ついに俺はやってしまった…。23歳で名古屋市のしがない独身のフリーターである、岩馬雷児…。
監視の名目で俺の自宅と職場に上がり込んできた天川財閥のお嬢様である女子高生、天川三月にとうとう自分の童貞を捧げてしまった。
不本意とはいえ、自分の欲望を抑えきれず行為に及んでしまったことを未だに気にしていた。
そもそも監視ってなんだ。なんで俺の行動を見張りながら学校に行っているのか。
そう思いながら暮らしている中で、起きてしまった。双子の妹との喧嘩があり疲れた三月が寝ている間に……その時だ。
俺はそんな彼女を見ていただけなのに、うっかり服を脱がし、三月の匂いを嗅ぎ、見てはいけないところを見て、してはいけないことをした。
相手は財閥育ちのお嬢様だ。こんな格差が違う人間と行為に及ぶなんて、とうていありえない行動だろう。
本格的にやる前に三月が準備があるからと言ってリビングを出て何かをしていたのだが、俺にはわからなかった。
ただ言えることはただ一つ。三月が俺の子を身ごもってしまうかもしれない、ということだ。
あの日はゴムもつけずにやってしまったし、その上たっぷりと彼女に注いでしまったからだ。
監視者である彼女もまさかそんなことになるとは思わなかっただろう。本人はなぜか意欲的だったが…。
彼女が俺のことを好きだとも限らないのに、なぜ受け入れていたのか。
「…ーし」
ん?聞こえないな。誰かが呼んでいるのはわかるけど。
「もしもし?おーい!」
女の子の声だ。聞き覚えのある…。
「雷児さん!ら・い・じ・さ・ん!」
その大声で俺ははっと我に返った。
ここは、自宅のワンルームマンションの近くの焼肉屋だ。
俺の向かい側に、三月が座っていた。
美しい白銀色の長い髪に、青い瞳。女子高生にしてはかなりの大きさを誇る、二つの双丘…。
三月は私服姿だ。白いブラウスの上にベージュのセーターを着ている。
テーブル席に座っていてわからないが、デニムジーンズを履いていた。
テーブル席にはウーロン茶が注がれたコップ、焼肉のたれがある白い皿がそれぞれ2つずつある。
テーブルの真ん中にある鉄の網の上で、肉が美味しそうに焼かれていた。
「どうしたんですか?ぼーっとしちゃって」
気になって様子で三月は俺を見ていた。
「あぁ……すまん。ちょっと考え事をしてて……」
「ふぅん?」
彼女は怪しげな笑みを浮かべた。
「なんだよ……」
「なんでもありませんよ。でも、あの日以来なんか考え事をしているような顔を浮かべたままで少し気になって」
「そりゃそうだろ。お前と初めてやったんだから……」
俺の言葉を聞いた瞬間、三月の顔が真っ赤に染まっていく。
「もうっ……いきなりそういうこと言わないでくださいよ!」
照れながら怒っている。まぁ確かにあれは突然だったもんな。
「だって本当のことだろ?それにお前、初めてじゃないみたいな感じだったじゃないか」
「そ、それは……ほら、雰囲気ですよ!雰囲気!」
慌てる三月。かわいい反応だ。
「とにかくですね、私はずっとひとりだったあなたを思って、踏み込んだんですけどね」
菜箸で十分に焼けたカルビを自分の皿に持っていった。
ひとり、か。そういや結構な間実家には帰っていないし、ずっとひとりで頑張ってきた。
大学を卒業して就職したがすぐにクビになり、その後見つけたパートの仕事に就き、結局今に至るわけだが……。
「あ、どれもいけそうなんで食べてくださいねー。食べごろですよ」
にっこりとして俺に促してくれる。
食べ放題だ。ここはどんどん食べるとするか…。
それからしばらくして数分が経った。
俺はあることに気になっていた。
それは…。
「三月…。結構食べてないか?」
「元はとらないともったいなくないですか?」
ケロッとした顔で三月が反応する。口の中にハラミを噛みながら答えてくれた。
思えば、三月が注文用のタブレット端末を何度か触っていた様子はあった。俺は数えるくらいしか使っていない。
いや待て。こんな細めでスタイル抜群の女の子がこんなにバクバク食べるなんてあり得んぞ。
まあ、テレビで大食いしている女性が何人か活躍しているくらいだから、驚くのはナンセンスか?
俺は関心と呆れ半々で、彼女の様子を見ていた。
テーブルに置いていたウーロン茶で辛い焼肉のたれで乾いた喉を潤したあと、もう一度三月を見たときだった。
三月が急に少しあざとめに目を大きくし、口もにっとして、指を下の方に注目してもらおうと俺にアピールしてきた。
「?」
俺は無論、彼女が何をしたいのかわからなかった。
俺に何かしてほしかったようだ。三月は立って、と言うかのように、手と指を使い俺に立ち上がってもらおうとジェスチャーをしていた。
俺はとりあえず彼女がやってほしいことに答えるかのように、少し中腰気味で席から立ちあがった。
立ち上がると、三月は満足げな表情をして、俺を上目遣いで見ていた。
俺の目線には、席に座っている三月が映っている。立ち上がったことで、股下まで確認はできた。
…しかし、その姿が、俺にとっては衝撃だった。
なんと、自分の履いているデニムジーンズを太ももが見えるほどに下ろし、真っ白なパンティを丸出しにした状態で席に座っていたのだ。
「!?」
俺は思わず驚愕し、目を見開いた。そんな俺を三月がウインクして反応する。
いつもと変わらない、模様もラインもない、シンプルな白いパンツ。真ん中に青いリボンが一つだけついていた。
むっちりした太ももが、店の照明で白く輝いている。
「お、おい三月……。何やってるんだ」
俺の言葉に、三月は笑みを浮かべる。三月はまだ口の中に食べ物が入っていたので、テーブルに置いてあったスマホで何かを入力し、入力が終わると画面を俺のほうに見せてきた。スマホの画面にはこんな文字が入力されていた。
『こーんな秘密もあるんです』
スマホのメモ機能のアプリを使って入力したようだ。その入力する速度はかなり早く、だいぶ手慣れているようだ。
俺は思わず顔が赤くなっていた。酒は飲んでいない。
なるほど。パンツを丸出しにすると戦闘能力がけた違いに上がるだけでなく、常人よりもバクバク食べるようにもなるのか…。
しかし、これだけ食べたら太りそうで心配だ。
三月は細目でむっちりとした体形で、まだ10代後半。これからもっと成長して、大人っぽくなっていくだろう。
「雷児さん?どうかしましたか?」
三月がいきなり口を開いた。
「い、いやなんでもない」
「ふぅん?まぁいいですけど」
パンツを見終えた俺は席に座る。三月は再び肉を食べ始めた。
まぁいいや。君島博士に今度お会いしたら質問するネタがまた一つ増えた。
しかし、セーターと下半身のパンツの相性はどこか最高だな…。彼女の胸の大きさも相まって、かなり性欲をそそられてしまう。
俺の息子がまた反応してしまったのが自分のパンツ越しでわかる。また膨らんでしまった。
同じもののパンツで、女の子で何度も反応してしまうのは一体なぜなんだろうか。俺はしばらく、目の前にいる三月の姿を眺めながら、焼き肉を食べることにした。
三月が俺のところにきて数日が経っていた。
俺たちは基本的に自宅マンション、職場先であるスーパーマーケットを行き来する生活を送っていた。
三月は高校に通いながら、俺の下で暮らしている。
最初は狭苦しく、同居する人間の地位を気にしながらの生活で苦しい部分はあったものの、慣れてきたのか今ではそんなに苦ではないようだ。
「じゃあ行ってきますね」
「おう」
俺は三月が学校へ行ったあと、自分の部屋の掃除を始めることにした。
今日の俺の仕事は休みだ。だが、部屋の掃除をしたり、日々の食材を買いに行ったりといろいろ忙しい。
三月は夕方からのシフトなので、帰ってくるのは夜。閉店してからここに戻ってくる。
三月はお嬢様なので、毎日マンション近くにお迎えで来た車で学校に登校している。
その後バイトがあるときは店近くまで送ってもらいそこで降りて職場に向かっている。
マンションからスーパーまでは歩いて通える距離なので、車には乗らず徒歩だ。部屋を片付けながら、俺はあることを考えていた。
それは……。
「うーむ。三月が監視で俺のとこに上がり込んだが、一体どうしてなんだ?」
今更だったが、俺は三月がなぜ監視の目的でやって来た、と言ってきたのかがわからずにいた。
天川財閥の令嬢が、こんなフリーターのところにきても面白いことなどないはずなのに。
俺は一応家事全般はできる方だし、収入だってそこそこ安定している。
俺はいまのところ変わった職には就いていないわけだが、実家はすごい家になる。
なんでも、剣術や格闘術の道場を経営していて、結構な人数の門下生がいる。師範代として、親父や兄貴たちも働いている。
小さいころから鍛えられた俺や兄弟たちはみんな、ある程度の護身術は身につけている。
だから、いざというときにはそれなりに戦える自信はあるのだが……。
そんな俺を監視するために来たとはいえ、天川の人間たちは何を考えているのだろうか。
俺はスマホの電源を入れた。古くからの友人、黒金誠司からラインが来ていた。
『久しいな。今度、聖マリア国際高校で学園祭がある。君島博士が来いってよ』
こんな文章が送られていた。
君島博士は、三月が通っている女子高「聖マリア国際高等学校」に極秘裏で建設された研究所で研究をしている博士だ。
本名は君島アラン。奇抜な格好が目立つ、眼鏡のおじさんだ。
前に俺の家に来て、自分のしている研究について教えてくれた。
彼の研究はというと、パンツを丸出しにして超人的な力を発揮する女性を人工的に生み出すことだそうだ。
天川の双子、つまり、三月とその妹が代表的な存在となる。
破廉恥な格好に反して、ものすごい力を出すことができる。
そんな君島博士からお呼びがかかるとは…。まあ、聞きたいことは考えておこう。
『日にちは明後日の土曜日だ』
続いてこんな送信が来る。
そういえば、金曜日に三月がこの日は休みたい、とシフトを決める日に言っていたっけ。
『了解。行くことにする』
俺はそう返信した。するとすぐに返事が来た。
『お前に面白いもんを見せてやる』
黒金からの返信の後、高校の住所が送られてきた。名古屋市なので、割と近い距離だ。
俺はスマホを閉じ、再び部屋の掃除を始めた。
もう11月。2022年も終わりに近づいてきていた。
数時間後の聖マリア国際高等学校にて。
白銀色の美しい髪を青いリボンでかわいく飾った双子の姉妹は、中庭にてお互いを見合っていた。
天川財閥の令嬢である天川三月と、その妹の天川弥生。
明後日はマリア高校の学園祭だ。
当日は他の高校と変わらなく出店やステージ発表などが行われる予定となっている。
だが、この学園は普通の学校とは違う点があった。
「三月。これは喧嘩…でいいのかな」
姉の三月に話しかけるのは、彼女の妹である天川弥生。三月とほぼ同じ顔と髪型だ。違うのは着ているセーターとネクタイだ。
青いセーターと棒ネクタイをしている三月とは違い、弥生は灰色のセーターと青のリボンタイをつけている。
互いにミニスカートを履いているため、脚を豪快に動かす動きをすれば簡単に中が見えてしまいそうだ。
これでも彼女らは成績優秀な生徒なのだ。運動神経もよい。
「一応…。ですよね、先生」
中庭には三月と弥生のほかに、この学校の学校医を務める女性がいた。
黒く長い髪をウェーブがかった髪形にしており、これでもかというくらい大きな胸を強調するかのような谷間が見えるシャツ、紺色のミニスカート、黒のストッキング、白衣を纏っていた。名前は神城雪恵。
彼女は三月たちが所属する部活の顧問を務めている。
「えぇ。喧嘩です」
脚を組んで椅子に座っている雪恵が答える。三月は鋭い目つきで姉である弥生のことを睨んでいた。
「相変わらず、喧嘩ばっかりだね、私たち」
「ま、まあ今回は特殊な形ってわけだし…」
三月も弥生も幼少期からしょっちゅう喧嘩をしていた。
高校生になっても、もめ事があれば必ずと言っていいほど喧嘩は勃発している。
「明後日はあなたたちの晴れの日だから、しっかり動きを見せてちょうだいね」
雪恵が言った。
三月と弥生が、履いているスカートのチャックを下ろし、そして脱ぎ始めた。
二人が身に着けているのは、白い下着だった。青いリボンが付いた、清楚なパンティ。
上下ともに、同じデザインをしているようだ。
二人は同時に声を上げた。
「双子だと変わらないよね」
「力はわかんないかもよ?」
頬を少し赤く染め、お互いはパンツを丸出しにした後、構えのポーズをとる。
それを見た雪恵が、
「準備はいいわね?」
と二人に声をかけた。二人はうなずいた。
「じゃあ、始め!」
その掛け声と同時に、三月と弥生は走り出した。地面を思い切り蹴り上げる。
二人の体は宙へと舞い上がった後、そのまま空から落ちてきた。
足を大きく広げながら地面に着地する。
その衝撃で、周りにある芝生が土ごと吹っ飛んだ。
「へぇ……。結構やるじゃん」
「そっちこそ」
三月と弥生が不敵な笑みを浮かべる。
その直後、二人は再び高くジャンプをした。互いの大きな乳房が上下にぷるん、と揺れる。
セーターを着ていてもわかる、かなり大きな胸だ。
鍛え抜かれた脚も、日の光に照らされ白く光っている。彼女たちは空中で拳を突き合わせた。
弥生は三月にある違和感を覚えていた。
それは、以前よりなぜか攻撃の勢いが強まっていたことだった。
拳を振る速度や、蹴りを放つ速度が数週間前に比べ速くなっていた。
弥生は攻撃を食らわないようにガードをしつつ隙を見計らっていたが、防戦一方になっていた。
そんな様子を見ている雪恵が、意味深な表情をしていた。
「どうしたの?守っているけど速度が追い付いてないような気がするけど」
三月が挑発的に言う。弥生は顔をしかめた。
「そ、そんなことはない!」
怒りに任せ、弥生は思いきり三月に殴りかかった。だが、三月はそれを軽々と受け止め、握りしめる。
痛みに耐え切れず、弥生は手を離した。
「あ、あれ……?」
「もう終わりかしら?」
三月が冷たい視線を向けてくる。弥生の顔が一気に赤くなった。
「ま、まだまだぁっ!」
弥生は立ち上がり、もう一度三月目掛けて蹴りを放つ。
しかし、三月は力任せに放たれたその蹴りを軽々とよけ、弥生の懐に潜り込んだ。
「あっ……」
「ふぅーっ……」
三月は息を吹きかけると、弥生の体が軽く浮き上がり、そしてゆっくりと地面に倒れた。
「あ、あれ……?なんで……?」
弥生は起き上がろうとするが、力が入らない様子だ。
三月は弥生に近づくと、彼女の耳元で囁く。
「私の勝ちみたいね」
「う、うん……そうかも……」
悔しそうな顔をしながら、弥生は答えた。
弥生のお尻が、美しい形をしている。パンツに包まれていても、美しい肉付きだということがよく分かる。
「じゃあ、ご褒美あげる」
三月は弥生にキスをした。
弥生は一瞬驚くも、すぐに目を閉じて三月を受け入れる。
舌と唾液が絡み合う音だけが響いていた。
そんな仲のよさげな双子のもとに雪恵がやってくる。
「仲いいところごめんね。三月ちゃん、数週間前に比べてかなり力が増していたわね」
「ありがとうございます。やっぱり分かりますか」
三月が答える。
「えぇ。動きを見て疑問に思ってはいたけど…」
「はい。実は……」
三月は雪恵の質問に対し、少し恥ずかしげに話し始めた。
「なるほどね。はじめての体験か。そりゃ強くなるわけね」
三月の話を聞き終えた後、雪恵は納得していた。
雪恵は三月が、ある青年を監視するための生活を送っていることは知っていた。
23歳のフリーターの青年なのだが、実はある武術の師範代の息子でもあるらしい。
三月はそんな彼とついに行為に及んでしまったという。
あちらも初めてだったのだが、互いにTシャツ1枚での素敵な夜を送ったそうだ。
初めての性行為を終えたことで、三月の身体能力が上がった、そういうことである。
「薬を渡しておいて正解だったわね」
雪恵は三月に、以前ある薬を渡していた。
薄緑色の液体の入った、細長いボトル一つを、もしものためにこっそり渡しておいたのだ。
そんな二人の掛け合いを見た弥生が、
「なんかずるいなぁ……。私も内緒でそんなものをあげてたなんて」
と呟いた。
「大丈夫よ。あなたにもまたあげるから」
雪恵が弥生の頭を撫でてをなだめると、彼女は無言でうなずいた。
三月と弥生の喧嘩はもう終わっている模様だ。喧嘩の後はどうもかなり仲良さげにしている。
「二人とも。動きに鈍りがなくて明後日の晴れ舞台は問題なくいけそうね」
雪恵は双子たちに喧嘩を仕向けたのは、普段からのしなやかな動きがなまっていないかの確認のためであった。
今は授業中だが、雪恵が特別に彼女たちを呼び出し、テストを行っていたのだ。
まだ二人ともスカートは履いていない。純白のパンティは、彼女たちの太ももにぴったりとくっついており、肌の滑らかさを際立たせていた。
「じゃあ私はそろそろ戻るわ。このあともしっかりね」
「はい!」
三月と弥生が同時に返事をした。
雪恵は満足そうな笑みを浮かべ、仕事場である保健室へと戻っていった。
場所は変わり、雪恵が普段いる保健室。
マリア高校の保健室は、普通の高校の保健室とは違っていた。
部屋全体がどこか高級ホテルの一室のような、豪華な作りをしている。
ベッドや机などの家具はすべて木製で、天蓋付きのベッドまで置かれている。
室内にはソファーやテーブルなどが置かれていて、まるでお金持ちの家に来たような感覚になる。
名門の女子高なだけであり、さすがといえる。
当然、生徒たちがケガをした際に治療に使う道具や、体温計、打撲や突き指した際に使用する氷を冷やす冷蔵庫は存在している。
天川の双子を見守った後の雪恵は、保健室に来ている来客の対応をしていた。
その来客は、左右にはねた髪と、大きな眼鏡、派手な色のスーツがトレードマークの男だった。
「で、あの双子ちゃんたち、どうだった?」
男が雪恵に話していた。
「ええ。問題なし。三月はもう薬を処方してやったみたいよ」
男に紅茶を注ぎながら、雪恵は答えていた。
男は、
「そうか。ま、姉の方に渡しておいて正解だったね」
と言いながら、出されたお茶を飲む。
「弥生ちゃんにもあげた方がよかったかしら」
「まあ、監視しない片方にあげても使う場面が見当たらないからなあ」
「それもそうね」
雪恵はくすっと笑い、男の隣に座った。
「それで…。明後日に使うものはもうできたの?」
「ああ。いっぱい出してやった。これで観客たちは飽きんだろうなぁ」
男は笑っていた。
雪恵も楽しげに微笑む。
二人は、明後日にあるイベントについて話し合っていた。
それは、雪恵が勤めるマリア高校の伝統行事の一つ、「聖女の祝祭」のことだった。
このイベントは、学園祭の後に行われる恒例行事だ。
マリア高校のみならず、名古屋市がひそかに注目している、隠れた名物でもある。
男はその準備をしていたため、数日前から激務に追われていた。
「ここにいる選ばれた少女たちを一目見ようと、多くの客がやってくるぞぉ」
男は興奮気味に言った。
「ええ。当日は雷児くんも来るみたいよね?」
雪恵の口から「雷児」の名が出た。三月が現在監視している、フリーターの男性のことだ。
「ああ。黒金ちゃんから来いと連絡するようお願いをしておいた。君も久しぶりに会うからねえ」
それを聞いた雪恵の顔が少し嬉しそうになる。
「そうね……彼、元気にしてるかしら……」
「まあ、以前会ったときは元気だった。スタイル抜群の女子高生と同棲なんて、うっらやましぃー」
男は勝手に高いテンションで雷児のことを話した。
「じゃ、俺は仕事に戻るぜぇ」
男は立ち上がり、保健室を出ていった。
一人残された雪恵は、再びソファーに座って窓の外を眺めていた。
外では、体育の授業を受けている生徒が数人いた。その中には、先ほど雪恵が見ていた双子の姉妹もいる。
「雷児…。こんな形でまさか会えることになるとはね」
雪恵は長年会っていない男の名前を呟いた後、ティーカップに注いであったローズヒップティーを一口飲んだ。
聖マリア国際高等学校の学園祭を明日に迎えていた日、俺はいつものように昼から出勤し、せっせと品出しに励んでいた。
今日は金曜日だ。今日はセールの日のため、店内はかなり賑わっている。
普段はあまり見かけないお客さんも多い。
そんな中、俺が商品を補充している最中だった。俺の背後で、休憩中と思われる作業員の男2人が話をしているのを耳にする。
「ああ、そうそう。俺の姪っ子が来年、聖マリア高校に入学するらしくてな」
「ほぉ」
1人の男が話しかけると、もう1人は気のない返事をする。
「名古屋では知らん人はいない名門の女子高だと」
「そんなとこを受けるんかあ。あそこ、女ばっかしなんじゃろ?」
「ああ。噂では履いとる下着をモロ見せする生徒がいてたり、女の先生たちが美人ででかいおっぱいをお持ちらしい」
「マジかよ。一度見てみてえもんだ」
「ま、とにかくその女子校に今度姪が入るわけさ。そしたら、明日学園祭あって、イベントがあるとかなんとか」
「どんなの?」
「それがな。女子校の生徒が全員集まる、聖女の祝祭というやつらしい。どんなものかは知らんが」
俺は少し聞き流しの感じでその男たちの話を聞いていた。
聖女の祝祭…か。黒金が見せたいのはこれなんだろうか。そういえば、最近三月がバイトのない日であってもどこか疲れた様子で帰ってきているのは、これがあったからか?それにしても、女子校でイベントってどういうことだろう。なんか嫌な予感しかしないが。
まあ、明日高校に俺は赴くわけだから、来てからのお楽しみにしておこう。
今日を乗り切ったら、明日はお待ちかねの聖マリア国際高等学校の学園祭だ。
今日はなるべく、早く仕事を切り上げて帰ろう。