(本編完結)ホロライブラバーズX infinity 作:とも667
戦いは続きます。
……次の朝。俺は目を覚まして、準備をする。学園には行かない。行くのは奴らのところだ……奴らの全てを終わりにしてやる。
「……行くか」
そう言うと……案の定、『EVENT』が飛んできた……しつこい。そう思いつつ、エラーを起動して叩き割る。足元に張り巡らされたそれらを、どんどん踏み潰す……これで全部だな。
「無駄だ、インフィニティ。諦めて辞世の句を用意しとくんだな……お前も、お前の仲間も全員ジギタリスと同じようにしてやるよ」
そう吐き捨てて、部屋を出る。奴らは生かしておけない……そう思っていると。
「……いた!! 樹、大丈夫か!?」
「大丈夫だ。俺は戦える」
「ニュース見てないのか? ほら、これ……」
元樹がスマホでニュース記事を見せてくれた……そこには。
『怪奇! 血塗れの森と血の幽霊!!』
「……ほら。血を流す幽霊と血濡れの森って書いてあるけど……これ、お前だろ? お前以外思いつかないし……幽霊ってのがわかんないけど、病院に運んだっていうのも……」
「そうだよ……悪いか? 『愛』のジギタリスを殺したんだ。少し怪我したんでな」
そう言って、重大な傷を隠しておいたが……
「隠すなよ。それ……全部、ジギタリスにやられたんだろ? あいつはどんな攻撃をしてきたんだ?」
「……洗脳だ。ホロライブ学園の強い人達を全員操って……俺と戦わせたんだよ。どうにか全員、傷をつけずに倒したが……40対1はキツかったな」
「昨日そんなことしてたのかよ……! 他はないのか?」
それからも色々と聞かれたので、全部話した。奴が『好感度』を操作できることに、この街の俺と元樹除く全員が対象であったことや……『好感度』のせいで、危うく猫又おかゆさんの尊厳が奪い取られるところだったこと。武器の詳細や、奴の腐りきった性格のこと……そして、俺がもう二度と……誰にも見えないことも。
「……嘘だろ? 悪い冗談はやめろよ……」
「真実だよ。奴は最後の力でそれをやってきた……嘘だと思うなら、やってみればいい。その幽霊ってのが俺だからな」
「あぁ、やってやる……そんなこと有り得ない!! きっと一時的なものだッ!!」
……俺は無理矢理、学園に連れて行かれた。すると……
「……みんな、ここにあった席は……?」
「え? 何言ってるの、そこに席なんてものないでしょ? 一組が全員いなくなったから、繰り上げでここが一組になったじゃん」
「まさかもうボケたのか~? 勘弁してくれよ、元樹!!」
信じられない。そういう顔をしている……まだ諦めたくないのか、元樹は俺を指さして言った。
「見えないのか、みんな!? 樹がここにいるのに!!」
「はぁ……? 幻覚見えてるぞ、お前。何も見えねぇもん」
「そもそも樹って誰? そんな人この街で聞いたこともないけど」
完全に消されてるな……白上さん達の上には、忌々しい好感度ゲージがない。どうやら、昨日破壊したのは正解だったらしい。
「そん、な……」
「わかったろ? 俺の言ったことが本当だってな。幽霊扱いされた理由は、そういうことさ」
「みんなを助ける代償がこれかよ……くそっ、なんで……樹が何したっていうんだよ……樹はただ人間として生きてたのに……それを殺そうとして、殺し合いになって……親を奪われた次は、誰にも見えないし聞こえなくなるのかよ……!!」
そういうことだ……俺はその場を立ち去る。ここにいても仕方がないからな。
「元樹、本当にどうしたの……?」
「ちょっと、元樹くん……大丈夫ですか?」
「……元気になって、よかった」
怪我は無さそうだ……みんな元気そうでなにより。
「あ……フブキ! 本当に昨日のこと覚えてないのかよ!? 昨日……どこかに行ってなかったか!?」
「え……いや、全く何も覚えてないです……寝て起きたら、なんでか病院にいて……『馬場樹』とかいう人がお金を立て替えてくれた、とかで……白上達には、何の異常もなかったらしいんですけど……なんだったんでしょうかね?」
「……な? これでわかっただろ……ジギタリスの最後の足掻きのおかげで、俺は誰にも認識されなくなったんだ。まぁ、俺自身は死んでないから……あとは俺に任せとけ、じゃあな」
そう言って帰ろうとすると……元樹が引き止めてきた。
「待て、俺も行くよ!!」
「……バカ野郎。周りからの視線が見えねぇのか」
「え……?」
周りの視線は、疑惑や恐怖……異常なものを見る目で埋め尽くされていた。当然だろう、意味不明な発言ばかりしてるんだからな。
「俺はもう、誰にも見えん。世界中探せば、誰か一人くらいいるかもしれんが……探す気は全く無いぞ。じゃあな……俺のことは忘れろ、元樹。このままだとお前、精神病院行きになっちまうぞ」
「……畜生……畜生……!! くそぉぉぉっ!!」
「さてと……次の奴は……」
どっちも遠いな……さて、どちらから行くか。そう思いつつ、学園を出ようとした時だった……
『皆さん、お待たせしました。これより、第二回バトルロワイヤルを開始します。皆様、戦闘に備えて準備をしてください。開始は5分後です』
「……今日はバトルロワイヤルの日だったのか。元樹とは、次のバトルロワイヤルで戦う約束をしてたんだが……もう、戦えんからな。ごめん」
俺の下駄箱も、ネームプレートがない。痕跡一つ残ってないな……インフィニティの能力だけあって、徹底的だ。
「まぁ、みんなが元気ならそれでいい。俺の目的は復讐……今も昔も、それだけは変わってない」
俺がここに来た理由はたった一つ。奴を見つけて、殴り殺すこと……それが終われば、ここにいる理由もない。
「とりあえず……奈良にいるほうを狙うか」
新幹線で行けば早いだろう。そう思って、俺は駅に向かった……バトルロワイヤル開始の合図を聴きながら。
「これで……あとは向かうだけ、か」
新幹線に乗り込んだ……まさか歩いて行くわけにはいくまい。これに乗るしかない……奈良まで直行だ。
『ご乗車ありがとうございます。この列車は……地獄行きとなっております』
「……は?」
「撃て!!」
乗客全員が、銃を持っている……そうか。計算済みだったんだな……!!
「チッ……!!」
「よ、避けた!?」
「怯むな、撃つんだ!!」
こいつらは全員、セイントインフィニティのマークである∞の形をしたペンダントを下げている。つまり……操られたわけじゃないんだ。
「殺すのに躊躇は要らんな!!」
「死ぬのは貴様だ、エラーめ!!」
「……っ!?」
なに……銃弾が体に突き刺さる。エラーが効かない……!
「効いてる……? 噂だと効かないって……」
「我らが絶対神、インフィニティ様から頂いた特別な銃と銃弾……エラーへの耐性を持たせるのに時間がかかったようだが……これで殺すことができる!!」
「……奴も学習したか」
痛みを掻き消して、ただ目的に猛進する。その邪魔をするなら、跳ね飛ばして進むだけだ。無論、目の前のこいつらも。
「っがぁ……!!」
「くそ……なんて馬鹿力だ!! たった一撃で頭蓋骨を……!!」
「邪魔するな、死にたくないならとっとと逃げろ!!」
そう叫びながら、一撃で殺していく。また、列車内と俺が血塗れになった。
「ひ、ひぃぃ……! なんて野郎だ……!!」
「お前で最後だァ!!」
「げ、っえぇ……」
血反吐を被って、戦闘が終わった。幸い、最新式の電車だったので自動停車した。乗り換えないとな……
「これが占拠された電車だ……! 大丈夫ですか!? って……え?」
「何人いたかは数えてませんが、50人程いました。相手は銃を持っていて、撃たれてから反撃しました……正当防衛ですよね? 行きたいところがあるので、次の列車に乗ります。それでは」
「えっ、治療は……ちょっと!?」
そう言って、次の列車に乗り込んだ。今度はいなさそうだな……そう思いつつ、座席に座っておく。
「……全然動けるな」
これが『狂気』か……殆ど痛みを感じない。人って余りに怒りすぎたり、憎すぎたりすると、そういう感覚まで消えるんだな。それは普通の人間から逸脱している……『狂気』と呼ばれても仕方がないだろう。俺は傷を隠しつつ、終点まで乗り……
「……奴の反応はここだったな」
その反応がある場所に向かう……ここだな? ビルの最上階だ……これまた、随分と分かりやすいところにあるんだな。バカなのか、それとも俺なんてすぐ殺せるという余裕か……
「俺も舐められたもんだ……!!」
そう思って、中に入る。ご大層な扉だな……だけど。
「対エラー工事はまだだろ!!」
そう叫びつつ、破れなさそうな扉を無理矢理消して進む。
「……チッ。無人トラップか……部下はあの攻撃に回したようだな」
上等だ、全部壊して進んでやる。壁を破り、罠を消し去り……進んで、最上階にようやく着いた。
「……出てこい!!」
奴への宣戦布告の代わりに、ドアを飛ばして攻撃する……ドアは誰にも当たらず、壁にぶつかって止まった。
「どこに行った……出てこい、腰抜け!! 殺してやる!!」
叫んでも返事はない……おかしいな、確かにここに反応があるのに……
「……これは……!?」
そこには、奴の服と思わしきものがあった。例の制服だ。持ち主以外が触れると壊れるようになってるんだが……直接触れなきゃいいだけだもんな。警戒を解いてなかったのは、いると思わせるためか。
「用意周到な奴だ……だが、他の奴はしなかったのに……何故こいつだけ?」
奴らは『俺を殺す』ことが最重要の目的だった……だから奴らは、こちらから襲ってもいいけど、あっちから来てくれても返り討ちにできるから、別に外す必要もなかった。つまり、この男には別の目的がある……?
「……一体なんの目的が?」
頭を捻る……そして、最悪のことが思い浮かんだ。
「……元樹!?」
そうだ。元樹も狙われていた……俺の次にだけど、『デバッグ』する気でいたんだ。最近俺のことに集中しているから、大丈夫だろうとタカをくくっていたが……
「油断した!! つまり、奴が今いる場所は……!!」
最悪のパターンだ。無事でいてくれよ……そう思って、また新幹線に乗り込んだ。
「……なんだよ、これ」
地獄絵図。その言葉が一番似合う……カルミアの時より、酷くやられている。奴はどこだ……!? そう思っていると……信じられないものを目にした。
「……元樹?」
やられてる……ボロボロだ。そんなに強いのか……
「樹……? 来て、くれたのか……ははっ」
「……安心しろ。仇は討ってやる」
「あっ、ちだ……ごめん、やられて……情けねぇなぁ……」
そう言って、無力感に涙する元樹……その涙を拭って、怒りを強めた。
「……覚悟しろ、ゴミクズめ……お前の人生、今すぐ強制終了してやる!!」
そう言って、指刺された方に走ると……聞こえる。敵と思わしき存在の声が……他の聞こえてくる声は、俺が迷惑をかけてしまったジギタリス曰く『ゲーマーズ』にあたる人達の声だ。
「くそったれ!!」
「フン……遅いなぁ……」
「がっは……!!」
また、やられた。罪のない人が、瀕死にされている……
「黒ちゃん! くっそぉ……!!」
「弱い……! お前もだ!!」
「うぁっ!!」
どんどんやられていく、走っているのにその間に罪のない人が巨悪に蹂躙されていく。憎悪が、罪悪感が……俺を突き動かす。
「……貴様ら全員、弱いっ!!」
「ころさん、危な……うぐ!!」
「おがゆ!? ぐぅ……!!」
くそ……もう、ここまでやられたか。あと少しだ!!
「どうした? 極悪人……仲間の仇を討ちたくないのかァ!?」
「っ……うぁぁぁーッ!!」
「弱いわァ!!」
轟音が響いた。地面に大きく叩き付けられたことは、想像に難くない。
「っ、か、ぁ……」
「ミ、オ……みん、な……白上は……!!」
「まだ立つか……いいぞ、歯応えがなくては悪を倒しても『クリアした』気になれんからな!! かかってこい、白上フブキッ!! このゲームの難易度を上げてくれよ!!」
着いた、あとは突撃するだけ……というところで。
「奥義!! 妖狐白炎斬ッ!!」
「……それで、終わりか? 終わりなのか……!?」
「そんな……白上の、全力全開が……」
白上さんの刀が、片手で受け止められている。激しく燃える白炎を纏い、重量の乗ったその一撃は……簡単に受け止められた。
「つまらん!! つまらな過ぎるゥ!!」
「あっ、ぐ……ムラサメ、マル、が……!!」
「どうした白上フブキィ!! さっきまでの威勢はどうした!? 覇気はどこにやった!? ボス戦のはずだろ!? どいつもこいつも!! まともなのは主人公様くらいだ!! どこかに……強いボスは、いないのかァ!?」
もう一度殴られて、もう立つことすらままならないようだ……鼻血に、吐血している人もいる。なんと惨いことか……
「いい加減にしろ……俺のいない間によくもやってくれたな」
「ん……? そうか、ようやく来たなぁ!! エラーよ!! 待ちわびたぞ……本当にな!! この学園には弱いやつしかいない……話にならんッ!! 何の面白さもない!!」
「……どうして俺から逃げた?」
そう尋ねると……奴は言った。
「『逃げた』だと? 違うな……何もお前をバカ正直に狙うばかりが戦いではない。ここを狙えばお前は来る、何もせずに待っているのは性に合わなかったのでな。主人公様を倒し、連れ帰るところで『ヒロイン』達が抵抗してきたため戯れに戦ったのだが……期待はしていなかったとはいえ、幾らなんでも弱すぎるぞ!! これでは私の『物語』が成り立たなくなるッ!! どうしてくれる!?」
「……物語だと?」
「そうだ、私はセイントセブン……誇り高き名を冠する神の遣い!! 我が名は『正義』のリンドウだッ!!」
こいつが『正義』か……! どでかい大男だ、他とは雰囲気が違う……強いな。
「だ、誰と……話してるの?」
「物語ってのはどんなシナリオだ?」
「勧善懲悪、それだけだ。私……つまり『正義』が勝利し、『悪』が滅び去る。それこそが私のシナリオ……そして、『正義』が一番輝く時はいつかわかるか?」
答える気になれないので、歯軋りをしながら返す。
「答えん。答えてやる義理もない」
「つまらんな……正解は『巨悪を乗り越えた時』さ。その悪が強ければ強い程、私の『正義』は輝く!! だから私は、悪とは強く在らなければならんと思っている……倒し甲斐がなくては、私の『正義』が輝きを失ってしまうからな。だがこいつらはどうだ、余りにも弱すぎる!! 何故これ程までに弱い……? これでは、私のシナリオが!! 正義が!! 腐ってしまうだろうがァ!!」
「……要するに、正義の味方になりたいんだな」
他の奴と考えてることは変わりない……自分の安心や立場、快楽のために……他人を切り捨て、邪悪に認定して、惨たらしく殺す。そのためなら、悪以外の人が死んでも構わない……それが、奴らの考え方だ。
「『なりたい』だと? 違うな……私は既に正義の味方だ!! 誰が何と言おうとも、私の『正義』は揺らがん。それが間違いのはずがない、私は正義の名を冠しているのだから!!」
「正義の味方を名乗って、残虐な行為をしてたらそれは立派な極悪人だろう。この惨状が見えんのか? 彼女達はエラーじゃない……いつもそうだ、お前達は『正義』だとか何とか言って、俺だけじゃなく、俺とは関係のない人まで平気で巻き込み、殺し、踏み躙る。だから俺は貴様らを憎むんだ」
構える。狂気の蓋を開けて、思いっ切り腹の中にぶち撒けた。グツグツと煮立ったそれは、体中を駆け回って……俺のドス黒い感情を強めた。
「私達の信念の崇高さを理解せず、正義を否定し、仲間を殺し、醜い殺意を隠そうともしない……何という強大な邪悪だろう!! だが、そうでなくては私の物語がつまらなくなってしまう。これくらい邪悪で狂っていれば、倒した時の私の『正義』の輝きも一層増すというものよ!!」
「邪悪は貴様らの方だろうが、ゴミ共……今すぐこの世から消し去ってやる。物言わぬ白い肉になる覚悟はできたか? 言っておくが、拒否権はないぞ」
「いいぞ! それでこそ『巨悪』!! 『大ボス』だ!! 私が主人公の物語……ハッピーエンド前の前座としては、これ以上ない相手だ!! 正義の味方として、貴様は生かしておけん!! 絶対神インフィニティの『正義』のもとに……滅び去れ、『ラスボス』!!」
奴が構えを取った……使ってくるか。
「さっさと使え。持ってるんだろ? 『infinity blessing』を」
「そうだな……『ラスボス』戦でせっかくの力を出し渋っては勿体ない。ラストエリクサー症候群はごめんだ……神の力を見せてやるぞ!!」
「来いよ……殺してやる」
奴は合掌し、跪いて祈りを捧げた。俺はそこに殴りかかろうとしたが……
「無粋な奴だ、今使おうとしているのだから、じっとしていろ……!!」
「変身中だけ都合よく待ってくれる、敵の方がおかしいだろ!!」
「それもそうだな……だが、もう祈りは捧げた! 『infinity blessing』起動! 『justice hero』!!」
奴はそう叫んで、力を込めた……辺りの地面がオーラだけで吹き飛んでいく。
「パワータイプ……? グロリオと被ってるぞ」
「違う。今から見せてやるから……よく見ておけよ!!」
「向かってくるとは……命知らずなのか、それとも無知なのか……!!」
そう言って、エラーの拳で殴ろうとすると……奴は突然、何かを言った。
「『私は勇敢にも突撃し、邪悪なエラーに無傷で打撃を与えた』!」
「……なに!? バグらないだと!?」
「そこだ!!」
踏み込む音と共に、腹を殴られた……それよりも、確かに殴ったのにも関わらず、エラーが効いていない。どういうことだ? また『EVENT』か?
「貴様……『EVENT』が使えるのか……!?」
「似ているが、少し違う……言っただろう、私は正義の味方だと。なったつもりになっている男ではない、私こそ『正義の味方』なのだよ」
「どういうことだ……?」
俺がそう尋ねると、奴は笑いながら言った。あとエラーを解除しておいた、制限時間が短くなってるからな。
「ワハハ、わかりにくいか? じゃあ、説明してやろう。私は『正義の味方』、つまり『主人公』だ。ところでお前は『主人公補正』というものを知っているかな?」
「……貴様、まさか」
「察したか……そう! 『justice hero』、つまり『正義の味方』イコール主人公!! 私が自分を『主人公』だと思っている限り、この能力を発動している間は、世界がその通りの展開になって私の味方をする。だって私は『正義』にして神の遣い、主人公なのだから!!」
……奴の言葉、まるっきり嘘じゃねぇかよ。
「……カルミアが、『私達は実力的に平等だ』なんて言ってたが……嘘じゃねぇか。どう考えてもお前が最強だろうに……」
「そうでもないぞ? 『infinity blessing』を発動している間は、他の能力の影響を受けん。だから私の『主人公補正』は効かんのだ……本来できない動きをしたりすることはできるが、今のように攻撃を無効化したりはできんのだ。つまり『相手の攻撃は効かない』『能力がなくなった』とはいかないのだ。もしもカルミアやグロリオが相手なら、私も怪しいかもしれん。カンストダメージを与えても、グロリオは倒せんし……カルミアは死なない上に、無効化できない自爆ホープバーストは厄介だ」
「……なら、俺にはできるってことかよ」
エラーを消すこともできるのか……? そうなら俺は詰みだ。
「出来るはずなのだが……貴様のエラーは想定を超えている。なので、私の能力でも完全に無効には出来んのだよ。だが、お前の殴打はエラーを含んでいる以外は『普通のパンチ』だ。だから、『そのパンチによる影響が一切ない』とすることで、エラーを通らなくしたんだよ。そもそも、エラーを注入できているのは『影響を与えた』というプログラムの受け渡しに、お前のエラーが含まれているから、私達が処理しきれず処理落ちしているのだ。それがそもそも無ければ、処理落ちせんのも当然だろう」
「チッ……ここに来て、規格外のチート野郎が出てきやがったな……奴も焦ってるってことか」
「私にお前は絶対に勝てない……何故なら、お前は普通の手段で戦うからだ。私に勝つためにはプログラムの例外である『infinity blessing』があることが大前提。だがお前にはそれがない……殴ろうが蹴ろうが、エラーを注入できなければお前は、ただの弱い人間なのだ。本来強い相手を、さらに強すぎる力で捩じ伏せる……そして相手が絶望して、死にかけているところをかっこいい『必殺技』で〆る!! 完璧なシナリオだ!!」
なんて野郎だ……こいつはまず、何もしていない通常状態で戦う。敵が弱かったら、文句を垂れてそのまま殺す……もし『強い』と分かれば、さらに強い力で無理矢理上に立ち……相手が絶望したところを、とことん痛めつけた後に……それこそ、特撮のヒーローのように必殺技で〆るのだろう。
「……ひとつ聞こう。他の奴らは……グロリオやカルミアといった奴らは、お前にとって何だ? 奴らは負けたから、正義の味方じゃないのか?」
「あいつらは『サブヒーロー』さ、主人公と同じ志を持ち、共に戦う者達……それが死んだ時、主人公は更に奮い立ち、正義に燃えるのだ!! 今の私は正にそれだ……彼らの犠牲も、また私のシナリオを彩るアクセントなのだよ!!」
「……仲間の死すら、お前にとっては『正義の味方』である自分の物語の引き立て役でしかないってか……」
じゃあ、今倒れているこの人達は……特撮とかで湧いて出てくる雑魚敵か? そして、俺はラスボス……奴はヒーローショーをやってる気分なんだ、その気分で人を殺めて……シナリオを作って理不尽な『主人公補正』で全てを解決し、無理矢理『ハッピーエンド』にする……そこにどれだけ罪のない人の血が流れていようと、それには全く触れないどころか『バレなければいい』で放り出し、『悪を倒した自分は正義』でおしまいってわけだ。なんて理不尽なのだろう……
「感謝しているよ、私の物語を更に引き立ててくれたことにな……他の者も強かったが、やはり最後に勝つのは私なのだ。私以外が勝つことはない……何故なら、お前の勝ちは私のシナリオの中にないからだ!! 雑魚掃除を終えて、あとはラスボスだけだ!! 全てに決着をつけてやる!! 覚悟しろ、『悪』め!!」
「上等だ、ゴミカス……!! そのくだらねぇ三文以下の芝居……燃やし尽くして、俺が書き直してやるよ!! お前も、『信仰』も、大神官もインフィニティも死ぬシナリオにな!!」
「大口を叩くなら……やってみるがいい!! 『私は義憤に燃えて懐に潜り込み、傷を受けずに奴へと正義の鉄槌を叩き込んだ!!』」
奴が『シナリオ』を言えば、全てがその通りになる。『EVENT』と違って、形がないせいで対策のしようがない。武器を使ってないのは……多分、それが『必殺技』なんだろう。俺の体を一撃で砕かないのも、『ラスボス戦』を一撃で終わらせちゃつまらないから。
「くそったれ……っ、なに!? 昨日よりもさらに早くなっている……!? さっき、解除しておいたのに……」
「お前は昨日、無理矢理エラーを増やして破壊できる対象を増やしたが……『エラーの増殖スピードの上昇がそれだけで済む』なんて、都合のいいシナリオが『お前に』やって来るとでも? そんなわけないだろう……」
「嘘だろ、おい……」
右腕が止まってしまった……ひとつ止まるのが30秒台になっている。このまま減っていけば、戦いは困難を極めるだろう。
「そんな顔をするな、まだ戦闘は始まったばかりだぞ!! 『私は一瞬にして奴の後ろに回りこみ、地面を蹴りつけて強烈な膝を奴の腰に見舞った』!!」
「ッ、ワープ……!? っぐ!!」
「シナリオ通りだな……我が正義の物語に一切の狂いなし!!」
回り込んだんじゃない、絶対にワープした。世界そのものが奴の味方をしている……まだ出てきていない『信仰』も、これと同等かこれ以上の能力がある。腕のエラーを解除したいがために、奴の会話を引き出す。
「お前の能力……本当に何の欠点もないのか!!」
「ない、正義の味方は完全無欠だ!! ……と言いたいところだが……あるにはある。欠点と言えるかも怪しいが……一つ、世界の法則に反することは、言ってもシナリオに入らない。例えば、『ゲージはこの世から消え去った』とかが該当するな……そして、二つ。私の理解できないことや、常識的におかしいことは言ってもシナリオに入らない……『私は空を飛べる』『民家を引き抜いて武器にする』などが該当するな……まぁ、そんなことをする気はないが。知ったところでどうにもできまい?」
「……チッ。本当に無敵じゃねぇかよ……」
俺の攻撃手段は、素手だ。それ以外は持つと『エラー』のせいで消えてしまうから、素手で戦う以外の選択肢がないのだ。まぁ、武器があれば変わる状況でもないがな……本当にどうするか。腕は一応戻ってきたが……踏み込んで、拳を奴に叩き込みに行く。
「正義の味方はどんな時でも無敵……絶対に勝利し、敵を捩じ伏せ、カッコよく〆て決め台詞で終了! そして、最後は絶対ハッピーエンドだ! それ以外有り得ない、だって私は『正義』なのだからな!!」
「くそったれぇ!!」
「殴ればなにか変わると思うか……? それなら生憎だな……『私は相手の攻撃を受けたが、何の影響もなくて拍子抜けだった』」
……くそ、本当に効いてねぇ。こいつの常識が通用しない攻撃? どうしろって言うんだよ……
「さて、そろそろ燃えるラスボス戦も終わりにするかな……『私は一瞬にして、巨悪である馬場樹に近づき、何一つダメージを受けることなく行動不能にした』!!」
「ぎっ……足が折られ……!!」
「さぁ、終わりにしようか……!! 特殊番号06、『ジャスティスアックス』!!」
一瞬のうちに拳が有り得ない速度で叩き込まれ、どうやら奴は……俺を斧で叩き割る気らしい。俺は激痛が走る足をどうにか動かして、距離を取ろうとしたが……
「っ、ウィンドウの壁……分厚すぎて、一発じゃ破壊できん……!!」
「その通り……誰一人、主人公の必殺技を避けてはならんのだ。そして、当たった相手は必ず死ななければならない……お約束ってやつだな」
「く、そ……!!」
奴はもうそこまで来ている。必殺技を出す気でいるんだ……
「終わりだ! 結局どうにもならなかったな、『ラスボス』!! 喰らうがいい、正義の鉄槌!! 『ジャッジメントスマッシャー』ッ!!!」
「……そうだ!!」
「何を思いつこうとも、もう間に合わんさ!! 自分の頭の悪さを精々地獄で呪うのだな!!」
奴の斧が真っ白に輝く……あれを喰らえば恐らく、俺は真っ二つじゃ済まないだろうな。普通の斧じゃないんだ、どうなるかは想像もつかない。でも……これならいけるかもしれない。というか、これしか思いつかない……これまで憎しみが先行して、やろうとも思わなかったが……!! そう思って、俺は……目の前のウィンドウに手をかけた。
バイくん、果たしてどうするのでしょうか。