発情期があるタイプのTS幼馴染の性欲を独占したい 作:しじままどせ
僕が理生に絆創膏を貼ってやってから約五分後に、理生はトイレから出てきた。
トイレットペーパーを回す音がしていたから、濡れた部分を拭いていたのかもしれない。
そのときの理生はまだ顔が火照っていて、瞳を潤ませていて、そしてどこかぼんやりとしていた。
彼女がこんな状態になっているのは、言うまでもなく僕のせいだ。
理生はトイレの壁にもたれた僕を見つけると、一瞬驚いたような顔になったあとで、すぐにバツの悪そうな顔に変わった。
「……京介」
「うん、お疲れ。大丈夫か?」
「乳首がジンジンする。熱くて痺れてる」
「……ごめん」
「ほんとだよ。ばか」
理生は唇を尖らせた。
その表情にはいつもの理生らしさが戻っているように見えた。いや、無理をしている。たぶん僕への不信や不満や、そういう感情を押し殺しているんだろうなと思うと心苦しい。
でも、理生自身にも罪悪感があるらしい。無自覚に僕を誘惑してしまったことに。だから、彼女もまた苦しんでいるんだろう。
「……ごめん、京介。さすがに『乳首に絆創膏を貼って』は、いくらなんでも頭おかしかった。着替えを見ていてもらったのも、そう。甘えていた」
「まあ……、そうだな」
「もしおれが逆の立場……、女の子の乳首に絆創膏を貼る側だったら同じように暴走してたかも……、って思うと、京介の気持ちが分かるし、その……」
「……ああ」
「ちょっと、いろいろ混乱してて……。本当に、ごめん」
理生は本当に申し訳なさそうに言う。
きっと僕も似たような顔をしているだろう。
「……僕の方こそ、ちょっと調子に乗りすぎた。本当に悪い」
「いいんだよ、気にしなくて」
「理生がいいなら、いいんだけど」
「じゃあ、これで終わり。お互い謝ったし、仲直りってことで」
「ああ、分かった」
「ん」
そうして僕たちは公園の男子トイレを出て、ふたたび近所の病院へと向かって歩き出した。
その間、僕と理生の間に会話はなかった。
僕は理生に対してどのように接すればいいのか分からなかったし、理生の方も僕との距離を測りかねているようだった。
いつもよりももう一歩多く間を開けて歩く理生は、やっぱりどこかぎこちない表情をしていた。
◇◇◇
そうしてそれから僕たちはまたしばらく黙り込んでいた。
なんだかぎくしゃくとした雰囲気だ。お互いに意識してしまうとうまく話せなくなる。
そんな空気のなかを歩いていくうちに、やがて目的地である理生のかかりつけの内科クリニックが見えてきた。
「ここだな」
「……うん」
中に入って、診察券を出したり保険証を見せたりしている理生を待つ。
ここから先は僕は単なる付き添いだ。理生の姉の美緒さんが到着するまでの待ち時間になる。
やがて理生は待合室で座る僕の隣にちょこんと腰掛けた。女体化してしまって小柄な美少女になってしまった理生は、隣に並ぶとものすごく小さく見えた。
「おれ、大丈夫かな」
「…………」
なんとも言えない。おそらくTS病だろうけれど、いきなり性別が変わってしまった子にかける言葉を僕は持ち合わせていない。
うつむき加減で目を伏せている理生の横顔を見ていると、どうしても彼女の胸元に目が行ってしまう。
先ほどトイレの中で見た理生の白い乳房がフラッシュバックしてくる。柔らかかった。温かかった。それにいい匂いがした。思い出すと胸がドキドキしてきた。
僕は理生とどうなりたいと思っているんだろうか。
なぜ、あんなにも発情して理生をいじめてしまったんだろうか。自分でもよく分からない。僕はいつも理生を守りたいと思っていたはずなのに。
――林堂理生さん、中待合でお待ちください。
やがて、診察室の中から理生を呼ぶ声が聞こえた。
「はい」
理生は立ち上がって、ゆっくりとした足取りで診察室のほうに向かっていった。
その背中はいつもより弱々しくて、頼りなく見えた。
「…………」
そうしてそれからこの後、僕は理生から彼女の病状についてこんな話を聞かされることになる。
ひとつ、理生は遺伝性のTS病に罹患して美少女になってしまった。理生の体は完全に女性のそれとして機能していて、妊娠も出産も可能であるということ。
ふたつ、逆に男性に戻れる可能性は限りなくゼロに近いということ。しかし、TS病を誰かにうつす可能性もまた限りなくゼロであるということ。
みっつ、性別が変わってしまったこと以外は理生は健康そのものなので、今後どのような治療方針を取るのかは主治医と理生の間で相談して決めていくこと。
そして、よっつ目。
これが一番重要だけれど、理生が罹患したタイプのTS病は、一ヶ月に一回、必ず発情期が訪れるらしい。つまり、性行為がしたくてしたくてたまらなくなる期間が、毎月やって来るということだ。
そして、その発情ホルモンは周囲の人間にも影響を及ぼす。すなわち理生を抱きたくて抱きたくてたまらない気分になってしまうのだ。
おそらく、僕が先ほど発情したのもその一端で。僕以外の人間も理生は発情させてしまう可能性が高くて。
そう。
理生はこれから、そんな状態のまま生きていかなければならないのだ。妊娠でもしないかぎりにおいては。
だからこれは、この物語は、
無自覚に周囲を発情させて、自分も発情期があるタイプの美少女になってしまった理生と、
そんな彼女に狂わされて性行為がしたいと思ってしまう人間たちと、
そんな連中から幼馴染を守りたい僕の物語なのだ。