真っ黒なイメージだった悪魔が、桃色に変色して目の前に現れる。逃げるという選択肢すら、恐らくはないだろう。
それでも、ただ泣いて懇願するなんてできない。だから余裕を見せる為に、無表情で桃色男に視線を向ける。
「……今日は俺との約束だったってのに、何故逃げた?」
何もされていないのに、首筋にナイフを押し当てられているような心持ちにさせられる。私は震えそうになる身体に力を入れて、細く息を吐き出してからふわりと笑う。
震えないでよ、と、自分の身体と声に願う。発声は、気合いだ。
舞台で怖気付いたら何も出来ない。声を出せ、笑え、ここは私の舞台。
「私が船を出した訳じゃないのよ。それより、良くこの船にいるのがわかったわね」
「鷹の目は目立つからな。……なら、船を出したのは鷹の目か」
「成程ね。……そうよ、気付いたら出てたから、慌てて現在位置を確認してた所。勝手な事しないで欲しいわよね」
昨夜の行為も含めて……とは、流石に言わなかったけれど。ドフラミンゴはそんな私を暫し無言で眺めてから、またもやその口元に笑みを浮かべた。
声は美声という他無いのに、なんでこんなに残念な男なのだろう。迫力と威圧感だけは、驚異的だと思うけど……これ、変質者が持つそれと似てる気がするのよね。
「それで鷹の目は?」
「さぁ?起きたら居なかったのよ。それで……貴方はどんな理由で私の所へ?もう、ミホークは居ないし〝宝玉〟については何も語るつもりは無いわよ」
私の言葉にドフラミンゴは笑い、動けない私の唇に己のそれを重ねる。それに対抗する為に舌を噛もうとすれば、即座に離れたけれど、いつの間にか繋がれた糸による拘束は解かれない。
でもなんでか分からないけど、その腕が、指先が、震えている。驚いて凝視すると目の前で膝をついて、頭を抱えるから咄嗟にその身体を支えようと駆け寄ってしまう。
離れるのは無理だったのに、近付けるのは糸がたわむからかな。それとも、崩れ落ちた事で能力が解除された?
解除されたのなら逃げる好機。海に落とせば私の勝ちだとわかってるのに……。
「どうしたの!?具合悪いの?」
どこか痛むのかな。漫画を読んだ感想としては、そんな持病や怪我なんて覚えは無いけど。
頭を抱えて脂汗を滲ませる人を、私は見捨てられなかった。ここで海に落とすとかして逃げるべきだと、理性は言うのに……それをできるだけの心の強さを私は持ってない。
「ドフラミンゴ!」
「どふぃ……だ」
「え?」
「ドフィと、呼べ。やっと見付けた、ナミ」
何を言われてるのか分からない。誰かと勘違いしてるの?
でも、さっき見つかったばかりなのだから、今の言葉はおかしいわ。だから混乱する。
顔を覗き込んで、額を合わせる。熱は、なさそう。
その刹那、その腕が私を強く抱き締めて、縋るように震えた。泣いてるのかと思う程、必死なそれに抵抗する気力が奪われてしまう。
そんな私を嘲笑うかのように、ドフラミンゴは私を甲板に押し倒した。そのまま再び重ねられた唇は、深く私を貪る。
それが何故か異様に上手くて……。違う、私の弱い所をピンポイントで攻めてるんだ。
「んっ……まっ……ドフ……ンンっ」
「ナミ、もう……離さない」
意味がわからずに混乱するけど、でも、何だろう。雨の中で捨てられてる子犬みたい。
震えて、縋りつかれて、無意識で腕を首に回していた。そのままそっと右手で背中をポンポンと軽く叩きつつ、左手で後頭部を撫でる。
何でだろう。夢で昔見てたけど、その夢の中でさえ殺されそうになってた覚えしかないのに、どうしてこんなにも愛しく思えるのか分からない。
原作では明らかに悪人だったのに、ここにいるのは迷子の少年。……泣かせたくないの。
「ナミ……会いたかったんだ」
「探させて、ごめんね」
「どこにも、行くな。もう、消えないでくれ」
「ここに、いるよ」
大丈夫、大丈夫と言いながら頭を撫で続ける。すると震えは落ち着いて、上げられた顔は微かにニヤついていた。
嫌な予感がして咄嗟に突き飛ばすようにして離れようとしたのに、その両手首を片手で一纏めに握られる。それに戸惑いドフラミンゴを見ていると、そのまま腕を上に持ち上げられてしまう。
結果的に宙ずりとなった上に、全ての体重が手首だけにかかり、無防備な姿を晒す事に。地に足がつかない恐怖と、目の前の男に対する恐怖で抑えきれない微かな震えが全身を巡る。
「ナミは昔から、誰にでも優しかったな」
「昔からって……」
「誰にでも優しく微笑んで、困ってる奴がいたら無条件で助けて庇う。その姿に何度、嫉妬で狂いそうになったか」
昔からなんて知らない。やっぱり最初の時に勘違いしてた、別な歳上の女の人と勘違いしてるんだわ。
恐らくそこまで似てるなら、本来のナミちゃんの御母堂。でも、今それを言って聞いて貰える?
逃げなきゃ、良くない。これは、良くない流れよ。
「その度にナミを犯し、孕ませて、もう二度と離れられなくしてやりたいと願って来た。ここもしっかり躾て、俺のモノを咥えこんでいないと落ち着かないように」
手首を掴んでいない手で、指を下腹部に示して言う言葉に本気度が伝わる。恐怖と嫌悪感から寒気がして、血の気が引いてるのは自分でも理解できてしまう。
嫌……。助けて、師匠っ!
「常に俺の匂いがする、雌猫にしてやりたい。……怯えてるのか。だが……その顔、男を煽るだけだ。気を付けろよ」
そっと下腹部を示していた手が移動して、私の頬を撫でる。ビクリと震えたのは、不可抗力。
その手は私の首を撫でるようにおりて、喉の中心で動きを止めた。そのまま押されたら、窒息死するわね。
そんな事を思った直後、指が下に下がり、服が指で引き裂かれる。能力者だからできるのだろうけど、カッターか何かの刃物で割かれたような綺麗な切り口に、何故肌が切れてないのかと思う。
「安心しろ、殺したりしねェから。ただ、孕むまで犯して辱めるだけだ」
「それのどこが安心できるのよっ!離して!」
「俺を……拒むか?」
「当然でしょ。私は安くないのよ」
言ってから小馬鹿にしたように笑えば、ドフラミンゴは何かを少し考えている様子だったので、珍しい事もあるとその顔を眺める。こうして見ると、ドフラミンゴとロシーは明らかに天竜人であるのが不思議としか思えない程に、整った顔立ちをしている。
髪の色は兄弟揃って同じ金髪で、身長も同じ位。原作知識や夢を思い出してみても、化粧で分かりにくかったけど、二人はよく似ているのだろう。
夢で見たあのシーンを、ドフラミンゴは知っている様子だった。だとしたら、原作とは違いロシーは生きているのだろうか。
「安くない……か。金で身体を売るタイプには見えなかったが、いくらだ?」
考え込んでいた私は突然聞こえて来た言葉に反応しきれず「ふぇ?」と返せば何故かサングラス越しにも分かる程、呆れたような顔をされる。いや、自分でもふえ?はないと思うけどさ。
誰かに助けを求めるのは無駄。煽るだけだと昨夜学んだもの、強気でいくわ。
その、さっきの返事はとりあえず無かった事に……できないよね。やり直しできない現実はこんな時世知辛い。
「そうだ、こういう奴だった。……なら、言い換えてやる。鷹の目は幾ら支払った?」
「……確認して無いわ」
嘘では無い。メモには二千万ベリーはあると書かれていたけど、まだ未確認だもの。
それを言えば何故かドフラミンゴは糸人形で分身を作り、私の手を離して本人が船内を見て周る。逃げられないように糸人形が見張ってはいたけど、何かされるような事はなく、本体が私の元へ戻ると小さく舌打ちした。
何が気に入らないってのよ。メリーは可愛いじゃないの!
「……この船、お前一人なのか」
「そうよ」
見聞色の覇気使えばわかるでしょうに。私の他はアンタだけよ。
言いたくなったその言葉を飲み込む。無駄に争う事はないわよね。
「仲間は」
「私に仲間なんて居ないわ」
アーロンは仲間だと言い張るけど、私は仲間ではなく明らかに奴隷。もしくは玩具。
優秀なペットかも知れないわね。そうね、毎朝新聞持って来る犬みたいな。
もし、守るべき人達がいないなら攻め込まれた時に、抵抗もせずに諦めていたと思う。そんな事を思った時、ドフラミンゴの顔が目の前に迫っていた。
「その顔、気に入らねェな。何故そうも死を望む?」
「別に、私が望んでる訳じゃないわ。常に隣に死が居るだけよ」
その時脳内で谺響したのは、泣きたくなる程に優しい声。そして、狂ったようにけれども悲痛な声が奏でる笑い声。
【無事だな?怪我はしてないか?】
【僕もさ、ついて、いくよ。君達は、生きて】
炎が私を取り囲む。大切な人が、炎と刃に消えていく。
それは幻なのか、現実なのか。分かるのは、ただ、筆舌に尽くし難い程の絶望。
嫌だ。独りに、しないで……!
「ナミっ!」
「ドフラミンゴ?」
「未来であるほど過去、か。なるほど。あの時の女がキーパーソンだった訳か」
「何言ってるの」
本当に意味がわからない。なのに、ドフラミンゴが私を呼ぶ声は何故か慈しみに満ちている。
混乱して見詰めるだけの私。ドフラミンゴはマジマジとそんな私の顔を見て、溜息を落とす。
「……鷹の目に一晩で二千万以上出させるとは、何をした?」
「何も。……して無いわ」
ただ、抵抗しきれないで抱かれただけよ。鷹の目ならば、無理矢理女を抱かなくても、いくらでも言い寄ってくるだろうにと思えば、その真意が本当に分からないわよね。
そんな事は言えないので、妙な区切りの入った言葉になってしまった。でもドフラミンゴは不愉快そうにしてる。
それにしても、さっきの体調不良大丈夫なのかしら。私が見た幻覚みたいなのはどうでもいいけど、ドフラミンゴのは心配ね。
その時腰を撫でられ、妙な声が勝手に出てしまえば、そのまま服の上から全身をまさぐられてしまう。抵抗したくてもいつの間にか指一本動かせなくされていて、必死で声を抑えながらドフラミンゴを睨み付ける。
「……何も無かったにしては、随分鷹の目の匂いがする上に、敏感になったな」
「貴方に報告する必要は無いでしょう!?」
「は?他に誰に報告する必要があるんだ。ナミは俺のものだ」
「何言ってんの!?」
本当に、さっきの頭痛で頭いかれたんじゃないかと思う。一体いつから、私がこんなピンクの巨人のものになったってのよ。
私は今も昔も変わらず、この世界で自我を持ってからはずっとベルメールさんとノジコのものよ!この、勘違い男めっ!
「……何でだろうな。ナミが考えてる事がわかる気がする」
「わかる訳「ベルメールさんとノジコ、だろ」なんで知ってんの!?」
言葉を遮られて告げられた言葉に間髪入れず問い掛ければ、ドフラミンゴが「変わらねェ……」と言いながら妙に優しく笑う。本当に、昔から私を知ってるみたいな反応。
何だろう、この違和感。私が何か忘れてるの?
「いや……もう良い。俺も同じだけ支払ってやるから、満足させてみろ」
言葉と共に糸から解放されて、身体は突然自由になる。でもそんな技術私には無いし、そんな事したくもないのだから答えが是となる筈もない。
そもそも何がいいのよ。なんにも良くないわ。
「お断りよ!ミホークとの事も、私の意志とは関係なく「つまり、やはりあの野郎がナミのハジメテを奪ったんだな。あの頃は口割らなかったが、なる程こういう流れか。……フッフッフッ……」」
笑い出したドフラミンゴに、しまったと思って咄嗟に逃げようと身を捩る形で踵を返したけど、無駄だった。そう言えば、昨日もこんな感じで本音もらしてしまったのを思い出す。
気を付けよう、そう思った所で後の祭り。甲板に押し付けられるように背後から押し倒されれば、呻く以外何が出来るというのか。
両手を動かせなくされてるし、足も動かない。腰に馬乗りになられて、この先に何をしようとしてるか分からない程無垢では無いけど。
「ドフラミンゴ、やめて、お願い」
「鷹の目はそれで、やめてくれたのか?」
「……だから、アンタに関係なっ」
言葉の途中で、首にドフラミンゴの糸が巻き付いたのが分かる。声を出せば多分切れるという事まで。
あまり大きな動きもできない。それをしたら、私の首が落ちるわ。
「……賢いな。なら、今日はここで俺の為に、ストリップでもして貰おうか」
私は無言でいるのに、勝手に動く身体に泣きたいような気持ちになる。けれども……それと同時に、泣く気にもならないのも事実。
恐らく泣いた所で、喜ばれるだけだろうから。それならば、アーロンの元にいるつもりで心を凍らせればいい。
ただ、冷たい視線で睨み付ける事だけは、やめられそうにないけれど。そういう意味では、私もまだまだ未熟だわ。
「おいおい……普通は無言で睨むんじゃなくて、戸惑ったり泣いたりしながら、どうしてとか、やめてとか、身体が勝手にとか、そういう言うべき言葉があるんじゃねェのか?」
私はそれに何も答えず、身体が勝手に服を脱ぐのを何処か遠い所の話を読むように、情報としてのみ入手しておく。下着の一枚も残さずに脱ぎ捨てられたそれを自ら踏み付けて、私の身体は私の意思を無視してドフラミンゴの元へと歩み寄る。
何でだろう、こういう辱めをどこかで受けた気がするのは。アーロンにもされた事は無い行為の筈なのに、いったいどこで……?
そんな思考に混乱していたら、ドフラミンゴが手を伸ばしてきて、当然のように無駄に淫猥な動きで触れられるのに対して、声を出さないように耐える。それが、せめてものプライドだったのかも知れない。
日の高い内から甲板で、私は何をされているのか。声を抑える事の他にできる事も無く、ただ、抵抗も許されずに身体を弄ばれるしかないのかな。
不意に、身体を動かされたと思ったら、何も言わずに指が押し込まれた。それに小さく呻くと、ドフラミンゴが肩を揺らして笑う。
「……キツいな。散々可愛がられた後だろうに……不思議な程、キツい」
「……っ!五月蝿いっ!」
「俺は生意気な女は好きな方だと思っていたが……原点がこれなら、それも当然か。それに、ここまで気が強い女も珍しい」
意味のわからない事を言いながら、中に埋められる指が増やされる。それに息を詰まらせれば、ドフラミンゴが小さく言葉を落とす。
「今挿れたら、壊れそうだな……」
冷静に考えて、それは間違いないだろうと思う。体格差を考えれば、受け入れられる筈も無い。
今はってより、いつ挿れてもそれは変わらないわ。何考えてるのか分からなくて、でも解決案も思い浮かばないのだから情けないわよね。
地球では30cmの身長差があるだけで大いなる問題だったのだから、1m以上の身長差が……いいえ、約倍の身長差があって受け入れられるとは到底思えない。荒い呼吸の中で、だからと言って泣いて縋る事が出来るかと自問して、答えは否。
体格差は小学生の低学年の女の子と、成人したスポーツ選手並。力の差的にもその位あるわよね。
深く息を吐いて、私は顔を上げて真っ直ぐにドフラミンゴを睨み付ける。こんな理不尽、甘んじて受け入れる訳も無い。
「そう思うなら、やめてくれない?国王様相手なら、自ら抱いてくれと縋る女が掃いて捨てる程居るでしょう」
「……フッフッフッフッフッ……相変わらず、良い女だ。ますます、欲しくなった」
ドフラミンゴの言葉に、何故そうなるんだと本気で思った私はきっとおかしくない。けれどその言葉が本気かを確認するより早く、操られた身体はドフラミンゴの雄の前に跪かされる。
まさかと思った時、唇に押し付けられて私は顔を背けようとして頭を固定される。咄嗟に唇を噛んで抵抗するけど、下半身から指を引き抜いたドフラミンゴが、顎を掴んで口を無理矢理開けさせるのだから嫌になるわ。
その勢いのまま奥まで押し込まれて嘔吐く私に、ドフラミンゴの声が降る。それは残酷な支配者の声。
「歯を立てるなよ。と言うか……お前、口淫の経験は無しか。仕方ねェ……1から教えてやる」
そんなもの知りたくないと言いたくてもこの状態では言えず、逃げたくても糸で固定されていては逃げられず、半分も入り切らないそれに呻き、嘔吐く。それにより生理的な涙が浮かぶのが分かるけど、泣いても現実は変わらない。
その時突然糸から体が解放されて、手が動くようになったので、ドフラミンゴの身体を押しのけようと力を入れるけど、何故か笑われるだけ。そして、終わったと思っていた下半身への責めが同時に始まった。
頭を押さえる手と、下半身を責める手が必要で、解放したのかとわかれば、苛立ちから噛みちぎりたくなるけれど、それをやれば私の生命は無いだろう。……今ここで、死ぬ訳にはいかない。
ここで死ねば、逃げたとみなされる。そうしたら、ベルメールさん達が、殺されるわ。
「……前に、お前と同じ年頃の王女を犯した事がある。その時、国民と父王の命を保証してやる代わりにと、散々に辱めたが……その時の反応よりも、今のナミの反応の方が気高いな」
それが誰を示すのかがわかり、では、ドフラミンゴと彼女は恋愛対象者では無かったのかと少し驚く。そりゃぁ……殺して欲しい男がいると言いたくもなるわ。
原作の中でサンジくんに言っていたのは、本心だったのだろう。幼さの残る姫に、気高さを求める方がどうかしているわ。
喉の奥が焼け付くような感覚で、苦しみの中でそんな事を考える。下半身にある異物感と圧迫感、口の中に埋め込まれたもの。
この二つが同時に来る事で、意識が遠のきそうな感覚に陥る。どれだけその責苦が続いたのか、突然口内にあったモノが膨張して、喉の奥に衝撃が走った。
手が頭から離された事で咳き込みながら離れれば、ドフラミンゴの笑い声が耳につく。耳障りだわ。
「折角初めての口淫だ、飲んでも良かったんだゼ?」
呼吸を整えながら、震える身体で少しずつ離れながら、私はドフラミンゴを睨み付けて言い放つ。私は、この程度の事で屈したりしない。
この程度の事、耐えてみせる。私は、諦めたりしない。
「嫌よ。こんな不味いもの」
「よく、言った……」
その言葉と同時にドフラミンゴに足を捕まれて、今まで口に挿れられていたモノが、身体を引き裂く勢いで押し込まれる。多くの拷問に耐えてきた筈なのに、私の身体は私の意思に反して、甲高い悲鳴を上げた。
圧迫感と引き裂かれる痛み、中を蠢く熱い塊に対する嫌悪感。体格差のあり過ぎる今回は、受け身の方が限界を訴えてしまう。
「……意識が、保てるとは思わなかった。確かにこれは、楽しめるな」
「楽しませてなんて……やるもんで、すかっ……!」
「積年の想いを遂げるんだ。楽しむのは俺の権利だぜ。まァ、途中で捕まえた時もしっかり犯しはしたが、あの時はナミだとわかってなかったからな。わかっていれば、逃がさなかったんだが……仕方ねェ」
意味が分からず、朦朧とする意識の中でドフラミンゴを睨み上げる。そんな私になぜか笑うばかり。
けれども笑っているからと言って、開放される訳ではない。こうして私の長い一日が始まった。
痛みと呼ぶ事も許されない様なそれが私を包み、どうやって呼吸をしているのかさえわからない中で、身体は揺らされ続ける。時折中に広がる熱で、どうやら中に出されているらしいと気付いては居るけど、それに反応する余裕さえない。
自分の荒い呼吸音が、何処か遠くから聞こえるようで……意識が霞みそうになる度に胸への刺激で意識が戻る。胸も既に快楽は与えてくれず、痛みとなって襲ってくるような状態で……それでも心だけは屈しないと、意識を戻す度に睨み付ける。
そうでもしなければ、心が砕けるような気がしていた。明らかにこれは、強姦でしかなくて、痛みと苦痛が大き過ぎるのに、愉しそうに笑うドフラミンゴがふとした時に、まるで傷付いているのは自分だとでも言うような顔をするから。
苦しめて、強姦している加害者である筈の男が、私が睨んだ直後に微かに震えて、泣きそうな顔をするから……。最後まで憎み切れない。
鷹の目も、そうだった。抵抗する度に、逃げようとする度に、傷付けられたような雰囲気を出して、苦しそうに一瞬その顔を歪める。
なんであんた達がそんな顔するのよっ!そう言って殴りたくなるのに、腕は力を入れる事さえ叶わない。
その上乱暴に犯しておきながら、その手が妙に優しいのだ。ただ、それだけの事で絆される訳にはいかないと思うのに、どうにも突き放したり見捨てたりする事が出来なくなりそうになる。
……勘違いなら良いのに。哀しそうなのも、苦しそうなのも、全て。
膿んだ傷口に、ナイフを突き立てているような気持ちにさせられる。だから、そんな顔をしないで欲しい。
許してはいけない行為をされているのに、許したくなってしまうから。甘やかしくなって……しまうから。
「ドフラッミンゴッ……も、やめ……」
「ドフィ……そう呼べと、何度言えば分かるんだ?ナミ」
その声が妙に哀しくて、その手が優しいのもきっと、許しそうになる原因。そんな事を思いながら、何度も何度もドフラミンゴの放つ熱を意に反して受け入れさせられた。
その時、遠くから汽笛が聞こえて来て意識が覚醒する。つまり近くに船がいる事になるわ。
船舶間の衝突を防ぐ為、汽笛の鳴らし方が国際的に定められているので、聞こえたら動きを止めるか双方進路の確認をして衝突を防ぐ努力義務がある。もちろん、この世界ではあまり使われない制度だけど。
「ああ、海軍か。ちょうどいい。見せ付けてやれ」
言葉と同時にドフラミンゴは繋がったまま立ち上がる。高過ぎる身長により、船縁は目隠しの役割を一切果たさない。
今髑髏を掲げた船にいるのが、ドフラミンゴだと簡単にわかるだろう。そして、その船にいる女を犯すのは、海軍から見てもどうでもいい事。
海賊に人権は無い。政府公認の海賊であるドフラミンゴが、海賊相手に何をしても褒められる事があっても責められる事はないのだから。
「見られたいなら抵抗してろ。反転させて顔も胸も接続部も見せ付けてやる。嫌なら……俺に抱き着け」
残酷な言葉と同時に糸が解かれる。なのに、繋がれた男根が抜かれる気配は無い。
抵抗してもいいと言いながら、動きを許されたのは上半身のみ。足はドフラミンゴの胴体に強くしがみつかされたまま。
「……っ!あんたなんか、地獄に落ちるんだわ」
「拡声器で、アイツらに見るように命じてやろうか」
「嫌っ!やめて、お願い」
「なら、自分からKissして俺の唇を塞ぐんだな。そうしなけりゃ、命令しちまうかも知れねェぞ?」
身長的に届かないから、必死になって首に向けて手を伸ばすと、少し屈んでくれる。それを利用して首の後ろに手を回せば、その顔に近付けた。
覚悟を決めろ、私。これは、大型犬よ!
そっと唇を重ねれば、ドフラミンゴは優しく私の頭を撫でて……そのまま激しく腰を動かした。その直後、その海軍船が船員諸共私の知らないうちに切り刻まれて沈んだ事を、私は知らなかったのだ。
ドフラミンゴから私に向けられる感情の強さを理解できていなかったし、ましてやその感情が愛情だなんて事はまったく想像もしていなかったのだから。それがわかるのはおおよそ一年くらい先の事、その理由も何もかもを理解できるのは、まだまったく見えもしない波間の向こうにある未来の話。
日が落ちて、いつの間にか船内に移動させられていた私は、ドフラミンゴが満足するまで貪られ続けた。新種の病気としか思えない程、斑点だらけの身体に対して何かを思う余裕も無い。
見世物にされたのだと、ドフラミンゴのオモチャとして海軍に思われているのだと言う事が私の心を壊しそうになる。けれども、ドフラミンゴは時折腫れ物を触るように大切に私に触れるから、心が揺れてしまう。
声も枯れて、それでも終わらないそれに力尽きるように意識を失った私は、暫くしてふと意識を取り戻した時、ソファに移動させられている事に気付いた。体感的には清められているのがわかり、なんだってこんな所ばかり気遣うのかと呆れてしまう。
どうやらベッドのシーツを取り払った所らしい姿に、その後どうしていいか分からないと言ってるようなそれに、流石は国王様だわと小さく笑うと、私は静かに身体を起こす。それに気付いたらしいドフラミンゴがこちらに視線を向けるから、私は重い身体に鞭打って動き出す。
「……そのままで良いわよ。自分でやるわ」
「動けるのか」
「五月蝿いわね。動けるかじゃなくて〝動く〟か〝動かない〟かなのよ……」
こんな事で使いたくないけど、四肢と腰に覇気を纏って何とか歩けば、ドフラミンゴが驚いたような視線を向けて来る。硬化してるんだから、そりゃ動けるわよ……とは、心中で。
新しいシーツを取り出して、ベッドメイキングを済ませると、部屋の出口へ向かいその途中で振り向く。私の強がりもここまで来れば大したものよね。
「……私の後始末してくれた事、驚いたわ。ありがとう」
お礼を言うべきではないのだろう。でも何だか、叱られるのを待つ子犬のように見えてしまったのだから仕方ないじゃない。
それからキッチンへ向かうと水道を捻って水を出す。これが船で出来るのが、この世界の大いなる謎だ。
地球では海水を真水に変える事はまだ、日本の企業が作ったナンタラって名前の紙を使って、少量ならみたいな状態だった筈。コストの面からまだ、一般には普及しないのだとか聞いた記憶がある。
つまり地球では水は先にタンクに大量に積んであり、それを使うのだ。船底の水は海水を利用しているので飲水等には使っていない為、使う為の水のタンクは想像を絶する量が使用されている。
その為に船でのトイレの水は海水か、水を使用しなくていいようなもの。はたまたそうは見えないけど、汲み取り式を使用してる事が多い。
それなのに、この世界ではこの海水を真水に変える事は船についてる当然の設備として扱われている。水道から直接グラスに注いだものならば、何かを仕込まれる事も無いし、ある意味一番安全だと思えばこそ、私は水ばかり飲んでいる。
カタリと音が聞こえて視線を向ければ、月明かりを背負った男がキッチンに入って来た所で、私は適当なお酒を手にして投げる。それを受け止めたドフラミンゴが、小さく笑ったのが気配で分かる。
「……水よりはマシでしょう?それにここは、一応は敵船だから、口の開いた物は飲みたくないかと思ってね」
「ナミ、俺と来ないか。身体の相性も悪くねェのはわかった事だし、な」
「……寝言は寝てる時に言ってくれる?それとも時間的に……まだ寝てるのかしら?」
すでに海軍にはそう思われてるだろうけど、一緒になんて行く気は無い。そもそもベルメールさんとノジコの平穏を手に入れるまでは、どこにも行かないわ。
冷たい視線を向ければ、ドフラミンゴは嬉しそうに笑う。コイツ、Mなの?
「フッフッフッフッフッ……。イイねェ、その反応。壊し甲斐がある」
ドフラミンゴの言葉に私は微かに目を細めるけど、どうやら本気ではないとその空気から分かって溜息を落とす。本気で、この男が何をしたいのか分からない。
本当に壊す気なら、この男がそれをやるのは容易い筈。確かに民間人がこれをされたら、精神も肉体も壊れてた可能性は否めないけど、海賊の女相手ならこの程度で壊れるなんて考える筈もない。
「海軍は、ナミを認識していない。昼間のは小さな嫌がらせだ」
「へ?」
「俺に靡かないナミに、意地悪しただけだ。……誰が、本命の艶姿を他人に見せるかよ」
後半が上手く聞き取れなかったけど、少し照れた様子のドフラミンゴに身体から力が抜けそうになる。……そっか、私だと分からないようにしてくれてたんだ。
まさかそれが、見た者と聞いた者とその可能性がある者の全て抹殺したなんて、私は知らなかったのだ。私は後に思い知らされる時が来るのだ、それぞれの男達の、愛し方の違いと、愛という免罪符で行わる蛮行の数々を。
それでもまだ、この時は何も知らなかった。ミホークやドフラミンゴのこれが、序章に過ぎない事を。
「それで、何の用?言葉遊びをしに来た訳じゃないでしょ」
「賢いな、ナミは。……もし、本気で俺のモノになれと言ったらどうする」
試しているのか、それとも言葉遊びか。どちらにしても本気では無いわね。
そう判断して私は艶やかに微笑み、ドフラミンゴに答える。挑発するのは、この身体なら容易い。
「……そんな簡単に、誰かのモノになるつもりは無いの。私、忙しいのよ」
「並外れた航海術を持ち、その美貌だ。これからも狙われるぞ。俺なら護ってやれる」
「守られたいなら、私が一人でここにいる事がおかしいとは思わない?」
私の言葉に「確かにな」と笑ったドフラミンゴが、胸元から宝石を取り出した。それは確かに、1つで2千万ベリーの価値はあるだろうとわかる。
見事なそれに、私はありがとうと微笑む。それを受けてドフラミンゴは小さく今回だけだ、と言う。
何が今回だけなのかと見つめれば、ドフラミンゴは一瞬で間合いを詰めて私の顎に手を添えた。その直後に重ねられた唇が歯列をなぞり歯列を割って侵入する舌に、慌てて抵抗しようとしたけれど、それは腰に回された腕と、顎から離された手が後頭部を押さえていてかなわない。
身体が震える程に官能的なそれは、けれどもまるで私に尽くしているような感覚に抵抗を許されなくなる。その口付けから、まるで愛を語られているかのような気持ちにさせられてしまう。
このままだと絆されるっ!そう判断して舌を噛もうと少し大きく唇を動かしたら、口付けが激しくなり抵抗する意思さえ絡め取られる。それに動揺している間に唇が離れて、私は荒い呼吸を繰り返すしか出来ない。
「ナミ……今回だけだ、逃がしてやるのは。次の逢瀬があったら、逃がしてやれねェと思え。……望むなら、このまま連れ去ってやるが、な」
望む訳ないじゃない。私がなんの為にお金集めてると思ってるのよ!
そんな思いを込めて睨み付ければ、ドフラミンゴはその口をこれ以上無い程に割って笑う。腰を抱かれているから逃げる事も出来ない。
ただ、今回のキスに関してのみ言うなら、糸は全く使っていない。つまり、技術的にも、力的にも、能力者のそれを使わずとも簡単に私を好きにできる実力差があると言う事を示していた。
だけど、屈しないわ。私は〝家族〟を見捨てない。
「……無理に連れ去れば、舌でも噛みそうだな。だから……今は逃がしてやる」
それから首に唇を落とされて、身体がビクリと揺れるのを愉しそうに笑ったドフラミンゴが、そこで囁くように言う。無駄に美声だから、本気でやめて欲しい。
「……ナミが死を選べなくなる道を見付けたら、逢いに来てやるよ」
「ほっといてくれて、構わないわ。私……貴方はタイプじゃないの」
その瞬間ドフラミンゴは動きを止めて、その直後に全身を震わせてフッフッフッフッフッと笑う。たったそれだけの事が、背筋を冷たくするけど撤回するつもりは無い。
時折見せる哀しさが、私の心をざわつかせるけど、それは村の皆を犠牲にできる程のざわめきではないもの。たまに、子供のように見えてしまうのは、きっと疲れているからよ。
「俺を袖にする女なんざ、そう多くねェな。マスマス欲しいナァ……」
「私は玩具じゃないのよ。従うつもりは無いわ」
「ナミは何処まで知ってるんだかなァ?まァ、今はいい。またな……俺の花嫁」
意味のわからない言葉を残して酒を手に姿を消したドフラミンゴを、ぼうっと見送る。漸く、開放されたと理解して私は覇気を解除して膝から崩れ落ちた。
もう、体力が……意識が……。