※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して   作:夢枕 七変化

2 / 35
修行の日々

 レッドフォース号に運ばれた私は、到着して最初に、私へと攻撃を仕掛けてきた人に土下座される事から始まり、次に大人達に取り囲まれてしまった事で対応に困っている。その騒ぎの途中、おっさん達に混ざる事の許されない可愛い声が聞こえて来た。

 お帰りなさい!とか、私も降りていいの?とか、可愛い動物はいたの?だとか、そんな事を聞いて笑う幼い声。海賊船には似つかわしくないそれに、けれども赤髪のシャンクスは驚く様子もない。

 その異常事態により何事かと視線を向ければ、それはおっさん達も同じだったのか声の主へと視線が自然と集まった。その声の主は、赤と白の髪の毛持つ愛らしい女の子で……。

 

 「……見損なったわ。……赤髪海賊団が、まさか、幼女趣味の誘拐犯達だったなんて……!」

 「待て!違う!違うぞ!?」

 

 赤髪のシャンクスが慌てた様子を見せるけど、目の前に愛らしい女の子がいるではないか。推測でしか無いけど、今の私と同じくらいかな?

 ふむ、つまり、この位の子供がお好き……と。成程……。

 勝てる筈は無いけど、この少女だけでも助けなければ……。そう思って鉄扇を強く握ると、少女が私と赤髪のシャンクスを見比べて嫌そうな顔をした。

 

 「シャンクス、うわき!?私というものがありながら!?」

 「辞めろウタ!今そのノリのネタはヤバいんだよ!!」

 「やはり、そう言う事なのね……。許すまじ……変態共……!!」

 

 言葉と同時に、鉄扇を広げ刃とした状態で飛び掛る。それでもただ飛び掛っても勝てないのは間違いないからと、昔取った杵柄で舞いを元にして動く。

 舞は武に通ず(ぶハぶ二つうズ)。風を切るのではなく、風に寄り添う。

 木の葉を断つのではなく、木の葉が動くそれを受け入れる。水に流されるのではなく、水と共にあれ。

 自然は敵にしてはならず、なれど味方と思ってもいけない。自然とは、共存するべき隣人なのだ。

 

 「……綺麗なもんだな」

 「感心してる場合か。あの子供、さっきより強いぞ……!」

 

 赤髪のシャンクスの言葉に、私の記憶には居ない男が声をかける。先程の島ではただ私の動きを見ていたように思うのに、今は棒を一本手にして臨戦態勢に入っているのが見て取れた。

 でも……身長差を利用すれば守るだけなら、逃がすだけなら可能だろう。いくら海賊だとは言っても、子供に手を出すなんて……許せない……!

 今ある顔の傷を元に、更に深く抉ってその目を失明させてくれる……!滅びろ変態!!

 身体が軽いから、甲板を蹴れば簡単に顔に届く。けれども軽く身体を逸らして避けたその胸を足場にターンを入れて扇を振り下ろしたら、薙ぎ払われて飛ばされる。

 けど、着地は蜜柑の樹から降りる時のそれで慣れているのよ。着地と同時に少女がすごーい!と喜ぶ声が聞こえたけど、お話は後にするしかない。

 甲板を蹴り足の健を切り裂こうと接近した時、その足が動く。それを躱して踵落としをしようとしたら、またも逃げられてしまえば舌打ちのひとつも出ようと言うもの。

 

 「え……?すごい……そのダンス、見たことない!ねェ、それ教えて!」

 

 遠心力を利用して斬り掛かろうとした時、そう言って少女が私と赤髪のシャンクスの間に入って来たので、慌てて鉄扇を仕舞い怪我をさせないように抱き締めるとクルリと位置を変えて、自らの背後に庇えば拍手が起きた。何事かと警戒しつつ周りを見ていると、ベン・ベックマンが笑って言う。

 

 「誤解させて悪かった。その子はウチの音楽家で、お頭の娘だ」

 「……赤髪の、シャンクスの、娘?」

 

 言われてから視線を向けてよくよく見てみれば、確かに同じ赤い髪がぴょこぴょこと動いている。キラキラとした眼差しは、共通しているように見えなくもない。

 でも、なら、なんで……私は、彼女を知らないのだろう。ああ、この子もイレギュラーなのかな?

 違うのかな。てか、そうなると、この人結婚してたの?

 

 「スゴい……今のどうやったの!?教えて!あ……そうだ、えっと、私はウタ!赤髪海賊団の音楽家で、シャンクスの娘よ!……あなたのお名前は?」

 「私は……ナミ。今、事故が起きて……ここに無理矢理連れて来られた所よ」

 「どこの海賊団に所属してるの?」

 「海賊じゃないわ。私は、行商人なの。一人で作った物の販売してるだけの民間人よ」

 

 薄く笑った私に、ウタと名乗った少女は不思議そうにしている。それから赤髪のシャンクスやベン・ベックマンに視線を向けた。

 それを受けてベン・ベックマンはふわりと笑うと、あやすようにウタちゃんを抱き上げる。そうして私は、赤髪のシャンクスとの話に一旦戻る事が出来た形だ。

 漸く騒ぎが落ち着いた時には、この森には肉食の獣もいるからと思って保護しようとしてくれていたのだと言う事が、嫌という程に理解は出来た。自分の娘と同じ歳頃の女の子が危険に飛び込もうとすれば、止めて当然だろうと思うから。

 そういう事なら許すから解放してくれと頼む私に、それでも何かお詫びをしたいと言われて、私は困りきってしまう。まだアーロンに襲われていないので村を解放してくれとも言えないし、これからルフィと出逢うであろうシャンクスから金を巻き上げるのも如何なものかと思うのだ。

 そこでふと私にはかなう筈のないシャンクスに、戦いを仕込んでもらえたらアーロンを倒せるようになるのではないかと思い付き、視線を向けた。シャンクスに並ぶのは無理でも、アーロンを倒せる強さをシャンクスから得られたら、村の誰も奴隷生活をせず済むのではないかと言う願望だ。

 覇王色の覇気は素質の問題だから無理としても、見聞色の覇気と武装色の覇気は身に付けられるかもしれない。そう考えた直後に、ルフィを連れ去った山賊の居場所が分からなくて焦っていたシャンクスを思い出して、見聞色の覇気は無理かと落ち込む。

 

 「……その期待の眼差し向けた直後の、諦めの眼差しを辞めてくれないか?」

 「あら、ごめんなさいね。そう言えば、ウタちゃんにしか名乗って無かったわよね。私はナミ。シャンクスさんからのお詫びだけど……先に確認したい事があるの」

 「なんだ?」

 「覇気は使えますか?」

 

 その瞬間空気が変わった。それにより、覇気を知らない訳ではないのはこれで確認出来た。

 だとしたらあの時は、咄嗟の事で見聞色の覇気を使えなかっただけだとも考えられるし、そうだとしたら正直助かるんだけどな。それなら、私は覇気を使いたい。

 

 「それを知って、どうする?」

 「覇気を使えるなら、お詫びとして私の事を鍛えて欲しいと思って。私は強くならなくちゃいけないから」

 

 ベルメールさんとノジコを守る為ならば、どんな屈辱にも厄災にも耐えて見せる。だけど叶うならば、皆を奴隷にしたくはない。

 傷付けずに守れるのならば、その方が良いに決まってる。村には私より幼い子もいるのだから。

 

 「……強さを求めて、どうなる。すでにナミは、その歳では考えられない程に強い。まだ十歳にもなってないだろう」

 

 私は、シャンクスの言葉に頷くと同時に五歳だと答える。それにベックマンでさえも驚きを隠さないから、やはり尋常じゃない能力を持っているのだろう。

 流石はナミちゃんの肉体だと感心しつつ、反応を伺う。手応えは……有りと見て良さそう。

 

 「……そんなに強くなってどうするんだ。嫁の貰い手が無くなるぞ」

 「それは心配いらないから、気にしないで。確実に美女になるのは決まってるから、むしろ強くならないと穴だらけにされるわ」

 「お頭……ナミの年齢は置いといて、どうするんだ?」

 

 ベックマンが問い掛ければシャンクスは情けない表情でベックマンを見て、約束しちまったからなァと落ち込んでみせる。それがなんだか可愛く思えて小さく笑えば、ヤソップが微笑ましそうな視線を向けて来た。

 それに首を傾げるとヤソップは、笑うと息子と同じ年頃だと分かるな……なんて言うから、まだ笑顔が幼いらしいと知る事が出来た。可愛い一人息子の存在故か、どうしてもヤソップは子供好きらしく私をやたらと触ろうとするので、それだけは迷惑だったりするけど嫌いにはなれない。

 

 「シャンクスさん、修行つけてくれないなら、他に希望は無いのでさっさと解放してくれませんか?私、忙しいのよ。そろそろ帰らないと家族に心配かけちゃうし」

 「あ!家まで送って行ってやるのが、お詫びってのはどうだ?」

 

 名案だと言わんばかりのシャンクスを睨み上げて、私は低く繰り返す。修行付けてくれないなら、構わないで欲しいのよ、切に。

 こんな会話の途中で、ウタちゃんはこちらを興味深そうに見てくるけど、今は構っていられない。ウタちゃんは可愛いけど、どうして海賊なんぞに、私の故郷を教えてやらにゃならんのか。

 

 「修行つけてくれないなら、解放して。私、忙しいの」

 

 私の言動にビクリと身体を揺らしたシャンクスがベックマンに助けを求めるように視線を向けると、ベックマンは苦笑しつつ私と視線を合わせる為に膝をついてくれる。相手が小さい子供だからと、下に見ない所がベックマンの凄さだと思う。

 相手は瞬殺するのも容易い何処にでもいる子供だと言うのに、対等の相手に話をするような態度は、なかなか出来るものじゃない。賢いだけでなく、人間としても出来てるのだなと思えば、やはり好きだなと思わされてしまう。

 

 「お頭が悪かったな。家からここまでは近いのか?」

 「海賊に私の実家を教えるつもりはありません。さっきウタちゃんにも言ったけど、私は船で一人でここまで来たの。今回は、この島の測量をする為に。お詫びをするつもりがあるなら、修行つけて。それが無理なら解放して」

 「……お頭、こう言ってるが?」

 

 ベックマンは私の本気を悟ったのか、薄く笑うとシャンクスにそう言う。シャンクスはそんな私とベックマンを見て、深い溜息を吐き出すとお詫びだもんなと言って修行を付けてくれる事になった。

 期間は二ヶ月。この島で船の破損を直したりする期間を、そっくりそのまま詫びの修行期間としてくれた。

 勿論途中でウタちゃんと話したりする事は許されたというか、現状で突撃されていた。けれども、あまり赤髪のシャンクスに近付くとウタちゃんが半泣きで赤髪のシャンクスに抱き着くから、修行なんてつけて貰えるのかと正直不安になる。

 

 「赤髪のシャンクス様……貴方に聞きたい事があるのだけど」

 「とりあえず、二つ名付けて呼ぶのと、敬称つけるのと、敬語で話すのを辞めてくれ。慣れなくてな」

 「分かったわ。それでね、シャンクス……貴方の娘様、修行の時に巻き込みたくないんだけど大丈夫?」

 

 シャンクスは目を見開いてから、爆笑する。何を言ってるんだと言わんばかりに。

 それにより私がホッと息を吐き出すと、シャンクスから早速何がどの位扱えるのか見せろと言われて武器を渡される。それからシャンクス相手に大立ち回りをさせられて、私が動けなくなるまでそれぞれの武器で戦わされた。

 初めは微笑ましそうに見守っていた赤髪のクルーも、それが日替わりで違う武器を使って弄ばれている私を見ていたら、何故か顔色を悪くして行くようになった。シャンクスが子供相手にしては、厳し過ぎるとでも思ってくれたのかもしれない。

 シャンクスも初日の最初の内はにまにまと笑っていたのに、気付いた時には真剣な顔で私を相手してくれていたので、本気で約束を守ってくれるつもりらしいと知った。動けなくなるまで扱かれる私は、小舟に帰る事も出来ずにシャンクスの部屋でウタちゃんと並んで寝泊まりさせて貰っている。

 そんなこんなで、私の扱える武器が一巡した頃、シャンクスがボソリと呟いた。ウタちゃんは私の事を武術馬鹿だと認識したのか、修行中は呆れた顔で離れて見ているので、巻き込まないと安心出来る反面なんか寂しい。

 

 「ベック、本気でナミを仲間にしたいと言ったらどうする?」

 「お頭がロリコンだと新聞社にリークする」

 

 迷い無く答えたベックマンにシャンクスが猛抗議していたけど、今はそれどころでは無い。それに、リークした所で娘の友達を相手にしてるパパって枠でしかないだろう。

 現在シャンクスは、木刀だけで私を相手してくれており、私がどの武器を使おうと、その途中で体術をどれ程挟もうと、擦り傷一つさえも与えられない。舞を元にした戦い方も最初は隙を作れたけど、今では寧ろそれを吸収されて武に特化したそれにシャンクスが昇華してしまったから、使えば距離が開くばかり。

 こんなんで、どうやってアーロンに対抗したらいいのか。何が〝原作のナミちゃんよりも強い〟だ。

 私は……こんなにも弱い。かなわないどころか、足元に跪く事さえ出来ない程に遠い。

 遠過ぎて恐怖さえ抱けない。どうしたらいい、どうしたら勝てる……?

 

 「ナミは凄ェな。俺より強いし、根性もある」

 

 落ち込む私にそんな事を言ってくれるのは、斧を振り回してくれた彼だ。彼にも今は感謝している。

 彼が間違った対応をしてくれたから、私は今シャンクス達幹部に師事する事が出来ているのだから。まぁその師匠が、師匠と呼ぶ事を許してくれず、それどころか名前を呼び捨てにしないと返事をしてくれないと言う、謎の我儘を発動されているのだけど。

 シャンクスだけじゃない。幹部全員が師匠として、私と向き合ってくれている。

 基本的には約束したシャンクスと、武芸十八般と言えるだろうベックマン、そして使う武器が近いからと船医のホンゴウが対応してくれてるけど。でもやはり、メインはシャンクスで間違いないのだ。

 

 「私は、弱いわ。まだまだ擦り傷一つも負わせられない。それにシャンクスは〝右手〟で相手してるのよ。……せめて、左手を使わせてみせる」

 「……お前、凄いな」

 

 感嘆の息をもらす男を無視して、私はそろそろ来る筈のカモメを待つ。ニュースクーとしても働いている彼等だからついでに新聞も買い取ろうとしたけど、カモメは私からは絶対にお金を受け取ろうとはしない。

 私はそんなカモメから新聞を受け取り、二つの封筒を渡す。一つは譜面を一枚入れてあるもので、もう一つはベルメールさんとノジコに、訳あって暫く帰れないけど心配しないで欲しいとの旨を認めてある。

 ニュースクーだからクーちゃんと呼んでいるそのカモメの羽根を撫でて別れを惜しんでいたら、ベックマンの足音が聞こえてクーちゃんにお客さんよと声を掛けてから離れる。それを受けてクーちゃんは、ベックマンに新聞を売ると飛び立って行った。

 それを見送っていたらベックマンが唐突に声を掛けて来たから、珍しいなと思ってその顔を見上げる。実際私と一番多く戦ってくれているのはシャンクスだけど、二番目に多く戦っているのはベン・ベックマンではなくホンゴウと言う船医さんで、ベックマンは多忙過ぎるのもあり中々私との時間や会話は無いのだけど……。

 

 「ナミは、何者だ?魚人とのハーフやクウォーターかと疑ったが、その特徴を持っていない。ニュースクーと親しげな様子を見るにミンク族系のハーフやクウォーターか?身体能力も普通の子供より高い。だが、ミンク族特有のものも特徴として持ってはいないな」

 「……私は、人間よ。魚人でもミンク族でも、巨人や小人でも無く、人間。……手長族とかでも無いわよ」

 

 答えた私にベックマンは訝しげな顔をして見せるけど、そんな顔されても困る。私は産まれてきただけでそれが罪悪になり得る唯一の人間と言うだけで、他には何も変わったところ等無いのだから。

 ふぅと息を吐き出してから、ベックマンに笑いかけて私はシャンクスの元へ足を進める。それに対してどこへ行くと聞かれるので、ベックマンとの戯れが終わったなら、シャンクスに修行つけてもらわなきゃと答えた。

 シャンクスは私の姿を認めると、笑顔で手招いてから目隠しをするように言って布を投げ渡してきた。どうやら、私の実力は把握してくれたらしい。

 

 「……見聞色の覇気から教えてくれるの?」

 「目隠し渡しただけで理解したナミが心底怖ェよ、俺は」

 

 そう言うけど言葉とは裏腹にシャンクスは余裕そうだから、私は迷わず目隠しをしようとして、動きを止める。それにシャンクスが首を傾げるから、耳も覆うべきか確認してみれば、耳は出しておくよう言われた。

 何かがあった時の為にも、制止等が聞こえないと不味いかららしい。……シャンクスは優し過ぎると思う。

 そう思って笑いながら目隠しをした瞬間に、シャンクスは無言で木刀を振り下ろす。それを躱せば周りからはえっ!?という声が聞こえるけど、風を切る音があるし、シャンクスの気配には慣れてしまったから見なくても何となくは分かる。

 修行が甲板で行われていて、平らであるが故に足元への注意が不要だというのもあり、手加減してゆっくり振り下ろされるソレは躱す事に関しては問題ではない。その時シャンクス以外の何かが攻撃してくるのを感じて避ければ、ベックマンが感心したような声を上げた。

 

 「……今、本気で蹴り飛ばそうとした?」

 「正解だ。すでに見聞色の覇気を使えているのか?」

 「使えないけど、今の風の音は蹴りかなって……。それに、ベックマンにも何だかんだと毎朝お世話になってるから、分かるようになってきただけで」

 「見聞色の覇気の基礎は、初めから持ってるって訳か。お頭が欲しがるのも分かるな」

 

 そう言いつつ、ベックマンは拳や足を繰り出してくるからそれを避けつつ答えていく。時折不意にシャンクスの木刀もそれに混ざるから、油断は出来ない。

 でも、何だろう。ベックマンのリズムが分かってくれば、身体が軽く感じるのは当然なのかも知れないわね。

 舞は武に通ずとはよく言ったものだと、昔取った杵柄効果を実感して、その動きの流れを感じられる事に喜びの感情が表面化しそうになるのを抑えながら動く。身体が勝手に反応している。

 ベックマンとシャンクスは息が合っていて、だからこそ私も合わせて動きやすい。勿論、二人が手加減してくれてるのもわかってるわ。

 躱していくうちに、次にどちらが何をしてこようとしているのかが分かるようになってきて、周りでハラハラした様子で私を見守っているヤソップが見えた気がした。その直後、この修行とは異なる嫌な風を感じて私は声を上げる。

 

 「シャンクス!スネイク!嵐が来るわ!船を固定して、船内か森に避難して!」

 

 私の声に反応したシャンクスは動きを止めて、ベックマンの肩を叩くと同時にスネイクが動き出す。この船で私の言葉を最初に信じてくれたのは、スネイクだった。

 初めはいつも信じて貰えない私の言葉を、小さくそうか……と呟いてから皆に指示を出してくれたのは、本当に嬉しかったの。……そんな思い出に浸っている間にも、突然船内が慌ただしくなった。

 訓練とはいえ攻撃が止んだと認識すると、身体はどっと疲労を感じたようで、崩れ落ちるように私はその場に座り込む。それをシャンクスが抱き上げて船内へと移動させられるから、甘やかされてるなぁと思う。

 シャンクスの部屋に運ばれた私は、ベッドに下ろされて、そこで漸く目隠しを取ろうとしたのにそれを止められる。ウタちゃんが帰るまでに、身支度整えないと心配させちゃうのに……。

 

 「まだ、目隠ししてた方がいい?」

 「もう少しで見聞色が身に付きそうだからな。とりあえずもう少しこのままにしていたらいい。それと、少し休んどけ」

 「……シャンクスは、優しいね。ありがとう」

 

 心から思った事を口にしたら、シャンクスがベッドから離れて壁に寄り掛かりつつ私に振り返ったのが分かる。その直後何故か息を飲んだのも。

 

 「ナミは、警戒心を持った方がいい。今のままだと危険だ」

 「……え?」

 

 言葉と同時にシャンクスの気配が動く。攻撃的なそれでは無いけど、一瞬の内に動いたシャンクスが私をベッドに押し倒しているのは分かる。

 早すぎて何一つ反応出来なかった。シャンクスは、やっぱり凄い。

 

 「……凄い、反応出来なかった。早いのね、シャンクスって」

 「だから、警戒心をだな……」

 

 その時ドアが開く気配を感じたと思ったら、ベックマンが入口で固まっているのを感じた。どうしたのかと思ったら、私が声を掛けるより早く、シャンクスが私から離れるより先に、ベックマンが低く唸るようにシャンクスに声を掛ける。

 

 「まさか、本気でナミに手を出すとは……見損なったぞ、お頭」

 「……ま、待て!違う!まだ何もして無い!」

 「まだ?……そうか、今夜からはナミは俺の部屋で預かる。初潮も迎えてないような子供に……ウタより歳下の幼子に手を出すとは、思ってもみなかった俺の責任だ」

 「待てベック!誤解だ!」

 「ナミ、来い」

 

 とりあえず大騒ぎになってるけど、ベックマンが珍しく命令口調だからと素直に身体を起こしてベッドを降りようとしたらシャンクスの腕が私に回されて、強く抱き締められた。そのままシャンクスの胸に閉じ込められれば、私は身動きが取れなくなる。

 どうしたものかと考える私とは裏腹に、ベックマンの気配が怒りに満ちていくのを感じ取ってしまった。……正直怖い。

 

 「……お頭、ナミを離せ」

 「嫌だ!ナミは抱き心地は良いし、いい匂いはするしで、安眠効果高いんだぞ!」

 

 ……そんな理由で、私はシャンクスに抱かれて寝ていたのか。てっきり、ウタちゃんとセットで守ってくれてるんだと思ってたのに。

 でも言われてみれば、ウタちゃんも私に絡み付いて寝てるから、結果的に私が川の字の中心で隙間を埋められて¥マークの上部真ん中からも線が出てるみたいな状態になって寝てたわ……と気付く。でもそうよね、匂いはシャンプーとかだろうから、今度ベックマンに少し融通しておこう。

 そうすればベックマンをシャンクスが抱きしめて寝る事で、同じ効果を得られる筈。ウタちゃんだって私よりは、母親と一緒に寝たい筈だもの。

 

 「……匂いだけなら、私の修行終わる頃ベックマンからするように出来るから、ベックマンをその後は抱いて寝たらいいと思うのよ。……だからね、シャンクス。いくら心の通じあってる愛妻のベックマンでも、ちゃんと誤解はとかないと、嫌われちゃうよ」

 

 私の言葉に二人の男は黙った。それから声が揃った。

 それは、想像を絶する声量。何故そんなに騒ぐのだろう。

 

 「「こんな伴侶はいらん!変な誤解をするな!」」

 

 あれ?

 二人って夫婦じゃなかったの?

 ……なら、ウタちゃんは、シャンクスと誰の子なんだろう?

 男は子供を産めないなんて、この世界では考える必要なんてないと思ってたので、本気で分からない。首を傾げる私に、シャンクスは泣き出し、ベックマンは笑い出した。

 ベックマンは旦那の浮気を疑って怒ってるんだと思ってたと言ったら、ベックマンは暫く笑いの渦から抜け出せなくなっていた。でも、本気でウタちゃんがシャンクスとベックマンの娘だと思ってたのにと言ったら、そこで爆弾を投下されてしまう。

 

 「ウタは、確かに俺達の娘だが……拾ったんだ。ウタも知っている。俺達の娘ではあっても、血の繋がりは無い。……そもそも、俺もお頭も男だからな。子は孕めねェよ」

 「私の知らない悪魔の実の能力で、触れた二人の子供を瞬時に創り出せる人に出逢って産まれた娘とか……」

 「怖い事言うなよ……。現時点でウタはお頭に似過ぎてて手に余ってんのに、パワーアップしたらどうしてくれる」

 

 嫌そうに顔を歪めるベックマンは、これで面倒見が良い。この間もシャンクスがウタの髪の毛をぐちゃぐちゃにして泣かせたのを見て、いつもの髪型を綺麗にセットしてあげていた。

 私がお風呂から出るとドライヤーで渇かしてくれるのも、ベックマンだ。そう言えば、この船には音楽家が数人居るのに、赤髪海賊団の誇る歌姫であるウタちゃんが歌う時に限っては誰も伴奏や演奏をしない事が不思議。

 

 「ねぇ……なんで、ウタちゃんが歌ってる時は、誰も演奏しないの?」

 「最初は子供の歌に合わせて演奏するのは難しいだろうって事で無かったんだが……俺達が出会う前に、ウタは悪魔の実を食ってたらしくてな。ウタが乗って歌ってる時の歌声を聞くと寝ちまうんだよ」

 

 ベックマンの言い分が本当なら、演奏は確かにできない。でも、歌声を発する前に音楽が聞こえる事も……と思った所で、歌う前に小さく、音確認の声を出した時に能力が使われてるのだと気付く。

 だとするなら、ウタちゃんを中心にしてたまに皆が寝てるのに遭遇するのは、私が海図を描いたりするのに集中し過ぎて何も聞いてないから……?だとするなら、今度色々歌ってみて欲しい歌があるけど、難しいかしらね。

 少し考えながらシャンクスに問かければ、間髪入れずに答えてくれる。どうやら基本的に、この船の人達は子供が好きらしい。

 

 「必ず寝ちゃうの?」

 「いや、ウタはまだ自己調整できないらしくて、練習中とかはその能力が発動しない。コンサートだと、舞台だと自分で思った時に発動してるようだな」

 

 希望する世界がある時、ウタちゃんはその能力を発揮する。そして、知らない曲を歌う時や、ただ口ずさむ時は能力が発動しないなら……。

 音楽家の人達とウタちゃんが一緒に音楽家としての役割を果たす事も可能。初めて見る曲でそれができるなら、彼等の望むような歌を私が思い出して描き出せば……雨の日の娯楽には最高なのかも知れない。

 だけど私は、自分の活動を教えるつもりは無いのだ。この場合どうやって、その曲を薦めたら良いんだろう。

 発売してしまえば、それは必ず知らない曲と言う事にはならない。あ……そろそろ何か、新しい曲を描かないと……催促来てたんだった。

 

 「なら話は纏まったようだし、ナミは俺が引き取る。お頭にはウタがいるんだから良いだろう」

 「良くねェよ!ベックがウタと寝たら良いだろうが!」

 「そもそも、お頭がナミを襲ったのが原因だろうが。諦めて返してもらおう」

 「巫山戯んな!元々ナミは俺のだ!」

 「私は、ベルメールさんとノジコのものよ。そして、蜜柑の従者」

 

 私の言葉は無視されて、二人の喧嘩は室内に谺響する。それは眠そうな様子で帰って来たウタちゃんが、目隠してる私と喧嘩してる二人を見て泣き出すまで、終わる事は無かった。

 外は嵐。中は混沌。




タグミス直しました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。