はぐれ対魔忍も今年中に出せればいいなと思っています
「何の冗談よ!?あいつがただの研究者如きに負けるはずがないわ!」
先ほどから始まっているオークションの商品の保管されている倉庫のような場所で腕を縛られている涼音の声が響きわたる。
「そうは言われましてもね、Dr.サンダー様がわざわざ奴の首を連れてきたって言うんですからこっちも驚きなんですよぉ」
ナブールの部下たちがニタニタと笑いながらはぐれ対魔忍の首を涼音に見せびらかしていた。
「あぁ、嘘……」
「おいお前、いつまで奴に見せびらかしている?そろそろ出さなきゃいけないんだぞ」
「おおそうだった。じゃあな、無知な対魔忍さん」
「そんな、あぁ、あああ」
男たちはギャハハと笑いながら首を会場に持っていく背中を泣きながら見送……
「なんてね、蒼月はあんな顔してないし。どうせそのドクターとやらになってるんでしょ。あいつらしい」
ったのはたったの数秒、男たちが会場入りした瞬間には呆れ顔でぼやく涼音の姿があった。
「でも問題は……」
自分の頭にご都合チップ
「ま…痛みが来るのは男の命令を聞かなかった時のみだからね、せめて売られるまでにできることでもしておくから…へましないでよ、蒼月」
「それでは、こちらのクリスタルは9800万での落札になります!皆様、こちらのお客様に盛大な拍手を!!」
「「「「「おおおおおおおっ!!!!」」」」」
「やったぞぉぉぉぉ!!!」
ナブールの司会に煽られた客たちも咆哮のような声はオークションが始まってから収まることを知らなかった。
「ふむ、今クリスタルを買った男は……おお!あの保険会社の社長か!おい、奴をこちら側に引き入れろ!兄貴のいい後ろ盾になってくれるはずだ!」
「はっ」
リーアルの命令を受けた黒服が一人、VIP席から離れていく。
「引き入れる、ね。それってあの社長に拒否権あると思う?」
「ありませんね。このオークションもリーアル様の主催ですし、契約書も顧客情報も全て筒抜けです」
サンダーの問いに凛子が淡々と答える。あの社長にとっては衝動的なショッピングのような感じであろうが、裏社会の人間にとっては立派なカモとしか見られていなかった。
「問題ないさ、明日から奴の仕事が一つ増えるだけだ。この私を宣伝するという立派な仕事がな」
「後は政治資金の寄付かしら?馬鹿にならないでしょ、出るだけでもお金を取られる上に宣伝費も自分持ち、それで受からなかったら全部パァ、だもんね」
サンダーがパァ、と同時に右手を開いたその態度に矢崎とリーアルが席を同時に立つ。
「サンダー、貴様失礼だぞ!」
「まるで私が落ちるみたいな事を言いおって!」
「ッ!!」
サンダーが気づいた瞬間には凛子の刀が首まで後数ミリの所まで迫っており、慌てて両手を上げ、弁解を始める。
「ちょっと!?ストップストップ!今のは私の本意じゃないです!警告ですよ警告!あの対魔忍、どうやらユキカゼを救出した後に矢崎様を表舞台から引き摺り下ろす算段を立ててたみたいなんです!」
「なんだと!?なぜそんなことを貴様が知ってる!?」
「あいつの持っていたスマホです!興味本位で調べていたら矢崎様の情報が事細かく調べられており、政治資金の流用や裏の奴らとのつながりを演説中にばら撒こうという計画を立てており……」
「ほう、なるほどな。兄貴、サンダーにはとことん感謝するんだな。はぐれ対魔忍が生きていれば政界での立場を失うところだったな」
「グゥゥ」
サンダーの言葉に納得したリーアルは溜飲をさげたようだが矢崎は納得がいかないという顔をし続けたまま、サンダーに忠告する。
「だがな、サンダー。それを差し引いてもY豚の件で俺を怒らせておきながら、その態度はなんだ?まだその態度を続けるなら緑院の件はなしにそのまま男供の部屋に放り投げても良いんだぞ」
「は、はい……申し訳ありません」
「?兄貴にしてはつっかかるな……まあよい、凛子、刀を下ろせ」
「ハッ」
凛子が刀を鞘に戻し、サンダーもホッと息を吐き出しながら両手を下ろした。
「だが兄貴も兄貴だ。油断が多すぎる。凛子とユキカゼの件から対魔忍供が俺たちの周りをうろうろしていたし、挙げ句の果てには関係者が何人もはぐれ対魔忍の毒牙にかかっていたのだぞ、つきすぎた力も困りものだな」
「なんだと利二!!場所変えるぞ!お前のその兄に対する口の聞き方を叩き直してやる!!」
「あ、兄貴!?」
「リーアル様!?」
「ついてくんな!殺しはしない!そこでサンダーを監視しろ!次の商品はグリフォンだからな、俺たち持ちで勝手に買われたら面倒だ!」
凛子の同行を制止しながら、矢崎はリーアルと黒服たちを連れてVIP席を離れてしまった。
「………買いませんよね?」
「いらない、それよりあの二人についていっても?」
「駄目です。話しが長くなる可能性もありますので。グリフォンの次ははぐれ対魔忍の首が出品されますのでその時の挨拶の際にいないと困ります」
「はぁい」
(挨拶って…政治家じゃないんだから……)
はぐれ対魔忍の首が出品された時の挨拶というのはオークションの途中で急に決まったことである。矢崎曰く「はぐれ対魔忍の首を獲ったサンダーの威光を示し、研究の出資者を増やしてもらうのが目的」らしいとのことだが…
(クッソ怪しい、まさか正体に勘づかれた、とかじゃないよな。さっき本音を言いかけたから疑われたか?)
「アハハハハハ」
ホテルのトイレの個室の中でリーアルの笑い声が響く。
「何をいうんだ兄貴?彼女の正体がはぐれ対魔忍だって?」
「笑い事じゃねぇぞ利二。俺は協力者から情報を得ている。サンダーはすでに殺されて奴がすり替わっている。あいつはサンダーに化けて俺たちに取り入りながら今夜出品される対魔忍を救出した後、俺たちを殺す気なんだよ。それに、これも見てもらえばわかる筈だ」
「ん?…!?」
そう言いながら取り出されたサンダーのコアにリーアルは目を疑いながら、矢崎と目を合わせた後、ニタリと笑う。
「どうした利二?」
「いや兄貴、だとしたら軽いボディータッチのつもりで身体を探ればいいじゃないか。そこから暗器が見つかれば…」
「馬鹿!こうやって誘いながらこの話しを奴に聞かせないような細工をするだけでも精一杯なんだぞ!この時点で奴に怪しまれているのが目に見えているぞ」
「じゃあどうするんだよ兄貴?まさかあの対魔忍が奴を解放した後だと手遅れだぞ」
「ああ、だから前もって手はうっておいたさ。だからお前は………」
「ただいま戻った。凛子、オークションの様子を教えろ」
「ハッ、先ほどグリフォンが3000万で落札されました。」
「今までより短かったわ、価格提示も二桁いってたかしら?」
「あの大きさの魔獣なら餌代などが馬鹿にならないというのもありますが、次の商品が商品ですからね。サンダー、挨拶をお願いします」
「はいは………よ、よろこんで言わせていただきます……」
再び軽口を叩こうとしたサンダーの横目にリーアルのジト目と矢崎のVIP席から出るか?というジェスチャーが写ったため慌てて言い繕っていた。
「!始まりますよ。はぐれ対魔忍の首のオークションが!」
凛子の一声に三人がステージに目を向けるとナブールが壇上で両手を広げ、客たちも声を上げる準備をし始めた。
「さて……お待たせしました。今宵の目玉商品の一つ!遂に!遂に!遂に!奴に恨みを晴らす時が来た!なぜ奴は対魔忍を名乗るのか?なぜ奴は顔を隠し続けるか?その理由はただ一つ、奴隷娼婦となった数多の仲間たちを救うため!」
(おいおい、俺はユキカゼと凛子さんしか救う気ねえよ!他のやつは結果的にだ!結果的に!)
本人が内心でツッコミを入れながらもナブールは声を荒げる。
「だが!だがしかし!奴は遂に討たれた!そこのDr.サンダー様の手によって!」
ナブールがVIP席に手を伸ばし、スポットライトがサンダーに浴びせられた。
「はぐれ対魔忍にとっても一人の対魔忍の命も落とせぬ展開、しかし……」
「ねぇ、そこは私に言わせてよ。折角の私の武勇伝、あんた伝いじゃ嫌だし私から言いたいわ」
ナブールの声を遮るようにサンダーが口を開いていた。
「サ、サンダー様!?……い、いいでしょう、本人の前で当事者でもない私がこのことを言うのは無粋なもの。それでははぐれ対魔忍と戦った時はどうでしたか。サンダー様?」
ナブールは最初こそ動揺していたもののすぐに落ち着きを取り戻し、進行を続けていた。
「接戦だったわよ。あいつ雷獣の攻撃ピョンピョン跳ねながら、私を殺そうとしてたのよ。でも、目的は私の研究材料だってわかってたからそいつを盾にしたらあいつ、うっかり殺しちゃったのよ、そこで動揺した彼に一発。あいつも人間、仲間を殺したという後悔が起こした油断は見逃さなかったわ。あなた達、感謝なさい、あのいけすかない野郎の首をはねたのはこのDr.サンダーだとね!」
「「「「「オオオオオオオオ!!!!」」」」」
「やっとあのやろうを甚振れるんだ!」
「サンダー様!サンダー様!」
「やっと夫の恨みを晴らせるわ!サンダー様!」
Dr.サンダーが語った偽の顛末にオークションの客たちが歓喜の声を上げていた。
「いい歓声ね。あぁ、いいことを思い付いたわ。あいつの首に一億以上払うって人がいたらね、最高額のやつには特別に!研究のために保管している奴の身体も、調べ尽くした後にそいつにくれてやるわ!」
「サ、サンダー様!い、いきなりそんなこと!?」
「身体もつけるだって!?」
「首だけじゃないの!?」
「時間はかかるみたいだが、奴の身体も付けると確かに……」
瞬間、
「「「「「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォッ!!!!!」」」」」
観客席から溢れたのは歓声ではなく咆哮であった。
「み、皆様!?落ち着いてください!まだ奴のオークションは始まったばかりですよ!?」
ナブールが慌てて観客たちの咆哮を抑えている中、席に戻ったサンダーの隣ではリーアルが手を叩いて喜悦の声をあげていた。
「ハハハハハ、サンダー君が自らがオークションを盛り上げてくれるとは」
「兄への軽口のお詫びよ、ここまで煽っとけばあんたにとっても儲けものだと思ったけど……どうかしら?」
「それはこの競りを見ればわかるさ」
それと同時、観客席から溢れていた咆哮が止み、ナブールの疲労混じりの声が届いた。
「そ…それでは、ハァ、ハァ、はぐれ対魔忍の首の競りを……始めたいと、思います。まずは、いっ、1000万円からです。それではオークション、スタート「5000万!」「6500万だ!」「9000万よ!」「9500万!」「1億だ!奴の身体をわしの犬の餌にしてやる!」はい!1億が来ました!さて、これ以上の額を出すものはいるのか!?それとみなさん!価格の提示は値札を挙げてからです!おっとここで72番!」「1億5000万!」
「1億5000万!1億5000万!おっと値札を挙げる手は収まらないぞ!」
オークションが始まって数秒足らずで始まった価格提示ラッシュを捌きながら進行するナブールにはサンダーも感嘆の声をあげていた。
「いい盛り上がりね、彼が司会でよかったわ。10億もすぐかしら?早くこのお金であの対魔忍を買いたいわ?」
するとリーアルがサンダーの発言に異論を呈しはじめる。
「サンダー君?何か勘違いしているようだけどこの売り上げの二割は私たちやこのオークションの関係者に払われるものだよ?だから君が使えるのは残りの八割だけだよ?」
「あっ……忘れてたわ、オークションなんて久しぶりで頭から抜けてたわ」
(これで涼姉を取り戻せると思って頭から抜けてたわ)
「全く、全額貰えると思っていたのかお前は…」
「!そろそろオークションが終わりますよ」
「さぁ、三十億!三十億!これ以上値札を上げるものはいないのか!?いないのか!?………落、札!!!はぐれ対魔忍の首は!三十億という!破格の値段で4545番のお客様が落札されました!皆様、彼に盛大な拍手を!!」
他の客達からの拍手を受けながら席を立った4545番の参加者は一目散に首の元に駆け出し、一発、二発と拳を振り下ろしていた。
「あぁ!お客様、まだ取引は済んでないのですよ!」
「それがどうした!?金なら俺の客席だ!折角あんな大金を支払ったんだ!!競り勝った時からこいつは俺のサンドバッグ確定だよ!このクソガキが!こんな奴に!俺の商売が滅茶苦茶に!されたんだ!」
「だ、誰か!か、彼を止めて!落ち着かせて……」
「あはは!すごい人が落札した!あはははは!」
「……君、24億、次の競りにまとめて出すと伝えておけ」
「ハッ」
下の騒動を足を振りながら笑うサンダーを横目にリーアルは部下に命令をだし、下がらせている中、矢崎は席を立つ。
「用を足しに行ってくる」
「あんたまたぁ!?ヤリすぎで尿道ガバガ……なんでもありません、矢崎様」
三度の軽口を今度は自分から戒めているサンダーを睨みながら矢崎がリーアルの護衛と共にVIP席を離れ、オークション中に用を足して戻ってきたであろう一人の男に声をかける。
「君、先程は残念な結果に終っていたな。」
「ああ、はぐれ対魔忍の首だなんて俺もサンドバッグ代わりに欲しかったもんだぜ、だからその分、次の女奴隷で憂さ晴らしをさせてもらうさ」
「その女奴隷をサンダーが買おうとしている……としたら?」
「何?」
「君が先ほどまで出していた最高金額は20億だ。しかし残念なことにサンダーはそれ以上の額をはぐれ対魔忍の首と身体で得たのだよ」
「つまり……何が言いたい?」
「これだ」
「矢崎はスーツのポケットからあるものを取り出し、男に渡す。
「小切手?」
「ああ、10億入っている。これでも奴に負けたのなら……これだ」
「!?」
男が驚くのも無理はない。矢崎からなんの躊躇いもなく渡されたのは……サイレンサー付きの拳銃であった。
「何、撃ってすぐに逃げればいい。ここは人間の法の届かぬ裏世界だ。その住人が一人死んだところでこのオークションにとってはいいサプライズだ」
「………あの女もおれのものになるんだな?」
「ああ、時折私達にも味見をさせてくれるのであればな」
「………」
その言葉を聞いた男の口角はヒクヒクと震えていた。
オークション会場
ここでははぐれ対魔忍の首(偽物)を殴り続けていた男がやっと諌められ、関係者が奥を引いている内に、手錠で拘束されている涼音が男たちからの品のない罵声や女たちからの蔑みの目線を受けながらも凛とした姿で会場に立っていた。
(Dr.サンダー…いえ、蒼月。この錠を解いたら後は……私の番よ)
彼女の目はVIP席のサンダーのもとに向けられていた。
それを不愉快そうに見ていたのは先ほど矢崎から小切手と拳銃を受け取った男である。
(あの女、VIP席の方ばかり見やがって!俺には奴から貰った金があるんだ!これで貴様を俺のものにしてやる!)
そして先ほどの男を止めるために会場から離れていたナブールが戻ってきた。
「ゼェ、ゼェ、あいつ、やっと殴るのをやめてくれた。ハァ、ハァ、止める俺たちの身にもなれよ、ったく…っと、皆様、取り乱してしまい申し訳ありませんでした。それでは!今日のオークション最後の商品であり、激レア商品のオークションを始めたいと思いま、え!?なんだって!?……うん……な、な、な、何と!!先ほどはぐれ対魔忍の首を出品したDr.サンダー様がいきなり24億を提示してきました!」
「24億!?」
「いきなり!?」
「奴の出品はこれが目的かよ」
「ふっふっふ、さぁ、このオークション最高額からのスタートです!ただし上げる単位は100万円からです。それでは…」
(適当な首で最高額を出せそうな奴は一人おろせたんだ。後は涼姉をこれでこちらのものにすれば、後は凛子さんの救出とあの豚兄弟、の兄を殺せばこの任務は終わりだ)
「25億!」
「おっと!2015番!25億!25億だ!」
「!?25億!?あの野郎!首の時に出し渋ってたな!」
「おや?あの男。妙に自信満々で…どうする?サンダー君?3億までなら出せますよ」
「そんなもん追加に決まってるだろう!何のために身体まで出すって言ったんだ!?全部出してくれ!」
「その分のサービスは忘れるなよ」
「当たり前だ!27億!!」
「おっとサンダー様!ここで再び勝負に出た!」
(このクソガキが!)
「さあ27億ですよー27億「30億!」おっと30億!はぐれ対魔忍の落札額になりました!これを越えれるものは現れるのか!?」
「ふざけやがって!!あんのバナナ髪の壺みていな面の似非チンピラが!」
「んだとこの権力者の奴隷娼婦紛いのクソ女が!」
「それの何が悪い!お前だって払えもしねえ額適当に並べるだけのサクラじゃねぇのか!?」
「な!?」
(まずい!あの30億以外は今ねえんだ!)
「なんか言い返せよ!この壺頭!」
「うるせえ!お前だって早く男に身体売って金でも貰ったらどうだ!?」
「いいぞ壺頭!もっと言ってやれ!」
「ただのオークションよりも面白くていいわこれ!」
「サンダー様!2015番様!この場での個人での口喧嘩はおやめください!おやめください!」
(……….肝心のオークションのこと忘れてないわよね…)
二人の醜い言い争いにまわりの客は囃し立て、ナブールは慌てて諌めるさまを涼音は呆れながら見ていた。
「まぁいい、リーアル!3億と100万だしてくれ!あの野郎、ほんとに手持ちがなさそうだ!」
「お金を出す代わりはどうする?」
「え?それは……あ!凛子さーん、ぜひあの対魔忍を買えた暁には私と一緒に輪姦を…」
「!なぜそこで私の名が出る!」
「えー、でも需要はあると思うわよ、私のスライムに濡れたあなたの肢体は。ねぇ、リーアル様、どう?これは?いいと思わない?」
「なるほど、それは素晴らしい、だがこれ以上は出せないぞ」
「別にいいわ。これで私の勝ちは確定したものだから。ナブール!30億と100万だ!」
「おっと!30億100万が出ました!これ以上は出るか!出るのか!」
(もう無理だ!これで奴が引いたら本気で払えなくなる、くそが!)
「おっと、上がらない!上がらない!これは………決まったあ!処女の対魔忍奴隷はDr.サンダーが落札ダァ!これで今日のやかましい地獄みたいなオークションは終わりだ!やったあ!…」
「ナブール様、本音が、本音が漏れています」
部下から失言を指摘され、ナブールは軽く咳払いをしていた。
「おっと失礼、それではサンダー様、申し訳ありませんがここまで来てもらえませんか?」
「いいわよ、あの奴隷が誰のものになったかをここの参加者たちに見せつけてあげるわ」
「ごめんなさいね、先ほどは巻き込んでしまって」
VIP席から会場に向かうための廊下ではサンダーが金をもらうための口実に巻き込んだ凛子に軽く謝罪をしていた。
リーアルたちは金の準備があるからと現在は二人だけ待たされている状況である。
「本当は私が身体を売ってお金を出してもらわないといけなかったのに、つい近くにいた貴方まで彼等に売るような真似を…」
「いえ、今の私にとっては、リーアル様たちに奴隷娼婦として奉仕しながら生きていくのが最高の幸せなんですよ。ですから彼らが望むなら貴方とのレズ行為も仲良く輪姦されるのも苦ではありませんよ」
(ッ!!凛子さん……)
奴隷娼婦になる前であれば絶対に言わなかったであろう文言を並べていく凛子にサンダー、いや…蒼月は片腕を強く掴みながら彼等への殺意を必死で抑えていた。
(ダメだ。今ここで殺意をもらせば凛子さんが敵になる。涼姉も捕まってる中でそれだけは絶対に避けたい…だけど)
かつての姿を知っている彼にとっては拷問にも近い言葉を吐き続ける彼女をこの場で助けたいと思いながらも、蒼月は彼女に一つの質問を出した。
「ッ、……、………、ねぇ?」
「何ですか?」
「あなたは元に戻りたいって思わないの?あの対魔忍だって娼婦になりたくないから暴れ回ったって聞いてるし、娼婦になる前の暮らしに未練はないの?」
「………未練…ですか……それは…」
「おや、何の話をしているのかね?」
凛子が答えを出す前にリーアルが護衛を連れて戻って来てしまい、素の姿を見せかけていた蒼月も慌ててサンダー
「何よ、世間話でもしてたらだめなの?」
「つれないではないか、私の奴隷だけに秘密の話しをするだなんて。凛子よ、奴とはどんな話しをしていたのかな?」
「!?は、はいぃぃ!か、彼女からは奴隷になる前のことを聞かれましたぁ!」
リーアルの命令に一瞬だが、逆らおうとしたのであろう、頭の中のご都合チップが凛子の否定の感情を押しつぶすかのように頭痛を促し、サンダーから聞かれた内容を反射的に喘ぎ交じりで答えていた。
「なるほど、サンダー君、なぜそのようなことを?」
「ふん、記憶の中に使えるものがないか探ってたのよ、意思も何もかも消してしまうようなチップ頼りのあんたらとは違うからね」
「これは手厳しいことを、ちなみに凛子よ、貴様は何か話したか?」
「い、いえ。それを話す前に来られましたので…」
「そうかいそうかい、それでサンダー君?」
「?、ッ!?」
リーアルは一呼吸おくと突然サンダーの肩を掴み、自分の身体に寄せ…
「本当にそれが目的なのだろうな?貴様、人の記憶など大切にするような人間だったか?」
耳元で2段階トーンを下げた声で語りかけていた。
「!?い、言ったでしょ!利用できるかもと思ったからよ!家族や仲間とかも、奴隷娼婦にしてやればもっともっと従順な奴隷にできるのよ!あんたらみたいにアヘ顔と死んだような面だけ見させようとするようなのは嫌だって前にも言ったでしょ!ま、それで心が壊れたらそこでおしまいだけど…」
「…ホゥ、そういえば貴様はそういった人体改造が好きだったな。だが彼女は私のものだ。どう使おうと私の勝手だ、さぁ行くぞ。余計なことに時間を取られたな。サンダーよ、あんなに金を出したのだ。会場までの道中は楽しませてもらうぞ」
「え、ええ、今はあの対魔忍よ……できるだけ早足にできません?」
「ダメだ、貴様の柔肌をじっくり楽しめるように歩くぞ」
「……はい」
そう言いながらリーアルはサンダーの肩に手を乗せたまま、頬を舌で汚らしく舐めながら会場まで向っている中、先ほどまでサンダーに聞かれていた質問を答えれずにいた凛子には一つの言葉がよぎっていた。
『凛子!あんたそんな汚いものしか食えてない豚の下につくなんて何考えてる!?大事な弟や仲間のことまで忘れて快楽に堕ちるような女だったのか!?思い出せ!凛子!あんたの弟だった達郎を!仲間だったゆきかぜを!蒼月の名も知らないのか!?あいつの数少ない友達だったんだぞ!あいつと共にあんたらに挑んてただろ!思い出せ!あんたのライバル!緑院涼音だ!思い出せ!凛子!凛子ぉぉぉ!!』
「!?」
罠まみれの情報を手にしながらもリーアルの元まで乗り込んできた対魔忍の言葉を、凛子は先ほどのサンダーの問いで思い出していた、が、
『凛子よ、奴のことは忘れろ。そして奴が叫んでいた者の名前もだ。どんな過去があろうともお前は今や立派な私の奴隷娼婦だ。いいか、これは命令だ』
「グゥ!ァァ!」
再びご都合チップ
「何だ?まさか凛子よ、あの時の記憶でも思い出してたのか?」
「は、はい。申し訳…ありません」
「?何よ?あの時の記憶って?」
「貴様には関係ない話だ。これ以上くだらない事でオークションを待たせるでない」
「そう。………」
凛子に関しての追及を止められ、オークションの方向へ足を進めていたサンダーの眼は後ろで他のSPの肩を借りながら歩を進めている凛子の元へ向けられていた。
「さぁ、今回のイベントの主役の登場です。はぐれ対魔忍を討ち、今回のオークションの目玉、処女の対魔忍を買い取ったサンダー様のご来場です!」
ナブールの声と共に客達の歓声がサンダーとリーアルに向けられていた。
「いい顔ね、間近で見てみたくなったわ、先に行くわよ」
サンダーはそう言いながらリーアルより先に両腕を拘束されている涼音のもとへ走る。
鍵はナブールの部下が持っているため、あとはそいつから鍵をもらって解放し、この時のためだけの特製の術を浴びせ、凛子を救出すればそれで終わりであった。
………ここから最大の誤算だったのはオークションに負けた壺面が拳銃をサンダーに向けて発砲した事であった。
「!?」
それに気づいたサンダーはわざと足をもつれさせ、転んだかのように手と足を伸ばしながらの一回転、それを見た客達の賛辞の声をよそに弾の出所を睨みつけていた。
「おい主催者!このオークションは目玉商品の落札者を撃ち殺そうとするサプライズでもあるのか?」
「え?ん?あ、おい!貴様!その銃は何のつもりだ!」
「あ?こ、これは……」
「ええ、サプライズですよ。せっかく完成したスライムボディをお見せするためにこっそり依頼したんですよ」
「!!」
サンダーが怒りを撒き散らしている間に背後まで近づいていたリーアルが抱きつくように左腕を身体を巻きつけ、右手に持った拳銃をサンダーの右側頭部に押し付けてきた。
「なのに避けてしまうとはね。君に銃弾はきかないってところを皆に見てもらわないとね」
「ッ!ちょっと待って!?準備がまだなの!」
「準備?コアを撃たれなきゃ無傷な君にそんなのいるのかね?」
(無理無理無理!ここで撃たれるのはやばい!やれ!『比翼十番』!!)
瞬間、サンダーの懐から飛び出したクナイが三本、リーアルの銃と両手を穿った。
「グオッ!」
リーアルの左腕が痛みで緩んだ隙に抜け出したサンダーであったが、鍵を持っていた部下はすぐに服の中へと鍵を隠してしまっていた。
「ねぇ、何があったのよ?」
「これ、逃げた方が良くないか?」
(まずい!この状況を怪しむ奴が出てきた!)
『オークションの参加者全員……ですか?』
数時間前、蒼月はアサギからの依頼を再確認していた。
なにしろ今回の依頼内容には暗殺も入っており、無関係の人間を殺して、相手を間違えました。なんてことはしゃれにならないからである。
『あぁ、騙されて来た者もいるかも知れないがそもそもが無実の人間や殺人兵器も取り扱うオークションだ。主催者や出資者を含む関係者全員を暗殺しろとのことだ。奴らにこれ以上力を与えてはならないとね』
『ふん、これ以上……か。つまり国はそんな裏金万歳な外道からの端金のために今までユキカゼたちの犠牲を何とも思わなかったわけか、もしもの時の対抗策を自分から見捨てるって馬鹿以外の何者でもないな』
『……言いたいことはわかる。だからこそ国は、いや、調査第三部
『調査第三部
『ああ、だがくれぐれもあのときのような失態はおかすなよ』
『ウグッ!思い出させないでくださいよ…こう見えても俺、五車学園抜けてからも、努力は欠かさなかったんですから』
そう言い残し、蒼月は仲介役のゾクトの元に向かっていった。
(ここで逃すかよ!)
そう思いながらサンダーが取り出したのは小さな青い玉である。
「貴様、やってくれたな!」
リーアルの怒声をよそに青い玉は上へと投げられ、サンダーは両足で青い玉の目の前まで飛びながら、蒼月の姿に戻り、術を発動する。
『流遁、破巡!変場!!』
「ッ!リーアル様!!」
危険に気づいた凛子がリーアルを掴み上空に飛んだと同時に、蒼月が青い玉を踵で蹴り落とすと同時に小さな青い玉はさらに細かく砕け、一部がオークション参加者たちの目の前に落ちた…
「…なんだ?今の、見せかけの術じゃねえk」
数刻後、落ちた場所からは槍のように尖った対魔粒子が参加者の顔や身体を貫き始めた。
「きゃあああ!!!」
「に、逃げろ!逃げろ!」
「槍のない場所を通れ!」
「ハッ、逃すかよ!やれ!」
蒼月の声に反応して砕けた青い玉の残りが全て先ほどの槍のようになり、残った参加者たちを穿つように降り注いだ。
「………嘘だろ!助けてくれ!助k」
蒼月の化けていたサンダーを撃ち殺そうとしていた壺面も降り注いだ槍に口内や腹を貫かれていた。
「…あれは使えるな、持ってこい」
蒼月が雷獣の歯にも巻きつけていた糸を付けていたクナイを飛ばして、壺面の持っていた銃を手にしたと同時に仮面をつけながら、壇上の涼音の前に着地した。
「なんとか参加者は一掃できたか。残りはてめえらだけだな!矢崎!リーアル!この脛かじりすぎのオークまがいのろくでなし兄弟が!」
「リーアル様、下がってください!」
凛子はすでに刀を抜刀しながらも、先ほどまでの槍を全て切り伏せていたのだろう、軽く肩で息をしていた。
「貴方……やっぱり来てたのね」
涼音が両手を縛られながらも、はぐれ対魔忍に言葉をかける。
「来ないわけねーだろ、涼姉が危ないって状況なんだからな」
「うん、じゃあこの両手の鎖に新たに結ばれたこのクナイはぁぁ!!」
涼音が返すよりも先にクナイが天井に吊るされたシャンデリアまで飛び、引っかかる。
「ちょっと!」
「ごめん、お礼とかそう言ったのは後で、これでも予想外のことばっかりだから……大丈夫、こんなのすぐに片付けてやるから」
「凛子!それに私のSP達!奴を殺せ!」
「お前らも来い、オークションを滅茶苦茶にしやがって、ぶっ殺してやる」
凛子に守られていたリーアルがSPを呼び出し、壇上から逃げ出していたナブールも私兵を繰り出していた。
「……所詮安金で雇われただけの雑兵か、相手を間違えたな」
「何?」
SPの返しにはぐれ対魔忍は仮面の中でニヤリと笑っていた。
「なら名乗らせてもらおうか。外道を以て外道を制す、はぐれ対魔忍がここにあり!ってな!てめえら!楽に死ねると思うなよ!」
今日の術
『流遁 破巡変場』
技名はFGOの魔王信長の宝具から
地面と空から大量の槍状の対魔粒子が襲いかかる辺り一体の敵を殲滅する術、
今回オークションの参加者を逃さないために使っていたが、本人は対魔粒子を大量に使うために今後も使う気はない模様