「…本当なのか?」
「あぁ、奴には自分でも気づいていない弱点がある」
ホテルの一室、矢崎は狐面の女性の言ったことが信じられないでいた。
「そもそも…はぐれ対魔忍の正体はわからないと言うのが有名な話だが…」
「はぁ、あのね。なんで奴はあんな名前で非道の限りを尽くしてるのに当の関係者連中は捕まえようとしないのかわかる?奴が対魔忍育成機関、五車学園の抜け忍、それも上を脅せるような奴だからよ」
「!!」
狐面の女性の言い分に矢崎はハッと納得する。
確かにあの対魔忍のやっていることは暗殺や汚職の意図的な流出など下手すればテロリストとしか思えないような行動を対魔忍を名乗りながらやっているのだ。言うまでもなく井河アサギや八津九郎が独断で動いてもよいほどの名誉毀損ものである。
しかし彼が殺されたと言う話は聞かない。それどころかはぐれ対魔忍に人生を滅茶苦茶にされたという自身の同業者や関係者の話が増える一方となっている。
「だーかーら。五車学園で色んな話が聞けるのよ。」
「……いくら払えば良い?」
「タダでいいさ。後々払うことになりそうだからさ」
「タダでいいのなら払わんぞ。教えてくれ。奴には何をすれば殺せるのだ?」
「いいさ。まずはイレギュラー。一応あいつは復讐代行や暗殺には筋書きをある程度たてる。だからそれを滅茶苦茶にする奴を雇え。オークションで負けた客に金を渡すのがいい。奴は必ずあの女を狙うからな」
「な、なるほどな」
「続いてはムード。奴はコロコロと姿を変え、性格を変えるが所詮は人間。その場の熱気に当てられて冷静に物事を考えられない時間が生まれるはずだ。この時に金を出すとか言って商品の元に同行できるようにしとけ」
「他にはないのか?」
「量より質だ。奴にとっては数を集めた所で格好の獲物の集団になる。多対一が奴の本領だ。だからこそ凛子を使うなり、一人で力を発揮できる奴を差し向けろ。あとは……」
「どうした?」
「いや、オークションをできるようにしておきな。すぐに奴が姿を変えてここに来るぞ」
そう言いながら狐面の女性は蒼月が離れていった研究所へと向かっていった。
「ギャアアア!」
「おい!どこに撃っているんだ!」
「てめえらが邪魔なんだよ!今はぐれ対魔忍が後ろにいたんだぞ!」
オークションの会場内ではリーアルのSPとナブールの私兵が言い争いを繰り広げながらはぐれ対魔忍一人を撃ち殺そうと互いに銃を乱射し続け、およそ半数がその流れ弾の犠牲になっていた。
「クッ!これでは……」
凜子も互いの銃弾の中の不意打ちを警戒して移動を躊躇い、リーアルの側からは離れられない。
ダンッ、ダンッ
「っ!?」
瞬間、リーアルに狙いを定めた銃弾を凜子は刀ではじき、その銃弾の発射元を睨みつける。
「おい、そこの奴隷娼婦!はぐれ対魔忍がお前の後ろにいるのはわかってるぞ!そこを退け!」
「奴を撃ち殺せ!そいつがはぐれ対魔忍だ!」
「ハアッ!?ちがっ!俺は…」
リーアルの命令が耳に入ったSPがナブールの私兵を撃ち殺す。
「おい!なぜお前の護衛が俺の私兵を殺してんだ!?」
「この野郎!お前らの中にはぐれ対魔忍がいるんだな!撃ち殺せ!」
瞬間、彼らの中で自分達+互いの護衛対はぐれ対魔忍だった戦況が自分達対互いの護衛対はぐれ対魔忍という構図に替わってしまっていた。
「!?まずい!いつの間に視覚情報を流遁で弄られている!このままだとはぐれ対魔忍の思うがままだ!」
はぐれ対魔忍のやってることはたったの二つ。まずは術を使い全員の盲点に入る。
高速で移動するのではなく、全員がその存在に気づいても0.01秒後にはそこにいない程自然に。
その状態で姿を確認できない敵に軽く触れる。
その時に脳の視覚野と言う場所に対魔粒子を送り、視覚情報に時折、はぐれ対魔忍が映るようにするということを一人、また一人と繰り返す。
そうすることでこういった惨状を作るのが流遁の使い手、双賀の多対一の戦い方の典型なのである。
「確かその戦い方は……」
それを思い出した凜子は目を閉じ、銃を乱射し続ける彼等の中で不規則に動く影を見つけ……
「そこだ!」
「っ!?」
縮地ではぐれ対魔忍の前に現れ、刀を振り下ろすが、はぐれ対魔忍はダガーで刀を抑え、腰のマントから比翼十番を発射し、応戦していた。
「矢崎さま、準備ができました」
「ふふふふふ、あははははは!」
VIP席では部下からの報告を受けた矢崎が高笑いをする。
「馬鹿な奴め!わたしの部下を私服で来させて正解だ!やれ、グリフォン!奴を叩き潰せ!」
その声に応じるかのように、鳥のけたたましい鳴き声が会場に響き、巨大な兵器すら通れる大きさとなっている商品用の通路からはライオンの身体をもつ巨大な鷲があたりに威圧感を放ちながら姿を現す。
「……鳥型バイオ兵器、グリフォン。なんであの時のオークションの商品が…まさか!?」
「………」
そう呟いた蒼月を視認したグリフォンは、
「ーーーー!!」
蒼月に引き裂こうと爪を横薙ぎに振る。
「おっと!」
「!まっ、待t….」
当の獲物は凜子と共にジャンプで避け、近くにいたナブールの私兵の身体が宙を舞う。
「クソッ、矢崎め。部下にこんなものも買わせてたのか!?無駄に金のあることでっ!」
蒼月が悪態を垂れながら自分を踏み潰そうとするグリフォンの足に飛び乗り、駆け上がるが、目の前に現れた凜子が刀を振る。
「逃すか!」
その間にも凜子との間で何度も刃が接触し、火花が散りながら、互いにグリフォンの背中に舞台を変え、刀とダガーをぶつけ合う。
「ハアッ!!」
「オラァッ!!」
「ビギャアアアア!」
けたたましい鳴き声をあげながら暴れ回るグリフォンの上で再三、互いの刃に火花が散った瞬間……
「ッ!!」
不意にパシュ、という音が二回、凜子の耳に入った瞬間、彼女の動かした両足を二発の銃弾が掠める。
「クゥッ。ッ!」
凜子が足の痛みに気付いた一瞬の間に蒼月は彼女の腹部に両手を爪のように構えていた。
「しまった!」
「『流遁!
凜子が刀を構えるも一足遅く、蒼月の左親指を除いた指から放たれた九つの透明な弾丸が彼女の腹を狙い撃ち、その勢いでグリフォンの背中から落下する。
「クッ、落とされた。怪我は…ない、のか?」
「まっ、吹っ飛ばされるだけだよ。凜子さんの腹に穴開けて学園に戻すわけには行かないし、な!」
瞬間、彼の放った三つのクナイは弾丸のように矢崎の座っているVIP席を狙い撃つ。だが……
「無駄だ!ここは防弾ガラスの中だぞ!」
防弾ガラスに防がれ、穴は開けたはいいものの肝心の矢崎には、届かなかった。だが…
「いや、これでいい。粉々にしろ!」
瞬間、ガラスの中に埋もれていたクナイから衝撃波が起きると同時にバリン、と跡形もなく床に落ちていった。
「バ、バカな!」
「わお、ぼろっちいガラスだことで」
(ま、あんたのいない隙にガラス触って流遁流して中の組織を滅茶苦茶にした上で、くないにも流遁入れて一時的に衝撃波を起こせるようにしたけけど)
「に、逃げ…」
「逃すかよ!」
蒼月が腕を振ると、二本のクナイは矢崎のネクタイに刺さり、残りの一本は部下の額に穴を開ける。
「引き寄せろ!」
「な、待て!やめろごぉ!」
矢崎の静止も間に合わず、残りのクナイが背中に刺さり、三本のクナイは蒼月の腰マントにある番のクナイに向け、矢崎を巻き込みながら、防弾ガラスのあった窓の向こうまで飛んでいく。
「これでお終いだ!矢崎!」
既に蒼月はこちらにきた矢崎の首を切り落とそうとダガーを構える。
「まずい!凜子よ。兄貴を助けるのだ!」
「ハッ!」
だがリーアルの命令を聞いた凜子が矢崎のネクタイを切り落すと同時に背中のクナイを抜いてしまった。
「クソッ、ここで息の根を止めるつもりが!うわあっ!?」
「ギュアアア!!!」
蒼月が矢崎目掛けてダガーを投げようとするが下にいたグリフォンが先ほどよりも勢いを増して暴れ始め、彼も落ちまいとダガーをグリフォンの背中に刺すが……
「ギュオアア!」
「!?しまった!」
ダガーを握る手が滑った隙を疲れ、グリフォンの翼で跳ね飛ばされる。その先の……
「うそ!?ぶ、ぶつかる!」
涼音が吊り上げられているシャンデリアに背中から激突する。
「カハッ!」
「ウウッ!」
その衝撃で出血こそなかったものの蒼月は体内の空気を全て吐き出し、砕けた破片が下にいる涼音の肌を傷つけていく。
「ギュルオオ!」
「クッ!」
グリフォンが嬌声をあげながら腕を振るったのに気付いた蒼月は残っていたダガーでシャンデリアを吊るすチェーンを切り裂き、グリフォンの凶爪は空を切る。だが、
「やべ!落ちるぅぅぅぅ!」
「わー!ばかバカ馬鹿ァァァ!」
無論シャンデリアは引力に従い二人を巻き込んで落下していく。
「今上げる!」
「早くして!」
蒼月がクナイを操り、涼音をシャンデリアの上に移動させたと同時にシャンデリアは落下し、粉々に砕け散る。
「痛たた、って貴方ねぇ!なんで私をあんな所に送ったのよ!?」
「下が混戦になると思ったんだよ!そしたらあんなデカブツも出てきてさ!部下にあんなの買わせてたとは思わなかったんだよ!」
「せめて矢崎の部下の面ぐらい頭に叩き込め!」
「やだよ!あんな汚物オークの部下の薄汚いゴブリンみてえな奴ら、1秒たりとも記憶したくな、い!?」
「っ!?」
瞬間、二人を見つけたグリフォンが爪を振り下ろし、二人も慌てて同じ方向に避けるが……
「逃すか!」
目の前に現れた凜子が刀を振り被る。
「ヤバい!」
「下がって蒼月!凜子はわたしが止める!」
「え?あっ、ちょっ!?」
手錠に繋がれている両手で蒼月の背中を掴み、力一杯放り投げると同時に振り下ろされた刀の先に手錠の右手の手首部分を密着させると、凜子の力のままに振られた刀は涼音の右手の手錠は手首部分が斬られたことになり自由になる。
「しまった!」
「涼姉お見事!」
「あんたはグリフォンを仕留めろ!このデカブツがイレギュラーすぎる!」
「おう!そっちは任せた!」
「ギュエエエ!」
上に投げられた蒼月にチャンスと言わんばかりにグリフォンが前脚を振るうが先ほどまでいたはずの姿が消え、そのコンマ数秒後、右目が一瞬、その姿を捉えた瞬間、ダーツのように投げられたクナイがそのど真ん中に突き刺さる。
「ギエエエエ!」
「くたばれ!『流遁……」
右目の痛みで思わず上がったグリフォンの右前脚を足場に蒼月は一瞬でその頭上へと飛ぶ。
「ギエ?」
「震倒滅脚
そのまま対魔粒子を左足の踵の一点に込め、グリフォンの顔面に力一杯叩き込む。
「ギ、ギャピャアアアアア!」
その勢いはグリフォンの踏んでる地面全体に自分の何倍もの大きさを持つ鳥獣を落とすほどの穴を開けるほどであった。
「ギュピエエエエエ!」
「な、ば、馬鹿な!あのグリフォンが!?」
「………」
「な、あ、兄貴。今、奴こっちを……」
一撃でグリフォンを落とした蒼月はそのまま元凶の二人に狙いを定め、クナイを投げつける。
「ヒ、ヒィ!」
「グゥッ!今度は腹か!」
リーアルは慌ててしゃがみ、矢崎は直ぐに動けずにクナイが腹に刺さる。
「俺を引き寄せろ!『比翼十番』!」
蒼月の一声と共に矢崎の腹に刺さったクナイが磁石のように彼の左手に持った番のクナイごと蒼月を引き寄せる。
「く、来るな!凜子!凜子ぉぉぉ!」
「!矢崎様!?」
「おっと!逃すかよ!」
「グッ!」
矢崎の声に気付き、凜子が向かおうとするが、涼音が逃さんとその身体を掴む。
「離しなさい!」
「嫌だね!あんな豚まがいの連中の事しか考えられてないその頭を!今!私が!叩き直してやる!」
刀を抜かせる間も無く、涼音は力のままに一本背負いをし、凜子を床に叩きつけた。
「や、やめろ!し、死ぬなら歳の順!」
「何だと!?貴様それでも弟か!」
「『流遁…」
二人の兄弟喧嘩も意に介さず蒼月が対魔粒子を右手に込めながら左手に持ってたクナイを手放し、引き寄せられた勢いで二人に近づく。
「「や、やめてくれぇぇぇぇ!!」」
「発破頸殴』!」
「ゴハッ!ヴォエッ!!」
瞬間、リーアルに盾とされた矢崎の腹に流遁を纏った右手が叩き込まれ、腹の中の全てを吐き出していそうな声が会場中に響く。
「助かったよ、兄貴」
「ゴフッ、リーアル…貴様」
「馬鹿め!この拳は、波動のこもった…二段攻撃だぁ!!」
「なっ、ブギャア!」
「ヴォゲェ!」
リーアルに関しては兄を盾にしたのにも関わらず、二発目の衝撃が二人の腹を突き抜け、兄弟仲良く壁まで吹き飛ばす。
「ゴホッ」
「ガフッ」
「まだ生きてたか。しぶとい奴らだ」
「さっすが!よくやったわ!こっちも凛子を無力化した!」
グリフォンの落ちた穴の向こうから涼音が喜びの声を上げる。
「ナイス涼姉!それじゃこっちも仕留めるだけ……」
ダンッ、ダンッ
蒼月が二人を殺そうと銃を取り出そうとした瞬間、無慈悲な鉛玉の発射音がしたと同時、蒼月が銃を穴の向こうに向けた。
「てめぇ……」
「貴様のせいだぞ。はぐれ対魔忍」
「グッ、ごめん」
そこには身体から血を流して倒れた涼音を取り押さえ、銃口を向けているナブールがそこにいた。
「銃口突きつけてねえだろうな。そいつの肌に火傷の痕残してみな。眼球ぶち抜いてから身体の中ぐちゃぐちゃに作り変えるぞ!」
「それを言える立場か貴様。俺のオークションはあんたのせいで台無しになったんだ!貴様こそ一歩も動くんじゃねぇ!この女の脳天を砕けた柘榴みたいにしてやる!」
「チッ、言ってくれるねぇ」
スウッ…
「おっと…クナイを操るのもなしだぞ。少しでも変な挙動をしてみろ。この女も巻き添えにしてやる!」
「……わぁーたよ!俺は何をすれば良い!?」
「ならその腰マントと拳銃を投げ捨てろ。クナイはそのマントの中にあるだろ!少しでも俺に武器を持ってないってところを見せろ!」
蒼月にとっては普段なら聞く耳も持たない条件だが、涼音に銃口が向けられてしまっている状況下でナブールを刺激できないと判断し、壺面から回収していたサイレンサー付きの拳銃を投げ捨て、更にクナイの入っている腰マントも脱ぎ捨てる。
「良い様じゃねぇか、はぐれ対魔忍……そうだ、それで良い!」
「っ!?」
「………ギェェェェ!」
ナブールの叫びと同時に地面が揺れ始め、穴の中きらは先ほどまで落ちていたはずのグリフォンが鳴き声と共に姿を現し、蒼月に前脚を叩きつける。
「ガハッ!」
蒼月は不意打ちに対処出来ず、顔を上に床とグリフォンの爪に挟まれる形で身動きを封じられる。
「しまった…」
「よくやってくれたぞ……ナブール、グリフォン…」
蒼月が声のした方を向くと、先ほどまで吹き飛ばされていた矢崎とリーアルが近づいてきていた。
「一時はどうなるかと思ったよ。兄貴から貴様の正体を疑いながらも聞かされた時、そしてそれが現実になった時、そして…貴様に吹き飛ばされた時な!」
リーアルが怒りのままに蒼月の顔面を踏みつける。
「ん?痛みに耐えてるのか?声が出ないな…」
「いや、リーアル、足をどかせ」
矢崎の言う通りにリーアルが足を避けると蒼月のつけているお面の前に薄い壁のような物が映る。
「やはりか…」
「な、バリアか。汚いぞ!」
「お前らに言われたくないぞ人生汚物まみれども」
「貴様!」
「いや、俺に任せておけ」
怒りに任せて再び踏みつけようとするリーアルを諌め、矢崎が足を上げる。
「芸がないな」
「今ので血が流れなかったら奴に命令してあの女を殺す」
「な、何を…」
瞬間、矢崎の足がお面ごと、蒼月の顔を踏み潰す。
「ガァッ!」
「オラァッ!」
「グハッ」
蒼月が苦悶の声をあげている中、矢崎は蒼月の側頭部を蹴り飛ばす。
「ホォ、バリアを貼らなくなった、な!」
「ガッ!」
リーアルもそれに乗じて蒼月の喉を踏みつける。
「やめて!」
「動くんじゃねぇ!」
涼音が助けに行こうとするがナブールに押さえつけられる。
「次暴れたら、今度は大火傷だぜぇ」
ナブールが銃口を涼音の後頭部に向ける。
「凜子よ、奴の肩を刺せ!こいつを痛めつける絶好のチャンスだ!」
「ハッ」
矢崎に命令された凜子は瞬時に潰されている蒼月の真上まで飛び、落下する勢いと共に蒼月の左肩に刀を突き刺した。
「グッ、アアァァ!」
蒼月の声にならない悲鳴が会場中に響き、凜子と涼音以外の生き残りたちの半分は高笑いを、もう片方は薄ら笑いを浮かべ始める。
「素晴らしい。これは良い見せ物になる」
「いいぞいいぞ。凜子よ。その肩を抉ってやれ」
「ハッ」
「アッ、グッ、グアアッ!」
凜子が突き刺した刀を動かし、さらに蒼月の悲鳴が増す。
「やめろ!凜子!彼は…」
「動くんじゃねぇって言ってんだろ!」
「グウッ!」
涼音も凜子を止めようとするがナブールに地面に叩きつけられる。
「そんなに痛い目にあいたいなら…望み通りにしてやる!」
「ッ!!」
「涼姉!ガアッ!」
蒼月も向かおうとするがグリフォンが力を込め、さらに地面に押さえつけられる。
「死ねぇ!」
「やめろぉ!」
瞬間、舞台裏から一人の男がナブールを殴り飛ばす。
「…!あなたは!」
それは捕まった涼音をナブールの元へ送ったあの看守であった。
「貴様…看守如きの分際でぇぇぇ!」
「五月蝿い!俺からすればこんな所で地獄の日々が続くくらいなら家族に会えなくても良い!死んだほうがマシだ!」
「そうか……なら望み通りにくたばれ!」
顔にアザがついたナブールが怒りのままに看守に拳銃を向ける。
「やめて!」
「死ね!」
涼音の声も意味を成さず、ナブールの指が引き金にかかった瞬間……ヒュンと風の切る音と同時にナブールの腕のみが拳銃を持ったまま宙に数秒舞った後、地面に落下した。
「……?、!?ギャアアアア!俺の!俺の腕がああああぁぁぁぁ!!」
「な、何だ!?何が起こっている!」
グリフォンを挟んで向こう側の様子が見えない矢崎たちには何があったのかすぐには理解できず困惑する中、蒼月は笑みをこぼす。
「アハハ!あいつやっと来たか!」
「貴様!何を笑っている!」
「あぁ、リーアル!この後お前の'たま,が吹っ飛ぶ未来が読めたからな!」
「何だと!貴様、ふざけた事を言う……な?」
再び不敵な態度をとりはじめた蒼月を撃とうと銃を向けたリーアルがふと下半身に違和感を覚え始める中、その一部始終を見ていた矢崎の顔は青ざめながら指摘する。
「リーアル…お前、下…ない」
「ないだと?…!?な、ない!お、俺の'あそこ,がぁぁぁ!痛ぇぇぇぇぇ!」
「!?貴様!何をした!?」
凜子が怒りのままに肩に刺さった刀を深く突き刺す。
「グッ、俺は何もしてねえよ!ただ、やっと奴が来たって感じだな…」
「………!ギエエエエ!」
瞬間、蒼月を押さえつけてたグリフォンが悲鳴を上げ、暴れ始める。
「グリフォン!一体何が?…!穴が、グリフォンの身体に!?」
「………フフッ」
同時刻、オークション会場の近くの塔で笑っている女性、天斬羽矢香の左手には巨大な剛弓、月張が握られていた。
「最ッッッ高!対魔忍一人救うだけでまさかあの下半身に支配された豚の'たま,ぁぶち抜けるなんてね!感謝するわ!…えーと、ユキカゼ、だったかし…ら?」
そう告げた羽矢香の足元には、先ほど蒼月に気絶させられた褐色の対魔忍が安らかな寝息を立てており、これにはリーアルたちへの殺意に満ちていた彼女も呆れてしまっていた。
「ハアッ、これ見ちゃうとやる気が削がれるなぁ。って、私'邪眼,解いちゃってるじゃない!?掛け直さないと!」
そう言って羽矢香が意識しながら両目を瞬くと、外壁しか見えなかったはずの会場の中が彼女の視界に鮮明に映し出された。
「さーて、次の獲物は……ん?ってあの馬鹿、何捕まってんの。ったくもー、私らの'長,ともあろう者が…まぁ、助け舟くらいは出してやるわよ。全く……」
羽矢香はそう言うと右手で術を発動させ、小さな風の矢をつくるとそれを月張につがえ、強靭な弦を引くと、蒼月を抑えているグリフォンの足に狙いを定める。
「だから早くあの豚兄弟の出来損ないを仕留めろ、ってのよ!」
そう言いながら放たれた風の矢は速度を一切落とさず、獲物の前にあるはずの外壁をも貫き'長,を力ずくで押さえつけてた怪鳥の足を吹っ飛ばした。
「ギエエエェェェ!?」
「グリフォン!?何をしているのです!はぐれ対魔忍が…「遅えよ」…!?」
グリフォンの拘束が解け、肩に刺さっていた刀を抜いた蒼月に距離を詰められた凜子は足を取られ、体全体を浮かされ、腹部には爪のように構えられた両手が…
「まさか…」
「一瞬だ。吹っ飛びな!『落神九爪』!!」
再び放たれた九つの弾丸が凜子を天井に叩きつけた。
「ガハッ!」
「バッ、馬鹿な!?そんな事、が…」
驚きのあまり、片膝をついた矢崎の左膝に蒼月は右足を置き、左足は大きく後ろへ振りかぶっていた。
「な、何を…」
「弟だけがあれじゃ可哀想だろ、だから…覚悟しな。俺の'去勢,は響くぜ」
そう告げた瞬間、ブチュンという音ともに蒼月の左足が矢崎の局部を蹴り上げ、蹴られた当人は大きく後ろへと吹っ飛び、反論も出来ずに荒い息を吐く。
「コ、コヒュー、コヒュー」
「よし、これで無責任な子作りは出来なくなるな、良かった良かった。これで後は矢崎と後…って嘘だろ」
蒼月がもう一体の敵の方向に向いた時には身体に幾つもの矢傷を負った鳥型兵器が稼働を停止しており、リーアルの護衛はその殆どが文字通り木っ端微塵となっていた。
「やりすぎだろ…まぁ良い。なら狙いは矢崎に…「させるかぁぁぁ!」…!!」
瞬間、空間跳躍で蒼月の背後を取った凜子が刀を抜こうとする。
(不味い!ゼロ距離で'あれ,を撃つ気か!?させねぇ!)
凜子の行動を先読みした蒼月は咄嗟に自身の右手で凜子の右手首を掴む。
「『流遁 換骨奪胎』!」
そして術を発動すると凜子の刀は何の術も発動しないただの刃となり、それは蒼月のお面スレスレで空を切った。
「……忘れていましたね。術に使う対魔粒子の流れを阻害した上で、自分のものにするその技を」
「……ああ、後で使わせてもらうぜ」
ニヤリと仮面の奥で笑っている蒼月の右腕全体には凛子から奪った対魔粒子が紋様の様に刻まれていた。
「させません!その腕を切り落とします!」
「やれるもんならやってみな!今のお前の相手は俺じゃねえよ!」
瞬間、天斬が放った一発が地面を穿ち、互いに後ろへと下がる。
「クッ、今の一射…風じゃない!?これは…棍!」
「ああそうさ、お前なら知ってるだろう。今お前と対峙している対魔忍の得意武器ってことをよ!」
そう告げた蒼月の前には地面に刺さった棍を引き抜いた涼音がその先端を凛子に向けていた。
「凛子は私が止める。お前はさっさと矢崎をしとめろ!」
「言われなくても!ってあいつどこ行った?」
「もう逃げたわ!早く追いなさい!」
「あいよ!」
涼音の言葉に応え、蒼月は矢崎の元へ走り出す。
「…さて」
「……あの時、私の名を叫んでいた対魔忍…でしたか?」
改めて向かい合った戦友の反応に涼音は軽く舌打ちをした。
「…ちっ、やっぱり私やユキカゼ、それに大事な弟に関してはなにも思い出せないわけ?学園で散々やり合ったでしょ」
「今の私の頭の中はご主人様のご褒美と警戒すべき対魔忍の事だけですよ!ユキカゼも、その弟も!私は知らない!」
その瞬間、涼音の中で何かが切れた。
「知らないだと!ふざけんな!そんなに思い出せないなら私が思い出させてやる!その頭の中のチップごと焼き尽くしてやる!」
その言葉と同時に涼音の棍と凛子の刀が激突した。
次回、ヨミハラの戦い決着
今回、蒼月の使った術
「流遁 落神九爪」
左手の親指を除いた九つの指の先から対魔粒子の弾丸を放つ術。
十発じゃないのは当人曰くこだわりとのこと
「流遁 震倒滅脚 顛踵落」
いわゆる踵落とし。ただし踵の一点に力を込めるため常人の頭に当たればその頭蓋骨はいとも簡単に砕ける。