発情期があるタイプのTS幼馴染の性欲を独占したい 作:しじままどせ
「林堂さん、つまるところあなたは月に一度必ず発情期があるタイプの女性になってしまいました。この病気の治療法は今のところ見つかっていませんが、定期的に薬を投与することで発情を抑えたり、あるいは発情期間の長さをある程度コントロールすることはできます」
「はい」
「ただ、あなたの場合、すでに性欲が強い体質に変異している可能性があります。そして、周囲の人間もそれに誘惑される可能性があります。そのことが問題を引き起こすかもしれません」
「……どういうことでしょう」
「簡単に言えば、あなたの性的欲求を発散させるパートナーが必要だ、ということです。ですが、それは誰彼構わずにセックスしてもいいということではないので注意してくださいね。まずはご家族の同意を得てから、きちんと避妊をした上で、相手は慎重に選んでください」
「…………」
「TS病によって心の内で
「……はい」
そうして医師がTS病について解説をしてくれるのを、林堂理生は半ばうわの空で聞いていた。自分がいままで知らなかった事実がどんどん明らかになっていく。
(……やっぱり、おれは女になったのか)
理生は改めて自分の体を眺めた。
華奢で細い腕。小さい手。柔らかな肌。胸元は膨らんでいて、股間には男の象徴はない。
下腹部の奥には子宮と卵巣と膣が存在を主張している。女性器がある。
それは先ほど検査もされたので間違いない。
いままでずっと男の子として育ってきた。
いままでずっと男の体だった。
それが突然、女の体になった。
しかも、その肉体は月イチのペースで発情するというおまけつきだ。
(……性欲を解消するパートナーを探せって言っても、おれ、どうしたら……)
(……京介?)
(いやいやいや、ないよ、それはない。だって京介は男で! おれは、おれは……、)
(おれは、おれの体は……)
理生は自分の体のことを考えると頭がおかしくなりそうだった。
現に、今だって、腹の奥では炙られるような性感がくすぶって、じんわりと甘い疼きをもたらしている。
先ほどトイレで京介に乳首をいじられたときも、恥ずかしくて悔しくて、その気持ちとは裏腹に感じてしまっていた。
京介の指が乳首に触れるたびに、背筋を駆け抜けるような快感が走った。
その感覚を思い出しただけで、下半身が熱くなる。
ペニスではなく、もっと内側に位置する部分。おそらく膣とか子宮など女性器に分類される器官がある場所だ。そこがきゅんきゅんとうずくのだ。まるで何かを求めているかのように。
(なんなんだよ、これ……)
自分の中にある未知の感情が恐ろしくて、理生は泣きそうになった。
京介の前で醜態を晒してしまったこともそうだ。
幼馴染で親友の京介は冷静な男で、性的な興奮を覚えてもそれを表に出さないタイプだ。我慢強くて、クールで、かっこいいやつで。
だからこそ、理生は彼を信頼していたし、一緒にいると安心できた。
だが、さっきの京介は違った。
理性を失って、本能の赴くままに行動し、暴走し、欲望をぶつけてきた。
それはもちろん、理生が無自覚に誘惑をしてしまっているせいでもあるのだろうが、それに加えて、普段の京介からは想像できないような言動だった。
あのときの彼は、まさに雄の獣だった。
そして、理生もまた、そんな彼のことを見つめているうちに、恐ろしいことに、自分の中でメスの衝動が昂ぶっていってしまった。
(でも、京介、レイプはしなかったな……。勃起していたくせに。おれのこと犯そうとしていたくせに。結局最後まではしてこないんだもんな……。変なところで紳士的っていうかさあ……)
理生はそう思うと、なんだか腹立たしいような申し訳ないような気持ちになってきて、思わずため息をついた。
(京介……、はぁ……)
そんな理生の様子を不思議そうに見ながら、医者は言う。
「まあ、とにかく。林堂さん、あなたの人生はこれからも変わり続けると思います。その変化を受け止めて、自分自身と向き合っていきましょう」
「……はい」
「あと、こちらのパンフレットをお渡ししておきます。もしよろしかったらお読み下さい」
「ありがとうございます」
「では、お大事に」
「失礼します」
理生はぺこりと頭を下げて診察室を出た。
歩くたびに胸がゆさっ、と揺れる。絆創膏があるので乳首が擦れることはないのだが、そこに胸があることを一歩ごとに意識させられる。
骨盤が広がって、股関節の位置もずれて変わってしまったのか、内股になってしまっている。歩くのが安定しない。そもそも足が短くなったので、一歩で進める距離も短い。
ふと視線を感じて顔を上げると、待合室にいた人たちの何人かが、理生のほうを見て頬を赤らめていた。
どう見ても欲情した目だ。
理生はぞっとした。
(ああ、そっか。おれ、女になったから、そういう目で見られるのか。なんか、いやだな、そういうの)
理生は待合室の隅っこにいる京介の姿を見つけ、そちらに向かって歩いていく。
彼は理生の姿を見つけると、すぐに立ち上がって、なんとも言いづらそうな顔で口をもごもごさせていたが、やがて穏やかな笑みを浮かべた。明るく振る舞うことを決めたようだ。
少なくとも今は性的な眼差しを向けてきてはいない。
理生は安心して、この幼馴染の隣にとす、と腰掛ける。
「ええと、理生、どうだった?」
「TS病だって。別に健康を害する病気じゃないけど、治らない病気らしいよ。あと、発情期があるって」
不安を覆い隠すためになるべく明るい声色で話してみる。
その声は、意図せずも鈴が鳴るように可憐で、少女のような高いトーンになっていた。
ああ、おれ、普通に喋ると女なんだ、と理生は思う。けれども、努めて理生は明るい声を出そうとする。
「そ、そっか」
「とりあえずTS病のことをねーちゃんに報告しないと」
「……だな」
(こうやって話してみると、京介はいつもの京介だな……)
「――あ」
その時、どうにかこうにかふたりが明るく振る舞おうとしているところに、クリニックのドアが開いてひとりの女性が入ってきた。
その女性は小柄ながら姿勢がとてもよく、さらりとした黒髪を腰まで伸ばしていて、ぱっちりした勝ち気そうな瞳が印象的な美人だった。
道を歩けば全員が振り返るような、超絶美人。
現に待合室の視線は彼女に一極集中している。
「……あ、ねーちゃん」
その女性こそが理生の姉、美緒だった。