さて、いよいよ玲奈の過去話も後編…これで彼女の過去に何があったのかが全て明かされます。それを知った上で康太も答えを出すことになりますが、答えは果たして?いつもより少し長めにお届けいたします。
それでは、また後書きにて…
side玲奈(10年前)
週が変わって日曜日、この日はヒロくんの奥さんである真緒さんから慰謝料請求とかについての話し合いがあるとのことで内容に関しては伏せて両親と俊輝を連れて指定されたホテルの会議室にて相手が来るのを待っていた。
「玲奈、俺達も連れてこれから何があるんだ?」
「うん、内定先の人事部長が家族に会いたいっておっしゃっていたから面談…かな?」
「そういうことね。どんな人なのかしら?」
「お待たせしました。」
そんな風に他愛のない話をしていると脇本夫婦と七三分けでスーツを着たお父さんと同い年ぐらいの男が部屋の中に入ってきた。彼はジャケットに弁護士バッジをつけている…どうやら、真緒さんは本気で弁護士を雇ってきたのだ。
「あれ?裕之さんもいる…」
「それにしても、貴方達ご家族は正装じゃないんですね…娘さんがやらかしたというのに。」
「やらかした…内定をもらった御社に玲奈が何か弁護士をお連れするほどのご迷惑をおかけしたのでしょうか?」
「御社?まあ、とりあえず全員揃ったことですし話を始めましょう。」
そう言うと真緒さん、ヒロくん、弁護士の男性の3名が向かい側に座る。お父さんとお母さんと俊輝はまだ相手を私の内定先の人事部長と信じていることだと思うけど、この後明かされる真実を知った後の反応が怖くて仕方なかった…
「この度はお忙しい中お集まりいただきまして誠にありがとうございます。それでは早速本題の方へ移らせていただきます…先生、よろしくお願いいたします。」
「はい。」
真緒さんがそう言うと弁護士の男性は返事をしてから立ち上がり、資料を鞄から取り出してからそれをお父さんとお母さんと俊輝に配る。それを見たみんなはとても驚いた表情をしていた…そして、お父さんに関しては徐々に表情が険しくなっていく。
「お配りした通り、稲川玲奈さんは依頼人である脇本真緒さんの夫である脇本裕之さんと浮気をしました。それも興信所の調べによると4年も関係が続いており、この浮気により真緒さんは精神的ショックを受けて夫婦関係が破綻しました。以上の不貞行為に対して夫である裕之さんには慰謝料6000万円、浮気相手である玲奈さんには慰謝料4000万円に加えてそれぞれから不妊治療の治療費をこちらからは請求いたします。」
「うそ!?姉さん、もしかして姉さんが言っていた裕之さんって?」
「玲奈、俺達にこんなことを黙ってたのか?しかも、浮気…お前というやつは!」
「違う…私はヒロくんが結婚していたなんて知らなかったの。信じて?」
「久徳さん、落ち着いて?玲奈だって本当に裕之さんが既婚者だったって知らない可能性があるから…」
「そうだよ、父さん…姉さんの意見も聞いてあげて!」
「うるさい!いずれにしても俺の過去を知っていながら浮気をされたら自分の娘でも許せるわけがないだろ!!」
お父さんは顔を真っ赤にして私に対して殴りかかりそれを必死にお母さんと俊輝が止める。そう、私のお父さんはお母さんと結婚する前に2度結婚していたのだが…2回とも当時の奥さんの浮気によって離婚していたのだ。その裏切られた傷もあって浮気をするような人間を絶対に許せないようになった…これまでにもお母さんの浮気を何度も疑ってきたのは言うまでもない。
「お父様、今は落ち着きましょう。確かに自分の娘が浮気をしていたら怒りたくなるのも致し方ないかもしれません…私の父も母に浮気されて離婚となりましたから気持ちはよく分かります。ただ、今はそれを抑えてもらえませんか?ここは話し合いの場です…家族同士の殴り合いなら家に帰ってからにしてください。」
「くっ…!」
お父さんは真緒さんから諭されて冷静になり、自分の席にまた座る。ここまでお父さんが怒るところを見たのはこの時が初めてだった…普段は口数が少ないながらも優しい人だったからよりその怖さが伝わる。
「とにかく、弁護士の先生がお伝えしたように私は裕之と離婚して裕之と玲奈さんに慰謝料と治療費を請求させていただきます。玲奈さんのご家族はこれに対して何か意見はありますか?」
「すみません。私はヒロくん…裕之さんが既婚者だとはあの時初めて知りました。私が彼と浮気していたような形になっていたのは事実ですが、既婚者と知らない人に慰謝料は請求できないのではと思いまして。」
話し合いが始まってから黙っていた私は重い口を開いて真緒さんに質問をぶつける。法学部のお友達と浮気をしたりされたりした時にどうなるかの話を前にしたことがあったけど、既婚者と知らない人には慰謝料を請求できないと聞いたことがあったのだが…専門家によって見解が異なるのだろうか?
「お前、往生際が悪いぞ!いい加減自分の過ちを…」
「お父様は黙ってください。先生…」
「はい。その分に関してですが、玲奈さんが裕之さんを既婚者だということを知らなかったのは事実です…ただし、貴方は4年もこの関係を続けていてこのように夫婦関係を破綻させたことに変わりはありません。その責任と事情を踏まえた上で請求額は多少減額させていただきました。本来でしたら裕之さんと同じ6000万+治療費を請求すべきですが、そこは真緒さんの情けと我々専門家の見解でこのような額にしております。これでも何か異論はあるのでしょうか?」
「それは…」
私は弁護士からの意見に何も言えなくなる。いくら自分の知識と見解が違っていたとしてもそれが専門家の見解だとすれば反論なんて無理だった。
「ちょっと待ってくれ、何でこんなにも慰謝料が高いんだ?たかがちょっとした火遊びじゃないか…流石にこんな金額は相場でもオーバーだぞ!?」
すると、入ってきて最初からずっと黙っていたヒロくんがようやく口を開いて真緒さんに突っかかってくる。彼は自分が浮気したという責任感が無いのだろうか…見ていて呆れていた。
「たかが?あんたは私の叔父さんの会社で働いているってことを忘れてないわよね?」
「それがどうしたんだよ!」
「あんたの不貞行為によって叔父さんの会社は大きな損害を生み出したのよ…このことはもう叔父さんにはもう相談済みで慰謝料に関しては損害賠償も含めてるから。それに私はどんなに子供ができなくてもずっと耐えていたの…あんたからの励ましもあって不妊治療をずっと続けてきた。でも、そんな中で4年間も浮気していたなんて人としてありえない!そんなに子供のできない私が嫌だったのかしら?」
「ああ、その通りだよ!お前と何をしても子供ができなくて親父やお袋をがっかりさせてもううんざりだった…だったら、僕は子供ができる方を選ぶ!玲奈は若くて可愛くて僕にピッタリな中華系でスタイルも良かったから彼女なら赤ちゃんを将来産んでくれると信じていた…だから僕は玲奈と付き合ってたんだよ!何か文句あるか!?」
「…」
「それと、社長であるお前の叔父さんは僕のことを気に入っている…誰よりも可愛がってる部下で一族をこんなことでどうにでもできると思うのか?寝言は寝てから言えよ!!」
「ふざけないで!不妊治療で苦しむ奥さんをほったらかしにして都合が悪くなったら自分の現状を後ろ盾にして逃げようとするなんて。許せない…誰が貴方の赤ちゃんなんか産むものですか!」
私は怒りのあまりに自分の席から立ち上がってクズ発言を続けるヒロくんの胸ぐらを掴んで怒りをぶつける。まさか彼がここまでクズな人間だとは自分でも驚いた…不妊治療で苦しむ真緒さんを放置したことは何よりも同じ女性として怒りしか感じない。それと、私を浮気相手と扱われたことも許せなかった…
「貴方も貴方よ。何を正義面してるのかしら?裕之を誘惑しておいて4年間も関係を続けていたじゃない…知っていても知らなくても貴方が浮気相手であることに変わりはないわ。」
「違います…私は!」
私が真緒さんに自分のことを言おうとしたその時、携帯がプルルと鳴る。相手は就職先であるプロジェクトハマの人事部長…面接でもお世話になった人だけど、そんな人から休日にかかってきた。
「着信がきてるわよ…揉めてる暇があるなら出た方が良いんじゃない?」
「…はい。」
私は真緒さんに言われて覚悟を決めてから通話ボタンを押して相手からの着信を受ける。その時の彼女の顔は何かを知っているような感じで私に電話がかかってくることが分かっているような…そんな感じに見えなくもなかった。
「もしもし?」
『こんにちは、稲川さん…』
「はい、稲川です。この前は面接でお世話になりました…それでお話の件は何でしょうか?」
『ああ、実はだな…稲川さんの内定を取り消しにすることが一昨日の役員会議で決まったんだよ。君がまさか我が社の取引先の社員と不倫していたなんてね…』
「えっ?」
『まあ、君はまだ就職前だから企業秘密を持ち出したなんてことはないと思うけども…やはり、不倫をしている社員を置くというのは我が社のイメージダウンに繋がり損害は大きい。すまないが、素行に問題のある人をここに置くほど私は聖人じゃないのでね…君は会社見学会の時から真面目だと思って期待していたのだが残念だよ。』
「違います!不倫は一切しておりません。そもそも相手の男が既婚者であることを私は…」
『悪いが、言い訳なら相手の奥さんにしてくれないかな?我が社としてはこのような問題に巻き込まれるのは厄介なのでね…それじゃあ、失礼するよ。』
「ちょっ…お待ちください!」
それだけを言い残してから人事部長の又地さんは通話を切った。どうして会社が私とヒロくんのことを知っていたのかが不思議で仕方なかった。さらに、彼がプロジェクトハマの取引先の社員だったなんて…
「真緒さん、就職先の会社に何かしたんですか?」
「何をしたって内容証明をプロジェクトハマに送らせてもらっただけよ…だって、貴方が裕之と浮気をしていたのは事実でしょ?」
「だから、違います!私は裕之さんが既婚者だったなんて知らなくて…」
「申し訳ありませんでした!この出来損ないが脇本さんのご家庭を壊すような真似をして…このバカはもう私の娘ではありません。慰謝料ならコイツに全て払わせてください!」
お父さんは席を立って大きな声で謝ってから真緒さんに頭を下げる。『娘ではない』…この一言に私は豆鉄砲を食らったように一瞬固まった。
「お父様、顔をあげてください…慰謝料に関しては娘さんが支払って当然な話ですし、貴方自身は別に何も悪くありませんよ。これだけ誠実な父親なのに娘がこんな感じだなんて…不思議なものですね。」
「まったくですよ、どこで教育を間違えたのでしょうな。ハハハ…」
「あの…お父さん、娘じゃないってどういう意味なの?」
「黙れ、平気で浮気をするお前など俺の娘じゃない…玲奈、お前を勘当する。家に帰ったら荷物をまとめて出ていくんだ!慰謝料に関してもお前が払え…俺達は1円たりとも負担しないからな?」
「…」
私は父さんからの言葉に何も言い返せなくなった。そして、家に帰ったら宣言通り荷物をまとめてから追い出されることに…それからは友達の家で同居を考えたもののこのことが広まり、みんなからは門前払いされて友達も次第にいなくなってしまった。ネットカフェで就活をしながら寝泊まりする生活が何日も続くことに…まさか、彼氏が既婚者だったということで全てを失ってしまうとは。笑い話にすらならない落ちっぷりである…
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ネットカフェ生活が続いて1ヶ月、私の財布は空になってしまう。慰謝料と治療費の支払いに関しては貯金の200万円と残りは借金して一括で払い、私の懐にはまだ3000万以上もの借金がのしかかっていたのだ。友達はいなくなったし、もうネットカフェを利用できない…こうなるとホームレスになるか死ぬしか選択肢はない。落ちるところまで落ちた私の人生、もう終わりにしようかなとも思った。その時…
「稲川玲奈さんかな?」
背後から声をかけられて振り返るとそこにはヒロくんと同い年ぐらいの若い男の人がいた。雰囲気はとても爽やかそうでどこか安心感のある人でクズなヒロくんと比にならないぐらいのオーラを感じる。
「誰?」
「そんなに怖がらなくて大丈夫。私は君を助けに来たんだ…」
「助け…ですか。」
「おっと申し遅れた、私はこういう者です。」
私は男の人が差し出した名刺を受け取る。そこに書かれていたのは『添田グループ取締役代表・添田秀雄(そえだひでお)』…そう、世界で10本の指に入る日本一お金持ちで添田グループの2代目社長を務めていたり、F1ではトップチームの株を60%持っている若手実業家の添田さんだった。
「もしかして、あのテレビでよく観る添田さん…?」
「うん…もうテレビに出すぎてどの番組のことを言ってるかは分からないけど、多少は名の知れた実業家として活躍している添田です。」
「その添田社長が横浜までいらっしゃって何か御用でしょうか?」
「ああ。今は東京の自宅とモナコの別荘を行ったり来たりしているけど、私はここら辺で育った浜っ子なんだよ…今回は取引先との会談があって川崎まで行ってきたけど、その帰りにちょっと立ち寄りたくなってね。」
「そうなんですか…ところで、どうして私のことをご存知でしょうか?貴方はテレビの向こうの世界の人だったので直接話したことはないと思いますけど。」
「君のことは取引先の一つであるプロジェクトハマから聞いていたよ。しかし、この度は残念だったね…私の同期が迷惑をかけてしまって申し訳ない!」
添田さんは頭を下げて私に向かって謝る。同じ横浜の人間とはいえまさか世界で指折りの大富豪から頭を下げられるなんて思いもしなかった…さらに、この言い方からして彼はヒロくんと同期だったということも同時に知る。
「そんな、頭を上げてください。添田さんは何も悪くありませんよ!」
「いや、脇本を止められなかったのは私の責任だ。脇本は私と独立前の会社で同期だった人間で最初から気はお世辞にも良くなくて女遊びが激しいヤツで最後に会った時に君との不倫をやめさせておけば君はこんな目には合わなかったと思う。これは監督不行き届きとしか言えないよ…本当に悪かった。」
「添田さん…」
「それで、君はもうすぐ夜だというのに大きな荷物を持ってどうしたんだい?」
「実は…」
私は添田さんに今回の出来事を全て話した。内容としてはヒロくんが既婚者だということを隠して私と付き合っていたことは知っていたが、その後のことを中心に彼に話した。全部話し終えると添田さんは何かを考えるかのような険しい表情にしばらくなった後に語りかけてくる。
「なるほど、慰謝料とかも請求されて家まで追い出されてお金もなくなったのか。よしっ…決めた、君には東京にある添田グループの子会社で働いてもらおう!もちろん、住まいに関しては一軒家を用意してあげるからそこに住みなさい。」
「えっ、良いんですか?」
「ああ、これは私からのお詫びという形でもあり君を助けたいという思いでやってるからね…」
「ありがとうございます!私、必ず添田さんのお役に立ちますのでよろしくお願いいたします!」
「うん。それじゃあ、早速東京へ行こうか…手続きは私で進めておくから明後日から頑張るように!君には期待してるよ。」
「はいっ!」
こうして私は添田さんに救われて職場と住まいを手に入れた。その就職先は『添田ホテルサービス』、添田グループの中でホテルの経営(実際に関東のホテルの8割を経営)を任されている子会社で今の職場でもある。入った時は事実上のコネ入社だから変な目で見られるんじゃないかと思ったけど、誰もそんな人はいなくて暖かく歓迎してくれた…しかし、給料に関しては新人ということで安く借金の支払いとか生活費に消える日々。この時は仕事をする以前に生活できなくなるのではという不安がかなりあった…
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「やあ、稲川さん…元気にしてるかい?」
就職して1ヶ月が経ったある日の帰りのこと…私は添田さんに道中で出会う。この日はワイドショーに出演したりして忙しかった中だったのだが、それでも私に会いに来てくれた。こんな時にどんな用があって来たのだろうか?
「添田さ…いえ、社長!ご無沙汰しております。」
「そんなに固くなりなさんな…今まで通り『添田さん』で構わないよ。」
「はい。それで、添田さん…今日はどのようなご用でしょうか?」
「君に来てもらいたい場所があるんだ…借金を返せる副業を用意したけど、今から行けるかい?」
「はい…家に帰ってもやることはないので。」
「そうか。じゃあ一緒に来てもらおうか…ほら、車に乗りなさい。」
私は言われるがままに添田さんの車に乗ってある場所へと向かう。職場から車で走ること10分…乗っている間はどこへ連れて行くのかを気にしてずっと彼の表情を見つめていた。
(10分後…)
「着いたよ。」
私が連れられた先は『デリバリーSOEDA』と書かれてある小さなビル…デリバリーってことは運送会社か何かなのか?しかし、トラックの運転に必要な大型免許どころか普通の免許すら私は持っていない。
「あの…デリバリーってことはここは運送会社ですよね?私、免許すら持ってませんけど。」
「まあ、ついてきなさい。ここなら君の借金を返せると思うから…」
「えっ、はあ…」
私は添田さんの言うことを聞いて彼の背中を追うように歩く。免許がないのに運送会社…ってことはここの清掃員を副業としてやれとおっしゃるつもりなのだろうか?しかし、清掃員の給料ってかなり安いはず…これだとメインの営業職の給料を足しても何年かかるか分からない。
「オーナー…おはようございます!」
「おはよう、今日も準備は順調だね…」
「あれ?オーナーさん、そこにいる女の子って誰?もしかして、恋人とか?」
添田さんに導かれてオフィスであろう部屋に入ると、スーツを着た長身の男性と金髪で私と同い年ぐらいと思われるギャルが彼の前にやって来て声をかけてくる。そして、ギャルは私を指さして誰なのかと添田さんに質問してきた。
「ああ。ここの新入りさんで稲川玲奈さん…ここではレナとして入ってもらうよ。」
「あんた、新入りさんなの?チョリース!」
「チョリース…」
私はもう色んなことがあって困惑してしまう。新入り?雰囲気からして運送会社ではなさそうだが、一体…何なのかよく分からない状態である。
「添田さん、ここは一体?」
「君、オーナーに対してその口の利き方は何だね?」
「構わないよ…私と彼女は同胞の友人だから。それはそうとここがどこなのかということを稲川さんは知りたいんだよね?」
「ええ、そうですけど…」
「ここはデリバリーとは言うが運送会社ではなくデリバリーヘルス、デリヘルのお店なんだ。ここは私が売れなくて寂れたお店を買収したお店でね…どこよりも安く幅広いサービスに応えるをモットーにしてるんだ。」
添田さんは私の疑問に答えたその時、一瞬思考が停止してしまう。デリヘル…要するにここは風俗のお店ということを知り、私は風俗の世界へ売られてしまうんだなと思ってしまった。
「デリヘルってことは風俗のお店ですよね?指名された男の人から色々イヤらしいことをされるという…流石に添田さんが与えてくださったお仕事とはいえ風俗は嫌なのでお断りさせていただきます。」
「どこへ行くつもりだね?」
「いや、家に帰ろうと思っているのですが…」
「少し私の話を聞いていきなさい。稲川さん、君は風俗の仕事を馬鹿にしてるだろう?まあ、無理もない…世間から見たら風俗は汚れた仕事として扱われてるからな。」
「何が言いたいんですか?だから私はしたくないんですよ…貴方がそんな人だとは思いませんでした、さようなら。」
「そんな気持ちだといつまで経っても借金も何も返せないし、君は何も変われないよ?」
「えっ…」
「稲川さん、この世には沢山の仕事がありその中にはやりたくない仕事だって存在する。風俗や水商売に土木もそれらに当てはまること…でも、どの仕事にもやっていて無駄な仕事なんか存在しない。こういった仕事が日本を支えていてどの職業も立派なものなんだ!」
「でも、風俗は…」
「風俗だって男性に癒しを届ける立派な仕事じゃないか。嫌なことも少しはあるかもしれない…だけど、そこだけ見ていても仕事を嫌がる気持ちがあるなら君は大人になれないよ。そこまで風俗を嫌がる理由は何かな?」
「…」
添田さんは私に対して初めて険しい表情をして重い口調で訊ねてくる。普段は温厚でマイペースな人でもこの人は仕事に対する気持ちは真剣なんだということが伝わってきた…これに負けて私はついに重い口を開くことに。
「男の人が嫌だからです。もうあんな思いをしたくなくて、怖いから…」
「それが君の本音なんだね。なるほど、そんなに脇本のことが好きだったのか…それで裏切られた結果なんだな。」
「まあ、はい…」
「そうか、それは辛かったね…だけど、安心しなさい。ウチは所謂ワケありの子を雇っていてそこら辺の福利厚生はしっかりしてるから…例えばここにいるギャルのヒロこと寺崎浩美(てらさきひろみ)さんは親に捨てられて親戚の家で育てられたけど、そこで虐待を受けて居場所を失っていたところを助けてここで雇ったんだよ。それからは今年でちょうど4年ぐらいかな?今もここで頑張ってるんだ。」
「ちょっ、オーナーさん…ウチの過去を話されたら恥ずかしいっつーの!まあ、他の子もウチと同じように困ってた人達ばかりだから困った時はウチらに頼りなよ!!」
ギャルの人…ヒロ先輩はグッと親指を立てて笑顔を見せる。添田さんに言われたように辛い思いをしていてもこんなにも元気な姿を見ていると私も負けてられないと思えてしまう…
「まあ、もしもサービス外の注文されたり襲われたりしたら私に連絡してきなさい。私がどんなに遠くにいても何とかするから…それと、この副業は私と君だけの秘密。とにかく借金返済できるように応援してるね!」
「分かりました…私、できる限り頑張ります。」
こうして私は副業でデリヘル嬢を始めることになった。それからは男の人から変なことをされたりしながらも添田さんやスタッフに同じデリヘル嬢の仲間達の支えもあり今も続けている。借金に関しては返済間近まで来ていてそんな中で浅原くんと出会ったという訳だ…あの日以来裏切られるのが怖くなって恋をすることができなくなったけど、この10年は支えてくれる人達のありがたみを感じることができた。でも、まだまだ男性への恐怖心はまだ消えず…それでも私は前へ進んでいるわけだ。
side out
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side康太・現在
「これが私の過去よ。どうかしら?」
「…」
そして、課長は自らの過去を全て語り終える。想像していたよりもあまりにも壮絶で出す言葉が見当たらない…既婚者と知らずに恋をして慰謝料とか請求された末に借金まみれになり風俗の世界へと足を踏み入れたというわけだ。あまりにも濃厚すぎる10年ではなかろうか?
「まあ、言葉も出ないわよね…こんな裏切られやすくて借金まみれで風俗の世界にいる汚れた女だと知ってもう幻滅したかな?」
「いえ、課長も辛かったんだなって思いました。まさか親会社の添田社長の手助けもあってここまで来てたなんて…年下の僕が言うのも失礼ですけど、よく頑張りましたよ。」
「ありがとう。でも、私のような不幸体質の女なんかと付き合わない方が身のためよ?こんな私なんかよりも素敵な他の人を…えっ!?」
僕は何も言わずに卑下する課長の体をギュッと抱きしめる。もうこれ以上痛めつける彼女を見たくない…そう思うと抱きしめる以外の選択肢がなかった。
「もう自分を苦しめるのはやめてください。貴方は世界中の誰よりも素敵な女性です…切欠は不純だったかもしれませんけど、僕は本当の稲川玲奈を知ることができて好きになりました。そんな自分に自信を持ってください…もう貴方は沢山頑張りましたよ、これ以上苦しむ必要はありません。」
「浅原くん…」
そして、抱きしめた上から失礼も承知で彼女の頭も撫でていく。弱ってる彼女を守りたいと思う心が強く出たのか、今の自分なら何でもできるような気がした。僕の気持ちは課長に伝わったのだろうか?
「私、ずっと恋することが怖かったの。また裏切られるんじゃないかって思うと距離を詰められなくて…だから、厳しい上司を演じて嫌われようとしたけど貴方だけはそんな私についてきてくれるどころか私を好きになって嬉しかった。だけど、こんな汚れた罪作りの女といると浅原くんが不幸になるんじゃないかと思ってしまって。んんっ、ちゅっ、ちゅっ…」
僕は迷わず彼女の唇にキスをする。これは自分が理性を持った中でした初めてのキス…今までその機会は巡ってこなかったけど、神様はこの時を用意してくれたみたいだ。課長の唇は凄く潤っていて柔らかかった...これがキスの感覚なんだなと改めて感じる。
「んはぁ…いきなりキスはずるいじゃない。」
「すみません、今の僕はもう何でもしたくて仕方ないので。とにかく、僕にはもう課長以上もそれ以下の女性もいません…それぐらいに世界中の誰よりも僕は貴方を愛していますし、困った時はいつでも僕が守ります。だから、僕と付き合ってください!お願いします。」
僕はキスをしてから追い打ちをかけるように告白のリベンジを仕掛けていく。この流れならもうフラれることはないだろう…慎太郎さんから言われた男気も見せたし、もうやることは全てやった。後悔にするにも成功の未来しか見えないから後悔は絶対にしないと思う。
「ここまで言われてキスまでされたら断れないじゃない。本当に浅原くんは私の心を乱すずるい人ね…こんな私で良かったらこれからもよろしくお願いします。」
「良いんですか?僕は部下ですけど、出世とかに響いたりとかしたら…」
「もう、そんなことを貴方が気にしないでよ?私ね…浅原くんと初めて会った時からかっこよくて優しそうで真面目でまっすぐな人だと思っていたの。最初の方は仕事が上手くいかなくても諦めない姿は本当に上司として評価していたわ…それでデリで話したりスキンシップをしていくうちに本当の優しさとかまっすぐさとか伝わって私も貴方のことが好きになっていてね。もう出世とかどうでも良くなったんだ…今の私はもう浅原くんと一緒になりたくて仕方ないの。こんな風に私をしたんだから責任取りなさいね?」
「課長…はい!」
こうして僕は正式に課長と付き合うことになった。最初は鬼上司として怒られまくるという最悪な出会いだったけど、デリを通して次第に打ち解け合い気づけば好きになって一度はフラれても最後はくっつき無事に過去も明かされてお互いにスッキリ万事解決…これからもよろしくお願いします!
(さて、あと30分あるけど残り時間は何をしようか…)
添田秀雄(そえだひでお)
(脳内)CV:池田秀一
身長:184cm
体重:70kg
誕生日:12月2日
年齢:現満43歳
日本どころか世界を股にかけて活躍する実業家で添田グループの代表取締役社長並びに玲奈が働く『デリバリーSOEDA』のオーナーという一面もある。玲奈が借金まみれになって住むところを失っていたところを助け、彼女に職場として添田グループの子会社で今も働いている『添田ホテルサービス』並びにデリヘル嬢としての副業と住むところを与えた。それ以降は彼女のサポートをしていていつも遠くから見守っている。
寺崎浩美(てらさきひろみ)
(脳内)CV:かかずゆみ
身長:158cm
体重:??
誕生日:6月18日
年齢:現満34歳
玲奈の1つ上で『デリバリーSOEDA』所属のギャル系デリヘル嬢。親に捨てられて親戚から虐待されて居場所を失っていたところを添田から救われ、デリヘル嬢として雇われてからは先輩として玲奈をサポートしつつ親友関係でもあり、さらに今もなお移籍しながら現役の模様。
この前後編で新キャラが6人出ましたが、次回はいよいよ最終回です!付き合うことになった2人は残り30分を会議室でどう過ごすのか?そしてこの先の未来は果たして…お気に入り登録、感想、高評価の3点セットをよろしくお願いします。
それでは、また次回!