トンネルを抜けると、そこは雪国でした。朝の光を受けて、白銀の世界が輝いています。
「さむいさむい……うぅ……」
寒さが身に染みます。私、ヨル・ブライアはオスタニア北方に向かう列車の
「ふぅ……はぁ……」
(私、なんでこんな馬鹿げた事をしているのでしょう……)
不倫関係にある課長がご家族とスキーに行くからと、それとなく場所を聞き出して、後を尾けて。
万一にもバレないようにと、スキー場に向かう列車の屋根に張り付いているわけですが……
(バカみたい……)
行かないでって、言えばよかったんです。服のすそでも掴んで、すがりついてでも止めればよかったんです。
……そうしたらきっと、課長は私のことを一番に考えてくれた……きっと奥様や娘さんより私を優先してくれた……。
「……寒い……」
列車はスキー客を乗せて、北国の大地を疾走しています。今頃、課長はご家族と一緒に朝食を食べている頃でしょうか。奥さんとお子さんに囲まれて、温かいスープでも飲んで……私のことなんか忘れているのでしょうか……。
想像するだけで涙が滲んで……冷気ですぐに凍りついてしまいました。
◆◆◆
窓際の席からは、スキー場が一望できます。真っ白な雪に覆われたゲレンデでは、大勢の人が思い思いに滑ったり雪だるまを作ったりして遊んでいました。
ごく普通のカップルや家族たちの光景。
「ね、ねえティーナ」
「ティーナは止めてパパ。あと話しかけないで、息がクサイ」
「ご、ごめんよマルティナ……」
(あれが思春期というものなのでしょうか)
スキー場のラウンジで、私はそれとなくご一家の様子を観察していました。外の風景と対象的な、寒々とした親子の会話。父親であるゲルゲス課長は、娘さんの冷たい態度に傷つき、意気消沈しています。
課長と、肥満……ええと、ふくよかな奥様。反対にスラリとした娘さんの三人家族が、同じテーブルについて飲み物を飲んでいます。どこか冷たい緊張感を漂わせながら……。
「マルティナ? あなたまたそんな砂糖の塊みたいなジュースを飲んで。 お肌に悪いわよ?」
「ママに言われたくない」
娘さんはストロベリーシェイクをストローで吸いながらそっぽを向いていて、ご両親と目を合わせようとしません。
きつめの顔立ちは奥様にそっくりで、課長とはあまり似ていません。長い茶色の髪をまっすぐ背中まで伸ばしているのが印象的です。
「……?」
彼女は私に気づくと、軽く会釈をしてきました。すっと伸びた背筋には気品があり、育ちの良さを感じさせます。
私も微笑み返しますが、内心は少し焦っていました。変装は正直苦手なのです。
「ね、ねえエリー、スキー楽しみだね。ほら、新婚旅行以来だし……」
「ねえマルティナ、今日はインストラクターを頼んであるのよ。ママと一緒に練習しましょうね」
「…………」
夫に目もくれない奥様を見て、知らず知らずのうちに拳を握りしめてしまいました。いったい、何様なんでしょう。せっかく課長が……。
娘さんは娘さんで、母親の言葉に返事もしないし……。
「は、はは……本当に楽しみなんだなあ……」
課長は肩を上げ下げしていました。それは彼が筋肉の緊張を感じていることの証左。ストレス反応を和らげようとする仕草なのです。
ムカムカしてきて、私はホットココアを一気飲みしました。
◆◆◆
少し、勘違いをしていたのかもしれません。
「エリー? ティーナ? 一体どこに……」
私は、課長にも〈普通の家庭〉があるのだと思っていました。暖かくて幸せな、帰るべき場所がちゃんとあるのだと。
「そ、そんなぁ、エリー、ティーナ!」
それは大きな間違いだったようです。課長がお手洗いに立った短い間に、奥様と娘さんはどこかに行ってしまいました。取り残された課長はオロオロするばかりで、とても見ていられません。
考えてみれば当然なのでしょう。ちゃんとした家庭のある人間が、殺し屋女を脅迫して抱きついてくるわけがありません。私の胸に顔を埋めて、好きだ好きだと愛をささやくはずもありません。
「うううっ……ぐすっ、ひぐっ……エリー、ティーナぁ……僕は僕なりにっ、頑張ろうとして……!」
課長は泣きながら二人を探し、ラウンジを出て雪原の中をさまよっていました。
私は少し離れた場所から、そんな彼の姿を眺めています。冷たい風が頬を撫でていきました。
「ふ、ふふ」
彼は、家庭を持っていたのです。暗い影に包まれ、冷たく凍りついた家庭を。愛や思いやりの暖かい光を、持っていなかったのです。だから私を脅迫して、だから私に縋りついてきたのです。
「ふ──ッ!!」
ゴキッ、と指の骨が鳴りました。知らず知らず、ポケットの中で両手が人を殺すためのカタチに変わっています。
私だったら、スキーに連れてきてもらったのが私だったら。奥様や娘さんがいなくて、代わりに私が一緒にいたら、あんな顔はさせなかったのに。
「うううっ……ひっく……エリー、ティーナぁ……どこ行ったんだよぉ……なんでいなくなるんだよぉ……」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、よろよろと歩く課長。おぼつかない足取りで周囲を見回して──私の視線に気づいて振り向きます。
「あっ」
「こんにちは、課長。いいお天気ですね」
◆◆◆
「パパ?」
マルティナ・ゲルゲスは見た。自分たちを探しに出たらしい父親が、長身の女に引きずられる姿を。二人は、ゲレンデの木陰に入っていった。
◆◆◆
「ちゅふぁ……んっ、んっ」
「むぷぁっ! ちょ、ヨルくん……んむぅ!?」
木陰に連れ込んで唇を奪えば、課長は目を白黒させて驚いていました。構わず舌をねじ込み、歯茎の裏から上顎に至るまで蹂躙します。
抵抗しようともがく手を掴んで拘束し、グイグイと木の幹に押し付けて逃げ場を奪ってしまいます。
「んーっ!? んんーっ!! っぷはっ、や、やめっ──」
「はぁ、はぁ、はぁ……ふぁぁ」
息が苦しくて一度顔を離すと、粘っこい唾液が何本も糸を引きました。口元を押さえて真っ赤になっている課長。私は、言葉に表せないほどに荒れ狂った嵐のような感情に支配されていました。
この人が欲しい。あんな女たちに渡したくない。今すぐこの場で○してやりたい……!
でもそんなことはできません。私は代わりとばかりに彼の首筋に口づけしました。痕が残るほど強く吸って、噛みついて、舐め回して、彼のすべてを味わい尽くそうと必死になり、夢中で貪りました。
「はぁっ♡ ちゅっ♡ ちゅぅ……♡ 課長ぉ♡」
「ちょっ、待っ……ひぃっ」
彼の耳たぶを甘噛みして、そのまま舌先でチロチロと弄びます。まるで毒を流し込むかのように、熱い吐息を吹きかけながら耳元で囁きます。
「課長……あなたが欲しい」
「……あぇ?」
「やん……止まらなくなっちゃう……♡」
耳に唇を押し当てて、舌でねぶりながら何度もキスをして、そしてまた首筋に戻って同じことを繰り返す。
「ちゅぅっ、ぢゅぷっ、れろぉっ♡」
「ひぁぁぁ……やめぇ……」
そうしているうちにどんどん興奮してきて、私は自分の胸を彼に押しつけながらひたすら愛撫を続けました。ブラジャーの裏地に胸の先が擦れ、それだけで甘い痺れが走ってきます。
「れろぉっ、じゅるるるっ♡ はぁ、はあ……課長ぉ……」
「あああぁぁ~……」
夢中になって愛撫していると、次第に抵抗する力が弱まっていきました。恐怖や戸惑いの色が薄れていき、トロンとした目つきになっていきます。
ああ、舌に伝わる汗の味すらも愛おしい。この人は今この瞬間だけは私のものなんだと実感できて嬉しくなる。もっともっと、全部欲しくなってしまう。
もういっそ、このまま食べてしまおうか。首筋に嚙みついて肉を食いちぎって血を啜り、肉片を咀嚼して飲み込んで、内臓を取り出してぐちゃぐちゃにして舐めてしゃぶって胃の中に収める。
そうしたら、あの女どもは悲しむのでしょうか。普通の人間は、家族を食べられたら悲しむのでしょうか? それとも怒りますか? 復讐したいと思うのでしょうか?
(どうでもいい)
そんなことより今はただ、この燃えるような欲望に身を任せていたい──
(……ああ)
ふと気づくと、私の腰はパンティがよじれるほどに激しく動いていました。無意識のうちに指を伸ばして自慰行為に及んでいたのです。
(ああ、やだ……)
恥ずかしくなった私は一旦動きを止めましたが、身体は貪欲に刺激を求めていました。いくらもしない内にまた動き出してしまいます。ズボンの上から股間をいじり、胸を彼にこすりつけ、唇は肌を求め続けていました。
「あっ、ああっ♡ だめぇっ、止まらないぃ……っ♡」
「うう……あ……あっ」
されるがままになっている課長も、いつしか腰をビクビク震わせています。その手を取って、ズボンの横から私のヒップに導いてあげると、素直に従ってショーツに指を這わせてきました。
寒さで冷えた手でお尻を撫でられて、ゾクゾクした感覚が走り抜けます。ピリッと電撃が走ったような快感に身をよじると、彼もビクッと震えて手を離してしまいました。しかしすぐに思い直したのか、恐る恐るといった様子で再び触れてきてくれます。
「ひゃぁん……」
今度は割れ目に沿って指が這い回っていました。思わず声が出てしまうくらいに気持ちが良くて、お腹の奥からじゅんっと蜜が溢れてくるのを感じます。腰の奥が熱を持ち、自然と両足が大きく開いてしまいました。もっと触ってほしいという意思表示です。
「はああっ……課長、そこぉ……」
「え……? こ、ここ……?」
「はい、そうです、そこを撫でてください……」
私が誘導すると、課長はおずおずと指先を動かしてくれました。不器用ながらも優しく、丁寧に触れてくれるのが伝わってきます。
「あんっ、やっ、すごいです、課長……上手です……」
割れ目の中にある大事な穴に触れられると、ジンッとした快感が広がりました。自分で触る時とは全然違う、腰が抜けそうな程の気持ちよさ。私は背筋を仰け反らせながら、たっぷりと甘い息を吐きだしました。
課長の肩に頭を預けてもたれかかり、指を動かされるたびにビクンビクンと跳ね上がります。
(気持ちいいっ♡ すごくいいっ♡ 頭の中をグチャグチャにかき回されてるみたいっ♡ こんなの初めてっ♡)
自分でもどうかと思うほどに、私は燃え上がっていました。理性が愛欲の熱に焼き切れ、身体が性欲に支配されていくのがわかります。もう止められません。
「はぁ、はあぁっ、課長……課長……! あぅっ、うううんっ……」
舌を震わせながら顔を近づければ、何も言わずとも察してくれました。そっと唇が重なり合い、どちらからともなく舌が絡まり合っていくのです。
ニュルニュルと互いの唾液を交換し合いながら貪り合う様はまさに獣のよう。でも今の私たちにそんなことを感じる余裕はありません。ただひたすらに互いを求め続けました。
「んちゅ♡ んむぅ♡ ふぁぁぁ♡」
頭がぼうっとしてきて、思考がままなりません。それでもなお求め続けるうちに、彼の指が膣口につぷんと入ってきました。
「……っ! んむっ、ふぁ♡ やんっ♡」
彼の顔を両手でつかみ、フーフーという鼻息を当てながら舌を突き出します。はやく♡ はやく♡ とせがむように。
それに応えた彼が中指を沈めてきて、ぬるりと入り込んできた感覚に背筋がぞくぞく震えました。ゆっくりゆっくりと進んでくる感覚にゾワゾワしながら身をゆだねていると、やがて根元まで入り切ったところで止まります。
「んふぅ……♡」
私が鼻にかかった声を漏らすと、彼は探るようにして指先をクイクイと動かし始めました。
「きゃうんっ! はっ、はあっ、ひぁう……!」
クチュクチュと音を立てながらかき混ぜられ、お腹の裏側の弱いところを何度も何度も擦られます。そこはクリトリスの裏側で、快楽を感じるための神経が集まった敏感な場所でした。
「ふっ、んくっ、はぁ……♡」
課長は私の弱点を探り当てるのがとてもお上手なんです。だって課長、私のことが大好きですから……♡
「あう、やんっ、はぁっ、あぁん……ひぁう!」
互いに見つめ合いながら、私たちは舌を絡ませ合います。口をぽっかりと開いたまま夢中で唇を合わせ、歯茎の裏や上顎や頬の内側などを舐めまわします。
その間も膣内をかき回す指の動きは止まらず、私は身体をくねらせながら悶え続けました。フーフーと発情しきった
私は喉を鳴らしてそれを飲み干しました。ごくっ、ごくっと飲み込む度に、彼の体液を身体の中に取り込んでいるのだという事実に脳髄が痺れていきます。
「んんくっ、むうっ……ぷはぁっ」
息が続かなくなったので唇を離しましたが、舌だけは名残惜しそうに絡みついたままでした。ねろんねろんといやらしく蠢きあい、そして再びキスをします。
(ああ……幸せぇ……♡)
彼とひとつになる悦びに浸りながら、夢中になって舌を絡め合っていく私。その間にも、アソコは彼の指をくわえ込んで離そうとしません。
それどころかねちゅねちゅと愛液たっぷりに、奥へ奥へと引き込もうとしていて、自分の身体なのにまるで言うことを聞きませんでした。まるで別の生き物のように熱く火照った粘膜がうねり、指をしゃぶっているのです。
「えひひっ♪ ちゅっ♡ ちゅぅっ♡」
唇を重ねながら笑います。きっと今の私の顔はとてもだらしなくなっていることでしょう。ですが、そんなことはどうでもいいことです。それよりも今は、もっと彼を味わいたいのですから。
そうして愛撫し合っているうちに、段々と絶頂感がこみ上げてきて、身体がぶるぶると痙攣し始めました。
「んふ、かちょ、イキそ、イキそうれす……!」
「いいよ、イって……」
「はいっ、ッッ、い、イクッ!!」
大きく背中をのけぞらせて達しました。手足が震え、視界も歪んでしまいます。熱い波が押し寄せてくるような感覚を堪えきれず、私は大きな声で叫びました。
「……っ!? はああっ! あっあっあああぁぁぁぁ~~~~~っっっ!!!」
見上げた空には樹氷が立ち並び、太陽の光を反射してキラキラと輝いていました。吐く息は白く染まり、吹きつける風が頬をなでるたびピリピリとした痛みが広がります。
私は、その美しい光景をぼんやりと眺めていました。
「……綺麗……」
いくら人目がないとは言え、ゲレンデの木陰で空を見上げて絶頂感に身を委ねているなんて、こんなの普通じゃありませんよね。
でも仕方ないじゃないですか。他にどうすればあの
◆◆◆
「っ────うそっ」
マルティナ・ゲルゲスは見た。父ミハエル・ゲルゲスと、見たこともない長身の美女が木陰で抱き合う姿を。熱烈に交わされる唇を。
そして、父の手で股間を弄ばれて性感の高みに導かれた美女の姿を。
ドサッと、樹上から雪の塊が落ちる音がした。
(続く)