俺は、その日パートは休みだった。
そんな俺がしていたのは、新しくバイトで入った美少女、「天川三月」と、彼女が通うとされている高校「聖マリア国際高等学校」について、スマホで検索して調べていた。
調べたところ、彼女はかなりの有名人だったようだ。
双子の妹の「天川弥生」と名門の女子高校「聖マリア国際高等学校」に通っているそうだ。
ふたりとも天川財閥のご令嬢だ。成績優秀、スポーツ万能、スタイルも顔も100点満点。
いまや学校内では知る人はいないふたりであった。そんなふたりだが、白銀色の美しい髪に、青い瞳をしており、本当に三次元の人間か?と思えるほどの存在感を醸し出していた。
俺は三月は住んでいるマンションに直接来て挨拶にきたことで初対面となった。妹の弥生の方だが、まだ会っていない。
友人の黒金誠司の見せてくれた動画で、彼女の存在を知った。
黒金が見せてくれた動画なのだが、なかなかに衝撃的な動画だった。
それは、自分の履いているスカートを脱いで、真っ白なパンツを丸出しにして屈強な格闘家たちを瞬く間に倒してしまったというものだ。
これだけで書いていると何がなんだかわからないと思うが、パンツを見せた途端に超人的な能力を発揮し、空を舞い、手から氷漬けにするビームを放ったのだ。
黒金曰くこれはCGで作った動画ではないとのこと。
信じがたいが、あまりのリアルさに、本当ではないかと思ったほどだ。
この動画を見たとき、思わず息を飲み込んだ。
そして、俺は気になったことがあった。
それは、彼女たちの容姿がどう見ても俺好みの顔をしていたことだ。
そう、俺の大好きなラノベに出てくるヒロインそっくりだったのだ。
俺は少し気分が高揚していた。職場にあんな子が入ってくれるとは。神はきまぐれだな。
そう思っていた時だった。
「ピンポーン」
インターホンの鳴る音が聞こえた。俺は慌てて部屋のモニターを確認する。
「はい」
モニターに映っていたのは、三月だった。
「お疲れ様です岩馬さん。天川三月です」
モニターに映っていても三月はかわいい。そんな顔だった。
「えーっと今日はお互い休みだけど…。何か用かな?」
「実はですね」
少し間を置き、三月がこんなことを言ってきた。
「しばらくの間でいいので、あなたのお宅にお世話になろうと思って」
「えっ!?」
俺はそれを聞き思わず大きく驚いた声を上げてしまった。無理もない。
突然ここにいさせてほしいと言われても、はいわかりましたと即答できるわけがない。
「ええっと…。これはどういう意味?」
俺はとりあえず理由を聞いてみることにした。すると、
「親からここでしばらくあの男の世話になれと言われて」
その言葉を聞いた瞬間、あいつの顔が浮かんだ。黒金だ。
三月は以前、黒金とはちょっとした仲なのだと言っていた。しかし、突然こんな美少女が上がり込んでくるなど、普通にあり得ない。
漁師の娘の一件から、少し何かおかしなことが起き始めていると思うが、気のせいだろうか…。俺はそんなことを考えていた。
だが、こんなところでうだうだ迷っていても仕方がない。
ひとまずここは承諾し、彼女を部屋に入れてやることにした。
「いいよ。で、荷物とかは?」
「手伝いの者が数名来てますので、彼らに運んでもらいます」
さすがは財閥出身者だ。当然世話してくれる人間がついている。
「言っておくが俺の家、狭いよ。住まいの面積に関する文句は受け付けないんでそこんとこは」
俺の住んでいる場所はワンルームマンションだ。一人だとかなり広いが、二人以降となると話が変わってくる。
泊まるならまだしも、住むとなればお互いの生活スペースが必要になるからだ。
「わかっています。私だって、いきなりあなたと一緒に住めなんて言われたら困りますもの」
どうやらその辺は理解しているようだ。
「じゃあこれからよろしくお願いしますね」
「ああ……」
こうして俺は、同じ職場で働いている、財閥育ちの女の子を家に招き入れることとなったのだった。
黒金が絡んでいるか本当にわからないが、三月は俺の住むマンションに住むこととなった。
荷物は一通り手伝いの人たちが運んできてくれたので、引っ越し作業は割と短時間で済んだ。
俺の住んでいるマンションはまだ建てられて1年しか経っていないので、これから親元を離れ生活するにはうってつけの環境だった。
Wi-Fiが通っているためネット環境もばっちりだ。
俺も彼女の引っ越しの手伝いをすることにしてあげた。
「ふぅ……これで終わりだな」
「ありがとうございます。助かりました」
彼女は笑顔で感謝の言葉を述べてきた。
この子、ほんとに可愛いな。俺は惚れているわけではないが、思わず見とれてしまうくらいには綺麗な顔をしていた。
「じゃあ…。これから何か食べに行きませんか」
「そうだな」
時刻は午後6時を回っていた。あたりはすっかり暗くなっていた。
「あっ!」
俺はあることに気づいた。
「じゃあ…。口に合うかわからんが、車でショッピングモールまで運んでいってそこで飯でもどうかな」
「いいですね。では、早速お願いします」
この時の彼女の服装は、白いワンピースを着ており、青い上着を羽織っていた。まさしくお嬢様だ。
着替えもいくつか持ってきているようだった。当然、学校に通うのに必要な制服も持ってきている。
俺は車のカギを持ち、三月と食事に行くことにした。
俺と三月がやってきたのは、車で数分行ったところにある大きなショッピングモールだ。
地下鉄の駅から徒歩5分ほどの距離で、車でも電車でも交通アクセスは抜群である。
俺は駐車場に車を停めて、三月とともに中に入った。
「岩馬さんは、ここよく来るんですか?」
「まぁな」
俺は休日になると、いつもこのモールに来ている。
「へぇ……。意外です」
「そうかな?服とかもこっちでよく買ってるけどね」
生活用品はほとんどここで買っている。これだけ大きけりゃ、品ぞろえも豊富だ。
たまにコーヒーショップでコーヒーをたしなむこともある。
俺たちが今いるのは、レストラン街だ。
中華にしゃぶしゃぶ、お寿司など、多くの店が並んでいる。
「えーっと、何が食べたい?」
「なんでもいいですよ。岩馬さんの好きなものならなんでもいいです」
さすが育ちの良さが出ている。嫌がることなく、俺のやりたいことを優先させてもらっている。
「じゃあちょっと贅沢で…。寿司はどうだ」
「じゃあそこで」
俺たちがやってきたのは、北陸地方で獲れた魚介類を産地直送していることで知られる回転寿司の店だった。
「おおっ!これはなかなか……」
三月は目の前に広がる光景に目を輝かせていた。
「すごいですね。こんなにたくさんの種類の魚が回っているなんて」
「だろ?」
俺がこの寿司屋に来たのはいつ以来だろうか。なんせ普通の回転寿司に比べてかなりお高いのだ。
普通なら「一皿120円!」の安値で食べられるチェーン店が浮かぶが、この店は皿の色で値段が違う、割と高級なお店だった。
俺のおすすめはマグロやサーモンといったマイナーなものではなく、鯛やヒラメといった白身魚の系統のネタだ。
「どれから食べるか迷っちゃいますね」
「最初は王道のやつからでいいんじゃないか?」
「じゃあこれと、あれと、それと……あ、これも」
三月はタッチパネルを操作し、かなりの量を注文した。
「おいおいそんなに食えるのか?」
「私、結構意外とよく食べるんですよ」
三月が自慢げに言った。その際のどや顔が可愛らしい。
そんな俺は、お茶の粉末を湯飲みに入れ、それからお湯を注いだ。俺と三月、二人分だ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
俺は自分の分のお茶を飲みながら、寿司を食べ始めた。
「うまい……」
口に入れた瞬間、あまりのうまさに感動を覚えた。
「おいしいですね。このお寿司」
三月も満足してくれているようだ。
「そういや三月ちゃんてさ、お嬢様の身分だけどこういう高いもんいつも食べてるんだろ?」
そう言った俺はサーモンの寿司を口に入れる。
「そうですね。でも、いつもこんなものばかり食べてるってわけでもないです」
「そうなの?」
「はい。一応私も、親元を離れたら自分で稼いで生活していかないといけませんから」
「もしものために、庶民の味もちゃんと食べて勉強してるんだ」
「そういうことになりますね」
彼女は財閥の出身だが、いつか結婚したりして庶民の身分になった際に贅沢過ぎない、質素なものを食べたりはしているらしい。
ここからは俺の勝手な思い込みだが、大きな家にいる専属のシェフが作ってくれた料理をメインに食べているが、裏でカップラーメンとかも食べてたりしているんだろうか。
知らないが。
俺たちはしばしの間、北陸の海の味を満喫した。
…北陸か。以前、俺が黒金に連れられてやってきたあの漁師の娘のことを思い出す。
パンツを丸出しにして舞を踊り、大量の魚を呼び寄せたあの少女だ。
「北陸…ねえ。そういや、そっちの方に漁師の娘の女の子がいるって知っているか?」
その言葉を聞いていた三月はちょうど真鯛のにぎりを食べ終えていた。
「知ってるんですか?あの子ですよね……?」
「本当!?」
「ええ。名前は、星宮愛理沙ちゃんですよね。白くてかわいいパンツの。私たち双子と同じ感じのものを履いてる子だっけなあ」
どうやら、愛理沙のことを知っていたらしい。だが、中学生くらいの年齢のはずの愛理沙をなぜ彼女は知っているのだろう?
あと、三月の口から「パンツ」の単語が出てきた。やはり妹と同類か?俺はなぜか少し緊張していた。
「あー、その子、俺、黒金さんに車で乗せてもらって会ったことがあるんだ」
「ええ?それ、ほんとですか?」
「ああ」
「……実は私、その子とかなり前会ったことがあるんです」
「マジで?」
意外な展開だ。まさか、三月が愛理沙と知り合いだったとは。まあ、パンツ出すから、全く無関係、なんてことはなさそうだが。
「あれはいつだったっけ…。弥生と二人であの子の住んでいる町に一度行ったことがあって、それで会ったんですよ」
「へぇ……」
「なんか、あの子が漁船の上で踊って魚を呼び寄せることがあって以降、かなりの漁獲量になっていったとか」
「ふぅん……」
「ここで取り扱ってる魚とかもあの子が呼んだお魚かもですね」
三月がまだ手を付けていないヒラメの握りを指さす。
俺は以前、愛理沙の舞を漁船で見せてもらった後、その際に獲った魚を使った料理をふるまってもらった。
刺身はもちろんのこと、アラの味噌汁、焼き魚など…。
その時は黒金も一緒に食べていた。一番おいしそうに食べていたのはあの男だったが。
俺はそうこう思っているうちに、頼んだ皿の合計の金額をふと思い出した。
三月が結構頼んだせいか、多くの皿がテーブルに積まれている。
「……これ、お会計いくらになるんだろうな」
「さあ……?」
俺たちは恐る恐る店員を呼んだ。
「合計で……8800円になります」
思ったより安いなと思った。この店は高級店だからもっとかかると思っていたのだが。
俺たちは一通り食事を終えたので、レジで会計をした。
「お願いします」
ためらわず、財布の中で眠っていた諭吉を出す。
「ありがとうございました~」
俺は支払いを済ませ、店を後にした。
その後俺たちはモール内を歩き、明日以降の食料品などを購入した後、自宅マンションへと車で戻っていった。
場所は変わり俺の住むワンルームマンション。
俺も三月も風呂を済ませ、リビングでゆっくりとしていた。
リビング内には新たに、三月が寝る用の布団が追加されていた。
三月がその上で寝ころび、自身のスマホで動画を見ている。
動画配信サービス限定で見られる、恋愛リアリティーの動画だった。
俺は何をしていたかというと、テレビゲームをやっていた。
「岩馬さんって結構こういうゲームやるんですか?」
「うん。結構好きかな」
今やっているのは、FPSと呼ばれるジャンルのシューティングゲームだ。
俺は何をやってるんだろうか。こんなかわいい女の子がいるのに、よりによってこんな臨場感あるゲームをやってしまうなんて。
「へえ、意外ですね」
「意外かなぁ……」
「だって、この部屋にあるの、エロい本とかそういう系のもの一切ないじゃないですか」
「そりゃないよ。そういうのは全部実家に置いてきたからね」
「あー、なるほど」
少し残念そうな顔をされてしまった。まあ、今どきエロいものなんてスマホで見れるので、雑誌系はあまりいらないのだが。
お嬢様であっても、そういうものに興味は持つようだ。
今の三月は、脚を出すタイプの寝間着を着ていた。風呂に入りたてなのできれいでつるつるしていそうな生脚が美しい。
胸の大きさが、寝間着を着ていても大きめなのだとわかるほどだった。
長い白銀色の髪はお団子状にしてあった。そんな三月がこちらを見て言う。
「岩馬さんって、彼女さんとかいるんですか?」
「いないけど……」
「じゃあ、気になっている人とかは?」
「それも、いないなあ」
「へえ……でも、好きな人くらいはいますよね?」
青い瞳が輝いている。俺に興味があるようだ。
「うむ…。初恋は中学のときにはあったが、結局伝えられずに卒業してな…。同窓会で会ったら何やら他の奴と結婚して、ガキを設けたんだと」
俺は生きてきた人生で今まで、恋をしたことはあった。しかし、あの頃の俺はヘタレで口下手だったので、好きな子を見ているだけが多かった。
話しかけられた時。それは、宝くじやパチンコで大当たりを引き当てた時のようだった。
「ほほう。その方とは付き合えなかったんですね」
「ああ。今でも、そいつが結婚していて子供ができたのかと思うと、なんか危機感を持ってしまうよ。しかも俺、フリーターだし」
少し自嘲しつつ返答をする。
「そういえば、俺、仕事先で店長に言われてさ」
「なんと言われたんですか?」
「正社員にならないかって。俺、一応大学出てるし、もし本気でやるならって」
「よかったじゃない。忙しくなるけど、今のままよりはましだと思いますよ」
「だよな……。まあ、考えてみるよ」
「頑張ってくださいね!」
応援してくれる三月の言葉に感謝しながら、俺はゲームを続ける。
「……ところで、私、さっきからずっと気になってることがあるんだけど」
「なんだ?急に改まって」
三月の顔から笑顔が消えた。俺は何を話すんだ、と内心身構えている。
三月から来た答えは…。
「なんでもないです」
笑顔でこう答えた。からかっただけか。でもかわいいから許す。
「……変なこと聞くなあ」
「あはは。すいません」
こうして俺たちの共同生活の初日の夜は過ぎていった。
翌日。この日は俺は休みだった。月曜日だ。
俺はいつものように、暗い部屋の中で目を覚ました。
「んぅーっ」
眠そうな目で伸びをする。俺は灰色のスウェットを寝間着にして寝ている。
ボサボサの寝ぐせが目立っていた。カーテンを開けると太陽の光が差し込んできた。
今日も快晴のようだ。空も青く澄み渡っている。
俺はいつものように歯磨きと顔洗いを済ませるために洗面所へと向かう。
キッチンが併設されている廊下を出てすぐ右にあるのが洗面所だ。
当然だが風呂もある。
ガチャ、と洗面所のドアを開けた。
…洗面所はまだ行くべきではなかったのだろう。
そこに三月はいた。初対面の時に来ていた制服姿だった。
青いセーターとネクタイ…。
しかし、俺はその姿を見て一気に眠気が吹き飛んでしまった。
洗面所にいた三月は、ミニスカートを履いておらず、青い小さなリボンが付いた白いパンツを丸出しにして支度をしていたのだ。
汚れ一つない、清楚なデザインのパンツだ。妹とほぼ同じものを履いている。
むっちりした太ももが美しい。
「あっ」
いきなりやってきた俺を見た彼女は悲鳴を上げることなく、キョトンとした顔で俺を見つめていた。
「ごめん……」
俺は謝りつつ、すぐに洗面所を後にした。
俺の心臓はバクバクと激しく動いていた。童貞だからしょうがない。
俺はその場で深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた後、その場を去った。
「せめて…。スカートくらい履いてくれ。っ!?」
股間が何やら少し痛みがあるのが感じ取れた。
そう。先ほどの三月の姿を見て、下半身が反応してしまったらしい…。
そりゃそうだ。あんなかわいい女の子が無防備にも下着姿を見せてきたんだから。
「……これじゃあまるで変態じゃないか」
自分の情けなさに落胆する。
こんなんじゃあ、三月に嫌われてしまうかもしれない。
俺はふと、廊下のキッチンの方を見た。彼女は俺よりも早く起きて朝食を用意してくれたようだ。
取っ手がついた小さな鍋には味噌汁が入っている。炊飯器には白米がきちんと炊かれていた。
冷蔵庫の中にあった食材を使って作ってくれたようだ。
「おはようございます」
洗面所から出てきた三月が挨拶してくる。ちゃんとスカートは履いたようだ。丈は小さめで、激しい動きをすれば中が見せてしまいそうだが。
「ああ。おはよう……」
「すみません、今日学校あるんで」
「学生は大変だねえ」
「いえ、そうでもないですよ」
俺たちは彼女の作った朝ごはんをリビングに運んだあと、朝食をとった。
おかずは味噌汁以外に、卵焼きがあった。
ご飯は、炊きたてで美味しい。
「うまいな、この料理」
「ありがとうございます」
「お前って、いいお嫁さんになれるよ」
「えへへ、そうですか?」
照れ笑いする彼女。かわいすぎる……。
俺の前に、大きい胸の女子高生がいる。しかも食事を共にしている…。
卵焼きは熱々で、甘みがある。俺好みの味付けだった。
「岩馬さんの口に合ってよかったです」
「ああ、最高だよ」
その後、食事を終え、三月は学校に行った。
下にお迎えの車があるそうで、それに乗って学校までいくようだ。
俺は見送った後、食器を洗うことにした。
テレビをつけ、名古屋の定点の映像を映す。
快晴の空の下の名古屋の各所が映し出されており、流れているBGMはクラシックだった。
「派手なものより、俺はシンプルなもの派だ」
気分の良い俺はなぜかそんなつぶやきを放っていた。
料理?パンツ?それはご想像にお任せする。