発情期があるタイプのTS幼馴染の性欲を独占したい 作:しじままどせ
理生の姉、美緒さんの部屋は片付いていた。
ぜんぜん物がない、といって差し支えのないほどに殺風景だ。部屋の隅にはベッドがひとつ置かれていて、壁際には本棚がふたつ並んでいる。
インテリアが暖色なのでかろうじて女性らしい雰囲気はあるものの、全体的に見ればやはりシンプルである。
「なんか、女の子のいい匂いがするね……」
理生がぽーっとした様子で言った。
確かに言われてみると部屋の中にはかすかに甘い匂いが立ち込めている。芳香剤などではない。女性特有の、すなわち美緒さんの体臭だろう。
初恋の人の部屋に侵入するというシチュエーションで頭が狂いそうになる。
とはいえ現状は美少女である理生からも同じような香りが漂っている。本人は自覚があるか不明だけれど、彼女が動くたびに甘い香りがするのだ。
なんだろう、女の子になると体臭が変わるのだろうか。理生の匂いをちゃんと嗅いで確かめたいような……。
いや、いかんいかん。
肉体が美少女だといっても理生は僕の幼馴染なのだ。親友なのだ。変なことを考えてはいけない。
僕はぶんぶんと首を振った。
理生は不思議そうに小首を傾げた。前髪のすき間から大きな瞳が覗いている。ぶっちゃけ、かわいい。
「どうしたの、京介」
「や、なんでもない。というか僕はここに居てもいいのか? ここお姉さんの部屋だろうに」
「だめ、ひとりにしないで欲しい。怖いんだよ、ひとりになるのが……。また自分が変わってしまいそうで」
「でも、美緒さんがなんて言うかな」
「いいから! ねーちゃんは、非常事態だからセーフって言ってたよね?」
「…………」
確かに言っていた。
でも、あれは理生に向けられた言葉だった気がする。僕が美緒さんのクローゼットを覗いていい訳ではない気がする。倫理的に。
けれど、理生は突然女の子になってしまって混乱しているはずなのだ。あまり刺激をするのはよくない。
だから僕は肯定をした。もちろん、決して、断じて、初恋の人のクローゼットを覗きたかったからとかそんな不純な理由ではない。
「わかった。ここに居るよ」
「ありがとう。恩に着るよ」
そう言うと理生は納得したように小さくこくりと首肯してから、クローゼットの前にしゃがみ込んで自分の着る服を吟味し始めた。
Tシャツ一枚の理生がしゃがむとめちゃくちゃ小柄に見える。なんだか保護欲をそそられて、抱きしめたくなって、困る。
小さくて、華奢で、僕を頼ってくる、僕を信頼して気を許している、美少女。しかしその美少女は僕の大切な幼馴染なのだ。
そう考えると、なんだか頭がくらくらしてきた。
はたして僕は理性を保てるのだろうか。はたはた疑問だ。
「うぅ、やっぱり女の子の服で外へいくなんて恥ずかしいよ……」
理生は清楚っぽい白いワンピースを手に取って、胸元や裾のあたりをちらちらと確認しながら呟いた。
それはそうだろう。肉体が女性だとはいえ、理生は精神的には男性である。いくら美少女であっても恥じらいというものはあるはずだ。
というか美緒さんってこんな清楚なワンピースを持っていたんだな。
いや、そうじゃなくて。
「まあ、わざわざスカートを履くこともないよ。普通にパーカーとジーンズでいいんじゃないかな」
「そ、そっか、サイズさえブカブカじゃなきゃ問題ないもんね」
理生はほっとした表情を見せた。
それから理生はワンピースをハンガーに戻して、今度はクローゼットの二段目から別の服を選び始めた。
そして、地味で体のラインが出ない感じのパーカーと、柔らかな生地のハーフパンツを取り出した。限りなく地味で、どちらかといえばダサい部類に入るファッションだ。
けれど、それでもサイズ感は合う。歩いていて脱げてくることもないだろう。それは今の理生にとっては貴重なアイテムだ。
「あとは、パンツと、ブラジャーだけど……」
「……そ、そうだな」
おそるおそる、理生はブラの棚を開ける。
「おぉぉ……」
思わず変な声が出た。色とりどりのブラジャーがきちんと整列してしまってあったからだ。
「京介、ねーちゃんの下着を変な目で見ないでよ」
「ご、ごめん」
とはいえ、そういう理生も声が上ずっている。いや、理生はブラを付ける側だからだろうか。
彼女は目をつぶって適当に一枚ソレを引き出して、「おぉぉ……」なんて声を出している。
その真っ赤なブラジャーは、デカかった。カップの部分が半球状に、デカい。
え、美緒さんこんなブラジャーしてるの。普段から?
いやいや、今はそんなことを言っている場合じゃない。理生にこれを装備させないと。
「こ、これ、付けるの……?」
かっぽりと胸にそれを押し当てて、理生が上目遣いで聞いてくる。真っ赤なブラのカップを胸にハメて見せてくる美少女。
正直言って、絵面が、やばい。
たぶんふたりともめちゃくちゃドキドキしている。心臓がぶっ壊れそうだ。
「なしでも、いいかなぁ……? おれ、ブラジャーをつけるのには抵抗が」
「だ、だな。人の下着をつけるのは、倫理的に、よくない」
「あ、厚手のパーカーならノーブラでも乳首も浮かないかも」
「う、うん。それがいい、そうしよう」
めちゃくちゃ早口で意思決定がなされた。
童貞ふたりにブラジャーは荷が重すぎる。脱がす方もしたことがないのに、付ける方なんて。
「あ、ブラはともかく、パンツくらいははいた方が……」
「そうか、うん、そうだね……。って、おれ、ねーちゃんのパンツ履くの?」
「だって理生、女の子の下着もってるのか?」
「も、持ってないけど、でも、他人のパンツを履くのって、ぜったいダメだと思う。なんか、こう……だめだよ」
「だ、だな。倫理がとがめるよな」
「うん、うん。だからパンツは自分のを履くよ。ブカブカだけど、ねーちゃんのパンツを履くのは、絶対変だし……」
「お、おう」
「じゃあ、その、そういうことで……」
ひと息。
やっとひと息つけた。
やっぱり人のクローゼットを漁るのはよくない。心臓が保たない。きっと理生もそうだろう。
そう思って理生を見たら、彼女は頬を赤らめて、ちょっともじもじしていた。恥ずかしそうに目を潤ませながら、上目遣いにこちらを見ている。
その仕草は、まるで僕を誘惑しているかのようで、しかしそれは気のせいのはずで。僕は慌てて視線を逸らした。
──理生は、僕のことを、異性として意識しているのだろうか。
ふとそんな疑問が頭をよぎったけれど、まさかそんなはずはあるまい。僕の勘違いだ。だから、それを尋ねる勇気はなかった。
そんな風に困惑していたから、僕は、次の理生の言葉にとっさに反応できなかった。
「あのう、京介……? おれが裸になって、着替えるところ、見ていてほしいんだけれど……。ひとりになるのが、怖くて……。男同士だし、大丈夫だよね……?」
は、は、はだか!?
僕は思わずぎょっとなって理生を見た。
そこにはすこし不安そうな表情を浮かべて僕を見つめている理生がいた。栗色の長い前髪がさらりと揺れて、大きな瞳がまばたきをしている。
僕は言葉を失った。
「だ、だって、女の子になってから、体がすごく敏感になっちゃってて……、自分で服を脱ぐのも、怖いんだ……。女の子の服を着たら、何か自分が自分でなくなってしまうような……」
理生の声は震えていた。理生は怯えていた。
彼女は今、とても心細い思いをしている。自分の存在が書き換わってしまったかのような恐怖感。それを僕は想像することしかできないけれど。
でも、だとするならば、この幼馴染を、理生を守りたい。
その思いに嘘はない。ぶっちゃけこの魅力的な美少女を襲わないようにするための理性が限界だけれど、僕は頑張れる。きっと耐えてみせる。
「わ、わかった。僕が一緒にいるから。理生のことを見ているから」
そうして僕は、生まれて初めて、美少女の、幼馴染の、理生の着替えを間近で見ることになった。
しかも、ノーブラの。裸の。
僕は緊張と興奮で死にそうだった。