発情期があるタイプのTS幼馴染の性欲を独占したい 作:しじままどせ
――やばい、朝起きたら女の子になってた。どうしよう?
幼馴染で親友の
僕は寝ぼけたまま自室のベッドの中でそのメッセージを見た。絵文字も何もないシンプルなメッセージだった。
『また理生が変なことを言っているな』と僕は思った。だって理生は男だ。
けれど、なんだかんだで僕たちは三歳からの長い付き合いだ。冗談を言うことはあったとしても、理生はこんな風に意味不明なメッセージを寄越してくることは滅多にない。
だからもしかして理生に本当に何かあったのではないかと心配になった。
――本当なんだってば。ほら。
しゅぽん、とまたメッセージが届いた。
そこには画像が添付されていた。
彼シャツみたいにブカブカのTシャツを着た女の子の写真だった。
ふんわりとした栗色の髪を肩口まで伸ばしている。整った目鼻立ち。柔らかそうな唇。眠そうに半開きになっている瞳は赤みがかった茶色をしていた。
肌の色艶もいいし、写真越しでもわかるくらいスタイルがいい。まるでモデルさんみたいな美少女だった。
彼女は恥ずかしそうに頬を染めながらカメラに向かって微笑んでいる。いや、困惑したまま苦笑いを浮かべていると言った方が正しいかもしれない。
「……誰?」
まったく見たことのない子だった。
いや、言われてみれば確かに顔の造形自体は理生の面影というか、理生の姉には似ていないけれど、親戚の子とかそういう感じの雰囲気があるような気がしないでもない。
強いて言うなら理生に似ている。
けれど、性別が女の子だ。
理生に限りなく似た、しかし性別が明らかにちがう子。
――これ、おれ。
またシンプルなメッセージが追加で送られてきた。
「……」
一瞬だけ思考が停止した。
えっと……つまりどういうことだろう? 理生はこの謎の美少女ちゃんが自分の姿だと僕に伝えようとしているのか? いやいや、さすがにそれはあり得ないだろ。
だってこの子はどこから見ても女の子じゃないか。
男であるはずの理生とは似ているけれど、似つかない。
──しんじて。
さらに追撃が来た。焦っているのかシンプルな文面。
いや、朝起きたら女の子のなっている病気、いわゆるTS病っていうのがあるということは知っている。約一万人にひとりが罹患する、一夜にして性別が変わってしまって、二度と戻れない病気。
TS病に罹患したということ?
いや、釣りでは?
自分の画像を女の子っぽく加工するアプリを使って作った偽物の画像では?
「…………」
僕は無言で通話ボタンを押した。
すると、コールが一回鳴り止む前に理生は出た。
――もしもし、おれだけど……。どうしよう、京介、おれ女の子になってしまった。
「――っはあ!?」
その声は、間違いなく女の子のものだった。鈴の鳴るような、聞き覚えのない、清く澄んだ女の子の綺麗な声だった。
でもその口調、イントネーション、そして何よりその呼び方は理生のものだ。
「……マジ? 冗談じゃなくて本当に理生?」
――マジ、マジだって。朝起きたらこうなってた。もうどうしたらいいかわかんなくて、おれ……。
「誰かに相談したか? ご両親とか、お姉さんは?」
──父と母は海外出張中。ねーさんは大学に行ってる。というか誰にも相談できないよこんなの!
「それもそうか」
焦った様子の理生に相づちを打ちつつ考える。
どうしたものか。
とりあえず、病院だろうか。声を聞く限り元気そうだから救急車は不要そうだ。
──ど、どうしよう。このままずっと女のままなんてやだよう。
電話の向こう側で、泣きそうな声で理生が言った。
それはそうだろう。
一夜にして性別が変わってしまって、しかも一生女の子のままで生きていかないといけないとなると、不安にならないはずがない。
僕がなんとかしなければ。
だって僕は理生の幼馴染で、友達で、親友なのだから。
「今から行く。待ってて」
短く僕はそう言って、電話を切ると、ベッドから出て着替え始めた。
ぐらぐらと混乱する頭をどうにか落ち着かせて、僕は家を出た。
──ありがと、助かる。
そんなメッセージが届いたのは家を飛び出してからすぐのことだった。
で。
五秒で理生の家に着いた。お隣さんだから。理生と僕は三歳の頃からお隣さんだ。
インターフォンを押してしばらく待つと、鍵が開く音が聞こえた。同時に奥から、
「……どうぞ」
と、声が聞こえた。
やはり鈴の鳴るような可愛らしい声だ。清らかな水の流れのように涼やかな音。
でもやっぱりそこに込められた感情は不安そうだ。
ドアを開けて押し入る。
「――ッッ」
絶句した。
そこには画像で送られてきた女の子と同じ顔をした美少女が立っていたからだ。
ふんわりとした栗毛の髪、潤んだ大きな瞳、小さな鼻と唇。ブカブカの白いTシャツ。それをこんもりと押し上げる胸。
そして、なぜか、下を履いていない。
ふともも。滑らかなふくらはぎ。白く細い脚線美。
「理生……、なのか……?」
「……うん」
彼女は恥ずかしそうに頬を染め、不安げな瞳をくらくらと揺らして僕を見上げていた。
ところでこのとき僕は知らなかった。