(本編完結)ホロライブラバーズX infinity 作:とも667
その場に大の字で倒れ込み、天を見上げる。修復が成されないのは……インフィニティの野郎が死んだ証だ。見えるのは……雲ひとつない晴天。日本晴れだ……これで復讐は終わった。
「……それにしても、我ながら派手にやったもんだ」
そこらじゅうに血や武器が転がっている……まるで、戦火の後のようだ。神と人間が1対1でやり合っても、普通はこうならない気がする。
「何はともあれ、勝ったんだよな……」
罪悪感はない。殺さなければならなかったし、何より殺したかった相手だ。清々しいし、達成感がある……けど。
「……なんか、気力が一気に無くなった気がする」
よくよく考えてみれば、至極当然の話だ。母さんと父さんを殺された時点で、俺は生きる意味を復讐以外に喪失している。俺はゴールに辿り着いた……これ以上先はない。
「ここが終点、ってことか……」
俺はもう誰にも認識されない。親孝行もできなければ幸せにもなれないんだ。でも、とりあえず……
「線香でも上げに行くか……」
力を貸してもらったんだ。それくらいしないと、筋が通らない。そう思って、俺はお線香を買いに行った。
「……あれ? いつの間に置かれてたんだ? なんでここに……うわっ、商品が浮いたぁ!?」
喋っても意味がないので、空中で商品を揺らす。早く会計をして欲しい。
「え、えぇっと……お線香一つで、350円になります」
お金を置いて、持っていく。
「ありがとうございました……ゆ、幽霊が自分でお線香買って行った……成仏してください」
……成仏できるかな、俺。
その後、俺は花を買ってから墓に行った。花を生けて、水を替えて……父さんが好きだったジュースを自販機で買って供える。そのまま、お線香を上げた……飲みやすいように、ジュースの蓋を開ける。強炭酸タイプの、グレープソーダだ。
「ほら、飲みなよ……俺の奢りだ。これ好きだったろ? 美味いぞ……ありがとうな。あの時、力を貸してくれて。父さんと母さんのおかげで、あいつは死んだ。もう蘇らないだろうよ……復讐は終わりってわけだ」
返事はない。もう、エラーはないから。あいつは今もエラーに蝕まれていることだろう……蘇っても、すぐに死ぬことになるはずだ。
「ちょっとだけ分けてくれよ、喉渇いた……いつも分けてくれてたよな」
それを紙コップに入れて、一気に飲み干す。弾ける炭酸が、俺の脳天まで突き抜けた……懐かしい味だ。
「美味ぇなぁ……母さんもどうだ? 美味いんだぜ……? 体のこととか気にすんなよ、まだ若いんだからさ……」
炭酸は体に悪い……そうは言うが、若いんだからいいだろと、父さんと一緒に言っていたんだ。思い出される思い出達……そうだ、二人ともまだ若い。死ぬような歳じゃないのに……健康体だったのに。奴らのせいで……俺が守れなかったせいで。
「ごめん……ごめんなさい……守れなくて、ごめん……!」
あの時、走りに行ってなければ……結果は違ったかもしれない。あのダブスタ節制野郎と、インフィニティから……俺と、皆さんと、父さんと母さんの生活を守れていたかもしれないんだ。俺は……神を殺しても尚、無力なままだった。死んだ命は戻せない……零した命はもう拾えない。涙が出てきた……誰もいない墓場で、あの日を思い出す。どれだけ苦しかっただろう……熱かっただろうし、痛かっただろうに。
『息子に、手を、出すな……!!』
『嫌だね』
『ぐぅあぁぁ、あ゛……!!』
そこを想像すれば、涙が止まらなくなってくる。何故死んでしまったんだ? 殺しても、結局戻っては来なかった。意味はあっただろう、仇は討てたしみんなは成仏できる。けど……それでも……最愛の家族を失ったことが何より心を削る。復讐を終えて、怒りや憎しみが消えると……一気にそれが、襲いかかってきた。
「あ゛、う゛あ゛ぁぁぁ……げぼぉあ!! ごぉっほ、ごほ……」
美味しかったジュースを、戻してしまう。吐瀉物と涙と一緒に、グレープソーダをぶち撒けた。あたかも……誰かが流した血のように。
「う゛ぁぁぁぁ……あ゛ぁぁぁ!! なんで、なんで……!! 俺はぁ!!」
無力感、罪悪感。それが俺の内蔵を押し潰す。インフィニティの拳よりも何よりも……重たくて、痛い。
「俺、どうすればいいと思う……?」
これから、どうにもできない。俺を誰も認識できないから……元樹? 元樹はダメだ、あいつはお人好しだからみんなを幸せにできる。俺と関わり続ければ、あいつの評価は『虚空に話す精神異常者』に堕ちてしまう。だから……もう関わらせることはできない。もし、そうなってしまったら……俺の助けた意味がないから。何一つとして……後一人でも零すようなことがあったら、俺は頭がイカれてしまうだろう。
「……もう飲んだか? 俺も飲むぜ」
無限に湧いてくる吐瀉物を、グレープソーダの炭酸に混ぜて一気飲みする。美味しいはずのグレープソーダはゲロの味がした。
「美味しく、ない……」
一緒にサイクリングに行った後、父さんと一緒に飲んだあの時は……美味しかったなぁ。母さんのメンチカツに負けないくらい……
『ッくゥ~!! 運動の後のコイツはやっぱり効くなぁ、脳天まで突き抜ける炭酸!! これがいいんだ!! どうだ樹、美味いだろ!?』
『いででっ、炭酸キツいなぁ……でも美味い』
『だろ~? 炭酸は痛いくらいが気持ちよくていいんだ!!』
こんなこと言ってたけど、一気飲みしたせいでこの後喉が痛いって言って、ご飯を食べられてなかった。母さんに怒られてたな……懐かしい。
「あっちでも飲んでるか、父さん……?」
ここにいつまでもいようかな……幻聴でも、もう一度声が聞きたい。
「……いや、無駄か」
そう呟いて、立ち去る。もういい、行こう。遠い場所に……誰もいない場所で、静かに死にたい。生きていたって、誰かに迷惑をかけるだけだ。もし幽霊騒ぎになんてなったら、目も当てられないことになる。
「さてと……どこに行くかな」
樹海か、海か……死体が浮いていても、誰も気づけないんだ。元樹さえ来なければ、俺は誰にも気づかれないはず。どこで死のうと、誰も気づかないし悲しまない。憎悪も恨みももう無いんだ、未練のない幽霊はさっさと成仏するとしよう。
「俺ももうすぐ、そっちに行く。待っててくれよ……俺もう、誰にも迷惑かけたくない」
そうだ、人のせいにばかりしてはいけない。どれだけ憎いとしても……俺が皆さんに迷惑をかけた事実に変わりはないからな。犯した罪は償わなければならない……そう思って、フラフラと歩き出す。大分疲れてしまった……ずっと殺し合い続きだったからな。でも、やめるわけにはいかない。
「俺は……行かないと……」
「……どこ行くんだよ? 樹」
「はぁ……?」
そこには……今だけは会いたくない、あいつが来た。俺の相棒、親友……俺が唯一見えているせいで、精神異常者になりそうな奴。星崎元樹だ。
「どこに行こうとしてたんだ? あいつらは……?」
「俺が殺したよ。セイントセブンも神も死んだ……もう二度と蘇れない」
「そうか、夢の中でインフィニティの奴を殴った気がしたんだけど……ホントだったんだな」
夢の中だと思われてるのか……
「手を貸してくれてありがとうな。おかげで、奴を殴り殺せた……俺のエラーを全部流し込んでやったから、蘇ろうとしても蘇れないさ」
「そうか……終わったんだな」
「そうだ、俺は復讐を終えた。終わったんだよ、全部な」
俺はそう言って、去ろうとするが……
「おい、どこ行くんだよ!?」
「決まってるだろ? 幽霊は成仏しなくちゃいけない。復讐は終わったんだ……俺はこの世から消えるよ」
「はぁ!? なんでお前が消えるんだ!? お前が消える道理なんてないだろ!!」
あいつはそう言うと思ったんだ、だから会いたくなかったんだよ。でも……出会ってしまったからには、どいてもらうしかない。
「あるさ。俺はお前以外の誰にも認識されない、つまり親孝行も、社会貢献も、幸せになることもできないし、勤労の義務すら果たせないんだ……どこに生きている意味がある?」
「あるさ!! 俺はお前に生きていて欲しいし、お前だって死にたくないだろ!? 病気で働けない人に『勤労の義務を果たしてないから死ね』なんて言えるか!! お前がそうなったのはジギタリスのせいだろ!? そんなの理不尽すぎるよ!!」
「それでも俺は、もう生きている意味がない。健康体なのに働けないし、何もできない……幽霊騒ぎを起こして、迷惑かけながら生きることになる。そんなの地獄より嫌だ……だから地獄行きになることにしたんだ。将来的に考えて、何の役にも立たないんだから……消える以外の選択肢があるか?」
そうだ、俺はもう……何一つ貢献できない。生きる権利は義務を果たさなきゃ手に入らない、つまり……俺は義務を果たせないから、権利もないってわけだ。犯罪者が義務を果たさないから死刑になるように、俺もそれを裁かれなければならない……誰も裁かないなら俺が裁くのみ。判決は有罪、死刑確定だ。
「情状酌量ってもんがあるだろ!?」
「幽霊には適用されない。俺は憎悪と憤怒だけでこの世にしがみついて、インフィニティの野郎とそのお仲間を殺すためにこの世にいたんだ……未練を果たした幽霊があの世に逝くのは、至極当然だろう。誰かが養ってくれるのか? ずっと? 何もせずに、義務も果たさずに? それを人はクズと呼ぶんだ」
「だからって……このまま死んだってどうなるわけでもないだろ!? 諦めるなよ!! これまでだって……お前はどんな時も諦めなかったじゃねぇか!! 誰も勝てないくらいに敵が強い時も、死にかけになっても……血反吐まで吐いたって、お前は笑ってた!! そして最後には絶対勝ってくれる!! あの時死にかけてたのを助けてくれたの……お前なんだろ!? 知ってるぜ……回復薬の瓶に血がついてたからな……自分だってボロボロなのに、それを無視して俺達に薬をくれたんだ!! そうだろ!?」
無理矢理口移しで全員に飲ませたっけ……口の周りも血塗れになったな。殆どの人が血を吐いていたから……
「それがどうした? 俺はただ、目の前でもう誰の命も零したくなかっただけだ……」
「それが優しいって言ってんだよ……!! もう義務は十分果たした!! 俺が保証する……だから、生きてくれ!! どんな時も誰かに優しくて、誰かのために戦って泣いて……そんなお人好しが死んでいいはずない!! 他人のためには頑張れるのに、自分のことになった途端に諦めるのかよ!?」
「お前の方がお人好しさ。昔っから……自分が死ぬかもしれないのに、カルミアを殺しに来たり……俺と一緒にセイントセブンを倒そうとしたりするし……どんな時も俺の味方でいた、超高い自分の立場が地に堕ちて、殺されるかもしれないってのに……自分が死にかけの状況でリンドウを斬りにきたしさ……寝てても俺の味方だったんだ。そんなお前には……人生を棒に振って欲しくない。このままじゃお前は異常者だ……!! 頼む、いい加減自分のことを大切にしてくれよ!!」
どちらも、相手に自分のことを大切にして欲しい。信じることは同じだけど……絶対にどちらかは、不幸になるんだ。
「諦めさせない……!! 俺の人生も樹の人生も、どっちも俺は取りたいから!! きっと何か、方法があるはずだから……!!」
「ご都合主義はさっき起こったばかりだ。そう度々起こってたまるか……どけよ、元樹。俺は死にに行く……それとも……お前が俺を殺してくれるのか?」
「ッ……馬鹿なこと言うな!! 親友を殺せるかよ!!」
まぁ、そう言うよな。
「だったら、どいてくれ。お前には、わからないようにするからさ」
「嫌だ!! お前が生きてる意味はあったってことを……証明する!! そうでなきゃ、俺は生きてる間ずっと後悔しながら生きることになるからな!!」
「俺の相手をし続けて、隔離病棟にぶち込まれたら元も子もないぞ。それで後悔するところは、絶対に見たくない……」
構えた……これが正真正銘、俺の人生最後の戦いだ。負ければ死ぬし、勝っても死ぬ。どちらにせよ死ぬわけだ……
「お、おい……どういうつもりだ……!?」
「どかないなら……どいてもらうだけだ」
「ッ、ぐぅ……!! くそぉ……!! このわからず屋!!」
あいつの拳が、俺に突き刺さりそうになったところを受け止める……あぁ、弱いな。殺されすぎて……痛みも、恐怖も鈍くなっている。何億回殺されたんだっけ、俺。
「どけよ……!」
「うっ、ぐぅ……!! くそっ!! ライジンブレイク!!」
「……」
痛いはずの拳が、痛くない。確かに強かったはずだ、なのに……どうして痛くないんだ? 友情の拳じゃ、ないのか? これは……
「だりゃあっ!! うぉりゃあ!!」
「……」
「がっ、くそ……まだだ!!」
懲りずに踏み込んで、殴ってきた……わざと、綺麗にもらってみる。
「……っ」
「あっ……!! だ、大丈夫か!?」
「痛くない……なんでだよ……」
本当にあいつは、悪影響しか与えないな。俺を不幸にする以外、やることないのか?
「そんな、痛くないって……くっそぉ!!」
「っ……」
「この!! こんのぉぉ!!」
俺を全力で殴る元樹……でも、痛くも痒くもない。グロリオ、リンドウ、インフィニティ……この三人の拳が痛すぎたんだ。
「……どうして諦めない? 痛くないんだぞ」
「人の命をそんなに簡単に……諦めてたまるかぁ!!」
「……なら、諦めさせてやるよ」
そう言って、こちらから攻撃する。踏み込んで、マッハパンチだ。
「ぐっ……!?」
「……」
「ぎっ、ぐぁ、がぁ……!!」
元樹に諦めてもらうためには、どうしたらいいのだろう。殴っていても尚、奴は諦めていない……どうしたら諦めてくれる? ……そうだ、こうすればいいんだ。俺は大きく息を吸い込んで……
「ウヒャハハハハァ!! やっぱり楽しいなぁ、人を痛めつけるのはよ!! セイントセブンの野郎共も、こういう気分だったのか!? 最っ高だなぁ!! イヒヒヒヒッ!!」
「え……?」
「冗談じゃねぇぜ? 楽しいんだ、人痛めつけんのがよ!! これが……これ、が……」
激しい吐き気と頭痛……そして、嫌悪感。そんなもの感じてる場合か、愛想を尽かせるんだ。
「顔色、悪いぞ? 大丈夫……」
「黙りやがれぇ!!」
「っ……!!」
精一杯笑う。思いっきり上を向いて、大笑いしてみせる……
「こんなに楽しいことはないぞぉ!! お前も楽しめよ!! なァ!? グヒャヒャヒャヒャ!!」
「……やめろよ、辛いから……涙出てるの、気づいてないのかよ?」
「は……?」
感覚が、急に戻された。俺は今、泣いてるのか……? この演技で? 馬鹿野郎、元樹を不幸にしないためだ。仕方ないことなんだ……!! やれ!! やるんだよ!!
「……お、げぇあぁぁ……!!」
「ほら、無茶するから……そう言えば愛想尽かすと思ったんだろ? バカ、演技かそうじゃないかくらいわかる。お前の嘘、下手くそなんだよ……」
「どけ!!」
踏み込んで殴り飛ばした……これで、何とか……
「……やっぱりだ。お前、俺の骨が折れないように大分手加減してるな? 俺の骨くらい、簡単に折れるだろ」
「それがどうした。お前にダメージが入ってることに変わりはないぞ」
「わかってるさ……お前の気持ち、全部受け止める。来いよ……!!」
……そんなことを言って。俺の理論は間違っていないはずだ……!! 何もしないクズに……生きている資格はない!!
「何もしないクズに生きてる資格があってたまるか!! だから俺はセイントセブンが嫌いなんだ!! 俺に奴らと同じになれってか!? それなら死んだ方がマシだよ!!」
「違う!! 奴らは最初からな~んにもしてない、だけどお前は頑張った!! 一生分くらいの苦痛と、悲しみを味わって……常人だったら絶対耐えきれない苦労もした!! 奴らと同じなわけない!!」
「そう言ったって、俺がお前以外に見えない事実に変わりはない!! このまま話してたら……関わり続けたら、本当に精神病院から出られなくなるんだぞ!! お前はそうなりたいってのか!?」
思いの丈を全力で叫ぶ……あいつは、全く諦めていない。
「それでも……それでも俺は、腐った現実を変えたい!! 俺も奇跡を起こしたいんだ、お前のために!! お前は俺やみんなのためにたくさん奇跡を起こしてくれた!! これ以上ないくらい感謝してる……!! だから!! 俺だって一発くらい、ドカンとデカい奇跡を起こしたい!! 今度は俺がお前に奇跡を見せる番だ!!」
こいつは……なんで、こんなにお人好しなんだよ。
「お人好しめぇ……!!」
「人のこと言えねぇだろ!!」
「あぁそうだよ!! 俺はお人好しさ!!」
殴る手が、止まる。
「いい加減奇跡を信じろ、樹!! 星崎元樹を舐めんなよ、俺だって主人公なんだ!! お前にできて俺に起こせない道理はない!!」
「だったら俺を倒せ!! 俺の考えを否定してみせろ!!」
「もちろん、やってやるさ!! 俺はお前のその考えを叩き折るッ!!」
あいつの全力が、体中に叩き込まれていく……痛い。そうだ、これが普通なんだ……俺を救おうという気持ちがあいつを強くしてる。どんどん成長していってるんだ……
「ぐぅ……どうした!? 俺はまだ……倒れちゃいないぞ!!」
「ぜぇ、ぜぇ……終わりだなんて、言って……ねぇだろ!」
「っ……!!」
奴は諦めずに、俺を折ろうとし続けた。そして……
「ライジンブレイクゥゥ!!」
「……マッハパンチィ!!」
「っぐ……!!」
クロスカウンター。その状態になって……お互い、倒れた。
「……く、ぅ……!!」
「……」
「立たなきゃ、いけないんだ……」
俺は立てそうだ……立とうかと思ったが……やめた。何故なら……あいつは泣いていたからだ。俺のために泣いてくれていた……それを見て、俺は……立ち上がることを放棄した。
「っ、く……!!」
「……は、は。俺の負けだ、な……」
「樹……奇跡、起こしに行こうぜ」
そう言われたが……疲れてしまった。少し眠るくらいいいだろう……
「あぁ……ちょっとだけ、寝る……待っててくれる、か?」
「いいぜ……待ってるよ」
「サンキュー……」
目を閉じて、俺は眠りについた……ただし、この上なく清々しい気分で。
「ここは、どこだ……?」
夢の中か? でも、殺風景だな……
「樹、こっちだぜ」
「父さん!? ってことは……」
「また会えたね……」
二人がいた。死んだはずだが……
「夢、か?」
「そうだ……これで話せるのも最後になりそうだからな」
「そっか、父さん、母さん……俺、どうすりゃいいと思う? もう、誰一人俺を認識してくれない……社会貢献も労働もできない。俺は生きてていいのかな?」
そう言うと……二人は、俺の頬を引っぱたいた。
「馬鹿野郎!!」
「っ……!!」
「死んでいいなんて言う親がいると思うの!? 死んだらダメに決まってるでしょ!!」
そりゃ、そうだよな……でも。
「俺、もうやることがないんだ……やりたかったことは全部やった。あいつらはみんな死んだし、親孝行はできないし……」
「……親孝行はできるぞ。樹、子供ができる一番の親孝行は何か知ってるか?」
「え……旅行とかそういうので、感謝を伝えることじゃないの?」
二人は首を横に振る。
「違う違う……母さん達はね、子供が幸せなのが一番いい気分になれるんだよ。だから……世界で一番幸せな男になるのが親孝行。死んだらそれもできないよ?」
「……でも、幸せになりようがないんだ……誰一人認識できないんだから」
「あの子がいるだろ? カッコよくて優しい……星崎元樹くん。あの子は奇跡を起こしてくれるって言ってるし、信じてみな? お前が誰かのために、たくさん奇跡を起こしてあげたみたいに……あの子も君のために、デカい奇跡を起こしてくれようとしてるのさ」
できるのか……?
「できると思う?」
「できるさ。お前は起こせた、じゃああの子にできないわけない!! だってお前は俺達の自慢の息子だが、彼の父さんや母さんだってそう思ってるはずだ!! だったらできない道理はない!!」
「幸せになれるよ、樹は。本当によく頑張ったね……仇討ち、ご苦労さま」
褒めてくれた……これも、最後か。言いたかったことを言おう……
「ごめんよ……あの時、守れなくて……痛かったよね、辛かったよね……!! うっ、ぐっ……」
「いいんだよ、お前が無事でよかった……それに仇討ちもしてくれたし、俺達は満足だよ。立派になったな……一緒にぶん殴れて嬉しかったぜ、樹!」
「さぁ、そろそろ起きな? 彼が待ってるよ!」
いつも通り、起こされた。だから俺も、いつものように言うのだ。
「わかったよ……!!」
「気をつけてね!! 学校には行くんだよ、せっかく合格したんだから!! あともう死のうとするんじゃないよ!!」
「わかってるって!! あと、行ってらっしゃい!!」
いつもの会話だ。これがもう一度出来たら……もう、未練はない。旅立つ二人を、笑顔で送ろう……
「あぁ、お盆にはまた戻ってくるかもしんないから……これ!! また頼むな!!」
「……! うん!!」
「っかぁ~……美味ぇ!! やっぱりこれが一番美味いな!!」
グレープソーダを飲んだ後の、心地良さそうな顔。あれがたまらなく好きだ……
「体に悪いから程々にね?」
「わかってるよ……じゃあ、行こうぜ!! またな、樹!!」
「うん……父さん、母さん!! 行ってきます!!」
そう言って、駆け出す。いつも通りの光景だ……愛おしいあの日と同じ。
「行ってらっしゃい、樹!!」
「行ってこい!!」
「……またね」
そう呟いて……目の前の景色が消えた。次に目を開けると……俺は、あいつと一緒に近くの草むらに寝転がっていた。
「ん……ふぁぁ……よく寝た……いい夢見たなぁ」
「んぅ……起きたか? おはよう、樹。硬い所で寝たら頭痛くなると思って……ここに寝かしたんだ。そしたら俺まで寝ちまったよ、失敗失敗……」
「そうか……あれ? これは……」
あのグレープソーダが、二つあった。
「あぁ、それ? 飲んだみたいだったからさ、好きなのかなって思って……喧嘩して喉乾いたろ? 一緒に飲もうぜ!!」
「……ありがとう。じゃあ……」
「かんぱーい!!」
缶をぶつけ合わせて、その後に一気に流し込む……ゲロの味はしない、美味しい……あの日飲んだジュースと同じ味だ。疲れた体によく染みる……
「炭酸キツいなぁ、これ……!!」
「父さんが好きだったんだよ、俺も最初はそうだったが段々好きになってきてな……」
「そうか……そう考えると美味い気がしてきた!!」
思い込みってすごいな……そう思いながら、弾ける炭酸と一緒に思い出を流し込んだ。過去を見るのもいいが、そろそろ今を見る時だろう。
「ぶはっ、ごちそうさま……」
「かぁー、美味いなこれ……また買おうっと」
「……で? 元樹、奇跡の宛はあるのか?」
そう聞くと、あいつは自信満々で答えた。
「ない!! これから作る!!」
「……お前にしては頭悪いな」
「だってよ……お前を助けてやりたいんだから、しょうがねぇじゃんかよ!!」
このお人好しめ……まぁ、お人好しの奇跡に付き合うか。俺も最初は、突拍子もない奇跡でグロリオを殺したんだし……
「……とりあえず学園に行くぞ!!」
「わかったよ、相棒」
「とりあえずは思い出させるところからだよな……」
そんなことを言いながら、学園に向かう俺達……何故だろう。結果的に変わらなかったとしても、今なら大丈夫そうだ……父さんと母さんが、見てくれてるから。
「……みんな!!」
「ん? 元樹か?」
「授業飛び出してどこ行ってたんだよ、ボロボロだぞ?」
そう言われながら、俺の方を指さした……あの日と、同じだな。
「見えないだろうけど、ここにいるのが……セイントセブンを殺した男の、樹だよ!!」
「樹……前言ってた奴? また変なものが見えてるの、元樹? だから病院行けって……」
「……幽霊、さん? そこにいるんですか……?」
白上さんが、立ち上がった。そうだ……あの時呼んでくれてたな。
「そうだよフブキ!! ここにいるんだ!!」
「やっぱり……! またお会いできて嬉しいです、樹さんっていうんですか? 素敵な名前ですね!!」
「……そうだよ。俺は馬場樹……」
聞こえないことがわかっていても、自己紹介してしまう。
「幽霊さん、って確か……フブキが言ってたあの、ウチ達に回復薬飲ましてくれた人……だったっけ」
「そういえば、そんな話してたね……その幽霊さんが、そこにいるってこと?」
「ころね達の仇、討ってくれた人……?」
皆さんもだんだん気づいてきてる……幽霊としてだがそれでも。
「え、マジの幽霊……!? ちょ、怖いんだけど……フブキ怖くないの!?」
「怖くなんてないです、強くて優しい幽霊さんですから!! 幽霊さんと一緒に、あいつを殴る夢を見たんですけど……あれって、本当のことなんですか?」
「そうだよ……本当のことさ。力を貸してくれて、ありがとう」
「そうだよ……本当のことさ。力を貸してくれて、ありがとう……だって!!」
そうか……通訳できるのか。こっちに向かって笑いかける元樹。お前やっぱ頭いいよ……
「あれ、本当に殴ってたんだ……」
「妙に感覚リアルだな、とは思ったけど……」
「ころねも一緒に殴ってたんだね……」
みんな気づいたらしい……
「樹さんは……どうして、またここに?」
「それは……」
「ん~……そうだ!! もう一回だけでいい、エラーってのを使えないか!?」
エラーを使う……? だが、あの時エラーは使い切ってしまったのだが。
「悪い、インフィニティを殺すために全部使ったんだよ……」
「それでもいい、ダメ元で頼むよ!!」
「……」
いつものように、片目を閉じる……そして、全力全開で床を殴った。エラーを注入するために……
「……どうだ!?」
「……多分使えてない、と思うんだが……ん?」
「えっ……どうしたんですか?」
この辺り一帯のプログラムが……バグり始めた。腕のエラーは見えない……今ので本当に使い切ったのか? ……そうだ、ホースから水を出したあと、ホースの中に水滴が残るように……エラーの『絞りカス』があったんだ。体中にあったそれを寄せ集めて、一瞬だけエラーを起動したんだな……
「成功らしいぞ、元樹……」
「そうか!! よし、起これ!!」
「そんな適当な……」
そう言っていると……彼女が、急に頭を抑えた。
「いだっ……!? なに……!? 頭が、痛い……変な音が聞こえるし……」
「私も……」
「何この音……PCのエラーみたいな……」
……!? その音は……!!
「お、おい樹……これ、見てみろ!」
『速報!! 世界中で一斉に集団頭痛!?』
「まさか……エラーが連鎖している? そんな、大規模……な……」
そう言おうとしたところで、奴の言葉が思い出された。
『お前らはセーブデータの中のテラリウムの、さらにテラリウムの中の一人に過ぎない』
『や、やめろ!! このセーブデータそのものが……バグる!!』
『……!!』
そういうことか……わかったぞ。俺が戦いまくったことで、セーブデータ内全てにエラーが広がっていた。奴は修復しようとしてたが、明らかに間に合ってなかったよな。だから、全部を修復できたわけじゃないはずだ……エラーがまだ残ったままだったところに、俺のエラーを追加で流し込んだから……俺と同じ状態、即ち『許容量を超えた』状態になったんだ。そして、俺達は『セーブデータ』のテラリウムの中の、更にテラリウムの中の一人だという奴の発言。なら、この地球の生物という、セーブデータのテラリウムの人々が、一人の人を思い出すくらい……とてつもなくちっぽけなことじゃないか。
「うっ、あ……いだ、だ……?」
「これって……」
「……なんで、忘れてたの……?」
みんなが俺を見た……そりゃそうだ、自分が記憶喪失だったんだからな。
「な? 奇跡、起こったろ?」
「あぁ、そうらしいな……」
「幽霊さん、なんかじゃ……ないじゃん……なんで忘れてたんだろう……!」
涙が落ちる。嬉しそうな顔を見るに……思い出せたことがそんなに嬉しいのか。
「俺の名前……覚えてる?」
「覚えてないわけないじゃん……!!」
「そうですよ……!! あなたの、名前は……!!」
……母さん、父さん。見ててくれたか? 奇跡、起きたよ。そう思いながら……みんなの声を、噛み締めた。
これは、テラリウムの中の、とても小さな奇跡。