※この作品はR-18です。

ニグリュさんは憂鬱   作:霧里

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ニグリュさんは憂鬱

静かな森の湖畔。柔らかな木漏れ日と、心地よい風が吹くこの場所は、二グリュのお気入りの場所の一つだった。暖かな陽気に包まれながら、優しい風に流される。例えばそう、タンポポの綿毛にみたいに ふわぁっとして、そのまま溶けるように消えてなくなれたなら、それは存外と幸せなことじゃないのかと…。そんな妄想を枕にしながら うたた寝をしていると

 

こてん…

 

肩に寄りかかってくる感触があった。柔らかくて、温かくて、ちょうど子供一人分くらいの重さ。払い除けるほどでもない。小鳥なんかの小動物たちが、角に止まってたり、隣で丸まってたりと思えば、そんな程度は慣れたもので、むしろ心地が良いくらいではあった

 

うつら、うつらと、起きてもなく寝ても居ない。ぼんやりしてて、ぼぅっとしていて、気がつけば肩が軽くなっていて。何処かに行ったのだろうか? なんとなしにそう思っていると、今度は太ももの上、ちょうど猫が膝の上で丸まっているような心地に気付かされる

 

身じろぎ一つ。すぅ…すぅ…と、心地よさそうな寝息に肌をくすぐられ、そのこそばゆさがたまらず、二グリュの寝ぼけ眼がゆっくりと開いていった

 

「ご主人…くん?」

 

なんでココにいるんだろう? だって、あの後私は勝手に帰ってしまって…そもそもケット・シー娘と仲良さそうにしていたはずだし。別に私に構う理由なんてこの子には無いはずなんだけど。それとも、また密猟者でもでたのだろうか? いやいや、それならなんでこんなとこで寝てんのさって話だし

 

考えても埒は開かなかった。そりゃそうだ、そもそも自分は答えを持っていないし、その予想が出来るほど この子と仲が良いわけでもない。知りたければ起こすしか無いけれど、起こした所で面倒事が増えるのは少しやだ。それに、この子を前にして、少し浮ついてしまう自分の心持ちも奇妙なものだ

 

モヤモヤする、ムズムズする

 

知らない鼓動のリズムが胸を叩く。悪い気はしないけれど、それが余計に分からない。どうすれば落ち着いてくれるのか、いったいいつもと何がそんなに違うのか。ただ、自分の膝の上で寝息を立てている彼の姿が愛らしくって、気づけば猫を撫でるみたいな面持ちでニグリュは彼の頭を撫でていた

 

「ん…ん、へ、あっ。あぁ…おは、ようございます、二グリュ…さん」

「ん、おはよ。ご主人くん」

 

ぼんやりしていて、ぼぅっとしていて。ぱっとご主人くんの目が開いたかと思えば、恥ずかしそうに視線を逸らされる。まぁ、いつの間にか人の膝の上で寝入っていて、頭まで撫でられていたんじゃ誰だって恥ずかしくはなるとは思うけど

 

「ご、ごめんなさい…すぐに退きますから」

「いいよ別に、このままでも。君一人くらい、なんともないって」

 

体を起こそうとした彼のおでこを抑えて、膝の上へと寝かしつけた。最初は居心地悪そうにして見えたけど、その内に慣れてくれたのか、次第に固さが抜けてくると、されるがままに頭を撫でさせてくれる

 

「んで? なにしてんの、こんなとこでさ?」

「えと、だって…お礼まだでしたから」

「お礼って…あぁ、そんなこと」

 

律儀だなぁと思う。むしろ、こっちから勝手に帰ったのだから、それ以上がなくても誰も何もは言わないだろうに

 

「そんな事なんかじゃっ。二グリュさんのお陰で、ニャルタンさんも他の皆さんも助かったんですから、本当にありがとうございました」

 

その一瞬。さっきまで恥ずかしそうにしていた彼の視線が私を見上げてくる。庇護欲、なんだろうか? そんなんを愛情みたいに言い訳てさ。下から見上げられて、子供ながらに強い意志と視線が二グリュの心をくすぐってくる

 

心臓がまた、変な鼓動を刻みだす

 

モヤモヤして、ムズムズして、少し…ドキドキしていた

 

「ふふっ、かっこいい事言うんだね。私の膝の上じゃなければだけど」

「うっ…それは、そう、ですね。あははっ…」

 

言われて思い出したのか、彼の頬が赤みを増し、見上げてきた視線も弱まってくると、ふいっと逸らされてしまう

 

「もしかしてさ、ビビ様に言われたこと気にしてんの? カトブレパス、私の目を見たら死んじゃうってさ」

「違います、違います…って、これは、その…そういうんじゃなくって」

「じゃあなに? 違うって言うならちゃんとこっち見て?」

「うっ」

 

何やってんだろって自分でも思う。嗜虐心…は言い過ぎか。けれども、露骨に頬を染め、視線をそらした 彼の事をからいかいたい程度の悪戯心は芽生えていた。私の手が冷えていたのか、それだけ彼の頬が熱くなっていたのか、温かくて、冷たくって、両手で挟んだ彼の頬から、お互いの体温が行き交っていくのが分かる。そのまま強引に、カチカチに固まる彼の顔をこっちに向けさせ、それでも逃げようとする彼の視界を塞ぐように顔を近づけていく

 

「流石にさぁ。傷つくんだけど…そんなに怖い? 私って…」

 

まぁ、ぶっきらぼうで愛想もない。不器用な自覚はあるし、あのケット・シー娘と比べれば尚更だ。それでもさ、ぎゅっと瞼を閉じてまで視界から追い出さられると、流石にどうして良いか分からなくはなっていた。そもそも、お礼を言いに来て、お礼は言い終わっているのだから、これ以上彼を引き止めている私も悪いのかとさえ思う

 

ため息を一つ。頬を捕まえていた両手を離して彼を解放する。心臓の音に踊らされた自分が悪いと思えばまあ、少し恥ずかしくも合った。やっぱり慣れないことはするものじゃないと諦めも付いた頃、ふと彼が呟いた言葉はあんまりにも卑怯だった

 

「だって、二グリュさんがあんまり綺麗だから…」

 

それからしばらく二人して黙りこくっていた。不意打ちのような彼の告白に思考が止まり、止まったままで動き出せなくなっていた。仏頂面だ、うつむき加減の仏頂面。いつもの様にそうしていれば良いものを、何故か口の端は持ち上がりそうになるし、視線が泳いで仕方がない。目まぐるしく変わる視界に酔ったのか、だんだんと顔が熱くもなってくる

 

「そ、そうですっ。お礼ですよ、お礼。何か僕に出来ることはありませんか?」

 

随分と慌てた口調だった。この空気に耐えかねたっていうのならそれはお互い様だったらしい。しかし、その提案はまったくの無邪気で、無防備だった。「なんでもしますよ?」それを聞いた二グリュですら、何か良からぬことを提案しそうになる

 

「そういうの、誰にでも言ってるわけ?」

「誰にでも? ええ、まあ…助けてもらったのなら、お礼はしたいですし?」

「んで、その後ってどうなったの?」

「どうって…そりゃ皆さん色々と…あ、いえ…」

 

そこで思い当たる節があったんだろう。それが一つか二つ、もっとなのかまでは分からないが。自分の言葉の迂闊さを学習するくらいの回数があった事は容易に想像がついた

 

「ち、違うんですよニグリュさん…。僕は別に、そういうのを期待していたわけじゃなくって…」

「露骨な言い訳ってさ、肯定とおなじに聞こえるよね」

「うっ、ごめんなさい…。あの、そういう事以外でも、全然大丈夫なのでもちろん」

「ふふっ…♪」

 

思わず笑みを零したことに、自分で驚いてしまった。意気消沈と、羞恥心に身悶える彼の姿に、鼓動の音が隠せなくなりそうだった。聞き慣れない心臓の音。モヤモヤも、ムズムズも、ドキドキも。結局、私が彼に好意的な感情を抱いていた以外に無いもんだった。胸のトキメキを、その慣れない感情に戸惑っていただけだったんだ

 

あ、美少年だ、えっちしよ…

 

割りと貞操観念の緩いこの島では、割りと珍しくもない話し。今だって、そうはならんだろって思うけど、自分がそうなるなんて思ってもいないけど、一つ確かめてみたいことはあった

 

「じゃあさ? 目、閉じてくれる?」

「目、ですか? 良いですけど…何を?」

「君が期待してること」

「し、してませんよそんな、からかわないで下さいニグリュさ…んっ!?」

 

慌てる彼の唇を掻っ攫い、私は私の唇を重ねてみた。可愛いなぁっと不意に浮かんだ言葉が答えだった。ドキンっと鼓動が強く胸を打ち、妙なくすぐったさが全身に満ちてくる。あ、美少年だ、えっちしよ…そうはならんだろ、そうはならなかったけど。初めて抱いた恋心は、憂鬱が積もる二グリュの心に小さな花を咲かせていた

 

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