今日(2023/01/31)連続投稿しすぎて前振り用の話なくなった。
「地獄ね、私が簡単に落ちると思っているのなら間違いだと言っておくよ」
と同時にサンダーが指を鳴らし、吹き飛んだ筈の雷獣がサンダーのそばに寄る。
先ほどの一撃は致命傷にはならなかったようだった。
「……知ってた。めっちゃ硬かったから一発じゃ足りないって殴った瞬間にわかった」
「そう言うことだ、だから諦め『ドガッ!』」
その言葉を雷獣の前足が遮る。
「嫌な獣だねこいつ、空気の切る音で気づいたよ」
そう言った蒼月は肩で息をしていた。
「先に身をもって体験したみたいだけど、雷獣は音に敏感でね、私から殺すのは不可能に近いよ」
「はっ、まだ推論だけで決めるのは早いと思う、
ぜっ!!」
と言うが早いか蒼月は一瞬でサンダーの懐に……
「グラゥ!」
着く前に雷獣に噛みつかれそうになり、再び元の位置へ戻ってしまった。そして、
(よし、雷獣から殺すか)
と判断し、ダガーを力一杯雷獣の眉間に投げつけた。
「ガルルゥ!」
しかしその攻撃は雷獣が前足で振り払ってしまったが、
「背後取ったどー!」
その隙に雷獣の背中の上で勝ち誇った声を上げた。
「ほぉ、すごいすごい。でもそれで勝てると思ってる?」
「ううん全く、むしろ嫌な予感しかしない」
「正解!」
「やっぱり!」
そう言いながら蒼月が背中からジャンプで離れてコンマ数秒後
「グルルラァァァ!!!」
雷獣が辺り一体に放電を開始した。
サンダーは羽織っていた白衣で身体全体を覆い、ユキカゼを拘束しているスライムも放電に気付きユキカゼを閉じ込め、逃げ出してしまった。
「……やべぇなこりゃ」
蒼月は忍術で天井を床代わりにして放電から逃げ切っていた。
「けどわかったことがある」
「それは何かな?」
「あんたの白衣は絶縁体で構成して、そいつの雷は聞かない。しかし、あんたの身体全体をいくらなんでもその身長並みの白衣だけで覆うのはやや無理だと思った。そしてその白衣以外一矢纏わぬ姿……お前、自分の身体スライムに改造したろ」
「ハハ、正解だよ!はぐれ対魔忍!」
サンダーが元の体を崩しスライムとしての姿を表した。
ドロドロとした身体の中央にコアらしき球体がプカプカと漂っている。
「おいおい、弱点もろ出しでいいのか?殴ってくださいって言ってるようなもんだろ」
「それができればいいと言ってるだろう!」
「!!」
「ガルァァ!」
その咆哮と同時に蒼月が天井から離れた瞬間、雷獣の牙が天井であったものを噛み砕いていた。
「大きな隙を生んだな、Dr.サンダー!」
しかしその雷獣を見向きもせず蒼月は一直線にサンダーの元へ向かう。
「来い!」
その一声と同時に先ほど雷獣に吹き飛ばされたダガーの一本が蒼月の右手に戻ってきた。
「なんだと!?」
「ハァァァッ!!」
蒼月がダガー二本で十字に切り裂いた、が、
「ハッ、残念でした!!」
コアが右上に移動し、仕留めることはできなかった。
「だけど届いた!チャンスを見誤ったな!」
「いや、大チャンスだよ!」
「何、グアっ!」
突如、サンダーのスライムの身体から触手が飛び出し、蒼月の首を絞め始めた。
「ガアッ!グゥ!」
蒼月もは足をバタつかせながらも触手には触らずに頭を動かしふり解こうとしていた。
「ほぉ、この状況でも冷静だな、大抵の人間はスライムを取ろうとして逆に手も使い物にならなくなるぞ」
「グゥッ、アァッ!」
「ただ、それだ、けっ!?」
サンダーが言い切る前に慌ててコアを動かす。
彼がバタつかせた足、いや、彼の腰マントの中から'何か,がサンダーのコアを狙ったのだ。
「しまった!」
「『流遁!
「ガファ!」
敵が作った一瞬の隙を彼は逃さない。
右手を中指のみ突き出して握る中高一本拳の形で突きと同時に対魔粒子を弾丸として放つ荒技により、サンダーはスライムボディでは受けきれずに血を吐きだし、蒼月は首に巻き付いてた触手から離れる形で後ろの雷獣の元に飛び、
「グルォォォ!!」
「バカ!やめろ雷獣!」
「遅えよ!『る遁!震倒滅脚!』」
「グラァァァァァァ!」
蒼月に噛みつこうとした雷獣には対魔粒子を纏った渾身の右足を顎にお見舞いした。
「クリティカルヒット、てか」
「グゥゥ、!?」
無事地に足をつけた蒼月に一本の小型のくないが彼の腰マントの中に入っていくのをサンダーは見逃さなかった。
「そうだよ、すっかり忘れてたよ、そのくないのこと」
「できればずっと忘れていて欲しかったよ、このくないのこと
「確か、双賀の継承者に継がれるくない、だったわね」
「あぁ、『
「フフ、ハハ」
「何がおかしい?」
「いや、おかしいさ、そんなものを持ってでも双賀の血はまだここにあるって証明しようとしてるところを想像してるだけでお前が滑稽で仕方ないなと思ってねぇ」
「……それは想像じゃない、妄想っていうんだよ、俺は俺の人生を生きている。親でもねぇ知人でもねぇお前が俺の人生に茶々を入れるな!」
サンダーの罵倒に蒼月は怒りを覚える。
「入れたくもなるさ!お前の一族、双賀は危険物として伊賀と甲賀の連合との争いに敗れ、初代は行方不明、そして歴史に闇に埋もれながらも同じ忍びからは疎まれ、細々と暮らしながらも隠れ里はエドウィンブラック率いるノマドに滅ぼされ、一族は誰が残ってる?あっ、お前だけか。アハハハハハハハ!ッと危ない、いつの間に」
サンダーが一族の歴史を笑いながら語っているのを蒼月は黙って見ていられなかった。彼女が笑っている間に距離を詰め、対魔粒子を纏わせたダガーを彼女に突き刺そうとしたがコアを移動されてしまった。
「残念ハズレ!」
「舐めるな!このマッドスライム野郎!!」
蒼月が冷静さを絶ち、むやみやたらに振るわれる刃をサンダーは笑いながらコアを移動させ、避け続けていた。
‥‥‥
「達…郎?」
ユキカゼはスライムの中で目をさます。
スライムは最初は研究室の奥に逃げてたが、時間が放電が終わった後、すぐに戻ってきていたのだ。
そしてユキカゼが目覚めてすぐに、ゴオン!と巨大な何かが地面に叩きつけられる音が聞こえた。
「違、アウ…達郎は…アッ、こんな戦、イ、アッ…できな…イ」
媚薬に身体をやられながらもユキカゼは考える。
達郎は自分とは違い、辺りを巻き込むような戦いはできない。先輩の凛子も一緒に奴隷に堕ち、自分達を助けるために戦った緑院も捕まったとサンダーから聞かされていた。
「まさか、アヒャ」
「舐めるな!このマッドスライム野郎!」
彼女の目の前ではそのまさかが今、サンダーのコアを狙い、ダガーを振るっていた。
「ダ、メッ…蒼げ…」
その言葉はスライムに首の後ろを叩かれ、途切れてしまう」
「ダメ…彼女は…あなたの…弱…み」
ユキカゼはふたたびスライムの中で媚薬に犯されていた。
‥‥‥
「オラァ!」
「グッ!」
(今だ!この一撃で!)
何度も攻撃を浴びせたことで体勢を崩したサンダーの隙を狙い、蒼月がコア目掛けてダガーを刺しに行く、だが……
「お前の目的は、こいつだろ?」
「?!ユキカゼ!?」
蒼月は急ブレーキをかける。サンダーが触手を使って自身のコアの前にユキカゼを持ってきたからだ。
(姿勢を崩した!やばっ……)
「そこだっ!」
蒼月が姿勢を取り戻す…前にサンダーから伸びた触手が数発、防御しようとした彼の身体を殴りつけていた。
「『サンダラー』……吹っ飛べ!」
最後の一発が蒼月の胸部にボキッ、という音を残し後ろに吹っ飛ばした。
「ガッ!」
しかしまだ終わらない。
「雷獣起きろ!雷撃弾をぶちかませ!!」
「グルゥゥゥ!」
その声と同時に雷獣が目覚め、口に大量の電気を溜め始めた。
(不味い!)
蒼月が足を振り、腰のマントから比翼十番を四本放ったがまるで効果がなかった。
「やれっ!」
そして雷獣の口から放たれた雷球を蒼月は避けきれず……
「グァァァァァァァ!!」
直撃した雷球と共に後ろのエレベーター近くまで吹き飛んでいった。
‥‥‥
「ハァッ、ハァッ、自分の肉体以上の速さで殴るのは負荷がきついね」
サンダラー……雷神を意味する名であり、早撃ちの名手とされたアウトロー、ビリー・ザ・キッドの持っていたリボルバーもサンダラーと言う名である。
サンダーはスライムの身体を使って生み出した大量の触手を、手練れの対魔忍すら認識不可の速さで何発も打ち込んだのだ。
しかし、数多の触手を同時に、しかも認識されないほどの速さで打ち込むのはやはり負荷がかかるため、これを使えば流石にインターバルが必要になり、歩くのも辛くなる難点があったが、それでも勝つ自信はあった。
「助かったよ、ユキカゼ君」
「アッ、アッ」
「おや?目覚めてたか」
ユキカゼは気絶するまで見てた景色と目の前の惨状を見て理解する。
「蒼月、そんな…」
「アハハ、私だけの力じゃないさ、お前と、お前の息子のおかげで私の評価は鰻登り確定だよ。」
「あぁ、ごめん、達郎、凛子先輩、涼音先輩、蒼月、ごめん、みんな私の、私のせいで」
ユキカゼの目からは涙がこぼれ出ていた。
幼馴染でありずっと恋してキスだけの関係ながらも愛していた達郎、いつもアドバイスをしてくれる心優しい先輩だった凛子、そしていつも凛子に喧嘩を売っていたものの雷の扱い方はピカイチだった涼音、自身と達郎の関係を応援し続け、余計な茶々を入れながらもデートプランを考案してくれた蒼月、みんなの顔を思い出す。
母を助けるために、凛子は自分と共に奴隷に堕ち、宿敵に処女を散らされ、達郎を裏切り、そして自分達を助けるためにヨミハラに乗り込んだ涼音や蒼月も全て…全て、
「君の『せい』?違う、君の『おかげ』だよ、私は君のおかげで実験材料を得れるし、あいつは裏社会では賞金首だからねぇ、これで功績も金もみんな私のものになる。感謝するよ、ユキカ……」
ブー、ブー、ブー、
サンダーのスマホが鳴っていた。
「あっ、もしもし、誰だ?」
『ハハ、今にも瀕死なはぐれ対魔忍でーす。ガハッ、スマホは奇跡的に生き延びましたー』
「チッ、死に損ないが、どうやってこの番号を知った?」
『部下のスマホから、ハァ、ハァ、後さ、俺もうすぐ死ぬからさ、最後にユキカゼとその息子に残したい言葉があるの、変わってくれない?まずユキカゼから』
「いいだろう、情けない遺言を残させるくらいの余裕はあるさ、私に必要なのはお前の首だからな、おらユキカゼ、あいつからだ」
サンダーがユキカゼの手にスマホを投げ捨てた。
「蒼月、ごめん」
『いいんだよ、謝んなくて…君ねぇ、フゥッ、引くって選択肢は後回しじゃん?もういい歳なんだからあの時みたいに言いよる女子をバンバン吹き飛ばすのはやめとけよ、そうしないと、幸せの神様にピューっと逃げれって言っちまうぜ?』
「蒼月…」
「ハッ、何元カレの話ししてんのやら、早く返せ」
「あっ、」
サンダーがユキカゼからスマホを奪い取る。
「お前バカか?何元カレの話ししてんの、あいつはオークと人間の混ざり物みたいな男達みんなの雌豚になってたの、もうユキカゼは戻れないのよバァーカ」
『君に遺す言葉はないよ、早くユキカゼの息子に変わってくれ』
「ふん、雷獣、さっきのバカがお前に遺す言葉があるんだとよ、きちんと聞いてやりな」
「ガル?ガルルゥ」
雷獣は何やら口をモゴモゴさせながらもスマホに耳を傾ける。
『フッ』
(今、笑った?まさか!)
『雷獣、嫌な予感がする!奴を仕留めろ!エレベーター前だ!早くしろ!』
「しまった!」
雷獣はスマホから聞こえたサンダーの声…いや、蒼月の彼女そっくりの声で発せられた命令に従い、蒼月を仕留めにエレベーター前までの廊下に向かって走り始めたが、
「やめろ雷獣!そこには大量の地雷が!『ドカァン!』」
「グルオオオ!」
サンダーが止めるも間に合わず、前足で地雷を踏み、雷獣の踏んだ足が焼け爛れていた。
(私の言葉に忠実な所を逆手に取られた!)
「ガルルルォォ!」
「雷獣止まれ!罠だ!」
『止まる訳ねえだろ、引き寄せろ!比翼十番!』
その言葉がスマホから聞こえると同時に、雷獣の口の中にいた比翼十番が突如吹き飛んだ蒼月の元に引き寄せられるように飛び出した…だけでは終わらない。
「ガルッ!?」
いつの間にか雷獣の上下の歯の間には糸が巻きついておりその先は四つのくないに繋がっていた。
「ガルッ!?ガルルゥゥゥ!」
「おいどうなっている?何が起こっている!?」
サンダーは後ろから雷獣の惨状を見ているため、今の言葉だけでは理解が及ばなかった。
その間にもくないに引っ張られるごとに雷獣が地雷の餌食になっていく。
(ハメられた!しかも罠の多さが仇になっている!)
「貴様、どういうことだ!?何故雷獣が引っ張られてる!?」
『ハハハハ!比翼十番は俺の手足として操れるくないでな!だがしかし!その真骨頂はその名の通り二本のペアが十個ある!俺が命令すれば対魔粒子を使わずにもう片方の元に戻るわけ!こんなこともあろうと巨大な獣すら振り解けない糸をくくりつけてた甲斐があった!だからくない何発も打てなかったわけよ!それが歯の一本一本の間に挟まってるわけ、そいつ鳴いてたか?獣の上にまだ赤ん坊だったのが不幸中の幸いだ!ちなみに俺は怪我はもう治って雷獣ぶっ飛ばす準備中!』
「お前…あんな巨大な獣でも…まだ赤ん坊だぞ」
『…知ってる、ユキカゼの子供だろ』
「そうさ!なら…」
『なら尚更ぶっ飛ばす。ユキカゼやみんながこの先、闇を抱えないように、その獣も、そいつの親候補も、そしてその元凶も、そして…ユキカゼを実験動物のように扱うお前もな』
その言葉を最後にプツンと電話が切れた。
「クソッ!だったらユキカゼを盾に…いない!?どこいった!?」
‥‥‥
「ガルルルァ!」
雷獣は吼えていた。
歯に挟まった糸、その先のくないに引っ張られるごとに爆発する自分の身体を、まるで痛いと叫ぶように、
「悪いな、ガキンチョ、俺も…俺のために動く性質でな、ユキカゼにあんな辛い思いはもうさせたくないから、だからヨミハラのみんなに関係する全て……俺が消す!」
蒼月は右手を再び中高一本拳の形に握り雷獣の懐に入る。
「ガルァァァァ!」
「『流遁!発破頸殴!』」
蒼月の拳が雷獣の腹部に打ち込まれた。
「まだまだ!近距離で当てりゃあ…」
「ガルゥゥゥゥ!」
「波動のこもった、二撃目だぁぁぁ!」
瞬間………
「グラァァァァァァァァァァ!!」
轟音と共に雷獣がエレベーター前からどんどんと吹っ飛んでいき、
「ヒッ、待て雷獣!止まれ!止まれぇぇぇ!ぎゃあああああああ!」
サンダラーのインターバル中な上、ユキカゼを探していたために、逃亡の遅れたサンダーをも巻き込み研究所奥まで吹っ飛んでいった。
‥‥‥
「ガフッ、ガッ、バッ、そん…な……私の…栄華…私の…金……が」
サンダーのコアは雷獣と壁の間に挟まり、粉々に砕け散っていた。
「嫌、シ…死に、たく…ない……助、け…」
何もかもを自分の思い通りにしようとしていたマッドサイエンティストのスライム状の身体は既にドロドロに溶けていた。
エレベーターからの通路の途中
「ユキカゼ、そこにいたの!?巻き込まれなかった?」
「巻き込まれてたら、今頃、向こうでドクターと同じ目に遭っていたわ」
「まっ、そうだよな、地雷はあいつが引き受けてたから大丈夫と思うけど….急ぎながらも少し警戒していこう。まだ残ってたらいけない」
「わかったわ、こういう所はあんた頼りにしてるわ」
「あいよ、探知も俺の取り柄だからな、後、これも忘れないようにっ!」
「っ!?」
蒼月が通路の先に動物が威嚇をするように流遁のエネルギー波を放出した。
「大丈夫なの!?そんなに力を出してまだ任務は終わらないかもしれないのに…」
「お前、俺をなんだと思ってやがる。まだまだ余力はあるわい、まっ、今の一発も時間短縮として放っただけだし」
「?」
そんなこんなで蒼月とユキカゼは先ほどまで戦闘があった場所まで歩いて行くことになった。
「いやぁ、しかし暗号すぐわかってくれて助かったわ」
「ええ、『引く』『吹き飛ばす』『逃げれ』でしょ、あなたいくら遺言でもあそこまで露骨な擬音出さないでしょ、だからその前後に注意して聞いてたわ」
「ハハッ、もうそこまでの仲だったんだな俺ら」
「ええ、だからこそあんな雷、あんたにとっては致命傷にはならないと思ってたから、そもそも遺言自体おかしいと思ったのよ」
「あぁ、だけどサンダラー?つったっけ?あれで肋骨やっちゃってたから、それ直してて…その間、あいつに酷いこと言われなかった?」
「言われたわ、銃があったらすぐに撃ってた」
「はは……そんな元気があるならアサギさんやみんなも喜ぶと思…」
「達郎は?」
「……あ…」
蒼月は言い淀んだ。今の彼のことを話せばユキカゼは絶対に壊れる。だからこそ、この話しは口が裂けても言えないことである。
「あ…あいつは…」
「いい…言いたくないならいいわ、蒼月」
「すまない、でも今はこれ以上にお前にできることがない」
「いいわ…だけど少し…身体、貸して」
「あー身体って、え?か、身体?!ちょっと待て!お前には達ちゃんが……」
そう言い終わる前ユキカゼは蒼月に抱きつき…
「蒼月ごめん!私のせいで凛子先輩や涼音先輩が!達郎が!みんな!みんなごめんなさい!ごめんなさい、あぁ!あぁぁぁぁぁ!」
今までの思いを蒼月に吐露しながら、泣きじゃくっていた。
(あぁ、'拠り所,としてか…)
蒼月が学園にいた頃はよく同い年の実力者としてユキカゼから進展しない恋バナを聞かされては彼がアドバイスをしていた仲であった。
(だけど、だからこそ…)
蒼月が歯軋りをしながらもユキカゼの泣きながらの謝罪は止まらない。
「全部、何の対策もしないで娼婦として潜入した私が悪いの!あなたの恩人の涼音先輩や友達だった達郎まで…」
「もういいユキカゼ!お前は助かったんだ!これ以上自分を苦しめるな!この惨劇はお前のせいじゃない!人をモノとしか見ないあの人間未満の豚野郎共だ!…もう泣くなユキカゼ、凛子さんや涼姉は俺が助ける!だからお前は……寝ていてくれ」
「え?蒼げ…」
瞬間、ユキカゼは首の後ろに衝撃を感じ、意識が朦朧とし、それが蒼月の仕業とわかった瞬間には目を開いたままには出来なかった……
‥‥‥
「……しまった」
いくらユキカゼを止めるためとはいえ、思いっきり意識を刈り取ってしまい蒼月は軽く後悔したが、
「だけどこれで心置きなく『治せる』。起きたままだと……少々恥ずかしいからな」
赤面しながらそう言うと彼はユキカゼの下腹部に手を置き、流遁の対魔粒子を体内に送る。
するとユキカゼの体内で変化が起こる。
かつて矢崎に破れた破瓜がみるみると再生していき、蒼月が指の先のみを下腹部に置き、下に移動させると白い玉のようなものが彼女の膣から服の隙間を通って出てきた。
「……豚の精子多すぎだろ」
そう言いながら蒼月は近くの瓦礫を投げつけ、白い玉はぐちゃぐちゃになった。
「後は……ユキカゼ、お前の記憶、少し消させてもらうよ、俺には今、これ以上のことはできない」
そう言いながらユキカゼの頭に手を当て消す記憶はヨミハラの潜入任務のこと全てである。
娼婦として潜入した記憶、調教された記憶、妊娠した記憶その全てを彼は右手一つで消したのであった。
「…ふぅ、結構対魔粒子使ったなぁ」
と同時にプルンプルンという音が通路の奥から聞こえ、蒼月の前に現れた。
「ん?おっ、来た来た、良かった、君なら来ると思ったよ、媚薬スライム君」
そこにはユキカゼを拘束していたスライムがプルプルと震えながら、サンダーの日誌のようなモノを持ってきていた。
「そんな怯えないでよ、殺気だしたの謝るから。けどよかった、馬鹿な獣はすぐ逃げ出すけど君、随分と利口だね。そうそう、こういうのが欲しかったんだよ、頂戴」
スライムは利口と言われ、喜んだ。
いつも自分に命令ばっかりで失敗すれば、ユキカゼを抜き出して、雷獣の雷撃弾の餌食にしていたあのドクターとは違い、彼は言われたことをすれば褒めてもらえる。
そう思いながらスライムが日誌を渡すと同時に……ザンっ…と、一振りで、コアを斬られていた。
「ごめんね、関係者はなるったけ殺す許可もらってるから、獣も人もスライムも同等に、ね」
その言葉がスライムの最後の言葉となった。
「さて…」
蒼月がページを捲り、今日の予定のところを見ると…
「?何々、ホテルで常連様限定オークション、商品一覧が、んーと…対魔忍、緑院……涼音、嘘だろ、涼姉」
商品一覧にある自身の仲間の一人であった彼女の名を見て彼は驚愕した。
しかし、そこ以外にも驚く所はある。
「時間時間……げっ、あと30分もない!」
戦いを終えて現在7:30ちょっとすぎ、オークションの始まる時間は8:00であるため、すぐに行かなきゃいけないがそうするとユキカゼの保護に回れない。
「アサギさんやさくらさんは裏世界で名を知られてるし、かと言って他の五車の忍びだったら信用されないし…というか奴らの電話番号知らないし……よし」
‥‥‥
「だからさ、その…ユキカゼの回収をさ…お願いしたくて…」
『あのさぁ、なんで私が?って言うかあんたが持ち帰ればいいじゃない』
蒼月の頼みに電話先の女性はイライラしながら答えていた。
「それがそうもいかなくなった。涼姉がやばい状況になってる」
『まぁ忙しいのは把握、だけどそんなの
「頼みたいのは山々だけど、暫くは仕事が立て込むから連絡するなってメール、お前にも送ってない?」
『ん?ああ、送ってたわ。でもなんで私なのよ?アミダハラにいたあんたにアサギの依頼、言伝したのあいつでしょ?』
その返答に蒼月は頭を抱えながら、
「勘弁してくれよ、その時めっちゃ不愉快そうにアサギさんの言伝送ってきたもん」
『なるほどね………とするとあんた今ヨミハラにいる?今対魔忍の間で話題になってるのってヨミハラのあの件だけど』
「んっ、そうだけど……」
『それにさ、リーアルも標的に入ってる?』
「リーアル……矢崎の弟だ。もちろん入ってる…何か因縁でも?」
『物凄いある、聞いてほしい』
「もしかしてこないだ来た時、馬がいなかったのと関係ある?」
『もちろんだ、依頼を受けてヨミハラで流鏑馬をやったんだ。結果は好評だったけど、奴らその後私を夜の奉仕に誘いやがったんだ、私は男にかまける女じゃないとそれを断ったら…撃ち殺されたんだよ。何の罪もない馬を……』
(あっ、やべ…これ完全に怒ってる)
『本当は殺したかったけど私の本領は遠距離戦!しかも護衛が多かったから逃げてきたけど、あの馬は人懐っこい奴だった!それを奴ら、自分の思い通りにならなかったら撃ち殺す!なぁ蒼月凄いよな、銃って…権力者が持ったら自分のわがままを通すための道具だぞ!私はそれが気に入らないんだ!蒼月!リーアルの護衛と奴のタマは私がぶっ殺す!ユキカゼって奴の場所を言え、今言ったのを条件にすれば引き受ける!』
「わかったよ……ヨミハラの一際離れた通りに残骸まみれの研究所みたいな所がある。そこの瓦礫を崩さないようにしてユキカゼをその中に置いておく、俺はやらなきゃいけないことがあるから」
電話先の狂気と怒声の混じった交換条件を聞き、蒼月は犠牲になりかけた右耳を抑えながら答えた。
「今から何分かかる?」
『それなら今すぐ準備してヨミハラに行くから……4,50分だ』
「OK、辺りに幻影作って一般人には見つからないようにしておく」
『わかった。しかし災難だなお前も、あの件でへまやらかした対魔忍どもの尻拭いをするとはな』
「……へまなんて俺も死んでもおかしくないほどのへまをしたさ、だけどな、ユキカゼは死ぬよりも辛い目にあったんだ、だからこそ……」
『その元凶を殺す、お前らしくていいじゃん』
「理解が早くて助かるよ、それじゃ頼むよ……
「ああ、任せろ」
ピッ、と電話を切る。
「クッ、アハハ、ハハハ」
日本のとある山奥、弓の道場が隣にある昔ながらの日本家屋の中で彼女、
「そうか、奴も殺せるのか、あいつらも暴れすぎたな、私と蒼月の両方を敵に回したこと、この現世と地獄で嘆かせてやるよ」
十数本の矢が入った矢筒を腰のベルトにつけ、愛用の剛弓、『
‥‥‥
「リーアルとその護衛は殺すな…ねぇ、まぁ俺は涼姉の救出と関係者の殺害が目的だし、護衛の何人かをあいつが殺しても変わんないか」
そう言いながら瓦礫で隠したユキカゼの方を見る。
「ユキカゼ、ゆっくりと寝ていてくれ。その間には…全てが終わってるからな」
蒼月はそう言い残し、目的のホテルへと向かう。
「矢崎のクソ豚野郎やそいつの関係者を」
「あの貴族ぶったオークリーアルとその護衛どもを」
「「全員殺す!」」
二人の目は、この惨劇の元凶である二人の兄弟への復讐心で染まっていた。
前振りはもうないが後書きにはたくさん言うことあり。
1蒼月の技
彼の技名は主に四字熟語になっている。
『発破頸殴』いわゆる「発勁」を頑張って四字熟語にした。最後の二文字は「KO」という意味も込められてる。文中で中高一本拳の形とあるがあれは空手の拳の型、ただグーにするよりも衝撃が一点に集中するため波動を弾丸のように撃つのであれば効果的。読んでて良かった。「武装少女マキャヴェリズム」
「震倒滅脚」文字通り「心頭滅却」から。足に破遁を纏うため業火の中でも蹴れる優れもの。ただし足以外の火傷に注意