冬休みも近い次の日。
俺は俊介から送られてきた画像の事で眠れずに大学へと向かった。
「おはよ――ちょっ!圭介!あんたなんて顔してるのよ!大丈夫!?」
バイクを止めた駐輪場で心愛とばったり会い、突然声を上げて言われる。
「あ、ああ。多分大丈夫。寝てないだけ、そう言えば今日はイブなんだけど、予定してた桜花の家でのパーティー…………無くなった。わりい。これプレゼントだけど、受け取ってくれるか?」
俺はバックから心愛に渡す小箱を取り出し渡した。
「あ、ありがとう。でもパーティーが無くなったって……桜花ちゃんも楽しみにしてるって…………」
心愛は貰った小箱を両手で包むようにし、それよりもパーティーが無くなった事を心配していた。
「ああ、直ぐにバレるだろうから言っとくけど……フラれたんだ。ちょっとした勘違いだったんだけど桜花が聞いてくれなくってね」
俊介と付き合いだしたのはアイツが直ぐにでも皆に言って回るだろう。
今の俺にはそこまで言う精神力が無かった。
「別れた?それ本気で言ってるの?」
「ああ、フラれた。ハメられた。見事に取られたよ。全部前から計算してたんだろうアイツは…………」
フラフラしながら教室へと向かう俺に慌てて付いてくる心愛。
「ちょっと待ちなよ!何よハメられたって!取られたって誰によ!」
「ちょっとここじゃ…………取り敢えず教室に行こう」
「う、うん」
心愛の大声で周りから注目されていた。
俺らは黙って教室へと歩いていった。
心愛はいつも一人か、仲の良い友達と席を隣にして講義を受けているが、今日はそのままいつもの席に座る俺の隣、いつも桜花が座っていた場所に座った。
「おまっ、そこ桜花の……まあ良いか」
「桜花には少し言わないといけない事があるの。私だって独自の情報網があるんだから。圭介みたいに真っすぐ進むだけじゃなくて周りも見てるのよ」
「そんなに周りを見てないか?」
「私から見ればガバガバね。目の前のマンションに住んでいる桜花を取られたって言うのならね」
「…………面目ない。バイトもどうなるか分からん。その時はすまんな」
「少しは良い目をさせてもらったからね。それに私だってバイト先で与えられた仕事だけをしていた訳じゃないから。担当の松永さんは既に懐柔済みよ、あのグループの事は色々教えてもらってるから大丈夫でしょ」
「お前……逞しいな」
「私みたいな女は圭介みたいな絶倫変態か、筋肉バカしか無理でしょ。色々将来の事も考えないとね」
「一応、誉め言葉だと思っとくわ」
「あら?褒めてるのよ。会うたびに5回も6回も普通しないでしょ。圭介と結婚する相手はよっぽど体力がある奴か…………来たわよ、アイツでしょ」
後ろを見ると琥珀の後ろから俊介がチョッカイを出しながら歩いて来ていた。
「よお、一人者。昨日は良い夜だったな」
俺の後ろに座る俊介。
琥珀は何の事?と言う顔で俺の左の定位置に座って来た。
「ふざけんなよ俊介。お前……ハメただろ。一ヶ月くらい前から桜花に近寄り、結衣まで使って、全てウソで塗り固められた情報を桜花に伝えて。お前どういうつもりだ」
俺は怒りに震えていた。
握った拳を振り下ろす事も出来たが、暴力で訴える事は出来なかった。
そうすればこいつの良い方向へと向かう事が出来るからだった!
「何処に証拠が?桜花が何か言ってたか?キスマークでもあったのか?あの写真はあの後のお楽しみの最中の画像だぜ。恋人としての初めての夜。イヤー良かったよ。俺のチンポにしゃぶりつく桜花も見せてあげたかったわ。今度から俺が毎日相手をするから、浮気ばかりするお前は要らないんだってさ」
「お前の事はもう信じられない!今までだって全部嘘だったんだろ。俺に近づいたのも桜花が目当てか?」
「全部嘘?病院に行った方が良いんじゃないか?飛んだ被害妄想だぜ。 まあ、桜花と俺は成るべくして成ったって感じだな」
「ちょっと!何それ?桜花ちゃんはどうなったのよ!」
成り行きを一切知らない琥珀が俺と俊介に割って入った。
「圭介が浮気ばかりするから我慢の限界が来たんだってさ。圭介みたいな小さい男じゃなくて、心も身体も広い俺に鞍替えしたんだわ」
「ほざけ!全て嘘を教えた癖に!結衣が来たら証言させれば終わりだよお前。」
「ぐっ…………そんな訳ないだろ」
そこまで考えていなかったのか?
結衣を仲間に入れるのは良い作戦だったんだろうが、別れると言う話を聞いていた。別れた今は、こいつに都合の良い話をするとは思えなかった。
こいつにそう言う風にメッセージを送れと言われた。あの場には私もずっと一緒だったと証言させれば、桜花だって俺の話を聞いてくれるに違いなかった!
「動揺してるじゃねえか。お前…………桜花を奪う作戦にしては良く出来てたけどな、詰めが甘いんだよ!一日天下だったな。桜花と結衣が来たら全て終わるわ」
「てめえ…………」
ピリピリした状態で俺と俊介の間に火花が散っていた。
何かあったら双方殴り合いになるのもしょうがないと思っていた。
静かな心愛も気になるが、早く来てくれ。そして俺の話を聞いてくれと思っていた。
だが、二人は講義には現れなかった。
次の講義にも、お昼にも、午後の講義にも、帰る時間になっても。
二人に送ったメッセージを見る事も無く、ただただピリピリした時間だけが過ぎて行った。
帰りに俊介がニヤッと笑っていたのが悔しかった。
腹は立っていたが、琥珀には理由を説明してクリスマスプレゼントを渡した。
こんな事になって喜びも半減している顔だったが、昨日のいきさつは二人に全て話した。
スマホに送られてきた画像や前から怪しい行動があった事は隠して…………
バイトは休む事を担当の松永さんへ連絡した。
桜花と別れたからバイトはクビだと最悪思っていたが、そんな事は無く、あっさりと受け入れてくれた。
だが、アパートへ帰宅すると与えられていたベンツのGクラスは無くなっていた。
ボロアパートに似合わない高級バイクだけを残して。
「あいつ……本気だったのか?」
電話も掛けるが出る事も無く、メッセージも既読にならない。
俺は思い切って桜花の住むマンションへと向かい、玄関からインターフォンを押した。
だが、音が鳴るだけで出ない!
俺は何度も何度も鳴らした!
数分間は鳴らしただろうか。
すると、ドアを挟んだ中から見覚えのある大男がやってきた。
SP古参のジョンだった!
自動ドアが開く。
「ジョン!桜花は?桜花は大丈夫なのか?」
「圭介さん。ここではアレなので、中で話しましょうか」
俺はジョンにエントランス内にあるソファーに連れて行かれる。
ジョンを無視して上へと上がっても直ぐに掴まる事や鍵が締められてあり、会う事は出来ない事は想像できた為、話を行う事にした。
向かい合ったまま、俺はジョンに話を始めた。
「桜花は……大丈夫なんですか?」
今日、大学に来なかった事を心配して聞いてみた。
「ええ、昨夜は体調が悪くドクターに往診に来てもらいました。神経性胃腸炎と言う診断だそうです」
「胃腸炎……悪く……悪くはなってないんですよね」
「はい、本日、精密検査をする為に病院を受診し、他は正常だと言われ、薬を処方されました。暫くは静養する為、大学へは行かない予定です」
その言葉を聞いてホッとした。
大きく息を吐き、もう一つ聞いてみる。
「その事を……そう言う個人情報を俺に与えてもいいんですか?」
「はい、お嬢様の周りで起こった事は、おおよそ把握してます。お嬢様が癇癪を起して別れると言っていた事や、間男が部屋へと来た事も全て、上へと報告済みです。そしてこの情報を貴方、圭介さんだけに伝えても良いと言われています。そして来なかったら伝えなくても良いとも。
一応車はお嬢様が引き取るように指示しましたので引き取らせてもらいました」
「俺だけに?」
「はい、圭介さんになら教えても良いと。間男には秘密でお願いしますね」
いつも表情を変えないデカいジョンが笑みを浮かべていた。
そして間男って…………よく知ってるな。
「良かった此処に来て。一つ頼みがあるんだけど、これを桜花に渡してもらえないかな?」
俺は上着のポケットに入れていた小箱をテーブルの上に置いて前にいるジョンの方へと押した。
それを見るや、ジョンはその小箱を俺の方へと押し戻してきた。
「え?」
「それはクリスマスプレゼントなのでしょ。それは圭介さんから直接渡して下さい。もしもの時は私が全責任を負って渡しますので」
「あ、ああ。そうだねそれがいいか。もう一つ聞いても良いか?」
「はい、どうぞ」
「間男……俊介が来たら部屋に上がれるのか?」
俺は桜花に聞きたかった事を、この関係がどうなるのかを聞きたかったが、本人じゃない為SPにはこれだけしか聞く事が出来なかった。
「いいえ。お嬢様は誰とも会いたくないと。インターフォンは昼までにSPの居る部屋へと繋いでいますので、部屋へと入る事は出来ません。圭介さん、残念ですが、我々にはどうする事も……」
「いや、それだけ教えてもらえれば良い。スマンな仕事を邪魔して」
「いいえ、私どもも圭介さんに来てもらって良かったです。詳しくは教えられませんが、本日からSPが増員されてます。少なくても年越しをするまではお休みになる予定ですので、圭介さんも余り心配される事無く普通の生活に戻って下さい。我々の心は圭介さんの元にいますので。 ああ、それとお嬢様が与えていたガソリンカードを使って頂いて構いません、それとこのカードを使ってくれと渡されていますので」
プレゼントの小箱の隣に置かれたカード。
それは有名なカード会社のブラックカードだった。
名前は……SAKURAKOUJI JUNNITIとなっている。
誰?これ?家族カード?
なにそれ?ちょっと怖いんですけど!!
ジョンを見るとニヤッと笑っている!
俺ッ臓器売買で売り飛ばされないよね!
起きたら腎臓が一つなくなってるとか、角膜が無くなって目が見えないとか!
無いよね!!
「いやいやこれは困るから」
「どうぞどうぞ、好きに使っても良いと言われているので」
「いやマジで怖いんだけど」
「俺も困るんだが」
「要らないって!」
「貰っとけって!」
「何も契約書は書かないからな!」
「何も書かせないって!」
「いらん!」
「もらっとけ!」
「イヤだ!」
「強情だな!流石お嬢の見染めた男!」
「そんな怖い物を使えるか!」
「1億2億使ったところで無くなりゃしねえんだ!腹いせに5億くらい使っとけ!!」
最後は言い合いになり、この騒ぎにコンシェルジュがやって来てしまった。
折れないジョンに根負けして謎のブラックカードを受け取った。
でも、俺が知らない誰かのブラックカードを使ってもいいのか?
家族カードって家族以外が使っても大丈夫な訳?
俺はアパートへ帰ると速効で怖くなり、天井裏に封筒に入れて隠した。
まあ、バイクでも壊れたら使うか。
SPのジョンと話をして少し安心した。
安心したら腹が減った。
「たまには乗るか!」
俺は防寒服を着て桜花に貰ったドカのキーを持って部屋を出た。
暗闇の住宅街に響くドカティの爆音!
時計を見ると夜の8時を過ぎていた。
使っても良いと言われたガソリンカードで満タンにし、町を抜け郊外へと向かって走る。
行先なんか決めて無かった。
暗闇を切り割くヘッドライトを信用しアクセルを開ける。
爆発的な加速を力で抑え、とんでも無いスピードで走る!
「じゃじゃ馬が!こんなの桜花に桜花に比べたら何でもないわ!」
ヘルメットの中で大声で叫ぶ!
目につんのめる様な減速の後で、全てを置いて行きそうな加速をして次のカーブに備える。
無心で走る!
いつの間にかこの真っ赤なじゃじゃ馬が好きになっていた。
「燃費悪りーんだよ!金食い虫は桜花と一緒か!いや! 毎回奢ってもらってるのは俺か!」
俺はガス欠になったバイクを押していた。
少し調子にのって走り過ぎた。
気が付くと残量は残り少し、慌てて戻るが既に遅し。
あれ程軽く感じられていた車体が重い…………
やっと見つけたコンビニでガソリンスタンドを聞くと後1kmはあると言われ、カップラーメンを買ってお湯を注ぎ、寒い外に座って一人黙々食べる。
郊外の人通りの少ない中、寒い夜空の下で食べるカップ麺は美味しかった。
「さて頑張るか!!」
俺の心は少し晴れていた。