(本編完結)ホロライブラバーズX infinity 作:とも667
俺に向けられる、殺意の暴風。それは、俺を今にも仕留めようとしている……奴によって、『ゲージ』を操られたから。-100、その文字が全てを壊していく……
「呼んだらどんな時だって来てくれる、だって愛してるから……! 素晴らしい『友愛のストーリー』ね!! 友愛に潰されなさい、アハハハ!!」
「そう上手くはいかない……!! 俺は貴様の作ったくだらん友愛をぶち壊す!!」
「私達の友情をバカにするな!!」
次々向かってくる、名前も知らない人達。奴が言う『ホロメン』だな……名を聞いている暇はなさそうだ。振り下ろされた斧を躱し、女性の尊厳を踏みにじる『ゲージ』に鉄拳を見舞う。バラバラと崩れると同時に、水色の髪をした人は倒れた。しかし、その後ろから人が飛び出した。
「すいちゃんの仇ぃ!! 喰らえー!!」
「っ、ぐ……!?」
「ナイスみこちィ!! 打首だ極悪人!!」
音を立てて放たれた、桃色の電撃。俺の体を襲ったところに、金髪で眼帯をつけた人が狂気的に笑いながら突っ込んできた。右手には鮪包丁、一撃で首をはねるつもりらしいな……だが、この程度……誰かの尊厳が踏みにじられるのに比べれば!!
「痛くも痒くもないなァ!!」
「う……ぁ……?」
「はあとちゃ……うっ……」
また二人分破壊したら、これで……あと31人。先は長いな……そう思っていると。
「ぬぅ……!? 早い……!!」
「なんだか知らないけど!!」
「隙ありぃ!!」
止まるのが少し早い。パワーが上がった分、体が限界を迎えるのも早いのかよ……!! 心の中で毒づきながら、向かってくる二人を見据える。一人はナイフ、もう一方は拳らしい……一方はエルフか。そう思っている間に、俺に攻撃が炸裂しそうになる……いけない、少しでも触れたらおしまいだ。エラーを即座に解除した……鉄拳をもろに喰らう。
「っ……」
「死ね!!」
「ぎ……ぃぃあぁ!!」
エラーを起動して、胸に向けられた狂気の刃を避けた。すかさずゲージに拳を浴びせて、破壊する。また解除して、時間を節約する……必須テクニックだな。
「これで……あと29人……!?」
「ハサミギロチン!!」
「やべっ……ぎっ!?」
ジェット噴射で急接近し、大きなハサミで切り裂こうとしてきた機人が一人……何とか避けたが、特徴的な赤の髪飾りをつけた人に銃で撃たれた。
「ナイス、あずきち!!」
「ミサイル……っ、くそ!!」
「向かってきた……!?」
ミサイルをエラーで『止めて』、消し去る。それに驚いたのか、動きが止まった……今だ!!
「き、消えた……!!」
「そこだ!!」
「あぅ……」
また、一人。銃にはタックルだ……そう思って撃ってくる『あずきち』と呼ばれた人に突っ込む。
「っ、近寄らないで!!」
「そんなものが効くか!!」
「うぁ……」
これで、また減ったな……そう思っていると、後ろから危険な気配を感じた。
「アイアン・メイデンッ!!」
「ぬぅ……!? 拷問器具……!?」
「しぶといなぁ、クソ男のくせして」
その人は金髪で、黒い服を着ている……あの羽は魔族のものだ。
「メル様、私も手伝うわ」
「ありがとう、ちょこ先生! よぉし、メルも頑張っちゃう!! なんたって、他でもないジギタリスちゃんの頼みだもんね!!」
「ジギタリス様もいいこと言うわね、この男を殺していいだなんて……ますます好きになりそうだわ」
奴は後ろですくみあがっている……振りをして俺達を嘲笑っている。
「……ブラッディヴァイト!!」
「血を吸い尽くすつもりか……!!」
「ヘルズバインド」
ちょこ先生、そう呼ばれたその人が俺を力で空中に縛り付けた。確かこの人は、学園の保健担当じゃなかったか? おいおい、そんな人まで支配対象なのかよ。
「わぁ~、いい気味!! じゃあ……いっただきまーす!!」
「はい、召し上がれ……美味しくないかもしれないけどね」
「……かかったな」
力を込めて、エラーを強めた。ヘルズバインドと呼ばれたその力が断ち切られ、近づいていた二人の隙をつく。
「っ、そん……な……?」
「メル様……え……?」
「あと……25!!」
「一期生全滅……でも、切り札はとっておかないとね」
そう言って、他の人間を物扱いするジギタリス。どこが愛だ、ただのブラック企業じゃないか。しかも最悪なタイプの。
「黙れアバズレ!!」
「……ちょこ先生の仇よ、やっちゃって! 『二期生』!!」
「ぶっ潰れろ!!」
鎖付きの錨が飛んできた……どうやら、あの四人が残りの『二期生』らしい。
「今のでやられていいのに……そんなに苦しんで死にたいのかな?」
「きっとそうだ余! 燃やし尽くしてやろう余!!」
「ここから逆転サヨナラだぁぁ!!」
魔法、錨、二本の燃え盛る刀、バット……強いな。だが、やるしかないんだ。
「かかってこいよ!! 全員まとめて相手になってやる!!」
「上等だオラァ!!」
「シオンの大事なジギタリスに手を出したんだから……殺したっていいよね!!」
バットのフルスイングが足元を薙ぐ。ゲージを破壊して、シオンと名乗った魔法使いの方に向かう。
「シオンちゃん危ない!!」
「あくあちゃん!? 危ないから下がってて!!」
「っ……」
驚いた……目の前に何より憎い相手がいるのに、自分が殺られるかもしれないのに……友達を優先できるのか。自分よりも他人を気にして……そう思っていた時。
「二人とも下がって!!」
「な……っぎ!?」
「ありがとう、あやめちゃん!!」
顔を斬られた……そこに風魔法が飛んでくる。体が容赦なく切り裂かれた。
「ぐ、が……」
「命中~!」
「トドメはあてぃしが刺す!!」
錨が俺に向けられる……だが、この程度で戦いをやめるわけにはいかないのだ。
「……!!」
「あ……え……?」
「あくあちゃん!!」
傷による激痛を無視し、あやめちゃんと呼ばれた人の憎たらしく光るゲージに、鉄拳を叩き込む。
「うっ……!?」
「あやめちゃ……」
「隙ありィィ!!」
やった……これで、『二期生』は全部だ。
「あ、れ……?」
「……これでお前のカードはまた減ったぞ」
「何言ってるの、満身創痍じゃない」
奴の言うことは正しい……だが、俺は笑ってみせてやる。奴の怒りを煽るために……エラーを解除し、ニタニタと笑う。
「どこがだよ……俺は立ってるだろうが。所詮、お前の洗脳じゃ力は引き出しきれないのさ」
「言わせておけば……!! 洗脳ですって!? これは愛よ、愛に基づく行動は全てがラブストーリーの一部なのよ!! 例え、それでどんなことが起きようとも……他人が迷惑を被ろうとも、『愛』なら許される!!」
「んなわけねぇだろうが!! それなら……俺の親への愛を否定したお前も大罪だろうに!!」
俺が叫ぶと、奴はそれを鼻で笑った。
「グロリオ達から聞かなかったの? 『エラーは全ての生物より下の存在』だって。人間に干渉しなければ、ゴキブリだって生きていていいけど……お前達エラーはダメ、だって異常だもの。エラーの家族だって、異常になる可能性があるから……疑わしきは罰する。人間以下に相応しいやり方でね……『愛』なんてものを口にする資格すらないんだから、否定もクソもないわよ。そんなこともわからないの?」
「……そんな理由で、俺の母さんと父さんは……!! 貴様のような奴らのせいでッ!!」
「お前が生まれてきたからいけないのよ。お前がエラーでなければ、父親も母親も死ななかった。ただのモブであり続けていればよかったのに……私の慈悲で、可愛い美少女様に殺してもらえるんだから……感謝して欲しいわね!!」
笑みに浮かぶ狂気と、人をなんとも思わない醜悪な精神。俺はそれを見て、憎悪がエンジンから溢れ出すのを感じた。溢れ出したものは、殺意と狂気に変わる……アザレアを殺した時よりも、狂気が強い。憤怒と憎悪が抑えきれない……生まれた狂気は俺から、痛みや躊躇を消し飛ばした。
「さっさと洗脳した人を出せ。全員解放する」
「やれるものならやってみなさい、今度の人達は強いわよ? やりなさい、『三期生』!!」
「……メイス!?」
人の背丈程もあるメイスが、俺目掛けて飛んできた。暴力的に地面を叩き割って……現れた。
「ありゃ、当たらなかったか」
「いいじゃん、こいつはすぐ死ぬんだから」
「それもそうだね!!」
あの二人、仲が良さそうだな……
「こ、怖い……のです」
「船長の後ろにいな、るしあ!!」
「マリン……」
全員がこちらに殺意を向けているのは変わりない。今のうちに何とかしないと……エラーをまた起動し、突っ込むと……気配を感じて、咄嗟にエラーを解除して防ぐ。
「っ、だいぼうぎょ……!!」
「ちっ……運のいいやつぺこ!!」
「ぺこ……?」
そういえば、元樹が言ってたな。そんな人がいるって。この人がそうなのか……姿を見る限り兎のようだが。持っているのは……人参型の片手ハンマー、それを両手に一つずつ持っている。どうやら、アレで撲殺する気だったらしい。
「いや、いい感じだったよ?」
「ふぁんでっどさん……お願いします、なのです!!」
「アンタ達! 出番ぺこだよ!!」
その獣人が髪に挟まった人参を投げると、丸い兎っぽい生物が大量にやって来た。その上、あの緑の子はネクロマンサーらしく……アンデッドを呼んでいる。物量作戦か……
「じゃあ、さっさと終わらせますか」
「脳天ぶち抜いて終わりにしよう、それがいいよ絶対」
「るしあはやらないよ、汚らしい男め!!」
……上に浮くゲージを見て、狂気を燃やす。痛みを遠ざけ、目的以外を考えないように……
「……突破する!!」
「おらぁ! 一斉にかかれぇ!!」
「あいつを殺して、ふぁんでっどさん!!」
その全てが、俺に向かって襲いかかってくる。俺はまとわりつかれて、鋭い牙やアンデッドが持っている武器による攻撃を次々受けた……だが。
「ぬぅぅ……邪魔だァァァッ!!」
「嘘……!? 一気に全部振り払った!?」
「大丈夫、団長に任せて……砕け、白亜の鉄槌ッ!!」
全力で投げられたメイスが、俺の頭を粉砕しようと猛スピードで向かってくる……攻撃を当てて消すわけにはいかない、そう思って俺は……
「うらぁ!!」
「……地面が消えた!? いや、潜って避けたのか!!」
「変な技使うやつだぺこ……みんなどうする?」
どうにか避けた……早く勝負を決めないと、エラーも長くは持たない。頭の上に浮いてるから足じゃ蹴れないし……あと、一分もないぞ。
「大丈夫、私に任せてよ……出てきたら撃ち抜くから」
「さっすがフレア!!」
「気がついたって避けようがないよ、私の矢は外れない……!!」
弓を引く音が聞こえる……行くぞ。削り取った地面から這い出て、タックルを仕掛ける。
「向かってきてくれるとは……そのまま遠くで死んでよ!! 行け!!」
「……え!? なんで……矢が消えた!?」
「っ、るしあ……!!」
『るしあ』、そう呼ばれた人を庇う赤髪の人。ゲージを狙って、拳を振るった。
「あ、ぅ……」
「そ、そんな……マリン!!」
「ぬぁぁぁっ!!」
忌々しいゲージを叩き割る。次だ。
「っ、くそ……弓が効かないって、どういうこと……」
「らぁぁっ!!」
「う、ぇ……?」
ゲージが壊れて、次々倒れていく。
「あ、アンタ達! ぺこーらを……」
「ぬぁぁりゃっ!!」
「うっ……」
最後は……メイスの人だった。気がつけばその人は、メイスを振り上げて……
「死んでよ、友達殺し」
「……っらぁ!!」
「うぁ……」
クロスカウンター、と言うのだろうか。ゲージには当たったが……俺もメイスをもろに食らった。脳天には当たらなかったから、脳震盪は免れたが……片腕が折れたらしい。そして丁度良く、片腕の方も動かなくなった……最悪だ。そう思って、エラーを解除する……時間を稼いで、どうにか再使用できるようにするしかないか。
「……いい気味ね。これでもまだ、お前の罪には足りないけど……」
「お前は戦わんのか……? 他の奴らはみんな、自分の武器で戦っていたが」
「あるわよ……? あなたのような、汚らわしいエラーに使うのは気が引けるってだけ。それも気にせず殴りに行けるグロリオがおかしいのよ」
ってことは……近距離武器なのか。
「お前の武器は、近距離武器なのか……?」
「そうよ。愛の武器……まぁ、当たれば絶対に殺せるし、まだ使う気なかったけど……飽きたから、そろそろ終わりにしようかしら」
「……使う気か」
奴は他の奴と同じく、地面に手を置いて言った。
「特殊番号05、『ラブウィップ』」
「……愛のムチ、ってか? それで引っ叩くつもりってわけかい」
「叩くだけじゃない……自由に伸びて、敵を縛ることだってできる。便利なのよ、これ……美しき私の愛の象徴」
茨のように刃がついたムチを、こちらに振りかざすジギタリス……食らったらまず、体はズタズタになるだろう。あと少しなんだ、時間を稼げ。
「お前の武器はそれか、ジギタリス……」
「そうよ、これであなたはおしまい。で、どうするの? もしここで土下座して頼むなら、楽に親元に送ってあげてもいいけど」
「断る、お前は何がなんでも殺してやるよ」
……戻った。両腕とも戻ったぞ!
「もういいわ……面倒くさい。最後の切り札もまとめて、一気に出してあげる……来なさい!!」
まとめてぞろぞろと入ってくる人達……holoxの人達もいる、どうやら『ホロメン』に含まれるらしい……計15人、4と5と6ってことか。
「……15対1、か」
「そうよ? さらに……あの中心にいる人が私の切り札、このゲームでの性能ダントツ一位……0期生、『ときのそら』。全ての始まり……そりゃ強いわよね。私含めて16対1……勝てるかしら?」
「勝てる勝てないじゃない……勝つ。お前を殺してな!!」
折れた腕を無理矢理動かす。痛覚を憎悪で遮断する。雑念を憤怒で焼却して……拳を握った。
「じゃあ死ぬまで戯言吐いてろよ、ゴミクズ。やっちゃえ、みんな」
「喰らえ!!」
「チッ、やはり物量が多いな……」
次々飛んでくる銃弾や魔法……それらを避けて掻き消して、どうにか対応する……
「……囲んだ!」
「一斉にかかれぇ!!」
「これでおしまいなのら!!」
……回避は無理だ。ならば……さっさと破壊するまで。血と一緒に狂気を巡らせ、邪魔な痛みを消し飛ばす……ヤバい攻撃だけ避ければいい。天使と思わしき人の飛行しながらの殴打を避けて……カウンターした。
「うっ、あ……」
「かなたん! くっそぉぉ!!」
「……らぁっ!!」
今度は羊か。角で突進を喰らい、片方の角が腹に刺さったが……気にせず、殴りつけた。
「え、角が消えて……あぐっ!」
「ルーナ、やるよ!!」
「任せろなのら!!」
攻撃が二段になって飛んでくる……それに突っ込んで、消しながら進む。これで……
「っ……!?」
「隙あり。私達だっているんだよ?」
「ナイス、ししろん!!」
また撃たれた、しかも急所を撃ち抜いてきている……地面が凍りつき始めた、どうやら凍らせる気のようだ……避けられそうにもない。
「だいふく行くよ!! アイスストーム!!」
「チッ……!!」
「……こっち来た!? なんで、確かに凍ってるのに……!!」
この程度で諦めるわけにはいかない。奴への殺意は消えない……息を吸うな、肺にこの空気を入れちゃいけない。
「ラミィに近寄らないでっ!!」
「……!!」
「あぅ……!」
殴りかかってきたところを、殴り返す。相手は倒れたが、俺も顔の骨を折られた。
「ねねち!! この……火の輪くぐり、ライオン!!」
「……ライオンが出てきた!? くそったれ……!!」
「噛み付け!!」
噛み砕かれたら終わりだ……あの人のゲージを破壊するためには、あの輪をくぐらなきゃいけない。跳ぶしかないだろ!! ライオンの背を蹴って、火の輪を潜る。
「……ギャウ!?」
「ライオンを足場に……!?」
「そこだ!!」
ゲージ、2つ目。今度はもう撃たれない……!!
「……なんで消えるわけ? チートでも使ってんの!?」
「うおらぁっ!!」
「ぎっ……」
よし……次だ。
「ししろん……! っ、氷の城壁!!」
「壁……? そんなもの……!!」
「今だ、ぶちかませ!! ココ!!」
……後ろか!?
「クロスファイア! ブレスッ!!」
「龍……!? 一体どこから……!!」
「燃えろ、燃えろぉ!!」
くそ……これは当たっちゃいけない、さっさとゲージを……!!
「やらせない! 近づくな!!」
「アイススピア!!」
くそ……holoxの人達も攻撃に参加している。奴は……笑いながらそれを見てる。相変わらず、ムカつく奴だ……
「だいぼうぎょ……!」
「はかせ!!」
「okラプちゃん、喰らえ!!」
だいぼうぎょとエラーを解除して、薬の範囲から離れる……どうにか激しい炎の範囲からも抜けて、龍の背に乗った。
「ッ、この……落ちろ!!」
「ぐぅぅ……らぁぁ!!」
「ぎゃっ……」
龍が倒れた……山のような龍の体から飛び降りた拍子に、『ラミィ』と呼ばれた人……エルフと思わしき人のゲージも破壊した。
「しまっ……う……」
「ッ……次!!」
「トワ様、危ないっ!!」
ラプラスさんが魔法を撃ってきた……時間か、左腕が動かない。あと一分もないな……!!
「ラプラス……! 危ないよ、下がって!!」
「嫌だ! あんなクズ野郎に、トワ様がやられて欲しくない!!」
「……ラプラス、避けて!!」
会話を気にしてはいけない……操られてるんだ。解放するためには……これしかない。
「え……あ……」
「よくもラプラスをッ!!」
「撃たせるか……!」
肘鉄をゲージに叩き込んだ……大分減ったぞ。
「あぐ……」
「アンタもだッ!!」
「こっち来んななのら!! ぐっ……」
お菓子が次々飛んできたが……実弾なら、消して進める。
「……いただきまーす」
「っ……シャチか!!」
「避けられた……すばしっこいな」
確か、沙花叉クロヱだったか。邪魔はさせん、俺には時間がないんだ!!
「ラプの仇……討たせてもらう」
「……避けたか」
「私は鷹だ……舐めてもらっちゃ困るね」
生半可なスピードじゃ追いつけないか……だがやるしかない。攻撃を見切れ、スピードに慣れるんだ。飛んでいようが、やることは変わらない。
「『ホークストライク』!!」
「っ……らぁぁぁ!!」
「くぅ……!?」
ゲージを破壊した……これで、また減ったな。風真さんが踏み込み、構えを取っている。何かしてくるか。
「ルイねぇ!! くっそぉぉ!! 風真流……奥義ッ!!」
「……来るか」
「疾風断破ァァァ!!」
地面を蹴る音がした……よし、見えたぞ!!
「ふっ!」
「そ、んな……」
「絶対に勝つ……ジギタリスちゃんのためにも!!」
奴のせいで、攻撃をさせられる。その凶器はこんな下衆を守るために使うべきじゃない……! だからこそ……
「俺だって負けられないんだよ!!」
「それ以上喋るな!!」
「またか……!」
沙花叉さんが水の中に潜った……その瞬間、姿が変わって、シャチの姿となる。俺を今度こそ食い千切るために。
「行け、助手くん!!」
「……自爆か!!」
「これで……おしまいだ!!」
飢えたシャチが、大口を開けて飛び退いた俺目掛けて飛んでくる……ゲージはあるな。俺は……その体制のまま、ゲージに足裏をぶち込んだ。
「ぎゃう……」
「クロたん!! 助手くん……!」
「させるか!!」
壁を蹴りつけて、拳を振りかぶる。ゲージを狙って……!!
「うぉらぁぁ!!」
「ぐぅ……!」
「ぜぇ、ぜぇ……あと、一人!!」
どこだ? そう思っていた時だった……
「今よ、そら!!」
「……」
「……っぶねぇ!!」
咄嗟に体を反らした……さっきまで心臓があった場所を、刀が薙ぎ払った。もしあのままだったら、俺は真っ二つだっただろう……
「チッ、当たらないか……まぁいい。お前は終わりだ……『ときのそら』は最強格のキャラクター。満身創痍で勝てるかしら?」
「やるって言ったら……男は、やるんだよ……」
「死んで」
心臓への的確な刺突。俺と同じように、怒りと憎悪の籠った瞳だ。攻撃にもそれが現れている……その上。
「ぐっ、まずい……!」
「……そうか、今がチャンスだ!!」
「ありがとう、ジギタリスちゃん」
腕が動かなくなりやがった……こんな時に!! 回復には三分程かかる……エラーを解除して、できる限り距離をとる。だが……エラーを解除した途端、激しい脱力感と虚脱感が俺を襲った。相当HPを削られたらしい。
「お、ごぇぇ……くぅ……」
「アハハ、いい気味ね……痛めつけてやりましょう、そら!!」
「うん、ジギタリスちゃん……ホロライブ学園はみんな仲良く。それの邪魔をするような極悪人は……苦しんで死んでもらわなきゃね」
接近しながらの居合を、どうにか躱す。価値観まで変えてやがる、こいつの能力か……
「価値観まで改変しやがって……!」
「人を愛すると価値観が変わることくらいあるわよ」
「お前が勝手に変えたんだろうが!!」
どうにか、振り下ろされた刀を避ける……あと少し、あと少しなんだ!!
「ジギタリスちゃんを悪く言う奴はみんな死ぬんだよ?」
「くそったれが……! 愛を人を奴隷にする免罪符にしてんじゃねぇよ!! アバズレがぁ!!」
「あら……それじゃあ、この街の全員が私の奴隷ね」
……は?
「たった一日で、この街の総人口全員と接触したのか!?」
「違う。セイントセブンである私だって、そこまでできない……『Love story』は他の人に移るの。私が関わった人が誰かに少しでも関われば、その人も私の愛の対象。その人がまた誰かに関われば、その人も……つまり、一日で街を『Love story』の対象にするくらい容易いの。わかる? もう日本とアメリカと……半数以上の国は私の思うがままね」
「……なんて能力だよ……!! 世界だってすぐに手に入るじゃねぇか!!」
感染力が高すぎる……その上、支配している者は邪悪。こいつ……やろうと思えば、世界だって手に入れられるぞ。
「『この世界』は絶対神であるインフィニティ様のものよ。だから、私はそれをしない……やれるけどね。あ、この街の全員は流石に入り切らないから呼ばないわよ……それに、呼んだって足でまといだし」
「くそったれ……!! これまでの奴らが強力な兵器なら、お前は恐ろしい病気だ……!!」
「違うわ、世界を救う善性の細菌よ……お前という癌細胞を消すことによってね!!」
……やった、片腕が戻った!! そう思って、エラーを起動したその瞬間……一瞬だけ動きが止まってしまった。
「終わりだよ」
「……!!」
「うっ……!?」
やった……これで、全員だ。だけど……
「……っ、くぅ」
「片腕は粉砕骨折、もう片方は切れ込みが入った。そして……時間もある。終わりね……」
「……ハッ、何を言ってるんだ?」
骨折したって動かせる。俺の痛みなんざ、みんなの心の痛みに比べれば……1円の価値もないさ。
「黙れ……これで、終わりよ!!」
「……っ!!」
「避けて終わりだと思った? 愛は……『増える』のよ」
奴がそう言うと……空振って叩きつけられた茨が、ひとりでに地面に刺さり……この部屋中から生えてきた。
「なに……!?」
「巻きつけ!!」
「っ……!」
茨が巻きついて、棘が体中に突き刺さった。これは……返しまでついてやがる。
「これは他の奴らとは違う武器……エラー耐性がある武器よ。敵に直接くっつくから……エラーで抜け出されちゃたまらないからね」
「くそ……この武器には、通じんか……」
「さらに……!!」
そう知って、こっそりエラーを解除しておく……棘から液体が漏れているが……毒か!?
「毒……!?」
「違うわ、これは愛……濃縮した愛よ。あなたを私の愛だけしか考えられなくして、たっぷり痛めつけるの……そして、仕上げ!!」
「ぬ、ぎぃ……あ……!!」
感情が吸われている……廃人にするつもりか!!
「アハハッ、無様ねぇ……でも、この後の展開を考えると……ゾクゾクしてきたわ!!」
「う、がぁぁぁ……ぎ、ぎ……」
「……おかしい。このスピードで吸っているのにどうして……?」
……そうか。こいつ、俺の憎悪も吸ってるんだな……!? だんだん、脳内が憎悪と怒りだけになってきた……他の感情は吸われたらしいな。そんなことより……殺したい。早く……奴の息の根を止めたい……殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!
「なっ……まずい!! 回収しないと……鞭の積載量を超える……!!」
「……うがぁァァァァ!!」
「ま、まず……ぐぁぁっ!!」
鞭が奴の手を跳ね飛ばして……真っ黒になった。あれが、俺の憎悪の色か……茨は全て弾けてなくなった。あとは……奴だけだ。愛とやらが、体から血とともに溢れ出していく。腕は……動く。エラーは消えてるな……?
「ひ、ひぃっ……化け物!!」
「化け物は貴様だ、このアバズレェェェッ!!!」
「やめて、樹……ぐぎゃあ!? せ、せめて……置き土産を……!! ぎぃぃ!!」
その場で地面を思い切り蹴る。奴の頭に足裏をぶち込み……奴が倒れたが、無理矢理立たせた。母さんの顔をしているのに、声も同じなのに……戸惑いが湧かないし、葛藤すらできない。あぁ、これが狂気……殺意が臨界点を超えた証。それに身を任せて……奴より強い狂気を、奴にぶつける。悪意には悪意を、残虐には残虐を。狂気には、より強い狂気を……人間には、それしかないのだ。
「インファイト!! インファイト!!! インファイト!!! インファイトォォォ!!!」
「ごぎゃあぁぁぁぁーっ!!!」
「ウォラァァァァァーッ!!!!」
それから……何十分、エラーを使わずに殴り続けただろうか。奴は……体中が無惨な姿になっていた。内蔵だって、潰れているだろう。血と胃液が、口から溢れていた。体から溢れ出した血か、奴の血か……それはわからない。
「ご、るる……」
「こ、ろし……て……ころ、し……」
「……」
次の一撃で、どちらにせよ死ぬだろう。血に塗れて……俺はどんな顔をしているのだろうか。憤怒と憎悪は消えていない……きっと、悍ましい表情なのだろうな。奴にとっては……恐怖を煽るのだろう。そう思いながら、俺は……奴の心臓を骨ごと叩き割った。
「げぇ、あ……」
「……」
俺は、大量の血を被った。返り血で、赤くない場所が体にない……そして、周りには気絶した学園の皆さん。地獄の光景だ……俺は周りから見れば、大量殺人をした悪鬼にしか見えないだろう。肉片だってついてるし……幸い病院が近い、連れて行こう。
「……」
一人一人、運んでいく……血濡れになっていく皆さんが可哀想だが……仕方ない。吸われた感情が戻ってきたか……何分かして、運び終わった。全員ソファに寝かせている……
「……ゆ、幽霊……!?」
「誰が運んできてるの……!?」
「……」
何か言われているが……聞こえない。お金を取り出して、血で文字を書く。
「ひっ……!?」
『お金を立て替える 彼女達の診察と治療を頼む 返さなくていいと伝えて』
「え……あ、はい……?」
契約書のようなものがこちらに来たので、それを書いて……面倒なので、一億渡した。
「え……」
『まだ必要か』
「い、いえ……」
なら、いいんだ。
『俺の治療も頼む』
「血が……何もないところから……!?」
「ゆ、幽霊だ……本物の!!」
みんな逃げていく……見えてない? それって、どこかで……
『破壊したら最後、その人にアンタは二度と認識されない。二度と見えないし、聞こえないし、わからない。記憶も勿論無くなる……アンタは二度と、この子に会えないのよ』
『せめて置き土産を……』
「あ、あなたを……? でも、見えないんじゃ……保険証はお持ちですか?」
……やられた。奴の置き土産は……この街中の俺の認識を消すことか……さっさと頭を割っていればよかったな……多分、元樹は対象外だろう。でも、元樹はもう巻き込めない。何もないところに話す狂人になってしまうからな。
『釣りはいらん』
「え……お客様!?」
「……」
そうか……それでも、俺のやることは変わらない。セイントセブンを、インフィニティを潰すだけ。そう思いながら、走っていると……出血多量だ、意識が保てなくなってきた。どうにか、薬屋に行って……金を1000万、一気に出した。
『回復薬全部くれ』
「は……!?」
『早くしてくれ』
血が地面やカウンターに落ちる……
「ひっ……わ、わかった!! えっと、これとこれと……これで全部だ!!」
『釣りはいらん、とっておけ』
「え……ちょ、待っ……」
外に走って、次々急いで飲み干す……体が楽になってきた。だが、深い傷が消えんな……これでは、血がまた出て同じことの繰り返しだ。家に帰りながら、考えた……
「……よし」
俺は家に帰り、まだ血の流れ出る場所に対し……裁縫は骨折してるから無理だ。だから……焼けた俺の家に行って、庭で火をつける……
「……っぐ」
傷口を炙って止血する。腕は全体的に炙ったな……よし。これで全部終わりだな……痛いとか言ってる場合じゃない。これでできた火傷は、回復薬を飲むことで解決しておく……痕は残るが、それは別にいい。
「よし、火を消して……」
これでどうにかなった。奴の死体は……まぁ、放っておいてもいいだろう。戻る気になれないしな……さっさと帰って寝よう。そう思って……家に帰った後、作り置きのメンチカツを食べて風呂に入り……血を落としてから、ベッドに入った。次の日から、本格的に始めよう……もう、誰一人俺には気づかないのだから。
樹くんは、戦います。