「グリフォンの扱い雑だなー(笑)」
「なぜだ、なぜ…こんなことに……」
兄からはぐれ対魔忍が忍び込んだと聞いた時は笑い話として一蹴していた。
もしいたとしても今回の商品であるグリフォンをぶつければ良い、当人のお目当てだと言われている処女の対魔忍を人質にすれば良い。それに護衛にはあの凜子もいる。
事実、経緯は大幅に変われど、あの対魔忍を人質に取ったために、彼は武器を捨てた。その後は奴を痛ぶったのちに彼女を殺し、後を追わせれば良い。そう思っていた矢先、人質を取っていた奴が耳をつんざく悲鳴をあげて、すぐに面の下で血を流していた奴が笑って………
「い、痛え…痛えよ」
蒼月が矢崎を追いかけ、涼音と凜子の武器が火花をあげている裏でリーアルは双賀の射手、羽矢香に文字通り復讐の'的,として、矢で磔にされた姿を見る者のいない会場で晒されていた。
「誰か…助けてくれ。頼む……」
既に彼の護衛もオークションの主催者の私兵も生き残っていた者は、全員が会場の外から放たれた矢により物言わぬ姿となり果ててもなお、羽矢香は彼をいたぶるように両手両足を、放った矢で壁に貼り付け、腹に矢傷を与え、耳を吹き飛ばし、鼻は手加減しながら撃つことでまるでピノキオのようにしてしまっていた。
「無様ね、こんなろくでなしでものしあがれるものだから嫌なものね。権力っていうの、は!」
ヒュン!
「ギャア!」
羽矢香が呆れまじりに放った矢が'的,の腹に新たな矢傷を作る。
「頼む。許してくれ。許してくれぇ。私は…まだ、死にたく、ないぃ…」
「………ハッ」
ついに、涙まじりに自身の助命を姿の見えぬ復讐者に嘆願し始めた'的,を邪眼越しに見ていた羽矢香は冷たく一瞥し、無慈悲に弓を構える。
「傑作だな、お前。猪でもそんな泣きっ面はかかなかったぞ。それなら私もその滑稽な命乞いに答えてやるよ。この矢でな!」
そう言いながら放たれた風の矢はグングンと速度を上げ続けながら哀れな'的,の首を捉え…
「いy…」
尽きぬ速度のまま、'的,の頭部と上半身を巻き込み、ヨミハラの果てまで飛んでいった。
「…………フゥ、あっけなかったわね…おっと」
羽矢香が弓を下ろして後ろを向くと、先ほどまで寝ていたユキカゼがフワァとあくびをしながら目を覚ましていた。
「…あれ?なんで私…ここに?…っ!あなたは誰!?」
「やめて。危害を加えるつもりはない」
警戒心のままに銃を取り出したユキカゼを羽矢香が片手で制止させる。
「私は蒼月に頼まれてあなたのそばにいるだけ。敵じゃないわ」
「敵?そうだ…私、凜子さんとヨミハラで…そうよ。それでゾクトに騙されたのよ!…騙されて、その後、矢崎やリーアルに他の子たちのこと色々話すように洗脳されちゃって……」
「……そう、それ'だけ,で済んでよかったじゃない」
リーアルの素性を知っている羽矢香は顔を会場の方に向き直して答えた。
「でも、凜子さん。リーアルに連れ去られて……それに助けに行った蒼月も傷を負ってたし…ねぇ、貴女に聞いても大丈夫かしら?」
「…答えれる質問ならな」
「二人は無事なの?」
「…あぁ、だから今はここにいろ。ここなら指一本触れさせやしないさ」
「そう……ありがとね、双賀の弓使いさん」
「………どういたしまして」
ユキカゼからの笑顔の感謝に、羽矢香は改めて優しい笑顔で返し、再び顔を会場の方へと向けた。
(後は二人に任せよう。これ以上、私の弓が介入する余地はないからな)
「矢崎ィィ!どこにいる!出てこい!この人間未満の価値しかねぇド腐れ豚野郎!」
蒼月は会場の裏口近くに逃げた矢崎に怒号を吐きながら追いかけていた。
「クソっ!この近くにいるのは確かなはずだぞ!裏口は既に使えなくしたし、地下への入り口になりそうな所にはクナイを仕掛けたって引っかかりやしねぇ。豚の癖に無駄な頭使いやがって!」
(フン、なんとでも言え!生きて逃げ出せば俺の勝ちだ。その時にはユキカゼやこの睾丸の仕返しにたっぷり痛めつけてやる!)
当の豚野…失礼、当の矢崎は裏口とは離れた部屋のロッカーに姿を隠し、近くから聞こえた蒼月の暴言に内心で言い返した。
「……まぁ良い。見つからなきゃ炙り出す。凜子さんの術を使うか」
そう言うと蒼月は右腕を指先まで真っ直ぐ伸ばし、刻まれた対魔粒子の流れを加速させる。
「『流遁 纏空…」
(ん?あ、あれは凜子の術!…こいつも使えるのか!まずい!ここから逃げねば…)
矢崎が慌ててロッカーから身を投げた瞬間…
「我流 胡蝶乱舞!』」
蒼月が手刀を振り、そこから放たれた対魔粒子の刃が矢崎の頭髪を巻き込みながらホテル一帯を真っ二つにし、破壊音が辺りに響きわたった。
「ひ、ひぃぃぃぃ!!あの野郎!俺の髪まで!どこまで俺から奪えば気が済むんだ!」
「全て、だよ」
「なっ!?」
その声が聞こえたと同時に、矢崎のいる部屋の壁を蹴り砕き、蒼月が入り込んできた。
「覚悟はできてんだろうなぁ…矢崎ィ!」
会場では止むことなくガチン!ガシャン!と刀と棍の火花を散らす音が響き渡る中、凜子は涼音の技の乱舞に対応しながら自分の主が吹き飛ばされた場所を見ていた。
「リーアル…さm「言わせないわよ!」っ!?」
涼音が一瞬の隙をつき、凜子の右脇を狙ったが、刀で防がれてしまう。
「凜子!聞きなさい!あんたにあんな主はいない!そしてあんたのいる場所は娼館じゃない!」
「いえ、私の戻る場所はあの娼館。そして主は…リーアル様のみ!」
涼音の必死の説得も凜子には届かず再び刀と棍がぶつかり合う中、涼音が仕掛ける。
「『雷遁 疾風迅雷』!」
発動と同時、一筋の雷光が凜子の目の前に現れ、瞬間、
「!カハッ!ガァァァ!」
凜子の腹に棍が突き立てられ、雷が体内を迸った。
「どうしたどうした!昔ならこんなもの屁でもなかった筈だろ!」
「グウッ!」
今の一撃で体勢を崩した凜子に涼音は手加減抜きで怒涛の連撃を叩きつけ、凜子はそれを捌ききれずにどんどんと身体に傷痕を作っていく。
「オラオラオラオラオラァ!」
「グフッ、カハッ!」
その姿にかつて「斬鬼の対魔忍」と称された頃の面影はなく、ただ刀を持っているだけのか弱い女性は慌てて後ろに下がり刀を鞘に納め、対魔粒子を込め始めた。
「まだ…こんなところでぇぇぇ!」
「ッ!」
「逸刀流 胡蝶…」
「させないわよ!」
「なっ!?」
凜子が刀を抜こうとした瞬間、涼音の右足が刀の頭を押さえ、術は不発に終わる。
「'詰み,ね。凜子。この地獄ともおさらばの時間よ」
涼音がそう囁き、後ろに回した棍は雷鳴を帯びていた。
「ッ!アァァァァ!」
凜子も負けじと空遁の術で涼音の視界から外れ、会場内の巨大な柱を術で涼音に向けて飛ばし始めた
「チッ、往生際が悪いわよ!」
だがその全てを涼音は避けると、逃げた凜子を見つけ、距離を詰めていた。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ」
先ほど使った術の影響で激しい疲労に襲われている中、凜子は再び刀に対魔粒子を込めていた。
「負けて、たまるかぁぁぁ!」
「いい加減に目ぇ覚ませぇぇ!!」
「『逸刀流 胡蝶蘭舞』!」
「『雷遁 紫電一閃』!!」
一振り、偽の主人に捧げてしまった刀から放たれた刀身と友を救うために得た棍から放たれた雷は互いにお互いの体を捉え…………
「…私の…」
「……ガハッ!」
「勝ちだな……」
片方は音を立てて倒れ、片方は膝をつきながらも笑顔で自分の勝ちを告げていた。
「………涼音」
そう告げた凜子もまた体勢を保てずに倒れ、気を失うと、代わりに血を出して倒れていたもう片方が棍を使いながらも荒い息を立てながら立ち上がっていた。
「ゼェ、ゼェ、ばーか。今回'は,私の勝ちよ、凜子」
涼音はそう告げながら凜子の頭に手のひらをかざし、軽い電磁波を脳に送っていた。
「見つけた。全く、あんたのせいで色々大変だったんだから、ね!」
そして文句と同時に凜子の頭に雷を流し、その電流は凜子の脳内の
「次は本気、出しなさいよ。ああ、あんな生き汚い豚の奴隷じゃなくて、斬鬼の対魔忍としてのあんたとね」
そう告げると涼音も体力が尽きたのか、凜子の隣に倒れ伏していた。
「あとはあんただけよ。蒼月」
「ゴハアッ!」
ホテルに穴を開けながら鉄塔や貯水タンクなどの設備が備えられている屋上まで蹴飛ばした生き汚い豚、は言い過ぎだった。竿役糞豚の矢崎を追い、蒼月もその穴を使って屋上までに足をつけた瞬間、
「死ねぇ!」
「ッ!」
矢崎が隠し持っていた拳銃を乱射し始めた。
「またこのパターン?」
だが既に似たような目に何度も遭っていたのか手慣れた感じで全ての銃弾をダガーで切り裂いていた。
「そ、そんな……」
「ほんとお前みたいな奴らはワンパターンだな。権力と金で好き勝手やって、バレたら後は護衛任せで自分は逃走。もしものために拳銃準備。ほんと俺が殺し屋から復讐代行に仕事変えても、だから何も変わらない。俺のすることも、何も!」
「グベェ!」
瞬間、矢崎の顔面を蒼月の拳が打ち抜き、屋上ギリギリまで吹き飛ばしていた。
「ああ、一つだけ変わったことはあったよ。てめえみたいに人を苦しめても裁かれずに逃げるような奴はそのすべてを後悔させる。ってなぁ!」
「ヒィィィィ!!!」
矢崎たちに踏み砕かれた狐の面から覗かせた殺気を帯びた視線に恐怖を覚えた矢崎は慌てて後ろへ駆け出すが…
「逃すと思ってんのか?」
「おっ、お前、いつの間nぶへぇ!」
一瞬のうちに距離を詰めた蒼月が目の前に現れ、自身が逃げようとした場所とは逆方向に殴り飛ばされていた。
「やめ……許ひて、くれぇぇ、ひにたくないぃ」
「…ウエッ、気持ち悪……」
矢崎の脂とともに漏れでていそうな涙を流しながらひしゃげた鼻で土下座姿を姿に蒼月は軽く吐き気を覚えていた。
「お願いひまふぅ、もう対魔忍たちに手はだひまへんからぁ」
「それは俺が聞く言葉じゃ…!」
するとふと蒼月が何かを思いつき、スマホを手に取ると、とある人物に電話をかけ始めていた。
『ちょっ!おいおいどうした蒼月!?そのままとどめをささないのか?』
どうやら電話先の羽矢香は塔の上で先ほどまでの出来事を邪眼で見ていたらしく急な連絡に驚いていた。
「いやぁ、その前に矢崎の謝罪を是非ともその最大の被害者に聞かせようとねぇ、まぁあの豚に関する記憶はちょちょいっと操作してるから奴に怯えることはないと思うからさ」
『お前……悪趣味だな』
「俺にとっては褒め言葉、さ」
『まぁいい、ユキカゼ!ちょっと……』
「さて、俺も……」
羽矢香がユキカゼを呼んでる合間に、蒼月は矢崎の元に寄ると、未だ地面につけていた頭を思いっきり踏みつけ、その足元からは豚のような呻き声が上がっていた。
「おい矢崎、本来ならお前の肉体をバラッバラにしてそこいらの豚に共食いさせようと思ったがな…気が変わった。お前みたいな奴にはもったいないありがたーいチャンスを俺がくれてやろうじゃあないか?」
「ほ、ほんふぉでふか?」
すでに顔を何発も殴られている矢崎の言葉はそのほとんどが母音となってしまっていた。
「あぁ、ルールはとても簡単さ」
そう言いながら蒼月は通話中になっているスマホの画面を矢崎に見せつけた。
「この電話の向こうにはな。お前に傷つけられた最ッ大の被害者がいる。てめえのせいで人生を滅茶苦茶にされた最大の被害者がな。なのになーんの謝罪もなく、ただ殺すだけってのは俺も彼女の友として虫唾が収まらないわけ」
「ふ、ふまり?」
「ハァ?何?言わなきゃわかんない?謝罪だよ!謝ーざーい!きちんと五体投地で反省しましたという意図をしっかり伝えるんだよ!」
「は、はひぃ」
矢崎の態度にキレた蒼月の怒号に萎縮した当豚、ゴホン、当人は涙目で五体投地の体勢をとっていた。
「まぁ、あまりの無能さに怒鳴りはしたが俺も鬼じゃない、だが二度はないぞ。あんたの謝罪を当の被害者が受け入れてくれるってんなら他の対魔忍のことや俺の面を砕いたことに関してもチャラだ。ほら、自分の罪をちゃんと告白して反省の言葉を述べな」
「う、うぐぅ」
蒼月がスマホのマイクを向けると矢崎は涙混じりに自分の罪を告白し始めた。
「わ、わたひは、ひ…ひんぞくの権力では、はぎをはらひながらいぎてたうへ、ひんこうヒップをふかい、気に入っは女ほもをグヘッ」
突如、蒼月は目の色を変え、矢崎の頭を踏みつけていた。
「'ども,?謝罪に使っていい言葉かそれ?言葉を変えろ!」
「は、はひぃ!ひょ、ひょせいたひをほ、ほへいにひてまひた!」
「うんうん、そしてその被害者筆頭の彼女に言わなきゃいけない言葉、あるんじゃない?」
「ふぁ、ふぁい、もうひわけ………もうびわべあびまべーん!!!」
「…………フッ」
あまりの暴力と殺意に心をやられ、遂に大粒の涙を流しながら、矢崎は電話の向こうのゆきかぜに精一杯の謝罪を響かせていたその光景を見ていた蒼月は軽く笑いながら矢崎に向けていたスマホを自分のほうへと向けていた。
「…まぁ、安直だがあんたの失脚や逮捕より面白いのが見れて本当良かったよ。この罰思いついて良かったぁ。なぁ、あんたも楽しかっただろ?」
「は、はひぃ!」
(助かった!助かった!どんな醜態を晒しても権力を失っても良い!今この命さえあれば!奴に必ず復讐のチャンスが!)
「あっ、あれ忘れてた!おーいユキカゼー!」
矢崎からの恨みの混じった心の声と漏れ出る殺意を知ってか知らずか、蒼月は携帯でユキカゼに話し始めていた。
「肝心のさぁ、あいつの謝罪どうだった?許す気になった?」
(そうだ!奴から許してもらえなければ意味がない!頼む!私なりの謝罪を見せたのだ、何とk…)
『え?謝罪?その…許す気もなにも…『聞こえなかったよそんなの』』
「……………ふぁ?」
内心ユキカゼの答えに期待していた矢崎はそのあまりにも予想外の回答に、ある意味開いた口が塞がらなくなっていた。
「ほぉ…なるほどなるほど。そんなに奴は一生ネタにされそうな謝罪を聞かせたくなかったわけか」
「待へ!おへはひひんほあはまって…」
「やかましい!折角のチャンスを不意にしてまで
謝罪を聞かせる気がないってんなら望み通りに殺してやるしかねえってわけだな!」
「ほ、ほひょふ…」
「っと、その前にこの後の痛々しい打撃音を聞かせるわけにはいかないな。ユキカゼを怖がらせてしまう」
「!おまへ、まふぁか!」
と、蒼月がスマホの通話画面をいじったところで矢崎がとある確信を持つ。
「おへのひゃびゃい。ふっと…」
「ああ、そうさ」
その問いに蒼月はお面を外し、今にも他者を嘲笑いそうな顔と'とある機能,をオンにしたスマホの通話画面を矢崎に見せつけていた。
「あの時『うっかり』'消音,機能オンにしてたかもな。まぁ、それでもチャンスは二度も与えないし、何より!元からお前を助ける気なんて毛頭ねえんだよ馬ーーー鹿!」
「あ、あふまめ…」
「そうさ!俺は悪魔さ。それに俺のモットー知らないのか?『外道を以て外道を制す』ってなあっ!」
「グヴェッ!」
矢崎からの罵倒にもならぬ罵倒に答えると、蒼月は間髪を入れずに矢崎を蹴り飛ばし、矢崎はあっという間に屋上の端をギリギリ越えるところまで飛び、慌てて縁を両手で掴むので精一杯になっていた。
「アッハハハ!本来ならここで落ちてた方が良かったと思うぞお前!なあ、どこまで生き汚いんだよ。その無様な生き様、いつまで見せてるんだ?」
「お、おま….イビィ!」
蒼月の罵倒を返す暇もなく、矢崎は縁を掴む両手を踏まれて苦悶の声を上げる。
「いびゃい!やへろ!ひぬ!ひんでひまう!」
「ああ死ね!むしろ死んでくれ。テメェみたいな私腹を肥やすだけの豚人間はな…この先必要ねえんだよ」
そう冷酷に言い放った蒼月は矢崎の両手を踏んでいた足を前に出し、それに巻き込まれるように矢崎の両手は屋上の縁から離れ、その身体は重力に従うように地面へと向かっていった。
「いやびゃああああ!」
叫びを上げながら落ちていく矢崎に蒼月は悪意たっぷりの笑顔を向けると、
「ハッ、これで終わりにするかってんだ!」
その言葉を言うが早いか、術を込めたダガーをブーメランのように投げつけると、なげた先にあった鉄塔の一つがまるでチェーンソーで切り落とされた木のように倒れていく。その鉄塔を蒼月は右手で掴むと、
「これがテメェに相応しいラストだ!矢崎!」
今落ちている最中の矢崎に向け、鉄塔を投げつける。
「なっ、なんびゃほへは!やへ…」
その鉄塔の先は矢崎の顔をとらえ、コンクリートの地面に柘榴以上の赤い景色を生み出しながら突き立てられていた。
「………あー、もしもしアサギさん?」
それを投げた当人はその血溜まりを踏みながらスマホの通話画面をいじり、先ほどの激情の混じった声から落ち着いた声に切り替え、今回の依頼人と連絡をとっていた。
『君から連絡が来たということは、依頼は全て終わったのだな』
「えぇ、多少のイレギュラーはありましたが、矢崎とリーアル、その他有象無象のオークション参加者、始末完了ですよ」
『了解、三人を連れて帰還してくれ。他の対魔忍たちの救出も完了した』
「仕事の早いことで、では対魔忍双海蒼月、一時的に帰還します」
報告を終え、蒼月は電話を切ると、
「蒼月!」
蒼月が声をした方を向くと、そこにはユキカゼと羽矢香がオークション会場で倒れていた凜子と涼音を連れて、蒼月の元へ来ていた。
「ありゃ?いつの間に来たの?」
「お前が電話を切ってすぐにここに来たよ。お前なら最悪二人ごとホテル壊しかねないと思ったからな」
「あー、やってたかもしれない」
「ったく…ほら、さっさとこいつを背負え」
「え?あっ、ちょっ」
羽矢香は肩に担いでいた涼音を蒼月に渡すと、自身は建物の屋上へ飛び移り、蒼月も目で追えなくなった。
「まぁ、奴にとってもこれ以上いる理由はないからな…ん?」
「…………」
蒼月がユキカゼの方を見ると、彼女は鉄塔に顔を貫かれた矢崎の遺体を恐る恐るといった感じで見つめていた。
「ユキカゼ?」
「あ、この…人……」
「人?肉塊が一つあるだけじゃないか?ほら、後のことは上がやるだろうし、さっさと五車にいくぞ。ここ、飯とか水回りとかいいところじゃないだろ?」
「そ、そうだね!私早くシャワー浴びたいなー」
「え?幼馴染である達郎との再会のキスは?ハグは?あっついチュ〜はしないのかい?」
「ふえっ!?ばっ馬鹿!どうしてそんなこと臆面もなく言えるの!?」
蒼月の唐突ないじりにユキカゼは頬を紅潮させて、彼に軽く怒りを露わにする。
「あはは!ほら、早く行くぞ!眠りの達郎を起こすのはあなたのキス、なんてね!」
「クウゥ…蒼月ゥゥ!」
「やべっ、あっ、凜子さんの容体も考えて追いかけてね」
「あっ!?ウゥゥ」
つまり周りを巻き込む雷遁は出すなと言われ、ユキカゼは怒りと恥ずかしさの混じった赤面で先に逃げ出した蒼月を追いかけ始める。
「待ちなさーい!」
「やだー!」
子供のような言い合いをしながら、二人はヨミハラの中を駆けていく。その顔はこの時以外では見せないであろう心からの笑顔を覗かせていた。
「ゼェ、ゼェ、ゼェ」
二人がヨミハラを駆けている中、この男も先がなくなった肩をもう片方の腕で押さえながら逃げていた。
「野郎!絶対に許さねぇ!俺のオークションをグチャグチャにしやがって!これで俺の信用もガタ落ちだ!」
ナブールである。彼はあの騒動の中を生き残り、このヨミハラから抜け出そうとしていた。
(クソが!とにかくここから逃げなければ!ここにいたらいずれ暗殺者に狙われ…)
瞬間、自身の身体が宙に浮く感覚に囚われる。
「…………は?」
そして次に感じたのは胸部を'何か,に貫かれた感覚。そして…
「ガハッ!」
身体に毒を流し込まれる感覚だと分かった時には彼は血反吐を吐きながらその'何か,を抜かれ、その場にドサっと物音を立てながら落とされる。
「ゴホッ!このアマ…てめぇも、あの対魔忍のな…か」
そして最後まで恨み言を最後にナブールは事切れていった。
「…ナブール・ダンジョルーダ、これが200万の男の首か…」
手負いのナブールにトドメを刺した長髪の女性はつまらなさそうに彼の顔を見下ろしながら数枚ほど取り出した手配書らしき紙を一枚を除き、残りの全てを辺りへと投げ飛ばす。
「手応えがない。やはり、私の渇きを潤せるのは貴様かもしれんな…はぐれ対魔忍」
残った手配書らしき紙には1000万の金額の上に狐面の忍びが写されていた。
次回は軽いエピローグ