俺は、岩馬雷児。
カメラマンをやっている友人の黒金誠司に招かれ、名古屋では知らぬ者はいない女子校「聖マリア国際高等学校」の学園祭に来ている。
そんな今、俺は学園祭の一大イベント、『聖女の祝祭』に参加したあと、黒金に連れられてある場所へと向かっていた。
この学校の中で極秘裏で研究をしている、君島アランという博士からの呼び出しらしい。
「……ここか」
俺は黒金に連れられて学校の中を歩く。
普通の学校とは違い、ホテルの廊下を思わせる創りだ。なんでも、日本でも有名な建築デザイナーが手掛けたらしい。ここで天川の双子たちをはじめとする生徒たちが行き来をしているんだろう。
「ああ、ここだ」
黒金は一つの部屋の前で立ち止まるとノックをする。
すると扉が開き、そこには白衣を着た一人の女性と、一人の男性が立っていた。
「よく来たわね、二人とも。入ってちょうだい」
学校医と思われるその女性を見て、俺は思わず驚いてしまった。それもそのはず。俺はこの人を知っているからだ。
「う、嘘だろ、雪恵さん!?」
そうだった。この白衣を着た、ウェーブがかった黒く長い髪をした女性は、神城雪恵という女性だ。
ヒールは履いていてもかなり高めの身長。そして、服からわかる谷間にくびれた腰。胸も尻も大きくてスタイル抜群な彼女は、俺が子供の頃に優しくしてくれたお姉さんだった。
家に頻繁に遊びに来てくれて、マドレーヌを焼いてくれたっけ…。
そして彼女の隣にいる男性は、君島アラン博士だ。大きく丸い眼鏡をかけていて、髪は左右にはねて面白い髪型になっている。スーツは先ほど『聖女の祝祭』のときに着ていた黒いスーツだ。
以前会ったときは黄色いスーツだったが。
「久しぶりね、雷児くん。ま、入りなさい」
雪恵さんに促され、俺と黒金は保健室に入る。
雪恵さんの職場といえるこの保健室は、まるで高級ホテルの一室を思わせる、豪華な内装をしていた。大きなベッドがあり、ソファもある。窓際には観葉植物が置かれていて、清潔感あふれる空間になっていた。
「さあ座って、二人とも」
雪恵さんは俺たちに席を勧める。
言われるまま俺と黒金がソファに座り、テーブルを挟んで向かい側に君島博士が座った。
「まずは改めて自己紹介しようか。私は君島アラン。見ての通り科学者だよ」
博士は名刺を差し出してくる。
それを受け取ると、確かに君島アランという名前があった。どうやら本名のようだ。
「君とは以前会ったな。で、三月ちゃんはどうだ?」
三月ちゃんとは、天川財閥のお嬢様、天川三月のことだ。
今はなぜか監視の名目で、俺の家に同棲している。フリーターである俺の勤務先であるスーパーマーケットにバイトとして入った。
「元気ですよ。アルバイトに行っていまして、仕事も卒なくこなしてくれています」
「そうか。じゃあ安心だネ」
君島は満足そうな顔をした。
俺は、先ほど気になっていたことを聞く。
なぜこんな場所でパンツを丸出しにして超人になる少女の研究をしているのか。そして、性行為をすると妊娠しない変わりに、精子を受け入れた者の力を取り込むことができるのか。
これを聞き出すことにした。
「あの……どうしてこんな女子校でパンツと女の子の研究を?」
すると博士は答えてくれた。
「それは簡単だ。この聖マリア国際高等学校こそ、実験を行うにふさわしいだからだ」
「え? どういうことです?」
「この学校は、私が数年も前から世話になっていてね。ここで行われている数々の研究には、私が深く関わっているんだよ。それに、ここの生徒たちは皆優秀だ。将来有望な人材が多い」
つまり、この学校自体が実験場ということなのか。
「そうだよ。ここの生徒は皆、選ばれた特別な子たちばかりだ。この学校の生徒を使って、新しい人類の創造をしているんだ」
君島の話を聞いたものの、俺は一度で理解できなかった。
それもそうだ。表向きはこんな名目の学校でこんなことが起きているなんて、誰も知らないだろう。
「簡単に言うとね、ここにいる生徒の一部の子たちは君島博士の実験台になって、すごい力を得ているってわけよ」
雪恵さんが説明してくれる。すごい力…、かぁ。
「そ、そんなことを……」
「ああ、もちろん安全面には配慮してあるから大丈夫だヨ。ここの子たちには危険な実験は特にしていないし、私の研究に否応なく受けてくれているし、彼女らにそれ相応の報酬を支払っている」
「へぇー……。でも、なんのためにそんなことをするんですか?」
俺は率直な疑問をぶつける。
「日本に誇る素晴らしい宝を作るためだ」
君島はさらりととんでもないことを言う。俺は思わず聞き返してしまった。
「宝って…。そもそも、パンツ丸出しにするのがなぜそう言い切れるんですか?恥ずかしい姿なのに、超人になるなんておかしいにも程があると思うんですけど」
俺は思ったことをそのままぶつける。
「まあ、そう思うよね。だが、ここでも誇れる物は作れないかな、と思って、研究をしててね」
君島博士は淡々と言う。
「アメリカで『ノーパンツデー』という行事があることは知っているかい?」
「え?あ、はい」
『ノーパンツデー』。
聞いたことがある。下半身を派手な下着のみの姿になり、地下鉄に乗車するという、奇抜なイベントだ。
発祥地であるアメリカに限らず、フランスなどでも行われている。
開催されているの季節によっては下半身が寒そうに見えるが、主役は、あくまでもパンツなので、丸出しにしている本人たちからは特に気にはならないんだろう。
パンティやトランクス、ブリーフと、種類や色、模様などはそれぞれ違う。
当然っちゃ当然だが、足にはちゃんと靴下や靴は履いている。
「知ってますけど…。それを参考にしたんですか?」
「ああ。だが日本でやってもいいがどうもスパイスが足りなくてな」
君島博士はさらに続ける。
「下着を露わにするだけじゃもったいない。この国の文化にはないからな。そこで私は考えた。パンツ丸出しになったら、物凄い身体能力や特殊能力を使えるようになったら、日本の文化として誇れるのではと」
「はあ……」
「そして、それを実現することができたのが、異界からやってきた材料なんだ」
興奮気味に君島が力説する。
「い、異界?いきなりファンタジーな展開だな…」
俺は驚いた顔をする。
いきなり異界とかのワードが出てきたらそりゃ驚く。
「君島博士は異世界からの材料を使って特殊なパンツや薬品を作っているのよ」
雪恵さんが言った。
「ええ……」
また物騒なものを開発していやがる、このトンチキ博士…。
異界って冗談にも程があるぞ。
「あ、あの。冗談は言ってないですよね?」
俺は慌てて君島に確認する。
「ふざけるとお思いかな?」
君島が真顔で俺を見つめる。
君島の隣に座っていた雪恵さんがいきなり立ち上がる。
「雪恵。悪いが彼に見せてくれないか」
雪恵はその言葉にうなずき、自分の履いているスカートのチャックを下ろす。そして、そのスカートを下ろした。
すると、そこから出てきたのは……黒のレースが付いた大人っぽい青のパンティだった。しかも、股間部分が少し濡れているようだったが、すぐにそれは乾く。
太ももまで包んだ黒いストッキングが美しい。むちっとした脚は今も変わっていない。
「こ、これは……」
「こんな状態になれば、こんな力を自在に操ることができる能力を得たの。この通り」
雪恵さんの全身は光に包まれた。
「え!?」
一瞬にしてまばゆい光を纏った雪恵さんを見て、俺は驚愕を隠しきれなかった。
彼女は、光に包まれたまま堂々と立っている。
「ちょ、ちょっと!何してるんですか!」
俺はあまりの眩しさに目を片手で覆ってしまう。
「もういいよ、雪恵」
君島博士が言うと、彼女の身体を包み込んでいた光が消える。
「はい」
「今のは……一体?」
「これがこの人の研究成果です」
雪恵は淡々と話す。あっけらかんに話すな…。
「雪恵はここの学校の卒業生なんだ。で、俺の実験に付き合ってくれたってわけだ」
そうだったのか。雪恵さんはここの卒業生で、三月や弥生たちの先輩にあたる。
むかし優しくしてくれたこの人に、そんな秘密があったとは。
パンツなんて見せてもらったことは当たり前だがない。
まあ、当時俺は子供だったんだが。そんな過激なものは見せてはならないことは本人もわかっていたんだろう。
しかし、なんでこの人はかつて、俺の家に現れたんだろうか。
母親が他界した数週間後に突如としてやって来たわけだが。
この人と一緒に暮らしたというわけではない。度々俺の家に遊びに来てくれてはいた。
「も、もういいだろ。スカート履いてよ」
俺の目も流石に限界だった。このまま光ってる雪恵さんを見続ければ、目がやられてしまう。
「ふぅん?じゃ、終わりにするね…」
雪恵さんは残念そうな顔をした。纏っていた光が消えていき、いつもの雪恵さんに戻る。
白衣と谷間を強調しているピンク色のシャツ、脚に纏った黒いストッキングはそのままに、青と黒のパンツを丸出しにしている。
紐部分の近くの左右にそれぞれ花のような刺繍がある。
年齢に応じて履いているパンツを選んでいる感じだろうか。
「はぁー……。すげぇもん見させてもらいました」
黒金が興奮している。鼻息が荒いし、鼻の下がわかりやすく伸びている。
雪恵さんはスカートを履いた。パンツは隠れる。
「前回俺は弥生の動画を見せてやったが、ほんとに起きてるからな」
黒金は俺に話しかける。
俺はどうコメントすればいいか困っていた。
「は、はあ……。すごいですね……。」
随分適度なコメントだな。まあ、仕方ない。先ほどの祝祭で弥生にあれだけの量を注いでしまったわけだし。
天川の双子のはじめては俺だった。
岩馬の血を引く俺がはじめてでよかったのかもしれん。
変なおっさんとかよりも、ちゃんとした育ちの男とかであれば、きっと、もっと気持ちよくなれたんだろうし。
「さあ、本題に入ろう。君には是非とも協力してほしい」
君島博士は再び話し始める。
「え?まだ何かあるんですか」
俺は少しうんざりした顔を見せる。
「ああ。君が必要なんだ」
「えっ、俺が?」
君島博士は俺を指差しながら言った。
「うむ。単刀直入に言うと、私の研究と手伝いと、天川の双子たちの護衛を頼みたい」
いきなり唐突な依頼が来たな。まあ、俺としては、あの子たちを護るのは別に構わないのだが。
「それって俺でいいんですかね?」
俺は疑問をぶつける。
「君でいいから頼んでいるんだよ。それに、私は君のことを信頼しているからね」
君島博士の言葉を信じていいか、俺は悩んだ。
「俺のこと……信用してもらってますけど、その前にあんたのことがわからないんですよ」
俺は正直に自分のことを打ち明けた。
「まあ、確かにそうだよね……。でも、大丈夫。私は嘘をつく人間じゃないよ。雪恵もそう思うだろ?」
「ええ。そのために三月ちゃんをあなたのもとに送ったんですもの」
え?監視ってそれが目的だったのか?本人にせめてコメントを求めてからが一般的じゃないか?
俺って今まで何をしてきたっけ。ご飯をおごったり、ゲームを一緒にやったりと……まあ、大したことはしてないか。
「う、うーん」
俺は腕を組みながら考え込む。
「私からもお願いするわ。あなたのためにもなると思うし」
いやいや待ってくれ。俺は今勤めているスーパーマーケットのパート社員から正社員になろうとしているんだぞ?
なのになぜ、こんな怪しい仕事をすることになるんだ。
「お、おい。ちょっと待てよ。俺はスーパーの正社員になるってなっているんだが…」
俺の発言に雪恵さんは目を丸くした。
「あら、そうなの?」
「そうです。俺は昇格の話が来てるんです」
「そ、そうだったのね……。それは、ごめんなさいね」
雪恵さんは申し訳なさそうに謝った。
「いや、そんな気にしないでください」
まあ、そんなわけで、俺は雪恵さんに気を使わせてしまった。
なんか申し訳ないな。昔からお世話になっている人なのに。
しかし、どうなんだろう。この話を完全に蹴ってしまえば、今俺の家にいる三月はどうなるんだ?
やはり帰ってしまうんだろうか。
そうなれば住んでいる部屋は広くはなるが、寂しさも増えてしまうな。
「とりあえず、考えてみてくれ」
君島博士は俺に決断を求める。
「……わかりました。ただ、少し時間を下さい」
「わかった」
君島博士は快く承諾してくれた。
「それと、このことは内密に頼むよ。あまりおおっぴらにできないからネ」
考える時間はもらえたが、長い間待たせるわけにもいかないな。
そろそろ昇格について話し合いがあると思うし。
俺の進路のことだ。慎重に考えないとな…。
「それじゃあ、今日はこれで失礼しますね」
俺は立ち上がり、帰る準備をする。
「ああ。また会おう」
君島博士は微笑んで俺を見送ってくれる。
「はい。ありがとうございます」
「また来てくれるかな?」
「ええ。今日はいい体験をさせてもらいました。こいつのおかげで」
俺は黒金を指した。黒金が少し照れて首元をかいている。
「そうか。ならよかった。また遊びに来てくれ」
「はい。では」
俺は一礼をして、保健室を出た。
帰り道、俺はずっと考えていた。
天川の双子たち。彼女らがどう思っているのか。
三月は俺のところに来てから1か月以上になるが、俺との生活は嫌がっていないだろうか。
もし、嫌がっていたら、俺は昇格しようと思っている。
三月は俺がいなくても、大丈夫だろう。
俺といたところで、あいつの幸せにはつながらないかもしれない。
それに、俺だっていつまでもパート社員のままだとダメだしな。
23歳だけど、この状態のままだと結婚もままならない。だから、その方がいいんだろう。
あの子たちにはきっといい人が幸せにしてくれる。
こんな俺なんかよりも。
「ただいま」
俺は家に着いた。いつものように靴を脱いで上がる。
玄関先で靴を脱いで、部屋に上がる。
三月は…。まだ帰ってきていない。学園祭の後片付けとかで忙しいんだろう。俺はソファーに座ってテレビをつける。
夕方のニュースを眺める。
『次のニュースです。先日、○○県の××市で、男性が女性をナイフで刺す事件が発生しました』
物騒な事件が起こっているようだ。
「へぇー。怖いなぁ」
俺は独り言を言った。隣に三月がいたら、なんて言ってくれたのかな。
俺はそんなことを思っていた。
一人でリビングにいるが、やっぱり広いな。
「寂しいもんだな」
俺はふと思った。
今まで一人暮らしをしていた時は、当たり前だったから、そこまで感じなかったが、こうして誰かと一緒に生活すると、そのありがたさがわかるな。
「さてと、晩御飯の準備でもするか」
俺はキッチンに向かって冷蔵庫の中を覗く。
食材はあるが、二人分作るとなると、材料が足りないな。
俺は食材を買うために外出する前に、スマホで通知が来ていないか確認する。
三月からラインが来ていた。
『今日は遅くなります。夕食はあちらでとりますので、お願いします』
こんな連絡があった。まあゆっくりしてほしいね。
俺は外出はせず、残り物で一人用の料理を作ることにした。今日は簡単に作れるオムライスにすることにした。
ケチャップをかけて、卵の上に乗っけるだけなので、すぐにできる。運よく白飯も残っていたので、うってつけだ。
手早く作り終えて、テーブルに運ぶ。
「いただきます」
俺は食べ始めた。
味はまあまあかな。
俺は黙々と食べる。「ごちそうさまでした」
食器を洗った後、風呂に入って寝ることにした。
明日は仕事か。
俺は窓から、名古屋の夜空を眺めた。
美しい星々が輝いている。