※この作品はR-18です。

ニグリュさんは憂鬱   作:霧里

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なんて恐ろしい

「聞けぃ悪漢どもっ!! 貴様らの悪行、たとえ天が許しても、このニャルタンが許さない。即刻島から立ち去るか、さもなくばこの剣の錆にしてくれようぞっ!!」

 

森を抜け、視界が開け、小高い丘の上から見たその光景を一言で表すならなんとも間抜けだった。檻に囚われているのはモンスターやら、モンスター娘やら、そこに屯している人間たちは間違いなく密猟者で、絶海の孤島ゲシュペンス島と言う割には人の出入りは結構あった

 

「許すんですか、美辞麗句様は?」

「許しませんよ。ヴィヴィヴァーチェですから」

「悪漢って、女の人も混じってますが?」

「「共」ですからね、そちらに含まれているのでしょう」

「なるほど、勉強になります」

 

その光景を一言で表すなら何とも間抜けだった。急いで連れてこられた割に、そんなしょうもない話をする余裕があるのなら私は帰って良いのでないと? 思わずため息を吐いてしまう程には気が抜けていて、そっちを見ないようにしても、わざわざ悪漢共の正面から堂々と名乗りを上げるケット・シー娘の気がしれないのもある

 

「それで、ご主人くん。私はどうすればいいのさ?」

 

と、聞いた所で私に出来ることは多くない。一つに、ケット・シー娘を援護するにしろ、一つに、捕まっているモンスター娘たちを助け出すにしろ、細かい事が苦手な私に出来る事なんて、さっさと悪漢共を制圧する事くらいだろう

 

「あ、はい。えーっと、弓が得意なんですね、二グリュさんは」

「んや。弓っていうか、私が得意なのは…」

 

構えた大型の弓に矢を番える。狙いはそう…丁度ケット・シー娘の後ろに回ろうとしている奴でいいか。引き絞った鏃に念を込め、びゅっと放った先端は紫色の尾を引いて悪漢の足を貫いていた

 

「うわっ、凄いですニグリュさん当たりましたよ、吸い込まれるみたいでしたねっ」

 

なんか喜んでる、可愛い。美少年から素直に受ける称賛はそれはそれでくすぐったく、不意に崩れそうになる表情を押さえつけながら、続いて2発、続けて3発、重ねて6発と、ケット・シー娘の晒した隙を埋めるように、次々と矢を打ち込んでいった

 

「あ、でも二グリュさん。あまり、やり過ぎないようにして欲しいです」

「なにそれ? 敵の心配?」

「違います。いえ、無いとは言いませんが。復讐とか、恨みつらみって、色々怖いですから」

「立つ鳥跡を濁さずです。殺すなら証拠を残すなって事ですね、ご主人様」

「言ってませんよっ!? 違いますからねっ、二グリュさん…」

「あーごめん。それなら、矢を打つ前に言ってほしかったかな?」

「へ?」

 

手の甲、肩、太もも、背中、二グリュが放った矢は悪漢共には痛手ではあったが、致命傷と言うほどではなかった。それは単に、彼女の腕が悪いというわけではなく、別段何処にあたっても問題は無いからだった

 

「うぐっ!? うぉっ…あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

一人だった。二グリュの矢を受けた一人が喉を押さえ、声を上げて苦しみだす。泡を吹き、白目をむき、胸を掻き毟ってその場にハタと倒れ込んでしまった。続いて2人、続けて3人、次々と矢を受けた悪漢たちは悶絶し、その場に倒れて藻掻き苦しみだす

 

「へ? え? 二グリュさん!? 何をしたんですかっ」

「何って。私が得意なのはね…弓なんかじゃなくってさ…」

「カトブレパス。その目を直視すると即死してしまうというモンスターですね。彼女はその力を矢に乗せているんですよ」

「えっと…つまり?」

 

それで、おおよそ察しはついているんだろう。まだ物分りの悪い振りをする彼に対して、ビビ神はいかにも悪い大人が好くような笑顔を向けていた

 

「呪い殺すのですよ~、それはもう恐ろしい死に方を」

「ひ、ひぇっ…」

 

そんなマスコットみたいな容姿で凄まれても、怖いどころか可愛いくらいだけど、ビビ様の悪戯はそれなりに効果は合ったようで、呪いという言葉も手伝ったのか、彼の顔が青ざめていった

 

「あの…二グリュさん? もう少し、加減は効かないでしょうか? 動けなくなるくらいで良いんですけど」

「まあ、大丈夫じゃない。命に別状はないと思う…多分」

「多分って…。え、な、何をやっているんですか…彼らは」

 

その時、彼が見たものは何だったのだろう。筋骨隆々とした男たちが組んず解れずと絡まり合い

 

「な、なんですか…あれは、何処に、何が入ってるんですか…」

「お尻ですねぇ。お尻にナニが入ってるんですよ」

 

かと思えば、急に服を脱ぎだした女性冒険者が、艶やかな声を上げてその場でのたうち始める始末

 

「な、なんであの人は急に、一人でエンジョイしてるんですかっ」

「どうしてでしょう? 感度が3000倍位になってるのでは?」

「3000って死んじゃいますよっ!?」

「意外と平気そうですね♪」

「二グリュさんの呪いって一体どういう…」

「それはもう、相手を社会的に抹殺する呪いです♪」

「なんて恐ろしい…」

 

驚く彼と、面白がって からかうビビ様。自分の能力が何か誤解されている気もするが、訂正するのも面倒だと黙っているニグリュ。その間中、辺り一面そこらから「んほぉぉっ」だとか「おほぉぉっ」だとか、まあ概ねエロ同人みたいな有様で悪漢共は倒れ伏す。あるものは近くの影に飛び込み、またあるものはその場で自分を慰めだすか、味方に襲いかかるまでする始末。もはや戦場の空気はそこにはなく、ニャルタンに群がっていた悪漢たちも発狂する仲間を見捨てて散り散りに逃げ去っていった。そうして、逃げ帰った先で語られる痴態は、間違いなく彼らを社会的に抹殺するであろう

 

「ニャルタンさんっ、無事ですかっ!」

「おーご主人。助かったにゃーっ」

 

戦闘が終わると彼は一目散にケット・シー娘の元に駆け寄っていった。遠のく背中が少し寂しくも思うけど、そんなんじゃ私がまるで面倒くさい女みたいで、ていうかこれ以上の厄介事も御免で、二グリュは気づかれないようにと来た道を戻り始めていた

 

「おや、良いのですか? ご主人様に何も言わず」

「もう、良いでしょ。頼まれごとは終わったんだからさ」

「そうですが。いえ、少し残念そうに見えましたので」

「いいよ、別に。やっと静かになるんだから」

 

ビビ神に後を任せた去り際に、ちらりと横目で彼に視線を向ける。陽気で明るく笑顔の絶えないケット・シー娘。彼女と戯れている彼の姿はいかにも楽しそうで、私みたいな陰気な女が邪魔をするのは憚られた。意味のない自虐だなとは思う。面倒くさいといつものように割り切ってしまえば良い。こんな、少しだけの胸を染める感覚なんて、なにかの気の迷いで、風に吹かれたら消えてしまう程度のものなんだから

 

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