「はああああ…」
「どうしたの?陽菜?そんなこれ見よがしな溜息なんかついちゃって」
「なんでもなーい…はああ……」
「言ってるそばから溜息ついてるし…」
教室の机に突っ伏していた陽菜にクラスメートたちが話しかけている。
変わらぬ日常、いつもと同じ見慣れた顔触れ。
でもどこかが違う。
「本当に何でもないんだからー」
「なになに?どうしたの?」
「んー?陽菜にもやっと春が来たなーって話」
「えーっ!なにそれ詳しく聞かせてー!」
「ないわーそれ…」
陽菜は机の上に突っ伏したまま、周りで騒ぐクラスメイトをよそに微睡み始める。
昼食を取り終えた昼休みのひと時。
色々とありすぎて昨夜眠れなかった陽菜の限界は近い。
「………」
「ちょっと陽菜!寝るなー!」
「春なんて来てないんじゃない?」
「そっか。陽菜だしな」
「陽菜の白馬の王子の話が聞けると思ったのになあ」
(白馬の王子ね……)
ふと思い出されたのは自分の手を取り逃げ出そうとしてくれた少年のことだった。
コーヒー一杯で毎日何時間も粘る少年の姿を見かねてハンバーガーを奢った程度の間柄。
だが少年は勘違いとはいえ自分を助けようとしてくれていた。
あの時は正直驚いたが自分の為に手を伸ばしてくれた少年のことを嫌いにはなれない。
(もしあのまま逃げ切れたとしたらどうなってたんだろう)
ふと、あり得たかも知れない未来に思いを馳せてみる。
貧しいけれども普通に暮らす日々。
そこにあの少年が加わり、もしかしたら恋に落ちたりとかしたりしたのかも知れない。
(ないない!そんなこと!)
変な妄想にハマりかけた自分が恥ずかしくなり頭を振って妄想を振り払う。
何故か昨日のキスシーンを思い出してしまった陽菜の身体に忘れかけた火が燻り始めたからだ。
今日も学校が終わってから研修がある。
(今日はどんなことされちゃうのかな…)
燻り始めた火はなかなか収まらずトロトロと陽菜の身体を熱くしていった。
思わず悶えるように身を捩る。
「はあああ…大人になるってのも大変だなぁ…」
「「「「!?」」」」
無意識のうちに出てしまった陽菜の独り言にクラスメイトたちは一斉にギョッとした表情で陽菜を見つめるのだった。
放課後、もらったばかりの定期券を手に最寄り駅から新宿へ向かう。
東口から出て10分程度歩いたところに陽菜の新しい職場はある。
まだ昼下がりも過ぎたばかりの時間帯。歩く人影は無かった。
ビル裏の入り口で木村の会社の名前を探す陽菜だが、雑居ビルのプレートにその名は刻まれていない。
表の入り口は店の入り口しかなく、豪奢な扉は施錠されており陽菜の侵入を頑なに拒否していた。
途方に暮れた陽菜は入り口の自動販売機の脇に座り込んでしまった。
そのうち誰か来るだろう…
そんな事を考えてると
「おい、そんなとこで何してる」
突然声をかけられてびっくりした陽菜が見上げると女性を連れた木村がこちらを見下ろしていた。
「あ、すみません。事務所の場所が…」
「先に店入っててくれ。俺はこいつ追い出してから行くから」
木村は慌てて謝ろうとする陽菜を遮るように女性を店に入るように促すと陽菜の手を引き、半ば乱暴に立ち上がらせる。
訝しげにこちらを見ている女性を尻目に木村は陽菜をビルの外へ連れ出していった。
「あ、あの!」
訳もわからないままに木村に引きずられるようにビルの裏側へ連れ出される陽菜。
「このバカあんな所に座り込んでんじゃねえよ」
「す、すみません…」
木村に叱られしゅんとしてしまう陽菜。そのまま木村はビルの裏口からエレベーターに乗り込んでいく。
「大体約束の時間より大分早いだろ。この業界、約束の時間より早くても遅くてもダメだ。覚えといてくれ」
「…はい。すみません…」
俯いて足元を見つめ続ける陽菜。
その様子を見て何故か冴島の言葉を思い出す。
『共犯者』
木村は陽菜にそこまでやらせようという気がない。
だが自分の意思で身体を売るというのであればそれを止めるつもりもなかった。
今の陽菜にその気があるかどうかはわからないが自分が送り込む先がそういう店である以上、遅かれ早かれそういう場面に陽菜は遭遇する。
店の女の子と客が意気投合してそういうことになってもノータッチというのが建前だ。
今までの木村のスタンスもそれを前提としていた。
だが冴島はそれではダメだと言う。
「それで…どうだ調子は?」
だから木村は踏み込んだ。冴島のいる領域へ。
「え?…」
「だから…昨日、家帰ってからどうだった?ちゃんと眠れたか?」
「…眠れませんでした」
チン
エレベーターの到着音と共に開く扉。Rの文字が光っている。
二人はエレベーターを降りた。
「そうか。俺も眠れなかった」
そう言って歩き出した木村をちょっと意外そうな表情で見上げる陽菜。
「木村さんも…眠れなかったんですか?」
エレベーターを降りてすぐ側の階段を登り始める木村を追いかけながら陽菜は問う。
木村は陽菜の質問に答えることなく階段を登り切り、鉄の扉を開いた。
もっとうまいやり方があるかもしれない。だがスカウトしかしたことがない木村には他に方法が思いつかない。
開いた扉の先にしとしとと雨が降り注いでいる屋上が見えた。
屋上の水溜りを避けながら歩いていく木村についていく陽菜。
降り続く雨が二人を濡らす。湿ったブラウスが肌に貼り付く感触が不快に感じながらも陽菜は黙ってついていくしかない。
屋上の奥にあるペントハウスの前までくると扉に鍵を差し込みながら木村が重苦しい沈黙を破って言った。
「陽菜ちゃん。あんた18歳って嘘だろ」
「え?」
口をついて出た唐突過ぎる詰問は言った木村本人ですらもうちょっとなんとかならんかなと思える程だった。
だが出てしまった言葉はもう戻らない。
陽菜だけに押し付けないこと。それが木村が選んだ選択肢。
だからそのまま続けることにした。
「嘘じゃないです。み、身分証とかないですけど本当です」
慌てて否定する陽菜。
「いやいや、見た目でわかるよ」
「よく言われます。童顔だし、発育も良くないし、でも信じてください」
陽菜は木村の目から目を離さずにそう言ってのける。
昨日の研修を活かす機会だとばかりに。
「ふーん…今俺が何考えてるかわかるか?」
陽菜は木村の目の動きを観察する。
木村の視線が自分の胸の辺りをチラチラ見ていることに気づいた。
「わ、わたしの胸が小さいとか考えてます」
顔を赤らめながらそう言い出した陽菜に木村は呆れたように言い返した。
「制服」
「へ?」
「その制服、どっかの中学校のだろ。詳しくない俺でもわかるよ」
陽菜は自分の格好にようやく気がつき顔から血の気が引いていく。
思わず両手で顔を隠しそこにしゃがみ込む陽菜。
「まあ、そう落ち込まずに入んな。風邪引いたら面倒だ」
事務所の扉を開きながら木村はそう言って、大きなため息を吐いた。
「じゃあもう腹割って話しようか」
応接室のソファで渡されたタオルで濡れた髪を拭いている陽菜の前に木村は腰掛けて話しかける。
中学の制服を着て18歳だと言い張ってた少女は当初は目を泳がせ挙動不審だったが、今は少し落ち着いたように見える。
「とりあえずこれからはその格好でここに来ないでくれ」
「はい」
「あと最初に言っておくがいきなりそういうのないからな。誤解すんなよ」
「え?そうなんですか?」
「当たり前だ。捕まりてえのか?」
「捕まりたくないです!」
このやり取りで陽菜がこの商売についてほとんど知らないことに木村は気づいた。
「最初はポーターとカウンターの半々。やっても場繋ぎのヘルプ程度だ。そこで接客覚えるように。まあ3年はそれやってろ。それでちゃんと給料は払ってもらえる」
「はい」
「ヘルプに手を出すやつもいる。そういうのに会ったら手を上げろ」
「付き合わないでいいんですか?」
「いい」
「売りにしてる子もいるがあくまで個人の判断だ。ウチは強制しない」
(だがそれ目当てで客が集まっているのも事実だがな)
「でも昨日の研修は…」
「あれは将来を見越した適正試験みたいなもんだ。あれがもう駄目と思ったら今日陽菜ちゃんはここに来てないだろ?」
「……」
昨日の事を思い出したのか陽菜の顔が少し紅潮しているように見える。
木村も自分が言い出したこととはいえ昨日の濃厚なキスシーンを思い出していた。
冴島が言うには目の前の少女は口内を貪られながらその小柄な身体を震えさせながら初めての絶頂を知ったのだという。
ぷっくりと小さく膨らんだ陽菜の桜色の唇を見ながら冴島の鮮やかな技巧に思いを馳せていると陽菜が居心地悪そうに身悶えているのに気がついた。
「ああすまんすまん。こういうのに敏感だったな」
「…いえ…その……はい…」
気まずい雰囲気を振り払えずにいると木村のスマホが鳴り出した。
「はい、ああどうも…ええ、今事務所です…はい…わかりました。そちらへ向かわせます。ええ、自分はもう済ませました。今日は…はい……それでお願いします……では失礼します…」
スマホを切って木村は陽菜へ伝える。
「冴島さんからだ。下で待ってるそうだ」
「あの…また私…」
「客は取らせない。だが研修は別だ…」
「はあ…」
「今日からは陽菜ちゃん一人で研修だ。しっかりと教えてもらうんだな」
ため息を吐く陽菜を一瞥した木村はその憂鬱そうな表情の中にどこか少し艶のようなものを感じ取ったがそれを口に出すことはなかった。
「んっ……あっ…」
後ろから抱き抱えられる格好で胸を弄られている少女の口から声が漏れ出している。
ホテルの部屋に入って来た時に身につけていたサマーベストはとっくに脱がされていた。
「あ…あぁ……んっ!」
ブラウスの上を這い回る指が少女の敏感な部分に触れる度に身体を少し跳ねさせて声を漏らす。
吐息が熱くなっていくことに
甘い刺激に頭が蕩かされていくことに
陽菜は抵抗できずにいる。
昨日と同様にキスから始まった冴島との研修。
再び絶頂に導かれた陽菜の身体は冴島の愛撫に敏感に反応した。
「ここ…」
冴島の指が陽菜の乳首に当てられる。
「ん…」
鼻にかかった声を漏らして陽菜が身を捩らせる。
「わかるかい?硬くなってる」
スリッスリッ
衣擦れの音と共に擦り上げられるその蕾は自己主張は激しくしていった。
「…んっ、あっ…」
強くなっていく刺激に耐えかねるように太腿を捩り合わせ陽菜は喘ぐ。
潤んだ瞳が薄く開かれるとベッドの前に置かれた姿見が見えた。
そこに写っているのは男にいやらしい手つきで弄られている自分の姿。
指が蠢くたびに身を捩りスカートがはだけるのもかまわず太腿を露わにして捩り合わさせる自分の姿がとてもいやらしく見える。
「こっちを見て」
姿見から目を離せない陽菜に冴島が囁く。
もはや冴島の言葉に逆らえない陽菜が肩越しに冴島の方を見上げるとその唇は再び冴島に奪われた。
「ん…ん……んっ」
慣れた感じを見せながら深い口付けを交わす二人。
舌を絡めながら冴島は陽菜のブラウスのボタンを外し始めていた。
(そんな…)
冴島の作った雰囲気に流されながらどこまでやるのか不安になる陽菜。このまま冴島に裸体を晒すことになるのか、それともその先まで…
全てのボタンを外し終えた冴島の手がブラの中へと入っていく。
直に感じる冴島の手の平の温度に反応しながらも口内を蹂躙されている陽菜は大人しくされるがままとなっていた。
「ん…ああっ!」
冴島の指が陽菜の聳り立つ乳首を本格的に責め出す。
思わず冴島の口付けから逃れた陽菜の口から甲高い嬌声が上がる。
冴島は空いた唇を陽菜の首筋に走らせながらベッドの上へ陽菜の細い身体を押し倒していった。
緩く編んだおさげをシーツの上に広げ薄い胸の上に赤く充血した蕾を露出させて仰向けに寝かされた陽菜の太腿へと冴島の手が伸ばされる。
冴島の手に撫でられてその白い太腿を艶めかしく捩らせる陽菜。
意識を下半身に向けようとした瞬間にその屹立した乳首を冴島の口内に含まれて思わず仰け反ってしまう。
「あああっ!」
自分のものとは思えない声が口から漏れる。
冴島の生暖かい口の中で乳首を転がされ始めると頭の中が白く染められていくようだった。
舌の動きが激しくなっていくにつれそれは酷くなっていく。
白く塗り潰されていく意識の中、陽菜は自分の太腿を這い上がっていく冴島の手を確かに感じ取っていた。
これ以上は許してはダメな気がした。
そこに触れさせてはいけない。
そう思った。
陽菜の身体が緊張する。未知からくる恐怖に怯えて。
今の陽菜には乳首から這い上がる甘い刺激より恐怖の方が優った。
それは陽菜の身体を弄る冴島に伝わる。
執拗に嬲っていた乳首から口を離し、陽菜の顔を見つめる。
「怖いのかい?」
聞かれて陽菜はコクリと頷いた。
さっきまで嬲られて唾液に塗れた乳首が冷えてジンジンと痺れている。
その乳首を冴島は指でやわやわと弄びながら陽菜を見つめる。
敏感になった乳首を弄ばれ再び陽菜の頭の中は痺れ始めた。
「あん…あぁ…んっ…」
我慢できずに漏れ出した喘ぎを聞きながら、冴島の手が再び陽菜の太腿の間へと伸びていく。
這い上がってくる冴島の手の平の感触に陽菜は再び緊張していく。
だが今度はそのまま陽菜の股間に達することなく再び太腿を弄る動きへと戻っていった。
フェイントを織り交ぜながら未熟な身体を導くように開発していく冴島に陽菜の身体は狂わされていく。
とっくに恐怖は消えていた。その代わりに芽生えたもの。
ベッドの上で弄ばれ続けた少女の身体はいつのまにか狂おしい程に渇望していた。
白いショーツに包まれた恥丘の上を滑り、冴島の指がそこに到達する。
陽菜の身体が飢えを満たされて歓喜に震える。
クチュッ
湿った粘着質な音が聞こえ、陽菜は股間から背筋へと這い上がってくる快楽の波に飲み込まれていった。