※この作品はR-18です。

カラミざかり 紅い青春   作:みやびまい

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Vol.3前編

 高成の高校と優里の高校では早速学力診断テストが行われた。

 

(んー予備校で習ったとこも出てきたけど、どうだろ)

 

 高成は答案用紙を振り返りをしていた。優里もまた出来を振り返っていく。

 

(ここは何度か復習してた所。合ってるっぽいし良かったかな)

「ふうー…」 

 

 空は青く、じりじりと日差しが照り付ける。

 

「あっついなー…」

 

 休み時間。優里が空を見上げていると日向が声をかけてきた。日向からのテストはどう?という質問に優里はまあまあと返す。

 

「やっぱあかねちんは天才だねえ」

「そんな事無いって」

 

 優里はいつものような笑って否定すると、日向はけだるそうに隣の空いた椅子に腰かける。

 

「あかねちん今日久しぶりにさ、アイスでも食べに行かない?」

「いーね。いこいこ」

 

 優里を誘う日向の目はどこか濁っている。

 丁度その頃。智乃もまた里帆へ喫茶店に行かないかと誘っていた。

 

「智乃ちゃん…うん。いーよ」

 

 里帆は特に迷いを見せる事もなく了承した。里帆を見る智乃の目もどこか濁り、まるで疑いをはらんでいるようだ。

 放課後。優里は日向と共にアイスショップへと訪れていた。

 

「あれ、永瀬も来たの?」

 

 そこには雄也とクラスメイトの男子数名も来ていた。雄也は暑そうに手で顔を仰ぐ。

 

「いやー暑くて喉も乾いたからアイス食いてーなーって」

「永瀬分かるわー暑いわ」

 

 店内でアイスを食べていると日向のスマホが鳴る。

 

「あ、ラインだ」

 

 日向は手早く返信を送るとさっとスカートのポケットにスマホをしまった。

 

「誰から?」

「知り合い」

 

 日向はそれ以上は何も言わない。優里もこれ以上聞くのはよそうと考え、何も聞かなかった。食べ終わるとトレーなどを片付けて退店する。 

 2人の間に会話は無かった。少し気まずいその背中を店内で雄也はじっと見つめていたのだった。

 

「…何かあったのか?」

 

 その頃智乃と里帆もまた喫茶店にいた。店内の席でジュースを飲んではいるものの、会話は無い。

 

(なんとなーくの気持ちで誘ってみたのはいいけど気まずいな)

「里帆あのさ、テストどうだった?」

「え?…うーん、まあまあかな…智乃ちゃんは?」

 

 智乃が私もぼちぼちと答えた所でまた会話が途切れてしまう。どうしようかと智乃が迷っていると智乃のスマホが鳴った。藤野先輩からだ。

 

『久しぶり。今から会える?』

 

(っ…このタイミングか)

 

 智乃は勿論彼に会いたい。だが目の前には里帆がいる。恋情と友情どちらを取るか、智乃には選択が迫られた。

 

「…智乃ちゃん?」

 

 異変を感じたのか里帆が智乃に声をかける。

 

(どうしよ…でもやっぱり…)

「里帆ごめん、用事が出来たからお開きにしようか」

 

 智乃はそう言うとバッグを持ち立ち上がった。里帆もまた智乃と同じくバッグを持って立ち上がり、トレーを返却しに行く。

 既に支払いは済ませていた為片付けを終えると退店する。そのまま智乃は里帆にじゃあ。と言うと藤野先輩の家へと走っていった。

 里帆は彼女の背中を暫く見送ると特に疑問に感じる様子も無く家へと帰っていった。

 

「はあ…はあ…」

 

 智乃は藤野先輩の家へ向かって走る。胸が高鳴り全身から汗がにじみ出すのを智乃は感じていた。彼が暮らすマンションへ着くとエレベーターに乗り込む。

 到着し、空いていたドアを開ける。すると藤野先輩が出迎えに来た。

 

「はあ…お待たせしました」

「来てくれたんだね。嬉しいよ」

 

 中へ入るよう促され、息を切らしながら先輩の自室へと向かう。すると中にもう1人の男子高校生がいた。どうやら藤野先輩の友人のようだ。

 

「えーと、この人は…?」

「あ、おれ藤野の知り合いの古前田って言います。よろー」

「こいつまだ童貞でさー、良かったら一緒にしないって声かけたの」

 

 古前田は童貞と言った藤野先輩に対して余計なお世話だよーと少し不満げに口にするも、初めての相手がこんな可愛い女子で良いの?と智乃を見ながら呟く。

 

「どうする?3Pしてみる?」

「あー…」

 

 智乃自身の本心は藤野先輩と2人っきりでしたいというものだ。しかしここで断れば二度と誘われないかもしれないという不安があった。

 

「分かりました。やりましょう」

 

 結果その不安に耐え切れず、3Pに興じる事となった。

 

「んうっ…」

 

 騎乗位で藤野先輩に攻められながら、古前田のそれをしごく。どちらも屹立したそれの大きさは同じくらいではあるが、藤野先輩の方が芯が硬いと智乃は感じていた。

 

「智乃ちゃんいいわ…もっとしごいて」

「こう、ですか…?」

「ん、いい…」 

 

 藤野先輩が更に動きを速めると智乃の喘ぎ声はさらに大きくなる。

 

(先輩の、いい…)

 

 智乃はすぐさま達してしまった。その様子を見た藤野先輩は次はお前の順番だと古前田に告げる。古前田は息の乱れる智乃を押し倒すと避妊具をつけてそのまま挿入した。

 

「うわすげっ…」

 

 古前田は力任せに腰を動かす。

 

「んっ…ああっ…」

 

 やはり初めてというのもあるのか動きは藤野先輩よりも荒々しくぎこちない。違いはすぐに分かった。

 

(やっぱ…違うな…)

 

 智乃はあまりその気にはなれなかった。ただ力任せに抱く古前田には快楽興味もほとんど湧いてこないのである。やっぱり藤野先輩が良い。心の中でそう思った。

 その後。智乃は藤野先輩と古前田にかわるがわる抱かれた。事が終わると古前田は智乃を心配したり気に掛ける様子も無く上機嫌で去っていった。

 

「先輩」

「何?」

「もう一度しませんか?」

 

 藤野先輩が良いけど…と言った直後彼のスマホが鳴る。それは彼の母親からだった。医者である彼女はどうやら急患の対応の為帰りは夜遅くなるので叔母をそちらへ向かわせるというものだった。

 

「そろそろ帰った方が良いかもね」

「ですね」

 

 着替えた智乃は荷物を持って藤野先輩にお疲れ様ですと言うと、彼の自宅を後にした。

 

「ふうー…中々上手く行かないなー…」

 

 そうつぶやく彼女の顔はどこか曇っている。

 夜。藤野先輩は叔母と叔父の夫婦と共に夕食を食べていた。ブランド物の服や装飾品を身にまとう姿はどちらも「良いとこ暮らし」な雰囲気をにじませている。

 

「和ちゃん〇〇大学受けるんですってね。」

 

 叔母夫婦はにこやかに微笑みながら夕食の生姜焼きを食べ進めていたが藤野先輩の顔は硬い。

 

「あそこは難関だからなー。叔父さんも受験勉強頑張った思い出があるよ」

「あら。あなた私と出会ったの高校の時じゃない。色んな女子生徒をナンパしてたくせに」

「いやいやほんとに頑張ったんだよ!」

 

 藤野先輩を置いてきぼりにして夫婦の会話は進んでいく。

 

「和ちゃん今日はお母さん帰れないみたいね。2人ともここで泊まるから何かあったら呼ぶのよ」

「はい。お手数おかけします」

 

 食器の片付けと皿洗いを手伝うと、藤野先輩は自室に戻る。

 

「はー…」

 

 大きなため息が口から漏れた。スマホを手にやると自身のSNSのアカウントにDMが届いている。

 

「●日なら会えます。」

 

 藤野先輩は了解と打ち込むとベッドに横たわる。

 

「…はあ」

 

 言葉にならない鬱屈な気分が部屋には漂っている。

 数日後。優里と高成の高校では文化祭の準備が行われるようになった。優里は勇気を出して高成へ「ぜひ文化祭に来てほしい」とメッセージを送ると、高成は参加の意思を示した。

 

『おれのとこも良かったら来てほしい』

(おおっ…!山岸くんからもお誘いが…!)

 

 結果。互いの高校へ文化祭へ行く事となった。2人は胸を高鳴らせる。

 

「「楽しみだ」」

 

 優里のクラスではメルヘンカフェ・高成のクラスではコスプレカフェを開く事になった。互いに近況を報告し合う日々が続く。

 そんな中高成は貴史・里帆・智乃と同じ看板製作の係になった。貴史はお前らかーと不満そうにつぶやくと智乃はいいじゃんと軽くあしらった。

 

「吉野、山岸。と言う訳でよろ」

 

 智乃は笑顔でそう言うと里帆もまたよろしくと微笑みながら挨拶をした。そうして4人は教室でどんなデザインにするか話し合いを進める。すると里帆がスマホでモチーフを検索したらどうかと提案した。その提案に3人も賛成しデザインを書き起こしていく。

 

(飯田って結構絵上手だな)

 

 そう思った高成はふと里帆へそう伝えると、里帆はそこまでじゃないけど…と嬉しそうにしつつ謙遜した。

 

(やっぱかわいい)

 

 その後も高成と優里の高校では文化祭の準備が進められていく。日程は高成の高校では平日の1日だけなのに対し、優里の高校では休日の2日間にわたって開催するそうだ。

 ここで優里は文化祭の日程を忘れていた事に気づいたのだったが、結果ずる休みを使って高成の高校へ行く事に決めた。普段仮病は使わない真面目な彼女だが、同盟相手である高成の事が心配と言う意味で気になった結果。罪悪感を抱えつつもそう決断したのであった。

 夜テレビ電話で心配した高成がずる休みして大丈夫なのか?と顔をしかめながら問う。

 

「大丈夫!ばれないように変装していくから!」

「…マジで大丈夫?」

「大丈夫だって!!」

 

 優里はばれないようにするからと再度高成に念を送るとじゃ、切るねと電話を切った。

 

「茜谷さん来るの楽しみだな…あ、むこうの文化祭が先か」

 

 高成は課題をこなしながらスマホに保存された優里との写真を見ていたのであった。

 時は経ち優里の高校では文化祭の準備がいよいよ大詰めに入る。この日はコスチュームを決める日である。

 

「どれにしようかなー」

 

 優里は机の上に並べられたコスチュームを順番に眺めていく。その近くで日向と雄也は自身の着るコスチュームを決めたようだ。

 

「2人は何にしたの?」

「私は小悪魔風のやつ」

「おれは…ピエロっぽいやつ」

 

 2人はそれぞれ優里にコスチュームを見せる。まだ決められていない優里に対し、日向はあれ着ればいいじゃんと冗談交じりにバニーガールのコスチュームを指さした。

 

「ばか!誰が着るかあんなもん!」

 

 優里の絶叫にも似た拒否反応に日向は失笑する。

 

「どうせ山岸くんここへ連れてくるんでしょ。だったら着りゃあいいじゃん。」

 

 そうどこか吐き捨てるようにつぶやいた日向の顔は笑ってはいるが目は暗い。その日向のセリフにクラスメイトは優里へ眼差しを向ける

 

「茜谷さんまた彼氏できたの?」

「いやー…積極的だよねえ」

「いやいや!!違うから!!!」

 

 優里は全力で否定した。最終的には赤ずきんのコスチュームを選択し、衣装合わせを終えるとぐったりと座り込むとスマホを眺める。

 

(せっかくだし衣装の写真だけでも山岸くんに送っておくか)

 

 そう考えた優里は畳んで机の上に置いた自身のコスチュームの写真を撮った。

 

(これでいいか)

 

 スマホをしまい、お茶を飲んでひと休みするとまた文化祭の準備へと戻るのだった。

 

 夕方。帰宅した優里は高成へコスチュームの写真をラインで送る。しばらくたって返信が届く。

 

『赤ずきんだよね?すごくいいと思う!』

 

 と書かれたメッセージを見た優里は全身がほてり出すのを感じた。

 

(なんだかドキドキしてきた)

 

 脳裏には赤ずきんのコスチュームを着た自身が高成や雄也に犯される姿が浮かぶ。優里は懸命に脳裏に浮かぶその妄想を払いのけようとしたが中々ちらついて離れない。

 

「~!」

 

 顔を覆ってベッドへと転がり込むとぽつりとつぶやいた。

 

「したいな…」

 

 休日。高成は電車に乗り優里の通う高校へと移動している。到着し少し歩くと優里の通う高校が見えてきた。文化祭という事でたくさんの人が詰めかけている。

 

「結構人いるな」

 

 入り口で地図を受け取ると、優里のクラスがある校舎の中へと入る。

 

「メルヘンカフェだって言ってたから―…確かここかな。」

 

 目的地へたどり着いた高成は教室の中へ入ると、シスター服を着た女子生徒2名から歓迎を受けた。

 

「こちらどうぞー」

 

 席へ案内された時。教室の奥にいた赤ずきん姿の優里と目が合った。

 

「山岸くん…!」

「茜谷さん!」

「えっこの人茜谷さんの知り合い?」 

 

 教室内にいたクラスメイト全員が一斉に優里へ視線を向けた。

 

「いやだからっ友人!友人だって!!…ごほん。ご注文は何になさいますか?」

「うーん…」

 

 優里から手渡されたメニュー表を高成は眺める。メニュー表にはジュースとクッキーやチョコレートと言った手作りのお菓子がいくつか記載されていた。

 

「じゃあリンゴジュースとクッキーにしようかな」

「はーい!」

 

 数分ほどして優里から注文を受け取った高成は早速いただきまーすと言って食べ始めた。さくっとした食感のクッキーに酸味の効いたリンゴジュースはよく合う。

 

「美味しい」

「よかった!…じゃあゆっくりしていってね」

 

 優里はそっと素早く高成へメモを渡す。そこには「12:00過ぎになったら一緒に周らない?」と書かれていた。

 

(折角だし一緒に見て回ろうかな)

 

 退店後。優里へラインを送った高成は階段で優里を待っていた。そうこうしていると赤ずきん姿のまま優里がやって来る

 

「お待たせ―。じゃあ見て回ろっか」

「うん。道案内頼めるかな」

 

 勿論!と優里は言うと2人での巡回が始まる。昼時なので何を食べるかという話題で盛り上がりながら2人は人ごみへ歩いていく。

 

「おなか減ったー。何食べようー」

「茜谷さんて好きな食べ物ある?」

「うーん…基本なんでも食べるよ。好き嫌いないし」

 

 そうなんだ。と高成が返すと屋台が見えてくる。優里のテンションは最高潮に達していた。

 

「どれにしよー!迷う~焼きそばもいいしたこ焼きもいいな~」

 

 どれにしようかと迷っている優里。高成はせっかくだからどっちも食べてみては?と提案するとそれいいね!と優里はその提案を受け入れた。

 

「いただきまーす!…おいしーい!」

 

 結果。焼きそばにたこ焼き、イカ焼きと様々な食べ物を買い集めた2人は近くの席に座って昼食を取る事になった。美味しそうに頬張る優里を高成は楽しそうに見つめている。

 

「どしたの?」

「いや、美味しそうに食べてるなーって」

「…へへっ」

 

 あっという間に完食し終えた優里は手早くごみを片付けると、リュックの中からスマホを取り出した。

 

「自撮りしよ。山岸くんのも撮ろうか?」

「うん。じゃあお願い」

 

 高成は優里へ自身のスマホを手渡した。2人はそれぞれのスマホでツーショットを撮影する。

 

「おっいい感じ―」

 

 撮影したばかりの写真を見た優里は上機嫌だ。

 

「次どこ行こうか」

「ねー。色々見たいねー」

 

 2人は立ち上がってまた校舎へと入っていく。そんな2人の背を追いかける人物がいた。

 

「あかねちーん。あ。山岸くんも来てたんだ」

「塚原さん。お疲れ」

 

 高成がそう言うと日向はいえいえーと顔を少し赤らめながら反応した。

 

「塚ちゃんどしたの?今から当番なんじゃ?もしかしてサボり?」

 

 優里はそう尋ねると高成はえ、そうなの?と返した。

 

「ああー…変わってもらった」

 

 日向は若干顔を背けながらそう言うと優里はそうなんだ…と小さく呟く

 

「せっかくだから周ろうよ」

 

 日向にせがまれ3人で見て回る事になる。射的ゲームやくじ引きの屋台など様々な催しものをめぐるも、3人には会話らしい会話は無かった。高成も優里も互いに気まずさを感じている。

 ふと日向が今度はこっちへ行こうと2人を誘う。言われるままについていくと、どんどん人気のない校舎へと進んでいく。

 

「ねえ、塚ちゃんどこ行くの?」

 

 日向はまるで分かってるでしょ?とでも言う風な雰囲気を出したまま答えようとはしなかった。倉庫らしき部屋へ到着すると日向は扉の鍵を閉める

 

「塚原さん、何するんだ…?」

「塚ちゃん…?」

 

 ほぼ同じタイミングで高成と優里が日向へ心配そうに問いかけた。

 

「何するんだって…決まってるでしょ?」

 

 そう言った日向はいきなり高成を押し倒す。優里がうわっと声を出すも日向には聞えていないようだ。日向はそのまま高成へキスをしながら腕を掴んで自身の胸を揉ませていく。

 

(塚原さんっ?!)

 

 目の前で行われる光景を金縛りの如く動けぬまま見つめる優里も、いきなり襲われた高成も頭の中は混乱の渦の中にある。

 

「山岸くん、ちゃんと見ててよ?」

 

 日向はそう言った。

 

「…っ」

 

 優里の眼前で行為は進められていく。高成を押し倒してキスをした後は彼のズボンを脱がし、それを咥えじゅぽじゅぽと吸ったり舐めたりを繰り返す。

 

「あっ…茜谷さんも…」

 

 高成がそう言った瞬間の事だった。

 

「私以外の女の名前を言わないで」

 

 日向はそう冷たく吐き捨てる。彼女のその態度は今まで高成は勿論、優里も見た事が無かった。

 

「塚ちゃん…」

 

 優里がそう問いかけるも、日向は無視するばかりである。

 

(なんで、もしかして塚ちゃんは山岸くんの事…)

 

 日向は高成の事が好きなのか。そして自分の気持ちは何なんだと優里は必死に考える。

 

(黙って見ているだけ…でもそれは後悔しない?)

 

 このまま黙って高成が日向と絡み合う場面を見ているだけというのは後々後悔してしまわないか?と優里の胸の内で疑問が渦巻いていた。勿論この場から立ち去るという行為へも同じことが言えた。

 

(だったら…)

 

 行動に移す。それしかない。しかしそれは行動によっては同盟の互いに恋愛感情を持ってはならないというルール違反に繋がる。

 

 …ルール違反に抵触しないギリギリのラインを責める必要が優里にはあった。

 

(どうする…、これなら…)

 

 優里はゆっくり高成の元へ近づく。高成はまだ日向にフ ェラされている途中だ。

 

「茜谷さん…」

 

 あと少しで達しそうな高成がまた優里の名をつぶやいた時。優里は「まず」日向を起こして抱きしめた。

 

「…えっ?あかねちん?」

 

 優里は何も言わない。

 

「あ…え、ちょ…」

 

 そして片腕で日向を抱きしめつつ、もう片方の腕を伸ばし、高成のそれを握る。

 

「…!」

 

 こうして、3人の絡み合いが始まった。

 この時。日向にキスされている辺りから高成の脳内には、立ち止まったままの優里の姿に重なる形で里帆の幻影が映し出されていた。

 里帆がこちらを見ているような感覚に襲われた高成は、日向の百戦錬磨の技に連鎖するように反応していったのである。そして優里が加わった事でより快楽へ溺れていく事となる。

 日向はバッグからゴムをいくつか取り出した。それを高成のそれへ装着させると優里にこう話しかける。

 

「どっちが先にやるかじゃんけんで決めよ」

「分かった」

 

 結果。勝ったのは優里だった。この瞬間彼女はずしりと下腹部の疼きを知覚する。

 

「んっ…」

 

 優里のそこはいつの間にか慣らさなくても良い程に濡れていた。騎乗位の形でそれを中へ押し込むと、激しく腰を動かし始めるのだった。

 

「はあっ…はあっ…」

 

 あれから優里と日向は代わる代わる高成の肉棒で果て、高成もまた快楽に溺れていったのであった。ふと優里が窓を見るとオレンジ色に輝く夕日が沈もうとしている。

 

「うわっ眩しいっ」

 

 あまりにも眩しく輝く夕日。コスチュームを脱ぎ下着姿になっている優里はその眩しさに思わず手で視界を遮るほどだった。

 

(今の私には眩しすぎるな)

 

 オレンジ色ないし茜色に輝く夕日の光は、今の自身には眩しすぎる程の光であると優里は自身の胸の内でそう感じた。奇しくも高成も日向も同じ考えであった事は互いに知らない。

 

 その後。3人は無言で服に着替え、正門まで移動すると優里と日向は高成を見送った。

 

「山岸くん、来てくれてありがとう」

 

「いえいえ。どういたしまして。楽しかった。」

 

 そう言った高成は軽く会釈をするとじゃ、と言って踵を返し、駅へと歩いていった。

 

「…」

 

 残された2人の間には気まずい雰囲気が流れる。

 

(気まずいな…なんて切り出せればいいんだろう)

 

 優里は頭の中でそう考えていた。考えた末にある言葉を出す。

 

「塚ちゃんて山岸くんの事好きなの?」

 

 ストレートにぶつけてみた。しかし日向からの反応はすぐには帰ってこない。やはり直球で聞くのはまずかったか…と優里が反省し始めた時日向は重い口を開けた。

 

「…なんかもうわかんないや」

 

 日向は優里へ表情を見せることなくそれだけを口にし、行こうと優里に呼び掛けた。

 

「うん…」

 

 茜谷の夕日は眩しくも冷たい。 

 その後。高成の高校でも文化祭の日がやって来た。高成は珍しく早起きすると身だしなみを整えリビングへと移動する。

 

(茜谷さん来るの楽しみだなあ。…バレなきゃいいけど。)

 

 優里の事を思い浮かべながら朝食を取っていた時。彼のスマホが鳴る。

 

「んっ?飯田から?」

 

 電話を掛けてきたのは里帆だった。高成が電話に出ると、いつもと違いくぐもった里帆の声が聞こえてくる。

 

「もしもし?なんか声いつもと違うみたいだけど?」

「ごめん山岸くん…風邪ひいて文化祭行けなくなった…」

「えっ…マジ?」

 

 どうやら里帆は昨晩から高熱を出して寝込んでいたらしい。一晩寝ていれば熱も下がるだろうと里帆は考えていたようだが、朝起きると更に熱が上がっていたようだ。

 

「智乃ちゃんや学級委員長、先生にはもう連絡したから…ほんとごめん」

 

 申し訳なさそうに謝る里帆へ高成は大丈夫だから気にしないでほしいと告げる。

 

「…とまあこっちは大丈夫だからゆっくり休んで」

「ありがとう…じゃ、切るね」

 

 通話が終わりまた朝食を食べ始めた高成は頭の中で里帆がいない文化祭を想像していた。

 

(飯田は来られない…)

 

 どこかパズルのピースが欠けたような雰囲気を高成は感じつつあった。

 

「えっ。里帆ちゃん来られなくなったんだ」

 

 正門で優里と再会した高成は、里帆の事を伝えると優里は目を見開いた。

 

「マジ。熱出したみたいで…しかも高熱らしい」

「あー…季節の変わり目だもんね。山岸くんは大丈夫?係とかほら」

「ああ、その辺は大丈夫」

 

 高成がそう告げると優里はそっか、と返した。実は優里は高成だけでなく里帆とも何かしら会話が出来ればという思いもあったのだが、里帆が急きょ欠席した事でその思いは惜しくも叶わぬものとなった。

 

「どっか見て回る?」

「うん。じゃあ山岸くん案内してくれるかな?」

 

 この時、高成は流行りのアニメで登場する軍服風のコスチュームを着用していた。道中優里にそのアニメ見てたりするの?と聞かれると時々見ていると返す。

 

「かっこいいよね。アクションというか太刀さばきとかさ」

「確かに。分かる。エフェクトとかカッコいいよね」

 

 途中出会った別のお客さんも優里と一緒に教室へと案内すると、教室内からにぎやかな雰囲気があふれ出す。

 

「山岸おつ」

「おう。新山」

 

 智乃はナース服を着用している。優里や数名の客を相手に注文を聞き出すとそれぞれ注文した品を運んでいた。

 

「はいどうぞ。お待たせしましたー」

「ありがとうございます」

 

 優里は智乃から受け取ったジュースとクッキーを美味しそうに食べる。そんな優里を見て智乃は高成にこそっと声をかけた。

 

「あの子、もしかして?」

「ああ、予備校で会った子」

「山岸さあ、あの子の事どう思ってんの?」

 

 ストレートにぶつけてきた智乃に対し、高成は答えを詰まらせる。

 

(うーん…同盟相手と言うのもあれだし…)

「頼りになるというか、良い人だとは思うよ」

 

 そう答えた高成に対し、智乃はそっか。と返すとまた接客へと戻っていった。

 

(確かにそうだ。嘘は言ってない。頼りになるし話してて楽しいし…でも、あれ?おれは飯田が好きでー…)

 

 その時。食べ終えた優里が高成の元へと近づいてきた。

 

「良かったら色々巡らない?」

「うん。いいよ。」

 

 その後。2人は様々な催し物を巡る。特にアクシデントもハプニングも無く文化祭は無事に幕を閉じた。帰り際高成は優里を見送ると教室へ戻り制服へ着替える。

 そこへ高成の担任が智乃と共に里帆へプリントを渡すようにと頼んできた。

 

「あっはい」

 

 高成がそれを受け取ると、智乃は自分は行けないので高成が1人で行ってもらえないかと頼んできた。

 

「あー…飯田の家ってどこだっけ」

「途中までついていこうか?」

 

 智乃の案内で里帆の家の近くまで来ると、智乃は用があるからと言っていずこかへ去っていった。

 

「ふうー…飯田マンション住まいなんだ」

 

 里帆の自宅のあるマンションにへ到着すると智乃に教えてもらった通りにエレベーターに乗って移動し、自宅へと到着するとインターホンを鳴らした。

 するとはーいと女性の声が聞こえてくる。里帆の声では無いのとどこか聞いたことある声である事は高成はすぐに気が付いた。

 

「すみません。飯田…さんと同じクラスの者です。先生に言われてプリント届けに来ましたー」

 

 高成がそう答えると玄関のドアが開く。そこに立っていたのは里帆の母だった。

 

「ああ、すみません。ありがとうございます」

「いえいえ。飯田さんの体調はどうですか?」

「ああー…まだ熱が高くて…里帆のお友達も心配してるの?」

「まあ、そんな感じですね。飯田さん今日の文化祭の事も心配していたので…」

 

 里帆の母はそうですか、と言うと高成からプリントを受け取りありがとうございましたと言いながらドアを閉めた。

 

「…」

 

 ガチャンとドアが閉まる音はどこか高成を拒絶するような冷たさがあった。高成はそのまま自宅へと帰ると着替えて自室のベッドへ転がった。

 

「あー…飯田元気かなあ。…元気なわけないか。早く治るといいけど。」

 

 そう言う高成の脳裏には里帆の姿が映る。

 

(なんかムラムラ?してきた)

 

 無意識にスマホで栞主演のAVを検索し、サンプル動画を見つめる。栞の犯される姿に里帆を重ね合わせていた。

 

「はあ…」

 

 自らのものをしごきだす高成。胸の鼓動が徐々に早まるのを知覚していた。その後も何度か自慰行為をしたのち高成はぐったりとベッドで大の字になる。

 

「ああー…」

 

 ふと、高成の脳裏には里帆では無く優里の姿が映った。

 

 その頃。帰宅した優里もまた自身のそこに指を入れ、ぐちゅぐちゅと動かしていた。

 

「ああっ…んっ」

 

 何度も果てた優里は高成と同じようにベッドの上で大の字になった。

 

「はあー…」

 

 頭によぎるのは高成の姿。だが彼は同盟相手であり、恋愛感情を持つのはルール違反である。その事を優里は十二分に理解はしていたつもりだった。

 

「やっぱり私、山岸くんの事…でもダメだ…」

 

 どうしようかと優里は悩む。だが同盟を続けるにはこのまま我慢するしかないと優里は頭の中でおのずと答えを出していた。

 

「…」

 

 起き上がってトイレに向かい、手を洗う。彼女の顔はどこか暗い。

 一方。里帆は自身のベッド内で体温を測っていた。

 

「38.1℃…」

 

 ここで部屋の扉をノックする音が聞こえる。

 

「里帆。クラスの子がプリント持ってきてくれたわよ」

 

 里帆の母からプリントを受け取った里帆はぱっと手早く読むと里帆の母へすっと返した。

 

「今から仕事だから、レトルトの鮭と卵のおじやチンして食べといてね。」

「うん…」

 

 里帆の母はそう言い残して去っていった。彼女がベッドから出る動きは当然ながらまだ重い。部屋はおろか自宅全てが彼女の体温とは真逆の冷たく静かな雰囲気に満ちていた。

 里帆はレトルトのおじやを電子レンジにかけて容器へ移す。テレビを見ながら食べているとスマホにラインが来ていた。

 

『飯田大丈夫?無理はすんなよ』

 

 高成からのものだ。里帆はありがとうと書かれたスタンプを押す。

 

「山岸くん…」

 

 今のところ高成だけが彼女の体調を心配する文面を送っていた。…他は既読かスタンプだけである。

 

「…」

 

 しばらく画面を眺めた里帆はまたおじやを食べ進めるのだった。

 

「ふう、暗くなったなー」 

 

 すっかり暗くなった夜道を智乃は歩いていた。藤野先輩に誘われ、文化祭の打ち上げパーティーから帰宅している所である。

 そのパーティーには同級生と先輩方複数が集まっていた。最初はピザを食べたりジュースを飲んだりして盛り上がるといつの間にか乱交の場へと変わっていったのである。 智乃はお目当てである藤野先輩とはやれたのだが、勿論他の男子ともやる事になった。その間藤野先輩は別の女性を相手にしているので、智乃の中には嫉妬の心が湧いて出てきていた。

 本当は藤野先輩と2人っきりでしたいというのが智乃の本音である。

 

「はあ~…」

 

 智乃からは思わず大きなため息がこぼれ落ちたその時。どんと横を通っていた女子高生とぶつかる

 

「うわ!すすみません!!」

 

 智乃が謝罪すると女子高生も同じように謝罪した。やがて女子高生は恋人と思わしき男子高生の手を繋いで去っていった。

 

 2人の背中を智乃はうらやましそうに見つめる。

 

「いいなあ…あー!!私もいつか先輩とああなりたーい!!」 

 

 胸の中にたまったモヤモヤを智乃は我慢できず大声にして吐き出した。

 

「…ちょっとはすっきりしたか」

 

 智乃はまた家路へ歩き出していく。

 

(私は先輩の事好きだ。好きだ…)

 

 深夜。優里はふと目が覚めた。

 

「ん…」

 

 スマホを見ると連絡が来ている。雄也だ。

 

『今日休んでたけど風邪か?大丈夫か?』

 

 ラインのメッセージにはそう記されていた。

 

(ずる休みなんだけど…どうしよう…永瀬に嘘つくのもなんだかなあ…)

 

 優里は素直にずる休みして高成の学校で行われた文化祭に行っていたと白状する。するとすぐに返信が来た。

 

『まじかー。楽しかった?』

「…永瀬」

 

 楽しかったとメッセージを送ると雄也から今電話で話せないかと誘いが来た。

 

「もしもーし。夜遅くにごめん」

「いいけど、どしたの?」

「問題集分からんとこあるから教えてほしくて」

 

 テレビ電話へ切り替えると優里は雄也に言われた箇所にアドバイスを送る。

 

「ここは~この公式使ってるから…合ってるよ」

「マジ?良かった。ここは合ってる?」

「どれどれ…」

 

 その後。アドバイスし終えた優里へ雄也は語り出した。

 

「いつも通りでなんか安心したわ。てか茜谷って学校休むの初めてじゃね?」

 

 雄也にそう指摘された優里はそういえば…と目を丸くする。雄也の言う通り高校に入学してからは今回のずる休みが初めて高校を休んだ日であった。

 

「確かに、そうかも…」

「当たってたかー…どうよ、山岸くんと会えた?」

「うん。色々話せて良かった」

「あのさ、茜谷ってさ…山岸くんの事好きなの?」

 

 ここで雄也は優里の心を穿つ言葉を発する。

 

「…」

 

 好きになってしまえば同盟を破る事になる。恋愛感情を持ってはいけない。優里はちゃんと理解している。だからこそこの雄也の言葉に優里は大きくショックを受けていた。

 

「茜谷?」

 

 優里は言葉を発せられなかった。

 

(私は、やっぱり…)

 

 結果。このまま通話は終わり、布団に戻る事になる。

 

「…山岸くん」 

 

 優里の心は徐々に鎖でがんじがらめになっていくのを感じていた。

 翌日。高成は登校するが里帆はまだ休んでいた。

 

(熱あるって言ってたし、すぐには治らないか…)

 

 この日も高成は智乃に頼まれ、里帆の元へ数枚のプリントが入った茶封筒を片手に里帆の家へ寄る事になった。正門を出て里帆の自宅へ到着しインターホンを押すも反応は無かった。

 おそらくは病院にでも行ってるのだろうか。そう考えた高成はポストに茶封筒を入れるとその場を後にした。

 

「はあー…帰るか。まだまだ暑いなー」

 

 そうつぶやいた高成の後ろをつける女子高生の姿があった

 

「あ、やっぱ山岸くんじゃん」

「塚原さん…」

 

 思いがけず日向と遭遇する高成。日向は髪を降ろしている。

 

「せっかくだからちょっと付き合ってもらっても良い?」

「いいけど…」

 

 日向に言われるままに、高成は彼女の後を追っていく。

 

「そういえばさー、文化祭あったんだって?」

「うん。こっちもあったよ」

「…あかねちん来てたでしょ」

 

 時は少しさかのぼる。

 

「茜谷さん昨日休んでたじゃん!どしたのー?」

「ああ、いやー…体調悪くてー…」

「茜谷さんいつも元気なのに珍しいね」

 

 優里はそう嘘をついてはぐらかしたが、どうやら別のクラスでは同じように高成の高校へ行っていた生徒がいたらしく、優里の目撃情報が上がっていたのだった。

 

「茜谷さんずる休みしてたってマ?」

「らしいよ。3組の河内が見たって」

「えー…なんからしくないね」

 

 …ひそひそと女子の間で行われたやり取りを雄也も日向も耳にしていたのだった。

 

(…)

 

 ここで時を戻す。

 

(知ってるのか…)

 

 高成は頭の中でばれたのか、それとも白状したのかと優里へ対する不安を募らせつつあった。

 

「…なんで」

「クラスの子があかねちんずる休みして山岸くんとこの文化祭行ってたっぽいって聞いたというか…で、結局来てたの来てなかったの?」

 

(ここは素直に言うしかないか)

 

 高成は来たと正直に言った。

 

「やっぱり」

 

 日向の声はいつもより低い。そのどこか不気味な雰囲気に高成の鼓動が早まっていく。

 

「…ちょっと付き合って」

 

 日向は高成の腕を掴んですたすたと歩き出す。日向に導かれるままに高成は歩き、電車に乗る。その先が天国なのか地獄なのか、日向が天使なのか悪魔なのか。高成にはまだ分かる由もない。今はただ日向の導くままに進むしかなかった。

 

(どこに連れてかれるんだろうか)

 

 高成はどこに行くのと聞こうとするも、その言葉は胸の奥で止まったままそれより上には上がってこなかった。

 

(…)

 

 電車を降りて市街地を歩くとどうやら雑居ビルの群れの中に目的地があるのか、2人はその中へと入っていった。ある雑居ビルの中にあるエレベーターに乗り込むとその先はネカフェがあった。日向は慣れた手つきで手早く受付を済ませると、また高成の腕を掴んで個室の中へ入り扉を閉めた。そこで2人の動きがようやく止まる。

 日向は暗い顔で高成を見ていた。高成もまた日向へ不安を感じながらも飲まれないように視線を返す。

 

「…ははっ…」

 

 小さな乾いた笑いが部屋にぼおっと響いた。

 

「塚原さん…?」

「…あかねちんがああなる訳だ」

 

 日向は黙って高成をその場に座らせると、ズボンのベルトを器用に外し、ファスナーを一番下までずらしてそれを取り出すと勢いよく口の中へと頬張った。じゅぽじゅぽと淫乱な音が部屋中に響く。日向はいつも以上に力強く刺激を与えていく。

 …しかし、高成の胸中に日向はどこにもいなかった。それどころか高成はある異変を感じつつあった。

 

(なんでだ。塚原さんにされてるのに、全くその気になれない。飯田や茜谷さんとした時と違う。それに…)

 

 高成の胸の内と呼応するように、それは全く反応していない。日向もそれに気づき次第に焦りながら更にギアを上げる。

 ぐちゅぐちゅじゅぽじゅぽ…

 どれだけ刺激を与えても、高成のものは反応しない。日向はついに根負けし、そこから顔を離した。

 

「…なんで」

「…」

 

 日向の顔は暗い。これまで見せた中で最も暗かった。

 

「ははっ…あははははっ!何それ!?もしかしてあかねちんか里帆ちゃんにしかたたないって事?!!」

 

 日向の口から乾いた笑いと高成への罵倒が湧いて出る。それは壊れたスピーカーのようにこだました。日向自身も何を言っているのか半ば理解できていないようだった。

 

「ははっ…なんでよ!なんでよ?!」

 

 高成は言葉が出ない。心の中ではもし言葉を紡いだところで何かが変わる気も起らなければ、日向に制止されるのだろうという半ば諦観の境地に達しながら、同時にある感覚と気持ちへとたどり着いていた。

 

(…そうだ。おれは、やっぱり飯田の事が好きだ。そして茜谷さんにも特別な感情がある。それにこの疼き…塚原さんには理解しがたいものかもしれない。)

 

 高成は日向の様子を静かに見つめるだけだ。そこでようやく彼女が口を開く。

 

「帰ろっか。」

「…」

 

 日向は荷物を持って部屋のドアまで近づく。高成も身支度を整えドアまでいくと、日向がドアを開けて高成へ先に出るように促した。

 その後2人は互いに言葉を交わす事もなく解散していった。

 

(…)

 

 自身の部屋に戻った高成はどこか虚無感にも似た感情に襲われていた。

 

(塚原さんは…多分おれの事好きだったんだろうな…でも、おれには…茜谷さん何してるんだろう)

 

 時間は少し前。1人で帰宅する優里の前に雄也がやって来た。

 

「永瀬…」

「ちょっと付き合って。暇だし。そっちも1人だろ?」

「うん、いいけど…」

 

 そのまま正門を出て帰宅する2人。するとそこで雄也はこう告げる。

 

「なんか茜谷最近変じゃね」

「そう?」

「なんか塚原とあんま話して無さそうだし、1人でいる時が多いような…文化祭前からお互いっつーか塚原っつーか、ピリピリしてるなーって思っててさ」

「…」

「茜谷さ、なんかあったわけ?塚原と」

 

 雄也にそう尋ねられた優里は黙り込んでしまう。

 

(山岸くんの事とか話していいのか…でも同盟の事は黙っておかないとだし…かといって永瀬に黙ったままなのも申し訳ないしなー。こうして心配してくれてるんだし…)

「あのね…」

 

 優里は日向が高成を好き(だった)かも知れないという事、おそらくそのせいでぎくしゃくしてるように見えるのかもしれないという事、文化祭で日向と共に高成とした事を雄也に打ち明けた。

 

「やっぱやってたんだ」

「…うん」

「で、茜谷はどういう気持ちなんだよ。山岸くんの事とかさ。教えてよ」

 

 雄也の問いにまたも優里は黙り、教えてと言われてもそれは無理だと優里は心の内で呟いた。畳みかけるように雄也は続ける。

 

「おれはさ、いつも明るくてさ、仲間想いで言いたい事ずばっと意見してくれる茜谷は見てて尊敬できるし良いな~って思う。けどここ最近見ててなんだか変だなっていうかなんというか…「茜谷、この際だからはっきり言うけど。このまま山岸くんが塚原とか他の女子に取られても良いのか?」

 

 …優里が最も聞きたく無かったであろう言葉が、雄也の口からついに出た。

 

「---っ!!良いわけないじゃん!!!」

 

 それは絶叫にも似た言葉だった。

 良いわけないじゃん。この優里の叫びは正真正銘彼女の心の奥の奥からの叫びである。だからこそそのような言葉を吐いた自身に対し、同盟を破るのかと責める感情と、高成の事が好きだとはっきり認めてしまえという悪魔のささやきが同時にこだまする。

 

「でもっ…山岸くんは里帆ちゃんが好きで!!そんな山岸くんの恋を成就できるよう応援したいって思ってた!だからっ…」

「…我慢してた?」

 

 雄也の声が優里の頭の上から覆いかぶさるようにして響いてきた。優里は手を握る。そして自宅へと一気に走り出した。

 

「おい!待てって!茜谷!!」

 

 雄也の声が響き渡るも優里は止まらず走る。途中言葉にならない叫びが優里の喉から湧いて出た。

 

「ああああああああああ!!!!!!」

 

 茜山同盟。これまで優里にとって癒しであり、心の拠り所でもあった秘密基地ごとき存在。それが今は優里を縛る枷になろうとしている。この事実を優里は誰よりも認めたくなかった。

 

(やだやだやだ!!同盟破りたくない!!!なのにっなのに…!!!)

 

 息を切らしながら家へ戻ると、栞が母親と話していた。栞は優里の異変にいち早く気づく。

 

「おかえりー!って、どしたの?」

 

 優里は反応する事無く自室へ入ると扉の前でしばらく呆然と立ち尽くすだけだった。

 

「山岸くん…」

 

 この時。山岸くんという声を栞は聞いていた。栞は何かあったのかと考えを巡らせるも優里には敢えて問わない事にしたのである。

 夜。ベッドで寝ている優里の元へラインのメッセージが届く。高成からだった。内容は今何してる?といったものだ。

 

「…なんか声聞きたいし電話してみようか」

 

 電話してみると高成はすぐに出てくれた。夜遅くにごめんという挨拶と謝罪から始まると、優里は今日何してた?と高成に聞いた。

 

「実は塚原さんに会って」

 

 その事実に優里はやっぱり。と感じた。

 

「…それで、ネカフェに連れられてフェ ラされたんだけど…おれのは反応しなかった」

「たたなかったって事?」

「…そう」

 

 優里は思わずえ、と声が漏れる。

 

「全くその気になれなかった。飯田や茜谷さんとどこか違うって感じてしまった。…塚原さんには、申し訳ないと思う…」

 

 優里はしばらく言葉が出なかった。たたなかった上に全くその気になれなかった。そして自身や里帆と感じた違い。この事に対し優里はどう違ってた?と高成に問うた。

 

「なんだろ…なんて言ったらいいのかな…感触とかもだけど、やりたいって思うかどうかとか…?」

「やりたいか…?」

 

 この時高成もまたどこまで優里へ己の気持ちを告白すべきかで揺れていた。内容によっては同盟のルール違反に繋がらないか?と高成の心は大きくやじろべえのように揺れ動いていた

 

(茜谷さんは信頼出来て頼れる特別な人だ。これは間違いない。けど、それだけじゃない気がするような気もして…)

(おれは飯田が好きだ。でも今は茜谷さんがより自分の近くにいるような気がする。…なんだろうこの気持ち)

 

 しばらく無言の間が続く。

 2人とも、言葉を紡げない

 

「…そっか」

 

 そう先に切り出したのは優里だった。しかしその後は続かない。

 

「…」

 

 高成も優里も言葉を出そうとするが、恐怖心からか胸の奥で止まってしまう。…しばらくして高成がひねり出した言葉は「ごめん」だった。

 

「…山岸くんは悪くないよ」

 

 優里はそう言うのがやっとだった。結局その後も通話は続かず、電話を切る事になる。2人はベッドへもぐりこむと顔を両手で覆った。

 もやもやが残るまま数日間経過した。

 

「おはよう山岸くん」

「おっ飯田。体調は大丈夫?」

「うんもう平気。心配かけてごめんね」

 

 朝。すっかり元気になった里帆と玄関で再会した高成は彼女の元気そうな顔と声を受けてひとまずは安堵感を覚えた。

 

(声変わってたしなー…体調よくなったのは良かった)

「あ、休んでた分のノート見せてもらっても良い?」

「いいよ」

「助かる…ありがと」

 

 里帆の笑顔もいつも通りと言った具合だ。早速休み時間に入ると高成からノートを借りて休んでいた間に進んだ箇所を自身のノートに写し取っていた。

 

「これ終わったから返すね」

「おう。…変じゃなかった?」

「ううん。やりやすかった。…字綺麗なんだね」

 

 その言葉を受けた高成は胸の奥がドキッと跳ね上がる感触を覚えた。

 

(飯田にそう言われるとなんか嬉しい)

 

 高成が貴史やクラスメイトの男子ら4人と昼食を取っていると、里帆がちょっといい?と手招きしてきた。彼女に促され廊下へ出ると、放課後うちで勉強会をしないかと誘いの言葉を受ける。

 

「おれは予定ないしいいけど…飯田は大丈夫なの?」

「うん。仕事でいないから大丈夫」

「分かった。じゃあ、また後程」

 

 里帆は嬉しそうにしながら去っていった。その様子を遠くから見ていたクラスメイトの男子からお前飯田といつの間にそんな仲になったんだよと質問攻めにあう。

 

「…予備校一緒だったんだよ。まあそれで」

「こーせーにも春が来るのかあ?貴史どう思う?」

「まあ、いいんじゃねえの?だって決めるのはこーせーだろ?」

 

 珍しく大人な返しを見せた貴史に高成は驚きの表情を浮かべた。

 

「お前…かっこつけやがって」

「…別にかっこつけてねーよ。ほんとの事だしよ」

 

 放課後。高成は里帆に呼ばれ彼女の家へとやってきていた。

 

「おじゃましまーす」

「どうぞ」

 

 里帆は高成からノートを借り、自身のノートへ写していく。喋らず黙々とシャープペンシルを動かす熱心な様子を見て、高成はやっぱ根は真面目なやつなんだなと里帆へ感心していた。

 写し終わったのはそれから1時間程経過した時だった。

 

「これで、終わりかな?…良かったあ~」

「おお!お疲れ」

「山岸くんありがとう。これ返すね」

 

 里帆は高成のノートを両手で持って丁寧に返した。高成はそれらを受け取るとリュックの中へしまう。

 

(役に立てて良かった。…そろそろ帰ろうか)

「じゃ、そろそろ…」

 

 高成が立ちあがると里帆は待ってと制止し、彼の腕を掴んだ。

 

「もう少し、くつろいでいかない?」

 

 

 

 

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