発情期があるタイプのTS幼馴染の性欲を独占したい 作:しじままどせ
「な、なんか人の目が気になるんだけど……」
「うーん、そうだな」
徒歩十五分程度の病院までの道すがら。うららかな春の陽気の中を歩きながら、僕は理生の言葉に同意した。
というのも、すれ違う人々の視線が僕らに注がれているような気がするのだ。
いや、それもこれも理生が美少女すぎるせいだ。
小柄で、華奢な体にふんわりとした栗色の髪がよく似合っているし、大きな瞳も魅力的だし、愁いを帯びて影を落とす長いまつげも、やや幼く見える顔立ちも愛らしい。
地味な格好ながら女性らしいしなやかな体つきが浮き彫りになっているので、どうしても人目を引いてしまう。
「なあ、あの子可愛くない? あのパーカーの子」
「ホントだ。隣にいるのは彼氏かな?」
「あんな子が彼女だったら最高だよな」
「俺、ナンパしてこようかな」
そんな声が聞こえてくる。
僕は理生の横顔を見た。理生は居心地悪そうにしている。その頬はすこし紅潮しているように見えた。
「やっぱりこの格好、おかしいのかなぁ……? おれなんかが女装しているせい?」
「そんなことないよ」
「でも、みんな見てるような気がするんだ」
「そりゃあ、まあ」
昔みたいに僕の後ろに隠れることこそしないものの、理生は不安そうにきょろきょろと辺りの様子を窺っている。
その姿はまるで小動物のように可愛らしくて庇護欲をかき立てられる。
きっと自分が魅力的な美少女であるという自覚がまったくないのだろう。確かに理生は昔から自分の容姿について無頓着だった。
何となく、不快な気持ちになる。理生が周りから見られていることが。
「人の目が気になるなら、僕のうしろに居ろ」
「……あっ」
僕は一歩前に出て。昔みたいに理生をうしろに庇うようにして歩いた。すると理生はなぜか嬉しそうに僕のうしろで微笑んでいた。
こちらの服の裾を掴んで、背中に隠れるようにする。
「ごめん、ありがと」
「いや、いいよ。友達だろ」
「……うん。たすかる」
理生は安心しきった様子で僕の背中にくっついてきた。その声はやはり鈴の鳴るような澄んだ声だった。
歩幅が縮んでしまった理生のために、僕たちはゆっくり、ゆっくりと、うららかな春の日を歩く。
「──あ」
ふと、理生が声をあげた。
僕は振り返る。するとそこには、小さな女の子がいた。幼稚園児くらいだろうか。
その子は僕たちの方をじっと見つめていて、その目は怯えているように見えた。
「ふ、ふぇぇ……」と女の子は半分泣いている。
周囲に親御さんの気配はない。ひとりぼっちであるようだ。
迷子だな、と察する。
「わわっ、たいへんだ」
パッと僕のうしろから離れて、理生はその小さな子供に近づいていった。
そして、しゃがみ込んで目線を合わせると、優しい声で話しかけた。
「こんにちは、お嬢ちゃん。どこか痛いところがありますかー?」
「…………」
「えっとね、ぼくは理生っていうんだ。お嬢ちゃんのお名前は?」
「……み、みみ」
「そっかあ、みみちゃんかぁ。かわいいお名前だね」
理生は優しく頭を撫でる。まるで聖母のようである。
昔から理生は困っている人を放っておけない子だった。そのうえ子供が大好きだった。小さい頃から近所の子供たちの面倒を見たり遊んであげたりと、引っ込み思案のくせに面倒見が良いのだ。
理生に頭を撫でられて、その女の子はだんだんと落ち着いてきたようで、やがてその目に涙を浮かべながらも、おずおずと口を開いた。
「ままが、いないの……。ずっといっしょにいたのに……、いなくなったの……。どっかに行っちゃったの……」
「そっかあ、じゃあママを探しに行こうか。一緒に探そう?」
「……うん」
「じゃあ、しゅっぱつしんこー!」
「……おー」
理生は手を差し伸べる。その手を握り返すように、みみと名乗った少女はこくりとうなずく。
その間に僕はキョロキョロと周囲を見回した。近くに交番がないかを探す。
すると、横断歩道の向こう側、公園の入口に不安そうに立っている女性がいるのが見えた。
「理生、あれ、お母さんじゃないか?」
「あ、そうかも。……ねえ、みみちゃん、あれってみみちゃんのママ?」
理生が指さすと、少女はぱあっと目を輝かせた。
そして、こくり、とその首を縦に振って「まま!」と叫んで大きく手を振った。
すると向こう側の女性もハッとしたようにこちらを見て手を振り、それからペコリとお辞儀をする。どうやら少女の母親で正解らしい。
僕たちは横断歩道を信号無視して駆け出そうとする少女をなんとかなだめ、ゆっくりと歩いていく。
少女は母親の元に辿り着くと、「まま!」と言って抱きついた。
母親はその少女を抱きしめて、そのあと僕たちの方を見て、何度も「ありがとうございます」と頭を下げていた。
「ママ、だめでしょ、勝手にどこかに行ったら」
と、安堵から得意げになっている少女に言われて、母親の方は申し訳なさそうにしていた。幸福そうだった。
その光景を見ながら、理生は満足げに微笑んでいる。
理生は人が幸せそうにしているのを見るのが好きだ。そういうところも昔から変わらない。
「ありがとう、おねーちゃん! またねー!」
と少女がぶんぶんと手を振る。理生もそれに答えるように笑顔でブンブンと手を大きく振り返した。
そして、親子の姿が見えなくなるまで、理生はいつまでも手を振っていた。
その姿は、なんだかとても綺麗だった。
「おれ、おねーちゃんだってぇ……」
などと言いながら、理生はちょっと照れくさそうに笑った。
そうしてそれから、ガバッといきなり胸を押さえた。みるみるうちに顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうに俯く。
「どうした、理生?」
「あぅ……、あのね、絆創膏持ってない? 思いっきり手ぇ振ったらおっぱいが揺れて乳首がすれて、いたい……」
僕たちは赤面した。