1話 未知との遭遇
俺の名は岩馬雷児。愛知県名古屋市在住の、しがないフリーターだ。
そんな俺は今、知人の運転する車に乗っている。
なんでも、その知人はある特定の人物だけを取材するジャーナリストらしく、今回どういうわけか俺も同行してもいいとのことで、このようなことになっている。
知人の名は黒金誠司。職業はカメラマン。そして今日行くところは……。
「なぁ、なんでわざわざ海に行くんだ? しかもこんな朝早くから」
そう。今は早朝の六時を少し過ぎた頃である。名古屋から高速を使って一時間ほど走らせたところにある、とある海の方の田舎に車は止まっていた。
黒金が乗っている車は白銀色のプリウスで、購入してまだ半年も経っていないほどきれいだった。
スマホの案内アプリを使い、今回の目的地に到着したわけだ。
幸い渋滞にも巻き込まれず、スムーズに現場に来ることができた。
俺と黒金は小学校からの仲だ。中学校からは別々の学校に進んだのだが、大学は一緒だった。だがお互い忙しい身であったため、一緒に遊ぶことはほとんどなかった。
ちなみに俺の年齢は23歳。黒金とは同い年だ。
「まあ、ちょっといろいろあってね……って言っても、君には分からないとは思うんだが、今回すごい子に会いに来てね」
「はぁ…。すごい子…」
俺は少々戸惑いながらもオウム返しで答える。
都会である名古屋から離れた海の近くの田舎というだけあって、潮風が気持ちいい。空も青く澄んでいる。
俺は背伸びをした。いくらフリーターといえど、都会での生活はどこか窮屈な部分もある。
しかし、この田舎にきて、少し気分が和らいだような気がする。
辺りを見回すと、多くの漁船があることから、ここは漁村か何かのようだった。
ここを海で魚を獲る拠点としているのだろうか。それとも、漁港のようなものでもあるのか。
どちらにせよ、なかなか良い雰囲気の場所ではある。
「おーい! 着いたぞ!」
黒金が叫び声をあげた。彼が叫んだ方向を見ると、一人の少女がこちらに向かって走ってきていた。
「あ、ようこそ!待ってました!」
その少女は見た感じ、少なくとも中学生はいってそうな年齢の女の子だった。
オレンジ色のショートヘアーとTシャツ、デニム生地のホットパンツ姿だ。
足には白い靴下と青いスニーカーを履いていた。
胸もそこそこある。
「あ、岩馬。今回お世話になる子だ」
黒金が彼女を紹介する。どうやらこの子が『すごい子』らしい。
確かに普通ではないオーラを放っているように感じる。
「よろしくお願いします」
彼女は丁寧に頭を下げた。礼儀正しい子だ。
「私は、星宮愛理沙と言います」
「ああ、俺は岩馬雷児。黒金さんの付き人で来た。俺も何ができるかわからないけど、今日はよろしくね」
俺も少し緊張気味で挨拶をした。
「はい、こちらこそ」
こうして俺達は自己紹介を終えた。
早速、愛理沙ちゃんについていく形で、俺達二人は彼女の家に向かった。
彼女の家は小さな平屋建てだった。
中に入ると、そこには居間があり、台所もあり、畳の部屋もあった。
また、大きな魚拓が壁に飾られていた。さすが漁師の家だ。
「あ、名前はなんて呼べばいいかな」
「呼びやすい呼び方で大丈夫です」
俺の質問に、彼女はきちんと答えてくれる。
それにしてもかわいい子だな。オレンジ色のショートの髪に加え、青い瞳。
体つきも中学生のモデルができそうな体系をしている。
「じゃあ、愛理沙ちゃんって呼ばせてもらうよ」
「はい、それでお願いします」
そんな会話をしながら、俺達は家の中を見て回った。
見るからに、この家は、この漁村の漁師のリーダー的な人の家なんだろう。
とはいえ、まだこの子の親に会えていない。
そう思っていると、愛理沙ちゃんの父親らしき人物が、奥から現れた。
年齢は40代後半くらいだろうか。白いタンクトップを着た、筋肉質の男性だ。
顔立ちはとても整っており、イケメンだ。優しそうな雰囲気がある。
「あ、お父さん」
愛理沙ちゃんが嬉しそうに声をかける。どうやら彼女が言っていた父親はこの人のようだ。
イケメンの父親にこの美少女の娘あり、というわけか。
「はじめまして。黒金さんの付き人で来させていただいております岩馬雷児と申します」
俺は慌てて挨拶した。
「こちらこそどうも、父の星宮毬男です」
変わった名前の父親だった。…というか、下の名前、あの国民的ゲームの主人公と同じ名前か。
いや。ただの偶然だ。ここでいちいち疑問に思ってたら、埒があかない。
「今回はなにとぞお願いしますね。ところで、漁はいつ出られるおつもりで?」
黒金が毬男に質問をする。
「今日は休みだ。まあ、準備はしてあるからいつでも行ける」
「そうですか。では、お手数かもしれませんが、出発の準備を……」
「あ、はい! 分かりました」
彼はすぐに返事をして、そのままどこかへ行ってしまった。愛理沙ちゃんがなぜか父親の後をつけるかのように、ついていった。
俺は頭の中に疑問符が浮かんだ。
「なあ、休みなのにいきなり漁に出させるなんてあまりにも無礼すぎないか?」
俺は少し顔をしかめ気味に黒金を見る。
「ここの村の漁が目当てなんじゃない。さっきも言ったろう、俺たちはあの子に用があるんだよ」
「おいおい、変な気起こすなよ」
「分かってるって」
俺は黒金の言葉に、少し不安を覚えた。
そして、少し時間が経つと、毬男は戻ってきた。
その手には、ロープや網、バケツなどが握られている。
「すみません」
毬男が頭を下げる。
「それでは外に出ましょう。愛理沙も待ってます」
俺たちにそう言って、外へ出た。
外に出るなり、愛理沙ちゃんは父親から道具を受け取ると、一人で直立不動で海の方を向いていた。
その様子はまるで海の女神のような美しさがあった。
しかし、服を着替えたりした様子はなく、俺たちを出迎えてくれた姿のままだった。
Tシャツにホットパンツの出で立ちは変わっていない。
黒金は仕事用に使用しているであろう黒い鞄から大きなカメラを取り出し、準備をしていた。
さすがはプロ用の道具だけあってか、いかにも高そうな機材だ。
「待たせたね、愛理沙ちゃーん」
黒金が声をかける。その声に反応した愛理沙ちゃんがこちらを向く。
「はい。いつでもいいですよー」
そう言った愛理沙ちゃんの顔は、どことなく少し恥じらいがあるように感じた。
「それじゃ見せてくれ」
黒金がそう言うと、愛理沙ちゃんは履いているホットパンツのボタンを外し、チャックも下ろす。
すると、彼女の下半身を守る、可愛らしい下着が姿を見せたのだった。
つまり、彼女は今、下半身にはパンツと靴下、スニーカーだけを身に着けている状態だった。
「……っ!?」
俺が思わず息を飲む。
まさか、こんな場所でそんな格好になるとは思いもしなかった。
「ほぉ……これがその」
黒金が興味深そうに、パンツを丸出しにした愛理沙ちゃんを見つめる。
年上の男性にまじまじとそれを見られている愛理沙ちゃんは嫌がることなく、堂々と立っている。
ちなみに愛理沙ちゃんが履いているパンツは、白い布地に、真ん中に少し大きめの青いリボンがついたかわいいパンツだった。
股間部分を見ると、少しぷくっと膨らんでいた。
「あぁ…」
俺は思わず声が漏れてしまった。
「よーし、撮るよ」
俺の独り言を無視し、、黒金がカメラをパンツ丸出しの愛理沙ちゃんの方に向け、撮影をしだした。
その後はというと、黒金がいろいろ彼女にポーズの指示をし、撮影を行っていた。
嫌がることなく、愛理沙ちゃんは撮影に応じている。
黒金に招かれてきた俺は完全に蚊帳の外のようだ。幸い今日パートは休みだったが、なんだか申し訳ない気持ちになった。
「よし、もう終わり」
黒金の言葉で、撮影は終わった。
愛理沙ちゃんはパンツはまだ見せた状態だった。ホットパンツは近くの岩場に置かれており、どこかさみしげに見える。
パンツを丸出しにした少女、星宮愛理沙。彼女に秘められた秘密を、俺は後に知ることとなった。
場面は変わり、大きな漁船の上。
俺、黒金、毬男、愛理沙ちゃん、そして、3人ほどの毬男の部下の漁師が乗っていた。
愛理沙ちゃんはホットパンツは履いておらず、下半身をずっとパンツ丸出しの状態にしたままだった。
それはそうとして、か弱そうな女の子をこんな腰が冷えそうな姿にするのはどうなのだろうか。
潮風は気持ちいいかもしれないが、温度がいかんせん冷たい。風邪を引いてしまわないか心配だ。
「寒くないか?」
「大丈夫です」
愛理沙ちゃんは俺の問いに笑顔で答える。
しかし、頬が赤い。きっと寒いに違いない。
「よおし愛理沙、いつものやつ、頼む」
毬男が言う。愛理沙ちゃんが無言でうなづき、船の一番前の方まで歩いて移動していった。
船首の方まで愛理沙ちゃんは行き、じっと立っている。
俺は何がなんだかわからなかったので、黒金に聞く。
「なあ、あの子いきなり船首の方で堂々と立ってるけど何してんの」
「これからだぜ、すごいこと」
そう言いながら、黒金は仕事道具のカメラを船首の方に向けている。
波の音がただ静かに船の上で聞こえる。人の話し声など一切ない。
毬男の部下のひとりの漁師が小ぶりの太鼓を持ってきて、それを毬男に渡した。
その太鼓を受け取った毬男が、とん、とん、とばちで太鼓をたたき始めた。
小さい割にはかなりの音がする太鼓だ。古そうな感じだが、音は大きく響いている。
太鼓の音を聞いた愛理沙ちゃんが、波の動きを思わせるかのような手と腕の動きをしだした。
後ろを向いている姿なので、小ぶりのお尻が少しかわいく見える。白いパンツに包まれてはいるが、きれいな形のお尻だ。
「あれは一体?」
「ああやって、神に捧げる踊りをしているんだよ」
「へえ……」
なるほど、確かに儀式的な雰囲気はある。
「よぉーっ」
黒金が突如大声を出す。その叫びを聞いた愛理沙ちゃんが動く。
太鼓の音が先ほどに比べ、大きくなっている。ばちをきつめに叩いたからだ。
毬男の叩く太鼓の音が、どんどんテンポをよくしている。
太鼓のリズムに応じて、愛理沙ちゃんの踊るような動きも勢いのあるようなものとなる。
魚をよこせといわんばかりに、両腕でこちらに来るような仕草をしたり、大きな魚をとらえたかのようなジェスチャーのような動きをしている。
黒金は撮影に夢中で、俺の気配など感じていなかった。
俺もただここで謎の儀式のようなものをじっと見ても仕方がないので、スマホを取り出し、その様子を撮影していた。
いや、俺は変態ではないが、何やら珍しいものなので、撮っただけだ。勘違いしないでほしい。
すると、海の様子がおかしい。俺と部下の漁師たちは慌ててその様子を船の上から眺めた。
すると、おびただしい数の魚が船に寄ってきた。パッとみただけでも数十…いや、数百匹はいそうな雰囲気だ。愛理沙ちゃんは相変わらず踊っている。
「おい、これって……」
「あぁ、海の神に捧ぐ踊りだ。あの子の踊りで、寄ってきたんだよ」
黒金がそう言った。
俺は舞う愛理沙ちゃんをちらりと見た。白いパンツは相変わらず美しい。
「なんでパンツ丸出しで踊る必要があるんだ?」
思っていたことを率直に黒金に聞いてみた。
「それはな、あのパンツに秘密があるからだ。パンツ丸出しのダンスは神聖なものに見え、神様も大喜びってわけ」
「そういうもんなのか」
「ま、俺の考えだけどな」
黒金は自信満々に言っているが、正直説得力はないと思った。
女の子に下着丸出しにしてあんなことをさせているが、本当に効果あるのか? 俺がそんなことを考えている間に、愛理沙ちゃんの踊りは終わり、船の上にたくさんの魚たちがあった。漁師たちが引き揚げたんだろう。
「よっしゃ、今日は刺身祭りだ!」
黒金が叫ぶ。
こうして、愛理沙ちゃんは俺たちのいるところへと歩いて戻っていった。
黒金による愛理沙ちゃんの撮影した日より数日後のこと。
俺は、黒金を名古屋市内の喫茶店に呼び出し、あの日のことについて聞き出していた。
「教えてくれ。あの日の魚の大量発生のこと。そして、あの子のパンツのこと」
苦いブレンドコーヒーを黒金は眠そうな目で飲んでいる。
「あの日か……。前にも言ったが、神に捧げものをしたんだよ」
「神に?」
「あぁ、愛理沙がな。あの子にも、あの子の履いているパンツにも、そんな効果があるんだよ」
あっけらかんとそんな答えが飛んできた。しかし、俺には言っていることがまるでわからなかった。
「パンツ出さないと効果が出ないってことか?」
俺は質問をしてみた。
「そうだ。パンツそのものを露出しておかないと、効果が全くでないんだ。んで、ズボンを脱ぎゃ、効果が出てくるってわけ」
「オカルトくさいな…」
俺はその答えをあまり真に受けていなかった。そう。オカルトだろう。
女の子がパンツ丸出しになって踊ったら、魚が大量に船めがけてやってきたなんて、都市伝説レベルのオカルトだ。
しかし、実際にあんな現象が起こっているため、これをオカルトと100%決めつけるのはどうなんだろうか。
それに、黒金の表情を見る限り、嘘をついているようにも見えない。
黒金は、俺の目をじっと見つめて、こう言ってきた。
「信じなくてもいいぜ。でもな、この動画を見てみろ。きっと、お前も納得するはずだぜ」
黒金がスマホを取り出し、ある動画を俺の方に向けて見せてきた。
…画面に映っていたのは長い銀髪が美しい、高校の制服を着た女の子だった。
女子高生とは思えない大きな胸。灰色のセーターに、青いリボンタイ、紺色のミニスカート姿だ。
髪には青いリボンをつけている。
「本当にいいんですね?」
銀髪の少女が撮影者に何かを確認するかのように聞いてくる。
「存分にやってくれたまえ」
撮影者は男性のようだった。渋い声で、黒金ではないことはわかった。
やってもいいことがわかると、少女は履いているミニスカートを脱ぎ捨て、自らの股間を覆う純白のパンティを晒した。
むっちりとした極上のふともも。青いリボンがワンポイントの清楚な白パンティ。そのあまりにも美しい光景に、思わず息を呑んだ。
場所は見るからに体育館の中のようだ。
彼女の目線の方から、数名の男たちがやってきた。
どれも屈強そうだ。こんな姿をしているので、下手すれば…
「こいつらは世界でも屈指の強豪の格闘家だ」
黒金が解説する。俺は無言で動画を見つめていた。
「はぁーっ…」
白いパンツを丸出しにした銀髪の少女は、大きく深呼吸をした。
「では、参りますっ! はっ!」
気合を入れたような声を出す。次の瞬間だ。
「え……!?」
俺は信じられないものを見た。
銀色に輝く髪の毛が、ぶわっと舞い上がったのだ。そして、それと同時に、少女の体が宙に浮いた。
「なんだこれ……?」
俺は驚愕した。
「ここから本番だぞ」
黒金が得意げに言う。
少女は、手のひらから青色のビームのようなものを男たちに放った。
それを受けた男たちは氷に包まれて動かなくなっていた。
「うぅ…」
氷の冷たさで、男たちは寒そうな顔を浮かべていた。
地面に着地し、少女はそのすきに男たちに猛攻を仕掛ける。
白いハイソックスと、黒いローファーを履いたその足で、目にもとまらぬ蹴り技を放ったのだった。
その速さは見るだけでは予測できない。
「す、すごいな……」
俺が感心しているうちに、男たちは全滅していた。
「ふぅ……」
銀髪の少女は一仕事終えたかのように、額の汗をぬぐっている。白い太もももきらり、と輝きを放っていた。
動画はここで終わりのようで、途切れた。
「おい、黒金。これは一体何なんだ?」
「あの子のような力を持つ者。オカルトかどうか疑うお前に、証拠として見せてやったのさ。俺のスマホに保存されてた動画だ」
黒金がスマホをズボンのポケットにしまう。
「どうだ。これでもオカルトと信じるか?」
「CGの演出とかでもないんだよな」
「CGなんて使ってないよ」
「じゃあ一言で言うと」
「超能力ってやつ」
俺はその言葉を素直には信じなかった。しかし、この動画を見て、愛理沙ちゃんが超能力を持っているということは信じるほかなさそうだった。
俺は少しもやつきはあったものの、ひとまず疑問点が解決したので、黒金に礼を言うことにした。
「すまないな。どうでもいいことに時間をとらせちまって。好きなもん頼んでいいぜ」
「マジか? じゃあ、お言葉に甘えて……」
黒金はメニュー表を手に取り、ページを開いた。
「俺、これにしようかな」
黒金が指差したのは、ジャンボパフェという特大サイズのデザートだ。
「相変わらず甘いものが好きなんだな。虫歯に気をつけろよ」
俺は笑いながら答えた。友人が変わっていなくて安心した。
…パンツに女の子。まだまだ俺に疑問はついてきそうだ。