(本編完結)ホロライブラバーズX infinity 作:とも667
「……樹くん!!」
「な? 信じてよかったろ?」
「あぁ……サンキューな、元樹」
奇跡は起きた、元樹が起こしてくれた……地獄で見てるか、ジギタリスにインフィニティ。これで本当に、お前らの完全敗北だ……敗因は元樹の執念。来世でも覚えておけよ? 俺と元樹の恐ろしさをな。
「わ、私……なんで忘れて……っ!!」
「……思い出さなくていいのに。ジギタリスめ、死んでも迷惑なアバズレだな」
「なんかお前……口悪くなったか? 人相変わってるからかもだけど」
確かに……なってるな。多分、何回も殺されかけたから口調も荒くなっているのだろう。
「あぁ……殺し合いをやり続けたからな、構成員を含めたら、何人殺したかわからん」
「そうだ、あの時……ウチは……!! こんな記憶無いはずなのに、どうして信じてたの……? すごく好きになったと思ったら、次の瞬間にすごく憎くなって……樹くんの拳が空振ったと思ったら、意識が無くなって……」
「皆さんを操っていたのは『好感度ゲージ』とジギタリス。俺はそのゲージを破壊し、ジギタリスを撲殺しました……あれは空振りじゃなくて、ゲージを狙ったんですよ。言ったでしょう? 当たったら『止まる』って」
皆さんはどうやら、あの時の記憶が残ってしまっているようだ……悪辣なことをしてくれる。他の奴らも大概だが、奴はダントツで趣味が悪いな……その上奴は、これを愛だとほざいていた。インフィニティの野郎に尻尾振って『愛』を差し出したからな……
「これ……嘘だよね? 嘘だって言ってよ!!」
「ボクは……嫌、違う……!! あんなの、悪い夢だよ……!! そうだよね!?」
「……あぁ、そうさ。夢だ……あれは現実じゃない」
嘘をついてみせる……だが、元樹に言われたことをすぐに思い出した。
『お前嘘が下手なんだよ……』
「そん、な……」
「……嘘つけないんだから、無理して嘘つくなよ」
責任を感じさせるくらいなら、嘘を信じさせたほうがいいだろうに……こういうところでも、俺は無力なのか。
「あ、あ……血が、血が……!! あの時拭いた血って……うあ……いやぁぁぁぁ!!」
「ミオ……操られてたとはいえ、人を斬ったんだもんな。バトルロワイヤルじゃない、本気の殺し合いだ」
「……」
何も言えない。言う資格はない……『許すよ』とか、そんな言葉でどうにかなる問題じゃないだろう。特に、猫又おかゆさんは……相当、深刻なはずだ。だって……『好感度』を-100にされただけでなく、無理矢理好きにさせられて……強姦紛いのことまでされたんだ。男性恐怖症になっても、何らおかしくない。
「なんでボク、あんなこと……やだぁ……!!」
「おがゆ、泣かないでよ……ころねだって……」
「何か言いたいけど……なんて言ったらいいんだろうな」
元樹……それがわかったら、苦労はしてない。俺が許しても、彼女達は自分を許せないだろう。俺だったら、そうなるからだ。彼女達は優しくて、勇気があって、尚且つ気高い。それを踏み躙った極悪人は全員死んだが、それで被害者の心情が救われるかと言えば、答えはNOであろう。犯罪者が死刑になっても、死んだ人は戻ってこない。心の傷だって、一生残る……本当に惨たらしい……
「おい、フブキ……泣くんじゃねぇよ」
「黒ちゃん……だって……」
「お前は優しすぎんだ。操られてたんだからさ、自分は悪くないって言っていいだろ。お前が落ち込んでちゃ、私まで嫌な気分になる……」
黒上フブキさん、だったか……励ましてくれている。そうだ、是非ともそうしてくれ。あなたは悪くないさ、悪いのは全部あのアバズレと神だ。
「でも、私……罪のない人を斬っちゃった……ムラサメマルは、そんなことのための刀じゃないのに……!!」
「めんどくせぇなぁ……アンタ。このお人好しを何とかしてやってくれ……」
「いや、俺には何も言えませんので……」
言って何とかなる問題じゃない……と思っていたら、頭を下げられた。
「私にはどうにもできん……アンタにしかできない。頼むよ……やった側が頼むのもアレだけどな」
「……何を言えばいいんだろうか」
「俺にもわかんない……こんな状況じゃ、軽いノリではいけないしな」
そうだな……父さん、母さん。どうしたらいいと思う? 彼女達に罪の意識を被せたくない……待った。おい、俺はバカか? そんなくだらんことを考える前に、言うことがあるだろうが。
「……ここにいる、皆さん。聞いてください」
「え……?」
「一言言わせてください……大変申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げた。なんで忘れるんだよ、俺は……頭沸いてんのか?
「な……なんで!? 樹くんが謝る必要なんて……」
「私は重大なミスをした。あなた達がやられたのは、私にも責任がある」
「責任って……どこに?」
あるじゃないか、罪状が……とびっきり重たいのがな。
「正直に言いましょう。私はジギタリスに、白上さんの家の前で出会ったのです。ジギタリスは自分の能力で、死んだ私の母親に変身していた……私は動揺し、あろうことか奴を逃がしてしまったのです。あの時に躊躇無く殴っていれば……被害拡大は防げたのに。だから……許すも許さないもありません、私はみすみすセイントセブンを逃がしたのですからね」
「そういや、そんなこと言ってたっけな……」
「あなたは悪くないです……それに、もしもそれが悪いことでも、私達がやったことは変わりませんよ……?」
ここからはアドリブだ……なんか言わなきゃならん。何一つとして思いつかないけど……
「……私が憎いのは、ジギタリスだけです。私はあなた達が悪いとは思えません。でも……責任は感じざるを得ないでしょう、皆さんは優しいから……」
「えっ……急に褒めないでくださいよ……白上はあなたを」
「じゃあ……もう一つ重要な事実をお伝えしましょう」
今思いついた。これでダメだったらもうゴリ押しだ。
「重要な……事実?」
「私はあの時……感情が昂ったことで、エラーを変異させることができた。お陰様で変異はどんどん激しくなり、インフィニティはそれで変異しきったエラーを流し込んで、大元のプログラムごと抹消できました……それがなければ俺は今頃、奴の目の前で死を繰り返しているでしょう……それにあなた達は、私と一緒に奴を殴ってくれた。復讐を完遂できたのは、ひとえにあなた達のおかげです……私は恩人を責められません。恩人が悲しむところも見たくは無い……だから、誇ってくださいよ。自分達は世界を救った英雄だぞ、ってね!! 皆さんは、ヒーローなんですよ!!」
「……」
ダ……ダメか? もしかして、悪手だったか……!?
「ヒーロー……ウチが?」
「そ……そうです!! 一人でも欠けてたら、奴を地獄には送れなかった!! 多分!! だから……ヒーローは暗い顔してちゃいけないでしょ!?」
「……っ、ふふ」
ん……?
「だっはっはっは、お前面白いヤツだなぁ!! いいぞ、気に入った!!」
「あははは! もう……すっごい勢い、私達に笑って欲しいからって……!!」
「あははっ、こうなると……なんか、責任感じるのも馬鹿らしいなぁ」
……上手くいった! セーフ!! これで安心して眠れるってもんだ……
「ぎゃっはっはっは、あー面白い……!! そっか、ヒーローかぁ……!!」
「あっはっは、もう……悲しむ気も失せちゃったよ……お人好しさんのおかげで……」
「樹、上手くいったぞ!! よかったな!!」
いや、ホントだよ。上手くいってよかった……はぁ、緊張した。やっぱり戦い以外は苦手だ……
「ふぅ、心臓に悪いぜ……他の皆さんにもこれ言って回るのか?」
「……そうしなきゃならないのかな?」
『……星崎元樹さん、馬場樹さん。学園長がお呼びです』
スピーカーからそう放送される……学園長がか? 責任取って、二人仲良く退学か……? 勘弁して欲しいんだが。
「呼ばれたし……行くか」
「大丈夫さ、怒られやしないって!!」
「というわけなので……ちょっと行ってきます」
呼ばれては仕方がない。そう思って、俺達は校長室へと向かうのであった。
「……校長。馬場樹です」
「星崎元樹もいます」
「うん、入ってくれ」
そう言って、入室を促す学園長……それに従い、扉を開いて一礼する。
「失礼します」
「そう固くなるな。まぁ、座ってくれ」
「ありがとうございます」
二人してソファに座り込む……谷郷学園長は、砂糖もミルクも入っていないであろう、湯気の立ち続けるコーヒーを一口飲んだ。
「……俺達にご用ですか? この学園を襲う原因になったのは俺です。退学にするなら俺だけでお願いします」
「いや、そんな辛い話をしたいわけではないよ。学園長として……一人の人間として、この学園を、ひいては日本を……いや、世界を救った君達に、お礼を言いたくてね。ありがとう……政府の方々も、君達へ最大の感謝を伝えていたよ」
「な~んだ、そういうことか……!! 樹、よかったな!! 大丈夫そうだぞ!!」
……よかった。出来れば退学はしたくなかったんだ、母さん達に辞めるなと言われたばかりだからな。
「本当に、何故君の記憶が消えたのかすらも覚えていない。記録からも完全に消えていたものでな……一体何があったんだい?」
「話すと長いんですが……」
「構わない。真実を教えてくれ……何が起こったのかを」
そう言われたので、俺は全てを話した。好感度ゲージのこと、俺が破壊したこと、ジギタリスの能力のことも。
「……ってことで、私は忘れられたわけです」
「事情はわかった……とんでもない力だ。私もここの学園長だから、『希望』や『正義』の力は噂で知っていたのだが……そんな恐ろしい力があるとは、放っておけば地球に未来はなかったな」
「それのボスが大神官、及びインフィニティシステム……ゲームマスターに当たる存在です」
インフィニティ……今さっき、殺してきたばかりだ。
「俺達も、原理はよくわかんないけど一緒に殴りました。奴は死んだみたいです」
「プログラムごと抹消しました、蘇ろうにも変異し続けるエラーを抑え込む術はない……蘇れば永遠に死に続けることになるでしょうね」
「本当に……よくやってくれた。これから監査が入る予定だから、真実もすぐ明らかになるだろう。裁判所も、神の力が無くなって掌を返した。いずれ、全員書類送検されるだろう」
そうか……でも、今の問題はそれじゃない。
「……ですが、学園長。今の問題はそこではありません」
「あぁ、わかっているよ……生徒達の嘆きが聞こえてくるからな……ジギタリスの能力だろう? 本当に悪辣極まりない力だ……」
「はい。うちのクラスにいた人達は何とかしましたが、他の人達は……」
皆さんは、目の前に誰よりも憎い相手がいても他人の心配をできる、とても優しい人達だ。それが罪なき人を斬ったとなれば、精神ダメージは察するに余りある。
「……何とかしてあげたいよなぁ。でも、全員に言って回ってちゃキリがないし……」
「それだけじゃない。この学園の先生も敵になって、俺を襲ってきていた。生徒を守る者として、背負う責任は生徒よりも重い……」
「そうだね……何とかしたいが、如何せん問題は山積みだ。とりあえず今日は疲れただろ? 樹くんは帰ってもいいよ。明日と明後日はちょうど土日だ」
そう言われたので、家に帰ることにする……今日は確かに疲れた。復讐を完遂して、元樹と殴り合って……色々あったな。
「では、失礼します」
「また手段が思いついたら連絡するよ……今日と明日と明後日、ゆっくり休んでくれたまえ」
「またな、樹!!」
とりあえず、家に帰る。幸い今は授業中だ、帰るのに支障はないだろう。そう思いつつ、家に帰る……さて、生きるのを決めたはいいが、何一つやることがないな。
「復讐は終わったし……学校終わったら何しようかな。金だけあったって、幸せなわけじゃないしなぁ……」
そんなことを呟きつつ、ベッドに寝転がる……罪悪感か。俺も辛かったからなぁ……どうして助けられなかったんだろう。何回も嘆いたし、憎んだ……
「こうなったのも、俺のせいかな……なぁ、父さんに母さん。こういう時どうすればいいんだ? 罪悪感が辛い時は……何ができる?」
わからないな……彼らだってセイントセブンの被害者なんだ、責めるべきじゃないのに……攻撃したという『真実』があるせいで苦しんでいる。死んでも、真実の押し売りをやめないのか……本当に迷惑な奴らだ。
「明日になれば、なんか変わってるかな……?」
そう呟いて……飯を食って風呂に入った後、眠った。そして次の日……ニュースで奴らについて真っ先に報道されていた。
『一般社団法人セイント・インフィニティと、その構成員について、新しい情報が入ってきました。監視カメラの映像によりますと、これまでセイントインフィニティ幹部の『セイントセブン』を名乗る者達を鎮圧してきた馬場樹さんが、『絶対神インフィニティ』を名乗る男に時間経過で死なないように謎の力を使われて、加速した時間の中で凡そ数十万年にもわたって、蘇らせられては殺されていたことが明らかになりました』
「……やばいな。というかそんなにやられてたのか……」
『言葉では言い表せない程に惨たらしく殺されており、警察は『生物として有るまじき行為であり、セイント・インフィニティを強く非難すると同時に、この男を鎮圧した馬場樹さんに深く感謝したい』とのことです……今新しい情報が入ってきました。セイントセブン『愛』のジギタリスの死体が、発見されたとのことです。死因は心臓の破裂……監視カメラの映像によりますと、ホロライブ学園の生徒とみられる人達に『力』を使って操り、馬場樹さんに差し向けたようです』
ジギタリスのこともバレた……死体、やっぱり消しとけばよかったかな。
「怒りに任せて殴りまくったなぁ……」
『馬場樹さんはそれを不明な手段で突破。ジギタリスを十数分殴り続けたあと、心臓を潰して殺害したとのことです……それでは次のニュースです』
「あー……これ、みんなに知れたら……大丈夫かな?」
いや、絶対大丈夫じゃないな。事態がさらに悪化してしまった……タイミングが悪い。
「明後日が怖いなぁ……」
その時……電話がかかってきた。学校からだ……
「もしもし? 馬場樹ですが」
『樹くん、私だ。本当かい? 今のニュースの内容……』
「はい。何一つ嘘はありません……タイミングが悪いですけどね」
殺され続けた……その事実は皆さんの罪悪感を煽ってしまうだろう。今、頭を抱えているところだ。
『……本当に最悪のタイミングだ。実を言うと……君のことが怖くなってきた。普通そこまで殺され続けていたら、どんな人でも平常な精神を保つことはできない……君はどうやって正気でいたんだ?』
「怒りと憎しみですね。それ以外ありません……それらをガソリンにして動いてたんです。また、憎悪や憤怒はエンジンから漏れ出せば、『狂気』に変わる。ひとたび狂気が入れば、完全に殺害する以外それを止める方法はない。自分が無敵であることに慢心して、さっさと殺さなかったのが奴の敗因です」
『君は……とてもヒーローとは思えないな。その憤怒と憎悪がある限り絶対に折れない、異常な精神力……ヒーローと言うより悪魔だ』
そういうことになるな。学園長の言う通り、俺は元々正常じゃないんだ。そうでなきゃ、数十万年の間復讐のことだけ考えてなどいられないだろう。
「そういうことですね。だから、ヒーローは皆さんです。俺はただの憎悪と憤怒の悪魔ですよ……ヒーローなんかじゃない」
『……本当にそうかもな。君の負の感情は常軌を逸している……彼らが神とそれに仕える天使なら……君は悪魔だな。憎悪と憤怒と、殺意の悪魔……』
「悪魔か……それもいいですね。奴らみたいなのが天使なら、俺は悪魔の方になりたいです」
そもそも、奴らが言うには『エラーはこの世にいてはいけない存在』『その中でも俺はイレギュラー』らしいから、悪魔だと言うのは間違っていないだろう。天使と神に逆らって、殺してしまった悪魔……
『本物の天使と悪魔のいる世界で、こんなことを言ったら怒られるかもしれないが……ともかく、そのおかげで私達は救われたわけだ……君の常軌を逸した殺意にな』
「何回も言ってますが、皆さんの協力あってこそです。一緒に殴ってくれたから、奴を消滅させられた……」
『フム……思いついたかもしれない。君はみんなの前に立てるか?』
そう尋ねられた……全然立てるが、何か?
「大丈夫ですが……」
『なら、体育館にみんなを集める。そこでその旨をみんなに伝えてくれ。君の言いたいことを言ってくれていい』
「わかりました」
一斉に話せる場を用意してくれるらしい……ありがたいな。これで全員に立ち直ってもらおう……
『話は決まったな。じゃあ、私は準備をしに行くから……また月曜日に会おう』
「ありがとうございました」
電話が切れた……俺は悪魔、か。悪魔が殺したなら、きちんと地獄に落ちたかな? 今頃、奴らは何の地獄を味わっているだろうか……針山地獄か、それとも極寒地獄か……
「神が地獄に落ちるってのも、おかしな話だが……自業自得だし、仲良く永久の苦痛を味わえばいいさ」
俺が地獄に落としたんだ。慈悲も罪悪感もない、俺は後悔してない……殺しても尚、憎悪は消えていないのだ。あれだけ殴ったのに、まだ消えない……
「根深いなぁ、憎悪と憤怒って……」
きっと、これから先も消えない。奴らが常に憎いし、怒りは収まらないのだろう……だから、受け入れて生きるしかない。憎みながら生きようじゃないか……奴らが二度とこの世に出てこないように……でも、とりあえず蓋をしよう。もう使わないし……必要ないのだから。
「とりあえず後始末だ。奴らのやってきたことを無駄にするためにも……罪悪感を残しておくわけにはいかん」
そう呟いて、俺は……彼女達を何としても立ち直らせると決めたのだった。
「……よし、やるぞ」
二日後。予定通りに行われるらしい……とりあえず、ここで怨恨は全部終わりだ。
「おはよう、樹くん」
「よう、樹」
「おはようございます、学園長。元樹もおはよう」
準備のために体育館に向かうと、二人がもうスタンバイしていた。クーラーボックスを下ろして、挨拶する。
「気張るなよ。言いたいことを言えばいいんだ、あとは俺達が何とかするから!」
「あぁ、ありがとうな……」
「例の事実のせいで、君に対しての引け目が大きくなってしまった人もいる。早く取り除かないと、精神状態に影響しかねない……頼むよ」
言われずともやってやるさ。奴らの思い通りになどさせてたまるか……
「ご心配なく、奴らの思い通りになんかさせませんよ」
「これもお前にとっては、復讐の一つなのか?」
「まぁな。だから……絶対に成功させる。あと、準備してきたものがあるから……これも多分、役に立つと思う」
そう言うと、二人は中身を確認して……
「これは……?」
「……ははっ、お前らしいな! いける気がする!!」
「だろ? さて、そろそろ時間だ……始めよう」
長ったらしい話はナシだ。一瞬で終わらせる……罪悪感は長引けば長引く程、体に定着してしまうからな。
「えー、皆さん……おはようございます。今回は私のことで貴重なお時間を奪ってしまい、大変心苦しい次第です」
「心苦しいのは私達だよ……」
「……では、言いたいことだけ言いますね。あなた達のせいではない。これを分かって欲しい……悪いのは全てあのアバズレ、ジギタリスなのです。ですが……それをわかっても尚、罪悪感とは消えないものですよね」
知っている。俺だって、嫌になるほど味わったから。下手な励ましなんて、効かない……男より感受性が強い女性ならば、尚更。
「……」
「だから、言わせていただきます。すみませんでした」
「えっ……なんで!?」
そうなることはわかっていた……あの人達にもやった手法。あとプラスアルファで、もう一つ。
「私は発信機の信号を追って、白上さんの家の前まで来たことがある。その時に遭遇したセイントセブンこそ、ジギタリスです……私はあろうことか、奴を取り逃したのです。奴は私の死んだ母親に変身していましたが……それは皆さんを苦しませていい理由にはならない。私が殴っていれば、あそこで奴を食い止められた。被害は最小限で済んだのに……本当に申し訳ありません」
「それでも……私はあなたのことを責められない。先生として……責任があるからね」
「あと、もう一つ。あなた達はインフィニティの野郎を殴る時に、私に力を貸してくれた……一緒に殴ってくれました。もしもあの時、誰か一人でも欠けていれば……この世界に未来はなかったでしょう。だから……皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。私は恩人を責められません……胸を張ってください。世界を救ったんですよ? しかも、倒した相手は神なんですよ!? 救世主はここにいる皆さんです!! 本当にありがとうございました!!」
これで上手くいけば……プラスアルファで、完全に罪の意識を消せる……はずだ。多分、おそらく、きっと。
「……救世主? ラミィが?」
「そうみたい、だね……あれ、夢じゃなかったんだ……」
「……ふふっ」
あははははは!!
「そっか、救世主かぁ……!! 船長は、船で旅に出る前に世界を救っちゃったんだなぁ……」
「まぁ、ボクは高性能だし……救世主になっちゃうのも無理ないかな!! あははっ!!」
「なんか……落ち込むのが馬鹿らしくなってきたな!!」
よかった、成功だ……じゃあ、最後に……合図を出すと、元樹達が指で〇を作って返してくれた……仕上げだ。
「皆さん、聞いてください! そんな救世主の皆さんにプレゼントがあります!!」
「プレゼント……?」
「今から皆さんにお配りしますね!!」
俺がそう言って……スタッフさんや元樹が、次々とそれを配っていく。
「これ……缶ジュース?」
「私と父さんの大好物です! 一緒に飲みましょうよ、世界を救った記念にね!!」
「祝杯ってことぺこか……いいアイデアぺこ!!」
さぁ、罪悪感を消し飛ばそう。奴らのことを忘れて、皆さんが幸せに生きられるように……どうだ、インフィニティとジギタリス。お前らの計画は、全部失敗だぞ。
「じゃあ、皆さん! 缶ジュースを開けて! せーの!!」
かんぱーいっ!!
……あの後、皆さんが計画通り笑顔になってくれて……一緒にお弁当を食べ合ったりして、さっきまでの雰囲気はどこへやら……一転して、パーティーのようだった。暗い話なんて、まるで最初からしていなかったかのように……
「ふぅ~、楽しかった……!!」
「俺も楽しかったぜ、元樹」
「お前らしいな、ジュースで乾杯して仲直りなんて……俺もだんだん、この強い炭酸がクセになってきたよ」
俺と同じようなこと言ってる……
「やっぱり俺達って、似た者同士なんだな」
「それは俺が言ったことだろ~? でも、同感だ!!」
「ヘッ……」
皆さん、満足そうに帰っていった。これで終わったんだな……何だか感慨深いや。
「……なぁ、樹。お前は戦うの、嫌じゃなかったのか? たくさん痛い思いをするのに……死ぬかもしれないのに、それでも怖くなかったのか?」
「あぁ、全然……そういうお前は?」
「俺もそうだよ。でも……苦しい思いは、お前の方がたくさんしただろ? それなのに、なんで殺し合いたくないってならなかったのか……気になってな」
人のことを気にしているからこそ、出る発言。俺がもしも『苦しかった』とか言っても、こいつはきっと褒め千切るのだろう……優しいからな。でも……
「簡単さ……俺の人生はインフィニティの野郎に壊された。突然意味不明な物見せられたと思ったら、視界を塞がれて……この世界がプログラムだって言われたんだ。その上、そいつは俺や罪のない人を殺そうとしてくる……我慢ならなかった。やられっぱなしでいるのが……どうしても。一矢報いてやりたかったんだよ……要するに怒ってたのさ。最初から、最後まで……怒りと憎しみだけで戦ってたんだ」
「……そっか。やっぱりお前、優しいよ」
「え……今の話のどこに優しい要素があったんだ?」
あいつは歯を出して笑って言う……
「だって……お前は見ず知らずの人が苦しんでて、殺されてて……それが許せなくて、苦しくて……だから自分がどれだけ苦しんでも、怒りを消さなかった。もし他人の命を零してしまった時は、涙が枯れるまで泣いちゃうんだから……それにさ。お前が本当に憎しみに飲まれてて、復讐のこと以外考えてなかったなら……多分みんなはここにいない。エラーでぶん殴れば、すぐに動きは止められるんだからな……けど、お前はそれをせずに狙いにくいゲージを狙って、みんなを助けた。自分がその人達に殺されかけてるってのに……」
「……!」
「わかったか? お前は優しいんだよ……たとえどれだけ憎んで、怒っていたとしてもな……」
そうか……俺は優しいのか。じゃあ俺は、優しい悪魔ってことになるのか……それもいいな。
「ありがとうな……俺さ、学園長に『何十万年も殺され続けて、正気でいられるのは人間とは思えない。奴らが天使なら、君は悪魔だ』って言われたんだ。俺はつまり優しい悪魔ってことになるわけだな……」
「優しい悪魔……いいじゃん、それ。かっこいいじゃん! なら、俺も悪魔だな! 一緒に戦ったから!!」
「俺達は悪魔コンビ、ってわけだ……ははっ」
二人で笑い合う……こんな日常も、いいな。
「あははっ……じゃあ、また明日……元気でな!」
「あぁ、また明日……」
そうだ、明日が約束されているんだ。明日を壊す者は、もういないから。家に帰って、鞄を置いて……誰もいないけど、つい言ってしまう。
「ただいま……っ?」
……風が俺の頬を撫でた。まるで、おかえりと言うように……
「……過保護なんだよ。お盆だって言ってたろ?」
そう呟いた俺の顔は……笑っていた。
時は経ち……ほとぼりもすっかり冷めて、俺がエラーであることも忘れられようとしていた頃。
「……何これ?」
「なんだぁ? お前のことだし、果たし状かなんかだったりしてな!」
「そうだったら受けてやるさ……ん? 違うらしいぞ」
手紙だ。丁寧な字、女性の字だろう。
「なになに……放課後校舎裏に、って……ラブレターじゃねぇか!! やったなぁ、樹!!」
「そうらしいな……行ってみるか。罠なら相手になってやるまでだ」
「相変わらずだな……頑張れよ、樹!」
そう言われて……放課後。本当に行ってみた……罠ならさっさと来い。そう思っていたが……誰かいる。女の子だ……
「来てくれて、ありがとうございます」
「……あなたは」
「私は……あなたのことが好きになっちゃったみたいです……心の底から。誰に操られてるのでもない……本当の気持ちで。だから、樹くん……! 白上と……!!」
あぁ、どうやら……幸せになれるのは、そう遠くなさそうだ。父さん、母さん……見てるか? 俺は、今幸せだぜ。そう、心の中で呟いて……目の前にある本物の好意を、思いっきり噛み締めた。
きっと、幸せは続きます。永遠に……ここまでありがとうございました。またいつか、別作品でお会いしましょう。