけでも狂う寸前に気持ちよく、ともすればぶちまけていたかもしれない。頭の中ではピーッと蒸気を吹くヤカンなんてものを想起してしまうほど、俺には余裕が無くなっていた。
「剥いて大人ちんちんにしちゃおっか♡」
唾液をたっぷりと纏った舌が鈴口へと触れた。生暖かでザラついた感触は亀頭の輪郭を沿って進み、皮の合間へと潜り込む。舌は赤い身を波打たせ、少しずつ皮を剥き下ろしていった。ぴりぴりと弱い電流を当てられている時に似た痺れが全身を包む。
終いにはぷっくりとした唇が被さり、止める間もなく根元までがみー子さんに飲み込まれた。彼女の指先が根元の皮を引き下ろすと、亀頭の感覚が変わる。気づいた時には肉槍は生暖かな粘膜に浸り、凝り固まった自己嫌悪と劣等感が次第に溶かされていく。
「うぁ……」
「かんせ~い」
ちゅぽんと音を立て唇を外されると、彼女の後押しですっかり自信をつけて様変わりした肉槍が青筋を立てて威張り散らし、カリ傘を開いてそびえ立っていた。それが意図せず見せ槍のようになり、自らのモノと彼女の顔の対比がより優越感を煽り立ててくる。
押さえつけられていた何かが取り払われ、隅々まで血の巡る興奮と共に絶頂感がこみ上げてきてしまった。あやうく暴発といったところで何とか堪えるが、とても我慢できそうになかった。
「す、すみません俺もう射精そうで……!」
「あちゃ、気合い入れすぎちゃったか」
びこんびこん別の生き物のように跳ねる肉槍の先端からは雫が滲み、今にも奔流が全てを押し流しそうだ。
「どぉする?1回
「射精したいです……」
「おっけー」
みー子さんはウインクすると、再び肉槍に唇を被せて飲み込んでいく。肉槍はぬるぬるとした唾液をたっぷりと
「んん……!」
たったそれだけで、俺の我慢は破綻した。
腰奥で起こった爆発がどくどくと会陰を脈打たせ、尿道を破裂させんばかりに多量の精液を送り出す。心臓が握られたように呼吸ができず、目の前が明滅した。ずっと続く。ずっとずっと射精が続く。
みー子さんが喉を鳴らしながら懸命に飲み下して、ようやく。
「……っぷぁ!めっちゃ濃いじゃん」
渋い表情のみー子さんに水を渡すと、勢いよく呷る。確かに自分でも驚くほど射精が続いた。全て彼女の胃に納められてしまったので分からないが、何度も喉を鳴らしていたからよっぽどの量だったのだと思う。
「射精しすぎだし。ちゃんと勃つん~?」
一息ついてこちらを
射精したにも関わらず肉槍はまるで萎える様子は無くて、むしろより激しく狂ったように脈打ち、みっちりと血管を浮き上がらせていた。
それを見て一瞬目を丸くした彼女だが、猫のように目を細め、いっそうニマニマと
「ビンビンじゃん、やっば」
硬さを確かめるみー子さんの指はまったく沈まず、デコボコした幹は刀身が如く反り女を求めて威嚇を続ける。彼女のリアクションで満たされる青い自尊心と黒い肯定感。
……気をつけないと、溺れそうだ。
「じゃー、しよっか。電気暗くできる?」
そう言ってみー子さんは先にベッドへ横になる。流れる髪。シーツを撫でる指先。普段使っている寝床が、まるで知らないものであるような錯覚。
「んーふふ、おとーとくんの匂いする」
反則だろそんなの。
掛け布団で口元を隠して、そういう事を不意に言うのは本当に反則だからやめて欲しい。ばくばくと早鐘を打つ心臓がいつかもたなくなりそうで仕方なくなるから。俺は緊張している自分を隠したくて急ぎ蛍光灯を消した。
ベッドルームをナツメ球の橙色の微かな灯りが照らす。みー子さんの肌は薄らと浮かび上がり、そのキメ細かさを主張した。触れれば柔く沈み、かと思えば押し返してくるハリ。全身がどこもかしこもそうで、しっとりとした感触は当分指に残るだろう。
みー子さんはゆっくりと脚を開き、指で自らの秘裂を晒してみせた。薄桃色の粘膜に伸びる糸がてらてらと光り、その奥の膣口はひくひくと蠢く。今からここに……俺のモノが入るのか。
「挿入れるトコ、分かる?」
「すみません分からないです……」
「しょーがないなぁ、もうちょっとこっちおいで?」
膝立ちでベッドの上を這い、みー子さんに覆い被さるような姿勢になる。正常位と言うやつだ。
「あ、あの前戯は?」
「さっきフェラしてるとき、自分で軽くオナっといたから大丈夫」
「ゴ、ゴムを」
「今日は大丈夫な日だからナマでいーよ」
そう言って彼女は肉槍に手を添え、鈴口と膣口を触れ合わせた。静かな部屋にくちゅりと粘っこい水温が転がり、先端に熱い媚肉の感触がする。
「……このまま腰を前に突き出して」
言われるがまま腰に力を込める。亀頭に強かな抵抗を感じた後、粘膜が混ざりあっていく。ずぷりと肉を割開き、余すところなく包み込まれるカリ首。トロみのある汁が肉と肉の摩擦を包んで、肉槍は緩やかにみー子さんの膣内へ沈んでいく。
熱い。
熱い。
ただひたすらに、熱い。
みー子さんの膣内は熱く、肉付きがいい。幾重にも折り重なった膣襞が柔らかく包み込んだかと思えば、容赦なく肉槍を舐めしゃぶる。それでいて、ねばっこい愛液が膣内をコーティングして潤滑し、強い締め付けを心地よく緩和して極上の搾精器に変えていた。
そんなものにみっちり満たされた膣内に肉槍を進めていくのだがら、経験値の全くないチンポが耐えられるはずがなかった。まるで肉襞にまとわりつかれた先端から溶け落ちていくようだ。
「ほら、根元までがんばれ~?」
さっきフェラチオで盛大にぶちまけた後だというのに、絶頂は想像よりもずっと近くにいる。独特の浮遊感。脳を灼く全能感。この女をどうにかしたいという本能。
「………みー子さん!手、手握っても良いですか……!?」
「手?いいよ~?」
ヒクヒクと勝手にわななく会陰。ぎゅるぎゅると精管を上ってくる塊。油の切れた機械のように軋む腰。余裕なくみー子さんの指に指を絡めて縋り付き、残りを沈めようとする。
けれどももう、ダメだった。立ち往生した肉槍は二進も三進もいかず、どうにかする余裕もない。裏筋が波打ち、亀頭が膨らみ、俺は歯噛みした。
「えい」
突然ぐい、と腰がみー子さんの足に抱き寄せられた。あと半分ほどだった肉槍の全てが彼女の粘膜に沈み、膣襞に揉み込まれる。
「あ、あ、あ、」
何が、起きたの、か。理解る、前に、ぱちんと、脳は、頭は、体は、白んだ。
ちんぽが、何かを、放出する。どくどくと脈打つ度に、放出す
る。みー子さんの中で、放出する。
「卒業おめでと♡」
耳元で声がする。射精する。きもちいい。射精。みー子さんの中で。
「ちょー出たじゃん。あたしのおまんこそんな良かった?」
「ヤバいです………」
「そっかーヤバいかー♡」
挿入しただけで、俺は射精した。ブッ飛んだんじゃないかと思うぐらいに何も考えられなくなって、心臓が掴まれたように呼吸ができなくて、情けなく彼女に手伝ってもらって。
繋がっていたい。このままみー子さんと。
もう一度、繋がりたい。みー子さんと。
「お?」
呼応するように、肉槍の血が巡る。新しく弾を装填するが如くビキビキと硬度を取り戻していく。みー子さんの中を埋め尽くす。もっと奥深くまで彼女を知りたいから。彼女を満足させたいから。
「もう一度して、良いですか」
「ええよ?なんならオールでもおけ」
「本当に良いんですか?たぶん、寝かせないですよ?」
「言うねー!童貞…は元か。初心者にヤられるほどやわぢゃねーし」
「まさか……マジで朝までスるヤツいる…………?」
「すみません……」
カーテンの隙間から射し込む光が酷く目に刺さる。先程まで俺のモノを飲み込んでいた膣口はぽっかりと開き、夥しい量の精液でむせ返っていた。ぱくぱくと開閉するたびに『ぶびゅっ』という空気と粘液その他諸々の入り交じった白濁液が後垂れる。
「あ゙ー腰痛った……汗くっさ……子宮おっも……」
朝まで繋がり続けた俺とみー子さんの惨状は、説明すらできそうにない。身体にのしかかる疲労感は無視できず、眠気によって思考回路すら停止していた。
「あー無理、もう寝る。おとーとくんも一緒に寝よ」
寝ます。俺も、もう……限界。
「おやすみ……あと、次はこんな溜めちゃダメだよ」