(本編完結)ホロライブラバーズX infinity 作:とも667
……あの後。俺は修行をしつつ、結果を待っていた。次の相手が誰になるかはわからないからな……これまでの奴らは、全員イカれた能力持ちの狂人だった……次の奴だけ違うなんて有り得ない。つまり……戦闘は避けられない。だから修行しているのだ……復讐のために。
「……くそ。これでもまだ足りん……奴らに苦戦してるんだ、こんなんじゃインフィニティどころか大神官にも勝てんぞ!!」
その怒りと焦りを、自分の体にぶつける。強くなるために……そうしていると……
「……来たか。スキルだな……『HP強化』? 攻撃技じゃないのか……?」
こんなこともあるんだな。そう思いながら、修行を続ける。技を使って、技に慣れる努力をしてみたりもした……すると。
「……『マッハパンチEX』か。強化されたらしいな……慣れてくるとこうなるのか」
新しい発見をしつつ、しばらく修行を続けていると……土曜日に電話が来た。
「……電話か。もしもし?」
『もしもし、幹部の鷹嶺ルイです。業務が完了しましたので、連絡させていただきました……これで私達のできることは終わり、頑張ってね』
「ありがとうございます!! そうか、ようやくか……!!」
奴らの首に手が伸びる。そのことがわかって小さくガッツポーズをした……その後、いつもの待ち合わせ場所で待っていると……元樹が急いで来た。電話が来たらしい。
「樹! 電話……」
「知ってる。どうやら頼んで正解だったようだな……」
「あぁ……! 行こうぜ、樹! スマホでわかるんだろ?」
専用アプリと同期して、わかるようになっているのだ。4つの光が点滅している……1,2,3,4と番号が振られているのでわかりやすい。まずはどれから行くか……
「……全員気づいてないな。大神官からお告げを受けたら、外しちまうだろうから……さっさとしないと」
「それはわかってる……どれから行く?」
「……動いてない発信機があるな。多分、説教をしてる最中だと思う……出待ちするぞ。説教の時間考えれば……新幹線で間に合う」
急がないと逃げられる、早くしなければ。
「そうと決まれば、話は早いよな!!」
「行くぞ、元樹! これで四人目だ!!」
「よし、行くぞぉ!!」
殺られる前に殺る。もう二度とあんなことはさせない……セイントインフィニティは皆殺しだ。お前らの大嫌いな、エラーに塗れて死ぬがいいさ!! そう思って、歩を進める。到着した時には、もう二時間経っていた。
「まだいそうか!?」
「少し聞いてみるか……」
「……どうだ?」
耳を当ててみると……いるな。中からは歓声が聞こえてくる……そろそろ終わりそうだ。どうやら、宗教勧誘のためのセミナーか何かをやっているようだな。
「まだいるな……裏口で出待ちするぞ。あっちのリムジンがそれのはずだ」
「よし……挟み撃ちだ!! 樹は右、俺は左な!!」
「わかった。先手必勝だ……!!」
そう言い合って、二手に別れる。物陰に隠れて、足音を待った。
「……ふぅ。疲れたな……帰ってインフィニティ様にお祈りを捧げなければ。供物も祭壇に……」
「お前が供物になれぇぇぇッ!!」
「うりゃあぁぁぁっ!!」
成功だ、あと数cm……!!
「はぁ……分かっていたぞ、エラー」
「なにっ!?」
「今のを躱した……まさか、もう『infinity blessing』を使ってるのか!?」
奴は余裕綽々としている……こいつは『どれ』だ?
「まだ使っておらん。それにしてもエラーよ、いきなり襲いかかるとは……礼儀作法がなっておらんな」
「いきなり人の家を燃やした上、人の親を必要なく痛めつけた挙句、殺した輩の仲間に言われたくはないな」
「……そちらにいらっしゃるのは、主人公様か。確か、バグっているのだったな……いい機会だ、ここでデバッグさせてもらうとしようか」
こいつらは全員、元樹を主人公だと思ってるみたいだな。そして、俺のせいでバグっていることにしている。自分達の敵だと余程認めたくないらしい。
「俺は正常だっての!!」
「お前はセイントセブンのどれだ? 『信仰』か? 『愛』か? 『正義』か? 『知恵』か?」
「自己紹介がまだだったな……私はお前の言う通り、絶対神インフィニティ様に仕えるセイントセブン『知恵』のサルビアだ……」
知恵か。本を手に持っているが……
「その本が武器になるのか?」
「いや? これは私の好きな本だ……お前達相手に手加減はできんな、不本意だが……力を使わせていただくとしようか」
「来るぞ……!!」
迂闊に近づいたら、何をされるかわからん。構えておこう……
「神の力よ、我に祝福を与え給え!! 『Infinity Blessing』起動! 『wisdom Acquirer』!!」
「……どうなった? 残機が増えたのか? それとも無敵になったのか?」
「そのどちらでもない……私が持っているのは、知恵の力。文字通り全てを知ることができる……自分の望んだ情報を、全て一瞬にして引き出すことができるのだよ」
……それだけか? しょぼいな……そう思って、俺は膠着を破るため、先制攻撃を仕掛けた。地面を蹴って走り出し、マッハパンチだ。
「それがどうした!?」
「わかっておらんな……いいか? 『知恵』と『情報』は違う。『知恵』とは情報を踏まえて対策したり、自分なりの答えを出すことを言うのだ……」
「……なに!?」
サルビアはまるでわかっていたかのように、最低限の動きで躱してみせた。
「お前達のこれまでの戦闘データを全て『取得』させてもらった……そこから、神の力をお借りして情報処理を行い……お前達の対策を行った。この間、一秒もかかっていない」
「……タイムラグなしで全てを対策してくるのか!!」
「そういうことだ……お前達の動きは読めているぞ? 新しいスキルへの対策も十分……勝利には力だけではダメだ。『知恵』を極めることも、また殺せる可能性を上げてくれる。そのエラーがどのような拷問をすれば、一番大きな悲鳴を上げるかもわかるしな」
こいつも趣味の悪さは変わらんらしいな……
「……やはり対策は必須だな。あるのとないのとでは天地の差だ……お前らがどうすればダメージを受けてくれるのかまで、全てわかるぞ……」
「お前にはカルミアやアザレアのような武器はないのか?」
「無論ある……もう少しお預けにしたかったが、聞かれては仕方あるまい」
俺達から大きく距離を取り、奴は地面に手を置いた。
「……モード、デバッグ。特殊番号04番、変化。『ウィズダムアロー』」
「あれは……弓か?」
「こいつ……弓なんて扱えるのか?」
持ち方がまるでなってない、知らない俺でもわかる……アーチェリーの動画などは見たことがあるが、プロと比べてもあまりに酷い。
「……その通り、実は私はこの弓を使うのは初めてなのだよ。いつもは他の武器でやるからな。普段は全力を出すことなどない……だがな、私はこれの扱いについてはプロだ。もう既になっている……その意味がわかるか?」
「……そういうことかよ……!」
「二人ともわかったようだな……そうだ。今、『弓の扱い』についての情報を全て脳内で処理し、体に染み付かせたのだよ。つまり……私は、扱えない武器がない……どんな武器であろうと、プロ並の扱いができる!!」
こいつにとっては、この世の全ての武器が『得意な武器』なんだ。練習する必要性なんてない、すぐに『染み付かせられる』から……水道から水を出すくらいの気分で、プロ並の腕前になることができる!! その上こっちは対策されきっていて、俺達がどんなことをしてくるのかもすぐわかる……それも『あっちだけ』!!
「……カルミアやアザレアよりも弱いような気がしてた俺を殴りたいな……こいつ、とんでもない能力持ちだぞ!!」
「そうみたいだな……」
「ようやくわかったか……わかったところで何も変わらんがな? さぁ、デバッグ開始だ……!!」
奴が弓を構えた……地面から矢を出している、矢自体は何の変哲もないようだが……だからこそ厄介だ。カルミアのように何かを捧げるのでもない、アザレアのように条件付きでもない……! なんて能力だよ……!!
「だが、倒せない相手じゃない……だろ?」
「あぁ、やらなきゃならないんだ!!」
「そう上手くいくかな……喰らえ!!」
サルビアが矢を放った、それは直線的に飛んできている……だが、それなら。
「『消えろ』ッ!!」
「……甘いな」
「えっ、矢が勝手に避けた……!?」
タックルで突っ込もうとすると、矢の軌道が突然大きく変わって……俺の後ろに回り込んだ。
「ッ、だいぼうぎょ……っ!!」
「樹!! 大丈夫か!?」
「あぁ……大分痛いが、この程度なら……」
何でこんなに痛いんだ? たかが矢一本で……
「私の武器、『ウィズダムアロー』はお前達を『知っている』。その情報に基づいてどこまでも追いかけ、攻撃を避けながら進み……必ず相手の急所に突き刺さる。痛いだろう?」
「……必中かつ、確定急所ってわけか……」
「言っておくが、私に当てようとしても無駄だぞ。私が敵として認識している者以外は、全て避けて進むからな……『勝てない相手ではない』か。これを知ってもまだそれが言えるかな!?」
……確かに、あっちの方が圧倒的に有利だ。『知恵』の力、必中かつ急所確定の弓にこちらの『対策』……あっちに、俺達の攻撃はほぼ通用しない。だが、それでも俺は笑う。元樹も同様に……
「ヘッ……星崎元樹を舐めるなよ!? 俺も根性だけなら樹にだって負けてねぇぜ!!」
「俺の怒りと憎しみがその程度で折れるとでも……? 知ってんだろ、俺はお前も他の奴らもインフィニティも大神官も殺す!! それまでは死なない……だから、何がなんでも死んでもらう!!」
「……生意気な口を利きおって。話すのが馬鹿らしいな、さっさと消して主人公様を元に戻すとしよう……」
奴は弓を構えた……あれをどうにかしないと、近づくこともできんな。一回消しただけでは、また作られるし……矢だって無限だ。何かを盾にしようにも、エラーを纏った俺に触れたものは生物以外即座に消滅するし……
「消えるのはお前の方だぜ!!」
「主人公様とはいえ……我ら神聖なるデバッガーの邪魔をするなら、誓約に基づき死にはしませんが……腕の一本は覚悟していただきますよ」
「手加減してて勝てると思ってるのか……舐められたもんだな!!」
元樹の拳も、足も、剣も……その全てが当たらない。事前にわかっているから、その通りにすればいいだけ。何も考えなくていい、染み付いた通りに動けばいいから……
「この野郎……!!」
「おっと……お前には手加減する必要がないから楽で助かる……喰らえ!!」
「っ、ぐぅ……」
的確に狙ってくる……どうにかしないと、一方的にやられるだけだ。だが、奴は俺達に関して知らないことはない。新しい何かを覚えても、情報は『更新』されるだろう。まともに戦って勝てる相手ではない。
「弓だから、一発ずつしか放てないのが難点だが……まぁいい、私はどうせ無敵だ。この世界の生物がどう足掻こうとも、私に勝つことは有り得ない」
「くそったれぇ……!」
「本当に無敵なのか……!」
本当に勝てない相手だっていうのか? ここで打ち止めなのか? そんなの嫌だ……考えろ、俺にはそれしかない。一発でも当たれば勝てる……こいつの弱点はなんだ? 探せ、絶対にあるはずだ!!
「……そうだ! よし……!!」
「何かを思いついたようだが……無駄なことだ。私は全てわかっている……『ライジンブレイク』だろ? 全パターンが私の頭の中にある、当たらんよ」
「あれじゃあ自滅するだけだ……!!」
俺がそう思っていると、あいつは……そのまま目の前に行った。
「ライジン……」
「パターン3……なら、こうか」
「なんちゃって!」
そう言って、元樹はライジンブレイクをやめて地面を蹴りつけた……そのまま後ろに回り、もう一度地面を蹴って膝を奴の腹にぶち込む。
「なっ……なんだ!?」
「うぉらぁ!!」
「ぐぅあっ!!」
攻撃が当たった……?
「よし、大成功……!」
「どういうことだ……?」
「ぐ、ぎぃぃ……!」
あいつは蹲って、動かなくなっている……余程効いたらしい。
「あいつは確かに、俺達のことは全部知ってる。でも、心が読めるわけじゃない……全知ってわけじゃないんだ。つまり……俺達がやったことない動きをすれば、奴はテンパって避けられなくなる!! あいつは『知恵』の力があるけど、臨機応変な対応力はないんだよ!!」
「……なるほどな。やっぱり流石だぜ……」
「へへっ、まぁな!」
確かにサルビアには『知恵』があった。でも知恵や技術を得るのには本来、努力や時間が必須だ。サルビアはそこを神の力で無理矢理短縮してる。だから、こいつ『自身』は判断能力も攻撃に慣れるのも普通以下! だから、知らない動きをされるとテンパるし、絶対に当たってしまう!!
「いぎぃぃ……ぐっぞぉぉ……も、もう当たらんぞ……」
「こいつ自身の耐久はそこまでじゃないな……骨折れてるぞ!!」
「なら……当てれば勝てるってことだな!!」
さっきから左腕が動かない、もう一分経ったか。だが、奴も明らかに動きが鈍くなってる……痛みへの耐性は0のようだ。
「あ゙ぎぎ……!! ウィズダム、アロー……!!」
「撃つのが遅いな……」
「パ、パターン4……!」
懐に潜り込んで踏み込み、インファイトだと思わせる。奴はその通りに動いているが……俺はここで、足をかける!!
「いいぞ、樹!!」
「ぎぃぃ……ぐぞぉぉ……!!」
「メガトンキック!!」
そこに、思いっきり地面を蹴って足先を叩き込む……これで、片足を封じた。
「───ッッ!!」
「よし……効いてるな」
「これであいつはまともに動けない……いけるぞ!!」
奴はどうにか弓を構えているが、脂汗が浮いている。歯を食いしばって、目を血走らせて……効いてるのが丸わかりだ。
「こんな、こんなことでぇぇ……!! セイントセブンは、デバッガーは……負けてはならんッ!!」
「グロリオもカルミアもアザレアも負けてるぞ、俺達にな」
「まぐれだ、絶対にそうだッ!! 私の力で知れぬことはない、私の『知恵』は無限なんだ!!」
どうやら、自分の知らないことがあると相当ムカつくらしい……自分が全てを知ってるからな。その常識が壊されたら、自分はただの弱い人間だから……
「あと少しだ、トドメを刺すぞ!!」
「おう!!」
「ふざけるなぁぁぁ! 私の知恵に! 絶対神に!! 知らぬことなど!! あってはならないィィィッ!! おぉ、神よ!! もっと、もっと知恵を……!!」
俺達のことを調べているのか、奴は一瞬黙り込んだが……すぐに奴は頭を抱えて、悲鳴を上げた。
「……ぎぃぃぃっ!?」
「ん……あいつ、どうした? 樹、お前頭に攻撃したか?」
「いや、違う。奴は自滅した……あいつが自分で言った通り、能力のおかげで情報取得に一秒もかからない。知らないことがあるのを認めたくないから、俺達について調べすぎて……脳が容量オーバーになってるんだ。あいつの脳は今、多すぎる情報を処理するので精一杯……殺すなら、今しかない!!」
俺がそう言って、走りながら拳を構える……
「わかりやすくて助かるぜ……!!」
「終わりだ、サルビア!!」
「私に知らないことなどない、私は絶対神インフィニティ様に全知を与えられし、世界最高の賢者だ……こんなことは有り得ないッ!!」
処理しきれていないのを認めたくないらしいな。だが……
「お前の負けだッ!! お前が本当に賢者なら……少しは自分で勉強しろ!!」
「違う!! 私は負けていない!!」
「インファイトォ!!」
奴は弓を撃てないまま、俺のインファイトを喰らって……エラー塗れになった。
「こ、んな……い、やだ……しに、たく、な……」
『Salvia.exeは応答していません』
「Salvia.exe、強制終了……!」
そう言って、ウィンドウを蹴りつけた。奴の姿が消える……
『正常に終了されました』
「……っぐ、はぁ……何とか勝てた……」
「歩けるか? 歩けないなら……」
肩を貸してくれるのだろう。お人好しだな……だが、今回は歩ける。
「大丈夫だよ、ありがとう……今回は比較的傷が少なく済んだな……」
「あぁ、それが一番いい……とりあえず、これであと三人だな」
「あと三人……少ないはずなのに、何故かすごく遠いな」
奴らはどう考えても強すぎる。『infinity blessing』が何より厄介だ……普通にやり合ったら、まず負けるだろう。俺達だから何とかなっているが……他の人が狙われたら、目も当てられない。事実、俺の父さんと母さんは……
「大丈夫だよ、俺がいる! 向かうところが同じ仲間がいるんだ、そう遠くはないぜ!」
「……ありがとう。とりあえず一人はどうにかしたんだ、これで街はしばらく安全なはず……」
「警戒は緩められないけどな……」
そうだ、インフィニティの野郎はいつだって俺達を見てる。自分の部下が死んでもなんとも思わないような奴なんだから、ロクな性格じゃないのは確かだが……
「とりあえず、帰ろうぜ。とにかく一人倒したんだ、七人もいた時よりかは大分減っただろ? だから大丈夫、絶対何とかなる!! 最後に信じられるのは自分だ、自分を信じて進め!!」
「……わかった。いつも自信満々だよな、元樹は」
「あぁ、自信が無いと何にもできないからな。俺は常に自分を勇気づけて、絶対負けないって思いながらやってるよ……だから、今んとこ常勝無敗だ!」
やっぱり、底無しに明るいな……主人公の立場って聞いても、動揺しなかったし……多分、そういう奴なんだろう。そう思いながら、アパートに帰った。写真を見ると、昔の記憶が今でも鮮明に思い出される。
「……今日もまた殺したよ、父さん、母さん」
でも、まだ本当の仇には遠い。大神官とインフィニティ……こいつらを殺さない限り、俺にもこの世界にも未来はない。
「あー、眠れないな……」
もう一回走ってこようかな。そう思ったが、戦闘の後で足が痛い。急所をぶち抜かれたので体もガタガタだし……回復薬で明日には治るようだが……今日は休んだ方が良さそうだ。
「何も出来ないとなると、虚しいな……」
そう呟いて、気を紛らわすために考えを巡らせる。頭の上の『好感度』ってのはなんだ? ある人とない人の違いは? ずっと気になっていたことを、少し考えてみる……
「そういえば……俺の考えが正しいなら、これはエロゲーだよな」
ということは……『攻略対象かそうでないか』かな? これだろ、ゲームとして考えた時に一番筋が通る。
「上限値は幾つなのか……まぁ、それは考えても仕方ないよな」
それよりも……やっぱり、ゲーム扱いしてるんだな。生きてる人の命も、何もかも思うがまま。倫理も法則もねじ曲げて、自分の思い通りにできる……全てが奴の掌の上。俺は、その掌を叩き壊そうとしている……そりゃ、危険因子だよな。俺から見たら、奴らは邪悪にしか思えんのだが。
「ゲームとして見るなら、奴らは正義の味方なんだろうな。じゃあ俺は、わるーい悪の総統か? 正義と悪の二元論程、宛にならんものはないんだがな」
ボヤきながら、奴らの居場所をスマホで確認した……そこで、俺は……衝撃的なものを見た。
「……居る!?」
この街に、いる。『愛』か、『正義』か、『信仰』か……どれかは定かではないが、兎に角その中の一人がこの街にいる。もう来やがったか!
「寝てる場合じゃねぇな……元樹には生活があるし、あいつは『主人公』……滅茶苦茶な行動したら、何が起こるかわからん。とりあえずは俺が行こう……!」
そう呟いて、そいつがいる場所まで全力で走る。絶対に逃がさないために、もう二度と被害者を出さないために……
「……着いたけど……人の家?」
ここは……表札に『白上』と、そう書いてある……まさか、殺された? だけど、それにしてはやり合った形跡がない……獣人の勘があるのにそれを掻い潜って寝首を掻くのは至難の業だ。
「考えられる可能性は二つ……気づかれないうちに殺したか、証拠を隠滅したか……まだいるな」
そう思って、呼び鈴を鳴らした。すると案の定、奴は外に飛び出した。
「待ちやがれ、セイントセブン!!」
「……」
「逃げんじゃねぇよ!!」
マッハパンチだ、逃がしはしない……そう思って殴ろうとした、その時。
「……樹」
「……は?」
「ふふ……」
俺は固まって、動けなくなった。だって、あれは……そんなの有り得ない。確かに俺は見たんだ、炭になるまで焼き尽くされてしまった父さんと母さんの死体を。なのに、あの顔は……
「母、さん……」
「……」
「ま、待って……!!」
素早い身のこなしで、どこかに消えていく。どうして? それが頭を埋めつくして……俺はただ、呆然としていた。
「……どうしましたか? こんな時間に……」
「う、うぁ……」
「樹、くん……?」
この声は白上さんだ。よかった、生きていたんだな……あれ、白上さんは俺のこと『樹くん』だなんて呼んでいたか? それを気にする暇は、この時の俺にはなかった。茫然自失のまま、家に帰る。もしかしたら、帰ってきてるかもしれない。そう思って、また走る……
「……いない」
どこに行ったのだろう。色んなことを考えていると、目を瞑っても眠れずに……朝になってしまった。
「……あー、眠たいな……」
「よっ、樹! どうした、眠たいのか?」
「あぁ、少しな……」
そう言っていると……案の定読み取られた。
「……なんか悩んでるのか? 言ってくれたら、相談乗るぞ?」
「お前にしか話せないよ……実はな?」
「おう、何でも話せよ!」
俺は全てを話した、この街にセイントセブンがいること。母さんに出会ったこと、セイントセブンと母さんの反応が同一であったこと……
「……じゃあ、お前の母さんは……セイントセブンだったのか?」
「それはない、あの人は宗教勧誘をキッパリ断るからな」
「でも……変だなぁ、反応はどこに?」
……大分遠くに行ってる。今から追うのは難しいだろう……というか、自分から登校すると強制的に行かされないんだな。新しい発見だ。
「……大分遠い。森の中の洞窟にいると思う」
「そうか……追うのは難しそうだな」
「母さん、どうして……?」
そう思って、学校に歩を進める……戻ろうにもシステムメッセージが道を塞いでいる。
「今日辺り、来るかもしれないのか」
「そうだな……警戒しとこう」
「わかった、誰が来てもいいようにしとかねぇとな」
そう言って、自分の席に座ろうとした……その時。警戒態勢を取り、『眼』で見ていたから分かった……『EVENT』だ。これは好機……試しに壊してみるか。そう思って、エラーを起動する。
「……っ!!」
俺が『EVENT』をぶん殴ると……なんと、その場から表示が消えてなくなった。
「なに……!? どこに消えた!?」
そう思っていた時には、もう遅い。それは……俺の足元にあったのだから。
「っ……しまった!!」
暗転、そしていつの間にか椅子に座っている。やられたな……『EVENT』は破壊そのものができないらしい。
「くそ……何が起こる?」
セイントセブンが襲ってくるかもしれない。そう思って、構えをとっておく……だが。
「樹くん、何やってるの……?」
「……白上さん?」
「え……なんでそんなに他人行儀なの? もしかして私のこと、嫌いになっちゃった?」
……何を言っているのか、サッパリわからない。殆ど話したこともないはずだろ?
「はぁ……? 元樹、どういうことかわかるか?」
「え……いや、全然……」
「私のこと、嫌いなの……?」
本当に意味がわからない、唐突にも程がある。そう思っていると……俺は、また自分の目を疑うことになった。
「……なんだよ、これ」
「なんで……私は……樹くんのこと……」
「お、おい待てよフブキ……唐突すぎるぞ?」
『好感度』。そう書かれたゲージが、満タンになって……100と書かれている。一気に65も上がった……何故だ?
「元樹くんは黙っててください!!」
「お、おう……?」
「……元樹。『好感度』とか書かれたゲージが、いきなり満タンになって、100って書かれてる。多分、これの影響だ……前は35だったのに」
まるで洗脳みたいだ、いきなりこんなになるなんて……セイントセブンの野郎か? 今すぐに殺してやる。
「……セイントセブン、か?」
「多分……今すぐ殺しに行く。やれるかどうかはわからんが……システムメッセージを破壊する」
「どこ行くの、樹……?」
白上さんじゃない。誰だ? そう思って、見てみると……今度は大神ミオさんだ、あの時占いをしてた人。この人も……好感度が100にされている。
「大神さん……あなたまで……」
「なんで、そんなに他人行儀なの……?」
「ミオ、樹くんは白上達のこと……急に嫌いに……」
逆だ。あなた達が好きに『させられた』んだ。ド外道めが、こんなことをして何になる? 相手の目的が掴めない……!!
「そんな……嘘だよね!? ねぇ、何か言ってよ!! お願い!!」
「……あなた達は私と知り合ったばかりのはず。一回助けたくらいで惚れるわけない……おかしいですよ」
「ウチは本気で樹のこと好きだよ!! 好きになるのに理由なんていらない!!」
……イカれてやがる。人格のない人形になったのか……? 今度の野郎は相当クズだな、女性に敬意の欠片もないことだけは確かだ。
「ちょっと~、抜け駆けは良くないよ~?」
「そうだよ? 大体樹はころねが好きなんだよ? わがった?」
「……!!」
この二人も、やられたか。好感度の部分が……やってくれる!!
「ねぇ、樹~? ボクでよくな~い?」
「樹はころねのこと好きだよね? そうに決まってるよね? ねぇねぇねぇねぇ」
「っ……!!」
くそったれ、この人達は関係ないだろうが。何のためにこんなことをする? 絶対に許さない、生かしておけない。俺は拳を強く握り、殺意をこの街にいるセイントセブンへと向けた。その命を刈り取るために……
怒るバイくん、一体どうなるのでしょう。