(本編完結)ホロライブラバーズX infinity 作:とも667
決着は近いです。
これは最後の賭けだ。失敗すれば、ここにいる人達もまとめて死ぬ。俺は手をかけたウィンドウをいつも通りバグらせて……そのまま、掴んだ。そして、奴の斧を今取ったウィンドウで防ぐ。
「……なにぃ!?」
「どうやら、成功らしいな……!!」
「ウィンドウか……!? しかし、何故……」
俺はウィンドウが憎くて仕方なかった。だから、見つければ『破壊』以外の選択肢は頭から消えてしまっていたが……エラーで破壊できるようにしたものを、俺のエラーを追加でぶつけて破壊している。なら……破壊せず、そのまま掴めば? 普通の人間には全く影響がないだろう、だが『見える』俺達にとっては……
「これが……最強の盾と矛だ!!」
「っ……破壊できん!! 破壊できるのはエラーをぶつけられる者だけ……くそっ!!」
「お前は『ウィンドウやゲージを消す』とかの『世界の法則に反すること』は『シナリオ』に組み込めないんだったよな? なら……その強い斧も、システムメッセージを破壊できるようには出来てないはずだ!!」
ここまで強い力を与えたんだ、反乱とかを考えないはずがない……『ウィンドウ』を破壊できないようにしておけば、すぐに動きを封じられるし、ウィンドウを破壊できるようにしておく理由がない……!!
「チッ……だが、それを手に入れたところでお前はただのエラー人間だ! 『私は後ろに回りこみ、怒りの一撃を叩き込んでお前を殺した』!」
「効くかぁ!!」
「このまま戦い続ければ、お前は疲れて動けなくなる……私のスタミナは能力のおかげで無限、お前はどんどん疲れていく! 負けるのがお前であることに依然変わりはない!!」
それはどうかな……そう言う代わりに笑って、武器を持つようにウィンドウを持った。
「うぉらぁぁ!!」
「その程度、避けられるに決まっているだろう!?」
「隙あり!!」
バグったウィンドウを、ブーメランのように投げつけた。奴は突然の事態に焦っているようだ……
「ッ!? 『私は飛んでくるウィンドウを間一髪躱した』! ……ぐぅぅっ!!」
「……そんな状況、有り得るわけないだろうが。自分で言ってただろ、『意味のわからないことはシナリオに入らない』って……!!」
「な、なんて戦い方だ……!! ウィンドウを投げる!? そんなのありか!?」
未だバグって、修繕されていないウィンドウを持ち直す……これなら効くようだ。奴は左腕が動かないようだな……
「これでようやく対等だな……!!」
「……まだだ! 私は正義の味方……ラスボス戦は追い詰められて逆転が王道だ!! ここから逆転して、ハッピーエンドに持ち込んでやる!!」
「そう上手くいくかな!?」
そう言い合い、奴がまた『シナリオ』を作り始めた。
「これならどうだ!?『私は目にも止まらぬスピードで敵を翻弄し、体中の骨を砕いた』!!」
「……うらぁ!!」
「ぎぃっ!? な、何故わかった……!?」
ビンゴ、まずは真正面から来ると思ったんだ。奴は、自分を『主人公』で『正義の味方』だって本気で思ってる。主人公はまず、こういう時にどこから行くか……それを考えれば、答えはわかった。
「どうやら、完全に想定外のことが起こると『シナリオ』は中断になるようだな……!」
「くそ……こんなことが!! 私の能力が効かないなど……!!」
「有り得ない、とでも!? いいや有り得るね!! だって、今俺に効いてねぇじゃねぇか!!」
今、奴の腹を殴った。これで右や左に体を捻ることができなくなったな!!
「正義は負けん……!! 有り得ん!! 何故なら私は、インフィニティ様にお褒めの言葉を頂いたのだ!! それ程までに強い私が……エラー如きに、敗北して死ぬだと!? そんなわけがない!! そんな運命は……インフィニティ様は作らない!!」
「作ったのはインフィニティの野郎じゃねぇ!! 俺が今作ったんだよ!! お前は負ける、信仰も俺に負ける!! 大神官もインフィニティも死ぬ!! 俺に殺されるんだ!! それが……俺の作ったシナリオだッ!!」
「そんなシナリオがあってたまるか!! そんなシナリオは今すぐゴミ箱にぶち込んでやる!! 『私は奴の後ろに立った』!!」
こいつの欠点は、『シナリオ』を言わなきゃならないことだ。普通、言ったところで『何の影響も受けなかった』とでも言えば、ダメージは0で痛いのは敵だけ。だから、相手に戦法を知られようが何だろうが、一切問題ないんだ。けど……どうやら、例外に出会ってしまったようだな!!
「そこだ……!」
「甘い!!」
「っ、流石に躱すか!」
能力を完全に補助役として利用し始めたな……そう、こいつは他のセイントセブンと違って、素の戦闘能力まで高いのだ。素の強さならこいつが一位で間違いない……!! 奴は地面に着地して、こちらに向かってきた。能力は使わないらしいな、使えばバレてしまうから……!!
「ぬぁぁっ!!」
「そんなもの……!!」
「ちぃっ……!!」
ウィンドウで体を守れば、奴は手を出せない。触れればエラーが体に入るからな。
「……! デバッグ、完了……!!」
「……ジギタリスもそうだったが、奴も俺や他の人に『EVENT』を投げたりして、俺を殺そうとしてるみたいだったな。お前も奴の補助を受けてるのか」
「その通り……! 腕が戻ったぞ!! ありがとうございます、インフィニティ様!!」
これまでは短期決戦だったから、デバッグされる前にどうにかできていたが……時間をかけると対策されるようだ。
「そして……耐性もついた!! もう忌々しい力は効かんぞ!!」
「っ……くそ、エラーにならなくなったってわけか!!」
「これでまたこちらが有利だな!!」
こいつは今までの奴とは違う……腕が治ってしまえば奴は……!
「今度こそ……!! 特殊番号06!! 『ジャスティスアックス』!!」
「やっぱりそれか……!」
「喰らえ! ジャスティスブーメランッ!!」
こちらに斧を投げてきた……俺はウィンドウを構えて、攻撃を防いだ。
「ぬぅぅ……!! お返しだ!!」
「当たるかぁ!!」
「チッ……」
奴は斧を回収して、俺もウィンドウを回収した。戦況に変化はなし……強いな。
「な、に……? 誰が戦ってる、の……?」
「え……? 誰も、いないのに……どう、して……」
「戦って、くれてる……?」
起きたのか……俺のことはやはり見えていないようだが。他の人も、意識を取り戻してきている。どうやら、獣人とかの人間でない人達は、傷の治りも早いらしい。
「どこの、誰……?」
「……生きていたのか!? お約束を守れ、雑魚共……!! いいか、雑魚怪人は一度やられたら……その話では二度と登場してはならんのだ!!」
「っ……!?」
奴は怒りのままに、斧を振り上げた。
「全員まとめて砕け散れ!! 『ジャスティスウェーブ』!!」
「っ、危ない……!!」
「……狙い通りだ!!」
何だと……そう言う前に、斬撃の波動が次々飛んできた。俺はウィンドウを構えたが……奴はそこで、ニヤリと笑った。
「『ジャスティスクエイク』!!」
「なっ、地面が……!!」
「『幸運にも、私の技の影響で出来た尖った石は悪しきエラーに全て突き刺さった』」
奴がそう言った時には、もう遅い。最初から奴は、俺を誘導するために……防ぎきれない石が、俺を四方から襲った。それはまるで、俺を取り囲むナイフの群れ。
「ぐぅ……!!」
「そこだァ!!」
「う、後ろ……くっ!!」
上から振り下ろされた斧を防いだが、その隙を突いて奴の鉄拳が腹部に叩き込まれた。さらに、奴はその場で右足を軸にして回転し、俺に奴の足裏が迫っていた。
「ぐぉ、え……」
「隙あり!!」
「ぐっ……!!」
血反吐を吐いた後、大きく吹っ飛ばされて壁に激突する。それを見ていた皆さんは……状況が理解できないのか、混乱する様子を見せていた。
「え……え? どこから血が出てるの……?」
「斬撃が目の前で止まった……?」
「さっきから何と戦ってるの……?」
奴は、皆さんの方に向き直った。まずい、殺られる。やらせるわけには……そう思っている時に、腕が動かなくなった。ウィンドウを手放してしまう……
「……こんな、時に……!!」
「『私は愚かにも復活した正義の敵の後ろに回り込み、あっさり殺した』」
「フブキ! 避けて!!」
いけない、避けられないぞ。そう思って、俺は片方のウィンドウを投げつけた。
「チッ……邪魔をするな!!」
「っ……!!」
「え……斧が弾かれた? 何に?」
体に鞭を打って、奴を迎え撃つ。エラーは解除した、使い物にならないからな。
「これでウィンドウが無くなったな!! 今度こそ砕いてやる!!」
「くそ……こんなことで……諦められるか!!」
「ジャスティスブーメラン!!」
必殺技は俺に武器を与えることになるから使えないが……他の技なら使える。喰らったらまずいな……!!
「くっ……!!」
「そう避けると思っていたぞ!!」
「っ、ぐ……!!」
奴の体重を乗せた脳天への拳をどうにか躱す……当たったら大事な腕や足が無くなるんだ。回復薬でも失った四肢や眼球は戻ってこない……こいつの一撃を喰らえば、絶対切れ込みじゃ済まないだろう。
「奴らなど、一撃でまとめて片付けられる……お前を殺してから、ゆっくり殺してやるさ!!」
「何故だ!? もう戦えないんだぞ……!! それに、俺にも元樹にもあの人達は関係ない!! 利用するのでもないのに、殺す必要性があるのか!?」
「……何を言っている? 一度戦った相手はどんな相手であろうとも、死ぬまで痛めつける。それが『正義の味方』だろう? 主人公様を半殺しにして、持ち帰ろうとしたところで、こいつらが邪魔に入った。だから戦ったんだ……我らセイントセブンの『正義』に逆らうなら、死あるのみ。インフィニティ様は絶対的な正義なのだ、それに適合できないなら生きている資格などない。私のシナリオを彩らせてやったんだ、寧ろ感謝して欲しいものだな!!」
そんなわけあるか。あってたまるものか……! この屑野郎!!
「一切客観性のない正義なんて……正義であってたまるか!! 神とか何とか、意味不明な理屈を言って殺すのは正義じゃない……!! お前が手を出さなきゃ、皆さんは何もしなかった!! 手を出したから反撃したんだ、それのどこに責められる要素がある!? お前の正義は身内以外誰のためにもなっていないし、罪のない人がそのせいで死んでいく!! それを人はテロと呼ぶんだ!!」
「私がテロリストだと……? そんなわけがないだろう、インフィニティ様の意向に従って戦うことこそ正義なのだ!! それに従わない愚か者や、異常なエラーを全て排することこそ正義!! 正義のためなら……たとえどれだけ犠牲が出ようと、悲しむ人が大量にいようと!! 神のためなら、何もかも正義なのだッ!!」
「このクソテロリストがぁ!!」
そう言って殴りかかる。奴はそれを避けようとしたが……避けたところに、素早く踏み込んでマッハパンチを叩き込む。片腕に当たったが……奴は楽しそうに笑っている。シナリオが完成していくことへの喜びだろう。
「っぎ……ハハッ、いいぞ……やはりそうでなくては!! シナリオはまだ終わっていない!! 強いお前を討ち倒した時こそ、私は正義の味方として完成するのだ!!」
「なら永久に完成はできないな、この場でお前は死ぬんだから!!」
「虚勢を張っていられるのも今のうちだ!!」
奴はそう言うと、またこちらに向かってきた。
「くぅ……!」
「止まったッ! そこだぁ!! 喰らえ、『ジャッジメントスマッシャー』!!」
「っ!!」
まずい、虚を突かれた。咄嗟にエラーを使い、ウィンドウで防御したが……
「わかりやすいな……そう来ると思っていたんだ!!」
「なっ……ぐぅ!?」
「喰らえ!!」
重たい斧の一撃。腹を殴られて怯んだところに、振り下ろされた……防げない。その時……
「うぉあぁぁぁッ!!」
「な……主人公様!?」
「元樹……!? 今こっちに来たら……!!」
元樹が、体中から血を流しながら来た。『スパークルカット』で動きを封じようとしたようだが……避けられた。フラフラとして、今にも倒れそうだ。
「う、ぐっ……こんな、こと、で……俺は……負け、られ、ねぇんだ……!!」
「『私は、死なない程度に加減をして主人公様の後ろから殴った』」
「あ……っ、か……」
元樹もシナリオにやられた。最後の一撃は、リンドウに届かなかったのだ。あんなに、ボロボロになって……俺のことを。
「フン……万事休すだな。終わりだぞ、エラー」
「エラー……そこに誰か、いるんですか?」
「何にもないところから血が出てるし……幽霊?」
幽霊……そうだな、今の俺は幽霊みたいなものだ。
「……観客がうるさいな。正義の味方に観客は必要ない……奴らは私のヒロインではないのだ。先に消えてもらってもいいが……」
「やめろぉっ!!」
「っぐ……やはり、そうでなくてはな……!!」
ウィンドウでぶっ叩く。奴の強靭な体は、この程度で壊れない……強制終了できないのが、何より厄介だ。
「幽霊、さん……頑張って……!」
「……そうだよ! みんなの、仇……!!」
「おがゆの仇……!! そこだ、ぶん殴れ!!」
俺への声援。見えなくても、応援してくれる……目の前の希望を信じてくれる。それだけで力が湧いてくるんだ……
「ボク達の、代わりに……そいつを……!!」
「……うるさい観客共め。『私は奴らの見えないスピードで移動し、奴らを絶命させた』」
「させるかっ!!」
奴が来るであろう場所に、ウィンドウを2つとも投げた。一発だと避けられそうだから、避けられた時のことも考えた投げ方だ。奴には当たったから、これでシナリオはキャンセルのはずだが……
「ぬぐっ……なんてな?」
「っ……!?」
「『ジャスティスウェーブ』!! 『主人公様とエラーを除く、私に挑んできた愚か者全てに突き刺さった』!!」
ウィンドウは、今の攻撃から皆さんを守るために手放してしまった。斧から放たれた光の斬撃達は無慈悲にも、そこにいた皆さんに一つずつ突き刺さったのだ。血が、さらに溢れ始める。こいつのせいで……
「あ……」
「……これでも死なんか。まぁ、後は放っておけば死ぬだろう。さぁ……フィナーレだ!! 物語の結末を見せてやる!!」
「……」
俺のドス黒い感情が、限界を超えて溢れ出す。それは体中を満たして……痛みを消し飛ばした。
「ん、なんだ……?」
「殺して、やる……!!」
「やってみろ、できるならな」
今ので、また時間が短くなっただろう。感覚でわかるんだ。そう思いながら、踏み込む。マッハパンチをぶち込んだ。
「……フン、その程度……!? う、腕が動かん……!? 何故!? 確かに対策はしたはず……!!」
「皆さんの仇は、討つ……!!」
「……そうか!! エラーが人間に発生したのに、あろうことか使いこなしていることそのものがおかしかったのだが……理由がようやくわかったぞ!! 人間は母親の腹の中で、何億年もかかる進化をほんの一年程度に短縮して産まれてくる……そして、産まれてからも最初は原始人に近い性質なのにも関わらず、たった三年足らずで人間への進化の過程を終えてしまう……人間がエラーに適応して進化すると同時に、エラーも持ち主の体に合わせて、ウィルスが変異するように変異を続けているんだ!! つまり、こいつの力は……対策のしようが……!!」
さっさと片付けなければいけないんだ。そう思って、ボロボロの体を無理矢理動かす。だって……皆さんは、元樹は、父さんは、母さんは……もっと痛かっただろうから!! この程度、痛い内に入らない……!! 踏み込んで、必殺の構えだ。
「いい加減にその口を閉じやがれ、クソ正義野郎ッ!! インファイトォォ!!」
「し、しまっ……がぁっ!! ぐぅおぁぁぁっ……!!」
「うぉらららららぁぁっ!!」
ここで仕留めなきゃ、二度とチャンスはない。今すぐ殺さなければいけないんだ……!!
「ま、だだ……私の、シナリオは、バッドエンドで、終わら、な……」
「黙れぇぇぇっ!!」
「げぶぁ!?」
早く、早くしなければ……そう思って、攻撃を止めない。腕がもげそうになっても、拳を止めない。
「消えろ!! さっさと消えろってんだよぉ!!」
「ぐぅ……『私は……』!!」
「地獄突き!!」
喉に一撃を叩き込む。これで喋れないな……!! 片腕が動かなくなったが、そんなことは関係ない!!
「ご、ごぅっ……!!」
「こいつで……くたばれぇぇぇ!!」
「ぎっ……あ、りえん……わ、たしが、バッド、エンドをむか、える、な、ど……」
奴はどんどん遅くなっていき……ついに。
『Rindou.exeは応答していません』
『行う操作を選んでください』
「……Rindou.exe、強制、終了……!!」
強制終了して、ウィンドウを閉じた。奴の体が一瞬にして掻き消える……終わった。だけど……被害は、甚大だ。
「……まだ、息はしてるな」
助けられるか? ……可能性は限りなく、ゼロに近い。傷口が大きすぎて止血できないし、血だってもう出すぎている。救急車が来るまでには、間に合わないだろう。だけど……
「父さん、母さん……俺は……」
もう、あんなのは見たくない。目の前でまた罪のない人の命を零すのは、絶対に嫌だ。俺は全速力で家に向かって走った。足が使い物にならなくなってもいい、とにかく走れ。俺は……家に帰って、とあるものを袋に全て詰めて、学校に戻った。
「はぁ、はぁ……!!」
回復薬の山。昨日飲んだ分を引いても、相当ある。それの蓋を開けて、目の前にいる人に飲ませようとする……まず、白上フブキさんだ。もう、殆ど息をしてない……
「頼む……飲んでくれ……!!」
「……」
「くそっ……!!」
飲み込むこともできないか……どうすればいい? そう考えて……もう、これしかない。そう思って、俺は一言謝った。
「……恨むなら恨んでもいい! だから……生きろ!!」
そう言って俺は、自分の口に回復薬を含んで……口移しで、無理矢理飲ませた。すると、顔色が良くなり、傷が塞がっていった……次だ、一番近いのは元樹……
「元樹……お前も生きろ、お前はみんなを幸せにできるだろ……!!」
そう言って、また口移しで飲ませた。元樹も顔色が良くなった……数に限りはあるが、足りるだろうか。そう思いながら、俺は次に向かった……
「……猫又おかゆだったか、散々迷惑をかけたな。俺はお詫びができないが……頼む。俺を恨んで、生きてくれ!!」
そう言って、また口移し。次……!!
「戌神ころね……アンタはあの人にとって必要な存在のはずだ。勝手に死ぬんじゃねぇ……!!」
また、同じことの繰り返し。
「大神ミオ、だったか……死んだら悲しむ人が沢山いるんだ、死んでやるなよ……!! アンタが死んだら、俺も悲しいしさ……!!」
そう言って、また……それを、ずっと繰り返していった。ジギタリスの時、戦った全員に……みんなリンドウに立ち向かったのか。恐ろしかっただろうに、逃げたくなっただろうに……それを振り払って、みんな戦ったのか。いい人達だな……だからこそ、死んで欲しくない。もう、一人たりとも零したくないんだ。
「……はぁ、はぁ……これで、全員か……」
「救急隊です! ここから通報が……な、なんて酷い有様……!! 辺り一面血塗れじゃないか……!!」
「どうしてこんなことになった……? 犯人はどこに? ……いや、そんなことはいい! 全員を急いで運び込め!!」
どうやら、奴と戦っていた時に誰かが呼んでいたようだ。怪しまれているようだが……まぁ、仕方ないだろう。死体は消してしまったのだから……
「……『信仰』の居場所は遠いな」
そう呟いて、俺はその場を去ろうとした……回復薬は全て使い切ってしまったので、俺の分はない。買っていくか……そう思った時。
「幽霊、さん……で、いいのかな?」
「……っ?」
「ありがとう……助けて、くれたんですよね? この、回復薬……幽霊さんが……」
……幽霊さん、か。見えないのに、本当に死ぬところだったのに……それでも、人にお礼を言えるんだな。本当に、優しい……優しすぎる。だから、あんな大怪我をしたんだ……
「……」
「何にも聞こえないし、見えないけど……優しい幽霊さん。助けてくれて、ありがとう……またいつか会えたら、お礼しますね! 強くて優しい幽霊さん!!」
「幻覚が見えてるのか……? 早く運び込め!!」
白上フブキは、こちらに手を振って……病院へと搬送されていった。
「……お人好しだな……お前と同じで……なぁ、元樹」
「……」
「汚い人間に殺されかけたりもしたけどさ……やっぱり俺、人間が好きだ……あんなに優しい人達を見ちゃったら、嫌いだなんて言えない……いいことじゃ、ないかもしれないけどな……」
元樹は起きてない。だけど……相棒と、最後の話をしておきたかったんだ。
「……」
「俺、行ってくるよ。決着をつける……生きて帰れたらまた会おうぜ? ……相棒」
「早く運ぶんだ、誰かが回復薬を飲ませたらしい……! だけど、一体誰が……?」
……元樹は運ばれていった。そこで俺は、ボソッと呟く。
「絶対、相討ちにはしてみせるから……ハッピーエンドの世界で、俺のことは忘れて笑ってくれ……頼むから、俺のためになんか、泣かないでくれよ……バカ元樹」
きっと、今世の別れだ。バイバイ、最高のお人好し。楽しかったぜ……最後まで気にかけてくれて、ありがとうな。俺はきっと、忘れないから……
「……行くか」
サイレンが耳を劈く。そんな中俺は、血塗れの学園に最後の別れを告げた。
「……っ、く……」
買った回復薬を飲み干した。これで、傷は治ったな。
「切符、買わねぇとな……」
そう呟いて、立ち上がる。ふと、思い出が頭を過ぎり始めた……多分、走馬灯に近いものだと思う。死ぬ事がほぼ確定しているから……見えてきたんだろう。
『樹! 元気に育つんだぞ!!』
『こら、樹! 野菜だけどけないの!! 好き嫌いしてたら大きくなれないよ!?』
『いや、器用だな……そこまでするかぁ?』
父さん、母さん……守れなくてごめんよ。俺はいい子じゃなかったな……親孝行すら出来ないまま、死なせてしまった。
『女の子にモテたい? ハッハッハ、お前ももうそんな歳か!!』
『いいね、似合ってる! 顔良いんだし、きっと寄ってきてくれるよ!!』
『モテる秘訣は強さだ、強くなれ樹!! 男は強けりゃ強い程モテるぞ!!』
そうだ、こんな邪な理由で始めたトレーニングも、今では目的が丸っきり変わってしまった。あの頃の方が、楽しかったけどな……未来に希望が持てていたから。
『そう落ち込むなって、樹! 初恋なんて実らねぇもんさ!!』
『次があるって、大丈夫だから……ほら、いつもみたいに笑って!』
『そんな辛気臭い顔してたら、せっかくの女の子が逃げちまうぞ?』
初恋は当然だが、実らなかった。密かに思いを寄せて優しくしてみたり、好意的に接してみたりしていたが、他の子と付き合っていたのだ。だけど、父さんと母さんのお陰ですぐ立ち直れた。でも……
『最後の言葉は『息子に手を出すな』だったよ』
奴らのせいで……俺がエラーになったとかいう、意味不明な理由で……感染するわけでもないし、迷惑かけてるわけでもないのに、殺されかけて。反撃したら、狙われて……肉親を失ってしまった。ずっと俺に本物の愛情や勇気を与えてくれていた、光の塊は……一瞬にして、焼けた人肉の塊に変わってしまったのだ。
「……守れなくて、ごめん……」
そう呟きながら、俺はゆっくりと歩を進めた。こうして歩くのも、これで最後だ。今日を最後に俺は人間から肉の塊に変わるのだから……他でもない、神を道連れにして。
「インフィニティ……今、お前を殺しに行ってやるぞ……!!」
俺は復讐する。俺から全てを奪い取り、他人を平気で犠牲にする神に……そのお仲間も。まとめて殺す……あと三人だ。
『強くて優しい幽霊さん!』
「……幽霊さん、か」
『幽霊、さん、頑張って……!!』
俺は、幽霊……憎悪と怒りのみで現世にしがみついている、幽霊。だとすると俺は、既に死んでいるのかもな……生きていようが死んでいようが、俺は復讐を完遂するだけだ。その後どうなろうが、知ったことではない。気に入らないカミサマに一矢だけでも報いてやれるなら、俺の体も魂も全てくれてやる。
「首を洗って待っていやがれ……インフィニティ、大神官に『信仰』野郎……!! お前ら全員、地獄に道連れだ!!」
たとえ、奴らにとって正義以外の何物でもないとしても。他の全員が、インフィニティを正義だと言ったとしても。俺は奴を殺す、その邪魔をするなら……全員……
「殺してやる。かかってこい」
そう言うと……武器を持ったインフィニティの部下達が、一斉に襲いかかってきた。
「……はぁ。また回復薬、飲まねぇとな」
死体の山の中で、血を流す。回復薬の蓋を開けて、飲み干した……空き瓶をゴミ箱に捨てて、歩き出す。
「お前の生命は今日で尽きる。やりたいことをやっておくことだな」
そう言って、俺は駅に走った。他でもない……奴のいる場所へと向かうために。
「……はい、どうぞ……って、あれ? 誰もいない……? と思ったら、置いてあった切符もない!!」
驚く駅員を尻目に、特急列車に乗り込んだ。前の事例があるので、警戒して乗り込んだ……今回はいないらしい。それを確認しながら、俺は終点まで乗った。
「……え? 今、誰が切符を入れたんだ?」
本当に誰にも見えていないんだな……ありがたいことだ、お陰で戦っているところは見られないのだから。
「……ここだな。信号が微動だにしてねぇ……多分、大神官様の説教の最中だろう」
そう思って俺は……奴のいる、本拠地。セイントセブンのアジトに走った。
幽霊は進みます。