※この作品はR-18です。

【完結】「助けてノノえもん!」~ブルアカの世界でノノミとエッチしまくるダメ先生~   作:春画屋@二次創作R18

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ホシノ(3/4)、9000字になります。

ホシノ関係回:ホシノメモ・7・26・36・44・47.5・49
黒服関係回:19・27・40・41・42・43・46
(上記、ホシノ・黒服・カヨコ回、別連載形式でまとめました)
→https://syosetu.org/novel/350152


第52回:小鳥遊ホシノ-(3)-同じ思い

 

 ——目の前のこいつが語り始めて一時間……いや、もっと? もうよく分かんない。

 

「分かった。もう、そのゲームがあんたの人生をいろんな意味で変えたのはよく分かった」

「まだ、ここからです。一部ネタバレになってしまうので言えないのですが、シリンダーの中の……」

「悪いけど、その……三部作? 名作なのは分かったけど、それ全部やる時間とかないから……。ていうか、それエロゲーでしょ? ただのギャルゲーじゃないよね?」

「全年齢版も出ていますが、私は認めません。そもそもこれが名作たるゆえんは、BETAのいる世界……」

 

 ぐったり。何だかよく分からない話を、延々と聞かされている。それこそ、本来の『黒服』とはキャラが全然違うんだろうなって思ってたけど、何だこれ。普通、女子高生相手にエロゲーの話、延々とする? 第一それ、この世界の構造のヒントになったっていうゲームじゃなかったっけ? それより、プレイして感動した話の方が重要みたいになってるんだけど。あー、もう、スミカちゃんってヒロインが本命なのは、よく分かったから。

 

 こいつが先生とは『春葉原(はるはばら)』で知り合ったって聞いて、納得した。私の中で、こいつの株が極端に上がったり下がったりで、わけが分かんなくなってきた。

 

「聞く気がないなら、もうやめますが?」

「あるように見える? あんたが面白おかしい奴だってのはよく分かったからさぁ〜。それにしても……はぁ……」

「何です?」

「先生の「友達」って、もっとカッコいい人だと思ってたんだけどなあ? おじさん、何かガッカリだよ〜」

「朝会った時といい、何なんですか、あなたたちは。カッコいいとか良くないとか、素敵だとかそうではないとか。私の知ったことではありませんよ」

「ちょっと憧(あこが)れてたんだけどなー。それが実際に会ってみたら……そっかー。うーん」

「会ったこともないのに、そんな事を思われましても」

 

 まあ、会ったこともない相手にってのは自分でも思ってたけど。いいじゃん、夢ぐらい見ても。それに……

 

「会えてよかったよ。カッコいいかどうかはともかく、やっぱり先生の友達だなって思った。うん、私は自分が彼に記憶を返してあげられなかったのを、ずっと悔やんでいたから。感謝もしてるし、やっぱり尊敬もしてるかな」

「……あまり簡単に「大人」を信用しない方がいいですよ。友人として彼のために、というだけが目的ではありませんでした。夢を壊すようで申し訳ありませんが」

「一応、その話も聞いてるよ。じゃあ、その「目的」って何なの?」

「『現実世界』に実体化することですよ。「あちらの世界」の住人として」

「『現実世界』⁉︎」

 

 私は耳を疑(うたが)った。何かしら他に目的があっても、こいつが先生のために、友達として行動したのは確かだ。先生が知っていて放置しているなら、それほど問題のある目的じゃないだろうと、たかをくくっていた。でも、この話は……

 

「『現実世界』って、「プレイヤー」だった時に先生がいた世界だよね? そんなこと可能なの? この世界は『ブルーアーカイブ』っていう「ゲーム」の中の世界だって聞いてる。なら、ゲームのキャラに過ぎない『黒服』が、現実の存在に生まれ変わるとでもいうの?」

「前提が間違っています。この世界は文字通りの「ゲームの中の世界」などではなく、『現実世界』と同じく、実際に存在する異世界です。ホシノさんなら、その程度は既に理解していると思いますが」

 

 その通り。私は「私」が実在している事を確信している。なら、この世界が「ゲームの中」だなんて嘘っぱちの世界であるはずがない。ただの表現の問題だ。「こっち」から見れば「あっち」が『現実世界』って名(・)前(・)の異世界ってだけの話だ*1。

 

「ですが、この場合は文字通りに解釈した方が分かりやすいでしょう。その通り。架空のゲームのキャラが、スマホの中から出て、現実の世界に実体化するのです。行けるかどうかの確信などはありませんがね。『前の先生』や『彼』とは条件が違いますから」

「行って何をするつもり——?」

「新宿駅の徒歩圏内にマンションを借りて生活しようと思っています。山手線一本で秋葉原に行けますし、中野坂上あたりなら生活も楽(らく)そうですし」

「何の話」

 

 力が抜けた。確かにあの先生の友達というか、緊張感が一気になくなるというか……。『シンジュク』とか『ナカノサカウエ』ってどこよ? よく分かんないけど、「今度、D.U.のどこそこ区に引っ越そうと思うんだけど」みたいな話、聞いてないって。

 

「冗談です。まあ、向こうでの職や物件は探していますし、全くの嘘ではありません。その程度の話です」

「そんなに簡単に行き来できるものなの?」

「もちろん、簡単ではありませんよ。自分の存在が消滅してしまうかも知れない、ぐらいの覚悟はしています」

「なら、何でそこまでして。目的は何?」

 

 ふぅ、と黒服はため息をついたように見えた。

 

「彼にも言いましたが、目的など特にありません。単に行きたいだけです」

「なら、行きたいと思う理由は?」

「彼と対等な友人になりたいのです。そのためです」

「対等な? 今は違うの?」

「まあ、信じなくて結構です。ですが……そうですね。まだ説明していないこともありますし——」

 

 黒服は語り始めた。

 

 ——自分は、『黒服』という空虚な「器」の中に、『彼』と出会うことによって生まれた、自我と感情を持った別の「何か」である*2。にも関わらず、それを証明できず、『ゲマトリアの黒服』を名乗らざるを得ない。同じように『シャーレの先生』という「器」の中にいる『彼』は、確固とした「自分」を持っているのに。だから、対等な「友人」と名乗る事が出来ない——

 

 要約すれば、こんな話だ。

 

「ゲームで人生が変わったとか、「生まれた」とか言ってたのは、そういうことか。で、先生——『彼』と同じ『現実世界』の住人に生まれ変われば対等になれるの? 別の存在になれる?」

「彼には否定されました。何かがあると盲目的に信じて異世界転生の類(たぐい)を果たしても、そこには何もないと」

「私もそう思う。あんたが望むようなものには、きっとどこでだってなれる。「器」なんて関係ないはずだし、異世界かどうかだって、ただの場所の問題だ。その姿が先生みたいに変わったって、意味はない」

 

 そもそも、先生の「友達」として何か足りないものがあるなんて思えない。あるとしたら、本人が納得できていないだけだ。……それは私には痛いほど分かるけど。

 

「おそらく、その通りなのでしょう。彼には、「変わりたい」のなら他の世界なんて目指す前に、この世界でやるべき事がある、そう言われました。もし変われるとしたら、そこに至るまでの過程が私を変えるのだと。ですから私も、今はただ目の前にある、やるべき事をやっているつもりです。それが私を変えることになるのかは分かりませんが……。何にしても、『現実世界』に行こうにも、彼が「向こう」へ帰還するタイミングにしかチャンスはないはずですし」

「やるべき事って?」

「『ゲマトリアの黒服』ならしないであろう事、『私』だからする事……。『彼』の持つ平和な「世界観」の維持であり、先ほど言ったような「生徒」にとって明らかに余計なものの、排除です。具体的には、行動不能に陥っている、私以外の『ゲマトリア』メンバーの監視。それから、『デカグラマトン』や『預言者』たちの処理。ほとんどは確認のために行くだけですが」

 

 さらっと言ってるけど、結構危険な事をしてるんじゃないだろうか。記憶を無理に戻した分の埋め合わせってことなんだろうけど。でも、それだけじゃないはず。

 

「それって、私たちのために頑張ってくれてるって考えてもいいんだよね?」

「そうであって欲しいと思っています。少なくとも「事実」としてはそうです」

「「事実」として? その言い方は何?」

「本当の意味であなた達のために行(おこな)っているのか……。私のことで、彼が言いにくそうにしている事はありませんでしたか?」

「してたから、「友達」の話自体あまり聞かなかった。確かにちょっと引っかかったけど……」

「やれやれ。庇(かば)われておいて言うことではないのでしょうが、彼にはやましいことなどないでしょうに……」

「何か理由があるの?」

「私が暴言を吐いたからですよ。おそらくそれが一番の理由です。「自分もずるい大人だから、聞かなかったことにするのは得意だ」などと自虐(じぎゃく)していましたが」

「暴言って? 何を言ったか知らないけど、またそんな些細(ささい)な話で……」

「どうでしょう。保身のために隠すのは自分も嫌ですから、この際言ってしまいますが、「プレイヤー視点から見たことがあれば、たかがゲームのキャラごときにもう興味はない」と言いました。『ゲマトリアの黒服』なら言いそうなことでしょう?」

「…………!」

 

 怒りで言葉が出なかった。「ゲームの中」だの何だのって聞いても何とも思わずにきたけど、「お前らなんて俺がやってたゲームの中だけの存在だ」、みたいな驕(おご)り高ぶった言い方をされたら、私だったらその場でキレてる。

 

「……先生は何も言わなかった?」

「「俺の生徒を、ただのゲームのキャラ扱いするな」と、殴られそうになりました。殴られておけば良かったのかも知れません」

「当たり前だ! いくら先生が暴力でかたをつけるのが好きじゃないって言ったって、そういう時は思いっきり殴るぐらいしておいた方がいいんだ。私だったら、絶対そうする!」

「そうされて当然だったと、私も——」

「そうじゃない! そこでお互い、あやふやなままになんかするから、迷ったり、やましくないことまで私に言えなくなったりするんだ!」

「……そうかも知れません。せめて、ホシノさんにはこの場で謝罪しておきます」

 

 正直、気分が悪かった。今までの会話を少なからず楽しんでいたことも、今日一日のデートが楽しかったことも、全部帳消しにしてしまうほどに嫌な気分になった。こいつだけじゃない、先生まで何やってるんだ⁉︎ そんなのが、いい「大人」二人がするケンカか? 私が尊敬して、憧(あこが)れて、もっと美しいものだと思っていた、男同士の「友情」か⁉︎

 

 ——好きだったものを汚されたように感じて、感情を爆発させる寸前で、自分があまりにも二人を美化していたことに気付いた。私には出来ないことが出来る、それだけですごい人たちだと思っていた。だから「大人」なんだと。この人たちに任せておけば何もかも上手くいく、そこまで思うようになっていた。そんな簡単な話なわけがない。

 

 正しいと信じてした事でも、後から迷うこともある。誰もが支持してくれるかどうかも分からない。それでも決断し、その結果生まれた状況に対して、責任を持って出来ることをする。実際に、そうしている。

 

 こいつや先生のように、そんな覚悟は当たり前に持っている「大人」たちと一緒にその場にいたとして、私には何が出来た? こいつを殴って、スッキリして……それは正解なのかも知れない。でも、多分それだけだ。こいつの真意を考えもせず、知ることもなかっただろう。

 

 息を整えて、自分を落ち着かせる。大丈夫。今のこ(・)の(・)小鳥遊ホシノは、もう、そこまで子供じゃない。

 

「何でそんなこと言ったのさ?」

「彼のセリフは、『シャーレの先生』として満点だったと思います。いえ、それ以上でしょう。そして、それだけ仕事に入れ込んでいる分、彼のこの世界における存在理由であるはずのノノミさんを蔑(ないがし)ろにしている、それを自覚させるためにわざと言いました。順番がおかしいと」

「ああ……悪役を演じて、って言ってた。そういうことか。なら別に、それも本心ってわけじゃ……」

「それが分かりません。あまりにも意思に反する言葉を発することは出来るのでしょうか? 人は、加害の意思なしに暴力を振るえるでしょうか? あんな言葉を抵抗なく言えてしまった自分が分からないのです。あなたや彼が言うように、確かにいい結果を生んだのは私でしょう。しかしあの時から、私は自分を卑下(ひげ)し、彼の「友人」を名乗ることに抵抗を感じ、ろくに会うことすら出来なくなったのです。私は本当に正しかったのか……と」

「…………」

 

 こいつは「友人」——『彼』が、理由のあることとはいえ、記憶を奪われ、真実を隠されていることに憤(いきどお)り、それを蘇らせた。その上で悪役を演じ、煽(あお)って、彼に本当に大事な事を思い出させた。こ(・)こ(・)は通常の『ブルーアーカイブ世界』ではないこと、「異世界人」としての『彼』に一番に求められているのは、『シャーレの先生』ではない事を気付かせた。

 

 個人的感情からだけじゃない。そもそもこ(・)の(・)世界は、あの二人の出会いから生まれ、二人の関係を、ひいては『彼』の「世界観」を守ることが、今のキヴォトスを維持することにも繋がっている。先生に順番を間違えているのを指摘し、ノノミちゃんとの仲を正常化させることは、そのままキヴォトスのためでもあった。第一、あまりにも自覚なく多くのものを奪われていた『彼』に、いろんなものを返してあげるのは当然だ。こいつの判断は、何一つ間違いじゃなかったと思う。

 

 でもそんな理屈は、今だから言える事だ。私は後から聞いた時ですら、『シャーレの先生』として頑張っていた彼を否定できなかった。ノノミちゃんからの逃避だったとして、それに気付いていたとしても、彼が「立派なこと」をしているのを非難したり、やめさせる事なんか出来なかっただろう。そこまでしておいて自分が間違っていたら、この世界にもノノミちゃんにも、何より彼にどう謝ればいいのか分からない。そんなこと怖くて出来ない。

 

 でも「大人」だろうと「友達」だろうと、それは誰もが変わらなかったはずだ。それでもこいつは恐れず行動し、あえて悪役を演じ、終わった後に「やり方」を間違えたんじゃないかと迷い、自責の念にかられ、先生に「もう会わない」と伝え、それでも自分の行動が正解だったと信じて、今も努力している。もし間違いだったとしても、それを正解に変えるくらいのつもりで行動している……。

 

 私は、何も知らなかった。そういったことを何も知らずに、勝手に憧(あこが)れて、尊敬して、ただ綺麗なものを想像していた。

 

「そういえば、先生が最低限の連絡ぐらいしろって言ってた」

「え? あ、いや……怒ってましたか?」

「怒ってましたか、じゃないよ、全く。仕事に私情を持ち込んでると、そろそろ怒られるよ?」

「いや、その……その通りですね。反省します」

「なーんか、カッコ悪いなあ」

 

 そう言って、私は少し笑った。カッコ悪くても、迷っていても、ちゃんと自分の出来ることをやっている。ピシッとしていた「悪い大人」の頃の『黒服』より、やっぱりこっちの方がいい。本人は納得出来ないかも知れないけど、あの『黒服』とこいつは、もう別人ってことでいいと思う。

 

「でも、感情的な問題は抜きにすれば、プレイヤー視点からだったら本当にそう見えてもしょうがないって部分はあるんじゃないの? どうやっても実在の人物がただの「ゲームのキャラ」に見えちゃうような……「ゲームの中の世界」って表現も同じ話でしょ?」

「そうですね……。少し誤解を招く例かも知れませんが、「テレビの中の芸能人」は「テレビの中の世界」の「登場人物」に過ぎない、この理屈分かりますか?」

「画面越しに見ているだけの相手が同じ世界に実在してるって証明するのは難しいって話? それを言うならSNSなんか、画面の向こう側に誰かがいるっていう感覚が麻痺(まひ)して、平気で叩いたり出来る。もちろん、そんな事していいわけないけど、現実にはそういうのは当たり前にある」

「そちらの方が近いかも知れませんね。私は『ブルーアーカイブ』を、画面に何が映るのか、テキストをどう表示してストーリーとして読ませるのか、そこまで五感で理解してしまいましたから」

「だから、画面に映る登場人物がこのキヴォトスに実在する、って認識が希薄(きはく)になったってこと?」

「実際に会った事があるのは、ホシノさんとノノミさんぐらいですしね」

 

 いや、そこは積極的に会いなよ。そこでヘタれてるからダメなんじゃないの? なんてツッコミを入れそうになったけど、こいつ凹みそうだし、やめておいた。だから先生とノノミちゃんも、こいつを私と会わせたんだろうし。でも、出来れば普通に紹介してくれないもんかな、あのバカップルは。

 

「ですが、現に『彼』が当たり前のようにこの世界で暮らしている以上、言い訳に過ぎないでしょう。私が『現実世界』に行きたがっている理由も、今はそれなのかも知れません。プレイヤーの視点が当たり前である『現実世界』に逃げ込むことで、私はキヴォトスの住人を見下すことしか出来なくなった、傲慢(ごうまん)な自分を変えずに生きていくことが出来るのですから」

「別に、そこまで深刻に考えなくてもさ……大体、実害があるわけじゃなし、今の話なんて聞かなきゃ別に何も思わなかった。せっかく先生が付き合ってくれたんだし、二人とも「自分はずるい大人です、隠し事があります」のままで済ませとけば良かったのに」

「まあ……確かに私の自己満足のようなものなのですが」

「うーん、クソ真面目っていうか……」

 

 大体、あの先生を基準にするのってどうなんだろう。一般的なブルーアーカイブのプレイヤーって、あそこまですんなり馴染(なじ)むもんなのかな。あの人、来て一週間ぐらいで、普通に生活して普通にシャーレで仕事できてたみたいだし。あの人こそ引っ越し感覚で異世界で生活してるっていうか。

 

「それより、私たちのためにあの先生が暴力を振るったりしなくて良かった。いい悪い以前に、そんなのあの人らしくない」

「彼の自制心に助けられたと思っています。私のことよりも、彼が自分を曲げてしまうことがなくて良かった」

 

 しみじみと言うその姿は、やけに説得力があった。ケンカした話にしても『現実世界』に行く話にしても、本当に先生大好きなんだな。……こいつが好きなエロゲーって、普通に女の子が相手のやつだよね? 何か不安になってきたけど。

 

「それにしても、「大人」って大変そうだねぇ。私みたいな子供に言いたい放題言われても、言い返せないんだろうし。大人同士は大人同士で大変みたいだしねぇ〜」

「言うのはあなた達「生徒」の当然の権利ですし、「大人」の側には義務があります」

「うへ〜、また、先生が聞いたら肩の力を抜けとか言われそうな……。真面目すぎると、疲れてやんなっちゃうよ?」

「……実は、かなり弱っていました。情け無い話ですが、彼に会えないのがかなりストレスのようで……」

「うへ、やっぱり?」

 

 でも、投げ出したりはしていない。先生だったら、カッコ悪くても迷っても、出来る事は全てやって最善を目指す。最後まであがく。そこに私情は挟まない。でも「心」は忘れない、なんて言うだろうし、実際そうしている。多分、わざわざ考えなくても当たり前のこととして行動している。私にはその「当たり前」が出来ないから困っている。

 

「もう、「子供扱いするな」、なんて言葉は簡単には言えない気がするなぁ〜」

「それだって彼が話さなかった理由の一つではありませんか? 本来、あなた達「生徒」が何かする義務などないのです。頼りないかも知れませんが、私たちが何とかしますから、任せてください」

 

 子供をあやすような言い方に、ちょっとイラッとした。

 

「え〜? でも、本当に頼りないからなぁ〜。必要な時でも変に一人で背負い込んで、先生に連絡もしなさそうだし〜?」

「ぐっ……しますよ、そのぐらい……。子供じゃないんですから」

 

 こっちを子供扱いしておいて、何を言うかな。……でも、確かに私はまだ子供だ。ヒナちゃんにちょっと褒(ほ)められたからって、「ホシノ先生」なんて舞い上がった自分が少し恥ずかしい。

 

 超法規的権限が縮小されても、シャーレの中立性は変わらない。そして、遊んでいるように見えても先生自身が常に中立の立場でものを考えているのは、直接接(せっ)している子ならみんな知っているはず。私の知る限りでも、便利屋や風紀委員会、美食研究会あたりが揉めるたびに毎回駆けつけていた。

 

 既(すで)に生徒といい関係を築いている今なら、たとえトリニティとゲヘナの間にいざこざが起きたとしても、双方の言い分を聞いて、どちらも納得するような落とし所をすんなり探すことが出来るだろう。無事に締結された『エデン条約』だって、最大限利用するはず。それが「大人のやり方」の平和利用だ。

 

 今はシャーレはすっかり表舞台に出なくなって、何の組織かいよいよ分からなくなっている。それでも、もし何か大きな揉め事が起これば、それを仲裁(ちゅうさい)した功労者として、シャーレと先生は一気に評価が上がるだろう。そうならないのは、出番がないからっていうだけじゃない。そもそも事前に裏で全て解決しているからだ。やっぱり私には、そんなことはとても出来ない。まだ大人じゃない。

 

 ——それでも。

 

「うん、決めた」

「何をです?」

「いや、こっちの話」

 

 私の中に、「大人」がどうとか、そんな立派な話とは関係のない、ただの個人的な望みがあることに気が付いた。誰のためでもない、ただ自分だけのための望み。『前の先生』——『あの人』と、対等になりたい。『ブルーアーカイブ』に出てくる「本当のシャーレの先生」より多分子供っぽくって、難しいことを考えるのが好きで、もっと無茶で、ちょっと(いや、かなり?)エッチな『あの人』。「あっちの世界」に行ったまま、今もまだ帰らない『あの人』に、「先生」と「生徒」としてではなく、対等な存在として接して欲しい。

 

 これがノノミちゃん達のような恋愛感情なのかは分からない。でも、『あの人』が今の私にとって一番大事な人なのは確かで、褒めてもらったり、見守ってもらうだけじゃ、もう足りない。子供扱いされたくないし、言いたいことだってある。だから自分で考えて、自分で行動しなきゃいけない。きっと「ホシノ先生」だって、もしなれるとしたら、同じ道の先にある。

 

 ありがとう、先生。それにノノミちゃん。私には大事な人がいるってことも、その人に会いたいっていう気持ちにも、気付かせてくれた。見守ってくれた。気遣(づか)ってくれた。そして、この出会いへと導(みちび)いてくれた。自分と同じように、特別な誰かと同じ場所に立ちたくて、苦しみ、あがいている、きっと同志になれる相手との出会いに。

 

 やるべきことは、あと一つ。きっとその先に、私の「エンディング」がある。

 

 

 

→ 小鳥遊ホシノ-(4)- もう一人じゃないから へ続く

 

*1:
『現実世界』から見れば「ゲームの中」の世界は、ブルアカのキャラがいて、キヴォトスがあり、ゲームの設定通りの法則で動いている。そのように見える異世界だから、「ゲームの中の世界」と呼ぶのである。もちろん、プレイヤーがプレイしている『ブルーアーカイブ』と密接な関係にある世界であるのも大きな理由。作中設定。

*2:
ゲームの『ブルーアーカイブ』と違い、実体を持つ『ブルーアーカイブ世界』においては、『ゲマトリア』はただの「役割」を果たすだけの「器」でしかない。例外は黒服だけ。作中設定。




シーズン3最終回で男二人のケンカをやりすぎたのは、Finalが重くて長くなってる原因の中でもかなり大きいと思ってます。見ての通り、簡単に済ませられないほどダメージが大きかったキャラが多くて…。上手くコントロールして書くのって難しいです。

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