※この作品はR-18です。

アイノカタチ   作:花鳥 ユイ

4 / 14
今回、会話文多めです。


親友との恋バナ

 

 親友との恋バナ

 

 柔と富士子はお茶をすすりながら話しをしていた。

 

 「松田さん、アメリカ行っちゃったのね。猪熊さん、寂しいわね。大丈夫?」

 

 富士子が心配そうに柔に訊いた。富士子が特に心配なのは、柔道の試合の時に松田がいないと、柔が精神不安定になってしまう事だ。

 そうなってしまうと、いくら自分や他の人が励ましたり怒ったりしても、もうどうにも出来なくなる。松田以外に柔の調子を取り戻させ、元気にさせる事が出来ないのだ。

 柔自身も、富士子が何を心配してくれているのか何となく分かっていた。

 

 「うん…でも前とは状況が違うし、頑張らないとね」

 

 しんみりしてしまった空気を少しでも変えようと、富士子は柔に切り出してみる事にした。富士子は、もし柔と松田が上手くいったら、柔と恋バナをしてみたいと、実は密かに思っていたのだ。

 今まではとても柔とそんな話しが出来る状況では無かった。

 

 「猪熊さんって、ユーゴスラビア世界選手権の時にはもう、松田さんの事好きだったわよね。それ以降も、松田さんなんて関係無いもん!とか言って本当に意地っ張りだったけど。猪熊さんって、いつから松田さんの事好きだったの?」

 

 「え、えっと…実はあたしも自分でもいつから好きだったのかよく分からないの…。気付いたらもう好きになってたっていうか…あの…あたし…あのね、松田さんへの気持ちに気付いたの、ユーゴの時だったの」

 

 「え、そうだったの?」

 

 「うん…。あの時も、最初は自分が何であんなに絶不調になっちゃうのか分からなくて…。富士子さんやジョディから松田さんも応援してるとか色々言われて、あたし、なんでこんな時に気付くのかなって…」

 

 「そうだったのね…。でも、何か好きになるきっかけになる様な出来事があったんじゃないの?そうじゃなきゃ好きにならないわよね」

 

 「そ、それは…」

 

 柔の顔は、もう真っ赤になっていた。自分の友達に自分の恋愛話をするのは初めてだった。今までは友人達や同僚達の恋愛話を聞くばかりで、ずっと羨ましかったのだ。自分な話しをするのはとても恥ずかしかったが、同時にとても嬉しくて、幸せだった。

 

 「あたしがはっきり松田さんの事を意識した初めては…三葉女子を受験した時なの」

 

 「えっ?すごい前じゃない!」

 

 「そうなの。あたし、三葉女子の試験の日の前日に試合があって、その時に利き手の右手を捻挫しちゃって…試験の時にどんどん痛くなっちゃって本当に困って、誰か助けてって思ってたら、松田さんが来てくれたの。それでその時に、あたし怪我の事を松田さんに話して…そしたら、松田さんがハンカチを右手に巻いて鉛筆を固定してくれて…応急処置をしてくれたの。それであたし、その後の試験を無事に受けられたの」

 

 過去の耕作との出来事を話す柔は、いつになく饒舌ですごく幸せそうに富士子には見えた。それが、富士子は嬉しくて仕方が無かった。だからついつい、深掘りして訊いてしまいたくなる。

 

 「松田さんって本当に優しいわよね。でも、その時も約束とかしてた訳じゃないんでしょ?」

 

 「うん。記者としてじゃなくて、1人の、人間として気になったから来たって言ってたけど…。松田さんもね、おじいちゃんと一緒で、あたしに西海大学に行ってほしいと思ってたはずなのに、あたしを助けてくれたのよね…」

 

 柔はその時の事を回想し、ある事を思い出してカーッと赤くなった。それは、耕作がその時に発した言葉だった。柔はその時、敵側であるはずの彼が何故自分を助けてくれるのか、という事に気を取られて、あまりその発言自体に気が向いていなかったが、今になって思い出すと本当に恥ずかしい台詞だ。あんな気障な台詞を、何の照れも無く素で言えてしまう彼が、ある意味すごいと柔は思った。

 

 「猪熊さん?どうかしたの?」

 

 急に赤くなって黙り込んだ柔に富士子が声をかけた。柔がハッと気付いて何でもないの、とはぐらかしたが、何でもない訳は無い。少しイケイケな気分になっていた富士子は、あえて、チャレンジ精神で柔に訊いてみる事にした。

 

 「猪熊さん…そんな赤い顔して何も無い訳無いわよね。その時に何かあったんでしょ?お姉さんにドーンと話してみなさい!」

 

 「え…う、うん。あ、あのね、その時に松田さんに言われた事思い出しちゃって…それが、すごいカッコ良い台詞だったの。あたしの右手にハンカチを巻いて鉛筆を固定してくれたんだけど、その後にね''最後の'60分一本勝負、行って来い!合格発表一緒に見に来ようぜ!“って…」

 

 先程より更に顔を赤くして柔が言った。

 

 「えーっ!松田さんそんな事言ったの?カッコイイ事言うのねぇ。でも、それって猪熊さんが本当に困ってる時に来て助けてくれて、でそれ言ったんでしょ?それじゃ好きになっちゃうかもね」

 

 「そうでしょ?あたし、あの瞬間に完全に松田さんの事を好きになったんだと思うの。でもあたし、その時は自分の気持ちに気付かなかったの。あたしは風祭さんの事を好きだと思ってたし、新聞記者なんて信用出来ないって思ってたから…」

 

 「そうだったのね…」

 

 富士子は柔の話を聞いて、とても感動していた。二人の間にこんな素敵なストーリーがあったなんて、全く想像もしていなかったからだ。もっと二人の事を聞いてみたい…富士子の心に沸々と好奇心が湧いてくる。

 

 「猪熊さん、他にも色々あるんじゃない?話せる範囲で良いから教えてくれない?あたし、なんかすごい感動しちゃったの!」

 

 「え、他に?そうね…あたしが試合があるのに北海道に行っちゃった時

あったでしょ?あの時松田さんが羽田にバイクで迎えに来てくれたんだけど、あたしを迎えに来る様に、あたしの北海道に一緒に行ってた上司が日刊エブリーに電話して頼んだらしいの。それでその上司がね、あたしを東京に帰す時に言ったの。松田さんの記事のファンで毎日楽しみにしてるって、あんな熱い記事を書く奴はなかなかいないって…。あたし、それを聞いてそんなに松田さんってすごい人なのかって、すごく見直したの」

 

 「あたしも、松田さんの書いた記事に助けられた事があるわ。花園くんがあたしに釣り合う人になる為って言って、あたしと会わなくなって、猪熊さんと滋悟郎先生に稽古つけてもらってて、花園さん試合に出たけど、あたし観るのがすごく怖くて試合観に行けなくて…。その時に、たまたま日刊エブリー読んでる人がいて、そこに松田さんが花園さんの事書いた記事があって、あたし、その人から借りて読ませてもらったの。それで、試合観に行く勇気をもらったのよ。だから、松田さんにはすごく感謝してるの」

 

 柔は、初めて富士子からその時の事を聞いた。その記事の事は柔も知っている。富士子があの時、その記事を読んでくれて気持ちが動いた事を知って、柔は嬉しかった。

 

 「松田さんの記事って本当に素敵よね。アメリカ行って帰って来たら、もっといい記者さんになるんじゃないかな?」

 

 富士子は、寂しいであろう柔を気遣ってそう言った。

 

 「…そうね。あたしもそう思うわ」

 

 「ねぇ、猪熊さんはアメリカに松田さんに会いに行かないの?この間確かお母さんがお父さんに会いにパリに行ってたのよね?」

 

 「もちろん会いに行くつもりよ。だってすごく会いたいもん。でも、アメリカに行くお金がなかなか貯まらなくて」

 

 「えっ?金メダルの報奨金とか、テレビの出演料とかもらってるんじゃないの?お母さんに訊いてみたら?」

 

 柔はその事に全く気付かなかった。それらのお金に関しては柔は全て母の玉緒に任せきりだったからだ。

 

 「そうね。お母さんに訊いてみるね。ありがとう、富士子さん」

 

 「松田さんは猪熊さんにとって必要な人だもの。例え遠くにいたって、時々はちゃんと会わないと猪熊さんが元気無くなっちゃうもの。やっと恋人同士になれたんだから頑張らないとダメよ!アメリカ行ったら、目一杯松田さんに甘えて来るのよ!」

 

 「そうよね、うん。あたし、頑張ってみるね」

 

 「そうよ!ファイトよ!」

 

 「うん!」

 

 富士子がガッツポーズで励ましてくれたので、柔もニッコリ笑って大きく頷いた。

 

 「そういえば、猪熊さんって、アレには興味あるの?」

 

 「え?アレって?」

 

 柔は富士子が何を言っているのか分からず、キョトンとした。

 

 「やだ、猪熊さん。アレってエッチよ、エッチ!松田さんとしたいとかそういうの考えてるの?」

 

 「…え…」

 

 柔の顔が一気に赤面する。柔自身は自分の恋愛話でこんな話をするのは初めてだったし、南田やマリリンならともかく、まさか富士子から訊かれるとは思っておらず、柔は大いに戸惑ってしまった。だが、富士子ももう子供がいる身だ。そんな話が出ても少しも不思議では無いのかも知れないと柔は思った。

 

 「猪熊さん。これは大事な話よ。あたし達って柔道の選手だから、試合とかオリンピックとかがあるでしょ?やっぱり、普通の人達以上に妊娠とかにはすごく気を付けなきゃいけないの。あたしと花園くんも気を付けてはいたけど出来ちゃったし…」

 

 「あたし…あたしは…」

 

 柔は、そう改めて言われて心の中で葛藤した。柔は普通の恋をする事に憧れを抱いていた。好きな人と普通に手を繋いだり腕を組んで歩いてデートしたり…その中には、好きな人とのキスやエッチするという行為も含まれていた。本当は大好きだった耕作と恋人同士になれた今、その想いは以前より強くなっていた。彼氏のいる友人達や同僚達のそういった話を聞く度に、柔は内心では羨ましくて仕方無かったのだ。大好きな耕作と結ばれたい…愛し合いたい…メチャクチャにされてみたい…でも、今、富士子から言われた事も充分理解出来る。そんな柔の思いを感じ取ったのか、富士子が優しく微笑みながら柔に言った。

 

 「ごめんね、猪熊さん。困らせたくて言ったんじゃ無いの。好きな人としたいっていう気持ちは誰でもあって当然よ。あたしだってそうだったもの」

」

 「…富士子さん。あたし、松田さんと…っていう気持ち、もちろんあるわ。だってあたし…彼の事、大好きなの。好きで好きで仕方無いの。今だってずっと抱きしめて欲しくてたまらないの…」

 

 柔の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。気持ちが通じ合ったのとほぼ同時に、大好きな彼は遠いアメリカに行ってしまった。彼は仕事だし、仕方無い事だと分かってはいるが、やはり寂しいものは寂しいのだ。

 

 「猪熊さん…」

 

 富士子は今、初めて柔の隠していた本心を聞いた気がした。柔が、松田耕作という新聞記者の事を好きだという事は、かなり前から分かってはいた。でも、ここまではっきり松田の事を好きだと言った事は今まで無かった事だった。でもそれが、柔の心が寂しさで押し潰されそうになっている証の様な気がして、富士子は少し危機感を覚えた。

 

 「猪熊さん…猪熊さんは一日でも早く松田さんに会いに行った方が良いわ。もう、一ヶ月くらい行っちゃいなさいよ」

 

 「え…い、一ヶ月?そんな長い間行けるかなぁ?仕事もあるし…」

 

 「だって松田さん、アメリカ中をスポーツの取材して忙しいんでしょ?たった数日行ったくらいじゃ、ほとんど会えないじゃない!それじゃ行く意味無いわよ。仕事は…誰か話聞いて協力してくれそうな人いないの?」

 

 「協力してくれそうな人…いるわ、一人だけ。さっき話した、松田さんのファンの上司の羽衣課長よ。でも、それだとあたし達の事話さなきゃいけないわよね。でも、話しても内緒にしてくれると思うけど…」

 

 「松田さんがアメリカでのお仕事終わって帰国するまでは、多分時々お休みする事になるでしょ?なら、話して味方になってもらう方が、後々の為には良いと思うのよね」

 

 柔は、確かに富士子の言う通りかもしれないと思った。羽衣課長には負担が掛かってしまうかもしれないが、こちらとしては会社に事情を知っている味方がいた方が動きやすい。それには、羽衣課長は適任だ。何と言っても、彼は松田のファンなのだから。

 

 「あたし、羽衣課長に話してお願いしてみるわ。どうなるか分からないけど…」

 

 「松田さんに会う為だもの、頑張って!…ねえ、そろそろお昼ご飯作らない?お腹空いて来ちゃったわ〜!」

 

 「あだー!」

 

 富薫子が自分もお腹が空いたと言わんばかりに声をあげた。柔と富士子は、富薫子のあまりのタイミングの良さに、二人して笑ってしまった。

 

 「そうね。お昼作って食べよう!」

 

 柔と富士子は仲良く昼食の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。