(本編完結)ホロライブラバーズX infinity 作:とも667
……小鳥の囀りが聞こえる。まだ完全でない脳が、まだ寝たいと訴えてくるが……それを無視して起き上がった。
「……」
「樹! 起きなさい、朝よ!」
「あぁ……」
俺の体調を考えて、いつも同じ時間に起こしてくれる母さん。だが……それすら、虚しい。
「またその顔して……そんな顔してたら、彼女ができないよ?」
「……別に構わん」
「もう……前はよく『彼女作って幸せにする!』とか言ってたのに……一体、どうしてこんな子になっちゃったのかしら?」
……俺は勝手に降りて行って、顔に冷水をぶっかける。すると、脳が一気に覚醒し……いつも通り、美味そうな朝食が用意されていた。だが、食欲は湧かない。
「ほら、早く食べちゃって! 洗い物終わらないから!」
「……おう」
「思春期だし……何か悩みでもあるのかしら?」
悩みか……ある。その悩みが、俺がこうして無気力な理由なのだ。だが、これは母さんにも俺にもどうにもできない……俺は、いつものように片目を閉じた。すると……
「……はぁ」
本当に、嫌になる。この景色は突然、俺から全ての気力を奪った。テレビに机、美味しそうなトースト、目玉焼き、野菜ジュース……母さんと俺の体に至るまで。全てが意味不明な文字列に変わった……プログラムを表しているのだろう。一口齧って、トーストが欠けると……プログラム配列が切り替わった。この世界は……ゲームなんだ。俺も母さんも父さんも、ゲームの住人ってこと……
「……チッ」
こうしていなくとも、耳障りな音楽が耳を劈くのだ。十中八九、このゲームの『BGM』だろう……さっきの小鳥の囀りも、いつも全く同じ物が聞こえているから。だが、理由はそれではない。俺が母さんの方を見ると……棒のようなものがある。上にぷかぷかと浮くそれには、『HP』『MP』『好感度』と書かれている……さらに目を瞑ると、さらにその横に『スキル』と大きく書かれた、ブラックボードのようなものも見えるようになるのだ。『料理上手』、そう書いたそれが……見えるだけで、干渉はできない。
「また舌打ちしてる……」
「……悪い」
「反抗期かしら……」
一言謝っておいた……だが、それすら虚しい。その原因の『メッセージウィンドウ』が、俺の視界を阻んだ。母さんが見えなくなる……これはしばらく黙っていれば消えるが、目障りなことこの上ない。これのせいで前が見えなくて、何度ノートを取れなかったことか……病院に行くことも考えたが、やめた……こんな病気、有り得ない。『世界が見える目』とでも呼ぶか? それで日常生活ができなくなってちゃ、話にならない。羨ましくも何ともない、最悪だ……両目を開くと、プログラムは消えた。だが、邪魔なウィンドウや頭の上の棒は消えない……俺達をゲームだと教えて、嘲笑い続ける。
「……ごちそうさま」
「最近フラフラして、どうしたの?」
「なんでもないよ、大丈夫」
また、メッセージウィンドウが視界を阻む。前が見えないまま歩く……移動中は、喋ることが危険だ。こんなに不便な上、この世界はゲームで……誰かの匙加減で俺達は消される。そう考えると、無気力になった。俺はゲームキャラ、プレイヤーを殴ることはできない。いるならの話だけどな……殴れない上にこの調子だから、気力が削られていく。見えるだけで何もできないのは嫌がらせか? 効果抜群だな……そのくせ、自分のものは全く見えない。鏡にも映らないし……そこまで行ったら自分のも見えろ。
「……くそったれが」
「どうしたのよ、本当に……」
「イラついてんだよ……個人的なことでな」
ついてくるメッセージウィンドウがウザくて、掴みかかる……やはりすり抜けてしまった。干渉はできない、どう足掻いても……俺だって、生まれつきこうってわけじゃない。生まれた時は普通だった……ある日突然、PCのエラーのような音が連続で、それも耳の近くで聞こえてきて……頭が痛いと思った時には、これが見えていたのだ。これはもしかしてバグなのか? だったら直してくれよ……
『それでは、次のニュースです』
「……」
『答えはCMのあと!』
チャンネルを変えても、同じだ。メッセージウィンドウが浮いてくる……人が出てくると、その人のHPなども見えるのだ。そのせいで画面が見えない……だが、その時だった。CMが映った時、ふと片目を閉じてしまい、プログラムが見えた時……
『……ホロライブ学園、入学者募集!』
「っ!?」
『あなたも一緒に、強くなりませんか?』
……驚いた。今テレビに映った学校……とんでもない量のプログラムの塊だった。学校でも、あそこまでない……そんなにゲームにとって重要な場所なのか? なら……元凶はあそこにいる? 消えたはずの怒りが煮え滾る、歯軋りが止まらない。俺から日常を奪い取った奴……許さない、殺してやる……そう思ったのだ。高校はもうすぐ終わる……俺はすぐ母さんに言った。
「……母さん。俺、ホロライブ学園に行きたい」
「え、珍しいね……こっちで勝手に決めるつもりだったのに」
「お金がないなら俺が稼ぐ、頼むよ……」
目的は、復讐。俺だけしか知り得ない苦痛の応酬を、たっぷり喰らわせてやる。覚悟しろ、誰だか知らんが、お前の顔面はぐしゃぐしゃになる!!
「いいよ、この学校受験難しいみたいだから、勉強はしっかりしてね!」
「わかった!!」
「あんなにテンションが高いのは久々だね……いや、ようやくいつも通りになったんだ」
受験勉強だ、これに落ちてちゃ話にならない。復讐のためだと思うと、嫌いな勉強も恐ろしい程できた。おかげで良くなかったテストの点も急上昇し……
「これなら、第一志望のホロライブ学園も余裕ですよ」
「本当ですか!? よかったねぇ、樹!」
「うん……!」
俺は復讐に1歩ずつ近づいている。俺に最悪の真実を叩き込んだクソ野郎に、会える時が……そう思うと、思わず拳を握りしめてしまった。ガッツポーズを取るのは、まだ早いよな……
「……学校説明会か」
「行ってみる?」
「うん、行ってみるよ」
手がかりが掴めるかもしれない。そう思って学園に歩を進めた……BGMが急に変更される、高校では普通の街と同じのが流れていたから……やはり、読みは当たりらしい。
「……ここか、奴がいるのは」
「授業見学はこちらです」
「はい、ありがとうございます」
そちらを見に行くと……沢山の生徒が、授業を受けていた。HPとMPが高い生徒が多いな……全員強いようだ。片目を閉じて、スキルを見てみると……よくわからないが、強そうなスキルが並んでいた。
「……どうやら、普通の学校じゃなさそうだな」
流石にクソ野郎の本拠地なだけあって、凄まじいプログラム量だ……
「こちらにお越しください」
「はい」
「デカい学校だな、ここ……」
一緒に来た同級生が呟いた……そりゃそうだ、恐らくゲームのメインに当たる建物なのだから。こんなにプログラムが多いなら、根幹には関わっているだろう……俺にとっては悪の本拠地だが、ゲームとして考えると悪人がいそうではない……このゲームは所謂『学園モノ』なのか? そう思いながら歩を進める。
「この学校は元々2つで、男女に分かれていましたが、強い血統や強い者達に女性が多く生まれた結果、男性側学園が落ちこぼれとなって、入学率が減ってしまったため統合されました。学園長の英断です」
「へぇ、女の子多いんだな……」
「女の子が多い……男女共学なのか? 軍事学校みたいなもんなのに?」
『学園モノ』のゲームだとして……女の子が多い? すると、これは……恋愛方面のゲームなのか? だが、それならあの戦闘スキルの数々は何だ? 戦闘要素もある……? 女の子が多めの学校で……そして、この世界は一夫多妻が許容されている。
「では、この学園の特色である『バトルロワイヤル』の説明を致します」
「おっ、待ってました!」
「バトルロワイヤル……ゲームらしいネーミングだな」
前にスライドが出ているのだろうが……ウィンドウに阻まれて全く見えない。幸い、人が喋っている時はBGM音量が小さくなる。その調子で消えて欲しいのだが……前が見えないのでお話を聞きつつ、考え事をしておく。ゲームはゲームでも、これは……エロゲーだな。好感度ゲージがあるところを見るに、純愛方面のように見えるが……本当にそうなのか? 何が起こるか本当にわからん、俺だけしか心配をしていないが……俺以外にはわからないのだ。
「皆様には仮想世界に飛び、広大なその空間で生き残っていただきます。戦ったり、隠れたり……戦法は自由です。1位になった人は、就職優遇を受けることが可能です」
「うわ、マジかよ!!」
「入りたい会社に入りやすく……!」
みんな、期待に胸を膨らませているが……多分勝てない。先輩方とは『プログラムの密度』が違うのだ。俺もそうだが……多分、重要キャラかそうでないか……だと思う。彼女らはプログラム密度が高かった……相当強いだろう。ただ、周りの人達も、中々密度があったので……ある程度は努力で埋められるのかもしれない。
「以上、説明を終わります。なにか質問はありますか?」
「はい」
「馬場さん、なんでしょうか」
これだけは、どうしても聞いておきたい……
「過去にここでおかしな現象は起きていませんか? 急に物が消えるとか、逆に出てくるとか……なんでもいいです、どんな些細なことでも……」
「いえ、ありませんが……」
「そう、ですか……ありがとうございました」
動向はなし、か。やったら後は放置、野となれ山となれ……ってか? 無責任この上ないな……
「急にどうした、変な事聞いて……」
「いや、見慣れないものが大量にあって……そういったこともあったのかな、って」
「冗談キツイぜ、馬場~!!」
尻尾を掴めなかったのは残念だが……今度は、入学して尻尾を掴んでやる。覚悟しろ、クソ野郎……誰だか知らんが、責任は取ってもらうぞ。
「……それじゃあ、帰りますか」
「入学したいな~」
「ここ、厳しいらしいぞ?」
厳しかろうが関係あるか……俺は復讐のためなら、何だってしてやるさ。ゲームが俺を嘲笑うなら……その分のツケは払ってもらおう。金では払えねぇけどな……!!
「……なんか様子変だぞ?」
「大丈夫……楽しそうな学校だなって」
「そういう顔じゃない気が……」
マグマのように煮え滾る怒りと、頭を一色に染め上げる、ドス黒い憎悪。それが気力というガス欠のエンジンに注ぎ込まれて、キーが回された。もう止まらない、止まれない……!!
「……おっ、やってるね。はい、夜食」
「サンキュー……!!」
「毎日よく続くねぇ、いいことだけど」
そして、試験の日……試験を受けて、3日後。番号を持って見に行くと……
「……あったッ……!!」
まず、第一歩。これはスタートライン……誰かの喉笛への道だ。俺の日常を叩き壊してゲームに変えやがった、クソ野郎へのな……!!
「精々お祈りでもしとくんだな、地獄行きは確定だけどよ……!!」
目指すはそれのみ、障害があるなら壊して進む。そう決めて、ここまで来たんだ。入学式は1ヶ月後……!!
「……よし、今のうちにトレーニングをしておこう」
目的は2つ、1つ目は、奴がどれだけ強かろうと勝てるようにしておきたいから。2つ目は、バトルロワイヤルの勝利。奴は絶対に見ている、目立てば俺に目を向けざるを得ないはず……俺が自分に殺意を向けているとなれば、何かしらアクションを起こすはずだ。そこから突き止めてやる……! そう思って、力をつけている時だった。
「……『インファイト』だと? 何のことだよ……使い方がわかる……どんな技なんだ?」
謎の効果音が聞こえたと思ったら、おかしな技が使えるようになった。これまではトレーニングをしても、こんなことはなかったのだが……ゲームが始まったってことか。上等だ……!!
「これも『スキル』か……? 俺に与えたら首を絞めることになるのによ……ミスをしたな!!」
間抜けな悪人だ、だからと言って手加減はしないがな……! とりあえず、試してみよう。的は……練習用のサンドバッグ。
「……インファイトォ!!」
メッセージウィンドウが視界を遮ったが、無視してサンドバッグに走る。そして、頭の中に入ってきた通りに体を動かす。相手の懐に潜り込んで、自分でも信じられないくらいの速さで腕と脚が動き出した。50発程殴る蹴るの雨あられを浴びせると……体の動きが静止した。サンドバッグがボロボロになっているが……肝心の俺は。
「っ、グゥゥ……!!」
激しい筋肉の痛み……普通に考えたらそうだよな、明らかに無茶な動き方してたし。その上……視界が塞がって、メッセージウィンドウに文字が表示される。
『防御力が下がった!』
「……防御力だと……? わかったから消えてくれ、前が見えん……!!」
これを使うと、前が見えなくなる上に『防御力』が下がり、筋肉痛で動けなくなる……覚える『スキル』とかいうのに、俺の体の考慮はされていないらしい。このウィンドウだけでもどうにかならないだろうか、前が見えなくては何もできない。
「オプション画面くらい用意しとけっての……」
そのボヤきすら、俺の視界を遮る。こんなことをして何がしたいのか……まぁ、理由がどうあれ死んでもらうつもりだが。忘れないように『スキル』をメモにとりつつ、修行を続ける。復讐のためだと思えば、筋肉痛すら些細なことだ。毎日30kg重りをつけて、フルマラソンをして山を登っても疲れないようになった……あんな芸当ができるんだ、強くないわけがない。神にも勝てるようになるには、まず人間より強くならないと……!!
「ぜぇっ、ぜぇ……待って、ろ……ゴミクズ!! お前だけは、俺が……殺す!!」
体から血が出たこともあった、血反吐を本当に吐いた……だけど、不思議と苦しくはなかった。休憩中でも技術書を読んだり、イメージトレーニングをする……技術は独学では身につかないので、道場などにも通って……自分で深夜バイトして貯めた金で、一週間に二回受けに行き、道場が閉まるまで練習させてもらった……
「げぇぇ、あ……ハッ、この程度で、俺を止められるか……殺しに行くって、言ってんだろ……!!」
「少し休みなさいよ、死んじゃうってば!」
「馬鹿野郎……男はやるって言ったらやるんだよ!!」
それでも、どうしても辛い日は……その苦痛をクソ野郎の命乞いだと考えた。すると……憎しみで痛みがかき消されて、怒りが体を焦がすのだ。
「……ふざけんじゃねぇっ!!」
「そこ! 姿勢が乱れている!!」
「申し訳ありません!!」
そんなことを続けて、30日。次の日が入学だ。奴の手がかり探しの、第一歩だ。
「覚えた『スキル』ってのは……これだけか」
『インファイト』『メガトンキック』『マッハパンチ』『せいけんづき』『テンションバーン』『だいぼうぎょ』『ねこだまし』だ。全部使ってみたが……全ての技を一人では試せなかったので、ジムでスパーリング中に使ってみた。
どうやら『マッハパンチ』は、高速で接近して低威力の殴打をする技のようだ……接敵の時には便利そうだな。『インファイト』より手軽でいい……『メガトンキック』は、純粋な高威力のキックだ。マッハパンチから派生させることができたので、そういう使い方がメインになりそうだな。『せいけんづき』も名前の通りで、ただの正拳突きだ。基本、この3つで戦うことになりそうだな。
『ねこだまし』は相手の目の前で手を叩き、動きが止まった時に攻撃する技だ。戦闘が開始してすぐ使わないと使えないようだが……『だいぼうぎょ』は、相手の攻撃が大分軽減される。ただ、使っている間は動けないようだ。『テンションバーン』は、持続が短いが攻撃を食らう度に、次の攻撃の威力が上がっていく……『だいぼうぎょ』と併用可能なようなので使い勝手はよさそうだ……
「……本当に意味わからん単語だらけだな」
ゲームだから当たり前なのだが……俺が知らない単語ばかりだ。もしかしたら、このゲームがある世界では誰もが知っているのかもしれないが……最近は地獄の特訓のおかげか、筋肉痛も軽くなってきた。この調子なら、奴に勝てる日もそう遠くはないだろう……そう思いつつ、眠りについた。そして、次の日……
「母さんおはよう!!」
「今日は学校初日、ちゃんと挨拶してくるんだよ?」
「わかってるって!!」
言われずとも挨拶してやるさ、生徒や先生……あと、クソ野郎にもな!!
「朝ご飯食べたね、歯磨きしたかい? ハンカチとティッシュは? リュックの中、ちゃんと入ってる?」
「全部確認したよ! 行ってきます!!」
「ならいいわ、行ってらっしゃい!!」
そう言われて、家を飛び出す。重りをつけたままとは思えない程体が軽い、5kg分追加したばかりだというのに。これも特訓の成果かな? もう学校に着いてしまった……走るのも速くなってるな。
「……そこの人、どうぞ! あなたも!」
「あ、はい……?」
「あなたもどうぞ!!」
これは……チラシか? ティッシュとタオルがついている……
『知っていますか? この世界は、無限の力から生まれました。この世界はいつでも、主が見ているのです。ですが、主に身を委ねれば万が一にも消されることはありません! さぁ、あなたも入信を!! 社団法人セイント・インフィニティ』
「……宗教勧誘かよ。なんだ……」
『この世界すらもプログラムなのです! 逃げずに向き合いましょう!!』
しばらくして、メッセージウィンドウが消えたあとに見えたその文字に、少し反応してしまう。その主は……俺をこんなにした張本人なのか? 奴らはそれを信仰している……?
「……多分、違うだろう。真面目に考えるだけ無駄だよな」
そう思って、俺は歩を進めた……片目を閉じて辺りを見回す。やはり、凄まじいプログラムの量だな……そう思いながら、教室に行ってみた時だった……
「……なっ!?」
プログラムの塊が、机に何かを置いている……『EVENT』そう書かれた、矢印のようなもの。それを置いている……両目では見えない、大きなプログラムの腕。奴だ、奴が……いる!!
「待てっ!!」
そう言って、腕に掴みかかると……焦ったように手を動かして、その場から消えてなくなった。まるで、何も無かったかのように……逃げられた、タッチの差で……!
「……くそ!!」
「な、なに……どうしたの?」
「……ん? あぁ……虫がいたので、ついね」
クソ野郎の腕は周りの人に見えていない。俺は虚空に掴みかかったのだ……そりゃ、変だよな。
「虫って……そんなに嫌いなの?」
「えぇ、本当に」
「何それ……」
どうにか誤魔化せたようだが……これからは、迂闊にあいつには近づかない方がいいな。そう思って、椅子に座ると……メッセージウィンドウが突然消えた。
「……何だ? 奴は何を……『EVENT』とかいうのが原因か?」
ふと、時計を見ると……さっきまで8時だったのに、9時前になっている。本当に何でもありだな……あいつの力は。
「俺に与えてどうするんだ、って話だけどな」
また、ウィンドウが視界を塞ぐ。これじゃ、先生の顔すら見えない……
「皆さん、はじめまして。このクラスの担任の有本 優太です。よろしくお願いします」
……メッセージウィンドウがようやく消えた。男の先生だ……逞しいな。
「よろしくお願いします!」
「……あ、よろしくお願いします」
「皆さん、これから色々あると思いますが……私と共に頑張りましょう!」
……色々あっても、相談出来そうにはないな。顔がまた見えなくなった……常に目隠しされてる気分だ。
「学園長の挨拶があるので、体育館に移動しましょう」
「はい!」
「……」
できる限り喋らないようにしよう、視界が遮られる。そう思って、無言で移動し……体育座りで座る。
「皆さん、はじめまして。ホロライブ学園長のyagooと申します」
「あれが……?」
「噂には聞いてたけど、そうは見えない人だな」
確かに、学園長にしては温和そうな若い人だ。一応、片目で周りを見渡しておく……クソ野郎はいないな、とりあえず手を出されることは無さそうだ。それから、学園長の話が始まった……が、俺以外みんな寝るか、違う場所を見ているかで、まともに聞かれていない。
「……であるからして、ここでの学習は一生を助けることになるわけです」
「ぐ~……」
「……」
俺は寝ない、というか……普通に見えている景色が貴重だ。メッセージウィンドウに阻まれて見えないことが沢山あるから……見られる時に、見ておきたい。
「では、皆さんお待ちかね……バトルロワイヤルの説明に移ります」
「バトルロワイヤル!?」
「ようやくか……!」
みんな起きたか……そんなに楽しみなイベントなんだな。まぁ、就職優遇が受けられると言われたら……そりゃあ嬉しいよな。俺だけ、目的が違うんだ。あの腕を切り落とすこと……そう考えていると、話が終わってしまった。いけない、一度聞いたから聞き流してしまった……
「……というわけで、皆さん。明日は頑張って、1位を目指してくださいね」
「武器買っとかないと……!」
「何がいいかなぁ?」
みんなザワついている……俺は体一つだけど。やっぱり珍しいのか……?
「静粛に……では、これで話は終わりです。各自お昼休みに入ってください」
「やっと終わりかぁ……もうお昼休みだね」
「ご飯食べてこよっか!!」
みんな仲良さそうでいいな……俺もあんな感じになりたい、が……それより、憎しみが頭を支配しているのだ。
「……どこかにいないか?」
そう思って、学校中を見回してみるものの……それらしきものはどこにも見えない。コソコソ隠れやがって……! とりあえず、弁当食うか……そう思って弁当を取り出した。
「……プログラムの塊喰ってると思うと、食欲も失せるな……羨ましくても誰にもあげたくないな、本当に不便極まりない……」
最初は本当に困惑した、何故こんなものが見えるのかと……幻覚だとか、そういった物を疑ったが……こんな症状どこにもない。BGMを耳元で鳴らされ、夜も眠れない日々だ……今は慣れて眠れるが、『ゲーム生活』は苦痛そのものだった。
「……ごちそうさま」
みんな外で騒いだり、飯を食いに行ったりしたらしい……俺一人だな。さて、この時間で何をするか……
「確か、ジムがあったな……そこでトレーニングしてよう」
そこに行くと、案の定本格的なトレーニンググッズが置かれていた。スパーリング用のバトルマシンや、魔法練習用の杖まである。
「最新式ってわけか……利用させてもらおう」
そう思って、バトルマシンを起動した。レベルMAX、最大パワーだ。打ってこい……!!
『開始します』
「ぐっ……流石にMAXは効くな……!!」
腕が痺れているが……反撃させてもらおうか、頑丈にできているって専らの噂だ!! メッセージウィンドウが消えたのを確認し、攻撃開始!!
「……!!」
まずはマッハパンチ、距離を詰めて……メガトンキック!! 怯んだところに……トドメだ、喰らえ!!
「……インファイト!!」
『レベルMAX、KO……プログラムを終了します、お疲れ様でした』
「……俺のプログラム密度は上がってる。強くはなってるはずだ……だが、多分これでも足りん。もっと強くならなければ……!!」
腕と足の痛みは和らいでいる、やっぱり鍛えないと何も始まんないよな……!!
「よし、ルームランナー……! 腕だけじゃダメだよな!!」
その日はたっぷり鍛えて、昼休みを終えて……放課後。クソ野郎の痕跡がないことを確認しつつ、俺は家に帰ろうとした……その時。白い服に狐の耳らしきものが生えた人が、誰かに絡まれていた。
「……あれ、誰だ?」
「ちょ、ちょっと……やめてくださいってば!!」
「あなたには素質がある! 入信してください!」
……あいつ、あの時配ってた人と同じ服だ……宗教勧誘が悪いとは言わんが、押し売りは良くないよな……?
「……そこのアンタ。その子には入る気がないんだから、いい加減やめとけ」
「え……?」
「一般人が邪魔をするな、我々は神の命を受けて、この世界に降臨した御使いなのだぞ! この人だってそうだ、本人が気づいていないだけなんだよ!!」
……宗教にどっぷり浸かってるな。話が通じそうにない……
「逃げて警察を呼んでください、こいつは俺が相手しますんで」
「あ、ありがとうございます……!」
「貴様……! 神の使命の邪魔をするのか!?」
神だかなんだか知らんが、俺はそれに喧嘩を売ってる最中なんでね……
「神だの、御使いだのと言ってるけどよ……その根拠はあるのか?」
「書いてあっただろう、我々はプログラムだとな! 私達『セイントセブン』の7人は、それが見えるのだよ……だからこそ! それをお作りになった神を信仰し、従属するのだ! この世界の『バグ』を取り除く『デバッガー』としてな!」
「……なんだと? お前も……見えるのか?」
プログラムが見える? どうやってだ?
「なに? お前もだと……?」
「お前はそれがどうやると見える?」
「片目を閉じた時に決まっているだろう!?」
……やっぱりだ。こいつ……見えてるんだ。
「俺も片目を閉じると見える、左目でな」
「なっ……馬鹿な! 左目を閉じて、右目で見るのが常識だろうが!?」
「……俺は異常ってわけかい」
「嘘だ、有り得ん……『眼』を持った者の出現は大神官様の授かった予言書に書いてあるはず、どうして……まさかっ!?」
なにかに気づいた……? 声色が変わったが……前が見えないから、どういう顔なのかわからんな。
「……どうした?」
「貴様……『エラー』か!? そういうことだったのか、こんな時に出くわすとは……」
「……何が言いたい?」
……危険な気配がする。
「これは好機……! お前には消えてもらう、悪く思うなよ!?」
「……何が何だかわからんが、やる気なら相手になるぞ」
「死ね、この世のバグめ! 無限の名のもとに、『勇気』のグロリオ! いざ参る!!」
……メッセージウィンドウが消えると同時に、奴が襲いかかってきた……俺の初戦は、殺し合いになりそうだ。
人を幸せにしない真実に、価値なんてあるのか……?
(Lost judgmentより)