※この作品はR-18です。

12年分の恋が溢れ出したので、愛で覆い尽くしてみた   作:暁英琉

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12年分の恋が溢れ出したので、愛で覆い尽くしてみた

 かちりとズボンのホックが外れる音が響き、布が擦れる音が続く。

 ――なんだろ。これすっごく恥ずかしい……。

 現状を見ればほぼ全裸になっているウタ自身の姿の方が恥ずかしいはずなのに、他人が発している脱衣の音が妙に艶めかしく感じてしまう。聴覚でそれを感じるだけで限界で、視線を下へ向けることができない。

 それでも、自然と強ばる身体に反してお腹の奥がなにかを求めるように切なくうずいてしまう。それを自覚するのがとても恥ずかしいことのように思えて、気を紛らわせるようにウタは視線を壁紙の星々へ投げた。

 それがまた、余計にウタのなにかを揺さぶった。

 十二年見慣れた、自分の部屋の壁紙。まだ齢一桁だった頃から住んできた初めての自分の部屋でいやらしいことをしている。嗅ぎ慣れた匂いを淫靡なそれで上書きしている。

 しかも、その相手があのルフィなのだ。大切な幼なじみと大人の階段を登ろうとしている事実に恥ずかしいような、うれしいような、表現のできない感覚がウタを狂わせる。

 

「ウタ――」

 

「ぁ……」

 

 長い沈黙の中荒れ狂う感情の奔流に翻弄されていたウタの耳にルフィの声が届く。同時にショーツを軽く摘まれたことに気づいて、考えるより先に腰がベッドから浮いた。

 ――私、期待しちゃってるんだ。

 そんな無意識の行動に、自分でも自覚するのを躊躇っていた内心を理解させられる。ベッドシーンもあるような少し大人向けのミュージカル台本程度でしか知らなかった行為。子を成すための営みに期待している自分を隠しきれなくなる。

 阻むもののなくなった心許ない布地が、幼なじみによってするりと脱がされた。正真正銘、生まれたままの姿を相手に晒す。

 

「ウタ、その、おれ……初めてだから、痛かったりしたら言ってくれよ」

 

 双眸の奥にギラつくものを感じさせながら言葉尻を震わせる幼なじみ。感情をせめぎ合わせていることが感じ取れる表情に、きゅ、とウタの喉がすぼまった。

 さっきまで自分をあれだけよがらせていた青年が、自分と同じようにこれからの交わりに期待していてくれている。欲望が滲み出すのを抑え切れないほど興奮していることは明白なのに、無理して優しい言葉をかけてくれるのが嬉しくて愛おしい。

 

「うん……来て」

 

 羞恥心はまだ残っている。けれど、大好きな幼なじみの表情が、仕草が、その羞恥心さえ心地の良いものに変えていた。

 両手が太ももに添えられる。自分の柔肉にゴツゴツした指が食い込む感触にすら期待している自分を自認しながら、促されるままに脚を開く。

 

「ん……っ」

 

 秘部に硬いものが触れて、ぴちゅ、と水音が響いた。

 指とは違う、硬いけど少しぷにぷにしたような感触。

 ――それに、すごく熱い……。

 

「ぁっ、ん……ふぁ……」

 

 火傷しそうなほどの熱が何度も割れ目にあてがわれ、その度にウタの背筋に甘い電流が流れる。

 

「あ……ここ、か」

 

「ひぅっ――うん、そこ、だね……」

 

 下の唇が吸い込んだ愛液をなじませるように亀頭を擦り付けていたルフィが動きを止める。大陰唇をかき分けた先端はその奥、収まるべき穴の入口に狙いを定めている。

 高鳴りすぎてどちらのものか分からない心臓の音を感じながら――

 

「ぐ……っ」

 

「あぁっ!?」

 

 今、ようやく、二人の身体が一つに交わった。

 まだ何者の侵入も許していない狭い細穴をルフィの肉棒が一気に割り開く。初めての証さえも貫いて最奥にキスをする。

 

「はっ、ひっ、ハ――!」

 

 体内に異物を招き入れた違和感。未熟な膣穴には不釣り合いな太い陰茎に身体を押し上げられる圧迫感に呼吸すら覚束ない。痛みからなのか、苦しさからなのか、それとも快感からなのか分からない視界の明滅に、気を失うのではないかと錯覚してしまうほどだ。

 

「だいじょう、ぶ、か?」

 

 対して、ルフィも初めての刺激に余裕がなかった。

 男連中とのバカ話である程度の知識は持ち合わせていたが、いかんせんこれまで自慰行為すらしたことがない。痛みならともかく快楽への耐性がまるでないところに敏感な肉棒を肉壁に締め上げられるなど、気を抜けば頭が真っ白になってしまうところだ。

 しかも、自分は動いていないのに、不規則な凹凸にまみれた膣穴がまるで意思を持っているように不規則にうごめいて快感を煽ってくる。目の前で最愛の人が目尻に涙を溜めている姿を見ていなければ、腰砕けになるか欲望のままに一方的な悦楽を求めていたことだろう。

 

「だい、じょう……はァ、だいじょうぶ。ちょっと痛いけど――ルフィとえっちできるの、嬉しい、から」

 

 震える手でできるだけ優しく涙を拭ってくれる幼なじみに笑いかける。

 強がりではない。もちろん破瓜の痛みはある。慣れない交合による苦しさもある。けれど、それ以上にルフィと愛し合う者同士でしかできない行為ができることが嬉しくて、必死に欲望を堪えて優しくしてくれている大好きな人が愛おしくて仕方ないのだ。

 そんな愛しい人だから、自分で気持ちよくなって欲しい。彼女がそう考えるのはごくごく自然なことだった。

 

「ルフィ、動いて……わたし、は、大丈夫だから」

 

「っ――ウタ!」

 

「ぁっ、く、グ……は、はぁッ」

 

 ウタの言葉に堪えきれなくなったルフィが腰を動かし始める。初めて行う腰のグラインド故か、その動きはたどたどしく、ゆっくりとしたもの。

 初めての証があったであろう場所が肉棒に擦れてちりちりと痛む。一際太いカリ首が膣壁を押し広げ、臓腑を圧迫される苦しさが湧き上がる。

 

「ウタの、中……すげえ動いてる……」

 

 そんな不快感の奥に、先程指で与えられたのと同じ快感があるように感じるのは、必死に腰を動かしている余裕のないルフィの表情を見ているからだろうか。ぐ、と奥歯を噛み締めている幼なじみの表情が幼い頃のそれとダブってしまう。

 竿が中程まで引き抜かれ、ゆっくりとまた奥まで挿し込まれる。その動きに合わせて、まるで一ミリも離れないようにするかのように、ウタの膣肉がルフィの肉棒に密着する。

 ――これ、ルフィの形、わかっちゃう……!

 キュウキュウと怒張を包み込む痴肉を通して、実物を目にしていないというのに陰茎の形を教え込まされてしまう。動きがゆっくりなことも相まって、張り出たカリの太さも幹の硬さもわかってしまう。

 

「んぁ――ッ」

 

 少し動きに慣れてきたのか、ギリギリまで引き抜かれた肉棒がGスポットを抉って、純粋な嬌声がウタの喉から漏れた。

 

「ぅ……ここ、さっきの?」

 

「ん、ぁっ、フ、ひぁ――る、るふぃ、そこ、ばっかり……っ」

 

 その反応を目敏く察したルフィは亀頭が抜けてしまうそうなくらい浅い挿入を始める。

 指の何倍も太く、火傷しそうなくらいの熱を持った棒から与えられる刺激は先程の比ではない。しかもそれがしつこく敏感な壁を擦ってくるのだ。ウタの視界が何度も明滅を起こす。

 

「けど、ここなら痛くねえんだろ?」

 

「ぁ、んんっ、ぉ、んァ……そ、そうだけど、ぁ、ぁ、ぁあっ」

 

 ウタの抗議を無視して執拗に浅い部分に陰茎を突き立てる。言い訳は嬌声に上書きされてしまう。

 処女膜があったところを通らない分、痛みがないのも事実。しかも溢れ出した愛液が肉棒によってかき混ぜられていやらしい水音まで立てている。ウタ自身、自分の中の快感を否定することができない。

 

「ぅン、ふぁあ、ひ……ッ、は、ぁ――」

 

 ずちゅ、ずちゅと濡れた肉同士が擦れる音が響く。その音がどんどん大きくなっていることに気づいて、ウタは思わずぎゅ、と両目を閉じた。

 それは、自分が気持ちよくなっている証がとめどなく溢れてきている証拠だから。実際、浅い位置をいじめられるようになってから、ウタは何度も軽く達してしまっていた。

 目を閉じたところで音を閉ざすことできない。それでも、目を閉じずにはいられなかった。

 それに、目を閉じたことでわかることもあった。

 

「く、ぅ……は、はァ……」

 

 水音に紛れて聞こえてくる、ルフィの声。噛み締めた歯の間から漏れ出るような艶めかしいそれが、ウタの心をかき乱す。

 ――ルフィも、気持ちいいんだ。

 大好きな人が自分で気持ちよくなっていることがわかって、それが余計に腹の奥を熱くする。肉の壁をいやらしく濡らす。性の好循環が自分の“女”の部分を開発する。

 

「ルフィ……」

 

 瞼を開けて、幼なじみを見る。視界の端がぶれてふわふわしている中、快楽に揺れる瞳と目が合って、自然と熱い息が漏れた。

 さっきは痛い、苦しいという感覚が強かったはずなのに。

 

「奥に……きて――!」

 

 ルフィのいない自分の最奥が切なくて仕方がない。軽くとはいえもう何度も達してしまうほどの快楽を与えられているのに、それ以上を求めてしまう。

 

「っ――……辛かったら、言えよ」

 

 顔に伸ばされた手をそっと掴んだルフィはその手を枕元に下ろす。まるで逃げられないようにするかのように、指と指を絡める。

 いつの間にか自分より背が高くなった幼なじみに覆いかぶさるようにベッドへ縫い付けられて――ウタの心は人知れず期待に高鳴った。

 そんな鐘を更に鳴らそうとするかのように――

 

「ぁああッ」

 

「くゥ……っ」

 

 肉棒が再び沈み込む。

 深く、深く、最奥の壁を目指して細い肉道を再び割り開く、鉄のように熱い男の象徴。その男根を押し返すように肉襞がざわめき、二人は大きく目を見開いた。

 拒絶するようでいて、その癖迎え入れるような絶妙な加減で肉竿全体を扱き上げられ、再びの強い快感にルフィの視界が白く染まる。

 ウタもまだ鈍い痛みがかすかにあるものの、入口部分で十分に快感を覚えたことで先程まで認識できなかったその奥にある気持ちよさを脳が理解し、痛みの残滓を上書きする。むしろ、その痛みすら快楽のスパイスに変えてしまう。

 

「ぁっ、ぁあっ、ん、ふあぁ……ッ」

 

 亀頭が抜けるギリギリまで引き抜き、また最奥の壁まで押し入れる。自分も知らない身体の奥の奥へキスをされて、その度に小さな喘ぎがウタの喉を鳴らす。

 

「ぁ、フ、ん……る、るふぃ――」

 

「んむ――ちゅ、ちゅる、れ、レぅ……」

 

「ん、ぁぅ、ハ、じゅる、ち、ちぅ……はむ、ぁ、っン……」

 

 そんな声を聞かせるのが恥ずかしくなったのか、ルフィの頭を引き寄せて口づけをする。口端を小さく歪めたルフィはその行動に応えるようにウタの口内へ舌を伸ばす。

 上と下、二箇所から響く毛色の違う水音に混じり、互いの鼻から細かく空気が漏れる。ふわりと頬を撫ぜるそんな呼気すら心地よく、そのすべてが生まれてくる快感と混ざり合って、二人共何も考えられなくなってしまう。

 

「ン、えぅ、んぁっ……るひ、るふぃぃ……ッ」

 

「じゅ、ちゅむ、れォ――うた……ん、はぷ……っ」

 

 ただただ、本能のままに、この時間を続けたいがために舌と腰を動かし続ける。

 しかし、それが生殖という行為である以上、終わりは訪れるもので――

 

「ぷはっ! ウタ、なんか俺、変なのキそうだ――ッ」

 

 知らない感覚に思わずルフィは口づけを中断する。下腹部に溜まったもやもやがせり上がってくるような、排泄と似ているとも違うとも言える未知の感覚。知識として知っていても初めてのそれに、戸惑いを隠しきれない。

 

「ふふ、いい、よ。そのまま、出して――!」

 

「――――ウタ!」

 

「ぁっ、あっ、あっ、奥、ばっかり……っ」

 

 そんなルフィを薄い笑みを浮かべながら迎えるウタに、ルフィはもう堪えきれなくなった。

 両手で腰をがっつりと掴んだルフィは、まるでそこに出すべきだと言わんばかりに何度も何度も膣の奥を突き上げる。ここに子供をつくる器官があるのだと教え込むような動きにウタの身体がビクビクと跳ねた。

 

「っ! ルフィ、中、ふくれて――ッ」

 

 ただでさえ太かった肉棒が更に膨れ上がり、肉壁を蹂躙する。流れ続ける電流を逃がすようにウタの両の手に力がこもり、ベッドのシーツにシワを作った。

 そんな両手を呼応するように膣内が怒張を締め上げるように蠢き――

 

「ウタ、も、出る――!」

 

「ぁぁあああぁぁっ!! ……こん、な……あつい、んだ……」

 

 最奥に押し付けられた肉棒がどくんと大きく脈打つと同時に、白濁が吐き出された。肉の壁を叩きつけるマグマのように熱い感触に、ウタは頭が真っ白になってしまう。

 

「はあ……はあ……」

 

 まるで徹夜明けにベッドに潜り込んだときに感じるようなまどろみの中、ルフィの荒い息遣いだけがやけに大きく聞こえてくる。それが自分を抱きしめるように彼が覆い被さったからだと気づいて、シーツを握りしめていた手をその背中に回した。

 

「きもち、よかった……?」

 

「はあ……はあ……恥ずかしいから、言わせんな」

 

「あはは」

 

 ぎゅっと抱きしめ返してくれた幼なじみの言葉に、思わず笑ってしまう。

 ――まあ、こんなに出してくれたんだから、気持ちよかったに決まってるか。

 どっぷりとしたお腹の重さを感じながら、ウタはそっと意識を手放した。

 

 

 

「お、起きたか」

 

「……ルフィ」

 

 髪を撫でられる感触にウタが目を覚ますと、ベッドに腰掛けたルフィと目が合った。なんの気なしに時計に目を向けると、ほんの少し気を失っていた程度のようだ。

 ウタワールドでも気絶ってするんだなぁ、なんて考えながら、髪を撫でている手を引き寄せて頬を押し付ける。若干からかいの色を感じるルフィの笑い声すら心地良い。

 

「……そういえば」

 

 ただ、意識がはっきりしてくるにつれ、ウタの中で埋もれていた疑問が浮かび上がってきて、心が暗くなる。

 

「どうやって皆を返すの?」

 

 もう、ウタに現実から逃げる気はない。逃げてしまおうとする弱い心はルフィが満たしてくれた。

 けれど、そもそもの問題はウタ自身にも、現実にいる海軍にもウタ自身を含めてウタワールドに閉じ込められた人々を助け出す方法がないことなのだ。

 話をしたモモンガとイッショウの口ぶりからして、ネズキノコの解毒手段を海軍は持ち合わせていない。ルフィの船のクルーには優秀な船医がいるかもしれないが、それもウタワールドに閉じ込められてしまっていることは確実。

 けれど、ルフィの言葉には確信があった。荒唐無稽な虚勢ではなく、明らかな打開策があるからこその言葉だった。

 ――なにかウタウタの実について知ってるのかな? いやけど、そもそもルフィにはほとんど実の話舌記憶がないし……。

 

「――来るぞ」

 

 未だ解決していない疑問に首を捻るウタに、一瞬瞑目してから窓の外に視線を投げたルフィが短く答える。

 その視線を追って夢と現で同じ方向、晴天と曇天の海を見て――

 

「ぇ……」

 

 現実のウタが声を漏らす。

 厚い雲の下、一隻の海賊船がこちらへ向かってきている。

 全体的に赤い船体。船首に据えられた竜の首。そして左目に三本傷の象徴的なドクロ。

 忘れようはずがない七年過ごした船、赤髪海賊団のレッドフォース号だ。

 

「なん、で……?」

 

 なぜシャンクスたちがここに来ているのか。なぜそれをルフィがわかっているのか。尽きない疑問が混ざりあった言葉にルフィはいつもどおりの笑みで返す。

 

「残念だけど、夢の中にいる俺にはウタを救い出せねえのは最初からわかってた。けど、不安はなかったんだ。ウタが初めてライブするってのに、そしてこんなことになってるのにシャンクスたちが黙ってるわけねえからな」

 

 ルフィは自分たちの状況を聞いた瞬間からずっと確信していた。憧れの男がエレジアに来ると。そして彼の船にはホンゴウがいる。間違いなく世界最高クラスの船医だ。ウタを助け出す手立てを必ず持ってくる。

 だからルフィは、見聞色の覇気を研ぎ澄ましてずっと現実の様子を伺っていた。普通であればそんなことはできないだろう。しかし、大事な幼なじみを通すという行為を無意識に行うことで不可能を可能にしたのだ。

 すぐ眼の前に懐かしい船がある。記憶の中のシャンクスが慌てたように飛び出してくるのを幻視する。

 そんな幻覚に、ウタは身体を震わせた。

 ずっと恨んできた。あり得ない優しい嘘に騙されて、怒りをぶつけてきた。あまつさえ、真実を知ってからはそれ自体から目を背けて逃げてしまおうとした。

 そんな自分の前に父が、仲間たちが現れるのが――怖い。許されないことをした自分が、大事な家族と再会していいのか、自信が持てない。

 

「んぷっ」

 

 そんな暗い表情の幼なじみの頬をルフィが指で挟む。ぷふ、と空気が漏れて間の抜けた音が鳴り、重い雰囲気が和らいだ。

 

「大丈夫だ」

 

「――うん!」

 

 たった一言。それだけなのにルフィの自信が伝播したように力が湧いてくる。

 ――ああ、そういえば昔からこういうヤツだったな。

 やることなすこと破天荒な山猿で、いっつも自分を振り回して、常に妙な自信だけはあって、自分を明るくしてくれた、大事な幼なじみ。

 あの出会いがなければ、自分はもっと夢の世界に閉じこもってばかりだったんじゃないかと思える、大好きな人。

 そんなルフィに背中を押され、現実で下を見つめていたウタは顔を上げる。流石に有名海賊が登場したとあって遠巻きに警戒している海兵を後目に、レッドフォース号から降りた男たちが近づいてくる。

 

「シャンクス、みんな……」

 

 十二年経った分歳を重ねた、けれど確かに面影のある家族達の姿に思わず涙が頬を伝った。

 ウタのいる飛び石の観客席についたシャンクスは座り込んだウタに目線を合わせるために膝を折る。

 

「ウタ、久しぶりだな」

 

「うん……うん……!」

 

 大きな手に頭を撫でられ、こみ上げてくるものを抑えきれない。顔をぐしゃぐしゃにして、添えられた手を握りながら何度も頷く。

 

「ごめん……ごめん、なさい。私……わたし……」

 

「いいんだ、謝らなくて。娘のために、俺たちが勝手にしたことなんだから」

 

 国潰しなんて汚名を背負わせてしまった。的外れな恨みばかり抱いてしまった。十二年分の罪を、愛を、必死に紡ぐウタを、シャンクスは優しい、父親の目で包み込む。周りのクルーたちも一様にウタへ優しい視線を送り、ルウに至っては少々涙ぐんですらいた。

 

「ホンゴウ」

 

「おう」

 

 ウタの嗚咽が和らいだ頃、シャンクスに名を呼ばれたホンゴウが一本の瓶をウタに差し出す。とろみのある液体が入ったそれがなにか気がついて、ウタは濡れた顔を破顔させた。

 

「はは、ルフィの言ったとおりだ」

 

「ルフィが?」

 

「うん。シャンクスたちならなんとかしてくれるって」

 

「くくく、随分と先が見えるようになったもんだ」

 

 ウタの膝で静かな寝息を立てている古い友人にシャンクスは喉を鳴らす。

 実を言えば、歌唱部分こそ音声を切っていたとはいえ、シャンクスたちはずっとウタのライブを見ていた。ルフィとの再会など、それだけで古株のクルーは号泣したのが、その話は置いておこう。

 そんな古株の面々はウタワールドに何度も入ったことがある。だからこそ、ルフィが消えた後にライブを続けるウタに違和感を覚えるのは必然だった。

 では本物のウタはどこに? 決まっている。ルフィと共にいるはずだ。

 『逆光』の歌詞、そして世間での評判からウタが赤髪海賊団をどう思っているかは想像に容易い。そんなウタがいつまで経ってもルフィと共にどこかへ消えてしまっている。

 そして、現実で再会した娘の反応。

 きっとルフィがウタの心を救ってくれた、と察するにはそれで十分だった。

 子供の頃の猪突猛進で泣き虫だった頃を知っているからこそ、大事な娘の心を救ってくれたことにその成長を感じる。力だけではない。心も随分と強くなったのだと知って、笑みを隠すことができない。

 そんなシャンクスに自分も心が温かくなるのを感じながら、ウタは瓶の栓を抜いて中の液体を飲み込む。あま苦いそれが喉を通って胃へと落ちていく。

 

「しばらくすれば、自然と眠れる。今は休め」

 

「うん……ありがとう……」

 

 目の焦点がぶれたウタがシャンクスにもたれかかる。薬が効くまでしばらくかかるが、気が抜けてしまったのだろう。無理もない。本来数曲分が限界なところを既に六時間は能力を行使しているのだ。

 身体の力を抜いたウタをシャンクスがそっと抱きしめる。懐かしい温もりに包まれて、ウタはあの頃のようなあどけない笑みを見せた。

 十二年、ずっと待ち続けた。恨みもあった、悲しみもあった。けれど、それだけは一度も変わることはなかった。

 だから、睡魔に襲われながら紡いだ言葉がそれだったのは、当然なのかもしれない。

 

「おかえり、みんな」

 

「「「「ただいま、ウタ」」」」

 

 家族に囲まれながら、幸せに包まれながら、ウタは前を向くために意識を落とした。

 

 

     ***

 

 

 これにて終幕、となればいいのだが、それを許さない者たちもいる。

 

「いやぁ、参ったねぇこれは」

 

 寝息を立てるウタをサングラス越しに睨みながら、大将黄猿が声を上げる。その隣には藤虎とモモンガの姿もあった。

 いや、彼らだけではない。シャンクスたちのいる小島は、無数の海兵達によって包囲されていた。数多の銃口が向けられ、少しでも妙な動きをすれば発泡するぞと威嚇している。

 

「世界転覆を目論んだ歌姫が四皇の娘とはねぇ――その力、海賊に渡すわけにはいかんでしょう」

 

 世界の七割がウタワールドに閉じ込められるという最悪な自体は回避できた。しかし、その能力者が四皇の娘、しかも別の四皇とも交流があることもわかっている。トット・ムジカの情報もある以上、海軍としてそんな危険分子を放置するわけにはいかないのは当然。

 

「引いちゃくれないか」

 

「そりゃあ無理ってもんでしょうよ――八尺瓊勾玉」

 

 あり得ない提案を斬って捨て、無数の光弾が小島へ降り注ぐ。それが開戦の合図と言わんばかりに四方八方から銃声が鳴り響いた。

 問答無用の攻撃に赤髪海賊団の表情が引き締まる。ボルサリーノの光弾以外は彼らにとって大した脅威ではない。しかし、今この小島には眠ったウタとルフィたちがいる。

 ウタもルフィも赤髪海賊団にとって大事な人間だ。当然、ルフィの仲間となればクルーたちも欠けさせる訳にはいかない。その上、眠っている観客たちも傷つける訳にはいかない。

 ――なかなかのハンデだが……やむを得ないな――ッ!?

 内心舌打ちをしながら迫りくる攻撃に対処しようとした赤髪海賊団の面々は、次の瞬間目を見開いた。

 否、包囲している海兵たちもそれは同じだった。

 光弾が、銃弾が、悉くその軌道を曲げてしまう。まるで何かに弾かれるように一発たりともシャンクスたちの元へは届かない。

 ――ドンドットット、ドンドットット。

 そして困惑する皆の耳に聞こえてくる、謎の打音。

 

「これは……」

 

 それの正体にいち早く気づいたシャンクスは、ルフィに視線を向ける。

 すぐ近くで眠っていたはずのルフィは、いつのまにかいなくなっていた。

 

「しっしっし。俺の女にあぶねえ攻撃するじゃねえか、海軍」

 

 代わりに、上から聞こえてくる懐かしい声。

 身体を白く染めた、一見すると別人のような姿。緊迫した戦場の中で面白そうに笑う青年。

 ゴムゴムの実の覚醒。ギア5となった四皇、モンキー・D・ルフィがそこにいた。

 

「麦わらの御仁……ですかい?」

 

「話に聞く、ゴムゴムの実の覚醒、らしいねぇ」

 

 大将二人の会話を聞きながら、モモンガは周囲へ視線を巡らせる。ライブに潜入していた海兵が誰も起きていないことに、いや、いの一番に目が覚めたのが麦わらのルフィということに苦虫を噛みしめた。よりにもよって眠っている敵の中でも最高戦力が最初に目覚めるなど、なんと運のないことか。

 否、これは運ではない。

 

「俺も少しはウタにかっこいいとこ見せないとな! まあ、今寝てるから見せれねえんだけど! アハハハ!」

 

 ルフィはわかっていた。シャンクスが来れば海軍も動かざるを得ない。いや、仮に来たのが海賊でなかったとしても、ウタが眠った瞬間取り押さえようとするだろうことは想像に容易かった。

 だから、ウタの意識が落ちて夢を現実の狭間が曖昧になる瞬間、自分を自由にしたのだ。

 それがいち早く目覚めることができたからくり。ウタと共にいて、ウタが眠るタイミングが分かっていたからこそ、揺らいだウタウタの実の理を的確に突くことができたからこその裏技。

 

「ルフィ!」

 

「シャンクス! みんな! シッシッシ、久しぶりだなぁ!」

 

「ふ、寝起きにしちゃ派手に決めるじゃないか」

 

 戦場のど真ん中だというのに楽しそうに笑うルフィに、自然と赤髪海賊団の面々も声色が弾む。どうやったかは分からなかったが、ゴムの力ですべての攻撃を弾き飛ばしたのだろう。

 初動は失敗、しかも相手は戦力も指揮も増強。海軍としては最悪の結果だ。

 おまけに相手には覇王色持ちが二人と来ていて、周囲には眠っている一般人。

 

「「どうする海軍、続けるか?」」

 

 最後通牒を突きつけてくる四皇二人にボルサリーノ含め、海兵たちはぐ、と奥歯を噛みしめる。

 戦闘続行となれば、次の瞬間には覇王色の覇気をばらまかれて海兵の大半が意識を保つことができなくなることは明白。しかも未だ眠っている一般人を守りながら戦うとなれば藤虎の能力が使えなくなる以上、戦力差が大きすぎる。しかし、海軍としての矜持が、正義の二文字が安易に引くことを許さない。

 

「……ここは引きましょう」

 

「イッショウさん!」

 

「一般人の方々もいらっしゃる。ここでこれ以上戦うわけにはいかんでしょうよ」

 

 そこで声を上げたのは戦力的に大幅な制限を受けることになるイッショウだった。モモンガが声を荒げるが、続いた言葉に黙るしかなくなる。

 実際問題、ルフィとシャンクスが一般人を襲うことはないというのは海軍上層部の共通認識だ。故に、流れ弾以外で一般人が危険にさらされる心配は殆どない。

 しかし、戦いが長引けば眠っている人々も起きてくるだろう。ライブが終わり、目が覚めた瞬間戦場のど真ん中だったらどうなるか。その時こそ“もしも”が起こりかねない。

 

「……しょうがないねぇ。サカズキの小言を聞きに行こうか」

 

 数瞬の逡巡を経て大きくため息を漏らした黄猿が踵を返す。それに倣って続々と海兵たちが包囲を解いていく。

 

「…………」

 

 そして藤虎は、誰にも気づかれないように笑みを残して去っていった。

 残されたのはそろそろ目が覚めるであろうライブの観客たちと赤髪海賊団といつもの姿に戻った麦わらのルフィ。

 そして安らかに眠り続ける歌姫だけ。

 

「今のうちに離れとくか。城の方に行けばゴードン、ここの元国王もいるだろう」

 

「よし! ……皆仲間たち抱えるの手伝ってくれねえ?」

 

「ハハハ、任せろ任せろ!」

 

 ライブの余韻に極悪海賊は不要、とばかりに二つの海賊団は会場を後にするのだった。

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