もう数年前の話である。
五車学園初等部の屋上、数日前までは初等部最長年の無法者の生徒の数名…いわゆるチンピラみたいな生徒たちが拠点としていたその場所を蒼月は1人で占領していた。
故郷を滅ぼされた後、自身を救ってくれたアサギの伝手で五車学園にきたもののたった数時間で居場所をなくし、屋上に行ったら礼儀のなってない後輩の躾だとして襲いかかってきた先輩達(笑)を返り討ちにして以降、屋上は彼の教室の代わりとなっていた。
彼はそこで教科書を読み、身体を動かし、アサギからもらった弁当を1人で食べていた。
無論、彼を屋上から引っ張り出そうと教師たちが躍起になっていたが説得すれば逆に言いくるめられ、力技でいこうとすれば返り討ちにされ、保健室送りになるのがオチとなっていた。
そして蒼月が運動をしていると…
「あっ、いたいた。君だよね、双海蒼月君って」
声のした方を見ると、そこに棍を持った女子がいた。
制服を着ているので、五車学園の生徒なのは確実であった。
「俺に何のようだ?」
対する蒼月は私服であり、あたりにゴミを散らかしていて、五車学園初等部の屋上は彼の第二の家のような扱いをされていた。
蒼月は見知らぬ女生徒から少し離れ、右手を彼女から見えないように対魔粒子をこめ、迎撃の準備をしていた…が、
「あなたの力を貸して!凛子や他の奴らに吠え面かかせてやりたいの!」
と蒼月に土下座で頼み込み、彼女が顔をあげると目から涙が溢れていた。
「………」
これには蒼月も哀れと思い、右手にこめていた対魔粒子を霧散させていた。
「……えーと、つまり…」
「凛子の奴、弟や幼馴染ともうチーム組んでるって私たちのクラス内で話題になってたから…悔しくて…チームメイト見つけて戦うって宣言しちゃって…でも皆、私を馬鹿女って言ってチーム組んでくれないから…教師も返り討ちにするあなたのことを聞いて…」
女生徒は涙ぐみながら事の顛末を話した。
凛子…秋山凛子はこの初等部でも相当な実力者として聞いている。
そんな彼女に嫉妬して喧嘩を売った結果、この惨状である。
「確か、チームメイトも実力者じゃなかったっけ?」
「うん、ゆきかぜっていう私よりも強力な雷を操る子もいる」
「はぁ、だからって後輩に頭下げちゃ先輩のプライドも…」
「そのプライドをへし折って!あなたにお願いしてるの!だから組んで!というか組むの!」
「えぇ、まぁ良いよ、実践は重要だって里で教わってるし」
大分わがままなお願いではあるが、蒼月はチームを組むのに反対はしなかった…が、
「良いのか?俺といりゃあんたまで白い目で見られるぞ」
「別に良いわよ、彼女に喧嘩を売った時点で私の運命は決まったようなものだから、あなたといても変わらないわ、それに実力なら…」
と言った瞬間、蒼月は身体をのけぞった、瞬間だった。雷を纏った棍が蒼月のギリギリ上に振るわれていた。
もし避けるのが遅かったら一瞬で黒焦げになっていたかもしれなかったのだ。
女生徒は涙などすっかり忘れたかのように笑いながらいう。
「ごめんね、私の実力を見てもらいたくて。でも凄いでしょ、ゆきかぜって子より威力は落ちるけど、速さと威力調整なら大得意よ、もし調節してなかったらあなたの身体この棍から漏れた雷でビリリッてなってたかもね」
「チッ」
蒼月は軽く舌打ちした。彼女から見れば悪印象だが、何の理由もなく襲いかかったか自分にも非はあると女生徒は納得していた。
「そうだ、あんたの名前を聞いてなかった。名前は?」
「あっ、今聞くのね」
蒼月は今まで忘れていたかのように名前を聞く。
まぁ土下座でチーム組もうと頼むわ、理由聞いたら急に襲いかかってくるわで最悪彼女の名を聞きそびれる所であった。
女生徒は立ちあがり、蒼月を指差しながら言う。
「涼音、緑院涼音よ、よろしくね、蒼月」
これが蒼月と涼音の関係の始まりであった。
とある地下の牢屋の一室。
涼音は現在そこに囚われていた。
彼女もゆきかぜたちを救おうと罠まみれの情報を手にヨミハラに侵入してしまったのだ。
娼婦になることにも反対し、大暴れした結果、危険人物として扱われたため、男たちに穢されることはなかったが、その代わりに冷たい牢屋が彼女の今の寝床になっていた。
それでも、彼女でナニをしようとする男たちは皆返り討ちにあい涼音の調教については何もできずに男たちが肩を落としていたのが数日前の話である。
しかし、今夜開かれるオークションで未調教の状態で売られるということを涼音はついさっき看守の男から聞いて愕然としていた。
「未調教の奴隷も調教しがいがあるとか誰かが言ったのね」
涼音がそう言いながら悲観していると不意に鍵の開く音にビクッとする。
彼女が扉の方を見るとそこにはさっきの看守ではないがおそらく関係者であろう魔族の男がそこにいた。
おそらくオークションで売られる前に楽しもうとする醜い願望でも持っていたのだろう。
「お前、俺の暴れん棒に奉仕しろ、聞けばお前は処女だって言うじゃねぇか、無駄な抵抗はするなよ、したらお前が苦しむだけ……」
そう言いながら男がズボンを下ろしはじめた瞬間、身体中に電撃がほとばしる。
涼音がそんなもん見せるなと言わんばかりに雷遁の術を男に向けて放ったのだ。
男は黒焦げになり、その場に倒れる。
「お前…そんなことをすれば…頭痛が…」
と男が言い終わる前に涼音の頭に痛みが走った。
今、涼音の頭の中にある「イブ」と呼ばれるチップが埋め込まれていた。
これは男たちの卑猥な要求に従わなければ頭痛を引き起こすというなんともご都合主義なものだが今の彼女にとってそれはとても都合の良い状況であった。
涼音は頭を両手で押さえながら、少し不慣れな恍惚の表情を浮かべて叫び始めた。
「あぁ!この痛み!命令に逆らった時のこの痛み!たまらないわ!もっと、もっと命令して!私にこの痛みを堪能させて!」
「な、なんだこの女!?」
と男が叫んだとき、彼女の叫びが聞こえたのかさっきの看守が戻ってきた、と同時に彼女に黒焦げにされた男を取り押さえていた。
「すまない、こいつはまだ新入りでな、お前については何も言ってなかったんだ」
涼音は頭から手を片方だけ離しながら、
「ハァ、ハァ、ハァ……別にいいわ、もっと命令でもしたらどう?」
「嫌だよ、このバカみたいに黒焦げになりたくないからな」
看守はそう言いながら男を引き摺りながら彼女の部屋から出ていった。
扉がガチャリと音を立てたあと、涼音は頭を強く押さえ始めた。
実はこれは涼音の演技である。
演技が得意な蒼月から教わった賜物である。
ちなみに設定は「男嫌いで、痛みに快感を覚えるマゾヒスト」にしているが、
「グッ、アァ」
やはり痛いものは痛い。
演技で誤魔化してはいるが、実際は脳を雷遁で焼き切りたいほどの痛みが彼女を襲っていた。
「お願い、助けて……蒼月」
涼音は牢屋で一人泣き顔で嘆いていた。
ちなみに前半で言ってた戦いの結果はプロットが脳内にあるので今のヨミハラ編が終わればやろうかなと。
ちなみにイブは今後「ご都合チップ」にルビふっていく予定。