喜多ァ!イクよっ! 作:マイケルみつお
「喜多さん......その......昨日は......」
ヒモは猛烈な罪悪感に襲われていた。何せ酒に酔ってとんでもない事をしでかしてしまったのだから。郁代の望む形で償いはしなければならないと考えていた。
「(でも僕がやってしまった事は取り返しのつかない事で......どんな事をしても償う事なんて......)」
「ヒモ先輩」
ぐるぐると回る思考を止めたのは隣に腰掛ける郁代であった。
「今は二人きりです。「郁代」って呼んで下さい」
「......そうだったね」
それは昨晩、確かに二人の間で交わした会話だった。
「それに私、昨日の事、嫌だなんて思ってません。後悔もしていませんからヒモ先輩が気に病む必要なんてないんです」
「(というより酒に酔った先輩をけしかけたのはむしろ私の方だし......)」
郁代は、自分が「被害者」のような雰囲気になっているが、そもそも前提が違うと考えていた。......これからの進展のために、布石にするために口にはしなかったが。
「私、昨日言った事、その場の軽いノリで言った訳じゃありません。「ヒモ先輩が好き」それは本心です。好きな人と結ばれたんです。嫌な訳がないじゃないですか!」
「......ッ!」
昨晩の出来事を鮮明に覚えているヒモは当然、件の告白も覚えている。
「(僕にできる事......)」
彼女のために自分が差し出せる償い、その光明が見えた気がした。
「その......僕も──」
「返事はまだいりません」
「えっ......」
が、その償いも郁代に遮られる。
「ヒモ先輩が私の事を恋愛的な目で見ていない事は知っています。そして私に対する罪悪感から告白を受けようとしてくれた事も」
「............」
「正直ヒモ先輩と交際できるなら......心が揺れ動きますけど、でも先輩を私はそんな気持ちで縛りたくはないんです!」
尚、繰り返すようだが酒に酔ったヒモをけしかけたのは郁代の方である。
「だから......待ってて下さい。いつか! 絶対に先輩を振り向かせますから! だからその時に今の言葉の続きを聞かせて下さい!」
「(僕は馬鹿だ......)」
今のは完全に自分の自己満足だった。自分がこの罪悪感から逃れるための提案でしかなかった......。
「(彼女の気持ちを......考えていなかった)」
先ほどまでの自分の短絡的な考えを恥じ、目の前の少女から逃げずに真っ直ぐ向き合う事を胸に誓う。
「その......ヒモ先輩から何か、あったりしますか? 私が呼び名を変えてほしいって言ったみたいに何かあれば」
「呼び名」に関してと言われ、ヒモは条件反射で言葉を紡ぐ。
「じゃあその「ヒモ」先輩ってのを無くしてくれないかな? いきなり変えたら他の人に怪しまれるかもしれないからこっちも二人の時だけでいいからその......昨日みたいに」
「分かりました!
ヒモは潜在意識では「ヒモ」と呼ばれる事が実は嫌だった。
──────
「皆さんお疲れ様です! (キターン!)」
場所は変わってSTARRY。郁代とヒモが情熱的な一夜を過ごしたとしても世界は変わらず回っている。「結束バンド」の練習も普通にある。
あの後、万が一のために
「き、喜多ちゃんいつになく眩しいね......」
しかしある意味で今日の郁代は異常だった。いつになく陽キャオーラが漏れ出している。
「ウァァァァ」
ひとりは悲鳴をあげながら蒸発し......
「か、身体が......まずい......早く陽光の陰になるところへ!」
虹夏の「逃げるな卑怯者ォォォ!」という声を聞きながらもリョウは完熟マンゴーの中に避難した。
それもこれも郁代の輝きが尋常ではなかったからだ。その訳は......
「あれ? ヒモくん? 今日はライブの日じゃないのに珍しいね」
郁代の隣に立っているヒモとデートしてからSTARRYに訪れたからである。
ヒモは後藤ひとりの演奏に魅せられ「結束バンド」のファンになった。ライブには毎回顔を出している。
ヒモは未確認ライオットを目指して少しずつファンも増えてきた「結束バンド」の中でもファン1号、2号と並ぶほどのある種古参的な立ち位置となっていた(本人は意識していないが)。
「今日はライブしないよ? ヒモくん」
そんな彼でも練習にまで顔を出す事はない。
「伊地知先輩! 今日、ヒモ先輩には私の個人練習に付き合って貰うんです!」
紐川晶羅はAkiである。何を言っているのか分からない人もいるかもしれないが、彼はネットで活躍する「Aki」でもある。彼の専門はピアノ、キーボードであるが姉の影響でギターを弾く事もできる。ギターヒーロでもある後藤ひとりの
「そっか! ヒモくん、周りと合わせるの凄く上手だったもんね!」
虹夏含めて郁代以外のメンバーは彼が「Aki」である事を知らない。したがって彼がギターも弾ける事を知らない。が、虹夏はひとりと知り合った初めてのライブの時、虹夏とリョウがひとりのギターに合わせられるようヒモが補助的な役割を果たした事を思い出した。未だギターもボーカルも発展途中の郁代。しかし周りの音と合わせる技術に関しては「結束バンド」の中で最も得意。
「(その練習なのかな?)」
と虹夏は納得した。
「(としてもまずは......)」
まずは消滅したひとりを現世に呼び起こす事と、完熟マンゴーからリョウを引きずり出す事が先だろう。
「じゃあいつもみたいに最初は個人で練習して、時間になったら合わせ練習する感じでいいかな?」
「分かりました! 伊地知先輩!」
リョウの首根っこを掴みながら郁代に確認する虹夏。ひとりの降霊術には成功し、既に現世に舞い戻っている。
バンド力を高めるためには個人それぞれの力の向上も必要だ。
「(ヒモくんに教わって喜多ちゃんももっと成長すれば!)」
虹夏の夢にも近づくだろう。
「(本当は私もヒモくんと一緒に練習したいけど......)」
虹夏は胸がチクリと痛んだ事を実感しながらも、しかしヒモがドラムを叩けない事から自らの気持ちを押し留め(誤解)、各自個人練習が始まった。
──────
「二人きりになれましたね先輩」
郁代はバックヤードに入るなり、無言でヒモの唇を奪った。
「私、ずっと我慢していたんです」
そして郁代はヒモに身体を預けた。──お前ら楽器の練習しろ。
「ちょっと郁代、今は外だし誰が入ってくるか分からないから」
「大丈夫ですよ先輩! 誰も入ってきませんから。二人きりですよ」
郁代の色香に酩酊されたからか、ヒモは本能のままに郁代を強く抱きしめる。そして間もなく再び二人は唇を合わせた。
意識が朦朧としていた昨夜とは違ってヒモの意識はしっかりと残っている。
「私、嬉しいです」
二人はぴちゃぴちゃと舌を絡ませ合いながら唾液を交換した。
──────
「ぼっちちゃんやっほー!」
「よし、帰れお前」
「先輩酷いー。昨日も結局来てくれなかったしー」
STARRYに現在
「お邪魔します」という言葉があるがこの女、文字通りSTARRYにとっては邪魔でしかない。
きくりは昨夜ヒモによって中断させられた覚まされた酔いを戻すためにあれからオールで飲み続けていたため、いつにも増して泥酔状態である。事実、ひとりはその酒臭さに思わず鼻が歪んでしまった。
だがしかし、虹夏や星歌の顔にはいつもと違ってきくりに対して「こいつどうしてやろうか」といった事を考える色は見られない。
それもそのはず。今日、この場には彼女の酔いを一瞬で覚ます事ができるあの男がライブの日でもないのにSTARRYに来ていたのだから。
「(この人、めんどくさいし......ヒモ君に追っ払ってもらおうかな!)」
「(今日は晶羅くんいるし、あいつの処理は任せるか。適材適所ってやつだ)」
姉妹はアイコンタクトで会話し、現在郁代と練習しているであろうバックヤードに虹夏は向かった。
「ちょっと郁代、今は外だし誰が入ってくるか分からないから」
「大丈夫ですよ先輩! 誰も入ってきませんから。二人きりですよ!」
「(えっ......)」
虹夏がバックヤードに通じる扉を開けようとしたその時、中の会話が聞こえてしまい虹夏は固まってしまう。
「(ヒモ君と喜多ちゃんってあんなに仲良かったっけ......?)」
虹夏の記憶ではヒモと郁代の間にそこまでの親密度があった覚えはない。ヒモの事を人一倍見てきた虹夏だからこそ断言できる。
同じバンドメンバーである郁代がヒモに対して自分と似たような感情を抱いていた事は知っている。
恋愛は戦だ。虹夏はライバルに対して何か手を打たなければならない場面であったが何もしてこなかった。
それはヒモが自分にも郁代に対してもそういった念を抱いていないという複雑な安心感があったから。
しかし目の前に広がっていた光景は虹夏の中の安心感という秩序をぶち壊すには十分すぎる劇薬だった。
「(今、喜多ちゃんの事「郁代」って......)」
事実、昨日のライブの時は確かに「喜多さん」と呼んでいたはずだと考える虹夏。
「(もしかして二人の時は前からそう......呼び合っていたのかな......)」
もしそうなら、もう虹夏が二人の間に入り込む事ができる余地はない。自分より脈なしだと思っていた相手が、実は自分よりも遥かに意中の相手と懇意にしていた。
両の拳は強く握られ、緩む事はなかった。涙は──出てくれなかった。
「虹夏? 何してんだ? 早く晶羅君呼んであのアホを黙らせたいんだが」
バックヤードに向かったっきり、中々戻ってこない虹夏を心配したのか、星歌が追いかけてきた。星歌の声に反応したのかバックヤードのヒモと郁代は距離をとったように見えた。
「おい開けるぞ晶羅君。......どうしたんだ?」
星歌が扉を開けるとそこには──不自然なほど距離を空けつつ、視線もそれぞれ反対側を向いているという奇妙なヒモと郁代の姿があった。
「い、いえ何でもないですよ!」
「そ、そうですよ! 店長さんこそ、何かあったんですか?」
顔を赤くしたまま、二人は明らかに動揺していたが、今の星歌にとっては
「あのアホがまたぼっちちゃんに絡んでるんだ。晶羅君、追っ払ってくれ」
「人を殺虫剤みたいに言わないで下さい」
星歌のその言葉に、牙を抜かれたが如く、ヒモのそれまでの動揺は鳴りを潜めた。
「その......虹夏、何か聞いてた?」
星歌に言われた通りきくりの元に向かうため、バックヤードから出ようとした時、ヒモは扉の近くにいた虹夏に小声で尋ねる。
「......聞いてたって何を?」
「い、いや何も聞いていないならいいんだ」
虹夏の返答に満足したのか、ヒモは顔を落ち着かせてバックヤードから出て行った。
「......バカ」
虹夏の呟きは誰にも届かなかった。
尚、郁代にとってきくりは恋のキューピッドであるため彼女はきくりに対してあまり強く言えません()
虹夏ちゃんが涙を目尻に浮かべていますが......
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可哀想だから抱いてあげて!
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可哀想だから喜多ちゃんと楽しんで!
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可哀想だから両方描け
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可哀想だから続編とか蛇足だやめとけ
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可哀想だから結果閲覧用