物語は動き出す
それは、物語の冒頭だったのだろう。けれどこの時の私は気付かなかった。
物語が動き出した事に。いくつもあるルートのひとつに辿り着いたという事実に……気付けてはいなかったのだ。
いつものように豪華客船に紛れ込み、そこを襲う海賊船に飛び移るようにして盗みに入り、宝を手にして逃げる時、騒がしくなったのは幸運だと思っただけだったの。そこで得たのは宝と情報。
バギーはシャンクスの同期であり、
偉大なる航路の入口で襲えば、それなり以上に稼げるだろうと暗い笑みを浮かべた私は、悪くないと思う。拠点としては、ラブーンの所でお世話になれたら最高だけどね。
そんな事を考えながらも、相手はシャンクスの同期で、恐らくはライバルだった筈の男となれば不安にもなる。無事に盗めるのか……いや、盗まなくてはと、決意も新たに船で進む。
その途中でバギーの居場所を知る為に人のいる島を目指したのは、私が少しだけちゃんと寝たいと思ってしまったのも理由としては大きい。強くて厄介な相手だとするなら、クリマタクトで姿を消す程度では盗むのが難しくなるかも知れないもの。
実際、今の戦い方を知らないだろう赤髪海賊団の人達相手なら、私は何も盗めないだろう。彼等は見聞色の覇気が使えるから。
正直クリマタクトの力で姿を消しても、見聞色の覇気があるなら無駄としか言えない。それでも、目では見えない状態で逃げに特化すれば逃げ切るのは不可能では無いのだから、上手くやるしかないのよね。
体力や体調を万全に整えておきたい。そう思ったのは間違いないけど、やはり情報収集の為にと向かうのは食堂や酒場になってしまう。
カラン……と音を立てて入ったお店で、子供が母親の手伝いをしているのを見れば自然と頬が緩む。何とも微笑ましい。
いつか、ウタとこんな風に穏やかにお店でも開けたら……なんて。そんな夢みたいな事を考えてしまうくらいには、微笑ましい光景。
そうして食事をしていると、海軍の一団が店に入って横暴な事を言い出す。それを困った様子で怯えている親子がいれば、クリマタクトに指をかけてしまうのも当然だと思う。
けれども私が動くより先に動いた人影。それは初めて聞くのに、聞き慣れた声で……思わず息を飲んで魅入られたように見詰めてしまう程に懐かしい。
「偉いのはお前じゃねェだろ」
そう言って嫌そうに顔を歪める麦わら帽子を被ってる少年は、あの頃よりも随分と背が高くなっていた。そのまま話を聞けば、どうやらこれからゾロを仲間にしようとしてる所だと気付く。
海軍を見に行くと騒ぎ飛び出した少年達を見送り、私はバギーが拠点にしていると聞いた島へと船を進める。ここで情報が集まらなければ、海軍に潜り込む予定だったのでそうならなくて良かったと心底思う。
気付かないうちに物語は始まっていたのだと小さく笑って、空の宝箱を設置してから目的地まで半日程度の距離まで船を進めた。すると案の定宝を得た後の帰還者が通りかかるのを見つけて、内心でほくそ笑みながら行き倒れているように見せかけれは簡単に釣れる。
行き倒れの女ってだけでも価値があるのに、それが美少女であり、まだ幼さも残していれば油断と欲望しか相手に与えはしない。水の為に宝を差し出すなんて言われたら、陸地からそれ程離れてないこの海域では、ヨダレものであるのは間違いないのだ。
こうなれば簡単に事は運び、予定通りにバギー海賊団の船員から少し良い船を手に入れると、本拠地を目指した。自分達の船ならば警戒される事も無いと言うのは、考えなくてもわかる事。
待ってなさいよ、私のお宝!!大切に、大切に……皆を助ける資金にしてあげるわっ!
後少しで、皆を解放出来るのだから、泣いている時間も暇も体力も無い!前を向け、進めと震えそうになる自分を叱責する。
そうしなければ、シャンクスに両腕で相手をしてもらった事の無い程度の実力しかない私には、逃げ出したくなってしまう程強大な敵に思えているのだ。それでも私は、バギー海賊団を目指すしかない。
本気で忘れていた出逢い……いや、一方的に見るのではないちゃんとした再会が、そこにあるなんて事は知らないままに。運命は描かれている所に既に到達していて、これは避けられないものだったのかもしれない……とは、後に思う事である。
今の私はウタを守る必要は無い。カリーナを庇う必要も無いの。
だから、侵入するのは容易く、そして……そんな現実が少し切ない。そんな感傷に浸る余裕は無いのに、壊れた町並みを見るだけでウタを思い出して、海賊を見るだけで庇ってくれたカリーナを思い出してしまう。
宝の地図を手にして逃げようとした時、想定よりも早くバギー海賊団のメンバーに部屋に入られてしまい、湿度等の計算が追い付かなくて……でも、できるだけ傷付けたくないとか考えた為に、逃げ回るしかなくなってしまった。それでもどうにか姿を隠そうと努力するけど、距離が近過ぎて上手く隠れられない。
ただ走って逃げるのではなく、剃を使えば逃げ切れるけど……この街並みの中で人の姿がない今、何が仕掛けられてるかも分からないから無謀な事はできないのだ。単純な脚力勝負となれば、体力面も考慮した時不安と恐怖が顔を出す。
逃げ出す事の困難さに多少の焦りを感じるけど、まだバギー本人と会っていないのだからどうにでもなる筈。バギー相手でなければ、いざとなれば戦えない訳でもないのだから。
どうにか呼吸を落ち着かせられたら……。でも、今はそんな余裕は無いし、時間を作れそうもないわね。
クリマタクトを使う余裕さえあれば、なんとでもなるのに。本当に……執拗いんだからっ!
その時、空から降ってきた人影に、呼吸を忘れて、動きも止めて私は見つめてしまう。つい最近見たばかりだけど、まじまじ見てみるとやっぱり大きくなったなぁとか、麦藁帽子が似合うなぁとか、元気そうだなぁとか、色々な言葉が頭を巡り、最終的に懐かしいと思って眼を細めてしまうのは変えられない。
「ルフィ、空を飛べるようになったの?」
「違ェよ!落ちただけだ!って、え?……まさか、ナミ、か?」
思わず呟くように声を掛けた私に、咄嗟的に返した後放心したような様子を見せた少年に手を伸ばしそうになる。それを断腸の思いで耐えるしかない事を、すんでのところで思い出す。
駄目よ、ここで関わったら……。ルフィは、私から離れようとはしないだろうし、昔と違って保護者は近くにいないのだから、ルフィを危険に晒せないし、迷惑もかけられないなら離れるしかない。
もう少しで終わるんだから……。今は、別れなきゃ。
巻き込めない。巻き込みたくないの。
大切な、愛しい弟。私の、温かな優しい思い出。
私はルフィを振り切るようにその場を駆け出して、突然駆け出した私と降ってきたルフィとを見比べた男達が戸惑っている間に、私はミラージュテンポで姿を消す。驚いた表情で固まるルフィと海賊達を私は眺めつつ、呼吸を整えていく。
戦いの中で動揺する事や相手を見失う事は、死に直結する。私はそれを利用して、生命を奪うのではなく、逃げる事や休む事、盗む事に費やす。
だからこそ、私は今まで生き延びて来られた。私は、傷付ける事を恐れる弱い存在なのだと、実感させられるばかり。
目の前にある現実に意識を戻すとルフィが乱闘状態に陥っていたけど、ルフィがこいつらにやられるとは思えないし、ゴムだから殴られても痛みは無い筈。だけど、三兄弟揃って船長希望だったからなのか、当然のようにここに兄達は居ない。
だからこそ、万が一の時は助けられるようにクリマタクトを構えて様子を見てるんだけど、私の仲間だと思われているのに、ルフィは海賊を無視して私を探し始めた。真剣な顔で探してくれてるルフィには悪いけど……逃げるか戦うかして欲しいのが正直な意見です。
そんな事を考えてる間にも、海賊達はルフィに攻撃を仕掛けていく。そんな状態にあるのに、ルフィは器用に攻撃を躱しながら私の名を呼びつつ、辺りを探し続ける。
そんな姿に、前みたいにすぐには泣かなくなったんだな……と、感心していたら、ルフィが小さく何かを呟く。その表情は暗く、今から飛び降りますって言われたら信じてしまいそうな程。
「ナミに会いたすぎて、夢でも見たのかな……」
やっと聞き取れたその声に、言葉に、息を飲む。傷つけたい訳では無いし、懐かしさを理由にそう思ってくれたのなら嬉しい限り。
けれどもそんなに隙だらけでは危ないからと、声を掛けるか悩んだ隙に海賊がルフィの帽子を弾き飛ばした。それによりルフィは一気に攻撃モードに切り替わり、漸く戦い始めたので、帽子を回収しておく事にする。
戦いが終わったら返してあげようと小さく笑って、帽子を見てみれば昔シャンクスがルフィに渡す為に、私に付けさせた筈の紐が無くなっていて、こりゃ付け直してあげなきゃかなと思ってる間に戦いが終わった。戦いの終了と同時に帽子と私を探す声が響いて、私は姿を現すとルフィの頭に帽子を被せる。
関わらない事を決めた筈なのに、ルフィの声に、私は逆らえなかった。どうしたって私には、ルフィが可愛いのだ。
「ナミ!!」
嬉しそうに笑うルフィに頬が緩む。帽子も返したし、ここを早く去らないといけないのに、少しだけ……話をしたいと思ってしまう。
この愛しさは、主人公だからだろうか。それとも、やはり共に過ごした幼少期が影響しているのかな。
これを伝えずに、どうしたら会話を続けられるだろう。そう考えて、口から飛び出したのは自分でも想定外の言葉。
「……紐、どうしたの?」
「ああ、切れちまってって……何で紐付いてたの知ってんだ?」
不思議そうに問い掛けてくるルフィに、むしろ私の方が疑問を強く持つのは当然の事。だからつい、叱るような口調になってしまうのだ。
見た目は大きくなっていても、私の中では相変わらず泣き虫で問題児な坊やのまま。漫画の主人公なんてのはこんな時には忘れてしまうのも当然だと思う。
「シャンクスに頼まれて、私が紐付けたのよ。ルフィの為だってのは分かってたから、長さも考えて付けたのに……どうしたら紐が無くなるのよ。切れたとかじゃないでしょ。根元から無いもの」
「だから、切れたんだって!アレからやややを。何年たったと思ってんだよ!てか、ナミだよな。ホンモノ、だよな」
そう言って不安そうにするから、私はつい先程の決意を何処かへ投げ捨ててルフィを抱き締めていた。何だってルフィはこんなに可愛いんだろう。
頭を強く抱き締めたら、なぜか髪の毛から肉の匂いがして……変わらないなと思う。ちゃんと焼くくらいはしてくれてるといいのだけどと、内心で半笑いになった時ルフィが胸から顔を上げて疲れたように言った。
「……ああ、ナミだ」
何で判断したのか是非問い質したい気持ちになったけど、今はそれどころじゃ無かったと思い出す。ここでルフィとは上手く別れなきゃ。
今はまだ、私の実力も財力も足りなくて、ウタを迎えにさえ行けないし、ルフィの冒険にも付き合えない。だからと言って、巻き込む事も無理なのだから仕方の無い事。
「ごめんルフィ、私これから用事があるのよ。だからまたね!」
「ナミ、用事ってなんだ?」
離れようとした私の腕を掴み、流れるような動作でルフィが私を抱きしめてそんな風に聞いてくるから、困ってしまう。と言うか、力が強過ぎて抜け出せない。
おかしい。いつも、誰が相手でもちゃんとするりと抜け出せていたのに。
……そうか、ゴムだから隙間が無いんだわ。後、シャンクス達と違って力加減して無い上に、私が逃げると思ってるのか隙が無いのね。
でもそれをそのまま伝えられないし、伝えた事で怪我させたのかと勘違いとかさせて傷付けたくない。この場合、適当に煙に巻いてしまうのが一番よね。
「……強くなったのね」
「おぅ!って違ェ!用事は何かを聞いてんだ!誤魔化すなよな!」
ルフィの言葉に内心で舌打ちする。昔より手強い。
でもそうよね。ルフィだって成長する筈よ。
時は同じだけ進み、幼かったルフィも主人公であるべき年齢になったなら、こんなにも大きくなったのもわかるもの。……あれ?
ルフィ、私と身長差ほぼ無くなってるのね。力だけならもう勝てなさそうだし、驚かされてばかりだわ。
「お仕事よ、お仕事!」
「……ナミは、シャンクスの船にいると思ってた。まさか……見捨てられたのか?」
心底不思議そうに嫌な事を言う。この子、なんか、本当に自由よね。
やや呆れ気味にルフィを見たのは当然だと思う。でもルフィはそんな事に気付いてないのか、気づいてて無視してるのか、特に変なところは無い。
「不吉な事言わないでよ。私は時期が来たから離れただけで、ルフィと別れた直後にシャンクス達とは別れて行動してたのよ」
「なら、ナミ今は一人か?」
「まぁ、そうなるわね。まだやる事があるから、一人のが楽」
私が答えるとルフィはその表情を一瞬歪めた。どうしたのかとルフィの顔を覗き込むと、深い溜息と共に唇が重ねられて、動きと呼吸を止めてしまう。
何が起きたのか分からず硬直する。意識がハッキリしたのは、何秒経過した後だったのか、自分でもよく分からない。
「んぅ!?」
硬直してる隙に、ルフィは当然とでも言うように私の唇を割って、歯列をなぞる様に舌を動かす。それを制止しようとした私は、思わず口を開いてしまい、深くまでその舌の侵入を許してしまう。
抵抗しようと足掻いてみても、ルフィはその拘束を強めるばかりで、身動ぎさえさせて貰えない。頭を振ってみると微かに離れた唇。
けれども息を吸い込む僅かな間離れられただけで、即座にルフィの手が後頭部を押さえて先程よりも深く唇が合わさる。逃げ回る私の舌を器用に絡めとり、強く吸うのは本当にルフィなのかと思わされる程。
ルフィの体温が高くなっているのが、脈が早まっている事が、密着している為にダイレクトに伝わって、そう言えばルフィも年齢的にはそろそろ少年から青年に変わろうと言う時期なのだと思い出す。いつまでも子供だと思い込んでいた私を叱責する為にしては、濃厚過ぎるそれに、けれどもルフィを本気で攻撃なんか出来なくて、結局ルフィが満足するまで唇を貪られる。
唇がちゃんと離れた時にも、なんと言えばいいのか分からなくて……。舌が縺れるような不思議な感覚は、この感情は何だろう。
嬉しくは無い。でも、怒りや悲しみとも違う。
「なにっ……なんっ……!どうして突然……」
「ナミ……言っただろ。ナミは俺のもんだって」
言われて記憶を掘り起こせば、確かに言われた事がある。でも、私はベルメールさんとノジコのものだと、あの時心の中で返した筈よ。
……でもきっと、それを言っても平行線だわ。ルフィは、こうと決めたらなかなか譲らないもの。
「私は、ルフィのものじゃないわ。もう、離して」
「嫌だね!離したらナミ逃げるだろ」
「当然じゃない!私は……!」
言葉の途中で再び重ねられた唇が、吐き出す息を言葉ごと奪う。いい加減にしろとルフィの舌を噛めば、即座に離されるけど、その表情は飢えた獣。
それを見た瞬間、ゾクリと背中に冷たいものが走り、私は渾身の力でルフィを振り払うと、この際敵のただ中でもいいからと思って逃げ出す。何だって私が、ルフィから逃げないといけないのか。
そして、逃げた先には本当にバギーが居て絶望する。本来ならば確か、ここでナミちゃんはルフィを裏切る筈だったと記憶しているわ。
でも、追いかけて来てるルフィを差し出す事は出来ないし、目の前にいるこの海賊らしい海賊に、どうしたら良いのだろうかと思う。でも……と、そんな感じで悩んでる間にも私が何かを行動するより早くバギーが反応した。
「……お前、泥棒猫か」
「何故、そう思ったの?」
通り名のひとつにある事は知ってるわ。でも、私は手配書さえ出回ってはいない。
なのに何故、私だと判断できたのかしら。何も特徴的なところは無いと思うけど。
実際、顔はさすがはヒロインと言いたくなる可愛さだし、鍛えてるから筋肉質でしなやかな身体は細く俊敏。それでも、胸はほぼないにひとしく、今の状態なら髪の色さえ揃えば似てる人は沢山いるわ。
「強気で、若く、美しい女。太陽のような明るい髪は長く、幻のように姿を消す。男達を弄び手玉に取るは正に魔女。けれども捕まえようと手を伸ばせば、引っ掻かれて何もかもを盗まれる。猫のようにしなやかに、素早く逃げ回る為、実力の程は不明」
「……なによ、ソレ」
立て板に水とばかりに語られたのは、予想外の言葉。誰が考えたのかとその肩を掴んで揺さぶりたくなる衝動を必死で抑えた。
さすがに接近戦は不味い。私に力で勝てる可能性は皆無だもの。
「なんだ、本人なのに知らねェのか。泥棒猫を現す言葉だろ」
心底不思議そうに言うバギーに、内心でそんなの聞いた事ないと呟きながらも、笑顔で光栄だわと返せばバギーはニンマリと嗤う。そんな顔を見つめながら、海賊やってる期間も、その心意気も何もかもが上の相手から、どうやって宝を掠め取って逃げ出すかと考える。
相手はシャンクスの同期。油断したり甘く見たりしていい相手じゃないわ。
その時追い付いたルフィが、私が囚われてると勘違いして暴れ出して戦闘開始となれば、私もこの展開は予想外過ぎてどうしたら良いのかと頭を抱えたくなる。その時バギーの腕が伸びてきて、咄嗟に躱せばバギーは本当に猫の様だなと言って笑う。
声は最高に良いのに、その言葉を聞いた途端に腕にサブイボが出たのは何故なのか。嫌だ、この視線は嫌だと、本能的に逃げ回る。
この場は一旦撤退して、また盗りに来るのが肝要か。でも、その隙をどうやって作るかよね。
バギー以外なら、倒せない相手では無い。明らかにシャンクスのところのメンバーよりは弱いから、戦い方次第だけど切り抜けられる。
問題は、シャンクスと同期なのにその実力が読めないバギー。シャンクスと同格の実力者だとしたら、私にはまだ逆立ちしたって勝てやしない。
「良いな、その顔」
そう言って笑うバギーはしっかり悪人面で、考えを読まれて居るのかと顔を顰めてしまう。それを見てバギーは剣を突き出してくるから、咄嗟に足から短剣を引き抜いて応戦する。
そんな私にバギーは嫌そうな顔をした。海賊に関わる女が足に剣を隠すのは常套手段の筈なのに。
「その剣筋……嫌な奴を思い出すな」
「そうでしょうね……。多分、その嫌な奴と私は深い関係よ」
そんな風に挑発してみた瞬間、ルフィが何故か殺気立立てるのが伝わって来たけど、今は気にしてる場合じゃないので、バギーとのやり取りに集中していたら他の海賊からの攻撃で追い込まれてしまう。なんと言っても彼等には船長であるバギーごと切って問題無いから、こちらから見た時想定外の剣が襲ってくると言う問題がある。
元々剣士ではないから、真正面からの正当な戦いになればどうしても不利。そう思っていたけど、途中から考える余裕も無くただ、短剣をふるう。
ここで下手にクリマタクトを用いれば、それが次に警戒されてしまうからやはりとっておきの技として可能な限り隠したい。勿論、明らかに格上相手の時や、上手く使っているところを見られないで済む方法があるなら使うけど。
巨大な武器を使う人や、腕や身体を全て使って戦う大振りな動きなら、躱すのは容易い。けれどもそれを受けるのは、私の腕力的に不可能。
多勢に無勢故に仕方なく、躱す事が難しい場合は受け流そうとするけど、防御にしかならない上に、力ではかなわないから吹き飛ばされてしまう。そこへ当然のように振り下ろされる剣。
駄目……っ!受け切れ無い……!
短剣を構えたまま思わず目をつぶって衝撃を待つけど、いくら待っても衝撃は来なくて、何が起きているのか……と思って瞳を開けると、眼の前に初めて見る筈なのに何故か記憶にある背中がある。まさか……。
「女一人にこんなに大人数で、恥はねェのかよっ!」
風が抜き抜ける。潮の香りが、これは現実なのだと教えていなければ、夢なんじゃないかと思わされる程に、現実感が薄い。
その声も、姿も、ナミとして育ってからは初めて見聞きしたけど、ずっと原作やアニメで慣れ親しんだ相手。でも、彼から見れば見知らぬ筈の私を庇う理由なんて無いと思うのに。
「ゾロ!」
ルフィの嬉しそうな声が聞こえて、信頼しているのが伝わる。それに応えるようにゾロは海賊達を切り飛ばして、その勢いのままにバギーを切り刻む。
その様子はあたかも戦いの終了のようで、けれども違う事を私は知っている。そんな中でゾロは手応えがないと呟き、戦いが終わったかの様にしているのを見て私は叫ぶように声をかけた。
「ゾロ!バギーに剣は効かないわ!避けて!」
私は咄嗟にそう叫びつつ、クリマタクトから雷撃を放つ。ルフィとエネルとブルック以外には一律、ある程度はダメージを与えられる筈だから。
先に伝える余裕がなくて後手後手になってる今、せめて時間を稼げればと思った私はおかしくないと思う。それがあって尚、電撃に包まれなかった手がゾロの脇腹に突き刺さる。
振り向いたために後ろからの怪我では無かったのが、唯一の救いだろうか。でも、そんな事を言っても実際には救いにはなり得ない。
「ゾロ!」
「うるせえよ、この程度で死んでたまるか」
私の叫びにそう答えたゾロに、ルフィからの逃げろという言葉が放たれる。それに従い、私も含めた三人で逃げ回る事になり、人が避難して無人となっている地区へと迷い込んで行った。
その中で私が声を出す。追いかけて来る足音や気配は感じられないから、今のうちが勝負。
「少し待って」
「ナミ?」
ルフィが不思議そうに首を傾げるけど、それに答えるより先にするべき事がある。道は分からなくても、人が見当たらないだけなのか、本当に居ないのかを見極めたい。
見聞色の覇気を用いれば、この村の中にいるのは動物の他は海賊と、一名のみと判断できた。他は何もいないところを見れば、全員バギー海賊団が来たからと村を捨てたか、安全になるまではと避難している可能性が高いだろう。
実際問題、村を村人全員で捨てて逃げるのは現実的では無い。戸籍のようなものは一応あるけど、それだけなら日本のようなしっかりしたものでは無いので、移動するならしたって問題にはならないのよね。
問題は、生活習慣とか、移動手段。そして、食料や財産の問題。
家は勿論、家具だって持って出るのは難しい。財産になる物は大概の一般家庭だと家と家具である為に、無一文に近い状態で投げ出される事となる訳よ。
地震や洪水のような自然災害でさえ、嘆き困り、政府への不満を募らせるのに、原因の海賊がなかなか討伐されないのならば、民間人の中で海軍や陸軍への不信感が募り続けていても致し方ないと思う。
意識を集中してみれば、村外れに大量の人がいるのがわかれば、やはり避難してるだけなのだとわかる。という事は、とりあえずどこかの空き家を借りても問題はなさそうね。
「破壊さえしなければ、どの家でも使って大丈夫そうよ。目立たない家を探して、少しお邪魔しましょう」
私の言葉にルフィはしっかり頷くと歩き出す。なので私もそれに続くように、再び足を前に出し始めた。
そこでルフィが近場の家に目を付けて家に入ろうとした時、老人に声を掛けられた。見れば私達を敵として認識して警戒している老人で、けれどもルフィの一言でそれは解決する。
無意識タイプのひとたらしなルフィは、その明るさで村長のプードルだと名乗った老人に村の中を案内して貰う。その話を聞けば、バギーに思う所はやはり多いようで、随分穏便に建物の一部を借り受けられた。
プードルさんは犬を連れており、その犬について説明している間にも、犬は主人と過ごした家へと戻って行く。その犬について話を聞いたルフィが、後を追うように出て行くのを見送り、ゾロと小さく笑い合う。
ルフィの声が聞こえる。どうやら本気で喧嘩して仲直りしたらしい。
一人で帰って来たルフィは、少し楽しそうで、でも、切なそう。仲良くなった友人に、何もできないのが悲しくて悔しいのだろう。
そうしているうちに、いつ敵に襲われるかと警戒する必要性が減った事で、周りへ常に放っていた見聞色の覇気を終えて息を吐き出す。これで漸く、余計な体力を消耗せずにゾロの怪我を手当できるとホッと胸を撫で下ろした。
あの時ゾロを刺したナイフに、返しや毒等の仕掛けが無いという保証は、何処にもないのだから早く怪我の状態を確認したい。もしも毒などがあるなら、それは時間との勝負。
私が知らない毒や、解毒薬になる物を持ってない可能性もある。呑気に構えてる事は出来ないのだ。
なので先程のルフィの暴挙はこの際置いといて、と言うか今はルフィを無視して、壁を背に座っているゾロの元へ近付いてから自分の荷物を漁る。ゾロは怪訝そうな顔をしているけど、抵抗したり何かを言ってきたりはしない。
警戒心剥き出しのドーベルマンみたいだなと、少し思う。ルフィという主人が傍に居るから、噛み付かないであげようみたいな。
そんな忠犬ハチ公みたいな様子を見せるゾロを尻目に、ルフィは私から視線を外さない。疑ってるとかじゃなくて、だからと言って観察してるでもなく、ずっと見詰め、突然質問して来るのだから、反応が少し遅れたのは許されて然るべきである。
「ナミ、何するんだ?」
「ルフィ、知り合いなのか」
ルフィが問い掛けてきて、それに私が反応するより早くゾロが反応する。警戒し過ぎて声をかける事もしなかったのかと思うと、何故そんな相手を庇ったのかと疑問に思う。
そしてふと思い出すのはまだ〝読んでいた〟頃の知識。麦わらの一味は基本的に女子供に甘い傾向がある。だとするならば、ゾロは私が女だから庇っただけなのかも知れない。
そう思ったら少し気が抜けて、私は肩から力が抜けるのを感じた。それから簡易医療セットを取り出すと、ルフィの質問に答える為に口を開く。
「治療よ。さっきのナイフに、毒とか仕込まれてたら困るもの。……彼は、ルフィの仲間なんでしょ?」
「おぅ!ナミは相変わらず何でも出来るんだな!」
ルフィはそう言ってニシシと笑う。それからゾロに私の事を紹介し始めるので、それを聞き流しながらゾロの腹巻を退けて傷の様子を確認する。
傷の様子から見ても、返しがついていた形跡は無いわね。毒も今のところ変色は熱を持つ等はないから、後は痺れ等が無いかだけ確認したいところ。
こんな時、ホンゴウと揉めたりしながら情報交換してたのが活きる。私の持つ過去の知識と、この世界の知識の差異を互いに埋めていった日々は発見と学習が多くて、本当に楽しい日々だったわ。
「ナミっつたな?お前、なんで俺の名前知ってたんだ?」
「ルフィがそう呼んでたし、貴方〝海賊狩り〟でしょう。海賊じゃないから手配書に載ってないけど、二つ名はある。いくら最弱の海と呼ばれる東の海でも、その程度の知識は持っていないと生きられないでしょ。それより、痺れとかはないかしら?」
私の質問にゾロは眉間に皺を寄せた。それでも素直に答えてくれるのだから、良い子だと思う。
警戒して何も言わないなら、治療は頓挫してしまうもの。そう考えたら、ゾロの素直さはありがたい。
「痺れ?……特に感じねェな」
「そう、違和感もない?」
私の質問に僅かに顔を歪めてから、ゾロは妙な言葉を口にする。それは、確かに違和感ではあるのだろうけど、そうじゃない。
ゾロはただの、戦闘狂。私と戦いたいと、強さの理由を解明したいとその眼差しだけで伝えて来る。
「お前みたいな小娘が、あんな大立ち回りできるのは違和感でしかねェよ。それにさっきからなんだ、まさか医者なのか」
「違うわ。私は医療従事者じゃない。大立ち回りって言われると恥ずかしいわね……結局、ろくな結果を出せてないもの」
小さく、私か弱いのよ……と付け足せば、ルフィがナミに勝った事ねェんだけど?なんて言う。でもあの頃、ルフィは特に幼かったから仕方ないと思うし、エースとサボは手加減してくれてたと思うのよね。
だけど、ルフィのその言葉にゾロははァ!?と反応して私を凝視する。ゾロの反応は失礼でもあるけど、分かる気がするわ。
もしも逆の立場なら、いくら強いと知っていても、ゾロがルフィに一度も負けた事の無い幼少期からの友人だと言われたら、そんな馬鹿なと思うだろう。勿論、ゾロのが歳上なんだからそれも有り得るのだと可能性的な意味では理解していても……である。
症状の問診的にも、反応や状態的にも、これなら毒は無さそうねと思い、縫う程のものでも無さそうなのでオキシドールを傷口にかけて、ガーゼに止血剤と化膿止めを付けて傷口に押し当てる。それを1つやるごとに、うぐっと声を出すゾロに、どうしたのかと視線で問い掛けるけど応えはない。
ちなみにオキシドールは血液汚れを綺麗にできる消毒液なので、女の船旅には必需品です。ただ、消毒液として使うとしみるなんて可愛い話じゃないから、現代日本では洗濯洗剤の方がイメージとして強いかもしれません。
「ゾロ?」
「なんでも……ねェよ、続けろ」
震える声を聞いて、強がりね……と内心で小さく笑う。そうして問題のガーゼを押さえる為に包帯を巻こうとしたら、ゾロに包帯を取られた。
突然どうしたのかと視線を向けると、ゾロから呆れたような眼差しを向けられ、ムッとする。なんでそんな顔で見られなきゃならないのよ。
「ルフィの言う通り、無防備だな。包帯は自分で巻くからナミは少し休んでろよ」
「ルフィから何か言われたの?」
問かければゾロは驚いたような顔で私を見て、それから口を開く。手は慣れた様子で包帯を巻いているので、その巻き方を見て大丈夫そうだなと少し離れる。
そんな私にゾロは呆れを隠そうとさえしない。隠し事をできないタイプなのか、私を馬鹿にしてるのか、どっちなんだろう。
「今、話してたのに聞いてなかったのか?」
「ナミは昔から何かに集中してると、何も聞かなくなるんだ。でも、そういう時も攻撃だけはひょいひょい躱すってエース達がボヤいてた」
ゾロの不思議な言葉にルフィが答えた事で、どうやら声を掛けられてたと知る。どうやら私は、毒の有無を確認するのに夢中になり過ぎていたらしい。
でも、ゾロの中で気になるのは私が話を聞いてなかった事じゃないらしい。そんなゾロにルフィはご機嫌な様子だ。
「エース?」
「俺の兄ちゃん!」
ゾロとルフィの会話を聞いて少しホノボノした気持ちになりながら、私は可能な限りルフィから距離を取る。そんな私を見てルフィは、無邪気な笑顔を向けて来るからタチが悪い。
こういう所、本当にウタとルフィは良く似ているわ。いつか、ウタを迎えに行くと誓ったあの日、ルフィにそれを思わなかったのはこの子が主人公だと知っているから。
「俺はナミを絶対仲間にするぞ!」
その笑顔は曇りなく明るい。もしも、何事も無ければ私も仲間になりたいと言いたくなるような笑顔で、けれどもそうはいかないと私も分かっているの。
だからこそ離れようとしているのだから。巻き込めない、希望のない戦いになんて。
あの頃の赤髪海賊団でさえ、ウタを世界から守り切る自信なんて無かったのよ。なのに、今の私にウタを守れる訳も無くて、ルフィを守りながら解決するなんて出来る筈もない。
これ以上、私の腕で抱え込めないわ。もう、誰も、喪いたくないよ。
喪うくらいなら、はじめからいらない。私の傍には、誰も居なくていいから、遠くで良いから生きていて欲しいの。
そんな我儘な感情に蓋をして笑う。大丈夫、私はまだ、笑いながら戦えるわ。
そうしてゾロを寝かし付けた直後、騒音と共に建物が壊された。私は咄嗟に武装色の覇気を纏い逃げ出したが、ゾロとルフィはその場に残ったようだったと気付いたのは瓦礫の山が目の前に広がった後の事。
原作漫画の通りならば、何も心配はいらないけれど、これまでにも小さな差異がある。彼等は漫画の登場人物では無く、この世界に生きる1つの命。
必ず無事だという保証がどこにあるというのか。不安に押し潰されそうな気持ちになった私の眼の前に、ルフィは気軽な様子で姿を見せた。
しかし、ここに隠れるよう言ってくれた村長が大切にしていた犬の姿を見れば、何とも言い難い気持ちになる。その犬とルフィもまた、仲良くしていたからルフィもやるせない気持ちだろうと思えば胸が痛くなって、呼吸の仕方さえ忘れそう。
犬の宝物が……大切な家が燃えていた。敵は既に撃退されていて、それでも大切にしていた場所を奪われた犬は、ただ切なさを訴えるように鳴いている。
それはあたかも泣いているようで、私はこの話の流れを今更になって思い出す。そして、自らの無力さを痛感するのだ。
どうして、海賊はいつもこうなんだろう。何時まで人は、理不尽な暴力に耐えなければいけないのだろう。
どうして、私は知っていて、いつも守れないんだろう。尽きない疑問が私を包む。
その時ルフィは、すべてを失ったかに見えた犬に、燃え盛る店の中から見付けた商品を1つ渡した。それを見て犬はそっとそれを咥えると、他の人達が避難している方へと去って行ったようだ。
私は何も出来なかった。涙を流す事も、お礼をいう事も、罵る事も、怒りを爆発させる事も、私には何1つ出来なかった。
知っていたから、私は、一度感情を大きく動かせば止まらなくなる事を。感情の蛇口は、もう限界まで閉めて何とか今の状態を保っているんだって。
凍らせないと、溶かしたら終わる。溶けたら、泣き叫んでしまう、そんな資格も権利もありはしないのに。
だからルフィがゾロを探して起こしている間に、私は船に僅かばかりの盗んだ宝と地図を片付けて来た。これからまたすぐに、宝を貰いに行くのに荷物があったら邪魔になる。
そう思っていた間に、村長にさんはバギーを倒しに行くのだと強い意志を持って叫んだ。それはダメだと、危険だと、慌てて戻った私がいくら言っても無駄で、村長さんは駆け抜けて行く。
私はまた、見送るの?
なんの罪もない人が、目の前で殺されるのを、その生命を自ら断つ事を防げないの?
どう、して。どうして……。
どうしてっ!私はこんなにも無力なんだろう。
答えなんて出る筈もない。あるのは、私が何も出来ないと嘆く事しか出来ないという現実だけ。
何も無い両手を見た所で答えは出ない。強く掌を握って、目を瞑って、前を見据える。
迷う時間も、泣く時間もないわ。今はまだ、生きているのだから。
それからすぐに、私達は三人でバギーのいる所へと向かった。そうしなければ、私一人の力ではあの村長は殺されてしまうと思ったから。
「なァナミ。仲間になれよ。村長も守るし、宝もナミにやる。だから、仲間になれ」
突然のルフィの言葉に、私は反応しそうになるのを耐える。そして、小さく息を吐き出してから、ニヤリと笑うと差し出されていたその手を軽く叩く。
強がらなければ、泣いてしまう。笑わなければ、縋ってしまうと自分で分かってるから。
「手を組むって言ってくれる?お互いの、目的の為に」
私なりのケジメ。お宝を貰って、海図を守って、村を買い取って……それまでは、仲間なんて私にはいない。
そうして、自由になったら、迎えに行くの。可愛くて愛しい愛娘を。
安全になったあの村に隠しておいたら、ウタも平穏に愛されながら生きられるわ。ベルメールさんや、ノジコも新しい家族を笑顔で受け入れてくれると信じられる。
だから、その為にもまずは海図と宝を得なければ。背に腹はかえられぬ、今だけはルフィと協力しないと。
それからバギーのいた酒場の辺りまで戻ると、村長が必死に戦っている姿が見えた。血を吐くような言葉は、それでも価値観の異なるバギーには届かない。
立ち尽くす私の横を通過してルフィは、村長を壁に投げ付けて意識を奪う。慌てて村長に駆け寄った私は、咄嗟にルフィに声を掛ける。
「何て事するのよ!」
「このままほっといたら、おっさんは死んでいた。気絶させとくのが一番安全だ」
私の言葉に反応したのはゾロで、それだけ言うとルフィのいる方へと足を向ける。私はそれに対して口を開き掛けてやめると村長の怪我の程度を確認して、少し離れた所に寝かせた。
出血はなく、骨折もなさそうね。村長の怪我は後遺症の残る様なものは無さそうで、ホッと胸を撫で下ろした瞬間、ルフィが大声で叫んだ。
「赤っ鼻ァっ!」
その言葉に慌てるゾロと、ああ、こんなシーンあったなぁと感慨深く思いながらルフィを見つめる私。そして、ルフィがバギーの砲弾を打ち返す姿を見て、私はそっとルフィに近付く。
バギーには聞き取れないような小さな声で。でも、ルフィにはちゃんと届くように。
「私は、ルフィ達が戦ってる間に宝を手に入れてくるわ。だから、それが無事に出来たら、また手を組みましょ。それまでは、一度別行動よ」
私の言葉にルフィは笑うと、それを了承した。なので私はそれを受けて元気に走り出すと、そのまま宝を見つけ出し可能な限り漁り出す。
流石に全ては無理だけど、それなら金になる物を優先して手にしていく。ひとつで嵩張るけど百万ベリーの価値のあるのよりは、小さくて沢山持てるひとつ70万ベリーの方を優先はしてるので、総額は明らかに増えてる。
でも、上手く詰めれば全て持てるかも。うん、やれるわっ!
ひとつ残らず私の物にしてやるわよ!後少し、後少しなのだからっ!
遠過ぎて、絶望する事さえ許されないような金額を突き付けられたのは間違いないけれども、ちゃんと計算しないと細かい所は分からないけど、後……数千万で10億になるのよっ!私は宝を僅かな欠片ひとつ残さずに袋に詰めると、それを抱いて船へと急ぐ。
しかし、大きな袋を抱えた私をバギーが見逃す筈も無く、突然恐ろしい速度で追い掛けてくる。その形相は必死で、けれども私も譲れないから必死で逃げ出す。
チッ……私の宝に目を付けるなんて、何様のつもりなのかしらっ!いくらシャンクスの同期でも、許さないんだからね!
「俺様の宝には指一本触れさせねェ!返しやがれ!」
バギーは怒りを漲らせながら私を追うけど、それこそ何を言ってるのか私にはわからないし、わかりたくもない。頭おかしいんじゃないの?
この宝に私が触れたその瞬間から、私の物になっているというのに。何を阿呆な事を言ってるのかしら。
「何言ってんのよ!海賊専門泥棒である私が、海賊から盗んだこの宝は既に私の物!置いていく理由も、返す理由も無いわ!」
「何を意味不明な事言ってやがる!いいからさっさと返せ!人から物を盗んでいい理由あるかっ!」
「いつも人から物を盗んだり、人を殺したりする海賊に説教される謂れはないわ!私は海賊が大嫌いなのよ!!」
思わずそう言い返していたけど、冷静な自分がまるで子供の喧嘩のような事を言ってると思った。そう思いながらも、私は宝を守りながら走るのだけど。
こんなの、理屈じゃない。理論も正義もあったもんじゃないけど、でも、少しくらい八つ当たりしても許されるとは思ってるわ。
両手が塞がっていて武器を使えない私は、攻撃を躱して逃げるしか出来ない。そんな時、妙な声をあげながら時折動きを止めるバギーに内心で怯えながら、私は持っていた宝でバギーの顔面を強打し、その隙に逃げる。
何とか辿り着いたバギーの船に、先程隠しておいた地図と共に今回回収したその宝を置いて、再びルフィの元へと戻る。するとルフィは相変わらずバギーと戦っており、私はその様子を見てふむと一人納得すると行動に移った。
バギーの身体を見付けては
その時になって、バギーが体をひとつに戻そうとして戻せない事に焦る姿を目撃し、ニンマリと笑うと声を掛けた。可能な限り挑発的に、嘲笑うように。
「お探し物は、これかしら?」
それに対して驚き騒ぐバギーをルフィが遠い空の彼方へと飛ばしたのを確認して、私は今使っていた流星錘を自らの腰に巻き付け直した。辺りを見て、忘れ物や落し物がないのをしっかり確認してから、満足して頷く。
船へと歩を進め始めた私に、ルフィは声を掛けてくる。その顔は真剣で、けれども私にはそれに答える資格が無い。
「なぁ、ナミ。今度こそ、仲間になれ」
「いやよ。……でも、手を組むなら良いわ。航海士として暫くの間なら、一緒に行ってあげる」
本当にルフィを思うなら、ここでこんな事を言ってはいけないのだろうけど、ウソップやサンジ君が仲間になってからならば、私が居なくてもどうにかなるのではないかとも思える。必要ならば、ウソップに航海術を少し教えてから行く事だって出来る筈よ。
そう思いながらも告げたのは強がりでツンデレみたいなものだけ。でもそれを言いながら船へと向かっていると、いつの間にかボロボロになっていた麦藁帽子に気が付いてしまう。
シャンクスが被っていたので、見慣れていた筈の麦藁帽子は確か海賊王の物だった筈だ。それより以前は知らないけど、ルフィにとっては大切な物。
「それより……その麦藁帽子ってルフィの宝物じゃなかったの?」
「そうだ!俺の宝だ!」
その言葉に私は、ふっと固まっていた筈の心が緩むのを感じた。シャンクスが聞いたら喜びそうだと思ってしまったのもあるけど、何よりも素直なルフィが可愛くて。
あの頃から変わらない。屈託のない笑顔に心が我儘な願いに満たされていくのを感じているけど、それにもそっと蓋をする。
「なら、急いで船に行きましょう。船に乗ってからなら直してあげるわ」
私がそう言って走る速度を上げると、ルフィもその後に続く。そして私達が船に到着する直前、後方が騒がしくなったのに気付き見聞色の覇気を用いれば、どうやら村の人達だと分かり振り向いた。
すると村の人達が村長を守る為に怒り狂いながら追いかけて来ているのが見えて、うわぁと思う。犯人は私達じゃ無いのに、理不尽だと思ってしまったから。
「ナミは羽根でも生えてんのか?足があの頃より速い!……それにしてもよ、ここはいい村だな!」
ルフィの言葉に声に出しての返事はしなかった。取り敢えずゾロを回収しつつ走る事が先決と判断したから、私はルフィへの返事は笑みで返して、船へと飛び乗る。
厄介な事に巻き込まれると分かっていても、ルフィの側は暖かい。即座に船を出して、呑気に手を振るルフィを眺めながら、私は約束を守る為にルフィから麦藁帽子を受取り、舵を取るのをやめて代わりに指示を出す事にした。