※この作品はR-18です。

アイノカタチ   作:花鳥 ユイ

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止められない気持ち

 

 止められない気持ち

 

 柔と耕作の二人はしばらく抱き合った後、デリで買って来た惣菜を温め直して夕食を済ませ、シャワーも終えて寛いでいた。柔は、これから起こるかもしれない事に、期待で胸を膨らませていた。今の自分には、圧倒的に耕作が足りていない。柔は、このアメリカで一緒にいられる内に、たくさん耕作を充電しておきたかった。彼も仕事があるし、ずっと一緒にいられる訳では無い事はよく理解しているつもりだった。柔は隣に座っている耕作に寄り掛かり甘えてみた。夕食の時に少し飲んだワインのお陰もあり、柔はいつもより少し大胆になっていた。

 

 「あたし、今日だけでもっともっと耕作さんの事好きになっちゃった。車を運転してる姿も英語話してる姿もすごくカッコ良かった…♥️」

 

 「ハハハ…そ、そうか?」

 

 耕作は、いつになく積極的な柔に内心ドキドキし、ともすれば吹っ飛びそうになる理性を保とうと、必死になって欲望に抗っていた。そんな耕作の葛藤など知らない柔は、更に畳み掛けてきた。ウットリと近くから耕作の横顔を見つめ、キスをせがんでいる様に顔を少し傾けたり唇を少し突き出してきたり、耕作に対して波状攻撃を繰り出してきて、耕作は大いに焦ってしまった。

 

 (柔さん、なんかすごい積極的じゃないか?も、もしかして俺の事誘ってる、のか?あの柔さんが?いや、でもこの感じそうとしか…)

 

 昼間、デリの綾子から言われた事を耕作は思い出していた。彼女から意思表示があれば応えろ、という助言だった。でも、内気な柔が自分から誘って来るのかは正直分からなかったが、彼女がそう思ってくれるのなら自分は拒否しない…けれど自分から言うのは無しにしようと決めていた。耕作は彼女を、柔を大事にしたいのだ。

 

 「柔さん、少し飲み過ぎじゃないか?」

 

 「あのくらい全然飲み過ぎじゃないですよ。少しホワッとしてますけど。あたしは至って普通です」

 

 いやいや、全然普通じゃないんだが…明らかにいつもの柔さんじゃない!耕作はそう思いながらも口には出せなかった。それを言ったら柔の機嫌が悪くなりそうだったからだ。せっかく二人きりでいられるのにケンカはしたくなかった。

 

 一方の柔は、お酒の力も借りながら頑張って耕作にアタックしていたが、なかなか彼がその気になってくれず、心が折れそうになっていた。柔自身も彼が自分からは手を出して来ない気がしていたので、したかったら自分から意思表示するしか無いと思っていた。そう、柔は耕作と結ばれたいと願っていた。自分が北海道な接待ゴルフから試合の為に急遽帰って来た時、羽田空港には迎えに来た彼の姿があり、彼とバイクのお陰で何とか試合には間に合ったが、その時に彼は足にヒビが入る重症を負ってしまい、自分はその後お見舞いに彼の部屋を訪れ、彼の為に夕食を作ったりして、一緒に楽しい時間を過ごしたりした。そしてあの時、思わぬ彼の誘惑にポヤーッとしていた時に邪魔が入って、その時は何も無く終わってしまった。でも、柔はこの時くらいがら心の奥底で彼と結ばれたい願望が強くなっていたのだ。好事魔多しとはよく言ったもので、今まで彼と自分が良い雰囲気になると必ずと言っていい程邪魔が入り、想いの成就は出来なかった。けれど今は、誰にも邪魔出来ない、いわば大チャンスなのだ。柔は今回こそは絶対に逃したくなかった。ずっと心の奥底で望み、待っていた瞬間なのだから。

 

 「柔さん…」

 

 耕作の顔が近付いて来たので、柔は目を閉じた。その直後に自分の唇に耕作の唇が重なる。最初は優しいキスだったが徐々に深く強くなっていく。柔は耕作の背中に腕を回してキスを受け入れた。柔はその熱いキスにすぐに夢中になり、ウットリとしていると耕作の舌が口の中に入って来て柔の舌を絡め取る。柔もそれに応えて耕作の舌に自分の舌を絡め返した。

 

 「…んっ、んむ、ふぅっ…」

 

 角度を変えながらの長いキスの合間に、柔は甘い吐息を漏らす。その柔な反応にキスは益々エスカレートしていき、耕作は柔の唇をチュッチュッと音を立てながら啄む様にしてみたり、逆に唇を強く押し当てて舌を回しながら柔の舌に絡めたりした。柔はただただもう夢中でそれらに応え、自分からもキスをしたり、蕩ける様な甘い時間を堪能した。柔は、このキスによってもう堪らない気持ちになっており、先程よりもずっとその先までしてほしくて、彼が欲しくて仕方なくて、体の芯が疼く様な状態に陥っていた。耕作も、柔の可愛いらしい、けれど色っぽい反応につい夢中になってしまい、やり過ぎたかと反省しながらそのキスを終えた。目を開けて柔の顔を見ると、名残り惜しそうな潤んだ目で耕作を見つめていた。その顔は、それまで見た事の無い、柔の女の顔だった。耕作の心臓がドキンと高鳴る。

 

 「…柔さん。俺は君の事本当に好きだから大事にしたいんだ。…でも、同時に君をめちゃくちゃに愛したいって思ってる自分もいて…その…君とし始めたら正直途中で止められる自信が無いんだ。だから、引き返すなら今のうちだ。今ならまだ俺は…」

 

 「…耕作さんは今からあたしとしなくても、我慢出来るんですか?」

 

 柔が耕作の言葉を遮って言った。

 

 「それは…」

 

 「あたしは…あたしはずっと好きだった人とやっと恋人同士になれて、こうして誰にも邪魔されずにやっと二人きりになれて、今までだってずっと我慢して来たのに、あたしはもう我慢なんて無理…」

 

 「…柔さん」

 

 「耕作さんが足を怪我してあたしがお見舞いに行った時に耕作さんが言った事、覚えてるでしょ?」

 

 「ああ、もちろん覚えてるよ」

 

 あの時、試合があるのに柔は北海道に接待ゴルフに行ってしまっていた。彼女がどこにいるのか全く分からず、自分はただ闇雲に必死になって探していた。そんな時に彼女の上司から自分宛てに連絡があり、彼の計らいで彼女は北海道から一人で急遽帰って来たのだ。自分は羽田空港に迎えに行き、彼女を試合会場の武道館まで送り届けた。その時に足を怪我してしばらく療養したのだ。その時に彼女がお見舞いに来て夕食を作ってくれて、一緒に食べた。今なら分かるが、彼女は自分の為に夕食を作るつもりでしっかりと用意してくれていた。食後、二人で話していた時に自分が言った言葉…冗談のつもりで、でも半ば本気で言ってみて、彼女の反応を窺った。彼女は驚き、戸惑い気味に自分の顔を見ていた。そんな時に急に邦子が来て邪魔されたのだ。

 

 「あたし、あの時もし邦子さんが来なかったら…」

 

 柔は最後まで言わずにそこまで言うと、自分から耕作の唇にチュッとキスをした。

 

 「あたしはあの時からずっと、耕作さんとそうなりたかった…!」

 

 「柔さん…」

 

 柔は覚悟を決めていた。それは決して生半可な気持ちではなかった。柔も、自分の立場は分かっているつもりだ。次のオリンピックでも金メダルを期待されている事も。でも、柔は耕作を愛する気持ちだけは誰にももう邪魔されたくないし、譲れないものなのだ。もし耕作との間に子供が出来てしまったとしても自分は絶対後悔しない。だってその子は愛する人との子供なのだから。今の柔自身は金メダルや見知らぬファンよりも余程耕作との愛の 

方が大事だった。耕作も、柔の本気を感じ取り、今度こそ本当の覚悟を決めたのだった。

 

 

 

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