性技の指揮官:ORE NIKKEがえちえちで困る 作:もみにい
手が顔に当たり、目が覚めた。
「……ありがとな」
涎を垂らしながら眠っているアリスの口元を拭ってやり、身体を起こす。
脚を組んで椅子に腰掛けたラピの瞼が開き、俺の視線を追い、恥ずかし気に脚を揃えた。
「っ……ぉ、お目覚めですか、指揮官……体調はどうですか」
「ん、良いな。脚も痛くない……本格的に治ってきたかもな」
「……無理をしてませんか?」
「俺がラピに嘘つく訳ないだろ……外骨格を使って歩いたのが、良かったのかもな」
「良かった……では、出発しましょう」
佇まいを直したラピが立ち上がり、扉が慌ただしく開く。ぶるるんっと揺れた質量に思わず目を奪われた。
「ラピ、指揮官様は起きた〜?」
「……ししょー。おはようございますぅ」
勢いよく部屋に入ってきたアニスの後ろには、目を擦り欠伸を噛み殺したネオンが眠たそうにしていた。
「ふみゅ……はれっ……うさぎ、さんっ?……ウサギさん……おはようございます!ウサギさん!!」
目覚めたアリスが背中に張り付き……想像以上に騒々しい朝を向かえ、思わず笑みが溢れる。
「……ああ、起きたよ。おはよう、みんな……アリスもな、おはよう」
「はい!ウサギさん!」
穏やかな朝の時間。こんなに平和で笑顔が飛び交う光景を見られただけで……それだけで、北部に来て良かったと思った。
「そういえば、アークとの通信はまだ繋がらないのか?」
シフティーとの通信は終始途絶えている。ふとした疑問に対しラピは首を傾げる。
「繋がらないです。エブラ粒子の濃度も低いはずなのに、どうしてでしょうか」
四人で首を傾げ……楽しそうにアリスも首を傾げていると、ティーカップを手に持ったルドミラが口を開いた。
「北部ではよくあることよ。未知の何かが通信を妨害しているんでしょうね……氷の下に怪物が眠っている。ありふれた話だと思わない?」
「はは、そうかも」
「くふふっ……あっ!女王様!」
ルドミラの冗談を笑い飛ばしたアニスに釣られ笑っていたアリスが、思い出したように声をあげる。
「どうしたの?アリス」
跳ねるように背中から飛び出したアリスが、焦ったようにルドミラに近づいた。
「眠り姫たちを確認しないと!」
「……後でやったらどうかしら?」
静かに告げたルドミラに対し、アリスはツインテールを振り乱し詰め寄った。
「ダメです!長らく見てませんから!もしかしたら、目が覚めたかもしれませんよ!」
「……眠り姫たち?」
アニスの疑問に対しルドミラは更に表情を曇らせ……口を噤んだ。
「女王様!早く〜!」
手を引っ張るアリスに根負けしたように、ルドミラは一度瞑目し深く息を吐き出した。
「……そうね。行きましょう」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ルドミラに案内された部屋はパイプが張り巡らされ、部屋中に所狭しとカプセルが並んでいた。まるで……何かの実験施設のような雰囲気。ルドミラの表情が曇った原因はこれか。
「……ここは?」
ラピが呟いた言葉に対し、ぴょんと跳ねたアリスは右手をあげ、満面の笑みを浮かべ話し始めた。
「私が紹介しますね!……この方は青い髪のお姫様!」
アリスが指差したカプセルが振動し……纏っていた殻が開かれる。
「「「「!!」」」」
皆が一様に驚愕し……その光景に息を呑む。
カプセルの中には頭の上部がない人型……傷ついた……否、傷つき過ぎたニケがチューブに繋がれ……培養液に浮いていた。
「そして、この方は黄色い目のお姫様!」
弾むようなアリスの声が響き……隣のカプセルが暴かれる……またしても、上半身だけが残っているニケが姿を見せ……当然のように、頭の上部は存在しなかった。
「ここにいる方はみんな、眠り姫です!私たちはこの方々を起こして、一緒に幸せな世界へ行くんです!そして一緒にお菓子も食べて、牛乳も飲んで……ふみゅ?」
本気で言っている事は……分かった。アリスは本気で、この傷ついた眠り姫たちと幸せになろうと―――。
「……ウサギさん?どうして抱き締めるんですか?」
「―――アリスが、頑張ってるからだッ」
「わあ〜!なら、もっと頑張ります!もっとも〜〜っと頑張って、いっぱい抱き締めてもらいます!!」
「……アリスは十分頑張ってるだろ。怪我しない様にな。アリスが怪我すれば―――俺が、悲しい」
「んんぅ……ウサギさんが悲しいんですか?……むむっ、難しいですが、頑張ります!!」
この少女はどこまでも純粋だ。本気で救い……その為なら、我が身を省みない。そんな危うさを感じた―――そんなアリスを、ただ抱き締める事しか出来なかった。
「……アリス」
「はい、女王様!」
「牛乳の話をしたら飲みたくなったわ。持ってきてくれる?」
「あっ!はい!女王様!」
最後に頭を撫でると、にへにへと笑いながらアリスは走って行った。
「……地上で『救出』されたニケたちね」
カプセルに手を当て、ラピが小さく呟いた。
「そう」
「皆死んでるけど。死体を集めてどうするつもり?」
アニスから聞こえた死体という言葉が……耳に纏わりつく。
「まだ死んでいないわ」
「頭が空っぽでしょ!脳がないの!」
アニスの言いたいことが分かるなどとは思わない……人間の俺が分かるなどと、薄っぺらい事は言えない……それでも、こんな現実はあまりにも惨すぎる。
「……ニケを救出すると、こうやって脳だけ消えたケースがほとんどなのよ。これが何を意味するか、分かる……ニケは脳が死んだら終わり。二度と復活できない。だから、奇跡を祈りながら、脳が戻るまで、安全なところに保管しておくのよ。誰かが見つけてくれることを……祈りながら」
祈り……その言葉がルドミラの本質を表しているように思えた。過酷な任務を自ら背負いこみ……それでも彼女は『恥ずかしかった』と、そう言った。それが何を意味するのか、ほんの少しだけ近づけた気がする。
「私たちはそういう仕事をしている。彼女らが望んでいた奇跡を、現実にしてあげる仕事を……」
「脳を……見つけたことはあるの?」
ラピの言葉にルドミラは微笑み。優しい言葉が紡がれる。
「ええ。数十人は助けたわ。もちろん、脳とボディが離れていた時間が長いから……シンクロが合わなかったり、精神崩壊や記憶喪失になったケースも多かったわ……でも」
言葉を区切り……一言一言を噛み締めるようにルドミラは言葉を紡ぐ。
「結局、生き残ったわ……生き残ったのよっ―――それだけで……十分だわ」
―――祈りには、どこまでも深い女王の威厳と、確かな重みがあった。
「……大変ですね」
瞳を閉じたネオンはそう呟き、眠り姫達に黙祷を捧げた。
「やりがいのある仕事だと思ってるわ……でも、あなたたちに、これを見せたくなかった。最悪のケースを目の前にすると、そんな未来を想像してしまううから……悪かったわ。余計なものを見せ―――」
「余計じゃねぇ!……余計じゃ、ねぇよ……凄いよ、お前たち。二人でこんな事……本当に尊敬する」
「そう……ありがとう。しもべ……」
帽子を胸に当てたラピは、真っ直ぐにルドミラを見据えた。
「貴方たちに、敬意を表す」
「私も」
「私もです」
アニスもネオンもラピに続き……ルドミラは薄く微笑んだ。
「ありがとう。でも、敬意はしばらくしまっておきなさい。最近は、迷子になったり救出を求めるニケがかなり減ったの」
「なぜ?」
「分からないのよ。でもここ数年で、その数が明らかに減った。アークへの生還率は変わらないのに。なぜかしら」
―――そう、かッ……それも全て、全てが繋がるのか……裏で笑っている奴がいると思うと反吐が出る。やることが……増えたな。
「女王様ー!女王様ー!……ぎゅ、牛乳が切れてしまいました!どうすればいいでしょうか?」
「……まあ、アリス。口もとについた牛乳は何?」
「……あっ!」
綺麗に白い口ひげを生やした口もとを拭ってやり……感謝を伝えるように、もう一度アリスの頭を撫でた。
「ウサギさっ……えへへっ」
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ピルグリムとの遭遇ポイントまで、二時間と掛からない場所まで来て、ルドミラは小高い丘から地平を眺め、俺達に切り出した。
「さあ、見送りはここまでよ。これからも頑張りなさい。私たちはここに残るから」
「……一緒に来てくれないのか?」
「そうしたいけれど……私たちはここまでよ。残念だけど仕方がないの」
「……そうか、仕方がないと言われたら、強引には言えねぇな……理由を聞いていいか女王様?」
「ふふふっ、しもべが板に付いてきたじゃない……そうね。私たちはあくまでも、道に迷った仲間を捜すのが仕事なのよ。しもべの任務は非常に興味深いけれど……まだ迷える誰かが、北部を訪れるかもしれないから」
地平を眺めるルドミラの気高い心は、眩しいほどに美しかった。会った事のない他人の為に、ここまで真摯に向き合えるのが、ルドミラという女の本質なのだろう。
「そう、か……なら一度お別れだな」
「そうなるわね。家も取り戻したことだし、私たちの仕事をやらなければね。……眠り姫たちのお世話もあるし」
「思ったより真面目なのね」
冗談を零したアニスにも揶揄うような気配は無く、声色は優しいものだった。
「やるべき事と、やりたい事の判別がつくだけ。アリス……しもべとその仲間たちは、さらに強い力を手に入れるために、しばらくここを離れるわ……大丈夫か?」
屈んで視線を合わせたルドミラは、そうアリスに伝えた。
「はい!ここで待っています!……ウサギさん!」
返答は満面の笑みで返され、ぴょんと飛び付いてきたアリスを、ぎゅっと抱き締める。
「絶対に帰って来て下さいね、ウサギさん!」
「必ずな……約束だ」
「はい!約束です!」
アリスとの出会いは花が咲くような笑顔から始まり、太陽のような輝く笑顔で終わりを向かえた。……必ず帰ってくると、約束を残して。
風に靡く髪を押さえながら、俺達を見るルドミラは微笑み。
「仕事が終わった時にでも、顔を出してくれたら嬉しいわ。任務がどうなったか、気になるから」
「ああ、必ず帰ってくる」
―――再開を約束した。
「では、行ってきなさい……しもべ」
踵を返した俺を呼び止めるように声が届き、思わず足を止める……湿っぽいのは苦手なんだが。
「……念のために一つ、言っておくけれど」
「何だ?」
「新しい出会いとは、相反する世界が接触することと同じなの。違和感を感じることも、恐れを感じることもあるでしょう。その違和感に耐えられなくなっても、その恐れがいくら大きくなっても」
言い聞かせる様に少しずつ、ルドミラは俺との距離を詰めていく。
「絶対に、相手の世界を壊してはダメよ。相手の世界を認め、その過程で自分の世界を一部、譲ることになったとしても、相手がずっと生きてきた……何よりも大切にしている世界を……絶対に壊さないように……」
手袋を外した優しい手が、俺の頬を撫でる。
「私が言っている意味、分かるかしら?」
「ああ、分かった」
俺の言葉に微笑みを零した顔が近づき―――。
「―――ふっ、いい子ね。武運を祈るわ」
本当に狡い女王様だ。……また、死ねない理由が増えた。
「女王様ずるいですよ〜!ウサギさん次は私にもしてくださいね!行ってらっっしゃ〜〜い!!」
大量の投げキスを降らすアリスに苦笑いしつつ、軽く手を振り……振り返らずに歩を進める。
……ここで振り返ると、甘えてしまいそうになる。
「師匠の唇が奪われました!!ラ、ラピ!、アニス!師匠の唇がっ!!」
「まあ、指揮官様もルドミラも大人だし……キスくらいするんじゃない……後で上書きするけど』
「ああいうシチュエーションも、良いものね……後で上書きしないと』
二人が小さく呟いた言葉は、風に紛れ聞こえなかった。
「……し、師匠!二人が壊れましたっ!!」
いや、ネオンの反応が正しいと思う……混乱するネオンを宥めるのには時間と労力を消費した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ルドミラ達と別れて二時間ほど歩き、先頭を歩いていたラピが足を止め振り返る。
「ポイントに到着しました」
「ここ、か……」
「はい、ルドミラの調査結果によると本日、ここで遭遇する確率が高いとのことです。潜伏をお勧め―――」
「みなさん。あそこを見て下さい」
ラピが何かを見つけ言葉を止め、ネオンがそれを指し示す。指の指された先には、雪で覆われた平地があった。山を背に窪んだ地形となっており、そこには背を向けたまま座っている人影が見えた。
「……あいつよ。ピルグリム」
「そうみたいですね」
「運がいいのか、それとも……」
……罠か。
アニスの呟きは途切れ、はっきりと口に出される事は無かったが、思っている事は同じようだ。
「少し……怖いな」
「そうだよね……呼んでみる?」
「いや、逃げられる可能性がある」
ピルグリムが俺達に友好的とは限らない。態々一人で行動している事を考えると、逃げる可能性は十分あり得る。
「指揮官……胸騒ぎがします。あまりにも上手くいき過ぎていませんか」
ラピの言う通り。俺も胸騒ぎが止まらない。特にこの地形―――嫌な記憶が蘇り、少しだけ脚が痛んだ。
「全員で行くのは避けよう。俺とラピで近づく。アニスは周囲の警戒を、ネオンはアニスの守りを優先し、何時でも対応出来るようにしてくれ」
「指揮官……それなら、私とアニスで向かいます」
「そうよ指揮官様。私とラピが最適でしょ」
「……そうなるとネオンが一人になる……遠距離に対応出来なくなるだろ。ラピはオールラウンドに対応出来る……これがベストだ。俺の身を案じてくれるのは嬉しいが、最優先は全員で生きて帰る事だ……何か意見はあるか?」
「……いえ、指揮官が仰る通りです」
「ラピ!……指揮官様が一番大切でしょ!指揮官様がっ……」
「アニス、私が守る……信じて」
「……俺は全員が大切なんだ……分かってくれ」
「……分かってるよ。そんなの!……分かってるけどっ……!」
瞳を伏せたアニスは葛藤し……悩み、それでも顔をあげ俺を見つめた。
「ねえ、指揮官様……これからも絶対に死なないって約束して」
憂いを帯びた瞳に対し、俺は笑って返事を返す。
「……ああ、お前を置いて死ぬわけ無いだろ」
地形を滑り降り、ラピと二人で歩を進める。脚の調子は良い。寒さで麻痺している可能性もあるが、外骨格が無くても無理なく歩ける程度には、回復しているだろう。
均等についている足跡を、警戒しながら進んでいく……幸いラプチャーの気配は無く、ピルグリムからも気配はしない……意図的に気配を消しているのか?こんな所で……。
「ラピ……此処までの足跡に疑問は無いか?」
「いえ、ありません」
「少しもか?」
「雪が振っている為、断言は出来ませんが……ニケが歩いた跡に間違いないかと」
考え過ぎ、か……だが、此処まで気配を消せるのか?強すぎる気配に掻き乱される事は前回で学んだ……ピルグリムの気配がアイツよりも強かったと仮定すれば……辻褄は合うのか。
周囲を警戒していたラピが途端に俺の手を掴み、強引に身体を引き寄せた。
「指揮官!!罠です!爆発物の反応があります!!」
「なっ――――ッッ、チッ!!?」
ラピの叫びにあわせ爆発音が響き渡り―――地形の変動が始まった。
「くっ!雪崩が来ます!!指揮官!絶対に離しません!!」
俺を抱えたラピが駆ける―――それでも……雪崩の方が早いッ。
「アニス!!ネオン!!命令だッ!!来るなッ!!自分の身を守れッ!!!」
「――ちっ、間に合わないっ!」
「何でっ!!指揮官様ぁぁああ!!」
「師匠ーーー!!」
斜面を降った二人は止まり、声が届いた事に安堵し―――直ぐ側まで雪が迫る。
「止まれラピ―――頼んだ。信じてる」
「はい、おまかせください。指揮官!」
―――決意の籠もった声が耳に届き……視界が黒く染まる―――。
「指揮官!指揮官っ!!……くそっ……指揮――し――んっ―――」
……ラピの声が徐々に遠くなり、意識が暗転した。
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繋いでいたはずの手は―――離れていた。
「―――ィ――ッッ!!」
ラ、ピ……声が―――聞こえる。
『―――――ハッ!!』
耳障りな音が―――聞こ、える。
「……ッうご、ッく―――」
大丈夫。身体は動く……冷えた身体だが……まだ動くッッ。
「―――何が……起きたッ」
―――あれは……ラピッ!!
両腕による殴打を紙一重で躱し、至近距離で乱射したラピは、股を掻い潜ると同時にリロードを済ませ……尾による殴打をその身に受ける。
「ラ、ピッッ!」
辛くも銃身を盾にし身を翻したラピは、懐に飛び込み顔面に銃を突きつけた。
「―――死ねっ」
―――その時……化物の両腕が紅い炎を纏った。明確な死の予感に冷えた体を震わせ、血を吐かんばかりに雄叫びをあげる。
「――ッ!?ラピッッ!!サがれッッッ!!」
「!!!」
吠えた俺の言葉はラピに届き。即座に行動を中止し、後方へ高く飛び上がった。
「!?指揮官っ―――ッ!」
空中のラピは振り向くこと無く敵を見据え―――俺は眼前の光景に固唾を飲んだ。
「……クソがッ」
炎を纏った拳が地面に叩きつけられた瞬間……白煙を纏い姿が隠れた。円状に蒸発した雪が爆発的な蒸気を生み、瞬時に―――凍りついたのかッ。
「……ちっ!!」
それを見て小さく舌打ちしたラピは、着地後即座に加速し、背に俺を庇う。
『ソウか……起きタカ、人間』
凍りついた蒸気を纏い……両腕をだらりと下げた化物は、その身に光りを宿し……姿を見せた。
「トーカ、ティブッ」
忘れもしないその姿……体長は四メートル弱。上半身のみ肥大した人型を模した化物は、光を放ち傷を癒やしていく。
「指揮官、このままではジリ貧です。指揮官だけでも逃げてくださいっ!!」
「お前はどうなる……俺が逃げれば―――」
全身を発光させ、ラピが付けたであろう傷が……瞬く間に癒え、両肩にはランチャーを模した兵器が現れた。
「ラピは逃げられるのかッ!」
「……はいっ!!」
……それは―――嘘だろう。俺が逃げればラピは死ぬ。俺がいた所で出来ることなどたかが知れているが……相手がアイツなら―――アイツだからこそ、手はある。
「拳銃を貸せ……命令だ。二人でやるぞ。俺も戦う」
「し、指揮官っ、ダメです!渡せません!」
「命令だ。貸せ」
「嫌です!!」
何故だ、命令が効かない。
「頼むラピ。お前を失いたくない。俺は必ず生きる。頼むッ」
「……分かり、ました」
泣き出しそうな顔で渡された拳銃を受け取り、トーカティブを観察する。治癒中は動けなくなる……これは前回と同じ要素。
「それになラピ、策がない訳じゃねぇ――――」
アイツが動けない間に、手早く伝える。アイツだからこそ……通用する可能性がある。
「それは賭け……です……ですが指揮官、愛しています!……絶対に死なないでください!!」
初めてまともな指示を出したかも知れない……俺には指揮能力は無い。出来ることは己の身を守ること。仲間を信じること……そして。
―――アイツに一矢報いること、だな。
「指揮官。もし、その身に何かあれば、迷いなく『レッドフード』を使用します」
レッドフード……トーカディブが言っていた通り、ラピにはその力があるのだろう―――その身を蝕むであろう、力が。
「そんな事させねぇ……アイツだから、出来るんだッ!」
……トーカティブの発光が収まり―――俺の世界から色が消えていく。
「……来ますっ!!」
『グハハッ、逃げればヨカッたモノを、第二ラウンドだ。レッドフードッッ!!』
「散れッ!!!」
「っっ、必ずお守りします!!」
高く飛び上がったトーカティブに対し、俺とラピは左右に展開した。脚の痛みは……感じない。この際、脚が砕けても―――構わない。
『マズは貴様ダッ、レッドフードォオ!!』
予想を裏切り、狙われたのはラピだった。
「―――っ!」
ラピの頭上から振り落とされた巨大な拳の速度は、目で追う事が出来た―――後は身体が反応するかだ。
「――ッくたばれっ」
弾けた雪が粉雪になり舞い散り……雪を隠れ蓑にしたラピは弾幕を張り、トーカティブの懐に飛び込んだ。
『……ヤハリか、性能がアガっている』
超至近距離の特攻は、トーカティブが大きく距離を取った事により、不発に終わった。
「下だッッ!!」
地面から飛び出した尾による打撃。巧妙にラピから見えない角度で繰り出された一撃。
「!?――ちっ」
銃身を盾に防いだラピの身体が宙に舞う―――着地までの時間をッッ。
「余所見してんじゃねぇぞッ!!」
即座に距離を詰めた俺は、顔面めがけ拳銃の弾を全て撃ち尽くす。
『―――グハッ』
傷ひとつ付かない身体が大きく震え……距離をとった俺に対しての追撃は―――無かった。
クソがッ……笑ってやがる。
『グハッ、グハハッ!グハハハッッ!!』
「……チッ、目玉はねぇのか……クソ野郎がッ」
『グフッ……ッ……人間、ソレは何のマネだ?』
銃口から硝煙が立ち昇る拳銃を見せつけ、投げつける。乾いた音が響き、深く呼吸した俺を観察するトーカティブに向け、半身になり構える。
「さぁ、何の真似だろうな。聞きたかったらこっちに来たらどうだ?」
背後から迫っているラピの存在を悟られぬよう、手招きし挑発する。
「ビビってんのか?来いよッ!!」
『フフッ……イイだろう』
「……行かせるかっ!!」
俺に目標を定めたトーカティブは背後からの強襲に対し、傷を負いながらも止まらない。
『まだ、性能がアガるカッ!……やはり、人間。オマエか!』
「……何のことだ。言ってみろ」
『グッ!!……クハハ、そノ前に……もう片方モ折ってヤロウ!』
高く飛べるという事は、それだけ跳躍力があるという事……驚異的な跳躍力を上ではなく、横に向ければどうなるか。
「ッ!!」
一瞬で眼前に迫った拳に対し―――俺は冷静に―――笑みを零す。
―――かかったッッ。
「―――ッ!!」
左脚に力を込める。―――やはりか!想像通りで助かったッ!!
拳の側面を狙い、折れた右脚で蹴りを放った。
「グッ――――」
交錯する瞬間―――放たれた右脚に全ての力を注ぎ込み―――ッッ。
「―――ガハッ!!」
―――反動で身体が吹き飛んだ。……ゆ、雪で、助かった。衝撃を殺しきれなかった……脚が万全なら―――強請るなッ。無いものは無い……まだ俺は、やれるッ。
『……貴様ッ!!何ヲしたッ!!』
……衝撃は凄まじいが、死ぬほどでは無い。生憎、渾身の蹴りで傷は付かないようだが……まぁいい。
「――ブッ!……いけるなァ」
口内に溜まった血を吐き出し、駆け寄って来たラピの隣に立ち上がる。
「指揮官!お怪我は!!」
「……問題ない」
拳にあわせ、力を受け流す―――俺がやったことはそれだけだ。
『……貴様ッッ!!』
これはメンヘラ野郎が俺を殺さないよう―――縛りプレイをしているからこそ成り立つ裏技。
「来いよ。メンヘラ野郎ッ!!」
せっかくだ、右脚はくれてやる。その代わり―――俺と踊れ。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
一撃躱す度に神経が磨り減り、精神が摩耗する。追撃を受ければ終わりだ。
ラピが牽制する間に回復し、どうにか受け流し続けたが、既に限界は近い。
『―――モウいい、死ネ!』
不穏な呟きを拾った瞬間―――風が頬を撫でた。
「―――しまッッ!!」
どうでもよくなる事は、誰にでも起こりうる。コイツも例外では無かった。
「―――指揮官っっ!!――――!!!」
―――読み違えた。コイツは俺を必ず生かして捕まえようとしているものだと……思いこんでいた。
「ラピッッ!!――ぐァッ!」
雪上を転がり、体勢を立て直す―――全てが勘違いだとッ。クソッ、疑った。俺を殺しに来たものと思ってしまった。
―――やられたッ。俺を殺しにかかったと思われた拳が……軌道を変えラピに吸い込まれた。
「―――ラピッ!!」
ぐったりと体を雪に沈めたラピの頬を叩くも、起き上がる気配は無い。―――だが、生きている。……それだけで十分だ。
「……ッブ、やりやがったなッ!」
『レッドフードも所詮ソノ程度―――まだ、抵抗スルか?』
悪意の籠もった笑みを浮かべたトーカティブは、緩慢な動作で拳を掲げてみせた。
「無駄にはしねぇよ。来いッッ」
徹頭徹尾……コイツは俺の無力化に力を注いでいるように見せかけ―――最初からラピを狙ってやがったのか。タイミングを図り、虎視眈々と……クソがッ、どこかで俺が避け続ければ良いと、思ってしまった。
『人間とは、かくも愚カダ―――』
コイツッッ!!ラピを狙ッッ―――
「―――ガハッッ!!」
ラピの前に立ち塞がった俺は―――腹部を蹴り上げられ、宙に浮いた。人間に勝るとも劣らない『悪意』―――
「―――ク……ッソがッ……ガファ!!」
巨大な拳に掴まれ、地面に叩きつけられる。
―――身体が軋み……呼吸が止まった。辛うじて受け身は取ったが……全身が、砕けそうだ。
『人間。貴様ガ優れてイルことは、分かっタ』
「―――ヵハッ……ゥグ……ッッブ―――ハァッ、そう……かよッ」
『種ヲ明かセバ単純ダ。レッドフードが貴様を支えてイタ。イナクナレば……このザマだ』
ニヤニヤとクソみてぇに笑いやがってッ。だが、ラピは意識を失い……俺も既に満身創痍―――。何としても……時間を稼がなければッ。
『いくつか質問がある。人間……どうか誠実に答えてくれ』
……コイツは、俺との対話を望むのか―――ハハッ……なら、まだ勝機はある。
「――ゲホッ……ッブ、何でも答えてやるよ。好きな女のタイプか?」
『そんな物はどうでも良い、あまり無駄口を叩くな』
「へいへい、わーったよ」
まだか……始めから予感がしていた。必ず助けがくると……そんな予感が―――。
『貴様と一緒に動く人間もどきの、性能が高くなったことはあるか』
「テメェも言ってたじゃねぇか。あるに決まってんだろ。ラピは強かっただろッ―――ガフ゛ァ゛!!」
尾の一撃が身体に突き刺さる。幸いなのは斬撃では無く打撃……であることか。
『無駄口を叩くなと言っただろう。質問にだけ答えろ』
「―――オぃ、大事に扱えよ。人間様だぞッ」
血を飲み込み……身体に力を込め続ける。咄嗟に動けなくなれば意味が無くなる。
『……次だ、貴様の出身はどこだ』
「あ?……出身―――どっちのだ?」
『貴様ッ!マだ言ウかッッ!』
「勘違いすんじゃねぇぞ、俺には出身が二つある……それに付いて聞いてるんじゃねぇのか?」
『黙れっ!貴様の出身はアークでは無いのか!!』
「ああ、そっちのことか。アークだ。間違いねぇよ」
来たッ……微かに感じた……確かな確信。それと同時に気配が……はっきりとした気配を感じた。
『貴様ッッ!!』
「おいおい、無駄口叩いてねぇだろうが、また殴んのか!人間と変わらねぇなァ?」
人間と変わらない……その言葉にトーカティブは振り上げた拳を降ろした。
『……最後、ノ、質問ダ―――幼いころ、病気になった、ことは……あるか?』
怒りに震え言葉が途切れる所も、人間味に溢れている。煽り耐性低いな。この情報はもし次があるのなら活用させて貰おう……今回は既にチェックだ。
「あるんじゃねぇか。病院にいたと思う」
……もう少し。
『……ふはは、そうか……間違いないな。人間、貴様にはこれから私と共に来てもらう』
「そうか、それもいいかもな……なぁ一つ質問していいか」
『……大人しく着いてくるならば許してやろう』
「じゃあ二つな」
『一つだッ!!』
「チッ、うるせーな。じゃあ一つでいいわ。アークと内通しているな―――ダレだ?」
『それは二つにカウントさせて貰う……答えはアークと内通している。そこまでだ』
「随分と都合のいい解釈をしやがる……まぁいい」
後ろに倒れ込み両腕を使い―――全力で後方に飛び上がり、中指を突き立てる。
「―――チェックメイトだ。死ね」
その瞬間―――トーカティブの身体に大きな穴が開いた。
『―――!!!?ガァッ!!』
「会えて嬉しいよ。おしゃべりさん」
『巡礼者ァーー!!』
「今度は逃さない」
『ガハッ……!!』
トーカティブが飛び上がり、ふわりと俺の側に着地した白銀と視線が交錯した。
「無事か?」
「助かった―――スノーホワイト」
驚いたように瞳を見開いた白銀は薄く笑みを零し―――轟音が鳴り響きトーカティブの身体に穴が増えた。
「……久しぶりだな。その名前で呼ばれるのは……助けが必要か?」
「ああ。助けてくれ」
「よし、いいだろう。助けてやる。その代わり、今から見ることは全部忘れろ。私たちはまだ何も達成できていない。そのため、まだ世間に現れることはできない」
黒いバイザーがスノーホワイトの顔を覆い、光り輝くトーカティブへ脚を進めた。
『忌々しい巡礼者ドモめ!過去ノ異物ガ!!』
「失せろ、異端。地上はお前たちに渡さない」
「エンカウンター」
戦闘シーン、分かり辛かったら……すんませんした!
初めて戦闘シーンを書いたのですが、難しいですね!