《b最高の誕生日/b》
柔は目を覚ました。時計を見ると朝の6時を少し回ったところだった。日本なら5時に起きて走り込みに行くのだが、ニューヨークにいるとなるとそれもままならない為、日本にいる時より少しゆっくりめの起床だ。しかもこの日は十二月八日の柔の誕生日だった。耕作もなんとか休みを取り付け、今日は二人でニューヨークの街を観光する事にしていたので、柔はとても楽しみにしていたのだった。柔にとって恋人と街を一緒に歩いてデートするのは初めての経験だ。しかも、日本では自分達の関係はまだ公表していない為、ニューヨークだからこそ堂々と二人で一緒に歩ける。柔にとって長年の夢が叶う時が今日なのだ。
(耕作さんはベッドでちゃんと寝てるのかしら?もしかしたらソファーで寝てるんじゃ…?)
不意に気になって耕作の様子を観に部屋を出てとりあえずリビングを見渡した。すると、案の定耕作がソファーに横たわって気持ち良さそうに寝息を立てていた。暖房を点けているとはいえ、ニューヨークの冬は寒い。柔は耕作のベッドから毛布を持って来て、彼を起こさない様にそっと掛けた。
(きっとすごく疲れてるはずなのに、今日もあたしの為にいっぱい動いてくれるんだろうな…耕作さん優しいから)
柔はふふっと微笑んで、耕作の頬に軽くキスをした。今日はお弁当を作ってお昼をセントラル・パークで食べようと計画していたので、柔は自分の誕生日の為ではなく、そんな彼の為に美味しいお弁当をたくさん作らなきゃ!と、お弁当作りに精を出した。ある程度は昨日のうちに下拵えをすませていたので、あとは箱に詰めるだけの物がほとんどだ。洋風なおかずもあるが、こちらで用意出来る材料で出来るだけ和風に、健康的にする様に頑張った柔の愛情たっぷりの特製弁当だ。お弁当作りの傍ら、しっかり朝食の準備も進め、もうすぐ完成という頃に耕作が目を覚ました。
「ふああ〜よく寝たぁ!ん、あれ?毛布掛かってる。俺掛けたっけ?…あ、すげぇ良い匂いする…腹減ったなぁ」
「耕作さん.おはようございます」
「わああっ!」
まだ寝ぼけていた耕作は、突然後ろから声を掛けられてつい大声を出して驚いてしまった。耕作がバッと振り向くと、申し訳無さそうな顔をした柔が立っていた。
「ごめんなさい、驚かせちゃって…まさかそんなにビックリさせちゃうなんて思わなくて…」
「い、いやぁっ、俺の方こそごめんっ!まだ寝ぼけてたからさ、ハハハッ!」
耕作が頭を掻きながらそう言うと、柔が微笑んで言った。
「もうすぐ朝ご飯出来ますから。お弁当も腕によりをかけて作ったんですよ」
「そ、そうか、ありがとう、柔さん!柔さんの作ったお弁当めっちゃ楽しみだよ!柔さんの弁当毎日食べられたらきっと幸せだろうなぁ…。あ、俺顔洗って着替えて来るな!」
「え…」
耕作が何気なく放ったその台詞に柔が顔を赤くした。だが耕作は柔のその変化に全く気付かず洗面室に入って行った。自分のこの台詞が柔の心をまたも鷲掴みにしたのだが、耕作はそんな事は知る由も無く…。一方の柔は顔を赤らめてしばし放心していた。
(な、何、今の…それってあたしが作ったお弁当毎日食べたいって事…?でも、そんなに楽しみにしてくれてるんだ…嬉しいな)
柔は、その言葉に隠された耕作の本心には気付かず、表面的な部分だけを切り取って素直に喜んだ。柔は柔で男女の事に関してはまた全くの素人で大変鈍いのだった。柔は、さらにウキウキとした気分で朝食とお弁当の仕上げにかかった。そして、ちょうど完成した頃に耕作が戻って来た。
「おお!美味そう!いただきまーす!」
テーブルに並べられた朝食を見た耕作がパッと顔を輝かせながら着席し、余程空腹だったのかガツガツと食べ始めた。柔はそれを嬉しそうに少しの間眺めてから自分もいただきますと言って食べ始めた。
「んまい!やっぱり柔さんは料理が本当上手だよな!」
柔は自分も食べながら、時折耕作の豪快な食べっぷりをニコニコしながら見ていた。彼のその食べ方は自分の祖父と父にそっくりで、見ていてなんだか気持ちがほっこりしてしまうのだ。そうして二人とも朝食を食べ終え、片付けと準備をしてから颯爽と外出していった。
「こんなに嬉しい誕生日、あたし初めてです!」
柔がニコニコしながら耕作の顔を見上げている。その腕はしっかりと耕作の腕に絡められ、絶対に離さないとばかりに寄り添っていた。
「今日は柔さんの誕生日だからな。出来る限りワガママ聞くよ。どこか行きたいとこある?」
柔は耕作と一緒ならどこでも良かったのだが、とりあえずニューヨークで知っている名所には行ってみたいと思い、幾つか場所を言った。
「えっと、まずは自由の女神を見てみたいのと、タイムズスクエアとか五番街あたりですかね。あとは、お弁当をセントラル・パークで食べたいです」
「まあニューヨークって言うとやっぱその辺だよな。美術館とかもあるけど時間も無いしそっちはまた今度行くか。最初は自由の女神にじ行こうか」
二人は駐車場に向かい車に乗り込んで自由の女神から順番に観光を楽しんだ。セントラル・パークではベンチで柔特製のお弁当を食べて、恋人同士のデートを満喫した。夕食も、デリで用意してくれたスペシャルなディナーも堪能した。そこでは、柔の誕生した年に作られた高級なワインまでプレゼントしてくれた。柔はデリでのディナーの話しを耕作から聞いた時、夕食は自分で作って彼と二人だけで過ごしたかったが、お店側から是非にと言われ厚意を無碍にする事も出来ず、その厚意を受ける事にしたのだ。結果的には料理もとても美味しくて、ケーキとプレゼントまで貰って、大満足な一日になった。
「お料理もとっても美味しかったし、ワインまで頂いちゃって…観光も楽しかったし、本当に素敵な誕生日になりました」
耕作のアパートの部屋に帰って来た柔は、改めて耕作にお礼を言った。
「もう帰って来ましたし、このワインこれから二人で飲みませんか?」
ワインは食事中に出すのではなくプレゼントとして持ち帰りにしてくれたのは、車を運転していた耕作へのお店側からの気遣いだった。でも、アパートへ帰宅した今ならもう何の気兼ねも無く飲める。柔はお酒はあまり得意という訳ではなかったが、ワインは割りと好きでアルコールの中では好んで飲んでいる種類だ。
「良いのか?今飲んじゃっても」
「はい。もう飲んじゃいましょ。今全部飲む訳じゃないですし、飲みたいんです」
「…君がそれで良いなら。じゃあグラスを用意しなきゃな」
「あたし取って来ます。グラスの場所も分かってますから」
柔は立ち上がるとキッチンに向かい、棚からグラスを2本取り出すと耕作の元へ戻った。この時、柔はある事を考えていてその為にお酒の力を借りようとしていた。柔はまた耕作に抱かれたいと強く望んでいた。キスさえこの日はまだ一度もしておらず、柔の中に少しずつ淫らな欲情が大きくなっていていたのだった。初めての時は自分では考えられない程の勇気を振り絞って誘ったのだが、どうやらその時に勇気を使い果たしてしまった様だった。でも、柔は身体の奥で燻る疼きを自分ではもうどうする事も出来ない。彼でなければその欲求を抑える事は不可能なのだから。それに仕事が忙しい彼とイチャイチャ出来る貴重な時間を潰したくはない。でも、素面の時は自分から誘うなんてもう恥ずかし過ぎて無理だと思った柔は、プレゼントでワインを貰った事を利用しようと考えたのだった。柔はグラスにワインを注ぐとソファーに座っていた耕作に手渡して、自分も彼の横に座った。
「乾杯!」
二人はお互いのグラスを軽く合わせた。柔はグラスを回してまずはワインの香りを堪能する。すると芳醇な香りが柔の鼻を擽る。一口含んでゆっくり味わうと柔の好みの味で思わずテンションが上がった。
「耕作さん!これ、凄く美味しいです!」
柔が隣に座っている耕作に振り返った。すると、優しい目でこちらを見つめている耕作と目が合い、柔はドキッとして思わず固まってしまい、耕作を見つめ返した。
「実はさ、柔さんにプレゼントがあるんだ」
そう言うと耕作は立ち上がり、仕事スペースのある部屋に入って行った。少しして戻って来ると、手には小さな紙袋を持っていた。その紙袋にはティファニーと書かれていた。耕作が少し照れながらそれを柔に差し出した。
「あ、ありがとうございます…」
柔はお礼を言いながらそのプレゼントを受け取った。柔は、彼がきちんとプレゼントを用意してくれていた事が嬉しくて堪らなかった。柔にとっては大好きな人と一日を過ごすという事自体がプレゼントみたいなもので、彼からプレゼントを渡されていない事もあまり気にしていなかったのだ。
「これ、開けてみても良いですか?」
「ああ、もちろん良いよ」
柔が袋の中を覗くと、可愛らしくラッピングされた細長い小さな箱が見えた。柔はそれを取り出してラッピングを丁寧に剥がして箱を開けた。中にはピンクのハート型のリングがあしらわれたネックレスが入っていた。ハートの中央には小さなダイヤモンドが光り輝いていた。
「わぁ、すごい可愛い…!」
一目見た瞬間から柔はそのネックレスを気に入った。まさか彼がこんな自分好みの可愛いアクセサリーをくれるなんて想像もしていなかった柔は、嬉しくて思わず泣きそうになっていた。
「ありがとうございます…!すごい嬉しい…着けてみても良いです
か?」
耕作が頷いたのを確認すると、柔はネックレスを身に着けて耕作に見せた。
「どうですか?」
「ああ、すごく似合ってる。気に入ってもらえたみたいで良かったよ」
「はい!すごく気に入りました!ありがとうございます」
柔は耕作の顔を見てニッコリと微笑んだ。その時、柔は耕作が真剣な眼差しで自分を見ている事に気付いた。まるで柔道の試合の時に自分を見てくれている時と同じ目だ。何だかいつもと違う雰囲気に、柔が一気に緊張する。
「柔さん、聞いてほしい事あるんだ。ちょっと良いか?」
「は、はい」
二人はソファーに並んで座った。柔が耕作の顔を見ながら、緊張した面持ちで耕作を見つめた。柔はその時初めて、彼がワインを一口も飲んでいない事に気が付いた。ソファーの前に設置された小さなテーブルの上にワインが入っているグラスがそのまま残されていたからだ。
「俺さ…君には本当に感謝してるんだ。君がいなかったら今の俺はいなかっただろうから」
ゆっくり噛み締める様に耕作が呟いた。柔は何も言わず黙って耕作の紡ぐ言葉に耳を傾けるた。
「俺は君に出会った時、自分が追いかけるべきスターを見つけたと思ってすぐに君に夢中になった。俺はあの時、スポーツ選手を追いかけてちゃんとしたスポーツの記事を書きたかったのに、実際書かされるのはゴシップばかりで本当に嫌気が差してたんだ。ずっとイライラしてさ。スポーツの記事を書けないなら記者なんて辞めちまおうかと本気て悩んでた。だから君を見つけた時、本当に嬉しくてすごくしつこく追いかけちまって…あの時は本当にごめんな?」
それは柔が初めて知った衝撃の事実だった。自分には、彼が邦子との結婚によって記者を辞めてしまうかもしれないと本気で信じて悩んでいた時期があった。それは実際は邦子の作り話でそんな事実は全く無かったのだが。でも、それよりもずっと前に彼が本当に記者を辞めようとしていた事があったのは、柔にとってはかなりの衝撃だった。そして何より、彼が記者を辞めてしまう前に自分を見つけてくれた事に、更に自分と彼が本当に運命の出会いだったんだと確信を強め、この出会いに感謝した。もし彼に出会わなかったら、こんなにも愛せる人に自分は出会えなかっただろう。今の自分はもう彼以外の人なんて全く考えられないからだ。
「そうだったんですね…。あたしあの時は本当に嫌な思いしましたけど、あの出会いがあったから今があるし、耕作さんに出会えて本当に良かったと思ってるから、今は全然気にしてませんよ?もう随分経ってますし」
「うん、そうだよな。でも俺にとっては君は俺をスポーツ記者にしてくれて、金メダルの記事を書くっていう夢まで叶えてくれた、いわば恩人なんだ」
「そんな…それを言うならあたしだってそうです。あたしも耕作さんがいなかったら柔道続けてなかったです。試合の時は耕作さんがいてくれないと心細くなっちゃうし…ずっと耕作さんの存在を支えにしてたから。だからあたしにとっても耕作さんは恩人です。だからお互い様ですよ」
「うん。…でも、俺はせっかく見つけたスターの原石を逃したくなくてしつこく追い回したけど…君を一人の女性として見る様になるのにそう時間は掛からなかった。俺はいつの間にか君を好きになってたんた。でも俺は新聞記者で君はスターだという事に葛藤してた。だから君に対して取材対象だなんて言って、自分自身を戒めてたんだ。でもまさかそんな俺の言葉で君を傷付けていたなんて全く考えでもいなかったんだ」
柔は、彼自身もずっと自分に対する想いに悩み葛藤していた事を知り、驚くと同時に嬉しさや切なさが混じり合う、何とも言えない気持ちになった。
「実は以前、両親に結婚の事心配されてお見合いしろって言われてさ、でも俺は君の事が好きだったから断ったんだけど…あの時はまだ俺達がどうなるかなんて全然分からなかったけど、君の事諦められなかったし…」
柔は、まさかこんなに彼が自分の胸の内を話してくれるなんて思いもしていなかった。今まで彼の気持ちが分からずにずっと柔は悩み苦しんできたのだ。でも、彼も自分と同じ様に悩んで来た事を知って、彼に対する愛しい気持ちがより大きくなった。お見合い話しを断っていたというのも、彼の誠実さの表れだと思った。
「あたし、嬉しいです。あたしの事を好きだからお見合いの話しを断ってくれたんですよね?」
「あ、ああ…あ、あの、柔さん!」
「はい」
急に耕作の口調が変わり、柔は思わずキョトンとしてしまった。ふと、二人の視線が合った。彼が真剣な目で自分を見ている事に柔は気付き、彼から目が離せなくなった。
「柔さん!お、俺は仕事がめちゃくちゃ忙しくてそんなに構ってあげられないかもしれないし、仕事忙しい割りに安月給だけど…!でも、君をきっていう気持ちだけは誰にも負けないから!だ、だからその…お、俺とけ、結婚してくれないか?」
「…え…?」
柔はその言葉の意味を理解するのにほんの少しだけ時間が掛かった。結婚…?誰と誰が…?え、あれ?あたし今耕作さんに結婚してって言われた?嘘…あたし今プロポーズされた、耕作さんから。本当に…?あたし、耕作さんと結婚出来るの…?嘘…嬉しい…あたし…あたしも耕作さんと結婚したい…出来るならすぐにでも良い。あたし…あたしはあなただけのあたしになりたい…!その瞬間、返事より先に柔の目からポロポロと涙が溢れ落ちた。
「え、や、柔さん⁈」
その涙を見た耕作は焦り狼狽した。柔が自分の目の前で泣くのを見るのはこれで何回目だろうか?
「あ、違うんです!勘違いしないでください!あたし嬉しくて…。あの、あたしで良かったらよろしくお願いします」
「え、良いの?本当に?」
「はい、もちろんです。あたしも耕作さんと結婚したいです」
「そ、そうか!ハハっ、あ〜良かった!緊張した…」
心底ホッとした様に耕作が言った。余程緊張していたらしい。
「あのさ、実はさっきのネックレスが指輪の代わりでもあるんだ。まだ俺達は関係を公表してないから、君が指輪してたらきっと大騒ぎになるし、君の指輪のサイズも分からなかったから、考えた末にそうしたんだけど…指輪じゃなくてごめんな?」
確かに婚約指輪でなくネックレスというのはあまり聞いた事が無いし、指輪の方が婚約したという実感も持てるだろう。だが、柔にとっては指輪だろうがネックレスだろうが、耕作から貰ったという事に意味があるし、彼が言った通り自分が指輪なんて着けていたら大変な騒ぎになるだろう事は目に見えている。彼が日本にいない今、騒ぎになれば自分が一人で立ち向かわなければならない。その点、ネックレスならば誕生日プレゼントで貰ったとかいくらでも言い逃れ出来る。この彼の選択が、遠くにいても自分を守ってくれると柔は思った。
「いえ、ネックレス気に入ったのですごく嬉しいです。それに耕作さんの言葉通り指輪してたら大変そうですし。でもネックレスなら身に着けられるからすごく良いと思います。耕作さん、本当にすごいですね」
「え、すごいって何が?」
「ふふ、何でも無いです」
柔はそう言うと耕作に抱きついた。何でこの人はこんなにもあたしを夢中にさせるんだろう?どこまで好きにさせるんだろう?そう考えながら柔は自分が柔道に復帰したばかりの時の事を思い出していた。あの日は、フクちゃんを出産して間も無い富士子と一緒に猪熊家の道場で稽古をしていた。富士子はフクちゃんを連れて来ていたので交代で面倒を見る事になっており、自分の番だった柔はフクちゃんのミルクを作る為に台所に行くと、そこに変顔をしながら泣いているフクちゃんを必死にあやす彼がいたのだ。柔はテキパキとミルクを用意して耕作からフクちゃんを受け取ると慣れた手つきでフクちゃんにミルクを与えた。
「これならいつ赤ちゃんが生まれても安心だな」
その様子を感心しながら見ていた彼は、この時そう言ったのだ。…そうだ。この時から自分は結婚して子供を作るなら彼が良いと、彼しかいないと思って彼のお嫁さんになる事を密かに夢見ていたのだ。この時はまだ、邦子が彼の相手だと思っていたが、自分の彼への想いはそう簡単に諦められるものでは無かった。だから、彼の自分へのプロポーズがまるで夢を見てるみたいですくには現実と思えず、理解するまでほんの少しだけ時間を要してしまったのだ。
「柔さん、プロポーズ受けてくれてありがとうな。俺…幸せにするから!」
そう言うと耕作は柔の髪を優しく撫でた。
「あたしはもう充分幸せですよ」
柔は顔を上げ、真っ直ぐに耕作の顔を見た。二人の顔が自然に近付きキスをした。
(そういえば今日はまだ一度も柔さんとキス、してなかったなぁ…)
柔と唇を重ねながら、耕作はそんな事を考えていた。この日は柔の誕生日だ。そんな大切な日を彼女は自分と一緒に過ごす為にこんな遠くまで会いに来てくれたのだ。だから、この日を柔にとって最高の誕生日だと言える日にしてあげたかった。だが、耕作にはこれ以上に何も思い付かなかった。
「…んっ、はあ、…んっ!」
耕作がそのままキスを続けていると、柔の口から微かに吐息が漏れた。その甘さに耕作は思わずゾクっとした。
(あぁ、ヤバいな…すげぇシたくなってきちまった…)
柔は素直に耕作からのキスを受け入れ、時折自らも求めて来る。その姿は普段の少し幼なげで愛らしい、控えめな彼女ではなく、紛う事無き女の顔をしている。それが彼女が自分にしか見せない顔だと思うと、彼女に対する独占欲ご湧いて来てしまうのだ。耕作は、自分がこんなにも独占欲が強い男である事を、柔と交際する様になるまで知らなかった。また、以前風祭に対して抱いていたライバル心や劣等感も、柔と恋人同士になってからはすっかりと消え失せて、あの風祭に男として勝てたという少しの優越感を感じ、自信にも繋がっていた。そして、何より柔に相応しい男になろうと仕事にもより力が入る様になっていた。
(シたいけど…まだシャワー浴びてないよな…そもそも柔さんがその気になってくれるか…この前シたばかりだし…柔さんにスケベ過ぎだとか幻滅されたくないしなぁ…)
そんな事を悶々と考えながら、耕作は結局今日は止めよう!という結論に至った。体力的にはまだ大丈夫だったのだが、柔のとても幸せそうな純粋な笑顔を見たら、そんな邪な気分が吹き飛んで自分の心も満たされたからだった。耕作が優しく柔を抱き締めると、柔も腕を耕作の背中に回して抱き締め返してきた。
(耕作さんにプロポーズされちゃった…いつかはと思ってたけどまさかこんなに早くしてくれるなんて…嬉しい。すごく幸せ。少し前までこの恋があんなに辛かったのにそれが嘘みたい。…ありがとう、耕作さん。大好き!)
柔も自分がエッチな気分になっていた事などすっかり忘れ、とても満たされた気持ちで微笑んでいた。