あと半刻で日付が変わる。土曜日を目前に控えた東京の街並みはまだ寝静まる気配はない。ときに人間同士の小さな諍いを起こしつつも、平和を享受している。それが当然だと思い込み、人知れず平和のために戦う者がいることも知らずに。
厚い雲に遮られた宵闇を突く摩天楼。
その縁に一人の女が佇み、数百メートル下の地上を睥睨していた。
「まさか、見失った……?」
「いえ、まだ逃げられてはいないわね」
雄を惑わす艶やかな美貌が険を帯びて、切れ長の双眸の内で瞳が敵意を宿す。
その瞳が映すのは、立ち並ぶビルとビルの間の通りを異常な速度でひた走る男。逃しかけた標的であることを確認すると、纏はビルから飛び降りた。
数百メートルからの自由落下。自殺行為に違いないのだが、纏の表情に怯えはない。
「逃がさないわ」
敵意をそのままに遠くの男の背中をねめつける纏の足元に、突然渦巻く風が発生した。それは小規模な竜巻となって纏の足を支え、肉体を宙に留める。纏はその竜巻の上で上体を沈めると、勢いよく蹴り飛ばした勢いで男へと直行した。
上空から地上へと、斜め一直線に突き進む。
途中、幾度も足元に風が出現し、纏はそれを蹴って着実に男へと距離を詰めた。
いつしか地上近くまで高度を下げていた。この高さでは少し見上げれば人々が纏の存在に気がついてしまうはずだが、誰も纏に目を向けない。まるで何もいなかったかのように日常を送っている。
これは、纏が身に着けている祓忍装束の効果だ。装束に組み込まれた術式によって、ただの人では纏を認識することができなくなっているのだ。
男も男で、普通の人間ではあり得ない速度で大通りを駆けているというのに、すれ違う人々は何の反応も示さない。男もまた誰からも認識されておらず、二人は周囲の混乱を招くこともなく二人だけの逃走劇を繰り広げた。
それから、約数分が経過した。
「もう逃げても無駄よ」
纏は寂れた雑居ビルに挟まれたひと気のない路地の突き当たりに男を追い詰めていた。
東京を拠点にしている纏は周辺の地理を熟知している。対して、男はただ逃げ惑うのみ。纏によって逃げ場所を誘導されていたなどと思いもしていないだろう。こうなったのは偶然ではなく必然だったのだ。
男は退路が塞がれたことに気がつき、逃げるのをやめて纏へと向き直った。
外見で言えば、二十代後半くらいだろうか。短い黒髪の、体格のいい男。身に着けているのは仕立てのいいスーツ。それなりに整った顔立ちとスタイルの良さと相まって、俳優のような華やかさはある。
「あーあ。鬼ごっこもここまでか」
その男がこぼした声はお気楽なもので、追い詰められた獲物とは思えない。緊張感の欠片もないのは楽観的な性格故か、あるいはこの状況に至っても自分の優位性が覆らないとでも思っているのか。
後者、かしらね?
纏は口元を緩やかに吊り上げ、不敵に笑う。しかし、そこに油断はない。
「あなた、
「聞かなくてもわかるだろうが、俺が人妖だったらどうするつもりなんだ?」
何せ、目の前にいるのは人間などではなく、人妖という怪物なのだから。
人妖。それは、人間の負の残留思念の集合体である
「
故に、祓わなくてはならない。
そのために
祓忍とは、怪異専門の忍者の系譜だ。人の世に害をなす
纏は、人が多く集うことで妖の発生率も高い都会に拠点を置き、大勢の祓忍たちを率いて邪悪な存在を払い、清め続けてきた。あらゆる生物の思念が形をなして生まれる妖の中には善良な存在もいて、ときに協力関係を結べるが、人の悪感情の化身である人妖などは邪悪そのものだ。祓わないという選択はない。
「
纏は体の前に片手を突き出し、手で何かを掴むように握り締めた。
「
瞬間、悠然と佇んでいた男の両手と腰、両足が突如発生した渦巻く風によって縛りあげられた。これは、祓忍である纏が扱える忍法の一種。忍法とは、練り上げられた心の力によって意図的に引き起こす事象のこと。ついさっき、纏が足場として使用したのも
「おぉ……」
と風で体を縛られたことで男が驚きを示すが、まだ声音に余裕が滲んでいた。
まだ本性を見せないの……?
余裕だと思わせてこちらの油断を誘うつもりかと思えば、呆気なく拘束された。男は逃げようとして足掻いているが、しっかりと風に縛られて身動きは取れないようだ。このまま仕留めるのは容易そうに思えてくるが。
何か秘策があるのかもしれない、と纏は想定し、距離を保ったまま大技を整える。
体の前で手の平を向け合った両手の間に風を生み出す。その風はこれまでにないほどの渦を巻いている。掠めるだけで体がズタズタに、直撃すれば一刀両断が可能な鋭利な風の刃。
「
纏は男を消滅させようと、技を繰り出した。
放たれた高速回転する風の輪。それは男へと真っ直ぐ進み、その体を無残に引き裂いた。
はずだった。
「なっ!?」
当たるはずだった風の刃が男を捉えることはなかった。
男は何の前触れもなく消え去ったのだ。
「まさか分身!? どこに――」
本体を探すために視線を周囲に走らせようとした纏だったが、その視線が動くことはなかった。金縛りにあったかのように体が動かなくなったのだ。指を動かすことも声を発することもできない。
しまった。
これが男の仕業であることは明白であり、こうなった自分を襲う未来もまた明白だった。
「捕まえた」
左の耳元で男の声が聞こえたかと思えば、背後から纏の体が抱き締められた。男の右手が装束に包まれた纏の大きな乳房に掴み掛かる。左手の指先は纏の下腹を這って引き締まった腹を撫でていた。
「エロいよな、あんたの体」
耳穴に注ぎ込まれる男の声。ゾワゾワと背筋に震えが走ることはあるが、それに抗う術は持たない。内心で凄まじい嫌悪感と屈辱が広がるが、それを言葉にして発することも出来る状態ではなかった。
このままでは殺される。
何か打つ手はないかと焦燥に駆られながら纏は思案する。
が、人妖である男が操る術、妖術は強力で何の抵抗も意味はなさなかった。
ここまで、なの?
何て呆気ない最期。関東祓忍衆の御頭ともあろうものが、この様だ。こんなことならば単独ではなく部下たちと協力して男を追い詰めれば良かった。いや、仮に連れてきたところで、この人妖相手ではただ殺される人数が増えただけに過ぎないか。あれこれと考えるが全て後の祭りだ。
纏は微動だにしない体を動かそうと抗いつつも、頭の中では大切な家族を思い出していた。
ごめんなさい、
故郷に父と共に残した一人息子。いや、とある事情から性別が変わって娘になったのだが、大切であることに違いはない。父や自分と同じく立派な祓忍を志し、日々訓練と任務に当たっている最愛の子供。祭里の成長した姿を見てやれないのを残念に思いつつ、意識が途絶えるまで最後に見た子供の姿を脳内に浮かべた。
そして――。
「へえ、可愛い娘がいるんだな。っていうか、あんた母親かよ。ますます興奮してきた。今から面白いことしてやる、よっ!」
「ぇ、ぁ……?」
出ないはず、普段出すはずのない情けない声が漏れる。
耳の穴に侵入した何かが中を駆け抜け、奥へと至り、脳に刺さる。
ぐちゅ、ぐちゅ、と耳の中を生暖かいもので掻き回される感覚。男の長い舌で穿られているのだと理解すると共に、脳に何かが流れ込んでくる。
それは、人の欲望そのものだった。
「あっ、ぁ、ぁ、ぁ……」
見知らぬ男が女を犯す映像が脳裏を過ぎる。男と女の年齢は様々だったが、どの女も男に好まれそうな魅力的な容姿をしていた。ときに男と愛し合い、ときに男によって一方的に凌辱される。数千、数万、数億。大量の交尾映像が脳内を敷き詰め、映像の中にいる男と女たちの快楽があろうことか纏一人に集結する。
「ぃ、ぁぁあああぁあああああ!?」
痛みはない。あるのは快楽のみ。犯す快楽。犯される快楽。女である纏の性別に関わらず交尾の快楽の全てが押し寄せて感覚を押し潰す。正常な思考など保てるはずもない。我が身を顧みることもできずにただ地獄のような快楽攻めの中で震え、大声を張り上げることしかできなかった。
「ひひひっ……!」
男が笑い、纏の胸を揉み解し、下腹を擦る。
「超いい女ゲット。俺の妻にして、たっぷり可愛がってやるからなぁ?」
男の長い舌が耳穴から取り出され、元の大きさへと戻った。途端に映像の流出が止むが、一度脳に刻まれた数多の交尾の記録とそれに伴う快楽は拭い落とせない。男の腕に抱かれて脱力した纏は、男の舌に頬を舐め上げられて震えることしかできなかった。
「俺とガキいっぱい作ろうぜ、纏」
男は纏をお姫様抱っこで運び、夜の町へと向かう。夜の闇を照らす眩い光に満ちて、ひと際濃い欲望が渦巻くネオン街に。建ち並ぶラブホテルの一つに男は足を踏み入れて、部屋の中に纏を連れ込む。
誰も二人の姿を認識できない。誰の助けも望めない。
普通の人の目を欺き、優れた祓忍すらも無力化する強大な人妖。
その魔の手が、ふかふかのベッドに横たえられた纏に伸ばされた。
「ん、はぁ、ぁ、ふっ、んんっ……」
ベッドに覆い被さる男の唇が、纏の唇を塞ぐ。熱がしっかりと伝わるように深く押しつけて、伸ばした舌で纏の口内を弄り回す。その被害にもっとも遭っている舌が逃げ惑うが、狭い場所では逃走など不可能だ。
「くちゅ、ぬちゃっ、ぐちゅっ、ぐっちゅ」
舌を絡められた。舌先で握手をして唾液を塗りつけられる。
「んっ、ちゅ、ぷ、はぁ、うめぇ、ぐちゅっ、んちゅ、ぢゅるるっ」
男は楽しそうに纏の唇を貪る。纏をそれほど気に入ったのだろうか。纏が人の親であることに興奮しているのだろうか。ベッドに膝を突いたまま男はズボンの股間を触る前から大きく膨らませていた。
「女、ぐぢゅぢゅっ、俺の女だぁ……ぢゅぶっ、ぐちゃ、ぬぢゅっ」
独占欲を垂れ流しにして求めてくる男。
普段の纏ならば、そんな男に対して酷く嫌悪していただろう。外面ではなんてことない風を装いはしても、実際に自分に絡んでくるようなことがあれば、手酷い折檻で追い払っていたに違いない。
だが、今はそれができなかった。
男が纏に抱きついてくる。しっかりと背に回された手は逞しく、抱かれているだけで胸が湧き立つ。そこそこ見られる顔をしているのに、それが台無しになる下心満載の顔でキスを求めてくる男を見ていると、下腹が疼いた。
こんなこと、駄目なのに……。
纏は男を振り払えず、自ら舌を動かして男と絡め合う。
「ぬちゃぁっ、ぐちゅっ、ぐぷっ、じゅぷっ、ぢゅるるっ、ぐぷっ、ぶぢゅぢゅっ」
遠い昔、夫とした濃厚なキス。それが上書きされるほどのディープキスを経て、二人の唾液を混ぜ合わせる。そうしてできたブレンドエキスを仲良く二等分にして、舌で拭い取った後に同時に飲み干す。
「ぁ、あ……」
なんて甘美な味。酒とは違うのに頭がくらくらとしてくる。
駄目だとわかっていても欲望が暴走している。男によって流し込まれた欲望は纏の脳に植えつけられ、理性の正常な働きを妨げている。
だから、纏は自発的に行動した。
束ねていた髪を解き、その後も男と幾度も唇と舌を触れ合わせた。口いっぱいに唾液が溜まるほどに愛し合って、二人で呑み合って、ただ見つめ合う。鼻息荒く纏の太ももに股間を押しつける若い男が可愛く思えて、纏は男を誘ってしまう。
「しましょう……? もう、こんなに硬いんだもの……」
男の股間を手の平で揉むように撫でてあげると、男はニヤリと邪悪に嗤った。
「あぁ、前々から目をつけたけど、手に入れて正解だったわ……」
その発言から、男が纏を狙っていたことが推察できた。しかし、そんな発言を耳にしても纏の肉欲は晴れない。恋は盲目。もはや愛情すらも感じ始めたことで男を見つめる纏の瞳にフィルターが掛かり、男を素敵な雄として認識する。
「来て……」
纏は股を大胆に開くと、装束の股に手を伸ばし、そこにあったチャックを下ろす。
途端に、周囲に甘い雌の匂いが広がった。下ろされたチャックから露わになった陰裂、とても子供を一人産んだとは思えない秘所が割れ目を開き、ピンク色に染まる粘膜を見せびらかす。
物欲しそうにヒクヒクと収縮する膣穴は、ねっとりと蜜を纏っていた。一瞬、大きく開いた穴の中で糸を引くように絡んでいる。中に入れれば大量の愛液が男をずぶ濡れにして可愛がってくれることだろう。
「待ってろよ、今挿入してやるからなぁ」
吊り上げた口角の端から涎を垂らし、男は身に纏う全ての服を消し去った。一瞬にして全裸になったことで肉棒が勢いよく跳ねる。獲物を求めるように震えていた男根の先が膣穴にビンッと矛先を向けた。
纏は思わず生唾を呑んだ。男の一物が、映像で見た男の誰よりも優れていたからだ。日本人離れした長さとそれに見合った分厚い竿。大きな陰嚢を併せ持つ中心で元気よくいきり立つ赤黒い肉棒がとても恐ろしく、かつ、纏の雌を疼かせた。
こんなの初めて……。あの人と、全然違う……。
夫の肉棒を思い浮べた纏が比較するのも馬鹿らしく思うほどの巨根。これほどの一物を前にして上品ではいられない。誘うようにさらに陰裂を開帳し、はっきりと穴を晒した膣穴から愛液という涎を垂らす。
「ここよ……。ここに、頂戴……」
纏の心中で警鐘が鳴り響く。
相手は人妖。人々の穢れが実体を持ったものだ。そんな存在に大切な胎を委ねてはならない。
そう思っているのに、欲望は理性を軽々と超越する。
たった一人の理性が、数億人の欲望に敵うはずがない。むしろ、この状況でもまだ理性を保っている纏の心が強いのだ。もう十分健闘したと言える。こればかりは、幾ら纏と言えども相手が悪過ぎた。
「いただきまーす」
軽い調子で言いながら、男の亀頭が膣穴に宛がわれる。
ぐちゅ、という水音が立った後、ぬぷぷっと穴に亀頭が埋まる音が響いた。
「ぉー、おぉっ……」
心地よさそうな声を上げ、男が腰を沈めていった。
「ぁ、ぁあっ、んっ、ぁっ……」
穴に埋まっていく猛々しい肉棒。カリ高チンポの亀頭が穴の中に完全に隠れると、竿が後に続く。鍛えられているおかげで締まりのいい膣圧を浴びせているようで、ビキッ、ビキッと苛立つように血管を浮き上がらせる竿が硬さを増した。
「ぉおおっ、んぉぉっ」
熱せられた棒を体の内側に入れられている。男の興奮によってチンポが震えるのを敏感に察知しながら、膣内がチンポの形を覚えていく。かつて夫を受け入れ、祭里を産み落とした穴の中で再び雌の悦びが駆け巡る。
「ひぃん、ぁあっ、あぁあああっ、んっ、ぁ、はぁあっ……」
纏は歓喜した。久方ぶりの男。それも若く、優秀な雄だ。
風巻家の後継者として祭里を産んだことで、確かにそのときは女として一つのゴールを迎えたはずだった。だが、それは自分を偽っていたに過ぎない。纏の中でまだ女の部分は生きていた。男との交わりが呼び水となって熱が孕む。
「チンポっ、あぁ、熱いぃ、中、掻き回してぇ、あぁっ、んぁぁっ!」
纏が両手足を男の体に巻き付け、交わりを深めていく。
「ひっ、ひひっ、はははっ……!」
男が声を上げながら纏を食い漁る。腰を引いてエラで膣肉を引っ掻き、一気に沈めて奥まで差し込む。穴よりも大きな肉棒が自身の大きさを覚え込ませていく。絡みつく大量の愛液にも負けない濃い我慢汁を尿道から撒き散らし、臭いを刻みつける。
「んぉぉっ、おぉっ、あぁっ、はぁぁっ、あんっ、あんっ、あんっ……!?」
とんっ、とんっ、と子宮口を亀頭で突かれる。弄ぶように執拗に。
男が腰を振るごとに、纏の中で心境が変化していく。
纏の中にあった男に対する親愛度。それが尋常ではない速度で跳ね上がっていく。いかに膣穴を乱暴に穿られても下がることはない。男の両手で乳房を掴まれ、ぎゅうぅっと玩具で遊ぶように揉み潰されても嫌いになれない。
「はぁっ、ぁぁっ、好きよっ、あぁ、これ、本当に、好きぃっ……!」
男に対する好意を、交尾に対する好意だと誤魔化して、好きという言葉を連呼する。それを知ってか知らずか、男は腰遣いを速める。チンポだろうと男自身だろうと、纏のような雌に好きだと言われて昂りを抑えられなかったようだ。
かつての夫との交尾も、子を産んだことも忘れて、一人の雌として纏は男を愛した。
男に対する好感度はやがて、家族の誰よりも高くなった。それでもなお上昇を止めずに纏の脳を汚染する。二度と歯向かえないように。人妖である男の命令を忠実に守って、人間を裏切っても心を痛めない最悪な雌になれるように。
「っ、あっ、おらっ、人妖の子を孕めぇっ! 纏!」
「んああああぁぁああああぁあ!?」
雄が精を放ち、雌がそれを奥の奥で受け止める。
男の両手で操縦桿のように粗雑に胸を鷲掴みにされながら、纏は激しく絶頂した。意識が爆ぜるような快楽と、電流のように駆け巡る幸福。手放しそうになった意識は即座に現実へ引き上げられて、また快楽に沈められる。
人間の雌である子宮に、人妖の雄である子種汁が詰め込まれる。粘々ぷりぷりのザーメンゼリーが席捲して内部を白濁に満たす。逃げ場などない。絶対に孕む。そう思わせるような種付けによって、人間を遥かに凌駕する数十億の精子が纏の中で泳ぎ始める。
「孕め、孕んじまえっ……!」
呪いを掛けるように欲望を声に乗せる。
長すぎる射精によって纏の胎が膨らみ、実際に子を宿したかのようにボテ腹を形成する。子宮に押し込まれた精液はあまりの粘着性に逆流すらせず、その種付け能力を最大限に発揮して纏を犯すことに成功した。
それは当然の結果を生み出した。
「ぁっ……」
何かを察したように纏が体を跳ねさせた。
それは偶然か、それとも雌の本能が何かを察知したのか。
ちょうどそのとき、纏の卵管にて排出されていた卵子を取り囲んでいた精子の軍勢の一匹が、卵子と結びついていた。人妖のおたまじゃくしが人間の卵子に食らいついて離れようとしない。
授精完了。
しかし、さすがの男もその結果を知ることはできないようだった。
「朝まで寝かさねぇからな」
交尾は続く。男の尽きない欲望を正面から叩きつけられる。
纏の中にあった雌の部分は、若い人妖にしゃぶりつくされることになった。
眠らない東京の夜を越え、多くの店の灯りが消え、やがて空が白み出して眠っていた者たちが起きるまで。休むことなく抱かれた纏は数え切れない絶頂を体験し、雄汁を浴びて、洪水のように襲いくる快楽に揉まれた。
そして、解放のときが来た。
「はぁー、食った食った……」
ベッドで胡坐を掻き、人心地ついて息を吐く男。その股ではまだ勃起しているが、金玉からだいぶ精子を吐いて大人しくなった肉棒があった。あらゆる体液に塗れてぐちゃぐちゃに汚れたそれは、混ざり合った雄の雌の臭いを放つ。
だが、それよりも濃い雄の臭いを、ベッドで仰向けになる纏の全身が発していた。
髪の毛から足先まで。白濁に彩られた纏の体。膣内射精のみならず、男は纏の体にマーキングをするかのように精液を叩きつけたのだ。そのおかげで男の臭いを知らない場所は殆ど存在せず、息をするだけで男の臭いを嗅ぐことになった。
「はーっ……はーっ……はーっ……」
男によるキスマークの残る乳房を呼吸で上下させながら、纏は膣から溢れ出る精液に心を向けていた。だいぶ前に出されたものでも熱を残し、温められた膣からゆっくりと垂れ出て行く子種汁。それを勿体ないと思いながらも、纏は表情を和らげる。
出て行ってしまった分だけ、また詰め込んでもらわないと。
男と交尾をすることがもう、纏の中では当たり前になっていた。
もう男なしでは生きられない。だって、家族より大切な存在なのだから。
男と愛し合うためならば、纏はどんなことでもするつもりでいた。たとえそれが人の道理を外れた行いであろうと。大切だった家族を裏切ることであろうと構わない。男が望んだことが纏にとっての正しい行いだった。
「じゃあ、纏。そろそろ契約結ぼうぜ?」
纏の胸をクッションにして尻を乗せた男が、チンポを突き出しながら言った。
「契、約……」
「ああ、寿命に限りがある人間のお前では、俺といつまでも一緒にはいられない。だから、お前が俺の妻であり続けるためには人間の殻を破らないといけない。言っている意味、わかるか? つまりこういうことだ」
男はズイッと腰を前に出し、纏の唇に亀頭を近づける。あと少しで触れるかどうかという距離感。だが、これ以上男が腰を動かさないのであれば、纏の唇が亀頭に触れることはないだろう。
「人間のお前が人妖になれ。そうすればずっと傍にいられるぞ?」
言われたことが一瞬理解できなかった。
人間が人妖に。そんなことが可能なのか。聞いたことがない。
いや、この男ならば可能なのかもしれない。自分を返り討ちにし、堕としてしまった男ならば。この男が自分に対して嘘をつくはずがない。だって、こんなにも男を愛し、愛されているのだから。
愛する男の傍にいたい。
「人間、やめちまえ」
彼がそれを望むのなら、そうするべきだ。
迷いはない。人間としての立場も、大切な家族も捨て去って、雌として堕ちる。
それが、私にとっての最大の幸福。
纏は表情に笑みを結ぶ。暗い欲望を湛えた、妖艶な笑みを。
「ん、ちゅっ……」
纏は顔を持ち上げ、男の亀頭に口づけを放った。
「契約完了だ」
男は表情を狂喜に染めて、纏に手を伸ばし、頭を掴んだ。
「ぁ、ぁあっ……!?」
直後、纏は全身に異変を感じた。肉体の内部から作り変えられるような強烈な違和感。人間という種から別の存在に変わっていくという未知なる体験。
その状況下でも、纏は全く不安ではなかった。
愛する男の前で、愛する男と同じ種に生まれ変わる。
喜びで心を満たし、纏は人間の殻を破って、人妖の境界に踏み入った。
すると、徐々に纏の容姿に変化が現れた。
黒かった髪は脱色し、白へと変わる。
対して、色白い肌は小麦色に変色した。
瞳の色が妖しい紫色を湛える。
纏の下腹部に、悪意に染まった子宮をイメージした禍々しい紋様が刻まれる。
そして最後に、人間の纏にはなかったはずの、黒い尻尾と黒い翼が出現する。
「これ、すごい……」
人間が持つはずのない力、妖力が内側から感じられる。それは先ほどまでの纏程度の相手ならば容易く一捻りにできるものだった。
しかし、それだけの力を得ても、纏の胸に座り込む男の力の底が見えない。
これほどの人妖が、いったいどこから。
纏は男の出自に対して疑問を抱くが、もはやそれについて一考する意味はなかった。
生まれや、これまでの過程など知る必要はない。
ここに男がいて、傍に纏がいる。それでいい。
「ぁん……」
男が立ち上がってしまった。もう少し尻で胸を押し潰してほしかったが、男はどうやら別の交わりを求めているようだ。ベッドで仰向けになると、纏に視線を送りながら自身の股間を指差している。
その意味がわからない纏ではない。
纏はぺろりと唇を舐め、口端を緩やかに持ち上げた。
「失礼するわね?」
起き上がった纏は男の股間に跨ると、迷いなく腰を沈めた。既にヤル気を取り戻していた勃起チンポへと膣口を宛がい、体重に任せて座り込んでいく。
「ふぁあっ……!」
人妖として生まれ変わった女体の内側で、そのきっかけをくれた愛しい男の生殖棒を咥え込む。まだ精液の大半が胎を埋め尽くしているために丸々と膨らんだボテ腹と、ズッシリとした重みのある綺麗な形をした乳房を弾ませた。
「ひひっ……。なんてエロい体だ。人妖になって見た目がここまで変わったのは俺の趣味が反映されているからか? まるでサキュバスみてぇだな」
男が纏の太腿に右手を置き、褐色に染まる肌を撫でる。左手は纏の胸をガッと勢いよく掴み、乳肉に指を沈めてもにゅもにゅと柔らかさを確かめている。それだけで膣内でチンポを震わせる男が可愛らしくて、纏の腰は勝手に動いた。
「はははっ、我慢できねぇよな? いいぜ、たっぷり味わえよ」
「ええ、それじゃあ遠慮なく。妻として、愛するあなたのために、この生まれ変わった体でご奉仕するわね? それで、子種でいっぱいの子宮に、あなたの新鮮な精子を頂戴? 確実に孕めるように。孕んでいても、快楽を得るためだけにどぴゅどぴゅ~ってお射精してしまいましょうね?」
纏は男の両手を掴んで指を絡め、前屈みになって尻を上下に振り動かす。
パンッ! パンッ! パンッ!
種を絞り取る気満々の激しいピストン。訪れた朝に相応しくない淫靡な音が響き続けた。
人間や祓忍を軽々と超越する力を有する最悪の人妖。その雌雄が交わり合い、子作りに励む。人を苦しめ、弄び、快楽に狂えるような立派な人妖を。自分と一緒に愛しい男にご奉仕できる優秀な雌をこの世に誕生させるために。
「あはぁっ! あんっ! あぁっ! ふふっ! あはははっ!」
嬉しくて堪らない。交わっているだけでこんなに心が満たされるなんて。
この喜びを誰かに共有したい。自分一人では勿体ないとさえ思えてくる。
そう考えた纏が真っ先に思い浮べたのは、故郷にいる娘の祭里。女へと性別が変わってしまった元息子だった。今の祭里は若い頃の纏によく似た容姿をしていて、体付きも非常に将来性を感じさせる。纏の種絞りピストンを気持ちよさそうに受けてくれる男ならば、きっと祭里のことも気に入ってくれるだろう。
「ねえ、私から提案してもいいかしら……?」
男の両手を握って尻を動かしたまま、纏は男に向かって囁くように告げる。
「私の娘を、私と同じようにあなたの妻にしてくれないかしら? あなたのチンポで屈服させて、人妖に作り変えて、あなたの子供を孕ませるの。妻が多ければ多いほど優秀な人妖が揃うのだから、悪い話ではないと思うわよ?」
祭里に許可なく、娘の処遇を決める纏。母親として最悪極まりないのだが、纏自身はそうは思っていない。祭里を男の妻にすることは、男側だけでなく祭里にも利点がある。自分が感じているこの幸福を得られるのだから、人間であり続けるより幸せに決まっている。
「それ、最高……」
「決まりね……。とても楽しみだわ……」
「他にもいろいろな女を堕としてみるか。チンポが乾く暇のないハーレムを作ってやる」
「それがあなたの望みなら。必ず叶えてみせるわ」
夫の望みは自分の望み。夫の幸せは自分の幸せ。
堕ちるところまで堕ちた纏は今後の計画を立てながらニヤニヤと笑い、手繋ぎ騎乗位で男の精を搾り続けた。どぷんっ、どぷんっと幾度となく胎に流れ込む精液。これまで子宮で貯蔵したギトギト精液によって腹は出産間近同然に膨らみ、下腹に刻まれた淫紋は嬉しそうに明滅を繰り返していた。