※この作品はR-18です。

恋縛のユーフォリア~青髪美少女TS転移者ちゃんの強制ガチ恋身体改造人生終了クエスト~   作:クマノミの実

3 / 10
LEVEL2 それはまるで、男の趣味に合わせるメスの様に

「BUMOOOO――‼」

 

「…………」

 

 薄暗い森の中。辺りを震わせる獣の唸り声が轟く。

 そこに居たのはイノシシとマンモスを組み合わせたかのような、極めて巨大で凶暴そうな怪物だった。

 恐らく全長5mは超えているであろうその威容。それが虚仮威しで無いことは、周囲にそびえ立っていた、しっかりと地面に根を張っていたはずの大木が、幾つも無残になぎ倒されているのを見れば、否応なしに理解できるだろう。

 そんな規格外の怪物と、1人の人間が、今、対峙 していた。

 サイズが一回り大きい男子高校生の制服を着た、滑らかな青色の長髪を後ろで三つ編みにした美少女――女体化してしまった有である。

 戦う意思がるのか、手に申し訳程度に銀色に鈍く光る西洋剣(ロングソード)携えているが、その姿は余りに頼りない。

 全身が筋肉で出来ていそうな巨大イノシシマンモスと見比べれば、最早全身がマシュマロで出来てそうな可愛らしさで、到底戦いになるとは思えなかった。

 しかしながら両者の様子は寧ろ、その予想から正反対で、どこか必死に威嚇をしている様な獣に対し、有は震え1つせずにその様子をただ、じっ……と見つめているだけだった。

 

「BUMOOOO――‼」

 

 そして状況が動く。決意を固めたかの如く、咆哮を上げ、像の牙によく似た白く長く鋭い2本の牙で有を串刺しにすべく、突進したのだ!

 山の様な巨体が、華奢で繊細で小柄な肉体に迫る。

 それはさながら、大型トラックと人間の衝突事故を思わせる光景で、見れば誰しも数秒後に広がるであろう凄惨な光景を想像せずにはいられないだろう。

 

「BUMO⁉」

 

 しかしながら、実際に起こった結末はどうしようもなく現実離れしていて、ある意味想像以上にショッキングな光景だった。

 自らに向けられた、白い牙。貫かれれば、胴体の大半が消し飛んでしまう程に巨大なそれの先端を、有は自分の小さな手で掴んでいた。

 それだけ。たったそれだけで、獣の突進が止められたのだ!

 その威力が虚仮威しで無い事は、突進の為の踏み込みで、大きく陥没した地面を見れば一目瞭然だ。

 実際、木々どころか、鉄筋コンクリートで出来た高層ビルですら一撃で倒壊させてしまえるだけの威力が、獣の突撃には秘められていた。

 だと言うのに、有は傷1つ負わないばかりか、本の僅かに後退させられることも無く、アッサリと止めてしまったのだ。

 

「えい」

 

「――⁉」

 

 有が牙を掴んだ手を、くるん!と回す。すると、何トンもある筈の巨大猪の体がまるで見せかけだけのバルーンアートの様に軽々と持ち上がり、周囲の木々を巻き込みながら仰向けに転がされてしまったのだ。

 巨大猪からすれば、突然天地が逆さまになったかの様な感覚だろう。声なき悲鳴を上げながら足をバタつかせる事しか出来なかったのも、仕方が無いと言える。

 そんな風に混乱する巨大猪の体に、有はしっかりとした足取りで更に接近する。

 それと、同時に有が持っていたロングソードが、神々しい白い輝きに包まれ、彼女はそれを巨大猪の胴体に押し当てた。

 まるで切れ味の良い包丁が実演販売で肉を切り刻んでいる様なくらいに簡単に、ロングソードは巨大猪の肉を切り裂いていく。

 何とか足をバタつかせて抵抗している巨大猪だが、常人であれば全身の骨と言う骨が複雑骨折してもおかしくないその抵抗を、有はやはり意にも介さない。

 

「…………ゴメンね」

 

「――――」

 

 そして、ロングソードに纏われていた光が槍の様に伸び、巨大猪の体を貫通する。

 巨大猪はビクンッッ!と1度だけ体を大きく震わせた後、全く動かなくなってしまった。

 有は目の前の怪物を、これほどまでに簡単に倒してしまったのである。

 何と凄まじい戦闘能力。

 しかしながら彼女が凄まじいのは、戦闘能力だけでは無かった。

 

「『アイテムボックス』『テレポート』」

 

 有が2つの単語を小さく呟く。その度に思わず瞠目してしまうような異常事態が巻き起こる。

 1度目は、巨大猪の死体が消失し。

 2度目は、有自身の姿が消失し、遠く離れた場所に現れた。

 四次元収納(アイテムボックス)に、瞬間移動(テレポート)。どちらもゲームではありがちな、しかし実際にあったら有用どころの騒ぎでは無い能力だった。

 

「こんにちは。依頼、完了しました」

 

「ゆ、ユーフォリア(・・・・・・)さん⁉何時の間に……!それに突然変異のワイルドボアをもう討伐されたのですか⁉」

 

 有が転移した先は何人もの鎧や武器を身に着けた人間が、せわしなく動き回っている建物の中だった。

 受付の人間がいるカウンターが複数あったり、壁に掛けられたボードに何枚もの紙が貼り付けられている様子からは何らかの集会場であるかの様に見える。

 そしてそれは正しい。ここは冒険者ギルド。やはりファンタジーではよく見る組織だった。

 有は、受付カウンターの1つに足を運ぶと、どこか異国情緒あふれる制服に身を包んだ受付嬢に話しかけた。

 

「……死体は、いつも通り」

 

「か、確認させて貰います……!」

 

 どこか、キャラを作っている様な感がある冷静でそっけない喋りで、クエストの達成を報告する有。

 その様子を周囲は、「あれが、噂の……」や、「初めて見るが確かに……」なんて風に会話しながら注目していたのだった。

 

 

*****

 

 有とそのクラスメイト達が邪神の手によって、異世界に転移させられてから、早1ヵ月が経過した。

 有と達夫の2人は、あの後アルケーと言う街に辿り着き、そこで生活を行っている。

 どうやらこの世界はありがちな、なんちゃってファンタジー中世らしく、有は魔物(モンスター)を討伐したり、ダンジョンを探索したりするのが生業な、冒険者として生計を立てていた。

 魔物は、強くそして恐ろしく、例え弱めの相手であっても平和な日本で育って来た普通の(元)男子高校生が戦えるような相手では無かったが、そこは流石にチートスキル持ち。

 『戦乙女』のスキルの凄まじい効果は実に多岐に渡り、有は期待のスーパールーキーとして早くも頭角を現し始めている程だった。

 しかし手放しで順風満帆と喜んで良いかは微妙な所で……

 

 

「ただいま、達夫」

 

「ゆーたん、おかえり~~」

 

 冒険者ギルドを、またテレポートで後にして、有が到着したのは自身が拠点としている宿屋の1室であった。

 ベッドが1つに、小さな机と椅子が置いてある程度の粗末な部屋。

 どう考えても1人用の部屋だったが、部屋に帰って来た有を、ベッドにだらしなく寝っ転がりながら達夫が出迎えた。

 そう。有は、こんなプライバシーもへったくれもない部屋で、達夫と一緒に暮らしているのだった。

 

「これ、今日のお金」

 

「ありがと、ありがとぉ~。う~ん。それじゃあ、取り合えずこれくらいあれば良いから、後は保管しといて」

 

「うん。分かった」

 

 有が、達夫に硬貨の入った麻袋を渡す。それは、100%有の力だけで稼いだお金だ。

 しかしながら、達夫はその麻袋から無遠慮に好き放題お金を抜き取って自身の懐に仕舞い込む。

 流石に全額自分の物にしたりはせずに有に返したが、それも有が稼いだお金だから彼女に返す、なんて態度ではなく、銀行代わりに保管しておけとでも言わんばかり。

 ちなみにこの1ヵ月間、達夫が自発的に稼いだ金額は0。

 …………有は明らかに、紐男を養う都合の良い女として扱われているのである。

 しかも、達夫から掛けられた負担はそれだけでは無かった。

 

「それにしても、ゆ~たん。大分、演技(・・)も板についてきたんじゃない?」

 

「そう、かな……」

 

「そうだよぉ。すっごく、クール系美少女って感じ。もしも、ネットに今のゆーたんの様子をup出来たら、リアルユーフォリアたんキターーーーーーって声が殺到するよ!」

 

「…………あんまり、嬉しくない」

 

「そうそう、それそれ!そんな感じにクールに呟くのがチャームポイントなんだよぉ」

 

「今のは演技じゃない……!……どうして、こんな事」

 

 冒険者ギルドで、有がユーフォリアと呼ばれていた上に、どことなく態度が可笑しかったのは、彼女の意思ではなく、達夫の命令であった。

 有は異世界に来て以降、本原 有改め、ユーフォリアとして、生活をさせられているのだ。

 口調も、元々ある程度似ていたとは言え、口数が少なくどこかクールな女の子の様な物を強要されていた。

 

「またソレ?だぁかぁらぁ、俺みたいに、唯の日本人が偽名や演技をした所で大して意味は無いけど、体が変わったゆーたんなら別でしょ?こういう転移物の場合、異世界人だってのは、隠せるなら隠しといた方が良い!って何度も話したでしょ?」

 

「そう、だけど……」

 

 一応、そういう理屈らしい。ただし……

 

(絶対、嘘だよぉ……)

 

 当然の事ながら、そんな建前は全て噓っぱちだ。

 そもそも100歩譲って偽名を使う意味はあったとしても、口調や態度を変える意味なんてまるでない。

 これらの行動の真意など、有の事を自分の好きな二次元キャラに近づけたいという達夫の欲望以外の何物でもありはしない。

 そして、有――もといユーフォリアもその事には気が付いている……というか彼女は別に常識改変されている訳ではないので、そもそも最初から一瞬たりとも騙されていない。

 ならどうしてこんな人権侵害を受け入れているのかと言えば――

 

「やっぱり、ボク。此処までする必要は無いと――」

 

「それに俺、今のゆーたんの方が好きだなぁ!」

 

「…………っ」

 

「基本、無機質なのに、どこか甘さを感じる声は脳味噌が蕩けそうになるしぃ。甘えん坊の猫みたいにそっけないと見せかけて、時々隠しきれてない甘さを感じるのは、スッゴク可愛いからねぇ……!」

 

「……ぁ。……ぅぁ♥♥」

 

 有の発言を遮って繰り出される達夫の言葉は分類的には誉め言葉だが、しかしねっとり粘つく様なそれは、普通であれば嬉しさより気持ち悪さを感じるだろう。

 しかしながらよりにもよって対象になっているユーフォリアにだけは効果抜群な様で、彼女はみるみるうちに赤くなり、俯いてしまった。

 しかもその上――

 

「まぁ、でも?ゆーたんが嫌だ!っていうなら強制はできないけどねぇ。あ~あ、でも残念だなぁ」

 

「……あの」 

  

「ん?どぉしたんだい、ゆーたん?」

 

「ボク。もう少し頑張ってみる……」

 

「あれ?そぉ~???無理しなくてもいいんだよぉ~?」

 

「ううん。大丈夫、だから」

 

「いやぁ、そんなつもりはなかったんだけどぉ、なんか無理を言った形になっちゃってゴメンねぇ。まあでも、ゆーたんにはそっちの方が似合ってて、可愛いから!マジ嫁って感じだから‼絶対、そうした方が良いよぉ」

 

「……ぅん♥♥」

 

(だ、駄目な事だって分かってるのに。こんな風に思っちゃイケないのに……。ボク、ボクっ……!)

 

 ユーフォリアは遂には断ろうとする意見を引っ込めてしまった。

 その瞳と表情には、イケない事をしているという背徳感と、しかし隠しきれない歓喜の色が浮かんでいた。

 

 ――結局の所。ユーフォリアは達夫の事が大好きなのだ。胸がきゅん♥きゅん♥と高鳴るのを止められない。

 彼の役に立てると嬉しい。

 彼に褒められると嬉しい。

 彼に求められると嬉しい。

 

 だから、紐として彼を養った。

 だから、ゲームのキャラを演じるなんて、非常に人を馬鹿にした事すらやっている。

 だってそうすると褒めて貰えるから。愛しい人の役に立っていると実感できるから。

 間違っているとは知っている。ダメだとも思っている。けれども、どうしても止めることが出来なかった。

 (精神的に)男同士なのに、こんな思いを抱いちゃイケないんだ……。と悩みながらも、達夫の役に立とうとするユーフォリアのその様は、ある種純愛的ですらあった。

 

 まあ、最も。その苦悩の基本となる恋心が、卑劣な手段で植え付けられた偽物である以上、純愛(笑)で、悲劇でしかないのだが。

 

 ……因みに、もし仮にユーフォリア――いや、有が達夫の手に墜ちず、1人で行動できていたのなら。

 彼女は、自分1人で異世界を生き抜く経験と、幼馴染の少女を自分が守らなくては!と言う強い決意で、人間的に大きく成長できる筈だった。

 体は女になってしまったけれど、精神は寧ろ男らしく慣れる。そんな成長が待っていた筈だったのだ。

 しかし、もう無い。成人ゲームの女キャラを演じさせられていて、男らしくなるも何もある筈が無いだろう。

 つまり、彼女は精神の成長の機会すら奪われていた。

 

*****

 

 ユーフォリアが(偽物の)恋心と常識の狭間で泣きたいくらいに苦悩しているのとは正反対に、達夫の方は悠々自適に異世界ライフを満喫していた。

 彼がこの1ヵ月間何をしていたのかと言えば、それは、ユーフォリア――いや、有の事を観察する事だった。

 

 元々、男だった時の有に興味が無かった達夫は、彼女がどんな性格でどんな考え方をするのかを全く知らない。

 だから、自分のスキルがどれだけ影響を及ばしているのか、それを踏まえて有と言う人間は、何を受け入れて、何を拒絶するのかを、じっくりと観察していたのである。

 つまり、有の攻略方法(・・・・)を考えていた訳だ。

 そして有にとっては最悪な事に、その作業は殆ど終わってしまっていた。

 下衆で下品な達夫に、自分の操作説明書が渡ってしまっているのである。

 

 まず彼女は、とても優しかった。

 達夫が悪趣味な冗談で、「ゆ~たん。とっても強いんだから、お金持ちから、バレない様に大金を奪っちゃえば~」なんて言った時は、「冗談でも、そんな事言っちゃダメだよ、達夫」と、真っ直ぐな瞳で諭してきたくらいである――狂おしい程に好きにされている達夫に対して、だ!

 だから、彼女は誰かの為に正しい事を出来る。そんな強さを持っていた。

 ――しかしそれが自分の事、となると途端に駄目になるのが有の特徴だった。

 何かしらの被害に遭うのが自分だけ、となると、誰かを守ろうとする時の勇気を1%も発揮出来ずに、押しに弱く気弱になってしまう。

 それが、幼い頃からとてもとても大好きで、命を懸けてでも役に立ちたいと強い恋心(偽物)を抱いている達夫相手となるとなおのこと顕著で、有は彼の要望をほとんど断る事は出来なかった。

 その確認のために達夫は色々と要求をしてみた。

 

 例えばそれは、紐として達夫を養う事であったし、『ユーフォリア』として振舞う事であったし、ひとつ屋根の下、同じ部屋の同じベッドで過ごす事であった。

 オマケに事あるごとに、有の体を嫌らしく触れたりもしてみた。

 その結果、物によっては多少の難色は示したものの、しかし有は最終的にはその要求・行為を受け入れた。

 

 こうなってくると笑いが止まらないのが達夫だった。

 有が生活費を稼いで来てくれる以上、冗談で言ったように態々他者に危害を加える気は達夫には無かったし。

 その女性に対する下卑た欲望も、そもそもそれを一番向けたい好みの存在が女体化した有なのだ。

 彼女が居る以上、他の女など目にも入らない。

 よって誰かの為に絞りだされる、有の勇気や優しさなど日の目を見る事も無く、達夫にとって彼女は、鴨が葱と土鍋を背負って来た様な、要求フリーパスな恋堕ちラブラブオマンコ奴隷でしかなかった。

 

 最早、準備も我慢もお仕舞。

 有をゲームのユーフォリアに、いいや自分の理想のドスケベ嫁に変えてしまおうとする、達夫の身勝手で下衆な欲望が遂に本格的に牙をむき始めた。

 

 

*****

 

「そ~そ~。今日は、俺からゆーたんに贈り物があるんだぁ」

 

「……えっ⁉」

 

 人権侵害を気持ちの悪い褒め殺しで押し切られた後、ユーフォリアは全く予期していなかった達夫の言葉に驚きを覚えていた。

 

「いやぁ、この1ヵ月間さぁ、魔物と戦って生活費を稼ぐのを全部ゆーたんに任せちゃってたでしょ~?」

 

「それは、ボクに偶々『戦乙女』のスキルがあったからだよ」

 

 実際、その事に関してはユーフォリアは一切の隔意を抱いてはいなかった。

 異世界の魔物は強く、そして凶暴で、心意気だけでどうにかなる様な相手では無い。

 だから偶々、戦える力を持った自分が矢面に立つのはユーフォリアとしては当然の事で、もしも達夫の『愛の矢』スキルの影響下に墜ちていなくても同様の行動をしただろう。

 ……まあそれと、稼いだお金を我が物顔で持っていかれる事に対する憤りは別の問題なのだが、そこは恋する乙女補正で無かったことにされていた。

 

「まあ、おっそろしぃモンスターと戦える気は一切しないからぁ、戦闘はこれからもゆーたんに任せる形にあるけどねぇ。でも、俺なりに何か力に成れないかと、ずっ~と考えてたんだぁ」

 

「そんな風に、思ってくれてたんだ」

 

「うんうん。そこで考えた結果、ゆーたんと同じくスキルの力を活かそうと思ったんだよ!」

 

「スキルの力を?」

 

「俺のスキルだけどぉ、どうやらモノ作りに適性があるらしいんだぁ」

 

「そう、だったんだ。それで、贈り物を?」

 

「そーそー。まずは手始めに服を作ってみたんだ!ゆーたん、今はサイズの合わない学生服や、適当に買った服を着てるでしょぉ?激しい戦闘とかしてるんだから、服には気を遣った方が良い!って思ってねぇ」

 

「……達夫」

 

(そんな事を考えていてくれてたんだ……!)

 

 達夫の言葉に有は深い感動を覚えた。

 同時に、達夫は特に気にしていないとばかり思っていた自身の考えを強く恥じる。

 …………実際、罪悪感など覚えていなかったので、そんな必要はないのだが。

 

「ありがとう……!」

 

「良いって、良いってぇ。俺の方こそ一杯お世話になってるからさぁ。さ、これ。感謝の気持ち。受け取ってよ」

 

「うんっ!嬉しいっ……!」

 

 ――最愛の人からの贈り物に途轍もなく感動しているユーフォリアだが、彼女は知らなかった。

 確かに、達夫のスキル『愛の神の加護(劣化版)』は道具の作成能力に優れているが、その専門は道具は道具でも、エッチな道具――即ち淫具だという事を。

 

「…………………………」

 

「あれ?どったの、ゆーたん。固まっちゃって」

 

 数秒前まで、感涙すらしそうな程の感激に身を震わせていたユーフォリアだったが、今の彼女は別の理由で体を震わせていた。

 それは――羞恥だった。

 

「こここここここここここここここここここここ、」

 

「鶏の真似かなぁ?」

 

 余りの衝撃に言語機能がバグったユーフォリアの視線が向かう先は、たった今、達夫から手渡された彼がユーフォリアの為に作ったと言う衣服だった。

 

「こんなの着れないよ!」

 

「なんでぇ?ゆーたん、それに言葉遣い。演技を忘れてるよぉ」

 

「そんな事、言ってる場合じゃないよ!だって、これ。こんなの……」

 

 ユーフォリアが手渡された服。

 ……いや、それはもう、服と呼ぶのが烏滸がましい程の、唯のエッチな布切れだった。

 余りに露出が多く、扇情的で、マトモな感覚を持っている人間が着る衣服では到底無い。

 と言うか、ユーフォリアはこの布切れに、何か嫌なデジャヴを感じていた。

 

「え~。折角、ゲームのユーフォリアたんの衣装を再現してみたのにぃ」

 

「そうだ、これ……!」

 

 そうだった。とユーフォリアは、自分が感じたデジャヴの答えを知った。

 この異世界に来てから、達夫のスマホで見せられたゲームキャラクターの『ユーフォリア』の服装。

 今しがた手渡された布切れは、それにそっくりであった。

 

「エッチなゲームのキャラクターの服なんて、実際には着れないよ……!」

 

 スマホの女キャラ。それも成人向けの物の衣服なんて、如何に男のチンポを疼かせて、金を落とさせるかだけを追求した代物だ。

 実用性など到底皆無で、実際に作れば痴女専門服になるのが道理だった。

 

「え~。絶対似合うのにぃ~」

 

「とにかく、ボクは絶対に着ないから……!」

 

 いくら何でも、これを着て生活しろと言うのは聞けない要求だった。

 達夫の事が大好きなユーフォリアだったが、羞恥心まで捨てた訳では無いのである。

 しかしそんなユーフォリアに対して、達夫が取った対応は極めて悪辣で、意地が悪かった。

 

「ハァァァァァ……!こっちの(・・・・)ゆーたん――ううん、有くんは、俺の感謝の気持ちを受け取ってくれないんだね。やっぱり信頼出来るのは君だけだね、ゆ~たん」

 

「――――なっ⁉」

 

 達夫は、電池切れで映らなくなったスマホの画面に、わざとらしく話しかける。

 その様子を見たユーフォリアは、今まで生きてきて感じた事の無い感情を覚えた。

 それは女の嫉妬(・・・・)

 大好きで、大好きで、大好きで。彼の為ならば、命だって捨てられる程に愛している男の子に、よりにもよってゲームのキャラクターを引き合いに出されて失望される。

 その憤りの激しさ。情念の深さと来たら!

 

(い、嫌だ。ゲームのキャラクターなんかに、達夫を取られたくない……!)

 

 元男な上に、温和で気が弱く、今まで自分の事で我を通した経験が殆ど無いユーフォリアは、内側からドロドロと湧き出してくるこの暗い感情を上手くコントロールすることが出来なかった。

 だから彼女は、地獄へ続く崖に身を投げるような軽率な行動をとってしまった。

 

「――着るっ」

 

「えぇ?何か言った?」

 

「だから!その服を着るっていったの‼」

 

 今まで出したことの無いヒステリー染みた声が飛び出す。

 

「その代わり――」

 

「その代わり?」

 

「二度とボクの前で、ゲームの方の『ユーフォリア』の話をしないでっ――‼」

 

 自分だ。自分が一番に彼を愛している。

 彼にゆーたんと呼ばれて微笑んで貰えるのは自分なのだ。

 間違っても、ゲームのキャラクターなんかじゃないっ!

 そんな思いがユーフォリアの胸の中に溢れ出した。 

 

 その様子はどう見ても嫉妬に駆られる女のそれで、他ならぬユーフォリア自身が、自分の取った行動に驚いてしまう程だった。

 けれども、止められない。感情的に動いてしまう。

 

「うーん。分かったよぉ。じゃあその代わりにコ・レっ!――着てくれるんだよねぇ?」

 

「…………うん」

 

 自分の体を舐めまわす様な、達夫の粘つく視線を感じながらも、ユーフォリアは確かに首をこくんと縦に振った。

 

*****

 

「ふひひっ。ふひひひひひひひっ――‼」

 

「……ぅ。……ぅぁっ。ぅぅっ……!」

 

(こんなの、絶対駄目なのにっ……)

 

 馬鹿な事をしている。馬鹿な事をしている。馬鹿な事をしてしまっている!

 ユーフォリアはいっそ死んでしまいたい程の羞恥と、自らを責め立てる想いに苛まれていた。

 今の彼女は、植え付けられた莫大な愛情とそれによって発生した嫉妬により、達夫が用意した服を着てしまっている状況だった。

 

 ――その服の全体的な印象を一言で表すのなら『踊り子』だった。……正し、枕詞に『極めて性的な』が付くが。

 

 頭にかぶせられた、葉っぱを模した意匠を施した金色のサークレットと、高級なサンダル染みた素足が見える靴は共に素晴らしく、ユーフォリアの魅力をしっかりと引き立てている。

 さて、マトモ(・・・)な部分は以上である。後の、どう考えても痴女が着る服以外の何物でも無い他の部分のデザインを説明しよう。

 

 まずは上半身。

 良く出来た首飾りから、白く細長い長方形の布が2本、両胸の中心のライン――丁度乳首のラインを辛うじて隠せる程度に肌に乗っかっている。

 …………追加の説明は無いし、描写が足りていない訳でも無い。本当にそれだけなのだ。

 次に下半身。

 腰に紐と鎖が巻かれており、そこから股を何とか隠せる程度の細長い白い布が垂れ下がっている――以上だ。

 こちらもやはり過不足なく描写してこれだった。

 つまり纏めれば、ユーフォリアの体を隠している衣服は、頼りない3つの暖簾的な布だけと言う事になる。

 しかも、かなり薄い布地を使っているのか、よく見ればその下の素肌が透けて見えてしまっていた。

 これでは最早衣服としての体裁などまるでなしてはいないだろう。

 一応、正確に言えば両腕の部分は同じ布地で作られた袖で覆われていたが、頭隠して尻隠さずならぬ、腕隠して体隠さずでは全く意味がなく、逆にエロさを引き立てているだけだった。

 

「いやぁ、流石、ゆーたん!良く、似合ってるよぉ」

 

「……ぁ、ぁんまり、みないでっ……!」

 

(み、見られてるっ……。ボクの恥ずかしい所、達夫に全部っ……!)

 

 あまりの羞恥に腕で自分の体を隠しながら、達夫に懇願するユーフォリアだったが、勿論その必死の願いは聞き届けられなかった。

 達夫は、ユーフォリアの体に馴れ馴れしく触れて、その手を降ろさせて彼女の体をねっとりと鑑賞していた。

 そしてユーフォリアに対して、更に絶望的な言葉を投げかける。

 

「ぐふっ……!そんなに恥ずかしがっていてもしょうがないよぉ、ゆーたん。何せ、同じ服を何個も用意しているから、ゆーたんの正装はこれからずっとそれなんだからさぁ!うーん、そうだなぁ、慣れるために今から一緒にお散歩でもしよっかぁ!」

 

「……ぇ。さ、散歩……?」

 

(こんな格好で、外に――)

 

「む、無理っ。絶対、無理だよぉ……!そんなのっ……!」

 

 ユーフォリアは堪らず涙目になって首を振った。

 しかしそんな彼女に対して、達夫はまるで容赦がなかった。

 上機嫌だった表情を、急に無表情に変えて、態とらしくスマホを持ち出した。

 

「ふーん、約束破るんだ」

 

「っ……。ぅぅっ……」

 

 羞恥か、愛情か。

 人としての尊厳を守り抜くか、恋する人に気に入って貰うべく、恥を捨てて芸を行うかの2択をユーフォリアは強いられていた。

 そして彼女が選択した答えは――

 

「ゎ、ゎかった……」

 

「え?何だって?」

 

「お散歩、行くから……。これから、この服で生活するから……」

 

 だから嫌わないで。ボクの事だけを見て下さい。

 そんな、健気な思いでユーフォリアは言葉を絞り出した。 

 

「流石、ゆーたん!ふひひっ、愛してるよぉ!」

 

「ぁぅっ……」

 

(だ、駄目だ。ぼ、ボクっ……)

 

 こんなに恥ずかしくて、今にも死んでしまいそうなのに、しかしそれ以上に達夫の軽い愛の言葉に舞い上がってしまっている自分を発見して、ユーフォリアはどうしようもなく心の中で呟いた。

 

 

*****

 

「お~。大注目だねぇ、ゆーたん」

 

「ゃぁっ……」

 

(視線が絡みついて……!)

 

 どう取り繕っても痴女でしか無い格好で、ユーフォリアは達夫と一緒に散歩を始めていた。

 確かにこの世界はファンタジー世界で、元いた世界より過激な服装をしている者も多いが、流石にこれほどの痴女服を着ている者は居ない。

 男たちからのネバネバとした欲望の視線。女達からの冷たい侮蔑の視線。

 様々な視線が、体中を這い回っているようで、ユーフォリアは気が気で無かった。

 

「お、風だ」

 

「――っ!」

 

「お~流石ぁ!」

 

「ふーっ、ふーっ」

 

(ああ……。スキルをこんな馬鹿なことに使って……)

 

 突如として吹いた強風を、ユーフォリアは神業的な姿勢制御で受け流す。

 それによって大した支えもなく頼りない暖簾風の布が捲られることなく、ユーフォリアの恥部を隠し抜いた。

 こんな事に『戦乙女』のスキルで上昇した身体能力を使わされて、恥ずかしいやら情けないやらで、ユーフォリアの心は激しく沈み込んだ。

 しかもここまでやっても、そもそも乳首は透けて見えているし、お尻なんかは丸見えである。

 どうやっても見世物にしかならない、だからユーフォリアは――

 

「た、達夫っ……!」

 

「おほっ……!ゆーたんったら大胆だなぁ」

 

 ――ラブラブな恋人の様に、或いは媚を売るメスの様に、達夫に体を絡みつかせる。

 それがユーフォリアのとった選択だった。

 普通に体を隠そうとした所で妨害が入るのは目に見えている中、ユーフォリアが咄嗟に思いついた手段はこれだけだったのだ。

 どうかボクを守って……とばかりに、絡みつく甘く柔らかい肉体に、達夫はすっかり気分を良くしてユーフォリアの体を自分の方に更に引き寄せた。

 だから一応、ユーフォリアの目論見は成功したと言えるのだが、しかしその行動はまた別の苦難を呼び寄せる事となった。

 

「う~ん。そらよっと!」

 

「……ひぅっ、た、達夫……⁉あのっ……」

 

 すっかり調子に乗った達夫の手が、ユーフォリアのお尻を鷲掴みにして揉みしだき始めたのである。

 堪らず声を上げるユーフォリアだったが、達夫はどこ吹く風な様子だった。

 

「体を隠したいんでしょぉ?手伝ってあげるよぉ」

 

「ぁぅっ……。ひぅっ……。っぅ……」

 

(達夫以外に見られる位ならっ……)

 

 迷いに迷ったユーフォリアだったが、最後には顔を真っ赤に染めながらもこくん、と頷いた。

 それによって、許しを得たとばかりに達夫の手によってモミモミ❤モミモミ❤とお尻を揉まれて続けてしまうユーフォリアだった。

 ああ、しかし体を極めて寄せ合って、お尻まで揉まれる。これではまるで――

 

「ぐふっ。皆、俺たちの事をラブラブなカップルだと思ってるねぇ。嫉妬の視線が気持ちいいよぉ」

 

「ふぇっ……!」

 

 ――どう見ても、周囲に自分たちの仲を見せつけているバカップルのそれだった。

 周りの男達の、どうしてあれ程の美少女が、あんな男に……!と言う視線が突き刺さる。

 普通の女子であれば、キモオタの達夫をそんな風な関係に見られるのは死んでも我慢ならない所だろう。

 けれども、ユーフォリアの反応は違った。

 

「おっ、ゆーたん。もっと体を寄せちゃって、どーしたの?」

 

「な、何でも無い……❤」

 

(ああ、駄目だ。ボク……。こんな状況なのにっ……!)

 

 人として最大級の恥を晒している最中だというのに、ユーフォリアの心はそんな小さな事で弾みだしてしまっていた。

 それは、彼女の心がどうしようも無いほどに偽物の恋心に侵されてしまっている何よりの証拠だった。

 

 ――これから先、彼女に与えられる淫靡な試練は最早留まるところを知らない。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。