俺は岩馬雷児。
来年2023年の4月に、仕事が決まった名古屋市在住のしがないフリーターの23歳だ。
そんな俺は、天川財閥のお嬢様である天川三月と同棲し、来年の3月までパート生活を送っていた。
世はもうすぐクリスマス。12月だ。
俺と一緒に暮らす三月も、俺の働いているスーパーマーケットにバイトとして入ってくれている。
なんでも監視の名目で俺のもとで暮らしているのだが、なんだかんだで楽しそうにしてくれていた。
そして今日は24日。クリスマスイブだ。
今年も去年までと同じように過ごせると思っていたが……そうはいかなかった。
スーパーは12月下旬になると、途端に大忙しだ。
青果部門ではクリスマスのケーキの材料となる苺、サラダの材料各種がよく売れる。
精肉部門では骨付きのもも肉が、お惣菜部門では調理されたローストチキンが売れ筋商品だ。
三月はそんな忙しい時期でも、せっせと動いてくれていた。
バイトの時ではなぜか黒縁の眼鏡をかけて作業をしている。これがどういうことを意味するかはわからないが、知的なイメージを出していてすごく似合っていた。
「ふぅ〜……」
「お疲れさん」
今日のバイトも終わり、俺達は2人で帰路についていた。
ちなみにだが、俺は今日も仕事を頑張れた。
俺たちは徒歩で、自宅のワンルームマンションまで歩いていた。
俺たちの手には、お惣菜などが入ったビニール袋が提げられている。
俺も忙しい時期なので、残業をして三月と一緒に作業をしていた。
それで、一緒に帰っているというわけだ。
辺りはすっかり暗い。街灯や家の明かりが道を照らしてくれているが、それでも暗かった。
俺はふと思い出して、ポケットからスマホを取り出す。
そして時刻を確認すると…………。
「うわっ!?もう22時回ってるじゃないか!」
思っていたよりも時間が経っていたことに驚いた。
こんな時間になっていたとは。でもまあ、もうじき着く。
歩いていたら、もう着いていた。
去年完成した真新しいマンションが、俺たちを出迎えてくれた。
「さ、早く入りましょう」
三月がエントランスに入っていく。俺もそれに続いて入った。
オートロックを解除し中に入る。エレベーターに乗り込んで住居のある階へと上がる。
扉が開いて部屋の前にたどり着いた。鍵を取り出して開ける。
三月は靴を脱ぎ、一目散に部屋へと入っていった。
バタバタと足音を立てて、まるで子供のようだ。
スタイルの良い女子高生なのだが、こんな面を見せてくれるので、やっぱり可愛らしいなと思う。
「ただいま」
俺は一声言って、くつを脱いで部屋に入った。
三月が明かりをつけてくれたようで、電灯が部屋に眩しいくらいに灯っていた。
「さ、食べようか」
俺たちは、夜遅くになってしまったが、早速食事をすることにした。
無論、クリスマスの食事を。
テーブルの上には、買ってきた料理の数々が置かれている。
唐揚げ、フライドポテト、エビチリ、ピザ、サンドイッチなどのパーティー向けのものばかりだ。
どれも美味しそうな匂いを放っている。食欲がそそられる。
「いただきます」
「いただきます」
2人揃って声を揃えた。
まず最初に食べたのは唐揚げだ。熱々のそれに齧り付くようにして食べる。衣のサクッとした食感のあとに来る肉汁の旨味が堪らない。
続けてフライドポテトを食べる。塩加減がちょうど良くて、とても美味しかった。
次はエビチリ。ピリッとしたチリソースと、ぷりっとした食感のえびが、いい感じに交わって口の中でハーモニーを奏でる。
俺たちはそんなスーパーの総菜に舌鼓を打った。
運良く、これらの総菜が残っていたため、それを買うことにしたのだ。
「うん、うまいな」
「えぇ!本当に!」
三月もご満悦の様子だった。
「これなら、いくらでも食べられそうだ」
「そうね」
三月も、唐揚げを食べたり、フライドポテトを口に運んだりと、食事を進めていた。
そうして、あっという間に食べ終えてしまった。
「うーん…。食った食った」
俺はごろんと床に寝っ転がっている。
仕事での疲れもあるが、たらふく食べたのでお腹いっぱいだ。
「お風呂沸かしてきます」
「おう、頼む」
三月が浴室に向かった。
俺はぼけーっと天井を見つめている。
すると……
ピンポーン インターホンが鳴った。誰だろう? 宅配便だろうか。
「はーい」
俺はモニターを確認する。
そこに映っていたのは宅配便のお兄さんだった。
「夜遅くすみません。こちら、天川財閥の方からです」
なんと宅急便は天川財閥からのものだった。
どうやらクリスマスプレゼントを送ってくれたらしい。
「ありがとうございます、すぐまいりますね」
俺はエントランスで待つ、配達員へのもとへと向かっていった。
こうして俺は、配達員から贈り物を受け取り、部屋へと戻った。
その贈り物とは、大きな箱に入った高級感溢れるシャンパンだ。
中にはワイングラスも入っている。
「おっ、届いたんですね」
「ああ、届いたよ」
俺はシャンパンの瓶を手に取って眺める。
すごく綺麗で、思わず見惚れてしまうほどだ。
しかし、これはお酒。まだ未成年の三月が飲むことは不可能だ。
「っていうか、これ三月飲めないぞ。どうしてこんなものを…」
俺は困ってしまった。お酒を贈ってくるなんて、一体どういうことなんだ……? 俺が困惑していると、三月が話しかけてきた。
「ああー…。これシャンパンですね。うん。差出人は誰かしら」
三月もその瓶を見て、お酒だとすぐにわかった模様。
本人はそれを見て少しがっかりした様子だった。自分が飲めないのはわかっていたため。
「じ、じゃあこれは俺が飲むってことで。君は…。そうだな、冷蔵庫のお茶で我慢してくれないか」
俺は、三月に申し訳なさを感じながら、そう提案した。
「うぅ〜。仕方ないわね」
三月は渋々だが了承してくれた。
そして、俺たちは食事の後片付けをそれぞれで行い、風呂なども済ませたのだった。
しかし、いくら贈り物とはいえ、飲食物に関しては、誰でも口にできるものにしてほしいものだ…。
クリスマス商戦を終え、今度は年末商戦だ。
お正月の準備のための商材を売らなくてはならない。
俺たち青果部門では、おせち・お雑煮の具材となる野菜はもちろんのこと、箱売りのみかんもよく売れるものだ。
他の部門でも、家族一同が集まった際にする鍋の具材などが売れる。この時期になると、忘年会や新年会を自宅でする人たちも多いようで、そのために店を訪れる人も少なくない。
忙しい時期が続いていて、俺も三月も毎日のように働いていた。
三月ははじめてにもかかわらず、こんな激務にも耐えて働いてくれていた。
さすがは財閥の出身者と言うべきか。
「ふぃ〜」
「はぁ〜」
俺と三月は、同時に溜息をつく。
俺たちは、今休憩室にいる。
まだ大みそかになっていないため、そこまで客足は多くない。
この隙に、束の間の休息を取ることができる。
「もうすぐ年末年始だな」
「ええ。そうですね」
クリスマスが終わると、あっという間に年末だ。本当に早いなと感じさせられる。
「君の実家では、毎年どんな風に過ごしてるのかな」
俺は三月に、財閥の豪邸にいるときの年末年始の過ごし方を聞く。
「ええっとですね…。まず大晦日にはみんなでパーティーをして、年越しそばを食べて、除夜の鐘を聞きながら寝ます」
三月は淡々と答える。
「へぇー。そんな風なのか」
「はい」
やはり、普通の家庭とは違うようだ。さすがはお嬢様。
「元旦には、親族が集まって挨拶をしたりします。2日3日には親戚の家に挨拶回りにいきました」
「ほぉー。なかなか大変そうだな」
三月の話を聞いていると、日本の伝統的な行事ごとなど、色々なことを体験してきたんだなと思う。
子供とは言えど、ゆっくりもさせてはもらえなかった様子。
「そういえば、君は実家に帰るのか?」
俺は気になって聞いてみた。
三月にとって、ここはホームステイ先。彼女の両親がどう思っているか知りたかったのだ。
「いえ。私は帰らないつもりです。お父様に、しばらく家には帰らずにここにいると伝えたので」
「そうか」
今年は特別にお許しをもらってここにいるみたいだ。
それは俺も問題はない。俺も去年は実家には帰らずにマンションで年越しをしたっけ。
カップ麺のそばを年越しそばにして、元旦の初もうでには熱田神宮に一人で行った。
元旦ということもあり、多くの参拝者がやってきていた。俺は特に何かお願い事をしたわけではないが、それでも神様に感謝の意を込めて手を合わせた。
あの時は1人だったが、今は三月がいる。
それだけで心強いものだ。
こうして、休憩時間も終わり、仕事に戻った。
俺たちはそれから、いつも通りの仕事をして一日を終えたのであった。
そして、その日の翌日以来の大みそかまでの激務を耐えしのぎ、年末商戦を乗り切ったのである。
いよいよ今日は、待ち望んでいた大みそかだ。
三月もここまでよく頑張ってくれた。
12月31日23時50分。場所は俺の自宅のワンルームマンションだ。
ついにこの時が来た。
「いよいよだな……」
俺はそう呟いた。
隣にいる三月もこくりと首肯する。
テレビに映っている時計を、ちらちらと見ている。
テレビには他地方の寺院や神社の様子が中継で映し出されている。
BGMも一切なく、静寂が画面越しに伝わってくる。
俺たちがいるリビングも、しゃべる声ひとつなく、静寂が包んでいる。時刻は0時まであと5分ほどとなった。
俺も三月も画面を凝視している。
スマホもいじらず、俺たちはただただじっと、年が明けるのを待つ。そして……
日付が変わった瞬間だった。
テレビの時計が0:00となり、2023年が幕を開けたのだった。
ボーン、ボーン、と除夜の鐘が鳴る音が、テレビから聞こえてくる。
年明け早々の参拝客たちの様子が、映し出されている。
老若男女が、お賽銭を投げ入れてお祈りをしている。
俺たちもその様子を見ていて、思わず微笑んでしまう。
「あけましておめでとうございます、雷児さん」
「ああ、おめでとう。三月」
俺は彼女に新年のあいさつをする。
彼女は少し恥ずかしそうな顔をしている。
新年早々、こんなかわいい笑顔を拝めるなんて、俺は幸せ者だな。
「今年もよろしくな」
「こちらこそ、お願いします」
三月はぺこりとお辞儀をして言った。
「初詣はどうしよう…。熱田神宮でいいかな?」
俺は三月に初詣の場所を相談する。
「はい!ぜひ!」
三月はとても嬉しそうに返事をした。
こうして、俺と三月は名古屋では有名な神社、熱田神宮に初詣をしに行くことにしたのだった。
時間は変わり、1月1日の11時ごろ。
俺と三月は、熱田神宮へ初詣に訪れていた。
ここ熱田神宮は、名古屋市内でも有数の規模を誇る神社だ。
参拝客も多く、賑わいを見せている。
「うわぁ〜、人がいっぱいいますね〜」
「そうだな。人が多いな」
三月は人の多さに驚いている様子だった。
「はぐれないようにしないとな」
さすがは元旦、大勢の参拝客で賑わっている。
ここ熱田神宮は日本でも有数のパワースポットとしても有名だ。
「ええっと……。まずはお参りをして、おみくじを引きましょう」
「そうだな」
俺たちはまず、お参りを済ませることに。
「二礼二拍手一礼ですよ」
「わかった」
俺は三月に言われた通りに行動する。
さすがはお嬢様だ。お正月の礼儀まできちんと知っているとは。
まずは、二人そろって、二礼二拍手一礼を行った。
正月の寒さに耐え忍び、俺たちはお参りをしたのだった。
新しい仕事が、うまくいきますように。
俺はそんなお祈りをしていた。次におみくじを引くことになった。
おみくじは箱の中にたくさん入っている。その中から一枚だけ引いて、番号を確認するのだ。
「どれにしよっかな……」
「これなんかいかがですか?」
「じゃあそれにするか」
三月が選んでくれたおみくじを引いてみる。
するとそこには、『小吉』の文字が書かれていた。
「おお、なかなか良いんじゃないか?」
俺は三月に尋ねる。
「はい。運勢は悪くないと思います。きっと、これからも大丈夫ですよ」
三月はそう言ってくれた。
凶よりはだいぶましだ。俺はその言葉を信じることにした。
そして次は、三月のおみくじを引いた。
「あっ、大吉ですね」
三月は嬉しそうな表情を浮かべた。
「本当か!?すごいじゃないか!」
「はいっ!ありがとうございます」
大吉なんて、かなり縁起いいな。三月はラッキーガールのようだ。俺も三月に続いて大吉を出そうと思い、再びおみくじを引こうとしたその時だった。
「ん?なんだこれは……」
足元を見ると、小さな紙切れが落ちていた。
「何か書いてあるみたいですけど……」
「ちょっと見せてくれないか」
俺は三月から受け取った。
『恋愛:この恋は成就しないでしょう。諦めてください。仕事:大きなトラブルあり。気を付けて。金運:特になし。健康:特に問題ありません。失せ物:見つかりません。旅行:あまり遠くには行かない方が無難かも。病気:特に問題はありません』
「なんだよ、これ……」
俺は思わずため息をつく。
「なんでしょうか……これ。占いみたいなもの……?」
「わからない。でも……なんだか気味が悪いな……」
俺も三月も、困惑した顔つきになる。
何だよ、この不気味な文章……。
しかし、落ちていたものだから、きっと誰かが引いたものなんだろう。
俺は気にしないようにすることにした。
「まあいいや。とにかくおみくじは結ぼう」
「そうですね」
俺たちはおみくじを枝に結んだ後、境内の外れにあるお守り売り場に向かった。
ここには、縁結びや安産祈願などの様々なお守りがある。
「どんなものがいいんでしょうね」
三月はお守りを眺めながら言った。
「うーん……。やっぱり交通安全とか学業成就かな」
俺はお守りを見ながら言う。
「私、これにします」
三月が手に取ったものは、合格祈願と書かれたお守りだった。
「ん?合格祈願?」
俺は三月がどこかの大学を受験するのかと思っていた。
しかし今、三月は高校2年生。まだ受験する時期ではないはずだ。
「はい。私は将来、教師になりたいんです。だから、大学受験に合格できるようにって思って……」
「そうなのか。先生を目指してるんだな。頑張ってほしいな」
三月は将来の夢を持っていたのだ。
財閥出身の彼女でも、こんなでっかい夢を持っているなんて。
それは素敵なことだ。俺は彼女のことを応援したいと思った。
「雷児さん。頑張ります」
三月が笑みを浮かべた。相変わらずのかわいさだ。
俺は彼女に見惚れてしまう。
こうして、俺たちはお守りを買って、初詣を終えたのだった。
1月1日。元旦。
熱田神宮での参拝を終えて、俺たちは帰路につくことにした。
時刻は午後13時くらいだ。2023年最初の太陽が、俺たちを照らしている。
「この後どうしようか?」
「そうですね……。あの、少し寄りたい場所があるので、よろしいですか?」
「ああ、もちろん」
俺は三月に付き合うことにする。
「どこに行くんだ?」
「えっと、私の家です」
「ええ!?三月の家に!?」
突然の三月の発言に、俺は目を丸くした。
しかし、ここ熱田神宮へは、三月がいつも学校に乗っていっている、お迎えの車で来てはいない。
マンションの最寄りの地下鉄の駅から、地下鉄に乗ってやってきたのだ。
お迎えの車がないと、天川家には行けないんじゃないか?
「はい。お父様とお母様に、ぜひご挨拶してほしいと思って……」
「そっか……」
俺は少し考え込む。
三月は、両親と離れて暮らしている。
そんな彼女の家にお邪魔してもいいのだろうか。
「ダメ……ですか?」
三月が不安げな表情を見せる。
そんな顔をされると、断れないな。
「わかったよ。じゃあ行こうか」
「はい!」
俺は三月と一緒に、彼女の実家に向かうことに。
「…で、どうやって行けばいい?君がいつも乗っている車でないと、行けないような気がして」
「いえ、大丈夫です」
三月がズボンのポケットから、スマホを取り出した。
そして、スマホを操作し、誰かに連絡をするつもりのようだ。
プルルルル…。スマホから発信音が放たれる。すると、すぐに相手が出たようだ。
「もしもし、私です。三月です。今熱田神宮にいるのですが、こちらへ車を持ってきてもらえませんか」
電話の相手は、天川家に仕える人のようだ。
「はい。はい。わかりました。すぐそちらに向かいます」
三月のスマホからそんな声が聞こえてきた。声の主は男性だろうか。「これでOKです」
「そうか……」
なんだか緊張してきたな……。俺は思わず身震いしてしまう。
やがて、俺たちの前に一台のリムジンが現れた。
「おお……すげえ。いつもこれに乗っているのか?」
「はい」
これがどうやら三月がいつも登校時に乗っている車のようだ。
漆黒の輝きを放っている。
運転手が、運転席から降りてきた。
「三月様、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
三月は丁寧に返事をする。
俺もぺこりと頭を下げておいた。
「さあ、雷児さん、乗りましょう」
三月に催促され、俺はリムジンへと乗り込んだ。
リムジンの内部の独特の匂いが、俺の鼻に入ってくる。まるで高級ホテルのような内装だ。
「すごいな……」
俺は圧倒されてしまう。
こんな豪華な空間に足を踏み入れたことなんてない。
「お飲み物は何にいたしましょうか?」
運転手は、ドリンクバーみたいな機械を手に持っていた。
そんな機械まであるなんて…。俺の所持する車とは天と地の差だ。
「コーヒーを二つください」
「かしこましました」
三月のお願いを受けて、運転手がコーヒーを入れ始める。
「あの……本当に良かったのか?その、君のご両親のところに伺うのって……」
俺は三月に尋ねる。
「はい。構いません。むしろ、両親にも紹介したいと思っているんです」
「そうなのか……」
三月の両親がどんな人なのか、俺も知らない。
どんな顔をしているのかももちろん。
「発車します」
運転手がそう声をかけ、車を走らせる。
ぶるるる、とエンジン音が鳴り、リムジンは走り始めた。俺たちを乗せた車は、どんどん加速していく。
「ところで、三月の両親は何の仕事をしてるんだ?」
俺はふと疑問に思ったことを尋ねた。
「はい。以前も言ったと思うんですが、お父様は天川財閥の会長をしています」
「へぇ……」
三月のお父さんは天川財閥のトップのようだ。
きっと厳格な人に違いない。俺の親父とどっちが厳格なのかな。
岩馬の道場主である、俺の父、岩馬雷蔵と…。
窓にはビル街が映り込んでいる。
しかし、その光景はすぐに消えていった。
「もうじき着きますよ」
「そうか……」
俺は少し緊張していた。
三月の実家にお邪魔すること自体初めてだし、そこで彼女の両親に会うことになるのだ。
心臓の鼓動が高まっていく。
俺は期待と不安を胸に、天川家へと到着した。
天川家の大きな門が、俺たちを迎え入れる。