船に私がいる事に慣れたのか、それとも私が逃げるという概念が無いのか、ルフィは少し余裕がある様子を見せる。でも、興奮は冷めやらないらしい。
ルフィは二言目には冒険冒険と歌うけど、この船では料理も出来ないし色々と設備が足りないので人のいる島を目指して、船を進めさせる。冒険はその辺の物がどうにかなってからでいいでしょうと冷たく言い放てば、ルフィは私に絡み付いて文句を言う。
怪我人のゾロ一人に操舵を任せるんじゃないとルフィを叱り飛ばして、私はのんびりと麦藁帽子を直していた。その様子を幼子のようにルフィがソワソワして見ているのが、気にならないといえば嘘になるけど、ゾロがそれを無言で許している事の方が私には脅威だったりする。
「もう少しだから、待ってなさい」
ゾロとルフィが知り合ってからの期間は私と再会する直前で、出逢って僅か数日だと聞いている。それなのにゾロは既について行く相手をルフィに決めた以上は、ルフィの決定には従うとでも言うように無言でルフィをサポートしているのだから、驚かない方がおかしい。
あれ?でもその街って……私が先日ルフィを見掛けたところじゃないかしら?
だとしたら、私が情報集めてた時に騒ぎ起こしてたのは、この二人なのね。それは、私も動きやすかった訳だわ。
……男の子同士って良いなぁ。私も男の子に産まれたかった。
そうしたらノジコと、将来的には結婚してでも守り抜くのに。残念ながら妹ではそれも叶わない。
「ノジコが誰かに取られるの、嫌だわ。ベルメールさんはゲンさんが相手なら許せるけど、他なら断固反対しちゃうかも」
「あ、ナミが思考の海に沈んでる」
「は?話してくれてるんじゃねェのか」
「ナミが手を動かしながら話してるノジコとベルメールさんは、無意識だから何も覚えてねェんだよ。だから、俺達の会話も聞こえてねェぞ、確実に」
世界一美しくて優しいのは、ベルメールさんとノジコだと言うのは分かりきっているのに!そんな意味のわからない苛立ちを抱えながら、私はチクチクと麦藁帽子を直していく。
世界一の美女は人魚姫か、ハンコックだって?違うわ、世界一の美女はうちのベルメールさんとノジコよ。
どこかで麦藁が手に入ったら、少し保管して縫うだけでは直しきれなくなった時に使ってあげたいと思う位、ズタボロにされてる麦藁帽子。ルフィの為にと直し始めたけど、何だか……帽子が可哀想になって来て、可能な限り直してあげたいと思う。
可哀想な帽子さん。でも、本当に長旅を超えてきたのね、この帽子は。
糸を玉留めして、余った糸を切ったら終了。直った瞬間にルフィを見れば、何も言う前に麦藁帽子を手に取り、はしゃぎ回る。
「なおったー!」
何だろう、この間の事を忘れさせようとしてるのかな。異様に可愛い。
……そう思っていたのが伝わったのか、ルフィが私に腕を伸ばして文字通り飛び付いて来る。ルフィか船から落ちたら大変だと、慌てて抱きとめればルフィが首筋に噛み付いてきた。
「っ!?……ルフィ、何を」
「……ナミは痛ェ時ヤッパリ声出さねェんだな。我慢してっと、気付いた時には喰われてるぞ」
「余計なお世話よ!ルフィに関係無いでしょ。それとも……まさか、今なら私に勝てるとでも言いたいの?」
内心の動揺を悟らせない為に前半は強気に、後半は妖艶に挑発すると、ルフィはその顔を雄に変えてニッと笑った。それにゾクリとしたものを感じた直後に、ルフィはワンピースのスリットから手を入れてくる。
子供の頃は、一度も負けなかったのに……。いつも背中に庇って来た可愛い弟が、知らない人に思えるような行動に気圧されそうになり、それを隠す為に強気に叱りつけた。
「ルフィっ!巫山戯ないで!」
「ナミにはいつも本気だ。ンで持って、今なら俺ナミに勝てる」
「は?……ここは船の上で、ルフィは悪魔の実の能力者なのに、勝てるって?」
馬鹿にしたように笑う私にルフィは、当然のような顔をして頷く。それに呆気に取られた私がルフィを見詰めれば、ゾロが確かに負ける事は無さそうだなと呟いた。
それに驚いて視線を向ければ、本気で分からないのかとゾロに視線で問われるけど、そんなもの分かる筈ない。この小舟だもの、簡単に落とせるじゃない。
ひっくり返すのも、転覆させるのも、このレベルの船なら簡単。
「ナミはルフィに甘ェ。海に落とす事も、傷付ける事も出来ねェだろ。それをルフィは理解してるから、負ける事はねェし、力で押さえ込めばルフィの勝ちだ。ナミに勝ち目はねェな」
「……っ!そんな、事はっ……!」
無いとは、言えない。その証拠に私は、出会い頭のあの時に短剣を持ってたのに、ルフィを刺す事も切り付ける事も出来なかった。
確実に能力者を切る事が出来る剣。ルフィに関してのみ言うならば、刃物であればダメージを与えるのは容易い。
だから剣が海楼石である必要は本来は無いくらいだと言うのに、なのに私はその弱点をつく事が出来ない。無意識のうちに、ルフィを傷付けまいとしてしまう。
きっと、ルフィに何されたって私に反撃なんてできやしない。そう気付いたら、この状況に突然恐怖して呼吸を忘れてルフィを見詰める。
この身体を、勝手に傷付けていいのか分からない。いつか、ホンモノが目覚めるかもしれないのに……返さなきゃいけなくなるかもなのに、傷付けていいの?
「まァ……今は、襲わねェけどよ」
耳に小さく囁かれた言葉に、心臓がドクリと大きな音を立てる。咄嗟にルフィを突き飛ばすと、ルフィは軽い調子で後ろに下がりつつ、危ねーと言って笑う。
ルフィは、どうしてしまったのだろう。太陽のような笑顔は相変わらずなのに、基本的な所は昔と変わらなくて、それなのになんで……。
「幼馴染だって、話だったか?お前とルフィ」
「え?えぇ、そう……なるわね」
ゾロからの突然の声に驚いて視線を向けると、ゾロが成程なと呟く。それから私に視線を向けて、悪そうな笑みを浮かべて来る。
「俺はどっちの味方するつもりもねェが……このままだと流石にナミが不利か。そうだよな……あ、ルフィは憧れてる男が居るらしいが、知ってるか?」
「シャンクスの事?」
「あァ、そいつに庇われて、守られて、帽子を預かった。そうだよな?」
「そうね。その帽子に紐を付けたのは私だから、覚えてるわよ」
突然無言で渡された時の動揺は、今でも鮮明に思い出せる。海賊王の帽子を、私みたいな小娘に気軽に預けないで欲しいと心から思ったのよね。
あの時にはすでに、シャンクスは帽子をルフィに渡すつもりだったのだと知ってる。優しくて、暖かくて、でも太陽と似て非なる……でも炎とも異なる、焔の龍のような人。
「……その憧れの男が恋敵じゃ、ルフィも必死になるってもんだろ」
シャンクスが恋敵って事は……?あ、原作ではマキノさんが確か誰かの子供を抱いていて、それが赤い髪だって話題になってた。という事は……。
「そっか、ルフィはマキノさんが……」
「……は?誰だよ、マキノって」
「ルフィの村にある酒場のお嬢さん。優しくて、いつもルフィの事を可愛がってたのよ」
ゾロは嫌そうな顔で私を見て首を横に振る。それから低く告げた。
嫌悪感とは違う。なんだろう、この嫌そうな顔。
「違ェ。その人じゃねェよ。……もう少し年齢は近い筈だ。ここまで言えば、わかるだろ」
「年齢が近い……なら、ウタ?」
うん、思い返してみれば確かにいつも一緒にいたわ。戦い続けていたし、最高のライバルだったわよね。
あら、そうなったらルフィは私の息子になっちゃう!?
でも、それも良いかも。ウタを任せるなら、少なくともシャンクスに並べる男じゃないとね。
「そっか、ウタか。なら、シャンクスに並んでもらわないと無理よね。ウタはシャンクスが一番だったし、シャンクスもウタを自分以下の男には渡さないと思うわ」
「待て、誰だよ、そのウタっての」
「私の娘」
「はあ!?」
「可愛いのよ。世界の歌姫。私の天使。愛娘」
そのままウタの愛らしさを語り出せば、ゾロが私から距離を取った。嫌そうな顔のまま。
それでも、ウタへの想いと言葉が尽きる事はない。ウタは今も独りの世界にいるのだと分かっていても、それでも私はウタを想っているんだもの。
言葉は堰を切ったように溢れ出し、ウタへの愛を伝え続ける。ベルメールさんやノジコに対するのとはまた少しだけ違う、けれども間違いようのない愛。
「…………ルフィ、これは、どういう事だ?」
ゾロが突然ルフィに話し掛けると、ルフィは溜息をついて肩を竦めた。その会話はナミには聞こえていない。
「ウタはシャンクスの娘で、俺のもう一人の幼馴染だ。ナミに懐いてて、ナミがババくせェから母ちゃん枠だったんだよ。ウタには母ちゃん居なかったし。まァ俺との勝負は全部負けてたけどよ」
「……なら、ナミみたくルフィに勝ち続けた猛者じゃねェんだな」
「ああ、ナミには色々教えてもらったし、一度も勝てなかったけどよ、ウタには負けた事ねェぞ!」
ルフィの言葉が突然耳に飛び込んで来る。でもそれ、ウタも言ってたわ。
今会っても、ルフィとウタは変わらないのかな。それとも、少し大人になった分、ルフィが照れたりするのかしら。
「ウタもルフィと同じ事言ってたわよ。ルフィには全戦全勝って」
「何言ってんだ!絶対俺の方が正しい!!」
ルフィはそう言って抗議するけど、あの戦いはなんとも言い難いものが多かった。可愛さを競ってたのは確かに優劣つけ難く、どっちも可愛くて抱き締めて頬擦りした覚えがあるわ。
ベックにより私から引き剥がされて、むくれたわね。ウタもルフィも自分のが可愛いって言い張るんだもの。
思い出に浸ってると、ルフィの声が聞こえて来て現実に帰る。あの頃と随分変わったのに、やっぱり可愛いルフィが目の前にいて、頬が緩んでしまうのを抑えられない。
「この類いに鈍いのは昔からだ。だからゾロが話してんのも止めなかったんだよ。どうせ無意味だってのは分かってたからな。それにもしそれで気付くなら、それはそれで助かる」
「無意味だって……酷くない?そりゃルフィとマキノさんが上手くいくように取り計らうとか無理だけど……あ、マキノさんに手紙でも書いてみる?それともウタなら、今はまだ無理だけど何とか連絡つけてみるから、時間はかかるけど手紙だけ用意してくれたらいいわ」
マキノさんは兎も角、ウタの場合は先にエレジア国王のゴードンさんに連絡しないとよね。私もそろそろ文通位したいし、良い機会かも。
クーちゃんに頼めば持っていく位してくれると思うのよね。名案じゃない!?とルフィを見れば、何故かルフィとゾロに冷たい視線を向けられている。
……あ、まだ出発してそんなに時間経ってないから、故郷に連絡なんかして不安にさせるのが心配なのかな。でも、仲間が出来ましたって連絡したら、安心させられるんじゃないかなぁ。
あ、折角だし私も手紙書こう。心配かけちゃうものね。
「な?無駄だろ。エースも何度も手を出そうとしたらしいけど、通じてなかったって言ってたからな」
「おい、いくつの時だよそれ」
「俺が六歳だったかな……?ナミ、エースといた時お前何歳だった?」
「ウタと会った時が五歳で……そのまま航海を二年してたから、ルフィと出会った時は七歳ね。結局一年拠点にさせて貰ったから、別れたのは八歳の筈だけど?」
ちょうど声をかけられたタイミングで私はシャンクスへの手紙を書いていたから、声が上擦ってしまった。ルフィも何か書きたいかな。
シャンクスの大暴れは、思い出すのももう嫌だから忘れずに連絡入れなきゃだし……。ベルメールさんにも、生きてるの知らせなきゃ。
「所でルフィ、シャンクスに何か伝えたい事ある?ルフィと再会しましたって連絡入れようと思うんだけど」
「……ナミ、シャンクスと連絡つくのか?」
「一方通行だから、シャンクスからは返事来ないけどね。届いてるのは間違いないわよ」
「ナミって、相変わらず残酷だよな」
私、何かした?残酷ってなんだろう?
ルフィは何故か落ち込んでしまったので、それを見てはたと気付く。そうだよね、私だけ憧れの人に連絡入れられるとか、つらいよね。
どうしよう。シャンクスの最近の姿は……手配書だけど、写真みたいなものだからそれでも見せたらいいのかな?
でも、ウタは……困ったわね。今のところ情報無いのよ。
そうだ!やっぱり連絡とってみましょう!
そうしたらルフィも少しは元気になるわよね。そうと決まれば……!
「あ、ナミ。それ違ェから」
「何が違うの?」
「ナミが考えてる事。ナミって考えてる事結構顔に出るよな、昔は分からなかったけど。なんか、明るくなったな」
妙に大人びた顔でルフィは言う。それを見て、何故かベックを思い出した。
ルフィはまだまだシャンクスにだって届かないけど、ベックのような顔をできるくらいには、大人になったのかも。
「……ベックにね、感情押さえ込むなって言われたのよ。常に張り詰めてたら必要な時に力を出せないって。だから「ベックって、副船長か?」」
重ねられた声に頷くと、ルフィは小さくそっちが本命か?なんて言うからよく分からなくて首を傾げる。
あ、マキノさんか。うーむ、でも、マキノさんはベックとは恋仲じゃない気がするのよね。
でも、お手付きの可能性はあるわね。ベック、プレイボーイだったし。
まぁ、どちらも大人なんだし、合意の上なら遊ぼうと恋愛しようと自由よね。生涯に一人の人しか愛してはいけないなんて、龍の物語でもなく人間の話なのだし、有り得ない。
でも、どう考えてもマキノさんとベックって違和感。あのメンバーの中でマキノさんが選ぶならシャンクスだと思うのよね。
「マキノさんが好きだとしたら、シャンクスだと思うわよ。マキノさん、シャンクスの事だけは絶対名前で呼ばなかったから……。好きな相手を皆が名前で呼んでるなら、違った呼び方したいとか思うのも、わかる気はするから、間違ってはいないと思うけど」
「……ナミ、恋愛経験ってあるのか?」
何故かルフィに驚愕の眼差しを向けられて、私は一瞬声を詰まらせて、地球にいた頃も含めての答えを返してしまう。まぁ、確実性は無いけど、多分この感覚ならいたと思うし、嘘ではないわね。
「まぁ、人並みには?」
「相手は!?」
必死な様子のルフィに私は成程と思う。ルフィも今マキノさんかウタかは分からないけど、どちらかにに恋をしているから、興味があるのね。
でもなぁ、今の私に恋愛してる暇はないし、そういう相手も居なかったからなぁ。そこでふと思い出すのは、別れ際にシャンクスにされた濃厚過ぎる口付け。
そのまま芋ずる式に思い出されるのは、勘違いさせようとしてるとしか思えない口説き文句の数々と、ベッドに押し倒された時の事。アレって、ベックが入って来なかったり、ウタが目覚なければどうなっていたのかという疑問が脳裏を駆け巡る。
一瞬で湯だったのが自分で分かる。ヤバい、今私絶対耳まで赤い。
「……っ!ルフィに、関係無いでしょ」
誤魔化そうと背を向けてそう答えた瞬間、ゾロから小さく知らねェぞなんて聞こえて来て、そのまま寝息が聞こえて来る。天候は穏やかだし、特に問題ないのに知らないとは……ああ、痛みのせいで寝るって意味かしら、でも怪我人だからいいかと思った直後、私はルフィに引き倒されていた。
思いっきり掴まれた肩が熱を持つ。受身を取れなかった私のミスもあるとは言え、ルフィは既にこれだけの力があるのかと少し驚いていたら、顔に影がかかる。
空を見上げる形になっていたので、ルフィが心配して顔を覗き込んでるのかと思って視線を向けたのに、そこにあったのは凶悪な笑み。勢い余ってとか、そういう事じゃないの?
「ルフィ……?」
「関係、ない、か……?」
ルフィの声はいつもより低くて、どうしたのだろうと思う。そして何故か射竦められたかのように動けない。
時が止まったかのような錯覚に、目眩がしそうになってくる。私は覇気にも殺気にも慣れてる筈なのに、なんで……?
そう思った時、ルフィの顔が降って来て、咄嗟に顔を背けるとその勢いで首筋に吸い付かれた。微かな痛みと疼きを感じて、身体がビクリと揺れる。
やめさせなきゃとルフィを押す為に伸ばした腕は、一纏めにされて抑え込まれる。その素早さに驚き、ルフィを凝視するとルフィは少し辛そうにその顔を歪めた。
「……ナミ、俺を見ろよ」
流石にここで「見てるわよ」とは、言ってはいけない気がした。だからと言って、何か他に言える言葉があるかと問われたら無いのだけど。
だって、実際私はルフィを見ている。さっきから現在まで、ずっと驚きやそれに近い感情と共にルフィだけを見てるのだから。
「ナミ、俺は……!」
「ルフィ、手を離して。流石に少し痛いわ」
そんなに泣きそうな顔しないでよ。捨てられた犬みたいな顔されたら、慰めたくなるじゃない。
多分、押し倒されてる状態の筈なのに、拒むか何かしないといけないと思うのに、このままルフィのやりたいようにさせたら、ルフィの心が再起不能になる気がして、私はルフィに言う。
「……逃げないから、手を離して。ね、ルフィ」
ルフィの手が私の手を解放する。その腕をルフィに伸ばして、その勢いで頭を抱えるように抱き締めた。
ルフィを傷付けたくない。幸せでいて欲しい。
泣かないで、苦しまないで。その為なら、私はいくらでも戦うから。
寂しくないよ。私はいつでもルフィの味方だからね。
言葉にできない祈るような思い。そんな心情を隠して、言葉を続ける。
「ルフィ、まだ今は一緒にいられるから。まだ、暫くは大丈夫だから、そんなに……苦しまないで」
ルフィは何も言わない。だから私もそれ以上は何も言わずに、空を見上げてルフィの頭を撫で続ける。
身体を起こしたいけど、多分動くとルフィが嫌がるだろうから。その内にルフィから小さく舌打ちが聞こえて、ルフィの頭に視線を向けるとルフィが口をへの字に曲げて、身体を起こした。
だから私も漸く身体を動かせるようになり、微かに痛みの残る肩を庇いつつ身体を起こす。硬い甲板に横になってたから、短時間なのに少し動かして解したいけど、状況的にそれは難しそう。
「……関係ないなんて、言うな。ナミは俺のなんだから」
「だから、私は私のものなんだって。違うとするなら、ベルメールさんとノジコのものよ!」
「俺、ナミが解らねぇよ」
私の何が分からないのかしら?私ってわかりやすい方だと思うんだけど。
むしろ私の方が、わからない。私にはルフィの事がわからないわ。
ウタを溺愛して、ベルメールさんとノジコを大切に愛して、大切な家族の為に存在してる。その家族には、ルフィだって、サボやエースだって、弟なんだからちゃんと含まれてるのに。
「私も、ルフィがよく分からないわ。前は分かりやすかったのに」
「……俺は、変わってねェよ。無くしたくないから、強くなろうって決めて、俺なりに強くなったつもりだけど、やっぱり剣とか使えねェし」
確かにあの頃から、サボは体術と棒術を使えたし、エースは手元にある物をなんでも器用に武器として使っていた上に、イザとなれば体術もできた。ルフィだけは、ずっと変わらないで武器を一切扱えないまま。
私が出会った時には荒削りだけど武器を扱えてたから、基礎を教えて応用したら良いと指導した。自己流ならではの強さもあるけど、基礎を知っての自己流と、自己流しか知らないのでは格段に対応力や攻撃力に差が出るから。
当然ルフィにも教えたけど、ルフィは相手の痛みを自分も感じられる素手を選んだ。それはきっとルフィの優しさであり、武器がなくても戦えるようにという安全策。
「でも、能力を有効に使えるようになったのね。エースとサボのおかげかな?」
「……サボは、死んだ」
ルフィの言葉で思い出す。そうだ、ルフィはこの時まだサボの生存を知らないのだと。
確か、連絡を取れないのはサボの記憶喪失が理由。だから、それを思い出すキッカケになればと思って私は歌や小説を書き続けてるし、レシピも書いてる。
私の作った料理のレシピを懐かしいと、私の歌を聴いて懐かしいと思って貰えたら……なんて。そんな期待をしているから。
でも、ルフィは記憶喪失な訳じゃない。ならなんで勘違いしてるんだろう。
混乱するのは何故なのか。詳細を思い出そうとしたら、曖昧になってる事に気付いてしまう。
作品を読んでいたのも、ここに来る前だから18年程は経過してる。だからなのかな、思い出せないのは。
詳細を思い出せたらこの先多くの問題を解決しやすくなるし、ルフィの役に立てるのに、どうして思い出せないの。そう思った瞬間、脳天に斧でも振り下ろされたような激痛が走る。
「っ……!」
咄嗟に船の縁に掴まった私をルフィが怪訝そうな顔で見てるけど、今は構ってる余裕が無い。呼吸を忘れそうな程の痛みに、私はギュッと目を閉じる。
こんな頭痛は過去に経験が無い。拷問でもこんな生命に関わるレベルはやられないもの。
むしろ拷問はジワジワ系が多いから、激痛への対応力が低いのかしら。そもそも身体の痛みなら耐えられるけど、頭と心臓でこのレベルは生命に関わるから、どうにかしないと……そう思った時、脳内に映像が浮かび上がる。
幼いサボを助ける男性の姿と、貴族だろうから帰すかと言う言葉に拒絶反応を示すサボの姿。そうだ、サボは革命軍に……つまり、ルフィのお父さんに!
点が突如として現れて、点滅し輝くと同時に点と点が繋がり線となる。今の私が持つ知識に、過去の知識が加わり、導き出せた答え。
そう思った瞬間、痛みがひいていく。荒い呼吸を何とか落ち着かせて、私はルフィに笑いかける。
「……大丈夫、よ」
「顔色真っ青で何が大丈夫なんだ!どうしたんだ?腹が痛てェのか?」
「ルフィ、大丈夫だから、サボは、いきてるから……」
そこまで言って私の体力は尽きてしまったらしく、視界がボヤけていくのを感じる。ルフィの慌てたような声と、うるせェと怒鳴るゾロの声が聞こえた気がした。
目が覚めた時、私は船内……ひとつしかない船室に運び込まれていた。心配そうにしているルフィと、そんなルフィに呆れを隠さないゾロがいて、私は状況把握に勤しむ。
そうだ、記憶を無理に掘り起こしたら、頭痛がしたんだった。……ちゃんと大切な話を伝えられたっけ?
「ナミ、大丈夫か?」
「……えぇ、ルフィが一緒だと思ったら気が抜けたのね。もう、大丈夫よ」
笑って答えれば、ルフィは戸惑った様子で私にサボの事だけどなんて言ってくる。どうやら一応、言葉は発してから倒れたらしい。
私はルフィに手を伸ばすと、そっとその頭を抱えるように抱き締める。サボを目の前で喪ったと思いながら、これまでどうやって生きてきたのか。
エースがそれだけ、兄として支えてくれたのだろうか。そのエースとさえ、ルフィは何年も会ってはいない筈なのだから、どれ程の孤独を味わったのだろう。
私は幸運にも、孤独とは無縁だった。帰れば常に、側にベルメールさんとノジコがいてくれたから。
それまではシャンクス達赤髪海賊団のメンバーがいてくれたし、その中にはウタもいる。更に同じ時期にルフィやエース、サボがいてくれたわ。
その後だってカリーナがいてくれた。今はそばにいなくても、大切な人が常に周りにいてくれたのだ。
「……ルフィ、新聞くらい読みなさいよね。サボは紙面騒がせてるじゃないの」
「え?」
思考を断ち切るように放った言葉に対して、惚けたような声が聞こえて、私は吹き出しそうになった。卑怯な私は、未来や過去が見えるなんて事は言わずに、新聞で得られる情報としてルフィに伝える。
だって、実際サボは紙面を何度も賑わせている。それなら何も私が知っていたとしても不思議じゃな……あれ?
エースも、作中で死んだと勘違いしてなかったかな。記憶違いだといいけど、違ったら、本当に阿呆の子達なのだという現実に少し天を仰いでしまう。
「革命軍の実質的No.2の参謀総長サボは、年齢もサボと同じだし、金髪だし……。顔に大きな傷があったから、違うのかなって思ってたけど、ルフィが死んだと思った原因の時に、その傷を負ったのなら間違いないでしょ。……革命軍に所属してるなら、多分ルフィのお父さんが助けてくれたのね」
「え?父ちゃん?いるのか、俺に」
「いない訳がないでしょ……」
いなかったらどうやって母胎に宿ったんだお前はと、心の底から思いながらルフィの頭を撫でていたら、ゾロからこれは手強いななんて含み笑いが聞こえた。どういう事かと思っていたら、ルフィに腕で押されて抱きしめる力が強かったらしいと知る。
ルフィを離してから、視線を合わせる為に顔を覗き込むと、ルフィが息を呑んで硬直した。どうしたのかな。
……でも、話の流れ的にお腹空いた?とも聞けない。
あ、そういえば、エースの手配書に変な刺青があったわね。バツはSについてたって事は……。
「……って事は、エースもサボが死んだと思ってるのね。だから、あんな刺青してるのかぁ」
サボのSだったのねと、小さく呟いたのをルフィは聞き逃さずに、刺青に反応するから頭を軽く撫でておく。これは咄嗟の行動で、決して犬みたいとか思った訳では無い。
「手配書も、見てないの?エースの腕に刺青あるでしょ」
「ナミはなんで、10年以上会ってねェのに俺とか、エースだって分かるんだよ」
「……弟達の事が分からないとか、姉として終わってると思うけど?」
「……エース達も弟なのか?」
ルフィが複雑そうな顔で言うから、私は頷く。当然だと思うけど……と内心首を傾げながら。
まさか、弟子とか言った方が良いのかな?でも、そこまでちゃんと師匠してないし。
「何か問題ある?」
問いかけた私にルフィは頭を抱えるから、サボが生きていたのがまだ信じられないのだろうと、放置しておく事にして、通りすがりにゾロに声をかける。ルフィの事、よろしくねと。
だって私は、ずっと一緒にいる事は、出来ないから。ルフィを私の事情に巻き込む事は出来ない。
独りで生きて行く覚悟は、もうずっと前にしている。皆を守れるなら、他には何も……望んじゃいけないと知ってるの。
二兎追う者は一兎も得ず、私は皆の安全が得られるなら、それだけで構わない。自分の夢なんてのは、オマケとして考えるべきだと思っているから。
ナミちゃんは失敗したけど、私は大丈夫。だってナミちゃんが失敗をした理由は分かってるから、知られないように上手くやってるし、金額が大きい分油断してる筈よ。
それに、アーロンは嫌いだけど、ちゃんと信頼関係だって構築はできてるもの。今更裏切って、私がすべてを投げ捨てたら、困るのはアーロンだわ。
玩具が裏切るとは思わないでしょ。その為に、牙も爪も隠して、ただ素直に拷問に耐えてきたのだから。
大丈夫。取引が完了したら、契約満了と同時に私の大切な人は皆助かって、ウタを迎えに行って、そうなったら年齢的に娘って感じじゃなくなるだろうし、ゲンさんも耐えられなくて婿に来るだろうから、三姉妹と両親という家族になって、平穏に暮らせるようになるわ。
東の海では最強な海賊のテリトリーで、他の海賊の被害に遭うとは考えにくいし、大切な人と穏やかに幸せな生活を望める。そうなってから、私が夢を引き継ぐ事に何の問題だってある訳ない。
……そうよ、この、胸の奥に燻る不安は、マリッジブルーみたいなもの。幸せを期待し過ぎて、不安になってるだけだわ。
そんな事を考えながら海を眺めていたら、突然大声が聞こえて視線を向ける。するとルフィとゾロが島を見付けたらしくて、騒いでいるのだと分かった。
「無人島よ。行く必要無いわ」
そう言ったのに、言った筈なのに、ルフィとゾロは何故か全力で船を漕いで移動を開始した。コイツら、馬鹿なのではなかろうかと心底思った私は、多分おかしくない筈。
とりあえず私の記憶には、原作でこんなシーン無かったと言う事だけは言える。まぁ、忘れてるだけなのかも知れないけどさ。
しかし、島につくと怪我が治りきっていないゾロがそのまま力尽きたので、仕方無く私がルフィに付き合って降りる事にした。本来ならば怪我の事もあるし、ゾロと船にいたかったのだけど、ルフィ一人にするのが何となく心配だったのだ。
降りてみると、見た事もない不思議な生物が沢山いて、それを見て私はあぁ、宝箱オヤジかと思い出す。……やっぱり帰りたい。
違うとわかっていても、オバケとか苦手なのだから仕方ない。地震雷火事親父は怖くないけど、オバケと虫はダメなのよっ!
え?
転生して成り代わったんだから、お前もお化けだろうって?
例え私がお化けでも、他所のお化けは怖いのっ!
そして、恐怖の森についてしまった。咄嗟に目の前にいるルフィに抱き付けば、ピクリと揺れる身体。
なんだ……ルフィも怖いのねと、ホッと溜息をつけばルフィがくるりと身体の向きを変える。そして、気付いた時には近くの木に身体を押し付けられていて、唇を重ねられていた。
「んぅ!?……ル……っ!」
慌てて押し退けながら、ルフィを制止しようとしたけど、力で敵わない私は簡単に唇を奪われて、抵抗もままならない。ルフィの舌が私の舌を絡め取り、当然のように貪って来る。
その状態でルフィは私の肩をはだけさせてしまうから、服は腕に引っ掛かって何とか落ちていないような状態になる。ルフィは唇を離すと胸元に吸い付いて来て、微かな痛みに私が嫌っと言っても止まる気配はない。
「やだ!ルフィ、やめて!」
「散々煽ってきたのはナミだろ、今更止まれるかよっ!」
「ルフィっ!」
呼び掛けてもルフィは下着の後ろを難なく外して、抵抗しようとしていた腕を抑え込むと、下着と服を腕から抜いてしまう。胸を通ればワンピースなんてのは支えも無く床に落ちるのが本来だけど、ベルメールさんから貰っていた<ruby><rb>流星錘</rb><rp>(</rp><rt>リュウセイスイ</rt><rp>)</rp></ruby>が落下を防いでくれる。
それでも胸は何にも遮られる事無くルフィの前に晒け出されていて、それにルフィが吸い付くから身体がビクリと反応する。経験なんか無くても弱い所であるのは間違いないから、どんなに拒もうとしても身体は反応するのだろうけど、この身体は前座的な物だけは嫌という程に経験があるのだ。
アーロンにされた媚薬の拷問や辱めは、間違いなく感度を高めているし、刺激によりどのような快楽が起きるかを知っている身体は、期待するように反応してしまう。いつ誰に見られるかも分からない場所で、外で……と思った時、脳裏にいつもの責めて嘲笑う声が聞こえた気がした。
正気を保つ為に首を横に振る。そして、ルフィへと視線を定めて哀願のような声を出してしまう。
「や、ルフィ……やだ!お願い、やめて……!」
「ここ、硬くなってるのに?」
言いながらカリッと噛まれれば、抑えきれなかった声が漏れる。それにルフィはふっと笑って、下腹部に手を伸ばす。
抵抗しようとすれば、足を広げる事になり、抵抗しなければされるがままになる。どうしたらいいのか判断出来なくて、私は必死でルフィの頭を引き剥がそうと両手に力を入れた。
そして無理に指を侵入させようとしたルフィが、途中まで挿れた所で動きを止めて私を凝視した。やめてくれる気になったのかと見つめれば、ルフィは驚愕の視線を向けて来る。
「まさか、ナミ、初めて……なのか?」
私はやめて貰えるならと思って素直に頷く。それに対してルフィは脱力したように力を抜くと、小さく呟いた。
その表情は少し照れ臭そうな、少年らしいもので少し驚いてしまう。先程までの凶暴性は見当たらない。
「なら、建物の中でしないと嫌だよな。……今回は、途中でやめてやる」
ホッと身体から力を抜いた瞬間、ルフィの頭が視界から消えて一番弱い所に移動していた。それに気づいて逃げようにも両足はルフィに押さえ込まれていて、微かに開かされた状態で固定されている。
「や……!やめてくれるって……!」
「だから、ギンギンになってるのは挿れねェから大人しく感じてろ」
言葉が終わるのと同時に与えられた刺激に、私はせめて声を出さないように手で口を押さえた。それでも抑えきれない声が森に吸収され、ルフィはそんな私にただ刺激を与えて来る。
膝が震えて立っていられなくなるのと同時に、視界が白く染まり身体が崩れ落ちる。それをルフィは軽々と支えると、荒い呼吸を繰り返す私に薄く笑いかけて来た。
「まだ、終わりじゃねェからな?」
え?っと言うよりも早く、ルフィは私の身体を森に横たえて、達したばかりの身体に刺激を与えて来る。敏感になった身体はすぐに上り詰め、今度は胸にも刺激を与えながら行われるそれにより、簡単に登りつめてしまう。
その刹那、脳裏にはレンズを向けて嗤う誰かが過ぎり、身体が小刻みに震える。するとルフィが動きを止めた。
「ナミ?」
アーロン達に見世物にされて弄ばれてた時は、弱さを見せる余裕さえ無かったからなのか、出なかった症状。荒い呼吸の先に待つのは、酸欠のようなそれ。
間違いなく過呼吸だと認識するのに、何もできない。意識が薄れそうになった時、ルフィの声が耳朶を掠めた。
「ナミ……ナミっ!」
「るっ……はっ……!」
無理に出そうとした声のせいで余計に苦しくなり、咳き込むと身体を支えるようにしてルフィが私を抱き締める。その状態で背中をさする手が、妙に温かい。
私を苛む幻が消える。霧散していくのを感じた。
「大丈夫だ、ナミ。俺はナミを傷付けねェ」
今まさに私を襲ってた男の言い分としてはおかしいけど、それを突っ込む余裕もない。でも、その為に今度は誰とも分からない嘲りの声ではなく、心配するホンゴウの声が聞こえて来た気がした。
「大丈夫だ、ナミ。ゆっくり息を吐け。息を吐く事に集中するんだ。吸うのは、身体が勝手にやってくれる。俺を信じろ!」
歯の抜けた顔で、にかっと笑うそれが見えた気がして、心が落ち着く。撫でてくれる、抱き締めてくれる温もりが、恐ろしいものでは無いのだと教えてくれてる気がした。
時折見えるこれがなんなのか、分からない。妄想か、失われた過去なのか、誰かの過去や未来なのかさえ、私には分からないまま。
「ナミ」
「ん、ルフィ?」
「このまま俺に胸押し付けて、半裸でゾロの所に帰るか、それとも……この場で俺にだけ可愛い姿見せて、服を着て船に帰るか決めろよ」
「なっ!?」
「ナミが選べ。このまま帰るなら、俺の首に腕回せばいい。可愛がって欲しいなら、さっきみたいに身体を寝かせるだけだ」
「やだっ!ルフィ、そんなの「決めないなら、両方で良いよな」」
そう言うと地面に再び押し倒されて、先程の続きに入る。そんなルフィに縋るように視線を向けても、その動きは激しくなるばかり。
首を横にふっても、意味は無い。ルフィは胸に吸い付いたまま声も出さずに飾りを嬲るばかりで、必死で声を抑えていても解決しないと思い知らされる。
「あっ……ルフィ、お願い……」
「ん?」
飾りを歯で挟んだまま舌先で転がしつつ、ルフィは私に視線を向ける。その卑猥さに頬が熱を持つ。
私は今、何をされているのだろう。どう言えばルフィはやめてくれるの?
「ふく、着たい……の」
「なら、俺に可愛がられてもいいんだな」
「んっ……ルフィ、お願い……」
その瞬間、ルフィの噛む力が増して、つい痛みに目を強く閉ざすとルフィが慌てて口を離した。それにより濡れた肌を風が走り、それだけで身体はぴくりと反応してしまうのだから情けない。
「ナミ、本当にずりぃ」
「ルフィ?」
「ナミは、世界一エロい処女だ」
「何言っ……」
最後まで言葉を紡ぐ前に、ルフィは私の逆の胸に吸い付いた。無理に割り開かれた両足の間に身体を捩じ込み、ゴムの身体を利用して指を伸ばして絡める形で固定したまま、秘部の飾りをいじり倒す性格の悪さ。
抵抗しようと腕を動かそうとすれば、ルフィは耳元でこのまま帰るかと囁くのだから抵抗なんてできる筈もない。卑怯だと睨んでも、ルフィは不機嫌そうに胸を刺激する事で有耶無耶にして来るのだから、酷いとしか言えないのも当然。
そうして熱を放出している途中でも、ルフィは刺激を与えるのをやめないから、私は声を抑える事も出来なくなり、数えるのも無駄という勢いでイカされ続ける。体力が尽きて意識を失うまで続けられたそれが、何の為なのかも分からず、私は森の中で暫く動けなくなっていた。
意識を取り戻した時にはワンピースを着ていて、乱れた様子もなかったから夢だった事にしたかったのに、何故か下着を付けてる感覚が無い。ルフィを見れば、宝箱に入った男を仲間にと誘っていて、とてもじゃないけど下着の事を聞ける雰囲気じゃない。
宝箱にクルー入りを断られても珍しく食い下がらないルフィに、少し大人になったのかななんて思った私は、森の中で見付けた食べられる物を拾いながら会話が終わるのを待つ。会話を終えたルフィが私の元に駆けてきたのを見て、耳打ちする。
「ルフィ、私の下着」
それに対してルフィはにっこりと笑い、懐から取り出して上下セットでヒラヒラして見せるから返すように言うが、何故かルフィは考えるように立ち止まる。どうしたのかと思ったら、ルフィが唇を動かした。
「ナミの考えだと、盗られた時点で相手の物だったよな。……ならさ、対価が必要だと思わないか?」
「対価って、何が欲しいのよ。私、宝は渡さないわよ」
バギーから集めたお金は皆を助ける為のもの。1ベリーだって渡すものか。
そう決意を込めて見ればルフィは私耳元に囁く。まるで、悪魔のように。
「さっきはナミだけ、いい思いしたんだし、咥えるか扱くかしてくれたら返してやる」
「私は望んでなかったのに、ルフィが!」
「途中でやめてやっただろ。それとも、そのままの姿でゾロの所に帰るか?それなら、遠慮なく船でさっきと同じ事……してやるよ」
ルフィからは本気の色が伺えて、なんでこんな事にと思えば泣きたいような気持ちになる。それを見ているルフィが私に視線を向けたまま、深々と溜息を落とした。
溜息を落としたいのも、怒りたいのも私の方よ。ルフィの馬鹿。
「まさか、本気で分かってねェのかよ」
「何がよ?」
「俺がナミに手を出す理由」
そんなの分かってるもん!とは、言えないので、素直に真実だけを口にする。文句言ってやりたい気持ちは、充分にあるけどね。
「欲求不満でしょ。年齢的な事考えたら仕方ないとは思うけど、私がその対象になると思って無かったから……結構困る」
その瞬間、ルフィは私の言葉に頭を抱えて座り込むから、どうしたのかと心配になり、近付こうとしたのを手の動きで止められる。その場で立ち止まる私にルフィは視線を向けると、困ったように笑った。
アーロンにされた事により反応してしまって、情けなくも恥ずかしい姿を見せてしまった。だからきっと、ルフィは困ってしまったんだ。
発散させられると思ってたのに、簡単に手に入れられると思ったのに、拒まれて。でもこの身体を好きにしていいとは、言えないから……どうにも出来ないの。
「俺が悪かった。ごめんナミ。それなら、怖かったよな」
思ってもみなかった言葉に息を飲む。そして、肩から力が抜けるのを感じてしまう。
ルフィの何が凄いって、こういう所だと思う。ルフィはいつでも必要な時に素直に謝れる。
ありがとうもごめんなさいも簡単なようで中々言えなくて、その一言で解決する事も多いのに、口に出せない代表選手。それを必要な時にだけ使えるルフィは、大物だなって思う。
「ナミ、俺は初めて会ったあの日からずっと、ナミに恋をしている。ナミを女として、好きだ。だから抱きたいと思うし、他の奴には近付かないで欲しいと思う」
そう言ってルフィは私に下着を投げて寄越すから、それを咄嗟に受け取った。そんな私にルフィは言葉を重ねる。
「無理矢理襲って悪かった。それ位ナミに惚れてる。今は下着返すから、真剣に、弟としてじゃない俺を見て欲しい。愛とか言えるくらいの何かが分かる訳じゃねェけど、ナミを見ると触りたくなるし、抱きたくなる。これは、多分変わらねェ」
私はルフィに何を言えば良いのか分からなくて、ただ見詰める。それに対してルフィは答えを急かさずに笑う。
よく知ってるいつもの笑顔で、暖かく……。太陽のような、その心を隠さずに。
でも、だって……と、脳内で言葉が渦巻く。ルフィはマキノさんかウタを好きなんだと思ってたのに。
でも、どっちだか分からないくらい、平等だった。そう言えば、あの頃もウタと張り合いたくてやってると思ってた私の取り合いは、だとしたら……まさか。
「長くは待てねェけど、今返事しろなんて言わねェから、俺を男として見てくれ。それとさ……左肩怪我してるのに、無理させて悪かった。ごめん」
そう言ってルフィは先に走り出す。その背を見送って、私はその場にへたり込む。
泣けばいいのか、怒ればいいのかも分からない。でも、とりあえず……アーロンの刺青に気付かれなくてよかったと、包帯で隠してある肩に視線を向ける。
脳内は既にいっぱいいっぱいで、とりあえず下着を身に付けて、この世界にブラはないらしいので上はビキニだけど、それを身につけて、帰りながら食べられる物を拾って行く。手は機械的に動き、脳は完全にショートしていて、ルフィへの答えは今の所出そうにない。
とりあえず急いでも答えは出そうにないから、もう暫くは、答えを引き延ばそうと思う。まだもう少しは、一緒に居られるのだから。
逃げてもどうにもならないと分かっていても、それでも逃げ出したくて、でもそれはできないから踏みとどまってる。だから、もう少しだけ……時間を貰おうと思った。