※この作品はR-18です。

アイノカタチ   作:花鳥 ユイ

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カメラマンとの出会い

 

カメラマンとの出会い

 

 耕作がアメリカへ来てから、約一ヶ月が経っていた。耕作は精力的に取材の仕事をこなし、アメリカの環境に慣れて来ていたが、英語力とカメラの腕は、一向に上がる気配は無かった。

 

 この日の取材はアパートから近い場所だった為、少しゆっくり出る事が出来たが、アパートに食べる物が無く、どこかの店で食事をする事にし、試合会場近くで店を探していた。

 (どこかに良い飲食店無いかな…)

 

 耕作は出来る限り食事に気を付ける様にしていた。自分の彼女である柔が、自分の食事面をすごく心配して、事あるごとに言ってくるからだ。もし、野菜などもしっかり摂れる店が見つかれば、それほど助かる事は無い。だが、耕作はそんな店を根気良く探してはいたものの、なかなかそんな都合の良い店は見つからなかった。その時、耕作はある飲食店を見つけた。今まで一度も入った事の無い店だった。

 

 (今日はここにするか…入るの初めてだけど)

 

 耕作は何気なくその店に入店した。けれど、耕作にとってこの店との出会いがアメリカでの生活に大きな変化と進化をもたらす事になる。

 

 「いらっしゃいませ〜!」

 

 耕作は、突然聞こえてきた日本語の挨拶に面食らい、固まった。

 

 (あれ?日本語?ここニューヨークだよな?何でだ?)

 

 耕作がそのまま固まっていると、従業員の女性がやって来て耕作に声をかけた、

 

 「あら、あなた日本人みたいね。この店は初めてかしら?」

 

 「え、あ、はい。俺は日本人です」

 

 「日本語だからびっくりしたでしょ?この店は私と私の旦那がやっているんだけど、ここでは日本語で商売しているのよ。日本人には喜ばれるし、アメリカ人にも結構ウケが良いのよ」

 

 「へーそうなんすか」

 

 「あ、ごめんなさいね。さあ、どうぞ選んでいって」

 

 そう言って女性は接客に戻っていった。

 耕作はガラスのショーケースに目を向けてメニューを見ると、思わず目を瞠った。惣菜の種類のさる事ながら、野菜が多く使われていて、サラダが豊富にあった。もちろんサラダだけではなく、肉や魚の惣菜もあった。

 

 「こ、こりゃすげぇ…!ニューヨークにこんな店あったんだな!」

 

 思わず耕作は感嘆の声をあげた。この店なら、恋人の柔の不安を一掃して、健康的な食事を摂れそうだ。

 目をキラキラさせながらショーケースを眺めている耕作に、先程の従業員の女性が再び声をかけて来た。

 

 「あなた、こちらには仕事で来ているの?何している人なの?カメラマン?」

 

 首からカメラをぶら下げていた為に彼女はそう言ったのだろうが、自分はカメラマンではなくて、日本のスポーツ新聞の記者で、今はアメリカのスポーツを担当している、と答えた。

 

 「そうなのね。ねぇ、あなた。ニューヨークに住んでる日本人のコミュニティをあたし達作ってるんだけど、加入しない?日本人同士で助け合って、こっちで生活しているの」

 

 「コミュニティっすか?でも俺、アメリカ中取材で駆け回ってるんで、拠点はこっちだけど、あんまりニューヨークにはいないんすよ」

 

 「それは全然構わないわ。でも、加入しておくと後ですごく便利よ。英語の先生やカメラマンだっているかもしれないわよ」

 

 そう言って女性はニコッと笑った。その誘いは耕作にとってとても魅力的な誘いだった。英語とカメラに苦戦している事を見透かされている様で、耕作は少し恥ずかしかったが、誰か助けてくれる人がいるのなら、これ以上に心強い事は無い。だが、もうカメラウーマンだけは懲り懲りだか。だが、この時点での返答は避けた。取材に行かなければならない時間が迫っていたからだ。適当にサラダと惣菜を注文し、店に設置されていた飲食スペースでかき込んだ。味もとても良かった。夕食の分もテイクアウトして店を出て取材に向かった。

 

 そして翌日、耕作は昨日のデリへ取材前に出向いた。店で食事をする為と、昨日の返事をする為だ。耕作は考えた末、コミュニティへの加入を決めた。日本人と交流出来る事は、アメリカで孤軍奮闘する自分にとって、かなり嬉しい事なのだ。

 

 「いらっしゃいませ!」

 

 昨日と同じ女性が挨拶をしてくる。耕作は今度は自分から声をかけた。

 

 「どうも」

 

 「あら、昨日の?」

 

 「はい。あの、俺、コミュニティに加入したいんですけど」

 

 「あら、ありがとう。それじゃあ、この紙に記入してくれるかしら?備考欄には、協力したい、してほしいとか希望があれば書いてくれる?」

 

  「はい、分かりました」

 

 用紙には名前、住所、電話番号、家族構成、仕事、備考を書ける様になっていた。耕作は書き終えると用紙を返した。

 

 「ありがとう。大切にお預かりするわね。今日も食べて行く?テイクアウトも用意しましょうか?」

 

 「はい、お願いします」

 

 今までの自分なら、こんなに簡単にコミュニティなどには加入しないだろう。だが、このコミュニティは直感たが入った方が良い気がしたのだ。

そして、その直感は当たっていた。

 

 それから一ヶ月が過ぎた頃、耕作はあのデリのすっかり常連になり、コミュニティを使って英語を教えてもらったり、カメラマンを紹介してもらい、取材に一緒に来てもらったりした。このコミュニティにはきちんとルールがあり、コミュニティ同士の助け合いには、金銭のやり取りは一切禁止されていた。つまり、全てボランティアなのだ。そしてある時、耕作は一人のカメラマンと出会った。

 

 「初めまして。フリーカメラマンの沢村徹です。昔は風景撮ってたけど、今は人間中心でスポーツの写真も撮ってます。今日はどうぞよろしく」

 

 「どうも、初めまして。俺は日本の日刊エブリーの記者で、松田耕作です。こちらこそよろしくお願いします」

 

 すると、沢村はニコッと微笑みながら言った。

 

 「松田くん。俺は君の事を実は知っているんだよ。日本に帰っていた時、君の記事を読んだ事があるんだよ。その時に、実に情熱的な記事を書く記者だと思ったんだ。だから、君の名前をコミュニティ名簿で見た時、とても驚いて、カメラマンとして君に会ってみたいと思ったんだよ」

 

 「え、そうなんすか?まさかこっちで俺の事を知ってる人がいたなんて…」

 

 「まあ、そうだろうね。俺も君の名前を見た時はまさかと思ったし。でも話しを聞いてみたら本人らしいし、自分が写真で力になれるなら、喜んで協力させてもらうよ」

 

 「あ、ありがとうございます…」

 

 耕作はこんなに自分を買ってくれている人がアメリカにいるなんて思いもしていなかったので、少し恐縮してしまった。

 

 この時から、耕作はアメリカでの取材の時に、この沢村に写真撮影をお願いする事が増えた。彼は耕作より少し年上の34歳で、フリーカメラマンをしている事もあり、カメラの腕は卓越していた。そんな人間にタダで写真撮影を頼むのは気が引けたが、耕作が一度お金を支払おうとしたが、沢村はガンとして受け取ろうとはしなかったので、完全に今はそれに甘えていた。

 

 そしてまた日が過ぎ、十一月の下旬になっていた。この日の取材も、カメラマンとして沢村が同行してくれていた。しかもニューヨークでも西海岸地区でもなく、東海岸側にある取材場所に来てくれていた。

 

 「心配しなくても、俺はきちんと他で稼いでるから大丈夫だよ。俺の写真、結構高値で売れるんだぜ」

 

 そう言って笑っていたが、沢村はふと真顔になり、耕作にある質問をして来た。

 

 「松田くんは、彼女いるのか?」

 

 「…え?」

 

 耕作は突然の質問に少し狼狽えた。彼はスポーツに詳しいので、当然柔の事を知っていた。彼が読んだのが、他ならぬ耕作が書いた柔の記事だったからだ。でも、別に誰かという事を言う必要は無いか、と思い、正直にいる、と答えた。

 

 「そうか。相手は日本にいるのか?」

 

 「ええ、日本にいますよ」

 

 「なら、大事にしなきゃダメだぞ。俺にも以前彼女がいたんだ。でも、俺がアメリカに行きたいから付いてきてくれって言ったけど、彼女も仕事だったり、親の事とか色々あって日本に残る事になって、遠距離になって結局別れたから」

 

 「そうだったんすね…。俺は今のところ連絡は取り合ってますけど、肝に銘じときます」

 

 耕作は、無論言われなくても柔との連絡についてはこまめにするつもりだったし、実際そうしていた。柔は耕作が出会った時からの六年間、ずっと想い続けた女性だ。半ばダメ元で告白したら、受け入れてもらう事が出来た。自分のアメリカへの転勤のせいで別れる事になんて、耕作は絶対させたくなかった。だから、柔がアメリカに来たらプロポーズする事も決意していた。

 

 「ああ、そうした方が良い。頑張れよ」

 

 沢村から肩を叩かれ、激励された。

 この日から、沢村がお互いの腕を信頼し合う、耕作のアメリカでの仕事の名パートナーになっていくのである…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遅くなりました。申し訳ありません。

オリキャラ登場しました。デリの店員さんとカメラマンの沢村さんです。
松田さんがアメリカで良いカメラマンと出会って欲しくて考えた設定です。
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